【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
アンシュラオンはクルマを運転し、ダビアを連れて南門から白樹の館に向かう。
試運転するにはちょうどよい距離だ。
「輸送船より動きが軽いね。スイスイ進むよ。大きさのせいかな?」
「軽いほうがジュエルへの負担は少ないが、その分だけ積載量が少ないからトントンだろうな。というか輸送船を運転したことがあるのか?」
「前にちょっとね。三十分もしないうちに壊したけど」
「そいつは災難だな。荒野じゃよくあることさ。気にするな」
「ダビアが言うと説得力があるね。それでダビアは、今まで何してたの?」
「南のほうで他の商売人の手伝いをしていたんだ。運送が本業だが肝心のクルマがなかったんで、金が貯まるまで副業としてバイトしてたって感じだな」
「南はどう? こっちより安全?」
「コネを持っていれば多少はな。だが、どこも似たようなものだ。特に入植地の境目は危ないぞ。けっこうドンパチやっているからな」
「それでもクルマが抜けられるくらいの穴はあるんだね」
「荒野は広い。全部に壁を打ち立てているわけじゃないからな。防ごうとしても、どだい無理な話さ。どこにでも抜け道はあるもんだ」
「そりゃそうだね。この都市にも移民がけっこう来ているみたいだし、移動するだけなら通れる場所も多そうだ」
「移民…か。また増えるかもな」
「何か知ってるの? 南から来るのかな?」
「南も荒れているが、今回の話は東のゴウマ・ヴィーレだ。どうやら崩壊したらしいぞ」
「崩壊? ゴウマ・ヴィーレってどこかで聞いた……あっ、ミャンメイがいた【国】だっけ?」
「規模はそんなに大きくはなかったな。この都市の倍くらいだったはずだ。だが、小さいながらもしっかりと国家を形成していたんだ。王も良識がある人物で期待はしていたが…駄目だったみたいだ」
「期待していたってことは、ダビアは国家があったほうがいいって考えているのかな?」
「自治領区じゃ何をするにも限界がある。最低でも、それら都市群をまとめる大きな枠組みは必要だろうさ」
「そうなれば、もう国家と同じだね。で、その国はなんで崩壊したの?」
「いくつかの国に攻められたらしい。王城は陥落。街にも大きな被害が出ているようだ」
「オレの記憶だと、攻められないような防護壁があったみたいだけど? 山だっけ?」
「『白亜の
「離間の計か。城砦破りの定石だね」
「戸締りと一緒だ。どんなに防御を固めても、本気でこじ開けようとすれば何とかなっちまう。所詮は人間のやることだからな。完璧はないさ」
「難民の状況は?」
「ゴウマ・ヴィーレの残存軍がゲリラ戦を仕掛けているそうだが、どのみち住民が暮らせる状況じゃない。半分は脱出したようだ」
「三十万人の半分だと『約十五万人』か。今のグラス・ギースに匹敵する人数だね。でも、あまりに数が多すぎる。普通に考えれば、それだけの人間を受け入れる場所があるとは到底思えないな」
「だろうな。実際、どこの都市も受け入れる余裕はないはずだ。追い払われて終わりだろう」
「それがグラス・ギースにも来るの?」
「普通ならば不可能だな。グラス・ギースは『孤立した都市』だ。その理由は、周囲の荒野に強力な魔獣が多数いることが原因だ。そして東には大きな森と広大な荒野が広がっていて、おおよそ難民が通れるルートじゃない。ベテランのハンターでも絶対に近づかない危険な地だ」
「うーん、ヤドイガニとかも東側にいたな。その先にはもっと強い魔獣もいそうだね。それが天然の防波堤になっているのか。なら問題はないね。野垂れ死んで終わりだ」
「うむ…そうだとは思うが…」
「何か気になることでも? ダビアが自分で不可能だって言ったんだよ」
「そうなんだが…多少気になることがある。それこそ普通に考えて、そんな大勢の難民が無事脱出できるのかと疑問に思えるんだ。相当前から準備をしていなければ、なかなか都市を脱出なんて難しいぞ」
「…たしかにね。仮住まいならともかく、国なら愛着もあるだろうし財産もある。簡単に逃げるなんてできないかも。崩壊したのはいつの話?」
「一ヶ月くらい前だな。それでもまだ難民団は維持されているようだ」
「どこに逃げてもいいかわからない状況で一ヶ月か。一般人が大半なら食事や衛生環境の問題もあるし、そもそもストレスから揉め事が起きて混乱するよね。だいたい分裂するか、数を減らしていくもんだ。維持されているのは奇跡的だよ」
「それができたとなれば、事前に策を練っていたか、それが瞬時にできるくらいの【傑出した人物】が率いているか、だ」
「難民を率いる優秀なリーダーがいるってこと?」
「そう考えるのが妥当だ。あそこは優秀な世継ぎがいたから最初はそっちだと思っていたが…どうやら王子は混乱の中で死んでしまったらしい。やはり別人かな。どちらにせよ優れた人物なのは間違いない」
「武人なの?」
「厳しい荒野を移動しているのだから、その可能性はありそうだ」
「だからこっちまで来るかもって? 今までの話を聞いている限り、さすがに無理じゃないかな。いくら独りが強くても難民全員を守れるほどじゃないよ。仮にオレが十五万人を率いるなら、半分生き残れば大成功だと考えるしね。明らかに危険だとわかるなら違うルートを選ぶし、最初から西には行かないよ」
「…うむ、そうだな。さすがにここには来ないか」
「でもさ、ダビアが少しでもそう思ったってことは、そのリーダーは本当に優秀なんだね。どんなやつなの?」
「あくまで未確認の情報だが、その人物は『ブルー』と呼ばれているらしい。文句も言わずに十五万の人間がついていくんだ。相当なリーダーシップがあるんだろうな」
「人が生きるには金と食料がいる。資産家とかじゃないと無理だよね」
「そうだな。それなりに資産があるか、あるいは商人たちとのコネクションがないと維持は不可能だろう。その点が俺が王子だと推測した根拠だが…」
「死んだ話自体が確定していないから、まだわからないね。逃げるためにそう思わせることもあるだろうし、フェイクかも」
「その通りだ。王族ならば商人たちが助ける理由にはなる。あとは今言ったように武人の可能性が高いということ。まあ、わかっている情報はこれだけだ」
「ふーん、東も大変だね。それにしてもブルーか。そのまま『青』という意味でいいのかな?」
「青い装束を身にまとっているから、そう呼ばれているようだな。そういえば、この都市にも『ホワイト』がいたそうだが、何か知っているか?」
「ああ、ホワイトね。なんかもう死んだみたいだよ」
「…そうか。優秀な医者と聞いていたから興味があったんだけどな。それは残念だ。実は最近、南でも『レッド』という名前の人物の噂を聞いて、何か関連性があるかと思って気になっていたのさ」
「いやいや、戦隊物じゃないんだから。まさかイエローやピンクはいないよね? グリーンまで出てきたらどうするのさ」
「さすがにそれは聞いたことがないな」
「そういう名前を付けるやつはさ、単に考えるのが面倒くさいだけじゃないの? 適当に色の名前にしておけば周りも覚えやすいしね。レッドなら、赤い髪の毛でもしているのかな? 武器や防具が赤とかさ。そんなもんさ」
「ふむ、そうかもな。これだけ離れているんだ。関連性がある確率のほうが低いか」
「それにしても、やたら詳しいね。驚いたよ。どうやって仕入れるの?」
「この業界、情報が命でもあるからな。同業者同士でしょっちゅう情報交換をしているのさ。やばい情報や貴重なものならば高く売れるものもあるんだ。俺の仕事の半分は、そういったものだな」
「なるほどね。情報も立派な『商品』だよね」
などと気軽に流してみたが、これらの会話でダビアの『素性』が判明する。
(ダビアの本業は『情報屋』だ。だからわざわざ辺境の北部の都市、それもさらに人がやってこない北にいたんだ。今回来たのも何かを嗅ぎつけてのことだろう。思い当たることが多すぎて特定は難しいかな…)
火怨山からグラス・ギースまでの間には、あまり発展していない集落しかなかった。
特産品も木材や森で採れる食材くらいしかなく、せいぜいたまに手に入る稀少な薬草くらいが関の山だ。
そんな辺鄙な場所にクルマを持っているような運送業者が、あえてやってくる必要はないのだ。それがずっと疑問だった。
だが、情報が商品ならば話は変わってくる。
北は未開の地であり、火怨山にも近いことから情報が少ないため、『情報が無いという情報』を持ち帰るだけでも価値があるはずだ。
となれば、気になるのは『あのこと』だ。
「ねぇ、あの『戦艦』の話も売ったの?」
「いや、あれに関してはまだ誰にも言っていない。国章がないうえに、いきなり攻撃してくるような危ない連中だ。恨まれたら嫌だし、まだあまり詳しい情報がないんだ」
「そっか。なら、あれに関してはオレに任せてくれないかな」
「…何か掴んだのか?」
「少しね。任せてくれたら見返りは生まれるかもしれない。損にはならないと約束するよ」
「うむ…かまわないが、大丈夫か?」
「大丈夫、大丈夫。任せてよ。オレの強さは知ってるよね?」
「ボウズがそう言うなら好きにしてくれ。俺の手には余るものだからな」
「仮定の話だけど、もし北側に別の西側国家が入植する場合、問題が出る?」
「…国によるな」
「西側から移住してくるような国だから、どれも似たような事情じゃない?」
「トラブルを持ち込む連中は嫌われる。どんな理由で移住するのかも重要なのさ。移住する『目的』もな」
「南に入植した西側の国はどうなの? 何が目的?」
「多くは資源目的だ。『人的資源』も含めてだけどな」
「どこもやることは同じだね。まあ、この案件についてはオレに預けてよ。少なくともダビア個人に関しては利益になるはずだよ」
「俺はいつだって個人だぞ?」
「表向きはそういうことにしておくよ」
(ダビアはすっとぼけているけど、これだけ情報を集めているんだ。どう考えても個人じゃない。規模はわからないけど、裏に何かしらの【組織】がいるよね。明らかに『ネットワーク』を構築しているもんな)
そう思ったきっかけは、彼が調べている案件が「やばそうなもの」が多いことと、特定の傾向性に基づいていること。
あくまで彼の情報が正しいという前提だが、たかが一介の運送業者にしてはあまりに情報が細かく、なおかつ正確だ。
そして、彼が『政治犯』であったことも重要だ。
下山直後に出会った人物だったので当時はあまり意識しなかったが、こうやって周囲の様子がわかってくれば対比が可能となり、彼がより異質な存在であることがよくわかる。
「用心のために聞いておくけど、『救済者』じゃないよね?」
「やつらを知っているのか?」
「こっちも独自の情報網を持っているからね」
「………」
「心配いらないよ。ここに来た連中は撃退したから」
「ボウズがやったのか?」
「うーん、半分正解」
「うむ…ボウズの実力は実際にこの目で見たから、嘘じゃないんだろうな。しかし、やつらが北部にまで来ているとは油断していた」
「なかなかの手練れだったよ。南ではあれが一般的な強さなの?」
「とんでもない! やつらは極めて危険な連中だ。入植地にも平然と入っていって駐屯軍と揉めるからな。それで誰も拘束されずに戻ってくる。それだけで異常さ」
「あまり好いてはいない物言いだね」
「はっきり言えば犯罪者どもだからな」
「それ、ダビアが言う台詞?」
「俺の犯罪なんて、かわいいもんさ。だが、やつらのやり方は本当に危ない。民間人にも平気で被害を出す連中だからな。といっても、ああいう連中がいるおかげで、入植を抑えることができているのも事実だ」
「ふーん、ダビアは西側の味方じゃないんだ」
「追い出された身だからな。味方をする理由はない」
「じゃあ、誰の味方?」
「そこまで訊くなって。ただ、この大地を静かに暮らしたいと思っている人たちの味方だ。もともと住んでいた人たちを追い出してまで、俺はここに住みたくはない」
「なるほどね。だいたいわかったよ」
「…やれやれ、ボウズの前だとしゃべりすぎちまう」
「いいじゃん。どうせオレは流れ者。どこにも属していないし、漏洩することはないよ」
「だといいがな…」
ダビアが所属する具体的な組織名はわからないが、ひとまずどの立場に属するのかはわかった。
東大陸に存在する思想は、大きなもので『四つ』ある。
一つは西側の入植を支持する考え。西側諸国当事者であり、現地人の中でもその支援を目的とする者たちである。
ある意味では、グラス・ギースもこちら側の考えだ。DBDと取引をして都市を強くしようと考えている。
二つ目は、それに反対する者たち。
古くから東大陸に住んでいる原住人や、西側から追放されて東側に居を構えた者たちは西側の入植に抵抗している。
自分たちを追放した連中に恨みもあるし、しがらみを嫌って逃げてきたのだから、また西側と関わることを拒否するのは当然の心境だ。
三つ目は、独自に国家を生み出そうとする者たち。
救済者たちのように独自に戦力を集め、周囲を力によってまとめ上げ、西側に対抗する国家を作ろうという考えだ。
これは救済者だけにとどまらず、そう考えている都市または組織も多いかもしれない。
ただし、今のところはどの勢力も決定的な力を持たず、テロ活動をするのが精一杯のようだ。
四つ目は、すでに存在している東側国家(ここよりさらに東側)が、今は空白地帯となっている東大陸の西方地帯を制圧し、西側に対抗しようという考えだ。
三つ目と四つ目は似ているようで、だいぶ意味合いが違ってくるので注意が必要である。
そしてダビアだが、おそらく二つ目か三つ目、またはその中間の組織に属していると思われた。
(西側の侵略には抵抗しつつ、場合によっては自立も視野に入れている。救済者の存在を苦々しく思いながらも、自分たちの害にならなければ役立つと考えているのが根拠だ。ただ、ダビアの様子から察するに、独自の戦力は持っていない可能性が高いな。あっても救済者を抑えるだけの力は到底なさそうだ。情報収集が専門って感じがするよ)
まだ実態は不明だが、雰囲気から武闘派ではないと直感する。
であれば、そんな彼がここに来たということは、それなりに『当て』があってのことだろう。
「オレに何か用があった?」
「元気でいるか知りたかっただけさ」
「またまたー、ちょっとは期待したでしょう? オレがいたらいいなーとは思っていたはずだよ」
「…初めて会った時から思っていたが、いろいろと鋭いな」
「オレもダビアを基準に考えていたから、都市に馬鹿なやつらが多くてびっくりしたよ。考えてみれば普通のことだけどね。頭の良い人間なんて、そうそういないもんだ。で、何か用?」
「様子を見に来たのは本当だ。いれば嬉しく思える」
「オレも南の情報は欲しかったところだよ。この都市内部だとオレの行動には制限があるけど、他の場所ならば何も制約はない。ダビアとなら【組んでもいい】よ」
「まだ何も言っていないぞ?」
「今すぐの話じゃなくても、そのうち手が必要になるんじゃないかな。最後に物を言うのは、いつだって軍事力だからね。戦艦にも対抗できる武人の力は誰だって欲しいはずさ。今なら格安だよ?」
「まいったな…」
「やばい宗教組織じゃなければ、オレは気にしないかな。まあ、言えないことも多いだろうから、話す気になったら教えてよ。まずはオレの家を見てもらいたいしね」
そうしてアンシュラオンは、ダビアを白樹の館に案内。
ただでさえ大樹を改造した珍しい家のうえに、美人のメイドたちが出迎えたのでかなり驚いたようだ。(ちょっとスレイブが欲しくなったとか)
その晩はダビアと一緒に酒を酌み交わし、会話を楽しんだ。
こうして他人、それも男を館に案内することは、アンシュラオンにとっては最上級のもてなしといえる。
単純に彼の気質が好きなこともあるが、優秀な情報屋であることも決め手だ。
(この都市にもしがらみが増えてきた。いつでも移動できるようにしておくべきだな。その点でもダビアと組むことにはメリットがある)
グラス・ギースには派閥争いに加えて、エメラーダとの契約がある。
それら自体は有益であっても、金と技術の両方を得る代わりに『自由』を失うのが精神的につらい。
ダビアとの関係を維持していれば、万一南に移住することになってもスムーズに事が運べるだろう。
翌日。
「それじゃ、行ってくる。家にある食材は自由に使っていいからね」
「いや…あの、俺一人なんだけど?」
「まさか寂しいとか言わないよね?」
「そんなボーイじゃねえよ。俺なんかに留守を任せていいのかって話さ」
「ははは、盗ろうとしたって何もないよ。せいぜい小百合さんが持ってきた美術品くらいで、あとは安物の燃料ジュエルしかないしね。盗られてもまったく惜しいものじゃない。それ以前にダビアを信用しているから大丈夫さ」
「そこまで信用されるとプレッシャーだな」
「ただ、オレもあまり人に自慢できる生活を送っていたわけじゃないから、一応警護も頼む予定でいるよ。結界も張っておくし、外に変な連中が来ても館の中にいれば大丈夫だと思う」
「せっかくの珍しい家だ。ゆっくりさせてもらうさ。屋上からなら人の流れも見られるから、そのあたりは心配するな。伊達に運び屋をやってない。自分でなんとかするさ」
「それなら安心だ」
「…こくり。ぐっ」
「はは、サナもダビアのことを気に入ったみたいだ。ますます安心だね」
アンシュラオン自身もそうだが、サナもダビアを気に入ったようである。
彼女には人の善悪を見る目がある。というよりは、自己に害を与えない人間を本能的に見抜く力がある。
今までどうやって暮らしていたのかわからないが、その能力があったからこそ独りでも無事だったのだろう。(モヒカンも商品を大切にするという意味では庇護者だ)
「で、どこまで行くんだ?」
「鉱山を見つけたいけど、簡単に見つかるようなものじゃないからね。あまり期待しないで、まだ行ったことのない場所を重点に探してみるよ。まあ、ほとんど行ったことがない場所なんだけどさ」
「北部の情報は俺も持っていないからな…役に立てずにすまん」
「しょうがないよ。ほぼ全域が警戒区域になっているし、人が立ち入るようにはできていないみたいだ。でも、その分だけ旨みもあるってことだよね」
「たしかにな。もし大きな鉱山を発見できれば、それだけで大金持ちだ」
「オレは質もこだわりたいから、できれば良質な金属が出る場所のほうがいいな」
「贅沢を言ってやがるな。まあ、気をつけて行ってこい。メイドさんたちにもよろしくな」
「もしかしたら長旅になるかもしれないから、その間はよろしくね。せっかく来てくれたのに急ぐようで悪いね」
「気にするな。ゆっくり朗報を待たせてもらうさ。俺にも旨みがありそうだしな」
もし鉱山を発見した際は、その輸送をダビアに頼むことも考えている。
こちらは信頼できる業者が欲しいし、彼自身もアンシュラオンと接点を欲しがっている。金も手に入るのでお互いにメリットがある話だ。
(さぁ、行くぞ。オレが求めているものを必ず手に入れるからな!)
大人数で移動できる手段(クルマ)を得た今、もう迷うことはない。
ついに一家総出で『スレイブ・ギアス』を探す旅に出るのだ!!
旅といっても、今回は軽く周囲を見て回ることを目的としており、遠出をする予定はない。
まずはクルマの試運転と同時にサナたちの鍛錬を行いつつ、ギアスに使えそうなジュエル媒体の発見と確保が最大の目的となる。
前者二つはすぐ達成できるが、問題は後者のジュエル媒体だ。
(スレイブ・ギアスの媒体として適しているのは、適合型が『精神』であること。最悪汎用型でもいいが、それは一般用のスレイブに回して、ホロロさんたちにはできる限り良いものが欲しい。サナと同レベルのものがあれば一番だけど…さすがに難しいかな。火怨山方面に行く手もあるが、せっかくだからいろいろ足を伸ばしてみよう)
サナのジュエルは火怨山の麓の森で手に入れたものなので、あの付近ならばレアな魔獣もいると思われる。
が、すでに知っている場所だし、これだけ広大な荒野が広がっているのだ。まだ見ぬ地を探すのがロマンであろう。
移動を開始。
都市を出立する前にハローワークに向かうことにする。
が、小百合に会いに行くわけではない。
なにせ彼女は―――
「イェイ! イェーーイ!! レッツゴー!」
すでにハイテンションでクルマに乗っているからだ。
しかもいざというときに備え、自身のバイクまでクルマに固定して持ってきている念の入れようだ。
この探索計画は以前から話していたものだが、昨日急に前倒しになったものである。
それにもかかわらず、それを聞いた小百合は真夜中に上司の家を訪れ、眠そうにしていた彼に二週間の休暇を強引に承認させたのだ。(最大一ヶ月の自動延長付き)
話を聞いたからには、居ても立ってもいられない! といわんばかりの行動である。
それに若干の不安を覚える。
(小百合さん、大丈夫かなぁ。このまま職場の空気を乱して、ハローワークを辞める計画じゃないだろうな。専業主婦に憧れる女性の意欲は怖いよ)
男女平等と謳われる昨今、女性の社会進出や企業内出世が盛んになっているが、実際の女性へのアンケートでは「専業主婦になりたい」が九割近くに及んでいる。
女性は子孫を残すために、いつだって安定した生活を送りたいのだ。
仕事で疲れ果てて家に戻るより、家にずっといて子育てしたいのが本音であろう。それが高給取りの夫ならばなお良し、である。
『家制度』のあるレマールから来た小百合がそう思うのは悪いことではないし、自分の妻の一人として大切にしたいと考えているが、いきなり気持ちが解放されたせいか暴走気味なのは間違いない。
(ホロロさんは…大丈夫かな? 気分を害してないかな?)
ちらりとホロロのほうを見る。
もう一人の妻候補である彼女との関係が一番気になるところであるが―――
「………」
ホロロは特に気にした様子はなく、黙って座っている。
車内は広く、各々が十分離れて座ることも可能だが、小百合との距離は比較的近く、特段の違和感は感じない。
シャイナに対しては厳しかった彼女も、小百合には思うところはないようだ。
形式的にはホロロは三番目の妻の扱いなので、二番目の妻である小百合に敬意を払っているのかもしれない。
ただし、女性は知らない間にストレスを溜め込むものだ。静かなときこそ要注意である。
(旅の間にまた風呂パーティーをやらないと駄目だな。うん、そうしよう。ぜひ、そうしよう)
困ったときは風呂! これしかない!
お互いにわだかまりがあっても一緒に風呂に入り、ついでに快感も味わえば仲良くなるに違いないのだ。
久々にマイボーイの出番が来るかもしれない。準備しておこう。
と、馬鹿なことを考えているうちに東門に到着。
クルマは東門にある駐車場に停めておき、サナを護衛としてクルマに残し、自分だけでハローワークに行く。(マキも近くにいるので安心)
道中は特に何事もなく、ハローワークにたどり着く。
思えば小百合がいないハローワークに行くのは初めてである。
「ええと…いつものところでいいのかな?」
中に入って見回すと、いつも小百合がいる受付の場所に、目の下にクマが出来た中年男性が座っていた。
ブサイクでもイケメンでもない普通の男性といったところだ。ただ、あまり元気がないので暗い印象を受ける。
「あの、アーパム商会の者だけど…」
「お話は伺っております。警備の募集の件でよろしいでしょうか?」
「急な話だったけど、応募はあったかな?」
「はい。朝一番で募集を出したところ、三件ほどございました」
「へー、三件も。そんなにあったんだ。うちは出来たばかりだから、一つも来ないんじゃないかと心配してたよ」
「現在は都市内部も落ち着いている状況ですし、手が余っているハンターや傭兵団も多いです。しがらみが少ない新しい商会を好む方々もおられますね」
「そっか。あまり大きくて古いと派閥の影響力も強いしね。…ところでおじさんは、小百合さんの上司さん?」
「はい、クニダチと申します。よろしくお願いいたします」
「なんかごめんね。小百合さんが、いろいろ迷惑をかけて…」
「いえ、女性が多い職場ですから、こういうことも慣れています。ただ、ミナミノさんは今までまったくそういうそぶりがなかったので、若干驚いてはおります。西側から来たお嬢さんというイメージが強くて…」
「女性は誰でも心の中に獣を飼っているからね…油断大敵だよ。クニダチさんも苦労するね」
「ほんと、そうですね…」
クニダチは、沈んだ顔で頷く。
彼女が言っていたような脂ぎった中年男性のイメージではなく、どちらかといえば「疲れきってやつれた中間管理職」という感じだ。
上からは命令され、部下の女性たちからは陰口を叩かれる。まったくもって良いことがない人生の見本だ。さすがに哀れである。
とはいえ、いつまでも同情していても仕方ないので、話を先に進めよう。
「それで、応募してきた三件は?」
「こちらとなります」
「ほぉ、傭兵団が二つにハンター隊が一つか。うーん、どれがいいかな…」
「よぉ、『兄弟』じゃねえか!!」
「え?」
突然自分を『兄弟』と呼ぶ声がしたので、驚いて後ろを向くと、筋骨隆々の体格の良い男性がいた。
「俺だよ、俺! ずっと礼を言いたくて、また会いたいと思っていたんだぜ!」
「あっ、あのときの…!」
その人物の顔には見覚えがある。
前にデアンカ・ギースを倒した時、余った懸賞金一億円を『お
「おー、おー! 覚えていてくれたか! 嬉しいぜ!! 本当に久しぶりじゃねえか。今まで何やってたんだ」
「うん、トイレを作ってた」
「トイレぇ!?」
「ハローワークの裏にもあるでしょ。あれを作ったのはオレだよ」
「おいおいおい、デアンカ・ギースを倒した英雄がトイレ作りだって!? なんだってまたトイレなんかを?」
「オレは街の生活、特に女性の生活を豊かにしたいんだ。そのためならトイレだって作るよ」
「じゃあ、アーパム商会ってのはまさか…」
「オレの商会だね」
「おおお! そうかそうか!! 知らなかったとはいえ、こいつは奇遇だな!! ならよ、ぜひとも俺らを雇ってくれよ! あの時の恩を返すぜ!! ほら、そこに載ってるはずだぜ」
「ええと、どれかな…?」
「アンシュラオン様、彼は【
「そういや、ちゃんと挨拶をしていなかったな。俺は
「黒鮭?
最初に出会った際も少し気になったが、ゲイルが着ている鎧には鮭と思わしきマークが刻まれている。
龍やら馬やら動物系の紋章は見たことがあるが、魚を描いたものは珍しいので気になっていたものだ。
どうやらその問いには慣れているらしく、ゲイルは黒鮭を撫でながら胸を張る。
「俺の故郷はハピ・クジュネの近くにある漁村でな、そこでは真っ黒な鮭が獲れるんだ。味も良くて量も獲れる村の名物品だ。今では故郷とは離れちまったが、俺のルーツはそこだからよ。忘れないようにと思って傭兵団のマークにしてみたのさ」
「いい名前だね。そういう愛郷心は、すごくいいと思う」
「おうよ、ありがとよ!」
「それにしてもゲイルは強そうだね」
「そりゃ十五人の傭兵を養ってんだ。少しは腕に覚えがあるぜ」
「けっこう多いね。その人たちの腕前はどんなもん?」
「俺は数よりも質を重視している。どいつも俺と同じか、少し弱い程度だな」
「それはすごい。優秀じゃないか」
「兄弟ほどじゃねえよ。デアンカ・ギースを倒すことがどれだけすごいか、俺らにはよくわかる」
「ほとんどはラブヘイアがやったのさ」
「嘘はいけねぇな。あいつの実力は知っているぜ。たしかに強いが、到底太刀打ちできるレベルじゃねえ。そもそも普通の人間には絶対に不可能だからよ。俺の目はごまかせないぜ」
―――――――――――――――――――――――
名前 :ゲイル・メンス
レベル:38/50
HP :780/780
BP :180/180
統率:D 体力: D
知力:F 精神: E
魔力:E 攻撃: D
魅力:D 防御: D
工作:F 命中: E
隠密:E 回避: E
【覚醒値】
戦士:1/2 剣士:0/0 術士:0/0
☆総合:第八階級
異名:黒鮭傭兵団の熟練リーダー
種族:人間
属性:水
異能:漁師の心意気、護衛、部隊士気上昇、チームワーク、水耐性
―――――――――――――――――――――――
(ゲイルは戦士か。そのおかげでHPも高いし、耐久力もありそうだ。何よりも指揮官タイプだから、そこが評価されているっぽいな。しかもサリータと同じく『護衛』スキルまである。これは使えるな)
ラブヘイア(旧)は強いが、あくまで個人の範疇だ。
一方のゲイルは単独でこれだけの力を持ちつつ、部下の傭兵を扱うことに長けている。
統率も高くスキルも複数あるので、部下に補正が付くのも魅力的だ。
そして資料に目を通すと、思いがけない情報も手に入る。
「え? 黒鮭傭兵団は『黒爪級』なの? たしかブラックハンターって、討滅級まで倒せるんだよね?」
「あくまで傭兵団全体での話さ。倒せるといっても下位の討滅級までだしな。それに俺らはハピ・クジュネの登録なんだよ。まあ、ハローワーク自体が至る所にあるから、登録都市なんてあまり関係ないけどな」
「そういうことか。それならどうしてグラス・ギースにいるの?」
「俺らは『渡り狼』のような生活をしているからな。この都市に戻ってくるのも久々だ。あのあと大きな仕事が入ってな。今まではそっちをやっていたんだ」
「それでまた新しい仕事を探していたってことか。うん、いいね。ぜひ雇いたいよ」
「任せてくれ! 金は前にもらった分があるから無料でもいいぜ」
「それはいけない。しっかりと払うよ。金が手に入るからこそ、やる気も出るだろうしね。あれはあくまでお大尽さ。もし気にするようなら仕事で励んでくれればいいよ」
「そうか。わかった。俺らもプロだ。万全の体制でやらせてもらうぜ!!」
「それは頼もしいね。それじゃ、さっそく契約しようか。クニダチさん、契約書をお願いね」
「はい、こちらとなります」
こうして黒鮭傭兵団と契約。
依頼内容は、白樹の館と事務所および、ルセーナ牧場周辺の警備だ。
十五人いるので分散が可能だし、それぞれがやり手ならば安心できる。
また、ダビア同様にゲイルも久しく都市にはいなかったので、ホワイト商会の一件に関しては中立でクリーンであることも選んだ理由だ。
もともとハピ・クジュネ周辺で活動を開始した傭兵団なので、グラス・ギースに深く関わっていないことは好材料である。
留守中もこれで安心だ。青劉隊等の特殊な存在ならばともかく、普通の人間はわざわざ傭兵団を敵に回してまでちょっかいを出さないだろう。
あんなムキムキの連中に守ってもらえるのは、安心感があって実によいものだ。
「それじゃ、荒野に出発だーーーーー!!」
こうしてスレイブ・ギアスを作るために、心置きなく荒野に旅立つのであった。