【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
「その戦争はいつの話?」
「二年半前だ」
「おっさんがここに来たのは最近?」
「私自身がやってきたのは君と出会った少し前のことだ。当然ながら、それ以前から調査と折衝は進めていた」
「なんでこんな場所に来たの? もっといい場所はなかったの?」
「未開の地を探せば、手付かずの大地はそれなりにある。南大陸に行く手もあった。しかしながら、我々の目的はあくまで【再興】にある。ただ生き延びるためだけに逃げるわけではない。そうなれば『かつての文明が栄えた大地である東大陸』が最有力だ。ただし、南部はすでに他の勢力に押さえられているので、この北部しか残っていなかったのだ」
(嘘は言っていない。ダビアから聞いた情報と一致する。もしDBDが敵側への『反抗』を考えているのならば、まず間違いなく入植している西側勢力からも厄介者扱いされるはずだ。しかも魔剣士のおっさんまでいる情報が伝われば、こちらに兵を派遣してくる可能性も高い。これは本当に厄介だぞ)
入植している西側諸国も巻き込まれることを嫌うだろうし、入植に反対する現地勢力からしても、同様に戦乱の種になることは避けたいはずだ。
ガンプドルフたちは、どこに行っても厄介者。
こうなるとグラス・ギースもかなり危ない橋を渡っているが、だからこそ交渉で強気に出ているのだろう。
そんな時に出会ったアンシュラオンだからこそ、ガンプドルフが必死になるのも頷ける。少なく見積もっても魔剣士二人分以上の活躍は見込めるからだ。
「おっさんがオレに求めているのは、主に戦闘面だよね?」
「君の才覚はそれだけにとどまらないが、当面はその分野で頼りたい」
「ゼイヴァーさんも開拓にはかなり苦労していると言っていた。魔獣に慣れていないと勝手が違うからね。それも仕方ない。その点に関しては協力は可能だと思うよ。大半の魔獣ならば対応できる自信がある」
「それはありがたい!」
「ただし、過度な期待はしないでよ。今やっているのは確認作業さ。まず知りたいのは、おっさんたちの全戦力だね。他言しないから素直に言ってみて。このキャンプに二百人いると聞いているけど、それ以外は? 戦艦もあるでしょ?」
「戦艦側には約三百人いる。あちらはこのキャンプと違い、経験豊かな騎士も多い」
「それだけ? ほかにはいない?」
「残念ながらそうだ。こちらに渡っている全兵力は、およそ五百人だ」
「…はっきり言うけど、全然足りないね。正気の沙汰じゃない。開拓するには軍人だけじゃ駄目だ。数多くの業種の人材が必要になる。労働力だって最低でも万単位じゃないと難しい」
「わかっている。わかっているが諦めはしない」
「仮にできたとしても何百年もかかる」
「それでも諦めはしない」
「やれやれ、そうだよな。そりゃ、それだけの覚悟があるよな。ったく、オレより遥かに無茶苦茶だ」
「それにしても戦艦のことまでよく知っているな。ゼイヴァーが言ったのか?」
「いや、その戦艦は知っているからね」
「ん?」
「おっさんさ、戦艦に乗ってここに来た?」
「あ、ああ、乗っていたが…?」
「そうかそうか。それなら話は早いね。オレと出会うちょっと前にさ、荒野でクルマに砲撃しなかった? グラス・ギースよりもっと北のほうで」
「………」
「………」
「まさかとは思うが…」
「そう。あれってオレのクルマだったんだよね」
「………」
「………」
「本当なのか?」
「うん」
じっと見つめ合う二人であるが、反応はそれぞれ違うものだった。
「やはり運命だな!!」
「違うでしょ、その反応!! その方向に持っていくのやめてよ」
「そうか…そこまでの縁があったか!!」
「いや、縁は縁でも因縁だからね。これ普通に考えて、誰がどう見てもそうでしょうに。誤魔化しは通じないよ」
「しかし、君は私に対して敵意はないように感じるが?」
「もともと危ない場所を走っていたんだ。危険は承知の上さ。防げないほうが悪いんだからしょうがない。といっても相応の賠償はしてもらうつもりだよ。そこは譲らないからね」
その一件で地形データをもらおうとしているにもかかわらず、さりげなく別件のように扱うテクニックを披露。
DBDの惨状を知りながらも、そこは妥協しない安定のスタイルだ。
だが、一見すれば無遠慮で辛辣な言葉の中に【強さ】が滲み出ていることをガンプドルフは感じ取る。
アンシュラオンが何度も言う「防げないほうが悪い」「やられるほうが悪い」という言葉は、「ならばそうしないようにすればいい」とも言い換えられるからだ。
嘆くのでもなく、恨むのでもなく、『徹底的にやり返す』。
殴られたのならば、しっかりとケジメをつければいい。それがアンシュラオンが信じる『平等』の価値観なのだろう。
「逞しいな、少年。まさに荒野の申し子だ。君はいったい何者なのだ? どこで何をすれば、それだけ強くなれる?」
「山育ちの田舎者さ。火怨山は知ってる?」
「人が立ち入れぬ魔境と聞いている。実際、戦艦からでは全貌を確認することもできなかった。あまりに巨大だ」
「近寄らないほうがいいだろうね。たぶん危険度は荒野の比じゃないよ。あそこじゃ四大悪獣なんて食物連鎖の最下層にもなれないからね」
「では、君の言う山とは…」
「うん、あそこだよ」
火怨山の外周は、まるで城壁のように高い山脈によって覆われている。
その山々は雲すら軽く貫くため、空を飛ぶか山を登らない限り、外側から中を観察することは不可能である。
なにせアンシュラオンが住んでいた場所は、雲の上。本当の火怨山は、そこから始まると言っても過言ではない。
されど迂闊に近寄れば、第一級の撃滅級魔獣に襲われて全滅するに違いない。
火怨山の周辺は飛行型魔獣も多く、【近寄る弱者】を徹底的に襲う習性がある。
それはまるで、試練。
その程度の困難も超えられないようならば、入る資格はないといわんばかりに厳しい。
「そもそもの話なのだが、あそこに人がいるのか?」
「オレを含めて四人だったね。さすがにあの環境下で、ほかに人間がいるとは思えないし…たぶんそれで全員だったはずだよ」
「四人! そんなにいたのか!?」
「おかげで外の世界の知識がほとんどないんだ。その反応が正しいのかどうかもわからないよ」
「一人は君の姉だろうが…他の二人は何者なのだ?」
「そういえば、ゼブ兄って何者なんだろうね。素性は知らないなぁ。オレより強いのは間違いないけどね」
「君より…強いのか。どれくらいの力量だ?」
「オレの三倍くらい? 悪知恵で出し抜いたことはあるけど、本気の組み手では一度も勝ったことないんだよね。あっちはガチムチだし、勝てるわけないよ。無理無理、あんなの無理」
「…なるほど」
伝家の宝刀「なるほど」である。それ以外に言葉が出てこないのだ。
ちなみにアンシュラオンは、幼少時にパミエルキに翼竜に乗せられて楽々やってきたが、ゼブラエスは自分の力で登ってきたらしい。
それを考えると彼の才能と実力が、弟子になる前から飛び抜けていたことがわかるだろう。極めて特殊な事例だと思ったほうがよい。
「で、では…最後の一人は? その人物も君より強いのか?」
「もちろんもちろん、あのじいさんは姉ちゃんの次に凶悪だよ。まともに打ち合えたこともないって。一発たまたま当てると、大人げもなくガチで反撃するからね。性格はほんと最悪。でも、教えるのは上手かったかな。やっぱりすごいよ」
「教える? まさか君の師匠なのか?」
「うん、隠してもしょうがないから言うけど、陽禅公って名前のハゲじじいだね。知ってる?」
「なっ…!! 陽禅公!? 覇王ではないか!」
「やっぱり有名なんだね」
「武人で知らぬ者はいない!! 覇王こそ最強の武人だからな!!」
「自称だから確証はないけど、本物だとは思うよ。姉ちゃんと少しでも張り合える人間が、ほかにもたくさんいたら怖いしね」
「ん? その言い方だと、君の姉のほうが覇王より強いように聞こえるが?」
「うん」
「即答…か」
「あのじいさん、『まだまだ半分の力しか出しておらんぞ、ほっほっほ』とか言ってても、誰がどう見てもガチで負けてるよ。顔だって毎回ボコボコだしね。教わって三年も経たずに姉ちゃんのほうが強くなっちゃったよ。だから現在の『地上最強』は、たぶんオレの姉ちゃんさ」
「うむ…そうか。君が言うのだから事実なのだろうな…」
「そのあたりは気にしないほうがいいよ。頭が痛くなるだけだしね」
「…たしかにな。すると君たちは【覇王の弟子】なのだな?」
「そういうことになるね。特にメリットはないけどね」
「そんなことはない。覇王の弟子ともなれば【次期覇王候補】だ。よほどの特例でもない限り、覇王は必ず弟子の中から選ばれる仕組みになっているからな」
「弟子を取らないで死ぬこともあるんじゃない?」
「若くして死んだ場合はそうなるだろうが、今までそうした事例はない。そんなに簡単に死んだら覇王の価値がない。最強の武人は病気にもならないからな」
「ああ、それもそうか。事故とかありえないもんね…」
弟子のゼブラエスでさえ、最強の魔獣と噂される【天災級】の天竜と戦っても死ななかったのだ。そんな存在が病気になるとは考えられない。
なぜならば覇王とは、戦士因子をもっとも覚醒させた存在なのだ。肉体的に超絶級に健康であることを意味する。
たしかに強い武人だけが罹る病もあるにはあるが、真の意味で戦士因子を覚醒させれば病気すら跳ね除けてしまうのだ。
「なるほど…そうか。君の強さの理由がわかって安堵したよ。君と出会った直後、東大陸にはこんな猛者が山ほどいるのかと肝を冷やしたものだからな。そうか、覇王の弟子か。そうかそうか! よかった…!!」
「話は少し脱線しちゃったけどさ、オレなんかより師匠を頼ったほうがいいんじゃないかな。話が大きすぎるよ」
「………」
「所詮オレは一個人にすぎない。国と国の戦争に関与できるレベルじゃないって。責任も取れないだろうしね。でも、覇王なら違う。あのじいさんがそんなに偉そうには見えないけど、おっさんの様子を見る限り、世間では多少の威光があるみたいだ」
「………」
「だったら、そっちのほうがいいよね。普通に頼んでも駄目だろうから、オレが口添えしてあげるよ。もし駄目でも、真面目なゼブ兄なら聞いてくれるかもしれな―――」
「少年、君に頼みがある」
「へ? 頼み? だから口添えはオレが…」
「その話ではない。もっと重要な話だ」
「もっと重要?」
「君にしか頼めないことだ。聞いてくれるか?」
「…怪しいな。まずは聞くだけ聞くよ。いい? 聞くだけだよ」
「ああ、それだけでもいい。実は―――」
(なんだ? 頼み? 変な頼みじゃないだろうな)
自分としてもかなり協力的に会話を進めていたはずだ。そのうえでこちらに頼みがあるとなると、さらに厄介な問題の予感がする。
その予感は―――的中
「ぜひとも―――【結婚】してくれ!!!」
「は?」
「君は素晴らしい! 予想以上の逸材だ! ぜひ結婚してくれ!!!」
「結婚? オレが?」
「そうだ! 君しかいない!! いないのだ!! 頼む! 結婚してくれ!! 若く美しく、力があり知識と知性もある! そして覇王の弟子!! これ以上の人物はいない!!」
「…は?」
「君はまるで太陽だ! 夜の闇の中でも輝きを失わない生命の光そのものだ!! なんと、なんと素晴らしい!! ますます気に入った!!!」
「なに…言ってんの? 正気?」
「ああ、正気で本気だ!! 私は本気だぞ!! くううう! これほど興奮が抑えきれないとは!! このようなことは人生で二回目!! 初めて聖剣を与えられた時以来だぞぉおおおおおおお!!」
「………」
ガンプドルフが頬を紅潮させながら身を悶えさせている。
おっさんが、頬を紅潮させながら身を悶えさせている。
おそらく四十は軽く超えるであろう濃ゆいオッサンが、熱い視線と口調で迫ってくる。
少年に、迫ってくる。
若く美しい少年に、濃ゆいオッサンが、迫って―――
―――くるぅううううううう!!
―――くるぅううううううう!!(エコー)
―――くるぅううううううう!!(エコー)
―――くるぅううううううう!!(エコー)
「―――っ!!!!!!」
ゾワゾワッ
ゾワゾワッ ゾワゾワッ
ゾワゾワッ ゾワゾワッ ゾワゾワッ
肌が粟立ち、全身の毛が逆立つのを感じる。
これだけは絶対に許されない。これだけは魂そのものが拒否している。
がしっ!
そうしてガンプドルフが勢いのままに、アンシュラオンの肩を掴んだ瞬間―――
「死ね!!!」
ドゴンッ!!!
「ぐあっ!!」
アンシュラオンの拳が、ガンプドルフの胸を打ち抜く。
その衝撃で吹っ飛び、コテージの壁をぶち抜いて外に転がっていった。
「閣下!!!?」
「ぐうう……だ、大丈夫だ。そのままでいろ。なんでもない!」
「し、しかし…そ、そのお怪我は…!」
「大丈夫。大丈夫だ。げぼぉおっ…だ、大丈夫だ!! いいか、絶対に入ってきてはならぬぞ!! 大事な対談だからな!! ごぼぉぉおおっ!!」
「は、はい!!」
見れば胸が陥没し、吐血までしているが、なぜかその顔は満面の笑みだから怖い。
なんとか自力で立ち上がり、よたよたとまたコテージの中に戻っていく姿も、周囲の兵士たちからすれば恐怖そのものに違いない。
だが、アンシュラオンもまた同様に恐怖を感じていた。
「ひぃいいい! 気持ちわる!! きしょくわる!!! 殴った拳もきもちわる!!」
「しょ、少年、死ぬところだったぞ…」
「本気で殴ったんだから当然だ!! というか、戻ってくるな!! ゲイは死ね!!! 早く死ね!! いや、オレが殺してやる!!」
「ご、誤解だ。違うのだ!! つい興奮してしまって…」
「興奮!?!!! 何が違うんだ! ゲイがいないというから安心していたのに、おっさんがゲイだったのか!! 絶対許さん!!」
「お、落ち着いてくれ!! 言葉が足りなかったのは謝る。結婚相手は私ではない!!」
「本当か!!?」
「本当だ! 頼む! 私の言葉を聞いてくれないか!! 頼むぅううげぼおおっ!」
土下座しながら血を吐き出すガンプドルフ。
本気で殴っても普通に動けるのだから、やはりこの男は強いのだ。
しかも気づけば、魔剣がガンプドルフの手元にあるではないか。
実はこの魔剣、彼が吹っ飛んだ瞬間に一緒に『付いていった』のだ。まるで磁石で引っ付いているように。
さすが呪いの剣である。概要にあった通り、捨てようとしても手放せないのだろう。
(ちっ、魔剣を振り回されると面倒か。サナだけならばともかく、小百合さんたちがいる中じゃ不利だしな)
あまりに必死なので致し方なく話を聞くことにする。聞かないと永遠とこのやり取りが続くと思ったからだ。
一応この男は魔剣士であり、魔剣込みならアンシュラオンに近い実力を持つ豪傑なのである。
普段は自分が圧倒的な暴力を使って交渉を有利に進めるが、今回は逆の形になってしまうとは因果なものだ。
しかし、だからこそ対談をする価値があるともいえる。
「で、どういうことなのさ。ちゃんと説明してくれない? 本当にゲイじゃないんだろうね?」
「結婚相手は女性だ。君に伝えることはすべて真実だと誓う。それが誠意の証だ。それしか我々にはできないからな」
「仮に本当だとしても、女ってだけじゃ最低条件をクリアしただけじゃん。結婚相手はどこの誰なのさ?」
「それは…わが国の―――【王女】だ」
「王女? ああ、DBDは王国か。ならいてもいいのか。うーん、お姫様ねぇ。あまり興味がないな」
「高貴な女性に興味はないか?」
「まったくないね。オレは誰かが作った立場や身分なんて気にしない。イタ嬢だって、ただの痛いやつだしね。オレが愛するのはサナだけさ」
「だが、彼女は妹だ」
「妹とだって結婚できるよね? 姉ともさ」
「…そ、そうか。…そうかも…しれないな。しかし、君は多くの女性を愛することができる男だ。その中に王女が加わってもよいのではないかな? 今君は、身分は気にしないと言った。であれば、王女かどうかも関係ないはずだ」
「…うーむ、一理ある。逆にそこを気にするのなら、自分自身の言葉を否定することになるもんね。一本取られたな」
「話を聞いてもらえるか?」
「どうせ面倒くさい話なんでしょ? わかってるよ。とりあえず聞くよ。そうしないと話が進まないからね」
「うむ…助かる」
(あとで実はこうでした、なんて言われても困る。訊き出せる時に聞いておいたほうがいいよね)
ほかにもいろいろと訊きたいことはあるが、ガンプドルフの話も気になる。
今は少しでも情報を集めておいたほうがよいだろう。
そして案の定、ガンプドルフはさらなる厄介な現状を話し出す。
「王室は今、深刻な状況に陥っているのだ。【大統領】に狙われているからな」
「んん? 大統領? DBDは共和制じゃなくて、王制だよね?」
「もともとは王制だったが、聖剣を国宝としてからは共和国に変えたのだ。だが、王室は【権威】としてしっかりと残っている。だからこそ聖剣長を任命するのは王の役割となっている」
「そうなると聖剣も権威の象徴の一つなんだね。王室の象徴ともいえる」
「そうだ。聖剣を持つ者は大統領に従う義務はない。あくまで王室に従っている」
「でも、聖剣長は軍部のトップでしょ。軍事は切り離されているってことだね」
「大統領の役割は一般的な
(なかなかややこしいが、日本と似たような感じだな)
たとえば日本国憲法では、内閣総理大臣を任命するのは「象徴たる天皇」になっている。
これは『権威』と『権力』を分けることで、安定した政治を行うためでもあり、権威を守ることにも繋がる。それと同時に主権が国民にあることを示すためだ。
これがDBDの場合、王が聖剣長という『権威の代理人』を任命することで、権力の監視役として配置することができる。
日本の例でいえば、天皇に任命された自衛隊が、内閣政府を監視するようなものだろう。
「我々の国のシステムは上手くいっていた。王族は基本的に政治には関与せず、軍備の維持と他国との交流に努めていればよかった。それにも聖剣が役立っている。この聖剣があることで、人々は安心して仕事にまい進できた。大統領との関係も明確に役割が区切られていたこともあり、すべては良好だった。彼そのものに野心はなかったはずだが…」
「戦争でその構造に異変が生じた…か。環境が変われば人も変わるしね」
「そうだ。戦争で負けたことで売国奴どもが力を増している。その中心が大統領派閥となり、今の『服従派』となった。やつらは侵略者に媚びへつらい、言われるがままに国の資源を…いや、すべてを安値で売り飛ばしている。その中には王室も含まれているのだ」
「ルシア帝国は、大統領を懐柔しているってことだね。戦後は一部の者たちに特権を与え、自国民を統治させる。植民地政策では一般的な手法といえるね。それによって国内で争わせるんだ」
そのままの状態だと、侵略者であるルシアに憎しみが集中し、一致団結される恐れがある。
それでは統治は上手くいかない。目的はあくまで資源なのだ。それが手に入らねば意味はないし、一般国民という労働力も使いにくくなる。
がしかし、同じDBD人の中に協力者を作ればどうだろうか。
彼らに特権階級という【微々たるメリット】を与えることで、勝手に敵視を集めてくれて、なおかつ管理までしてくれるのだから安いものである。
これらの手法は、地球でもよく行われることである。内戦が続いている国の大半が、こうした『人為的敵対関係』によって生まれている。
「聖剣が欲しいなら、なおさら王室は邪魔だよね。軍部の頂点でもあるわけで、絶対にそのままにはできない。でも逆に、どうしてルシアは王室側を懐柔しなかったのかな。オレならばそうするけど…」
「そのほうが楽だったのだろう。聖剣の加護を謳って抗戦を続けていた我々は、格好の標的でもあったからな。国民の間で不満が溜まっていたのは事実だ。選挙で選ばれる大統領のほうが操りやすい」
「大衆は馬鹿だからね。すぐに騙される。頭が悪すぎて何が起きているのか理解できないのさ。それだけならばまだいいけど、守ってくれていた者たちさえ罵倒する。まったくもって愚かな連中さ」
「…悪くは言いたくはない。それだけ犠牲が大きかったのだ。彼らの家族も大勢死んだ」
「人間なんてそんなものさ。自分の生活の心配しかしない。あんな馬鹿たちを守る騎士も大変だね」
「少年は人々が嫌いか?」
「比率の問題だよ。この世には良いやつもいれば悪いやつもいるが、それは全体の二割程度にすぎない。残り八割は、中途半端に駄目なやつで構成されている。人が大勢集まれば、どうしたって質は下がるものさ。その意味で、その他大勢の大衆は嫌いだね。おっさんだって好きじゃないでしょ?」
「たとえそうでも見捨てるわけにはいかない。国の存在意義は人々を守ることだ。どのような者とて国民ならば守らねばならない」
「おっさんの国は、人々に自由がある良い国なんだね。だから共和制というシステムをあえて導入した。でも、それは弱点にもなる。人々を手足として扱う専制国家のルシア帝国には通じない道理だ」
「ルシアのほうが正しいというのか?」
「規模と軍事力の話だね。どっちにも長短はあるけど、今回は手段を選ばない相手のほうが強かったにすぎない。ただ、個人的には独裁国家のほうが上手く回ると思うよ。トップが優れているなら、ね。実際、彼らのやり口は巧妙だ。このままだと呑み込まれるね」
(愚かな民衆に力を与えてはいけない。まるでそう言いたげな手法だな。なかなかの皮肉だ。聞いている限り、ルシアの権力体制はかなり強固と見るべきだろう。この世界には武人がいるから、トップが優秀で長寿ならば、そういう統治形態も悪くはない)
アンシュラオンが求める世界も、独裁者による統治が前提である。
そうでなければスレイブなど求めないだろう。思想的にはルシア帝国に近いといえる。