【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
616話 「拠点探し その1『新たなる一歩』」
「んー! いい天気だ!!」
アンシュラオンが、太陽を浴びて身体を伸ばす。
白い服に白い髪の毛、白い肌。
相変わらずの真っ白なので、強い日光に晒されるとかすんでしまいそうになるが、強い存在感だけは隠しようもなく鳥の一匹さえ彼には近寄らない。(もともと結界があるので鳥類はあまり来ないが)
その隣には、自分とは正反対の真っ黒な服を着たサナがいた。
「少女服は最高だな!」
ここ最近は戦闘を重視した黒装束や、鉄陣羽織等の準装が多かったが、久々にヒラヒラのフリルが付いたロリータ服を着ている。
腰には革ベルトで刀を差しており、いざというときにも即座に対応が可能となっていた。
最初は違和感があったが、今では刀がよく似合う。
強くなってもサナの可愛さは何も変わらない。いや、強くなったことで愛らしさに磨きがかかったようでもある。
「随分と長居しちゃったな。もう一ヶ月か」
二週間程度を考えていたルセーナ農場での滞在も、気づけば追加で二週間も延長してしまっていた。
延長の意味は特にない。単純に目的を達成した充実感で、だらけていただけだ。
もともとサナを手に入れてからも、ホテルでだらだら~っと暮らしていた男だ。基本はニート根性なのである。
そう、一ヶ月。
ソイドファミリーを殲滅し、ソブカが下克上を果たしてから二週間が経っていた。
ソブカはまだラングラスの長になったことを公表していない。名目上は復帰したツーバが率いていることになっている。
いきなり分家が本家になると言われても混乱が起こるため、今は内部での地盤固めを優先しているのだろう。
そのことは彼自身の問題なので自分には関係ない。
大切なことは、これで一旦【契約満了】ということだ。
(ソブカはラングラス内で実権を握ることに成功した。あいつがどこまで求めるかはともかく、少なくともラングラスにはなれたから十分だろう。その見返りにオレは金をもらう。まさにウィンウィンだね)
先日、ファレアスティが物凄く嫌そうな顔をして会いに来た。
せめて愛想笑いくらいしてもいいのに、と思ったが、ひとまず手付け金として【二億円】持ってきたので気にしないでおく。
この金は、毎月ソブカが自分に支払う「みかじめ料」だ。
アンシュラオンとソブカの関係は、あくまで金による繋がりにすぎない。
もし自分が他の誰かと新たに契約したら困るため、【ソブカの敵に加担しない契約】を新たに結んだのである。
それだけで年間二十四億円。日本円でいえば百億近い値段にもなり、実にウハウハといえる。
ファレアスティが自ら会いに来たことも他者への当てつけ。すでに隠す必要もないので、この行為自体が他派閥への牽制となる。
これに加えて、『麻薬工場の利権』はすべて自分のものだ。
すでに工場は再稼動しており、順調にコシノシンを生産している。
(幹部の二人の洗脳も成功したみたいだし、このまま金を生み出してくれるとありがたいものだ)
尺の都合で省略したが、ソイドマミーとソイドリトルは生きている。
あの後倉庫内では、リトルはマミーを守ろうと果敢にも向かってきたが、サナに首の骨を折られて瀕死に陥る。
リトルの命を交渉材料にしつつソイドマミーを捕縛。スレイブ・ギアスの実験台にし、支配下に置くことに成功する。
自己流なので多少上手くいかない部分があったが、ひとまず言うことは聞くので成功と呼んでも差し支えないだろう。
(いろいろ実験したおかげで、スレイブ・ギアスに対しても目処が立ってきたな。マザーの力を借りれば、さらに安定しそうだ。そろそろ本格的に研究してみるか)
マミーの洗脳も、マザーがいればもっと上手くやれた自信はある。
今後の目標は、サナ以外の女性にスレイブ・ギアスを付けることだ。
ホロロたちがあまりに従順なので忘れそうだが、まだ彼女たちはギアスを付けていない一般人なのだ。
魔人の影響力だけでも人を支配下に置くことは可能だが、サナを見てもわかるようにジュエルの効果は無視できない。
自分が所有する特別な女性に相応しい、特別なギアスを見つけねばならないのだ。
そこで問題となるのが【
(女を養うには金がかかる。不思議なことに、いくらあっても不足するんだよなぁ…)
独りで暮らすのならば、多少の不自由などは気にしないものだ。それこそ手取り月十数万でも食費を切り詰めれば生きていける。
が、女性がいると話は大きく異なる。
月給百万あろうとも、それに見合った生活になってしまうのだ。
ケチれば女性は不満を感じ、その荒ぶる野性を解き放つ。そんな修羅場の世帯では、幸せなど永遠に手に入るわけがない。
哀しいかな。結局、金がなければ生きてはいけず、オスはメスのために金を稼がねばならないのだ。
たとえば、こうだ。
(サナの服は最高級の素材で特注したいな。色も黒を基調にしつつ、いろいろなバリエーションが欲しいぞ。普段着用、外出用、遠出用、みせびらかし用、最低でも二十着以上は必要だ。シャンプーも物足りない。あんな安物じゃ髪の毛が傷んでしまうぞ。西側諸国から輸入したもののほうがいいのかな? グラス・ギースの経済状態はまだまだ悪いからな…)
という具合に、これだけで五百万は軽く飛ぶだろう。
発展途上国で日本の最先端技術が使われた製品を求めるのと同じく、グラス・ギースではおのずと高級品の値段が割り増しになってしまう。
サナの武器まで新調し始めたら、それこそ数千万は消えるはずだ。
そして当然、女性は一人ではない。
これからも増えることを考えたら、月二億(+麻薬代)でもギリギリやっていけるかどうかなのだ。
「アンシュラオン様、準備が整いました」
そんなことを考えていると、ホロロがやってきた。
その隣には一緒に頭を下げているメイドの二人、セノアとラノアもいる。
だいぶメイドにも慣れたようで、仕草もそれなりに様になっていた。
(メイド服もホテルのものだから、もっと良いものに新調したいな。安全面を考えると戦闘用のメイド服も欲しいよね)
メイドとはいえ、自分が扱うメイドは特別でなければいけない。
このグラス・ギースで最高のメイドであるためには、中身だけは駄目である。
その後ろにいるサリータも、まだ使い古された軽鎧を着ているので貧乏臭い。今後は装備の側面にも金をかけたいものだ。
「よし、みんなそろったな。今日は馬車で移動するぞ」
農場の外にアンシュラオンの身内が集合する。
そこには一台の白い大型馬車があった。
数十人は乗れそうな大きなタイプで、装飾品もしっかりしているので高級馬車といえるだろう。
「師匠、どこに向かうのですか?」
「うむ、よい質問だ。ここも安全になったし、そろそろ独立しようと思っているんだ」
「独立でありますか?」
「前に少し言っていたと思うが、オレたちの【新しい拠点】を見つけるつもりだ。今日はその下見だな」
「拠点? ホテルでしょうか?」
「ああいう場所も嫌いじゃないけど、やっぱり落ち着かないよな。防衛面でも問題が多いし。それは身にしみただろう?」
「たしかに逃げ場がありませんでした。脱出の際は不利ですね」
「本物の金持ちっていうのは、逆に普通の場所に暮らしているもんさ。ああいうホテルに暮らす成金にはなりたくないもんだよ」
↑ 安直に高級ホテルに滞在しまくっていた男の台詞
「ところでシャイナの姿が見えませんが、また寝坊でしょうか? 叩き起こしてきます!」
「ああ、シャイナは置いておくから放っておいていいぞ」
「え? 今回の下見には連れていかない、ということですか?」
「そうじゃない。ここで一度、本格的に別れるつもりだ。身内は身内だが一緒には暮らさない」
「えええええええええっ!?」
「なんだサリータ、寂しいのか?」
「い、いえ、そうではありませんが…共に戦った仲間でもありますので…」
「もともと裏の世界とは無縁のやつだったんだ。馬鹿で間抜けで、とことんお人好しの人間は、オレたちとは一緒にいないほうがいい。住む世界が違うからな。あいつはあいつなりに違う道で役立とうと努力している最中だ。その邪魔をしたくない」
「そう…ですか」
「同じグラス・ギースの中にいるんだ。そんなに離れるわけじゃないさ。いつでも会える」
「…はい」
サリータが目に見えて落ち込んでしまった。
シャイナが抜けるとサリータが序列最下位になってしまうが、単純に後輩がいなくなった寂しさを感じているのだろう。仲間想いの女性である。
「サナもそれでいいか?」
「…こくり」
サナも近くでシャイナの変化を見てきたため、あっさりと了承。
どんなに親しいペットであっても、時には別れねばならないこともあるものだ。
(オレたちがいると甘えるからな。バイラルに徹底的に鍛えてもらうとしよう。まあ、こういう関係も悪くないか。スレイブにすることだけがすべてじゃない。…オレも大人になったもんだよ)
今までは女性全員をスレイブにするつもりだったが、シャイナに至っては完全にタイミングを逸したこともあってか、その必要性を感じなかったのが本音だ。
スレイブになれば、良くも悪くも主人に依存してしまう。そういう目的のために作られたのだから当然ともいえる。
サリータのように自分で努力できる人間であればよいが、シャイナの場合は甘えてしまうタイプだ。それではせっかくのチャンスを失うかもしれない。
これも一つの区切り。
互いに新しい道への第一歩となる。
「じゃ、リリカナさん、よろしくね」
「はい! このたびはご指名、ありがとうございます!」
御者台には日焼け肌に栗色の髪の女性、リリカナがいた。
ホワイト時代によく利用していた御者だが、ハングラスに雇われた狐面に襲撃されて馬車を破壊されてから、しばらく休業していたようである。
「いやー、馬車を直したのはいいものの、なかなかお客さんがいなくて困っていたんですよね! 維持費も馬鹿にならなくて…ほら、ホテル街も立ち入り禁止になったでしょう? あれじゃ商売上がったりですよ!」
「それは大変だったね。でも、いきなり立ち入り禁止は酷いよね」
「本当ですよ! 偉い人たちの考えることはよくわかりませんね。ちょっと前までお得意様がいたんですけど、いつの間にか消えちゃいましたし……そうそう、お客さんと同じくらいの背丈でしたね」
「奇遇なこともあるもんだね」
「ほんと、偶然ってすごいですね。あはははは!」
「これから長い付き合いになるだろうから、気軽にアンシュラオンって呼んでね」
「アンシュラオンさん、ですね。わかりました! 私はリリカナです! よろしくお願いします!」
(最初は疑ったけど…この人、本当にわかってないんだよね。能天気というか天然というか…それはそれですごいな)
リリカナを呼んだのは、ちょっとした罪悪感があったからだ。
あれだけの悪事を重ねた悪党が、こんな小さなことを贖罪したいと思うとは不思議だが、一般人に迷惑をかけたことは気にしていたのだ。
だが、彼女はまったく気づかない。
こんなに似ているにもかかわらず、声さえも同じにもかかわらず、巷で流れている「ホワイトは死んだ」という噂を鵜呑みにしている。
メディアが露骨な情報操作をしても、そこしか情報源がない高齢者はやすやすと信じてしまう光景に似ているだろうか。
知らないことは怖いことだと改めて痛感するが、利権に関わらない一般人にとってはそんなものなのかもしれない。
アンシュラオン一向は、馬車に乗って東門に向かう。
さすが新調しただけあって馬力もかなりのものだ。すいすいと他の馬車を抜きながら三時間程度で到着。
窓から門の近くを見ると、そこには長蛇の列があった。
「おせーよ! まだかよ!!」
「何時間待たせるんだよ!」
「うるせぇな! こっちは二日待ってんだ! 静かにしろ!!」
「あぁん! んだこら、やるのかてめぇ!!」
「んぁ? なんだぁ、こら!! やってやるよ!!」
かなりの時間、並んでいるのだろう。
不満が頂点に達した短気な男たちが、あちこちで喧嘩を始めている。
それもまた見世物になって賭け事が始まる光景も相変わらずだ。
ただし列はいつも以上に長く、なかなか進んでいないことは事実であった。
「混んでるね」
「あー、そうでした。検問が厳しくなったみたいで、通るまでに時間かかるんですよね」
「そうなんだ。ある意味ではこれが普通だけどね」
今までのグラス・ギースがゆるゆるだっただけで、どこの誰かも知らない人間を入れるのだからチェックが厳しいのが普通であろう。
これは治安維持を担当しているマングラスの方針である。
少しでも違和感のある人物は、オビトメが十数分間かけてチェックするので、それが続くとどんどん渋滞していくのだ。
通常はチェックの甘い商人に対しても行われる措置のため、東門は常に混雑している状況に陥っていた。
「けっこう待つかもしれないですね…」
「ああ、大丈夫、大丈夫。そのまま来客用のところに行ってよ」
「ええと…あそこは領主様に会いに来た要人さんとかが並ぶところですが…」
「知ってるよ。大丈夫だから行ってみなよ」
「はい、わかりました」
リリカナは雇われ御者なので、多少疑問に思ったが言う通りに馬車を動かす。
東門にはいくつか種類があり、長蛇の列が並んでいるところは昔アンシュラオンが並んだ一般用の通り道である。
それとは別に商業用の通路があり、さらにもう一つ、要人用の通路がある。
ここはガンプドルフ等の外部からやってきた来賓が通る場所で、軽いチェックだけで済むことが多いが、当然ながら一般人はまず近寄らないところだ。
そこに白い馬車が近づくと、門から妙な緊張感が伝わってきた。
それとは対照的にアンシュラオンは、窓から乗り出して手を振る。
「やっほー! マキさん!」
「あら、アンシュラオン君じゃない!」
そこにはなぜかマキがいた。
職務には真面目な彼女が、やることもなさそうに突っ立っていた。
なかなか珍しい光景である。
「マキさんって、あっちが担当じゃなかった?」
「変なフードの連中がやってきて左遷されたのよ。まあ、青劉隊ってマングラスのカスどもなんだけどね。変質者の仲間のくせに偉そうにしちゃってさ」
「カスって……よほどストレス溜まっているんだね」
「ええ、暇すぎて何かを殴ってないと頭がおかしくなるほどよ!」
ボゴーンッ!
マキが八つ当たりで壁を殴ると、大きな音を立てて一瞬だけ門が揺れる。
その音が鳴るたびに、喧嘩をしていた男連中の動きも止まっていた。
壁にはいくつもの拳打の跡が残っているので、本当に暇そうである。
「それだけ暇なら、オレの家が出来たら遊びに来てよ!」
「え? 家を建てるの!?」
「これから土地を見に行くんだ。マキさんとオレ(たち)の家だよ!!」
「っ!! あ、アンシュラオン君…そんなに私とのことを…! 一生付いていくわ!!」
「うぐっ! 壊れる! 馬車が壊れるって!」
武人のマキが窓越しに抱きついたため、それだけで馬車が大きく傾く。
ドアが割れそうになったのを見てリリカナが青ざめるが、注意したらもっと酷い目に遭うと思ったのか必死に耐えていた。
「ここを通りたいんだけど、責任者ってマキさん?」
「残念ながら違うわ。私は変なやつらが来たら追い返すだけの役目。責任者は門の中にいるわ」
「じゃあ、そいつと話つけてくるね」
「大丈夫? 相手はマングラスよ。アンシュラオン君の敵よね?」
「オレの敵は私腹を肥やす上層部の連中だけだよ」
「私も力になってあげたいけど…」
「マキさんがここにいるだけで、マングラスの悪行を抑えることになるんだ。もっと自信を持ってよ!」
「アンシュラオン君…あなたって本当に素敵な人ね。そして勇気がある人よ! それに比べて、なんで私は衛士隊にいるのかしら…」
「マキさんが悪いんじゃない。領主が悪いんだよ」
「…そうね。そうなんだわ。マングラスと手を組んだ領主が悪いのよ!」
「そうそう。あいつらによって都市が牛耳られているんだから、マキさんは悪くないんだよ」
「ありがとう。君のおかげで目が覚めたわ!」
「うんうん、それはよかったよ」
マキとはこの一ヶ月の間に一度会っているので、ある程度の事情は伝えてある。
もちろん都合の悪いことは全部「マングラスor領主=悪」ということで片付けているが。
ただ、実際に治安維持部隊が出てきて衛士隊の権威が下がったこともあり、それらの言葉には説得力があったようだ。
「ああ、そうだったわ。あなたに頼まれていた金髪の子、解放されたわ」
「へー、あの子が。どうりでいないと思ったよ。でも、よく衛士隊が解放したね」
「収監砦が壊れちゃったし、軽い罪の人たちは解放されたのよ。解放というか、【都市からの追放】なんだけどね。追放になると第三城壁内にも滞在できないの」
「要するに世話するのも面倒だから荒野に追い出した、ってことね」
「そうなるわね…。娘さんも一緒だったから心配だけど…」
「生きていればチャンスはあるよ。がんばってほしいものだね」
「そうね。無事だっただけでもよかったわね」
これまたすっかり忘れていると思うが、シャイナの代わりに捕まったマドカのことである。
もともと麻薬の不法所持という軽めの罪だったこともあり、ホワイトが死んだ今、もはや利用価値はなくなっていたのだ。
(子持ちの女が生きるには荒野は大変か。わざわざ殺す必要もなさそうだ。麻薬が没収されたのは損益だけど、しょうがないかな)
都市にいるのならば排除対象だったが、追放されたのならばあえて追うこともない。
自分の生活で必死だろうし、シャイナを売ったのは彼女のほうだ。自業自得といえる。
工場に残っていたらサナに殺されていたので、むしろ感謝してほしいものである。
ちなみにマドカが入手した麻薬は、かつてカスオが隠したものの一部なので回収したかったが、工場を制圧した今となってはたいした量ではないのでかまわないだろう。
「じゃあ、門を開けてもらえるかな。誠意をもって話し合えば通じるさ」
「気をつけてね。いざとなれば私も参戦するわ」
「ありがとう、マキさん! でも、たぶん大丈夫だよ」
ゴゴゴゴッ
マキが門を開けると、そこには一人の大男がいた。
彼はセイリュウとも話をしていたマショウケツという人物だ。
青劉隊の証である青い装束で頭まですっぽり覆っているので、顔は見えない。
が、明らかにその表情は強張っていた。
「やぁ、初めまして」
バリンッ
「…ひぃ」
馬車から降りたアンシュラオンがマショウケツに近寄った瞬間、大男のわりには、あまりにか細い声がフードから漏れた。
それも仕方ない。
彼の近くには結界が張られており、普通の人間はもとより、武人でも簡単には近寄れないようにしてあったからだ。
だが、アンシュラオンに『人が張った結界』などが通用するわけがない。
「通っていいよね?」
「…は、はい」
「これからもフリーパスでいいよね?」
「…は、はい。お願いしますから、もう近寄らないでください…」
「なんだよ。大きいわりにビビりだな。えいっ!」
「あうぅっ! ご、ごめんなさい…」
バンッとアンシュラオンがマショウケツの脛を軽く蹴ると、哀れな声を出してうずくまる。
そのまま震えて縮こまってしまい、動かなくなってしまった。嵐が過ぎ去るのを待つ小動物のようだ。
「これからはオレが通るときは事前に開けておけよ。門の周囲を監視しているなら楽勝だよな?」
「…は、はい。わ、わかりました」
「暇なら、ちょっと遊んでやってもいいけど?」
「お、お許しを…」
「つまらないな。まあいいか。通っていいってー! 忙しいし、さっさと次に行こう!」
あまりに無抵抗だったので興味を失ったアンシュラオンは、さっさと馬車に乗って行ってしまった。
たしかにマショウケツはなさけないが、あの男への対応としてはもっとも賢いものといえる。
平伏して逆らわない。これが一番なのだ。
「うう、結界が効かないなんて、あの人おかしいよ。もう関わりたくない…。オビトメ、大丈夫かな?」
ちなみに一般通路で術式検査をしていたオビトメだが、アンシュラオンが近寄ってきた気配だけで失神。
嘔吐までしたので、喉が詰まって窒息しそうになったそうだ。
ただ通るだけで青劉隊が怯えるとは、歩く災害の名は伊達ではない。