【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
「とりあえず、おっさんたちのことをもっと知りたいな」
「我々の国のことはどれくらい知っている?」
「そんなに多くはないね。おっさんたちが戦争していた話と、そこで負けて流れてきたってのは聞いたよ。それ以外はあまり興味がなかったからスルーだったかな。といっても、ほかにたいした情報はなかったと思うよ」
「うむ、そうか。では、正式に名乗ろう。私は六奏聖剣王国、第五艦隊司令官、聖剣長のベイロス・ガンプドルフだ」
「ややこしいね」
「軍属など堅苦しいものだ。多くの者たちがそう呼んでいるのだから、国名もDBDでかまわない。こちらもそのほうが都合がよい。もし誰かに聞かれても適当に誤魔化せるからな」
「じゃあ、オレも名乗ろうかな。名前はアンシュラオン。一時期はホワイトという偽名でグラス・ギースにいたけど、あれはもう終わりにしたよ。だから、ただのアンシュラオンさ。それ以上でも以下でもない、普通の一般人だね」
「どこかに所属はしていないのだな?」
「自分で商会は作ったよ。一応は社長か会長かな? でも、特に支援を受けていたり取引している相手はいないね。作ったばかりだし」
「それは素晴らしい。完全にノーマークということだ」
「多少暴れちゃったから清らかじゃないけどね」
「それでも十分だ。我々にとっては西側諸国の息がかかっていなければよいのだからな」
「それにしても、そっちは艦隊司令官か。かなり地位が高いんじゃない? 『提督閣下』だよね」
「そうだな。軍部では最高位の『聖剣長』の地位を王より拝命している。光栄なことだ」
「国名にも聖なる剣とあるけど、何か関係あるの?」
「大いにある。聖剣王国は鉱業で栄えた国だが、もっとも優れている点は【聖剣の素材となる特殊な鉱石】が採れることなのだ。それゆえに昔から優秀な【鍛冶師】も輩出している。採掘するだけではなく直接作ったほうが儲かるからな」
「ますます興味深いね。でも、オレの気のせいかな。モヒカンがおっさんのことを『魔剣士』とか呼んでいたけど…聖剣の間違い?」
「間違い…と言いたいところだが、断言しきれない点もある。私が君と勝負した時、この剣を抜かなかっただろう? それが理由だ」
「抜けない事情があるの?」
「うむ……」
「そこまで言ったなら最後まで言おうよ。友達でしょ? 聖剣や魔剣には興味があったんだ。詳しく話を聞かせてよ」
こういうときだけ友達を持ち出す。まったくもって悪質だ。
そう言われては仕方ないので、ガンプドルフは金色の剣を取り出してテーブルに置く。
「ほー、これが魔剣ね。触っても大丈夫?」
「触れぬほうがよいだろう。君なら大丈夫だとは思うが、万一のこともある」
「仕掛け付きか。そりゃそうだね」
「私には聖剣の詳細について語れぬ誓約がある。がしかし、見る分には自由だ。君にはどう見えるかな?」
「………」
―――――――――――――――――――――――
名前 :雷宝聖剣
種類 :剣
希少度:A
評価 :A
概要 :伝説の名工十師が一人、セレテューヌス作。聖剣王国の国宝六聖剣の一振り。
効果 :攻撃A+1.5倍
必要値:魔力B、体力B、精神B
【詳細】
耐久 :B/B
魔力 :A/A
伝導率:B/B
属性 :雷
適合型:汎用
硬度 :B
備考 :
―――――――――――――――――――――――
(いい剣だ。そこらで売っているものとは別物だな)
見た目は金色なので若干悪趣味にも思えるが、柄も鞘も最上級の素材で最高級の装飾と仕上げがなされている。
これだけでも小百合が持ってきた刀の数十倍の値段は軽く付くだろう。
性能面も悪くはない。十分業物だといえる。
比較するために、バランバランで買った安物の剣を見てみよう。
―――――――――――――――――――――――
名前 :ショートソード
種類 :剣
希少度:F
評価 :F
概要 :一般的なショートソード
効果 :攻撃F+1.1倍
【詳細】
耐久 :F/F
魔力 :F/F
伝導率:F/F
属性 :無
適合型:物質
硬度 :E
備考 :錬成強化可能
―――――――――――――――――――――――
となっている。
攻撃Fとは、そのままの状態の武器を使った基礎攻撃力となる。
仮にショートソード自体の攻撃力が「50」だとすれば、素の攻撃が「20」の人物が使っても「50に近い」数字を叩き出すことができる。
使う当人の腕力や扱い方によって、実際に与えるダメージは大幅に変化していくが、普通に使えば最低でもこれくらいは出る、ということだ。
その次にある「1.1倍」とは、放出できる剣気の増幅量を意味している。
すでに散々述べているが、剣気とは武器を持ったときにしか発動できない『戦気の特殊形態』だ。
なぜこのようなものが存在するのかといえば、物質を経由・触媒にすることで戦気を強化しているからだ。
武器の利点は、元の攻撃力に加えて剣気で強化したダメージも加算されることにある。
もし素の剣気量が「50」だとすれば、媒介時に増幅されて1.1倍の「55」の剣気を生み出すことができ、それを剣のもともとの「50」に加算して、合計105の力にすることができる仕組みである。(刃で斬った場合)
言ってしまえば、これもまた魔石と同じ原理だ。それゆえに武器が優れていれば戦気や剣気の強化率も高くなり、より強い力が放出できるようになる。
アンシュラオンも包丁による剣硬気でデアンカ・ギースの触手を切り落としたが、あの場合の包丁はあくまで『剣気の媒介』であり、強化された剣気の数値が直接のダメージとなったパターンだ。
そもそも剣気自体、戦気のおよそ1.5倍の出力になるのだ。そこからさらに武器の倍率が適用されるのだから、実に攻撃的な気質といえる。(それだけ消耗は大きい)
このあたりはややこしい計算になるので、シンプルに数値は大きければ大きいほどよい、と考えればよい。
で、肝心のガンプドルフの魔剣だ。
攻撃がAで、剣気強化が1.5倍。
これを普通に扱うだけで「攻撃力A」という破格の力を得られることを思えば、紛れもなく優れた名剣といえるだろう。
剣気強化が1.5倍なのも非常に優れている。こちらも剣気量がA、700だと仮定すれば1050。それが素の700に上乗せされ、期待値は1750もの攻撃力となる。
なかなかの逸品だ。悪くない。そこらの武人や傭兵など一撃死であろう。
しかし、これが魔剣や聖剣と呼ばれるものかといえば、やや物足りない。
特殊な能力もなく、これくらいの切れ味ならば世界中に何万本とあるはずだ。
クロスライルが持っていた聖剣は、攻撃力こそ高くはなかったが、対象を凍結させたり爆破させたりと強力な能力を持っていたのだ。
ソブカの火聯も準魔剣ではあるが、斬った相手を激しく燃やすという追加効果は非常に強力である。実際の切れ味以上の力を持つことが、こうした特殊剣の持ち味ともいえる。
であれば、かの有名な魔剣士が持つものが、この程度であるはずがない。
(なにせ国名にもなるくらいだ。『偽装』してある可能性が高い。もっとよく【視る】んだ。細かい術式のもっと奥底まで。エメラーダとの特訓を思い出せ。必ず裏側に本質が隠れている。今のオレならば暴ける!)
現在のアンシュラオンの『情報公開』は、時間をかければ真実を暴くことができる。
相手が次々と妨害工作を仕掛ける状態ならばともかく、ただ黙ってそこにいるだけの物質ならば見破れるはずだ。
一つ一つ薄皮を剥がすように『擬態』を削り取っていき、慎重に目を凝らして丁寧に術式を解析していくと、ついには真の姿が見えた。
そしてそれは、予想を超えた恐るべきものであった。
―――――――――――――――――――――――
名前 :バンシャム・グラムシャクト〈
種類 :剣
希少度:SS
評価 :SS
概要 :伝説の名工十師が一人、セレテューヌス作。聖剣王国の国宝六聖剣の一振り。持ち主に『雷妖王の加護』を与える非常に強力な剣であるが、死ぬまで手放すことができなくなる呪いの剣。使うと剣人格である「雷妖王シャクティマ」が具現化し、一定期間憑依される。
効果 :攻撃SS+2.5倍、剣人格具現化、BP攻撃転換、HP二倍、雷吸収、中型障壁、自己修復、自動充填、魔力+2、雷+2、使用者強制支配
【詳細】
耐久 :SS/SS
魔力 :SS/SS
伝導率:SS/SS
属性 :雷、帯、界
適合型:精神
硬度 :SS
備考 :ガンプドルフ専用
―――――――――――――――――――――――
「嘘だろ!? やっべーーーーー!!」
思わず声に出してしまう「ヤバさ」である。
これはやばい。本当に危ないものだ。
「おっさん、これチートだろう!?」
「どれくらいと見た?」
「どれくらいってレベルじゃないね。やばいぐらい強い剣であることと、雷妖王がうんたらってのはわかったよ」
「なっ! そこまでわかったのか!? 『鑑定』を使ったのか? そんな様子はなかったが…」
「まあ、なんていうのかな。優れた人間には真実を見抜く目があるのさ」
「ふむ…何かの特殊能力か。少年、私に黙っている力があるだろう?」
「そもそもちゃんと会話するのは、これが初めてでしょ。黙ってるもなにもないって」
「…わかった。私も知っていることはすべて語ろう。だから君も言える範囲でよいから教えてくれないか。かなり破廉恥な発言であることはわかっているつもりだが、そのほうがよさそうだ」
「誓約があるんじゃないの? 騎士の誓いを破っていいの?」
「今はそんなことを言っている場合ではない。少年との信頼関係を築くことを優先したい。どうだろうか?」
(すごいな。一瞬で見破られた。ガンプドルフに看破系の異能はないから、単純に経験則によって導き出した答えか。本当に知勇併せ持つ将軍レベルなんだな)
いつもならば誤魔化せるが、場数の違うガンプドルフは騙されない。
長年の経験によって、それが術式か特異能力かがわかるのだろう。それだけでも恐ろしい洞察力である。
そして、魔剣の価値を見抜いたとはいえ素性も知れない怪しい少年に対して、騎士の命ともいうべき誓約を破る決断も即座にしている。
この臨機応変で柔軟な思考も司令官にとっては必須の能力だ。彼が有能な将であることがうかがえる。
(国宝の聖剣を任せられるほどだ。オレが思っているより強い権限を持っているっぽいな。ならば妥協する価値はありそうだ)
「その代わり、そっちも知っていることは全部教えてよ?」
「むろんだ。信頼してくれ!」
「なら言うけど、オレは物や人の能力が、ある程度ならわかるのさ」
「鑑定のようだが…少し違うか。もしや人間の情報も得られるのか?」
「ちょっとした基本情報くらいだけどね。偽装されていても、今ならば時間をかければ見破れるようになってきたよ。だからこの剣のこともわかったのさ」
「…怖ろしい能力だ。スパイも見破れるではないか」
「そうなるね。実際に見つけてるよ。特に組織に属する連中ならすぐにわかる。異名もわかっちゃうしね」
「となれば、有用性は増すばかりだな。素晴らしい!! 天は二物を与えたのか!!」
「便利なものは危険でもある。扱いは難しいよ。情報だけに囚われると、それこそ真実が見えなくなるからね」
「それがわかっているのならば強力な武器になろう」
「オレが隠していることは、これくらいかな」
「しかし、信用してくれと言ったのは私だが、思った以上に優れた力だ。…なんとも気まずいな。見合う対価を出せるかどうか…」
「べつにいつかは知られることだし、対策されたら打開できるくらいにならないといけない。むしろ修行のためにはそのほうがいいから教えたんだ」
「それだけの力を持ちながら傲慢にはならぬのだな。その歳でその落ち着きは見事なものだ」
「幸か不幸か、自分よりも何倍も強い人を知っているからね」
「それは以前話していた君の姉か?」
「そうだよ。あんなの見てたら価値基準が狂って、頭がおかしくなる。傲慢になんてなれないよ。一応忠告するけど、もし興味が湧いても会いたいとか絶対思わないほうがいいよ。破滅の道を歩みたくなければね。たぶん捕まって洗脳されて『奴隷』か『傀儡』にされるのが落ちさ」
「…怖いな。肝に銘じよう」
「剣に話を戻すけど、あの時にこれを使われたら激戦だったね。勝てたかどうかわからないよ」
「さて、どうだかな。良くて相打ちだと考えていた」
「その可能性もあったかもね」
アンシュラオンにそう言わしめるほどの性能である。
まず「攻撃力SS」の段階で凶悪だし、剣気倍率が驚異の「2.5倍」だ。
何度も例を出して申し訳ないが、仮に剣気量が同レベルのSS、「1500」とすると2.5倍で「3750」。剣自体の攻撃力を足せば5000を超える。
単純に振るって5000。
ならば、ここに技の倍率が加わればどうなるか。
二倍率の技ならば「10000」。三倍率ならば「15000」。
もちろん直撃すればであるし、相手もかわすなり防御するなりするだろうから単純な数値ではない。が、これだけで馬鹿みたいなパワーである。
さらにスキルも強力なものが勢ぞろい。強化値こそ限定的だが、総合的に見てサナの魔石を数段上回る代物だ。
そう、魔石。
これも同じ魔石。
「君のことだからもう気づいていると思うが、この剣はそれ自体が『魔石』なのだ。言い換えれば、我々の国は【魔石の産地】でもある。それを武器や防具に磨き上げて売っているわけだ。そして、その中で最高品質の鉱物を最高の鍛冶師が打ったものが『聖剣』となる」
「聖剣が作れる。魅力的な言葉だね」
「うむ、それこそがわが国の最大の長所といえる。この聖剣は、まさに『本物』なのだ」
「本物? どういう意味?」
「実のところ、厳密な意味での聖剣を作るのは困難だ。幾多の優れた鍛冶師が何万何十万と挑戦してきたが、聖剣に近いものは作れても本物の聖剣のレベルには達しないことが極めて多い」
「でも、これは本物なんでしょう?」
「そうだ。数少ない本物の一つだ。セレテューヌス師が考案した特殊な製法によって、聖剣と呼べるレベルの逸品に仕上げたのだ」
「特殊な製法……まさか『剣人格』ってのが関係してる? 雷妖王ってやつ」
「その通りだ。この聖剣が魔剣と呼ばれるのも剣自体に人格があるからだ。彼女が編み出した製法は、上位精霊と契約して剣の守護者になってもらうことだった。聖剣を使うと私は雷妖王に憑依される代わりに、強力な加護を受けることができる」
「おっさんが怖れるくらいだ。かなり危険?」
「危険だ。性格も好戦的になるし、自分では力を制御できない。周囲一帯を破壊し尽してしまうほどに強力だ」
「さすがに味方は斬らないよね?」
「当然味方を狙いはしないが…一撃が強すぎるから巻き添えをくらうかもしれん」
「まったく制御できないの?」
「そもそも制御するように作られていないのだ。大量破壊兵器に近い」
「なるほどね、それじゃ安易には使えないね」
ガンプドルフが簡単に魔剣を使わない理由が、ここにある。
周りが敵に囲まれた場所ならば遠慮なく使えるのだろうが、味方まで巻き込む可能性があれば躊躇うのは当然だ。
領主城での戦いでも使わなかったのは、あまりに被害が大きくなるからだろう。人質のイタ嬢まで吹き飛んだらグラス・ギースとの決裂は確定的。破滅だ。
また、使っても勝てるかどうかわからない状況に加え、相手が求めていたのが「単なるスレイブ一人」ともなれば、さらに使うのは難しい。
だからガンプドルフは、ひたすら言葉による説得を試みていたのである。
(うーん、かなり危ない武器みたいだ。あの時にこれを使って戦われていたら、オレは逃げていた可能性もあるな。本気で戦えば勝てなくはないだろうが、少なくとも地上の武人に対する評価は変わっていただろう)
実はガンプドルフとの戦いが、アンシュラオンの未来を決めていたのだ。
もし激戦の末にガンプドルフを倒したとしても、思わぬ強敵に驚いて自分から裏社会に関わろうとはしなかったに違いない。
つまりはガンプドルフが下界の武人の基準になっていた、ということだ。
だが、彼は西側の軍人ならば誰もが知る超一流の剣豪の一人であり、艦隊を率いる司令官だ。普通の武人とは条件が違いすぎる。出会うこと自体が極めて稀だ。
そんな人物と出会うとは、たしかに彼の言う通り、運命なのかもしれない。
「他の魔剣も似たような感じ?」
「制約があるからこそ強い力を得られる。多少違いはあるが似たようなものだ。どれも特徴的で尖った性能をしている」
「たとえ自由にならなくても強力な武器は貴重だね。相手が知るだけで牽制になる。それが全部で六振りあるの? 国名に六振りってあるよね」
「長い歴史の中でそれ以外にも作られているが、国宝となっているものは六振りだけだ。その六本に選ばれた者、六人が聖剣長に任命されて艦隊司令官となる。通常の任命と順序は逆だが、実力がなければ選ばれないのは確かだ。司令官に向いているかどうかは各人の資質次第だが…」
「ほかの五人はどんな人なの?」
「そうだな―――」
・光の聖剣に選ばれし、
DBD最強の艦隊を率いる聖剣長筆頭。堅実かつ強固な戦い方で敵の大軍を撤退に追い込んだ名将。
・闇の聖剣に選ばれし、
のらりくらりと敵を翻弄し、奇策をもちいて最小限の損害で敵艦隊を退けた知将。
・火の聖剣に選ばれし、
突撃艦隊を指揮し、圧倒的な火力で敵陣を叩き潰した烈火の如き猛将。
・水の聖剣に選ばれし、
もっとも剣才に溢れ、数多くの敵将を討ち取った勇将。
・風の聖剣に選ばれし、
潜入部隊を率い、情報操作と破壊工作によって敵を内部から崩壊させ、敵味方問わず民間人をもっとも保護した徳将。
そして、最後の一人。
・雷の聖剣に選ばれし、
いかなるときも諦めず、部下を鼓舞しながら粘り強く戦い、勝利を収めてきた剛将。
「どいつもこいつも個性的な連中であり、時には反発しあうこともあるが、私がもっとも信頼すべき『同胞』であり『戦友』たちだ」
彼らを語るガンプドルフの表情には、自信と誇りに満ちていた。
生死を分かち合った『戦友』ともなれば、多少の好みの違いなどはどうでもよくなる。その存在が、その生き方そのものが混じり合い、自分自身と重なっていくのだ。
「その五人も強いんだね」
「ああ、強いぞ。我々は全員が集まったときが一番強い。君でも苦労する相手となろう」
「それは楽しみだ。五人もこっちに来ているの?」
「…いや、来ているのは私だけだ。他の者は本国にいる。私だけがなんとかこの大地、『見捨てられた荒野』にたどり着いたのだ」
「いろいろと事情がありそうだね。戦争のこと?」
「…ああ」
「負けたんでしょ?」
「…そうだ。我々は負けた。負けたのだ。悔しいが、それは事実として受け入れねばならない。数が違いすぎた。今にして思えば、よく四年間も持ちこたえたものだ」
「DBDの人口と軍部はどれくらいの規模なの?」
「人口は約三百万。そのうちの三十万人が軍人だ。それを六つの艦隊に分けて運用していた」
「一割は多いね。十人に一人が軍人なんて相当なものだよ」
「最初からそうだったわけではない。必要に迫られて徴兵を行ったせいもある。ここに新兵が多いのもそれが理由だ。元は義勇兵だった者も大勢いる」
「対する敵の兵数は?」
「十倍近くはいたな。最低でも二百五十万以上はいたはずだ」
「どんだけの比率だよ。おかしいでしょ」
「四年間の総数だ。多くもなるさ。それに三つの国に同時に攻められたのだ。我々は部隊を分けて戦うしかなかったのも痛手だ。個では対抗できたが、次第に物量に押されて疲弊していった」
「戦いは数…か。数の不利はオレも身にしみているところさ。で、敵はどこの国?」
「わが国は四つの国に囲まれている。東の傭兵国家アン・ゼクター、西のノーベンビル帝国、南のタルヌス神狼国、北のモンパール王国だ。交戦状態になったのは、北と東と西、アン・ゼクター、ノーベンビル、モンパールだ」
「三ヶ国から攻められるのは少し異常だね。なかなか隣接した国家がこうも集中攻撃はしない」
「すべての国が積極的に戦争に参加したわけではない。アン・ゼクター以外の国家は、あまり兵の練度も高くなく脅威ではないからな。やつらはあくまで飼い犬にすぎない。黒幕は、その裏にいる『ルシア帝国』だ」
「ルシア…少し聞いたことがあるような……」
「最初は小さな国だったそうだが、すでに十八以上の国家や自治領区を併呑して巨大な帝国になっている。西側大陸の最北東部は、すでにやつらの支配下だ。ルシアは南下を続け、凄まじい勢いで今もなお支配地域を拡大している」
「そんなにおおっぴらに勢力を拡大していたら、他の国とか反発するんじゃない? 同盟とかも組んだりするよね」
「やつらの巧妙なところは、けっして力だけで支配しないことだ。現に北のモンパール王国は、王族の地位と安全を保証する代わりに、ほぼ全面的に降伏している状態だ。まったく血を流さずに支配下に置いているのだ。そして、そういう連中に対しては、やつらは【富と力と技術】を与える」
「力はまだわかるけど、ルシアは富と技術がある国なの?」
「我々も詳しいことはわからないが、突然やつらは優れた技術をもちいて開発を始めた。巨大な帝都を生み出し、同様に優れた兵器を生み出した。ルシアの戦艦を見れば、その違いがすぐにわかる。そうした技術を輸出することで富を得ているのだ」
「怪しいよね。明らかにおかしい」
「やつらは何かを見つけたのかもしれない。あるいは誰かの協力を得たのか。どちらにせよ、そこからルシアは一気に勢力を拡大していった。その中で一番厄介なのが、雪の地に住む武人たちだ」
「強いの?」
「強い。ルシアの強兵の大半は、雪の武人たちなのだ」
ルシア帝国の周囲は、雪と氷山に覆われた西大陸の僻地である。
資源も乏しく、おおよそ発展など見込めないと誰もが思っていた。当のルシア帝国もそう思っていたはずだ。
しかしながら、そこに住む武人たちは強かった。厳しい自然の中で暮らす中で、彼らが身に付けた能力は、武人として極めて優秀なものばかりである。
ルシアは発展した技術を使い、彼らを友人として迎えたり、あるいは恫喝して引き入れたり、飴と鞭を使いながら吸収していった。
もともとルシアの王、初代ルシア
その恩義に報いるため、中には積極的に協力を申し出る民族や部族もおり、戦力はどんどん増していった。
「モンパールも最低限の兵は出したが、あくまでその雪の武人『
「ということは他の二つの国も、同じようにルシア帝国の思惑で動いていたんだね」
「それぞれメリットは異なるが、その通りだ」
「確実に計画された戦争だ。そうなると相手からのちょっかいが多かっただろうね。まずは経済封鎖、それから隣国内でのDBD人の大量殺害とか、目に余る挑発があったはずだ」
「詳しいな、少年」
「オレの国でも似たようなことがあっただけさ。悪党の常套手段だね」
アンシュラオンの推測通り、ルシア帝国は隣接する四つの国に手を回し、DBDへの経済封鎖を画策した。
唯一南のタルヌス神狼国は参加しなかったものの、表立って抵抗することはせずに傍観するしかなかった。
DBDも数年は耐えたが、同国人の救出のために部隊を派遣したことを武力介入と判断し、公然とルシア帝国が参加する形で交戦状態に突入。約四年に渡る戦いが始まった。
結果、敗北。
数多くの死者が出た戦争として西側ではそれなりに有名になる。魔剣士の勇猛さも、これがきっかけで広まったといえるだろう。
「おっさんの気持ちは少しはわかるよ。だが、同情はしない。負けは負けだ。負けたほうが弱かった。それだけだ。外交も戦争なんだ。その段階で負けていたのさ」
「…クールだな。割り切れないこともある」
ガンプドルフから強い戦気が溢れ出る。ごくごくわずかな量だが、その質はあまりに濃厚。激しい怒りの波動だ。
その気配の強さに、コテージからかなり離れていた兵士たちも思わず硬直したほどである。
されど、アンシュラオンはその戦気を静かに受け止める。
「怒りはオレにぶつけるものじゃない。そいつらに返すものだ。その様子だと、まだまだ諦めていないんでしょ?」
「むろんだ」
「うん、おっさんがここに来た理由はわかった。他の五人が来ない…いや、来られない理由もね。ここまでの情報から推測すると、相手の狙いはDBDの鉱山資源だろう。そして当然ながら、その結晶たる聖剣も含まれているよね」
「それは間違いない。聖剣にも品質や階級はあるが、わが国のものは極めて貴重だからな」
「皮肉にも、戦争でそれを証明してしまったね。だから他の五人は来られないし、あえて戦争で殺さなかった可能性もある。逆にその状況下で、おっさんがどうやって脱出できたのか不思議だよ」
「いろいろな犠牲を払ったのだ。多くの想いと部下を犠牲にした。だから私は絶対に諦めてはならない」
「それがおっさんの覚悟か。どうりで強いわけだ。しかし、そこまでルシア帝国が勢力を拡大する理由がわからないな。いや、覇権主義に道理もクソもないのは知っているけど…」
「君は力だけではなく高い知性を持っている。ぜひその力を我々に貸してほしい!」
「重いね。今のオレには、特にね」
「我々にできることは何でもする」
「そんなこと言われても…」
(薄々予想していたけど、ほぼ『詰んでいる』状態だな。思った以上に酷いかもしれない)
戦争で負けた以上、DBD内部は混乱と混沌のさなかにあるだろう。
資源は当然ながら、女性や子供たちもどうなっているかわからない。戦後の日本の惨状を鑑みれば容易に想像できるはずだ。
そんな中、魔剣士の一人であるガンプドルフが抜け出せば、さらに警戒は厳しくなる。侵略目的の一つである魔剣が一本無くなった。これだけで大騒ぎだ。
だからこそ、気になる。