【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
「小百合さん、元気にしてた?」
「―――っ!! アンシュラオン様!! 会いたかった!!」
ドゴンッ
「いたーい!」
我慢しきれずに飛び込んだので、受付の窓に頭をぶつける。
「興奮しすぎだって!」
「だって、全然会いに来てくれないじゃないですか!!」
「それはその…忙しくて…」
「忙しい!! 妻に対する言い訳ランキング、第二位の言葉ですよ!!」
「第一位は?」
「疲れているから勘弁して、です」
「どこでそんな情報を得てくるの?」
「職場で既婚者のイチャラブ話をよく聞くのです。あっ、この前離婚したので最近は静かですけどね。いい気味です」
「そ、そうなんだ」
「このまま私が三十路になったらどうするんですかーーー!! 早くー! 早く寿退社したいです!!」
「い、いや、その…時期ってものがあるからさ。もう少し待ってよ」
「いいんです。小百合はアンシュラオン様にすべてを捧げていますから。股間の記憶があれば生きていけます!!」
「声が大きいよ!!」
だんだん小百合が壊れていくので本題にいこう。
「そろそろ家を買おうと思うんだ」
「マイスウィィィィィィットハウス!! 小百合との家ですね!!」
「ま、間違ってはいないかな。それで、まずは土地を探そうかなーと」
「わかりました! すぐに不動産屋を手配します!! では、行ってきます!!」
「あっ、小百合さん!!」
止める間もなく、凄まじい勢いでハローワークを出て行った。
その際に一般人を三人吹っ飛ばしたのも見えたが、気にしないでおこう。
『結婚』、『マイホーム』という言葉は、女性をこれほどやる気にさせるものなのか。
自身の生活がかかったときの女性のパワーは怖ろしいものである。
数分後。
「ひぃひぃ、ふぅふぅっ! は、初めまして…ふぅふぅ、ディンフロン商会のアランモスと申します。ふぅふぅ」
「汗すごいけど、大丈夫?」
「これくらいは…はぁはぁ。大丈夫です。本気で走らないと刺されそうでしたので。あのような目のミナミノさんは初めて拝見しました。本当に殺されるかと思いましたよ」
「なにか…ごめん」
やってきたのは不動産業を営む、ディンフロン商会の営業部長のアランモス。
発言だけ見ると肥満に思えるかもしれないが、やや腹が出ているものの普通の体型の中年男性である。
汗の理由は、小百合に急かされて全力で走ってきたからだ。
最近は少し涼しくなってきたのだが、おかげでシャツは汗だくである。
(ディンフロン商会、か。領主の系列だな)
不動産は領主の権益なので名前の通り、ディングラス家が経営する商会である。
といっても領主が直接関与するわけではないため、普通の不動産屋だと思えば問題ない。
「土地をお探しだとか?」
「独立して家を建てようと思ってね。そこそこ大きいものを予定しているよ」
「それは素晴らしい! ぜひともお力になりたいものです。アンシュラオンさんは中級市民と伺っておりますので、中級街をご所望でしょうか?」
「中級街だけにこだわるわけじゃないから、それ以外の空き地も見せてもらえるかな? 急いでないからじっくり見たいね」
「わかりました。お任せください。ディンフロン商会の名にかけて素晴らしい土地を探してみせましょう!」
「ところで個人で買える土地には制限があるの? 買えない場所とかある?」
「そうですね…だいたいの場所は開放されておりますが、機密上どうしても一般の方には販売できない場所もあります。大きな土地となりますと、なおさらその傾向が強いかもしれません」
「そりゃそうだね。派閥間の争いが強いから、いいところは押さえられちゃうよね。どこか空いていればいいけど…うちは大所帯だから難しいかな」
「では、【商会】を作ってみてはどうでしょう? アンシュラオンさんほどの方ならば、簡単な手続きですぐに作れますよ。税金対策にもなりますし」
ちらり、とアランモスが入り口で待っているホロロを見て提案する。
彼はすでに駐車場にある白い大型馬車も確認しているので、自分がメイド持ちの金持ちということは一目でわかっただろう。
商売をしている人間は、相手が金を持っているかどうかはすぐにわかるものなのだ。
(商会…か。何でも個人でやるより組織にしたほうが、節税に関しては楽ではあるな。前のは潰すために作ったけど、今度作るやつは普通に経営していくことなる。異世界で商売も悪くない。これも新しい一歩だと思えば楽しいかな)
『ホワイト商会』は、あくまで他派閥の力を削ぎ、最後は潰れて終わるために作ったものだ。
当然、愛着もまったくない。あんな汗臭い商会は二度と御免だ。
だが、これからは自分たちの身内を食べさせていかねばならないし、だらだら何もしないで暮らすのは飽きてくるだろう。
自分はともかく、他の者たちにやることを与えたいものである。
また、どうせ監視対象になっているのだから商会という立場で動いたほうが楽だ。
もし他の都市に行くことがあっても身分証明証代わりになるので、作っておいたほうがメリットは大きい。
「わかった。作ってくるから少し待ってもらえる?」
「もちろんです。私も休みたいと思っておりました」
「ホロロさん、扇いであげてよ」
「かしこまりました」
「こんな美人さんに扇いでもらえるとは、幸せですなぁ」
こういう気遣いをするのも金持ちの嗜みである。(半分は見せつけ)
「小百合さん、商会を作れるかな? そのほうが得みたいだね」
「わかりました! では、こちらの書類にご記入ください」
「名前か。どうしようかな…」
「アンシュラオンと小百合の素敵な―――」
「『アーパム商会』でいいや」
「ずこーーー!」
「小百合さん、さすがにそれは長すぎるし無理があるって…」
「そうですよね。失礼いたしました」
(アーパム商会か。サナのために作るようなものだしな。これでいいだろう)
小百合が暴走しそうになったので、咄嗟に思いついた名前を記入する。
名前は単純に自分とサナの名前を繋げたものだ。面白みはないがストレートで悪くはない。
「ええと、商会のメンバーは…オレとサナとホロロさんと…あっ、あの子たちは市民権持ってないのか。ねえ、商会員になるのに市民権はなくても大丈夫だったっけ?」
「中級市民のアンシュラオン様が作った商会の従業員ならば、加入している間は庇護下に入るため『下級市民権』までは得ることができます」
「オレが身元保証人になるから、その下のランクまでは保証されるわけだね。なるほど。各派閥の商会で働きたい連中が多いわけだ」
「やはり都市内部では暮らしやすくなりますね。最近では都市に入るのも大変ですから、市民権があれば通行も楽になるはずです」
「オレはどっちでもいいけど、サリータたちだけで動く場合もあるからね。これは助かるかも。そういえば前にパーティーを作ったけど、商会やりながらハンターの仕事もできるのかな?」
「特に問題ありません」
「両方同時に動くこともできるの? 積荷を守るための自衛行動を自分がハンターとして請け負うとか」
「商会自体で戦力を持つのはよくあることですし、紐付けしてやっているところも多いですね。それを経費として算出して節税します」
「そのあたりは緩くていいね。両方好きに使い分ければいいのか。これも助かるな」
今後は荒野での活動も増えるので、ハンターとしての仕事も両立できるのならば非常にありがたい。
グラス・ギースに限らず、ペーパーカンパニーであっても作っておいたほうが得であることがわかる。
それにしても―――
(やばい。前にも商会の説明を聞いた気がするが…全然覚えてない。あのときはソブカに丸投げしたからな。他人に押し付けるのと自分がやるのは違うもんだな)
ホワイト商会を作った時に一通りの説明は聞いた気がするが、これっぽっちも覚えていない。
他人から物をもらうと雑に扱うのと同じ心理だろうか。
「事業内容はどういたしますか?」
「それについては考えていたものがあるんだ。【ジュエルの取り扱い】にしようかなって」
「ジュエル…鉱物ですか?」
「グラス・ギースの鉱物資源の取り扱いって、どうなっているの?」
「現在はハングラスが独占して【輸入】しております」
「輸入…か。どうしてハングラスは自前で調達しないの?」
「詳しい事情はわかりませんが、鉱山の探索に危険が付きまといますので輸入したほうが安く上がるようですね」
「第一警備商隊とかいたけど、あいつらがいても駄目だったの?」
「少し遠出すると魔獣も強力になりますし、彼らは交通ルート間の護衛が主な任務だったようです。もし遠出して大型魔獣と遭遇したら輸送船くらい簡単に沈んでしまいますからね。前に試したことはあるようですが、魔獣と遭遇して何度も全滅したそうです」
「なるほどね」
(グランハムでも厳しかったか。まあ、あの程度の実力じゃ無理もないかな)
都市内部での戦いが続いたので感覚が麻痺しそうだが、いくら対人戦闘で強く見えても、マキでさえ外に出れば簡単に命を失う危険性がある地域だ。
以前ラブヘイアと行った『魔獣の狩場』も、普通ならば三日はかけて慎重に接近するらしい。そんな状態で鉱山の探索などできるはずもない。
そうでなければもっと開発が進められており、辺境の地とは呼ばれていないだろう。
資源はあるかもしれない。が、危険すぎて誰も開発できない。それが北部の事情なのだ。
「ジュエルを管理する場合、ハングラスと関わるってこと?」
「拠点をグラス・ギースに置くのならば、そうなりますね」
「それは興味深いね。アーパム商会が、ハングラス派閥になるってことだよね?」
「一応そういう扱いになります。直営だと『ハン』の文字が与えられますが、相当なコネクションがないと無理ですね」
「名前が組織内部での序列にもなっているんだね。それは問題ないかな。あくまで外郭団体程度の扱いでいいしね」
「また、ジュエルの取り扱いには『免許』が必要となります。こちらはダマスカスの『国際ジュエル協会』への申請となりますので、グラス・ギースとは関係ありません」
「そこに加入すると何かあるの?」
「特殊なジュエルを入手した際、発見の届出が求められます。その代わり申請すれば、向こうが保有している膨大なジュエルデータの閲覧が可能となります」
「秘匿した時の罰則は?」
「特にありませんが、露見した場合は心象が悪くなるかもしれません。ジュエリストの認定を牛耳っている組織ですからね」
ダマスカスの国際ジュエル協会は、【ジュエリスト認定】の権限を唯一持っている国際組織である。
ジュエリストの公式認定を受けた者は社会的に大きなステータスを得ることになり、各国各機関から有能な人材と認識されるようになる。
ジュエリストの存在価値はサナを見ればわかるように、極めて大きなものだ。
より多くのジュエリストを手元に置くことができれば、他国に圧力をかけることができ、それだけで防衛手段となりえるので引く手あまたとなる。
ただし、これらはあくまで対外的で社会的なステータスのため、そういったものを必要としなければまったく気にする必要はない。
現にテロリストだからといって、認定されない世界最強のジュエリストも存在している。(未来の話)
「まあ、無理に逆らうこともないか。利用できるものは利用しよう。ジュエルについてはわからないことも多いから、データが欲しいしね。じゃあ、そっちも申請しておいてもらえるかな?」
「わかりました。一週間ほどで登録証が届くと思いますので、お知らせいたしますね」
どうせここは辺境の地。
いくらでも誤魔化すことはできるし、適当に珍しい魔獣の心臓を見繕って送っておけば、対価として貴重なジュエルデータを閲覧できる。
正直、メリットのほうが遥かに大きいのだ。
それより重要なことは、ハングラスと関わる点である。
(ハングラスか。地下ではお世話になったし、嫌いじゃないんだよね。それに、戦力が低下しているんだ。オレの力は欲しいはずだ。…金の匂いがするね)
自分でハングラスの商隊を潰しておいて、今度は自身の戦力を売り込む。
なんともあくどいが、より強い者にはいくらでも需要があるのが現実だ。
現在のハングラスの立場を考えると、自衛手段は喉から手が出るほど欲しいに違いない。
ソブカとの密約があるものの、ラングラスと敵対しなければよいだけのこと。そう難しい問題ではないはずだ。
これはぜひとも一度、話し合いの場を設けたいものである。
「ところで商売品の追加はできるのかな? 業務内容に変更があった場合だね」
「売り物といっても、それぞれですからね。途中から増えても手続きは不要です。たとえば服飾で登録しておいて、兼業で八百屋をやる人もいますよ。あまり大きくやりすぎると派閥から是正勧告が来るので、そこで修正すれば大事にはなりません」
「そのあたりはどこも同じか。助かるよ」
日本でも最初に申請した業務内容とは違っても問題ないケースが多い。
これも言葉のマジックだが「ジュエルの卸売りや『その他』の仕入れ『等』」と書いておけば、それ以外はすべて『その他』『等』に含めてしまえばいいのである。
とりあえず税金さえ払えば文句は言われないのは、どこの世界でも同じようだ。
「では、事務所が決まりましたら、追加情報として登録しますので教えてくださいね」
「わかったよ」
「一番に教えてくださいね」
「う、うん」
念を押された。
(少し予定が早まったけど、新しい生活の基盤は作れそうだ。スレイブ調達はモヒカンに押し付けて、これからはまっとうな商売人にでもなるかな。オレは自由だ!! うおおおおおお!)
こうして『アーパム商会』が設立されることになった。
今後はこの商会が、自身の生活の中心になっていくに違いない。