※この作品はR-18です。

【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了   作:ぷるっと企画@園島義船

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628話 「ジュエル探索 その3『老兵と少女と』」

 

 アンシュラオンが敵と接触している間、サナも敵を追走していた。

 

 追っていた三人も二手に別れ、二人は離脱して一人が待ち伏せる方式を採択。

 

 戦場は、魔獣の狩場の草原地帯を抜けた先にある森林地帯。

 

 周囲には巨石がごろごろと転がるような、アンシュラオンが戦っていた岩場と森が合体した一般人にはとても立ち入れない難所である。

 

 

―――遭遇

 

 

 木々を突き抜けた先、少し開けた岩場で相手と接触する。

 

 視界に映ったのは、長い白髪と豊かな白ヒゲをたくわえた老人だった。

 

 齢は七十過ぎだろうか。高齢化社会になった日本ではよく見られる年代の男性だ。

 

 ただしその肉体はいまだ衰えを知らず、大きく逞しく整っており、佇まいからして勇壮な武人であることがわかる。

 

 アンシュラオンが遭遇した戦闘服の男と同じタイプのプロテクター、SF系のアニメで出てきそうなパワードスーツに身を包んでいるため、同一の集団であることは間違いない。

 

 唯一異なる点としては武器の類は持っておらず、両手に手甲を装備していることくらいだろうか。

 

 マキの篭手は保護のためだったが、こちらは戦闘用のグローブに近く、より重厚な造りとなっていることがうかがえる。

 

 

「子供…?」

 

 

 老兵はサナを視界に捉えた瞬間、怪訝な表情を浮かべる。

 

 こんな場所で十歳そこらの少女と遭遇したら、誰でも同じ反応を浮かべるに違いない。

 

 それが歴戦の勇士であっても同じこと。いや、歳を重ねたからこそ情に厚くなり、子供に対する愛情はさらに深くなったのだろう。

 

 だからこそ、ほんの一瞬だけ隙を晒してしまう。

 

 しかし、対するサナは迷いなく行動。

 

 突然スピードを上げて老兵に突っ込む。

 

 実は事前に速度を落としており、ここで見せたのは全力の疾走だ。

 

 老兵は波動円を使って探知していたので、初撃の刀はかろうじて手甲で防いだものの―――

 

 

 続けて放たれた雷爪が―――貫く!!

 

 

 バチーーーンッ!

 

 

「ぬぐっ!!」

 

 

 雷爪は背中を抉り、内部に雷撃を放った。

 

 

(物理耐性があるスーツを貫くか! しかも格闘戦の動きもいい。してやられたわい!!)

 

 

 完全に油断していたわけではないが、予想以上にサナの動きが良かった。

 

 弾かれるとわかった瞬間に相手の後方に滑り込み、ジュンユウ戦で学んだ的確な攻撃によって急所を抉る。

 

 緩急をつけたトップスピードからの変則攻撃は、初手では防ぐことは困難。

 

 加えて、剣士の動きから突如として戦士の動きに変わったとなれば、よほど実力差がなければ対応は不可能である。

 

 もしプロテクターがなければ心臓を貫かれ、致命傷になっていたかもしれない強烈な一撃であった。

 

 しかも感電のオマケつき。

 

 老兵も神経を戦気で保護したものの、衝撃の強さで身体が一瞬痺れる。

 

 そこをサナは見逃さない。雷光の速度で刀を振るう。

 

 

「やらせん!!」

 

 

 老兵はガードの構え。

 

 痺れた身体を強引に突き動かし、迎撃の姿勢に移行。

 

 それを見たサナは刀を引き、後ろに跳び退く。

 

 ただでは退かない。離れ際に大納魔射津をばら撒いていた。

 

 

「ぬんっ!!」

 

 

 老兵も素早く対応。

 

 地面を破壊して陥没させ、大納魔射津を地中に落とし込む。

 

 即座に爆発物だと見抜く眼力と、一撃で大きな穴をあけるだけの膂力を見るだけで、彼が只者ではないことがわかる。

 

 サナは再び攻撃を仕掛ける。

 

 今度は上段から打ち下ろす、全力の一撃。

 

 爆破物への対応を迫られた老兵は防御するしかない。手甲で刀を受け止める。

 

 サナが魔石で強化されているとはいえ、同じ武人が相手では腕力の差が出るものだ。

 

 ガギンッ!!

 

 老兵はがっしりと刀を受け止める。まったく力負けしていない。

 

 体格の良さから戦士タイプと見てよいだろう。単純なパワー勝負では不利である。

 

 しかし、そんなことも気にせず、サナはひたすら刀を打ち付けていく。

 

 

 ガンガンガンガンッ!

 

 

 本来の刀の動きを無視した強引な斬り方なので、たいしたダメージはない。

 

 が、その乱撃によって老兵も動けない。

 

 それでいい。これが狙いだ。

 

 

―――爆発

 

 

 地中の大納魔射津が爆発し、地面が急速に盛り上がる。

 

 それ自体は老兵にダメージを与えることはなかったが、足場が一気に盛り上がり、二人は宙に舞う羽目になった。

 

 ここで両者に差が生まれる。

 

 すでにサナは術符を取り出して風鎌牙を放っていた。

 

 カマイタチが老兵に襲いかかり、細かな切り傷を与えていく。

 

 

(術符も扱うとはな。器用かつ、素早く迷いがない動きは見事。だが、まだまだ子供。力も技も非力よ)

 

 

 サナの魔力値は、魔石で強化されても「B]だ。

 

 これはこれで十分高い水準だが、老兵は明らかに熟練した武人であった。

 

 プロテクター自体にも『術耐性』が付与されているうえに、両手に戦気を集めて防御の態勢は完璧。ほぼ完全に防ぎきる。

 

 いつでも反撃できるのだが、こうして老兵が防御主体で動くのは、おそらく『時間稼ぎ』のためだろう。

 

 先に逃げた二人がより安全な場所に行き着くまでは、同じように立ち回るはずだ。

 

 

 ただし、それを継続できれば、であるが。

 

 

 すでに両者の間には差が生まれた、と述べた。

 

 

 

 その意味は―――空中に散らばったジュエル

 

 

 

 サナは風鎌牙の直後、ほぼ同時にもう一つの術符である雷貫惇を展開していた。

 

 雷貫惇は、老兵の周囲に散らばったジュエルを貫き―――誘爆

 

 

 パパパパパパンッ

 

 

 ジュエルが一斉に弾け、老兵を閃光と衝撃が襲う。

 

 最初の風鎌牙は、敵にダメージを与えるためのものではない。このジュエルを宙にばら撒くのが目的だったのだ。

 

 ただし、大納魔射津とは異なるのでダメージは軽微であるし、所詮は目くらましにすぎない。

 

 老兵もダメージは受けていないが、その瞬間だけは目を保護するために視界を腕で覆った。

 

 

 一秒後、腕を離したときには―――いない

 

 

 その間に着地したサナは、全力で老兵から離れていった。

 

 これらの行動は、老兵から一秒という時間を稼ぐためのものだったことがわかる。

 

 サナはその貴重な時間を『移動』のために使ったのだ。

 

 アンシュラオンから「危なくなったら逃げろ」と言われているので、逃げたのだろうか。

 

 否。

 

 彼女の目的は別にある。

 

 

(しまった! 追われたか!!)

 

 

 サナが逃げた方角は、先に逃がした二人の進行方向と同じ。

 

 老兵の戦い方が時間稼ぎだと気付いた彼女は、逃げた側の相手を標的にしたのだ。

 

 あの速度を考えれば、こうしている間もぐんぐんと差を縮めているに違いない。

 

 さすがに慌てた老兵は全速力でサナを追う。

 

 

 

 

(くっ、森が濃い! 未開の地ゆえか)

 

 

 岩場を抜け、鬱蒼とした森の中へと入っていく。

 

 森のほうが身を隠しやすいと思っての判断が、こうして追いかける側になると逆効果となる。

 

 文字上では「森」やら「岩場」「荒野」と表現しているだけだが、その規模は地球人の想像を数倍は上回る。

 

 森は異様に広く深く濃く、植物も巨大で好き放題に伸び、人の侵入を完全に拒んでいる。

 

 それも当然。人智を超える魔獣を受け入れるために、同様に人知を超える大自然が存在しているのだ。もともと人が来る場所ではない。

 

 こんな場所では老兵が全力で移動するにしても制限がかかり、なかなか前に進めない。

 

 多少の苛立ちを感じながら、必死に追う。

 

 

 ヒュンッ

 

 

「―――っ!」

 

 

 直径二メートル以上はある大きなツタを持ち上げた時、何かが飛んできた。

 

 咄嗟にそれを片手で打ち払うが―――爆発

 

 

 ドーーーーンッ!

 

 

 至近距離で大納魔射津が爆発。爆発矢である。

 

 老兵は衝撃で飛ばされ、樹に叩きつけられる。

 

 パスパスッ ボンボンッ

 

 続いて火炎弾による銃撃。

 

 しっかりと狙いをつけた銃撃は、老兵の脚に命中。

 

 プロテクターのおかげで衝撃は緩和されており、老兵は強引に前に出ようとするが、今度は足元に術符。

 

 水流波によって身体を持ち上げられたところに、待ち伏せていたサナが突っ込んできた。

 

 横薙ぎの一閃。

 

 

 ガギイィイイイイィイッ ボゴンッ

 

 

 死に体で全力の一撃を受けたため、プロテクターでも防ぎきれず破損。裂傷と打撲を負う。

 

 なんとか空中で体勢を立て直して着地するも、すでにサナは離れており、中距離から術符や爆発矢がどんどん飛んできた。

 

 探索合宿に出たばかりなので在庫は大量で豊富。

 

 強敵とみなした老兵に対して惜しみなく物量で攻めていく。

 

 仕舞いには『煙玉』すら放り投げ、周囲が赤や黄色といった派手な色の煙に包まれていった。

 

 これも『強烈な刺激臭』が付いたもので、老兵の呼吸を妨げる地味な効果があるし、深い緑が生い茂る森では派手な色は目印になる。

 

 

 サナは身を隠しながら攻撃と移動を繰り返し、少しずつ老兵にダメージを与えていった。

 

 彼女は逃げたのではない。まともに戦っては不利と判断し、老兵をこの場所に誘い込んだのだ。

 

 たしかに魔石を使っても未成熟な少女にすぎない。まだまだ素人だ。

 

 されど彼女は戦い方にこだわらない。矜持もなく流儀もない。戦いに勝つために最適な手法を瞬時に選び取る。

 

 足元に水流波を仕掛ける技を見てもわかるが、これらもセクトアンクから学んだ戦術である。

 

 もちろん、これに面食らったのは老兵だ。

 

 

(…この少女は何者だ? 森の守り神か?)

 

 

 いきなり現れた黒い美少女が、猛烈な勢いで自分たちを排除しようとしてくる。

 

 この森に住む妖精か何かと言われたほうが、まだしっくりくるだろう。いまだ困惑から抜け出せないでいる。

 

 しかしながら、彼も生半可な覚悟でここに来たわけではない。

 

 

(甘く見たのはこちらの失策だが、子供が戦場に出ることなど珍しくはない。ためらうな! 活を入れねば、やられるのはこちらよ!! 我らはもう二度と負けることは許されぬのだ!!)

 

 

 

「はぁああああああああああ!!」

 

 

 

 ゴゴゴゴッ!! ズズズズズッ!

 

 

 老兵から膨大な戦気が溢れると、そのすべてが両手に吸収される。

 

 その瞬間、両手が【肥大化】。

 

 手甲をぶち破り、パンパンに膨れ上がった。

 

 

「ぬんっ!!」

 

 

 老兵がその両手を大地に叩きつける。

 

 

 グラグラグラ

 

 

 サナの足元が、揺れた。

 

 最初は軽い地震程度の揺れだったが、次第に大きくなっていき―――

 

 

 グラグラグラ!!

 

 グラグラグラ!!!

 

 ぐるん!!

 

 

 ついには世界が斜めになる。

 

 大きな樹や植物、岩に至るまですべてのものが六十度以上傾いている。

 

 目眩を感じたわけでも、ましてや錯覚でもない。

 

 

 実際に―――【地面が持ち上がっている】

 

 

 老兵の両手が、力づくで大地そのものを剥ぎ取り、サナごと持ち上げているのだ。

 

 問題は、その範囲。

 

 周囲の物体そのものにまったく変化がないことから、おそらくは百メートル以上の大地を切り取っている可能性がある。

 

 それだけを見ても恐るべき腕力であるものの、普通ならば握った部分だけが引き千切れて終わるはずだ。

 

 広範囲に植物の根が張り巡らされていない限り、このようなことはアンシュラオンでも不可能である。

 

 であれば、【違う力】が働いているのだ。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 老兵は、大地ごとサナを投げ飛ばす。

 

 たとえるならば、学校の校庭そのものが浮き上がり、放り投げられるようなものだ。

 

 さすがにこれにはサナは対応できず、一緒に飛ばされるしかなかった。

 

 

 

 ドーーーーーーーーーンッ!!!

 

 

 

 剥ぎ取られた大地は、激突と同時に粉々に砕け散り、大破壊を呼ぶ。

 

 地面が砕け、木々は倒れ、すべてが土石流となってサナも流されていく。

 

 

「…ふるふる」

 

 

 サナは必死に這いずり、そこから脱出しようとするが―――

 

 

 ドヒュンッ

 

 

 そこに十メートル以上はある巨大な物体が飛んできた。

 

 

「―――っ!!」

 

 

 サナは回避を諦めて防御。身体を丸める。

 

 

 ドガーーーンッ バラバラッ

 

 

 よくよく見れば、それは土や小石が固まった『土塊(どかい)』だったようで、サナに激突すると砕け散ってしまった。

 

 がしかし、衝撃は尋常ではない。

 

 砕け散ったことが逆に防御を難しくし、吹き飛ばされたうえに、全身にショットガンを受けたようなダメージを負う。

 

 

「…むくり」

 

 

 サナはなんとか立ち上がるが、再び土塊。

 

 

 ドガーーーンッ バラバラッ

 

 ドガーーーンッ バラバラッ

 

 

 容赦なく次々と投げつけられてくる。

 

 サナは小柄で素早いのが長所でもあるのだが、そんなことはお構いなしに巨大な土塊が襲ってくるので回避が難しい。直撃を免れるのがやっとだ。

 

 そして、その間に間合いを詰めた老兵が拳を放つ。

 

 まだサナはダメージから回復できていない。

 

 

 肥大化した手が、即頭部を―――直撃

 

 

 ゴーーンッ!

 

 

 ナックルを叩きつけるのではなく、小指側の腹の部分、拳法でいうところの「拳輪」と呼ばれている部分をぶつける。

 

 すでに手が肥大化しているため、もはやハンマーと同じ。

 

 サナの脳が揺れると同時に、身体ごと吹き飛び、木々の中に転がっていく。

 

 もともと耐久力に劣るサナにとって、この攻撃はかなり痛い。強烈な一撃であった。

 

 ただし、簡単にはやられない。

 

 

 バチィイインッ! ビリビリビリッ

 

 

「ぐっ!! 自動迎撃タイプ…か!」

 

 

 老兵の身体に雷撃。

 

 魔石の『雷迎撃』によってカウンターをくらい、身体が痺れる。

 

 

 

「…っ……っ…」

 

 

 その隙にサナは立ち上がりダメージの回復を図るも、まだふらついている。

 

 ギリギリ脳震盪は免れたが、頭と首にかなりの損傷を受けてしまったようだ。

 

 今の老兵のパワーは龍化したレイオンに匹敵する。そんな力で殴られれば、こうなって当然だ。

 

 できればこのまま回復に専念したいところであるも、老兵も今までとは違った。

 

 すぐに身体の自由を取り戻し、サナが転がった方角に狙いをつける。

 

 

「近寄るのは危険らしい。ならば、このまま距離を取って戦うまで!」

 

 

 再び地面に手を押し付け、大地ごと抉り取って固めると、思いきり投げつけてきた。

 

 投擲された大きな土塊は木々を薙ぎ倒し、サナに向かっていく。

 

 

 ドガーーーンッ バラバラッ

 

 ドガーーーンッ バラバラッ

 

 

 サナは必死に回避。

 

 雷光の速度で紙一重でかわしていくが、砕けた土塊の破片が身体に当たって傷が増えていく有様だ。

 

 これはまずい。

 

 なにせ土や石など、この場所には無限と呼べるくらいあるのだ。サナが倒れるまでこの攻撃は止まらないだろう。

 

 そして、驚異的な粘りを見せるサナを観察していた老兵が、【大きな事実】に気付く。

 

 

(あの少女の力…まさかとは思ったが、やはり『ジュエリスト』か。【ジュエリスト同士】は惹き合うものとはよくいうが、こんな辺境の地で出会うとは奇遇を通り越して奇妙よ)

 

 

 老兵の両手には輝く『黄土色のジュエル』が埋め込まれていた。

 

 

 

―――ジェメッカ・ジンカイト〈土宿の一擲(いってき)〉

 

 

 

 両手の腕力を著しく上昇させ、触れたものを圧縮して投げつける能力。

 

 引き付ける強さと範囲は己の能力と意思によって決定できるので、大地を持ち上げたことを思えば、こんな土塊くらいはいくらでも生み出すことができる。

 

 単純に腕力強化が行われるため、打撃戦での戦闘力も倍増するのも強みだ。

 

 力が増すことは防御も増すことを意味し、サナとは違った意味で攻防一体の戦い方が可能となる。

 

 似ている。

 

 とても似ている。

 

 雰囲気が、感覚が、同じ。

 

 

 

 なぜならば同様に―――【魔石】

 

 

 

 一気に老兵が強くなった原因は、素の能力以外の要素。

 

 

 サナと同じ【ジュエリストの力】があってこそなのである。

 

 

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