【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
「システムの話は一度置いておこう。システム自体に罪はない。それを扱う人間に問題がある。それがすべてさ」
よく民主主義が一番良いという「思い込み」があるが、一概にそう言い切れるものではない。
無知無能な大衆によって選ばれた議員や行政官たちが腐敗すれば、おのずと国は乱れるものである。
逆に独裁の共産主義であろうが、そのトップが正しく公正に仕事をしたのならば、一時的とはいえ貧困がない社会が生まれるだろう。(多くはそうならないが)
「あくまで抵抗するつもり?」
「当然だ。相手が悪意をもって攻撃してくる以上、どのみち戦いは避けられない。君も自分の国がそうなったら同じように思うはずだ」
「そうだね。やられたらやり返さないとフェアじゃない。ただ、オレにはもう一つ疑問があるんだよね。どうしてルシアはDBDに武力侵攻したんだろう。他の国みたいに懐柔する手段もあった」
「うむ…それについては我々の間でも疑問だった。わが国はたしかに聖剣という特異性はあるが国自体は小さく、国力が高いとはいえない。経済規模もモンパールとさして変わらないだろう」
「相手は最初から好戦的だった? 裏工作とかはなかった?」
「議会の切り崩しはあったとは思うが、そこまで大きなものはなかったと記憶している。とはいえ私は軍属だ。政治に精通しているわけではない」
「これだけの強硬手段を使っているのならば、何かしらの理由があるはずだよ。その戦争でルシアにだって大きな損害は出たはずだ。オレが支配する側なら自分たちの軍隊は使わない。植民地から兵を出させる」
「…たしかにルシアの基本戦略は、植民地から兵を集めて使役するものだ。距離的な問題もあるし、そのほうが合理的だ」
「でも、彼らはあえて自分たちの軍を動かした。聞いている限り、おっさんたちの国は良くも悪くも聖剣しかないみたいだ。明らかに聖剣絡みだよね。ちょっと聞くけどさ、国宝の聖剣が作られたのはいつ?」
「およそ千三百年前だ。ダマスカス共和国が建国される前、世界中の鍛冶師が聖剣を作ろうと躍起になっていた時代がある。彼女はその頃の人物だ」
「随分と古いね。逆にいえばそれ以来、聖剣は作られていないんだよね? 少なくとも国宝に勝るような剣は出ていない?」
「そうだ。セレテューヌス師があまりに偉大であったことと、一度国宝に指定した以上、簡単には変えられない事情もある。が、能力的に勝るもの自体が出来ていないはずだ」
「まあ、これだけの性能だ。簡単に上回るものがあったら怖いよね。他の五本の聖剣も持ち主にしか使えない? もし持ち主が死んだらどうなるの?」
「剣人格の精霊に選ばれる必要があるため、所有や使用は持ち主だけに限られる。死亡した場合は所有者はいなくなるが、やはり認められる必要がある。認められなければ安置しておくしかない」
「それって他の国の人間でも認められる?」
「認められた事例はあるが、主にわが国の人間が選ばれる傾向にある」
「うん、なるほどね」
「何か気づいたのか?」
「オレがルシアだったら正直言って、そんな使いづらい聖剣はいらないかな。だって、使うにはおっさんたちを懐柔する必要があるんでしょ? それだけでも面倒だし、継承が確定的じゃないなら戦力としては微妙だ。利用価値はあるけど、今後恒久的に使うには向いてないよね。だからさ、【狙い目】が違うと思うんだ」
ルシアの狙いは国宝である聖剣。
誰もがそう思っているし、ガンプドルフもそう考えている。
もちろんDBDを長く支配し、完全に乗っ取ってしまえばそれも可能だ。長期的戦略としては、そういう意図もあるだろう。
だが、本当の狙いはおそらく違う。
ルシア帝国がやたら急いで勢力を拡大している以上、悠長に何百年も待つことはしないはずだ。
ならば―――
「オレは【聖剣の製造方法】を狙っているような気がする」
「聖剣を作ることは極めて難しい。知っても簡単には出来ないから価値がある」
「近いものならば作れるんだよね? 使いにくい最上級の聖剣が六本より、誰でも使える準聖剣を百本用意できるほうが大国としては有益だよ。その過程でたまたま本当の聖剣が出来ちゃうかもしれないしね。そこは偶然でもいいんだ。おっさんも言っていたじゃないか。数の暴力に負けたってさ」
「道理ではあるが…それが我々の国に攻め入った理由か? 懐柔策でもできるのではないか?」
「そこが謎だよね。こういう場合、結果から原因を探せばいい。どうして彼らがそんなことをしているのか、一つずつ紐解けばわかる。オレが思うに、王室には何か【秘密】があるんじゃない? 普通にやっても暴けない何かがさ」
「…秘密くらい、どこの王室にもあるだろうな」
「オレに何か隠してないかな?」
「…いろいろと話していないこともあるにはあるが、私の人生もそれなりに長い。隠し事はたくさんあるぞ?」
「じゃあ、『王女の秘密』を教えて」
「………」
ここで「王族」ではなく「王女」限定にしたことに意味がある。
より明確に、より的確に急所を狙った攻撃だ。
その証拠にガンプドルフから冷や汗が流れる。この歴戦の将が本気で焦っているのだから、まさにビンゴだろう。
「オレの信頼が欲しいんでしょ? そこを隠すのはどうなのかなぁ?」
「少年、どこまで見えているのだ? それも君の能力なのか?」
「単純な客観的思考力だよ。普通に考えてみなよ。いきなりオレと王女様が結婚するなんておかしいよね? しかも相手側はオレを知らない。どうしておっさんに結婚相手を決める権限があるのかな。仮に聖剣長が婚姻相手を選ぶのが国の慣習だとしても、常識的に考えておかしいよ。そこには必ず意味があるはずだ」
「あ、愛に立場や身分は関係ないからな…。君もそう言ったであろう?」
「これから質問をするから全部正しく答えてね。もし一つでも嘘が交じっていたら、おっさんとの交渉はここで終わりだ」
「む、むぅ…」
「王女は全員で【何人】いるの? オレと結婚する王女の王位継承権と順位は?」
ガンプドルフは『王女』とだけ言ったのであって、その他の情報はまったく話されていない。これから話すつもりだったのかもしれないが、この様子だと怪しいものだ。
勘違いしてはいけない。ガンプドルフは国を背負っているのだ。そのためならば人が乗っているクルマを砲撃することもできる。
もしダビアだけならば、おそらく死んでいた。国のためならば無関係の人間でも殺せる覚悟がある。彼にとってこの対談は命がけなのだ。
また、その答えによって「本気度」がわかる。彼の言葉がどれだけ重く、どれだけ本音なのかもわかるだろう。
「けっして君を騙そうとか、やり込めようとしているわけではない。それはわかってほしい」
「こういうやり取りは慣れているよ。おっさんなんてソブカに比べれば、まだまだ楽なほうさ。根が正直なんだろうね」
「………」
「で、王女の順位は?」
「聖剣王国、第一王女であられるソフィア・ディスオート殿下。それが君の相手だ。公式では第三王位継承権を持っている」
「へぇ、第一王女ね。思ったより上だね。てっきり三女や四女あたりかと思った」
「王女の人数だが…わが国はソフィア殿下を含め、優先権がある女性だけで十五人はいる」
「十五? 多くない? 側室がたくさんいるのかな?」
「ああ、多いな。しかし側室はいない。単純に数多くの『王族の家庭』が存在するのだ。その家庭ごとに順位が定められている」
「ふーん、なかなか面白いシステムだね」
日本でいえば、皇室の宮家に近いシステムだろうか。
一つの夫婦が三人産めば、その三人がまた三人ずつ作って九人となる。こうやって意図的に各家庭で子供を多く作っていくことで、どんどん勝手に増えていく仕組みだ。
一人でたくさんの女性を抱える側室システムと比べると、より健康的に数を増やすことができる。
そして、このシステムの最大の目的は―――
「それって『血の保存』が目的なんだよね? いや、『因子』と言ったほうがいいのかな?」
「うむ、西側大陸は貴族主義が多いと聞いているかもしれないが、その本質は優秀な血統を遺すためだ。他の国の王族や貴族の大半が『特殊な能力』の持ち主なのだ」
(師匠に聞いていた話と同じだ。これは本当だろうな)
地球で血統主義といえば、どことなく悪いイメージが湧くだろう。
所詮は権力者が自分の子供を後継者にして、権力の保存を図っているだけと思われる。実際、その通りであることが多い。
だがしかし、この星では違う。血そのものに力がある。文字通り特殊な力が宿っているのだ。だからこそ守る価値がある。
「でもさ、オレが師匠から聞いた話だと、近親婚みたいに血を濃くしたほうがいいみたいだよね。その場合、そんなに増やしちゃうと血が薄くならない?」
「その通りだ。【血の国】であるルシアなどは純粋な血統遺伝を最優先にしており、近親婚も多いというが、我々の国では外部から血を入れることも珍しくはない。その意味では薄まっているだろうな」
「ふーん、それを承知でやっているなら何か違う目的がありそうだよね。数を増やす理由か……単純に予備や『目くらまし』なのかな。もしくは男のほうの因子を奪う能力とか? それならおっさんの提案の理由がわかる」
「………」
「ほら、目を逸らさない!! 何を企んでいるのさ。全部吐いて! オレの結婚の話なんでしょ! 重要な問題なんだからね!!」
「うぐううっ、首を絞めないでくれ……ここまできたら全部話す」
「ったく、隠そうとしたくせに」
「これは聖剣の能力以上の最重要国家機密だ。私も国が戦争で負けるまで知らされていなかったのだ」
「聖剣長のおっさんにすら秘密だったってことか。気になるな」
「すまんが完全防護結界を張らせてくれ。話はそれからだ」
一応コテージには機密保護用の結界が張られているのだが、あくまで防音程度のものなので精度はあまり高くない。
だが、これからする話は絶対に他人に聴かれては困るものだ。ガンプドルフが緑色のジュエルを四つ取り出し、コテージの四隅に置いて結界を発動する。
(ふむ、物理的な保護に加えて防音と消音と暗号化かな? かなり高レベルの術式だ。オレでもまだよくわからない式が見える)
今のアンシュラオンのレベルでは解析できないほどの高位術式だ。間違いなくエメラーダ級の術者が作った最高品質の術具である。
グラス・ギースに張られている結界の上位版といったところだろうか。
結界が完成し、ガンプドルフの表情も一段と引き締まる。
「君の推察はだいたい当たっているが、少しだけ噛み合っていない。むしろ話を聞いただけでここまで理解するほうが怖ろしいな」
「じゃあ、近からずも遠からずなんだね。実際はどうなの?」
「王室を狙う理由は、君が言ったように【聖剣の作り方】だと思われる。それに気づいたのは、やつらの我々への態度だ。聖剣については訊かれたし勧誘も受けたが、危ない橋を渡ってまで求めるそぶりはなかった。最初は暴発を恐れ、刺激しないためかと思ったのだが…」
「やっぱり本命は王室ってことか。でも、手をこまねいているように見える。やり方が回りくどい」
「君が言った『目くらまし』が効いているからだ。やつらは【本物の血】が誰かわからないのだ」
「ん? 王族は全員、王家の血が流れているんでしょ? それとも血の濃さの問題?」
「実は、誰が一番血が濃いのかわからないのだ。あまりに増やしすぎた結果、特定が困難な状況に陥っている」
「それって…問題じゃないの? 王位継承権とかに関わるよね」
「我々にも誰がもっとも優れているのかわからないのだから、相手もわかるわけがない。さきほど王位継承権の順位を述べたが、年齢を考慮して王が適当に決めているだけだ」
「目くらましというより、もう目隠しじゃんか。自分でもわからなくなったら無意味だよ。そんなのどうやって見つければ―――あっ!」
「気づいたようだな」
「聖剣―――か!!」
どうして聖剣長が王女の結婚相手を決められるのか。
その答えが、ここにある。
「もう一つ重大な事実を教えよう。ソフィア・ディスオート殿下のお名前は、あくまで幼名にすぎない。今現在はソフィア・セレテューヌス殿下だ」
「っ!! それって聖剣を作った人!?」
「伝説の名工十師の一人、セレテューヌス師はもちろん鍛冶師だった。しかし、彼女が聖剣を作った日から特別な存在となった。これだけの力だ。国が彼女の力を保護しようと考えるのも当然だ」
「もしかして王室に加えたの? 嫁入りとか?」
「そうだ。しかも最上級の扱いとしてだ。いや、もっと正確に述べれば、彼女自身が【王】になったのだ。当人は嫌がったそうだが、当時の王が泣きながら懇願したという記録があるくらいだ。相当粘ったのだろうな」
「女性が王になれるの?」
「特に問題はないだろう?」
(ああ、そうか。女神様を信仰しているくらいだしね。そこはいいのか)
「君の言いたいこともわかる。国を導くには強い力も必要だ。子孫を遺す意味でも男のほうが有利だからな」
「女王だと、どうしても子供が少なくなるからね。納得だ」
「セレテューヌス師は女性だった。それが原因かはわからないが、女性にしか能力が顕現しないのだ。だからわが国では、王女のほうが王よりも実権がある。表向きは男性の王が頂点にいるが、あくまで対外的なものだ」
「そのあたりも隠れ蓑になっているのか。…なるほど、たしか聖剣が国宝になってからDBDは共和制を取り入れたんだよね。つまりは、そこですべてが変わったんだね」
「王室の概念すらも変わった瞬間だ。それより以後は、彼女の血筋を遺すことだけにすべてを費やした。だからソフィア様の本当の名は、セレテューヌスなのだ」
聖剣王国という国名も、聖剣を象徴として付けられたものだ。
DBDは、それまでの体制をすべて塗り替えてしまった。それだけ聖剣に価値があり、そのおかげでただの鉱山国家から脱却できるからだ。
聖剣の噂を聞いた鍛冶師が世界中から集まり、鉱業もさらに活性化し、自身で武具を生産して輸出できるようになった。経済も安定し、国力も増していった。
王室自身も聖剣のおかげで「実態ある象徴」を手に入れることができ、権威を俗世より切り離すことで血を遺すことに集中できる。
共和制を取り入れたのは、まさにこうした事情からなのだ。
「…正直、驚いた」
「私も同様に驚いたよ」
(いやいや、オレのほうが驚きだよ。普通はそんなことありえない。少なくとも地球の概念じゃ絶対に無理だ。それをやれてしまうのが、この世界の凄さだよね)
さきほども述べたが、この星では血の意味が異なる。単なる血脈ではなく、そこに宿された『能力』が重要なのだ。
それゆえに今まで王族であったとしても、それ以上の能力者が出てくれば王族になれる。いや、王に成り代わることができる。
しかもセレテューヌスが簒奪したのならばともかく、相手側がお願いして王になってもらうなど地球では絶対にありえない。
清々しいまでの実力血統主義。それがこの星のあり方なのだろう。
「さすがに頭が混乱してきたな。整理すると、王室の本当の役割はセレテューヌスの血を守り、隠すこと。だから血をたくさん遺して王女も増やして、もし今回みたいに侵略されても誰が本当の継承者かわからなくする、で合ってる?」
「合っている」
「そこで聖剣が出てくるということは、それが本物を見つけるための手段なの?」
「まさにその通りだ! セレテューヌス師が独自に使った製法は『彼女特有の能力』なのだ。それゆえに彼女が作った聖剣だけが、彼女の血を見極めることができる!」
「これはオレも少し興奮してきたぞ。面白い話だ!」
「そして、君がもっとも興味を惹かれる話をしよう。薄々感づいているだろうが、血に能力が保存されているということは―――」
―――「王族には【聖剣を作る能力】がある!!」
「!!」
アンシュラオンに衝撃が走った。
ただの政略結婚、自分の強さに媚びへつらうだけのものならば興味はなかったが、これだけ話が進めば違う感情も芽生える。
もし聖剣が作れるのならば、その有用性は計り知れない。一国どころでは済まない力を手に入れることになるからだ。
(サナに聖剣を与えることも可能になる。今は普通の無銘の刀を使ってあれだ。聖剣を使えば、少なくともプライリーラに匹敵する強さを得られる。これは興味深いな)
サナは発達途上であり、まだまだ弱い。さらにいつかは成長も頭打ちになるかもしれない。
その場合にそなえて強い武具を手に入れることも念頭にあった。それも今後の課題の一つであり、楽しみでもある。
聖剣を作っても認められるかはまだわからないが、選択肢としてはかなり面白いだろう。
しかしながら気になることもある。
「上手い話には裏がある。もし王族に聖剣を作れる能力があるなら、どうしてこんなに長い間、新しい聖剣が生まれていないの? それとも作ったけど隠してあるの?」
「私が知る限り、新しい聖剣は存在しない。王室が鍛冶師に勲章を贈ることはあるものの、直接関わったことはないはずだ」
「本当に作れるのかな?」
「そう思うのは当然だな。私もいまだに疑問ではある」
「その情報は、誰から教えてもらったの?」
「戦後、王と謁見した際に聞かされた」
「直接聞いたのなら信憑性は高いけど…正しい情報かは怪しいよね。それもルシアに対する撹乱かもしれないし」
「その可能性は否定できない。だが、私の聖剣はソフィア殿下を選んだ。わかるのだ。感覚的にそれが正しいと」
「セレテューヌスの血が混じっているのは間違いないんだね」
「それは間違いない。剣が教えてくれる」
「………」
「………」
「…ねぇ今、『私の聖剣は』って言った?」
「少年…」
どこまで鋭いのだ、と続くのだろうが、さきほどから興奮と同時に嫌な予感もしていたのだ。
なぜならば聖剣は六本ある。ガンプドルフはその中の一振りの所有者にすぎない。
「他の五人も、それぞれ選ぶんだね。結果、六人の継承【候補】者が生まれる」
「…そう……なるな」
「おそらくだけど、そうなったら争うよね。身内で争うのが一番怖いし、ルシアがそれを狙っているとしたら?」
「………」
「おっさん、そりゃないよ」
「すまない…。だが、これしか方法がないのだ」
「だからってオレを巻き込まないでよ。絶対揉めるじゃん。ルシアとの戦争だけでも危ないのにさ。で、おっさんの狙いは何?」
「簡単な話だ。聖剣の保護には力が必要だ。王族の血の保存も含めてな」
「知っていて、あえて罠に乗ったんだね」
「時間が経てば手遅れになる。もはや国内では、いくら待ってもチャンスはないのだ。わが国単体でルシアに対抗することは不可能だ。戦力を蓄えても簡単に潰されてしまう。ならば外に出るしかない」
「おっさんたちが、どうしてこんな場所に来たのか。その理由も少しわかったよ。相手が簡単には追ってこられない場所を選んだってことだね。こんな魔獣だらけの場所じゃ、自分から命を捨てるようなものだしね。でも同時に、おっさんたちも大きな賭けに出ている」
「国の象徴が穢されれば、わが国は終わりだ。身体は穢されても生きていけるが、心が死んでしまえば生きてはいけない」
国が滅びる時は、人々が虐殺された時ではない。
その志、想いや文化、【精神性】が死んだ時だ。
人や物はそのままでも、その国がその国ではなくなる。これこそ真の滅びである。
それを支えているのが【象徴】なのだ。
「一応訊いておくけど、オレと王女が結婚したらどうするつもり?」
「君が新たな王となり、わが聖剣王国は再生を果たす! 子供が生まれれば、なおよしだ!! 強者の子は強者として生まれるはずだ!!」
「ええええええ!? ちょっとちょっと、なに勝手な妄想を垂れ流してるのさ!! やめてよ!」
「頼む、少年!!」
「いやいやいや、おかしいでしょ。そもそもまだ、えーと…ソフィアだっけ? その人が本物かどうかわからないんでしょ?」
「この際、本物かどうかは関係ない!」
「言い切ったよ!! それじゃ根底が崩れるじゃんか!」
「王女である以上、セレテューヌス師の血は受け継いでいる。ならばいつか子孫の中から血の覚醒者が現れるかもしれない。それでも十分なのだ」
「存続のほうが重要ってことか。そのために王女に男を選ぶ権利を捨ててもらうんだね」
「………」
「ごめんごめん。あまり苛めるのもかわいそうだ。でもさ、そもそも連れ出せるの? まだこっちには来ていないんだよね?」
「それは任せてほしい。最後の希望として、この大地には必ず連れてくる」
「まあ、ルシアの出方次第だけど可能性はあるか。ほかにもいろいろ裏がありそうだしね…。これも一応訊いておくけど、そのお姫様って何歳?」
「今年で三十歳のはずだ。顔立ちは間違いなく美人だ。機密上、写真はないがそこは保証する」
「うんまあ…年齢的には問題ないけど…納得されるとは思えないなぁ。味方からも不満が出そうだ」
王室が権威であるのならば、結婚相手はかなり厳選されるはずだ。
日本とて皇族の結婚ともなれば、大衆は連日連夜の大騒ぎである。ガンプドルフが言ったように権威は国の根幹に関わるからだ。
そこに謎の少年が出てくるのだから揉めるのは間違いない。
しかし、この話が出た『キーワード』を思い出す。
「あっ、だから『覇王の弟子』か!! 覇王のネームバリューを利用する気だな!!」
「…気づいてしまったか」
「そりゃ気づくよ! やめてよ、オレは目立ちたくないんだからさ」
「すまない!! だが、これはまさに
「ねぇ、少し落ち着こうよ。話が飛躍しすぎだってば。今はまだお互いの自己紹介が済んだ段階だ。どう考えても早すぎだって」
「…うむ、それもそうか。私も気が急いてしまった。すまない」
「わかってくれればいいよ」
「遅くとも一年以内には連れてきたい。その時に頼む」
「何もわかってなーーーーーーーい!!」
駄目だ。完全に話を聞いていない。
ついついアンシュラオンが、つっこんでしまうほどだ。