※この作品はR-18です。

【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了   作:ぷるっと企画@園島義船

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61話 「アンシュラオンと魔剣士と」

 

(おっ、ちゃんと追ってきているな)

 

 

 アンシュラオンは、背後にガンプドルフが追ってくる気配を感じる。

 

 特に加減なく普通に移動しているのについてこられるのだから、相手の実力は間違いなく上級レベルにある。

 

 今はそれが少しだけ嬉しい。

 

 

「ひぃ、ひぃいいい!」

 

「暴れるなよ。落ちたら死ぬぞ」

 

 

 現在、左手にサナ、右手にイタ嬢を抱いている状態である。

 

 サナは大切に抱っこしているが、イタ嬢は担いでいる状態に近いので少し不安定だ。

 

 武人ではなさそうなので、四階の屋根から落ちたら大怪我は間違いない。死ぬ可能性もある。

 

 

「こんな場所を走るなんて!!」

 

「たかが屋根の上だ。跳ぶぞ」

 

「と、跳ぶ!? う、うひゃぁあ―――!!」

 

 

 アンシュラオンが屋根の端から跳躍。

 

 そのまま領主城外周の中ほどにまで飛び降り、駆けていく。

 

 一通り追っ払ったおかげで、衛士たちの姿は見られない。いたところで何もできないが、邪魔されるのは手間である。

 

 

(攻撃はしてこないか)

 

 

 背後から追いかけてくるガンプドルフは、特に攻撃を仕掛けることはない。

 

 イタ嬢に当たる可能性を考慮して、というよりは、単純にこちらの様子をうかがっているようだ。

 

 

 

 そのまま茂みまで走り抜け、一回のジャンプで領主城の城壁を飛び越え、上級街の森に到達。

 

 それからさらに、ひと気のない森の中央付近にまで走り―――そこで止まる。

 

 

「このあたりでいいかな」

 

 

 そこでサナとイタ嬢を降ろす。

 

 サナは相変わらずの様子だが、イタ嬢はかなり消耗していて声も出ないらしい。

 

 よほど心労がたたったのだろう。がっくりとうな垂れて、地面に膝をついていた。

 

 改めて見るとパジャマの下半分は破れているので、この現場を目撃されれば、かなり誤解を招きそうな光景ではある。

 

 が、今はイタ嬢のことにかまっている暇はない。

 

 

「そろそろ出てきなよ」

 

 

 声をかけると、木の陰からガンプドルフが現れる。

 

 

「規格外の速度だな。しかも二人を抱えながらか」

 

「こんなの空気みたいなものだよ。怪我をしないように気を遣うから、そういった面倒さはあるけどね」

 

「ここが君の目的地か?」

 

「そういうわけじゃないけど…悪くない場所かな」

 

 

(ここで止まったのは意図的か。…目的は何だ?)

 

 

 ガンプドルフは波動円を展開。周囲三百メートルの気配を探知。

 

 結果、周囲には誰もいないことがわかった。

 

 こうして常に周囲の警戒を怠らないのは優れた武人の証明である。

 

 

「やっぱりやるね。それだけ伸ばせれば一級品だ」

 

「君には劣るな。千メートル以上も軽々と伸ばせる武人は初めて見た」

 

「そう? 姉ちゃんなんて軽く五千メートルはいけるけどね」

 

「…それはそれは、たいしたご婦人だ」

 

 

 正直、冗談だと思いたい。そんな存在は聞いたこともない。

 

 もしいたとすれば本物の化け物である。

 

 

「ここには我々以外は誰もいないようだ。…君の名前を訊いてもいいかな」

 

「正義の白仮面」

 

「少女を人質に取るのが正義か?」

 

「悪を滅するのが正義だよ。犠牲を払ってもね」

 

「そういう考え方もあるか。私は好きではないがな」

 

「騎士道ってやつかな。残念。オレには関係ないね。オレはオレの正義だけを貫く」

 

「では、なぜここまで私を【誘導】したのか、その真意を訊きたいな」

 

 

 アンシュラオンは意図的にガンプドルフを誘導した。

 

 もし本気で逃げようと思えば、二人を抱えたままでも簡単に逃げ切れただろう。肉体能力ではアンシュラオンのほうが上なのは、すでに対峙した時には理解していたからだ。

 

 こうして二人が一緒にいるのは、アンシュラオンがそう望んだからにほかならない。

 

 アンシュラオンとて余計な面倒は嫌っていたはずである。そうであるのならば、突然心変わりしたのはなぜなのか。

 

 その理由は簡単。

 

 

 ガンプドルフに興味を抱いたからだ。

 

 

「不思議に思ってさ。それだけ強いのに、どうしてあんな領主におべっかを使うの?」

 

「それが政治というものだよ、少年」

 

「そうかな? オレはずっと思っていたんだ。それが政治なのかどうかってね。政治ってのは優れた人間が行うべきだ。愚鈍な不純物は必要ない」

 

「それは領主のことか?」

 

「それ以外にいるの? まあ、この子もそうだけどね」

 

「ひぅっ!」

 

 

 アンシュラオンが再びイタ嬢の頭を握る。

 

 

「待て。その子には手を出さないでくれ」

 

「スレイブにしようと思ったんだけど…あんたが買う?」

 

「それでもかまわない。いくら欲しい? 一億か、二億か? 損害分に加えて慰謝料も払おう」

 

「ずいぶんと執着するんだね。領主への手土産になるから、かな? 恩を売れるからね。価値があるなら連れてきてよかったよ」

 

「…そこまで読んで動いていたのか。どこまで知っているのだ?」

 

「何も知らないよ。ただ、あの会話を聞いていれば最低限の事情は察することができる。西側の人間なら入植か魔獣狩りか…。そうでないとしても、何かしらのやり取りがある関係なんだろうね。それだけわかれば十分だよ」

 

「たしかに領主とは多少の関わりがある。それで、君は何が目的だ?」

 

「オレ個人の目的は、最初に言った通りだよ。この子を取り戻すのが目的。次に制裁を加えること。それだけかな」

 

「すでに君は目的の物を手に入れた。領主にだって損害は出た。それで納得はしてくれないのか?」

 

「領主が損害だと思わなければ意味がないよ。スレイブを殺したって、あいつは痛くない。だからこいつを奪った。大切なものを奪われた痛みを教えないとね。つまりは教育ってやつさ」

 

「少年、それだけの力を持つのだ。大人になってはくれないか。人が生きるうえで妥協は必要だ。相手に譲るときも人生にはある。おべっかを使っても相手を動かせるようにならねば、争いはなくならない」

 

「心理学くらい知っているよ。自尊心を満足させてやれば、人の心だってそれなりに操れる。ただ、面倒なだけ。オレはもう世辞や媚を売って生きるのは嫌なんだ。うんざりしたし、飽きたからね。これからは好きに生きる。誰の指図も受けない」

 

「大人のような口ぶりだな。本当に少年か?」

 

「それなりに経験をしているからね」

 

「では、そうと知りながら、あえて騒動を起こしたのか?」

 

「そのつもりはないけど、それならそれでもいいと思った。殺したくはないけど、殺してもいいと思った。落とし前に犠牲は付き物だ」

 

「マフィアのようなことを言う」

 

「でも、大事だろう? 落とし前は」

 

「領主は強引なやり方だったようだ。…不快にさせたなら謝ろう」

 

「あんたに謝られてもね…。でも、あんたにしかできないことがあるよ」

 

 

 アンシュラオンは笑う。

 

 ここは、そのために用意した舞台。

 

 

「あんた、強いね。オレと戦おうよ」

 

「それなりに自信はある。しかし、私闘はしない」

 

「こいつが賞品なら私闘じゃないんじゃないの?」

 

 

 ずいっとイタ嬢を持ち上げる。

 

 

「いたたたた! 首が、首が伸びますわ!!」

 

「お前は【物】だ。おとなしくしていろ」

 

 

 サナともども二人を戦気で覆い、強烈な戦気壁を形成。外界と遮断する。

 

 そこにさらに命気を注入。

 

 

「ごぼごぼごぼっ、なんですの、これは! お、溺れるぅ!」

 

「それは命気だ。飲んでも問題ない。確認済みだから安心しろ」

 

 

 命気は極限にまで薄めているので、水と大気の中間のような感覚である。それが肺に入り込んでも問題はない。

 

 むしろ、傷んだ細胞を修復してくれる便利なものなのだ。

 

 

(そう、水気は危険だけど、命気はまったく問題ないんだよな)

 

 

 領主城内で女の子を診察したあたりから気がついていたが、命気はまったく人間に害を与えない気質なのである。

 

 もともと【羊水】とも呼ばれる気質なので、健康にこそなれ害にはならない。摂取しすぎた場合の検証はしていないが、アンシュラオンが長年毎日のように使っていても問題ないので、それも大丈夫だろう。

 

 命気を入れたのは緩衝材の役目をさせるためだ。もし二人が触れても怪我をしないようにと、外部から破壊されないようにである。

 

 

「命気…まさか、あの命気か? 水の最上位属性を使えるとは!」

 

 

 ガンプドルフも初めて見た気質である。何か特殊なアイテムを使えば可能だろうが、生身で扱える武人はそうはいない。

 

 

「さあ、イタ嬢が賞品なら文句はないだろう。まだ身体が熱くてさ。魔獣だけじゃ物足りなかったんだ」

 

 

(やはりこの少年が、あの魔獣を…)

 

 

 それならばすべてが納得できるとも思えた。目の前の少年から感じる波動は圧倒的。魔獣が可愛く思えるほどだ。

 

 そしてアンシュラオンの身体は、まだ少し疼いていた。

 

 久々の戦いによって覚醒した闘争本能が、酒を飲んで少し酔ったときのような、非常に心地よい気持ちを与えてくれる。

 

 本来ならば、これから身体が温まってもっと楽しい気分になっていくのだ。だが、デアンカ・ギースは、その前に死んでしまった。

 

 物足りないのだ。

 

 まだまだ足りない。

 

 サナを取り戻して少しは落ち着いたが、領主が煽ったおかげで血に飢えた一面が顔を覗かせてしまった。

 

 今のアンシュラオンには、ガンプドルフがデザートのように思えてならない。食後の軽い楽しみであり、火照った身体を冷やしてくれる存在に。

 

 

「あんたを波動円で感じた時から、面白そうだと思っていたんだよ」

 

「そのために私を呼んだか…」

 

「そういうことだね。あんたに恨みはないよ。ただ、このまま帰ってもつまらない。ムカついたまま気持ちを晴らさないでおくのは、健康のためにもよくないからね」

 

「どうしても退いてはくれないか」

 

「領主の土下座は? 誠意ある謝罪は?」

 

「それは難しそうだ」

 

「そう。あいつが落とし前をつけないなら、これもしょうがない。言っておくけど、やる気のない戦いをしたらイタ嬢は殺すよ」

 

「まったく、その綺麗な声で悪魔のような台詞を言うものだ。恐ろしいよ」

 

 

 ガンプドルフは、腰にあった【ロングソード】を抜いた。

 

 魔剣ではなく、予備として持っている剣だ。

 

 

(あの剣を抜かない? 何かありそうだな)

 

 

 アンシュラオンは、その段階で腰の剣が怪しいことに気がつく。

 

 装飾も普通のものとは違うので明らかに特殊装備だ。それをいきなり使わないということは、それだけの理由がある証拠である。

 

 

(使えないのか制限があるのか、それとも奥の手か。それはそれで楽しみだな。今回は情報公開を使わないでおこう。今後のためにもね)

 

 

 ガンプドルフには情報公開を使わない。

 

 最近はけっこう使っているスキルだが、このスキルに頼りすぎるのも危険である。

 

 使えない日が来るかもしれないし、通じない相手もいるかもしれない。そういうときのために日頃から慣れておく必要がある。

 

 ガンプドルフは、そういった練習台に選ばれたのだ。

 

 

(火怨山では戦うことが日常だった。今にして思えば、武人としては最高の環境だったんだな。闘争本能を満たしながら修練もできる。そりゃ強くなるわけだよ。だが、ここは平穏すぎる。たまには刺激も欲しくなるよ)

 

 

 そんな極めて自分勝手な都合であるが、こうして対峙するとワクワクしてくる。

 

 領主城で倒した敵など、敵の範疇に入らない。あんなものは遊びでしかない。

 

 しかし、目の前の相手は本物の武人だ。

 

 身内以外の初めての武人。その意味でも楽しめそうである。

 

 

 

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