※この作品はR-18です。

【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了   作:ぷるっと企画@園島義船

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630話 「ジュエル探索 その5『キャンプへ』」

 

 男は槍を置いて、こちらに両手を向けた。

 

 一応この世界においても無抵抗を意味するため、某アニメのように白旗をあげて全面戦争に突入することはない。

 

 ただし武人である以上、無手でも油断できないのが難しいところだ。

 

 だが槍の男は、これ以上ないほどの証拠を与えてくれた。

 

 

「アンシュラオン様とお見受けいたしますが、いかがでしょう?」

 

 

 こちらの名前、しかもホワイトではない本名を出してきた。

 

 思えばデアンカ・ギースを倒した段階で、名前が知れ渡るのは仕方ない。むしろホワイトと呼ばれるよりはましだろう。

 

 

「どこかで会ったっけ? 覚えはないな。これだけの武人ならば忘れることはないと思うけどね」

 

「こうしてお会いするのは初めてです」

 

「グラス・ギースの関係者?」

 

「いえ、私自身はその都市に行ったことはありませんが、けっして戦ってはいけないと申し付けられております」

 

「じゃあ、どこの誰?」

 

「………」

 

「教えてはくれないのかな?」

 

「…申し訳ありません」

 

「誰かわからないんじゃ、そっちを信用することはできないよね?」

 

「そう…ですね。しかし、私たちに敵対する意思がないのは間違いありません。どうか見逃していただきたいのです。お互いに戦う理由はないはずです」

 

「いきなり視線をぶつけられたよ」

 

「周辺を警戒中でありまして…失礼があったなら申し訳ありません」

 

 

 ガンを飛ばされたからぶん殴っただけ。オレは悪くない理論だ。

 

 まるでチンピラと同レベルの言いがかりだが、槍の男は自分を知っているようで、ただただ平謝りする。

 

 悪評を聞かされていることもありそうだが、単純に対峙した瞬間にこちらの実力がわかるほど、この男は強い。

 

 

(いい腕だ。生半可な実力じゃ、オレの術式を壊すことはできない。こいつから出ている雰囲気は明らかに一般人じゃないよな。マフィアの連中とも全然違う。もっと訓練された印象を受ける)

 

 

 槍の男から感じる気配は、グラス・ギースのマフィアたちとはまったく異なるものだった。

 

 この感覚をわざわざ言葉にする必要はない。

 

 たとえば『武芸者』と『軍人』を見た際、誰もが一目で違うと感じるだろう。

 

 仮に能力的には同じであっても、後者には『守る意識』が雰囲気として滲み出る。

 

 長剣の男も盾の男も、そうした「死しても守る」という気概があった。自己を犠牲にしても他者、それも大勢を守りたいという欲求が見て取れるのだ。

 

 こうした志は普通の武人には見られないものだ。マフィアが家族を守るために戦うこととも異なっている。

 

 となれば、答えは一つだ。

 

 

「剣士のおっさんは元気?」

 

「は?」

 

「え? 違った? あのおっさんの関係者じゃないの? ほら、領主城で戦ったおっさんだよ。腰に金色の剣を差しているやつ」

 

「…あ、ああ。…まあ、たしかに壮齢ではありますが……一応その、それなりの立場の御方なので…その呼び方はちょっと…」

 

「あのおっさん、そんなに偉かったの? たしかに強そうだったよね。強者の風格があったよ。うん、あれはすごかった。きっと偉大な剣士に違いない!」

 

「ですよね!! なにせあの御方は、誰もが憧れる『一振り』なのです!! 我々の誇りそのものといえましょう!!」

 

「へぇー! 何かすごいことをやったの? 教えて教えて!!」

 

「何かどころではありません! あの過酷な戦いを生き残っただけではなく、敵艦に乗り込んで敵将を討ち取り、撤退にまで追い込んだのです! あの大艦隊を前に突撃した決断力と勇気に、国民がどれだけ救われたか…!」

 

「うんうん、それでそれで? 敵将は強かったの?」

 

「それはもう! 誰もが怖れる雪の国の猛将でしたよ! 相手は側近を含めて数人いましたが、単独で蹴散らしたのです! さすが…さすがです!! 正義は常に『聖剣』の名の下にあらねばならないのです!! 偉大なる聖剣に忠誠を!!」

 

「お、なにそれ? 格好いいポーズだね。教えてよ」

 

「これは聖剣を称えるポーズなのです。左手は盾を意識して前に持ってきて、右手は頭の前に持ってきます。手首を自分のほうに向けて…そうそう、そんな感じです!」

 

「いいね。どこで習ったの?」

 

「もちろん騎士の叙任式―――あっ」

 

 

 槍の男の目の前には、にやにやした顔のアンシュラオン。

 

 ここで彼は誘導尋問に引っかかったことを知る。

 

 腕は立つようだが、まだ二十代後半といった血気盛んな年齢のためか、もしくは『英雄』への憧れが強いのか、あまりにも簡単に乗ってくれた。

 

 がっくりとうな垂れる槍の男の肩を、ぽんぽんと叩く。

 

 

「落ち込むことはないよ。というかお兄さんが答えなくても、見ればすぐにわかるしね。そんな戦闘服、こっちじゃまだ普及していないよ。軍隊なのはバレバレだ」

 

「…緊急事態でしたので致し方なく戦闘服を身に付けましたが…迂闊でした」

 

「それで、剣士のおっさんの部下ってことでいい?」

 

「はい。アンドリュー・ゼイヴァーと申します。遊撃隊長を任されております」

 

「おっさんは近くにいるの?」

 

「はっ、一報を聞きつけて向かっているはずです」

 

「へぇ、動きが早いな。連絡用の通信機とかあるのかな?」

 

「はい」

 

「ちょっと見せて」

 

「え? あ…どうぞ」

 

「それじゃ失礼して、ぱかっと」

 

「えーーーー!?」

 

 

 ゼイヴァーから借りた無線機を遠慮なく分解する。

 

 見せて?からの分解まで、まったく躊躇がない。自分の物は自分の物、相手の物も自分の物理論だ。

 

 

(見た目は卵みたいだ。割った中にはジュエルがある。これは…割符結界に使われている技術と同じか。二つの同種のジュエルを作って、その間でだけ干渉ができるようにしているんだ。簡易なものだが、それゆえに範囲は広そうだ)

 

 

 今の自分には、刻まれている術式が見える。

 

 原理は割符結界と同じ。同種の素材が引き合って共鳴する現象を利用して、特定のシグナルを伝えるものだ。

 

 さすがに会話までできるかはわからないが、「危険」「安全」といった簡単な暗号を伝えることは可能だろう。

 

 

(くくく、プロテクトが甘いな。エメラーダのものに比べたら小学生のドリル程度だ。ふむふむ、なるほどなるほど。これを改良すれば通話も可能かもしれないぞ。ロゼ姉妹の念話の強化にも使えそうだ。うまうまだな)

 

 

「よし、覚えた。はい、返すよ」

 

「ほっ、よかった」

 

 

 ゼイヴァー、安心してはいけない!!

 

 この男はすでに技術を盗んでいるぞ!!

 

 と警告する者はいないので、あっさりと通信技術を奪い取ることに成功。

 

 

「そういえば何を警戒してたの? このあたりに人なんてやってこないでしょ?」

 

「まだギリギリ立ち入れるラインのようで、意外にもやってくるのです。主に盗賊団や人売りなどの無法者たちですが、そういった連中が根城を作っている場合があります」

 

「あー、そっか。魔獣がいなくなったからか。今までの怖い印象もあるし、隠れるならこんな最適な場所もないよね。見つけたら倒すの?」

 

「規模によりますが、訓練がてらに打ち倒すこともあります。我々の存在を表に出すわけにはいきません。先に場所を確保したのは我々ですから」

 

「早い者勝ちだしね。当然だ。それだけ強ければ盗賊団なんて敵じゃないでしょ?」

 

「私も若輩者ですし、より経験の浅い者もおります。良い鍛錬になっているようです」

 

「それはいいけど、あんたたちって領主の味方だよね? オレ、領主嫌いなんだ。思い出すだけでムカつくよ」

 

「わ、我々はあの都市の利権に関わるつもりは一切ありません。単なる友好協定を結んだだけであり、領主殿とはいえ肩入れすることはありえません」

 

「本当? そのわりには領主の言うことを聞いていたような感じだったよ?」

 

「まだいろいろと交渉中でして…心証を損ねないようにとの判断かと…」

 

「衛士隊に武器を提供してるよね? 思いきり肩入れしてるじゃん」

 

「物々交換のようなもので…我々も最低限の資源は必要ですし…あくまで売買契約にすぎません」

 

「都市に行ったことはないと言っていたよね。普段はどうしているの? ずっと荒野?」

 

「はい。キャンプは作っておりますので不自由はありません」

 

「でも、グラス・ギースとは協定を結びたいんだね。その資源、何に使うの?」

 

「キャンプを大きくするために…です」

 

「そんなに必要? もっと大きくしたいってことは、人数もそれなりなんだよね? それともまだ人が増える予定でもあるの?」

 

「…そ、その…それは…」

 

「そもそもさ、こんな場所で何をしているのかな? 何もない荒野に『軍隊』がいるなんて、どう考えても普通じゃないよね」

 

「我々は軍隊ではありません。し、私兵のようなもので…」

 

「誰かに雇われているってこと?」

 

「そ、そうなり…ますね」

 

「へー、今時の私兵は戦艦も持っているんだ。すごいね!」

 

「っ!! な、なぜそれを…!?」

 

「オレ、その戦艦にクルマを壊されちゃったんだよね」

 

「えっ!?」

 

「偶然近くに居合わせただけなのに、いきなり砲撃されてさ。それって人間としてどうなのかなと思うよね。…その戦艦、お兄さんたちのだよね?」

 

「わ、私は当時、乗艦していたわけではありませんので、それはなんとも……もしかしたら、違うものかもしれませんし…」

 

「見せて」

 

「は?」

 

「戦艦、見せてよ。そうすれば同じものかどうかわかるよね? オレは目が良いから細部までしっかりと覚えているんだよね。あっ、そうそう。国章までしっかりと削ってたなぁ。削り具合まで覚えているから安心してね」

 

「………」

 

「ほら、戦艦見せてよ。身の潔白を証明したいでしょ?」

 

「………」

 

 

 槍の男から大量の汗がダラダラと流れているのがわかる。

 

 このあたりで戦艦を持っている組織など、いったいどれだけあるのか。

 

 『武装商船』と【戦艦】は、まったく別物だ。戦闘力が段違いである。

 

 しかも国章を削っていることまで知られているのだ。間違いなく同一のものである。

 

 だが、詐欺師はそんな男に優しい声をかける。

 

 

「ははは、冗談だよ。冗談。そんな偶然あるわけないよね。驚いた? ね、驚いた?」

 

「…っ……は、はいっ!? …は、はは。そ、そうですよ! そんな偶然あるわけないですよね! はは…ははは。や、やだな。びっくりしましたよ…はは」

 

「地形データ、ちょうだい」

 

「…へ?」

 

「このあたりまで哨戒しているなら、かなり広い範囲の詳細データを持っているはずだよね。それ、ちょうだい?」

 

「そ、それはさすがに…最重要機密情報ですので…」

 

「あーあ、オレのクルマ、高かったんだよなーーーー! すごく気に入っていたんだけどなぁ。どう落とし前つけてくれるのかなぁ。ああ、痛い!! 心が痛い!! あの時の悔しさを思い出すと激しく心が痛む!!! そいつらを見つけ出して慰謝料をたくさんもらわないとなぁ!!」

 

「っ…!!」

 

「地形データ、くれるよね? くれないなら、どうなっても知らないよ。うっ、また痛み出した!! これも加算しなきゃな!! 黙っていたら、どんどん増えていくよ?」

 

「うう……」

 

 

 さきほどのことも含め、脅し方が完全にチンピラである。

 

 「オレの心の痛みは一億円だ!! 賠償しろ!」などと言って、暴力を背景に闇金に借金をさせるくらいたちが悪い。

 

 やばいやつに目を付けられたものである。この男に関わったら不幸になる説はいまだ健在だ。

 

 

「若いお兄さんに言ってもしょうがないか。権限のある上司に会わせてくれればいいよ。それくらいならいいでしょ?」

 

「…わ、わかりました。善処します」

 

「交渉成立だね。それならオレも誠意くらいは見せてあげようかな」

 

 

 そう言って崖に向かって飛び降りると、途中で埋まって気絶している長剣の男を拾ってきて、同じくズタボロになって倒れている盾の男の隣に寝かせる。

 

 両者ともに重体。完全に戦闘不能状況である。

 

 特に欠損が多いのが問題で、これでは傷が塞がっても戦力にならない可能性があった。

 

 だが、こういう状況を待っていたのだ。

 

 

(いい実験台ができた。一度試してみたかったんだよ)

 

 

 まずは両名を命気で包み込む。ここまでは以前までの治療と変わらない。

 

 だが、命気では欠損まで治すのは非常に難しく、他人の場合は少しの再生でも数時間かかることもあった。(ビッグやルアンたちを見ればわかるだろう)

 

 また、古傷に至っては治る可能性はかなり低い。これも弱点の一つだ。

 

 今回も欠損が多く、また数時間かかるかと思いきや―――

 

 

 ジュィイインッ

 

 

 アンシュラオンが欠損した部分に触れると、まるで植物が成長するように急速に再生を始めた。

 

 剣士の失われた手も見事に再生を果たす。

 

 これには槍の男も驚愕の眼差しである。

 

 

「これは…!?」

 

「【回復術式】だよ。軍人なら知ってるよね?」

 

「知ってはおりますが…こんなに早く再生するとは。あなたは術士なのですか? 戦士と伺っておりましたが…」

 

「術士でもある、が正解かな。専門外だから練習しているところなんだ。実験台にして悪いけど、今から連れ帰って治療するよりはいいよね?」

 

「そ、そうです…ね。今は治療も難しい状況ですし…助かります。それにしても、なんと見事な…。これほどの術の使い手は本国でもそうはおりません」

 

「オレなんてまだまださ。よし、特に異常はないな。成功だ」

 

 

 アンシュラオンがやったのは【回復術式】、または【復元術式】と呼ばれるものである。

 

 実は、この系統の術式は一種類しか存在しない。

 

 なぜならば元のデータを解析して復元するのだから、やり方はすべて一緒なのだ。せいぜい無機物と有機物で、元となる素材が異なることくらいだろうか。

 

 その代わり、術士のレベルに応じて回復の度合いが著しく変化するのが特徴だ。

 

 たとえば今まで出てきた回復術式では『若癒』が挙げられると思うが、あれは傷口を塞いだり等、本来持っている自然治癒能力を少しだけ手助けする程度の力しかない。

 

 それをいくつ重ねたとしても、アンシュラオンがやったように腕の欠損を治すことなど、まず不可能だ。

 

 そして一般に出回っている回復術式は、若癒が最高のものとされている。

 

 どうしてそうなのかといえば、回復術式には【危険が伴う】からである。

 

 

(回復術式と呼んでいるが、実際は『情報術式』だ。ということは、いかに情報を【正確に解析するか】が重要となる。もしこれを誤ってしまうと細胞が異常増殖してガン細胞になってしまう。そうなれば自壊して逆効果だ)

 

 

 若癒の術符も使い手の遺伝子データを参照し、細胞の増殖を行っているわけだが、自動スキャンでは限界が存在する。

 

 もし最初の測定を誤ってしまえば、細胞の異常増殖によって死亡するかもしれないのだ。そんなリスクを背負うわけにはいかないだろう。

 

 また、欠損を回復させるためには、質量となるエネルギーが必要だ。

 

 普通の術式の場合は当人の細胞分裂によってまかなうので、その分だけ寿命が磨り減ってしまう最大のデメリットもある。

 

 されど腕を失って長生きするより、腕のある快適な人生のほうが良いと思う者が大半だろう。特に武人なら誰もがそう思うに違いない。

 

 そして、この点においてもアンシュラオンは明らかに優位に立っていた。

 

 

(命気を使えば細胞分裂のエネルギーを捻出できるから、寿命が減ることはない。まあ、命気を生み出したオレの寿命が減るかもしれないが、今のところ問題はないし…大丈夫だろう。二十歳過ぎているのに全然老けないしね。クロスライルが言っていたように肉体の質が違うんだろうな)

 

 

 命気と組み合わせることで無敵の回復術式の完成となる。

 

 ただし、これも完璧ではない。

 

 仮に頭部を吹っ飛ばされた人間がおり、絶命していたらまず蘇生は不可能だ。

 

 その点、姉が使った復元術式は異次元レベルのものだった。死んだはずのラブヘイアが完璧な状態で復元されたのだ。周囲の物質も含めてである。

 

 そこまでいけば、まさに神の領域。まだまだ届かない。

 

 ともあれ、命気最大の弱点だった欠損の修復が可能となったことは朗報だ。何か事故があっても女性たちが苦しまないで済む。

 

 

「それじゃ、そのキャンプとやらへの案内を頼もうかな。その前にホロロさんたちと合流だね。ちょっと寄り道するよ」

 

 

 アンシュラオンと槍の男は、まだ意識が戻らない二人をそれぞれ抱えながら、一度ホロロのところに戻ったのであった。

 

 

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