【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
「ちょっと待って! 少し時間をちょうだい。考えるから」
「わかった。安物しかないが茶でも出そう。すっかり忘れていたからな」
ガンプドルフも少し興奮していたため、一度間を設ける。
その間に思考速度を最大にして現状を把握する。
(思っていた以上に闇が深い! 問題はオレが加担しようがしなかろうが、おっさんたちは混乱を招くってことだ。グラス・ギースは大丈夫か? 西側の争いに巻き込まれたら、あんな城塞都市なんてすぐに陥落だぞ)
ルシアの思惑がどうあれ、ガンプドルフの意思は固い。
それだけならばなんてことはないが、彼は魔剣を操る剛将だ。どんな手段を使っても王女をこちら側に連れてくるだろう。最悪はルシアと事を構えてでも。
ガンプドルフにとって王女は国の象徴。絶対に守らねばならないと考えているからだ。
(王女は聖剣を作れる可能性がある能力を『宿している』。ただし、現状では確定的ではない。しかも各聖剣長は、それぞれ王女を選ぶ権利がある。そうなれば内部で混乱が生じるだろう。…それがルシアの狙いか? 争わせて本物を見つけようという魂胆か? その可能性はある。あるが…まだ別の可能性はある。他の聖剣長が【同じ王女を選ぶ】こともあるからな)
ガンプドルフはソフィアを選んだが、他の魔剣士も同様にソフィアを選ぶ可能性がある。
こうなれば内部での争いは軽微なものとなるだろうが、今度は逆の展開が待っている。そんなソフィアをルシアが放っておくはずがないのだ。
だが、ガンプドルフたちも馬鹿ではない。相手側の思惑も見抜いているはずだ。そのあたりで駆け引きがある。
(となれば、あえて別々の王女を選ぶかもしれない。おっさんはけっこう正直だから上手く隠せないだろうけど、他の聖剣長も同じとは限らない。それとは別パターンで、他の聖剣長が選んだ相手が本物だという可能性もある。その場合、こちら側に追っ手はかからないかもしれない。オレが望むのは、こっちの状況だな。変に西側の争いに巻き込まれなくて済むし、『聖剣の種子』を手に入れることもできる)
なぜガンプドルフは、アンシュラオンに王女を与えようとしているのか。
もちろん王女の保護を目的としているだろうが、もう一つの思惑があるはずだ。
それは―――『情報公開』
(おっさんはオレの能力と経歴を知って、突然この話を振ってきた。覇王の弟子にどれだけの価値があるか知らないが、情報公開の重要性ならば理解できる。その王女様の能力を『探れ』と言っているんだ。本当に聖剣を作る力があるのか、オレならばスキルで判断することができる。もし本物ならばオレを抱き込む交渉材料にもなるし、仮になくてもオレは自分の女を見捨てないと知っているから、彼女の安全に繋がると考えたのだろう)
アンシュラオンの性格上、もし本当に聖剣が作れる女性がいたら是が非でも引き入れたいと思うはずだ。
まだ会うのは二回目にもかかわらず、ガンプドルフはこちらの性格をよく見抜いている。
ただの白スレイブだったサナに、あれだけの執着を見せたことも判断材料になっているのだろう。
実際、王女は欲しい。
スレイブの選定基準は主に従順性で決めているが、シャイナのような問題児の面倒も見ていたし、レアな能力の持ち主だと興奮するのも事実だ。
今後はただ従順なだけではなく、他の者たちを強化できる人材も積極的に入れていきたいものである。
(さて、もう一度整理してみよう。オレがおっさんに協力するメリットはあるのかな? まず目先のものとしては、スレイブ・ギアスの材料集めに役立つこと。鉱業が盛んな国からやってきたんだから石の種類にも詳しいだろう。どれがギアスに向いているかも知っているはずだ)
聖剣だけではなくゼイヴァーのバトルスーツも自前のものだ。質もかなり良いし、鍛冶レベルもかなり高いと思われる。
地形データを含め、武具の製造においても非常に頼れる存在となるだろう。スレイブ・ギアスが最優先課題である以上、この要素は極めて大きい。
(第二に、おっさんたちから『剣技を学べる』こと。本場の剣豪から技が学べるとなれば、これほど素晴らしい経験はない。一気に穴を埋めることができるようになるだろう。また、他にも優れた部下がいるからサナの強化にも役立つ。つまりは、軍隊を『手駒』にできるということだ)
今現在ガンプドルフが率いている者たちは『残党』でしかないが、やはり本物の軍隊であり騎士団である。
そこから学べるものは希少だし、グラス・ギースしか知らない自分にとっては、彼らが持つ軍事知識は貴重である。今後は自衛のためにも、もっと知識を増やさねばならない。
アンシュラオンが王女と結婚することになれば、彼らの上に立つことができる。それはガンプドルフを部下にできることを意味している。
もちろん魔剣士を簡単に制御はできないが、状況次第では強力な味方を得ることにもなる。
姉のこともあるし、救済者たちのこともある。前回は上手く凌げたが、JBレベルの武人が十人単位で投入されたらどうなるかわからない。
そこでガンプドルフやゼイヴァー、バルドロスといった人材がいれば、十分撃破も可能であろうと思われる。しかも男なので使い捨てが可能だ。
(そして、肝心の王女だ。DBDは王女のほうが偉いらしいが、オレが王女をスレイブにしてしまえば問題ない。そのためのスレイブ・ギアスだからな。そうだ。簡単なことだ。精神の数値が高くても支配できるようになればいいんだよ。そのためにエメラーダに術式を習っているんだ)
ラブスレイブたち、リンダ、ソイドマミー等々、いろいろな女性たちに実験を繰り返したのも、すべては安定したスレイブ・ギアスの開発のためだ。
自分が成長すれば、ギアスで縛れる相手も増えていくはずだ。また、それが上手くいかずとも『姉魅了』効果で操ってしまえばいい。
(問題はデメリットのほうだ。最悪はおっさんたちがルシアを含めた西側勢力と揉めて、こっちに引き連れてくる可能性がある。その場合、勝てるか? そういえばガンプドルフは、単身で相手の将を討ち取ったとか言っていたな。となると、おっさんでも倒せる相手と想定して…それが数人いるとして…軍隊の規模にもよるが……まあ、いけるか)
普通に戦えば面倒な相手かもしれないが、ここは東の大地。危険な大型魔獣が大量にいる悪夢の世界だ。
幸いなことにアンシュラオンは魔獣には精通している。バルドロスを撃退したサナがやったように、上手く魔獣を利用すれば強国相手でも対応は可能だろう。
そもそも西大陸の国が東大陸に侵攻するのは地理的に難しい。兵站の問題もある。だからこそ入植という手段を選んでいるのだが、それに抵抗する勢力も多く存在している。
仮にルシアがこちらに兵を送ったとしても、西側の敵性国家がそのまま見過ごすとは思えないし、おのずと寡兵になるはずだ。そうなれば撃退は難しくはない。
火怨山の魔獣をけしかける手もある。やり方はいくらでもあるのだ。
(あとはDBD国内の問題に足を突っ込むリスクだな。どんな規模の国でも面倒なことに巻き込まれるのは嫌なものだ。ただし、このままの状態ならばDBDがルシアの植民地になるのは時間の問題だ。どのみち西側の領土は捨てねばならないだろう。とすれば、そこから逃れた者たち、難民が大勢こちらに流れてくるはずだ。その時までにオレが王女を手に入れていれば、多くの労働力を手に入れることができる)
面倒事は誰もが嫌がるが、だからこそ得られるものも大きくなる。
あとは背負うかどうかの話だ。それだけのものを手にすれば、ずっと背負いたくなかった大きな責任を負うことを意味する。
(いや、今はそこまで考える必要はないな。おっさんが失敗して現地で死ぬ可能性だってあるし、そもそも王女を連れ出せるかも怪しい。そのときは何も問題はない。面倒そうならオレが違う場所に逃げてしまう手もある。南には他の西側勢力もいるし、状況によっては荒野にこだわることもない。世界中に国はあるんだ。どこかで暮らせばいいよね)
ある程度の方針が固まり、改めてガンプドルフを見る。
「段階的契約にするのはどうかな。仮定や推測が多すぎて不確定なことが多い。だから物事がおっさんの予定通りに動けば、オレもそれに沿って協力する形にしたい。おっさんもそのほうが気楽でしょ?」
「君がそれで納得できるのならば、こちらに文句はない。十分ありがたい申し出だ」
「ただし、一つ決めておかないといけないことがある。オレは他人を簡単には信用しない。信用するのは【スレイブ】だけだ。組織が大きくなればなるほどさまざまな勢力が生まれ、いつしか裏切り者が出てくることで内部崩壊する。唯一それを防ぐことができるものが、スレイブ・ギアスだ」
「君がスレイブ・ギアスを求める理由がそれか?」
「他人を信頼する気持ちを馬鹿にしているわけじゃない。わかりあえる可能性があることも知っているよ。でも、それも結局は似た者同士でしか起こらないことだ。反発する人間が出てくれば排除するしかなくなる」
「スレイブならば最初から反乱を考えることもない、か。だが、スレイブ・ギアスも完璧ではなかろう。あれはあくまで一定の精神作用を促すにすぎない」
「だからこそオレは、日々ギアスの研究をしているんだ。少しでも精度を高め、より強力で安定したものを生み出すためにね。オレが言いたいのは、オレと関わる以上、この要素を受け入れるしかないってことさ。それだけは譲れないよ」
「我々にも付けろと?」
「どうせ精神が強い人間には通じないから、少なくともおっさんたちに強要はしない。それ以外の民間人には付けるかもしれないけどね。当然、王女にも付ける」
「ふむ……」
「どうする? おっさんがオレを王にしたいのならば、これが前提条件となるよ」
ルシアに抵抗するために、アンシュラオンに象徴が穢される。
どちらにしてもDBDという国は一度亡くなるのだ。それを受け入れる覚悟があるかどうかである。
ガンプドルフは少しだけ思案したが、答えはすぐに出る。
「いいだろう。君がスレイブ・ギアスを信頼するのならば、我々もそれに対して不満を抱くことはしない」
「そんなに簡単に決めていいの? ゼイヴァーさんとか嫌そうにしてたけど」
「あいつは少し過剰だからな。あれが西側の男の一般的な価値観とは思わないほうがいい。たしかに東大陸には劣悪な文化が残っているが、西大陸とてルシアのように植民地政策を進める連中もいる。中身はさして変わらないものだ。それに、スレイブ・ギアスには限界がある」
スレイブ・ギアスの大きな問題点は、二つある。
一つはさきほども述べた通り、これが精神術式である以上、抵抗力が強い相手には通じないことだ。
それゆえに子供限定の白スレイブという存在がいるのだ。精神が定まる前の真っ白な状態でしか上手く発動できない欠点がある。
もう一つは、単純に【支配数に制限】があることだ。
「なぜスレイブによる国家が生まれないのか、考えたことはあるか?」
「【主人が術式に耐え切れない】から、だろうね」
「その通りだ。精神術式を施した者と施された者は繋がっている。常時とはいわずとも、術式が効果を発揮する際には主人の精神を経由する。私が知っている限りでは、一般人がスレイブ契約が可能なのは、せいぜい数人が限界だ。優れた術者でも百人前後までと聞いている」
「しかも、ギアスを受けた相手の抵抗力が高ければ高いほど、その負荷も強くなるんだよね」
「さすがに詳しいな。それを知っていながら君はスレイブを欲しているのだな」
「そうだよ。少なくとも身近に置く者たちはスレイブにできるし、オレの出力ならば数百人は軽いだろうね」
「私が提案を受けた理由も、そこにある。君がそれくらいで満足するのならば、私から言うことは何もない。その程度ならば安いものだし、王女をスレイブにしたいのならばしてみればいい。できるのならばな」
「へぇ、それって挑戦状?」
「私がただの女を君に推薦すると思うか?」
「なるほどね。そっちも勝算があるってことか」
「もしあの御方を君が支配できるのならば、我々もおのずと君の支配下に入ることになるだろう。こちらも都合の良いことばかりを言う立場にはない。これも君との勝負と考えている」
「オレも馴れ合いより、取引や契約のほうが性に合っている。お互いのやり方に不干渉でありつつ、基本は協力する形でいいかな?」
「そうだな。少しずつ時間をかけてわかりあったほうがいい。最初から束縛されるより、お互いの距離感を探っていくほうが賢明だろう。もし部下が君に不快なことをしたら教えてくれ。私から正式に謝罪と賠償を行うつもりだ」
「おっさんも大変だね」
「それが指揮官というものだ」
こうしてDBD勢力との基本姿勢が定まる。
お互いに利用できるところは利用し、上手く計画が進めば段階的に関係を深めていくことになった。
あとは何があっても敵対しない。これも重要な要素だ。
実際にガンプドルフも、その点には細心の注意を払っている。
(少年の気質を考えると、少しでも失礼なことがあったら感情で動く可能性が高い。理性的で理知的ではあるが、彼は意図的にリミッターを外している節がある。領主の二の舞だけにはなりたくないものだ)
アンシュラオンは、一度嫌いになった人物を好きになることはない。
一方で気に入った相手には好意的に接し、ちょっとやそっとのことでは嫌いにはならない。敵に厳しく味方に甘いタイプの典型だ。
それがわかっていれば対処は簡単だ。アンシュラオンのやり方には口出しせず、怒っている時は刺激しないように配慮すればいい。
性格的には、頑固な光の聖剣を持つシントピア、わがままで奔放的な火の聖剣を持つアラージャの二人の性質に近いだろうか。そういった個性的な面子と一緒に戦ってきたガンプドルフには、扱い方がある程度わかるのも強みだ。
ただし、もしアンシュラオンの怒りを買えば、部下であっても厳しい処分を下さねばならないだろう。それだけ譲歩しても、目の前の少年には計り知れない価値があるのだ。
「ねぇ、どうしてオレを選んだの? 師匠じゃ駄目だったのかな? さすがに子作りはわからないけど、覇王なら名前だけで他国への牽制になるんじゃない?」
「たしかに陽禅公は覇王だが、評判が悪く人間としては評価されていない。さすがに王女の伴侶となるのだ。誰でもよいわけではないさ」
「オレだって素行は悪いと思うよ」
「陽禅公ほどではない。君がグラス・ギースでやっていたことなど、まったくたいしたものではない」
「そんなに酷いの?」
「陽禅公は才能豊かだったが若い頃はかなりの問題児で、都市への略奪なども頻繁に行っていたそうだ。数多くの金品や女性たちを奪い、毎日豪遊していたという。遊びで都市が破壊された事例がいくつもある【賞金首】だった」
「山賊かよ、あのじじい! ほとんど戦罪者と変わらないぞ! でも、それだけ聞くと、オレとそんなに変わらないように思えるけど…」
「それこそ規模が違う。抵抗する治安部隊や騎士団をことごとく潰して回った結果、多くの国々が国力を失い、他国に侵略されるきっかけを作ってしまった。噂によれば、ルシア帝国も被害に遭ったと聞く。ともすればやつらの侵略行為は、その防衛策の軍拡から始まったかもしれないのだ」
「師匠は三百歳以上のはずだから…年代的には合致しているのか…。さすがに噂だと思いたいけどね…」
「ついに見かねた全世界の騎士団から精鋭が派遣されたが、それも潜り抜け、最終的には『剣王』や『魔王』も出動する事態になったと聞いている。『剣王評議会』でも問題になっていたそうだからな。世界最高戦力が投入されたため、さすがの彼も捕縛された。しかし、処刑されそうになったところを先代の覇王が身元保証人になり、弟子にしたそうだ」
「ただのクズじゃん。それでいいの? 殺したほうがよかったんじゃない?」
「一応君の師匠の話なのだが…辛辣だな。逆にそれだけの集団でも簡単に倒せないことが恐ろしいのだ。覇王も強い弟子を欲していたからな。互いの利害が一致したのだろう。その後、覇王になってからは改心して人助けもしていたそうだが、わざわざそのような悪名高い人物を選ばずとも君がいる!! 覇王の弟子ならば十分な名声となる!」
「今になって免許皆伝が疎ましい!! 面倒だから、そこは秘密にしてよ!」
「国家の情報収集能力を甘く見てはいかん。いつかは知れ渡るものだ。このままの状態でも、いつしか君の正体に気づく者が出てくるぞ。そうなればさまざまな連中が群がってくるだろうな」
「現に今、おっさんに群がられているところだけどね」
「国家から身を守るためには、同じく国家を生み出すのが一番だ。君は国が欲しくはないか? 誰からも指図されない君だけの国だ」
「そりゃあればいいけど、大きなものになればなるほど管理が大変だ。今のオレは十人にも満たない女にさえ四苦八苦している。現実的とは思えないね」
「違う。君が本気になれば何千何万…いや、何百何千万……否! 億単位の人間さえ導くことができる! スレイブ・ギアスなど使わずとも、君にはできるのだ!」
「さすがに言いすぎじゃないの?」
「君はまだ『王』が何であるかを理解していない。王とは生まれながらに王なのだ。事実、私はグラス・ギースで君の王の片鱗を垣間見た! 君は王になる資格がある男だ!!」
「近い近い、熱いって!」
「私は君を高く評価している。それこそ国の象徴を預けるほどにだ。自分を過小評価しないでほしい。才能ある者は才能を生かしてこそ輝くはずだ」
「うーん、言いたいことはわかるし、評価してくれるのは嬉しいけどね。オレって意外と無欲だからなぁ」
ん? ソブカの計画に加担し、毎月二億を要求している人間が無欲?
なかなか粋なジョークである。その図太さはぜひ見習いたいものだ。
がしかし、そんなものさえ瑣末な問題となるのが『国家』である。
一都市のグラス・ギースでさえ、全派閥の経済規模は百億を超える。各組織においては高額であっても、全体から見れば二億など微々たるものだ。
だからこそガンプドルフは国を語る。
「国を持ち、強くするということは、この世でもっとも強い力を得ることだ。君が本当に欲しいものは、まさにそれではないのか?」
「オレが?」
「そうだ。君は領主を嫌った。自分の上に誰かが立つことを嫌った。スレイブを欲するのも常に自分が上にありたい欲求からだろう。それは自然な欲求だ。なんら恥らうことはない。普通の人間ならば文句を垂れながらも嫌々一般生活を送るだろうが、君は違う。力がある。それを成せる魅力がある。だからきっと、いつか我慢できなくなる。そういう日がやってくる」
―――「君は国が欲しくなる。その器があるからだ」
(オレの国…か)
ガンプドルフの言葉が、アンシュラオンの胸を焦がす。
自分の夢は、サナにすべてを与えてあげることだ。
すべてのスレイブの頂点に立つ【女帝】にしてあげることだ。
そして、それには【国】が必要だ。国のない王など恥ずかしいだけだろう。
(サナを女帝にして、オレは神になる。そのために国は必要だ。誰にも穢されていなければ、もっといい。つまらない既得権益もなく、改革をする必要もなく、新たにオレ自身が作れれば一番いいに決まっている。そう、誰の所有権もまだ存在していない、この荒野ならばオレの好きにできる)
アンシュラオンがこうして遠出しているのも、土地を手に入れるためでもある。
当然国を作るかどうかまで考えていないが、鉱物等の財産を増やすことが土地を増やすことならば、おのずと自分の『領土』が増えていくだろう。
その集合体が、いずれ自治領となり、国と呼ばれるまでになる。
そうなればガンプドルフと目的は同じだ。
(だが、オレが目指すのはおっさんが無理だと思っている『スレイブ帝国』だ。あえて言わなかったが、オレは何万人という人間をスレイブにする【計画】を練っている)
ガンプドルフはアンシュラオンという男を甘く見ている。スレイブへの愛情と執着を、まだ軽く見積もっていたのだ。
最初は漠然とした考えでサナを女帝にしようと思っていたが、術式を学んでさらに細かいことがわかるようになってきた。
特殊な方法を使えば―――可能
エメラーダとの対談で得た知識を得て、さらに可能性が見えてきたところである。
(エメラーダ曰く、オレの封印が全部解除されれば、それだけで数万人は軽く制御できるだけの力が出るらしい。しかし、それでも足りない。国は最低でも数十万単位、DBDだって百万単位だ。それだけの人間を支配するためには個人では無理だ。実現させるためにはいくつか方法はあるが…現状ではどれも難しい。その打開策を探すための旅でもあるからな)
一番手っ取り早いものは、できる限り良質のジュエルを媒体にすることだ。
それによって伝導率も上がり、より素早く効率的に術式が展開され、主人の負担も軽く済む。
たとえばサナが持っている魔石を全員が使えるのならば、さらに数倍以上の人数を使役できるだろう。
もう一つは、いくつかの基点となるジュエルを配置し、負担を分担させる方法だ。ホロロに裏スレイブの代理契約を試させたのも、そういった実験の一端である。
ただしこの場合、基点となる幹部クラスにもそれなりの力が求められる。それら全員がエンジャミナ級ならばまだしも、普通の人間には耐えることはできないだろう。
もう一つが、人以外の基点を使う方法。
電波の基地局のように【エリアごとに分担管理】するものだ。
近くに基地局がなければ送受信できないが、一度構築してしまえば各エリアごとで安定した術式が展開できる。
これはエメラーダが言っていた『言論統制〈スペル・ギアス〉』で使われている「世界規模のギアス」の簡易版とも呼べるものになる。
後日しつこく問い詰めた結果、そういった世界規模のギアスは「天竜」が関わっていることがわかった。
六匹の天空竜は世界中を六つに分けた各エリアを縄張りとしており、普段は群れて動くことはない。その理由は、今述べたように『世界を管理』しているからだ。
(ゼブ兄すら敵わない存在を六匹も媒介しているなら、そりゃ世界規模のギアスもかけられるよな。さすがにそんな大物は手に入らないけど…可能性は見えた。魔獣でもいいってことなんだよね)
ここで重要なことは、人でなくても媒介者になりうる点だ。
強力な魔獣がいる東大陸ならば、その負担に耐えられる魔獣もいるはずである。あるいは強力なジュエル核でもよいのかもしれない。
これを思いついたのもマングラスの賢者の石を見てからだ。あれそのものが力の源泉となって『箱舟』を動かしている。そういったものがたくさんあれば、自分の計画も夢ではない。
これはまだ現実的ではないためガンプドルフには言わないし、あえて他人に言うものではない。ひっそりと進めるから悟られないで済む。
ちなみにガンプドルフが、一般人が契約できるのは数人が限界と言っているが、これは何も特殊な道具を用意しないで精神術式を展開させる場合である。
だからこそアンシュラオンは、スレイブ商が使っている術具を「天才が作った」と評したのだ。あれは術式を体系化し自動化させることで、誰でも数多くのスレイブとの契約を可能とするものなのだ。
ただし、その分だけ出力が弱められている。その欠点こそが抵抗力の高い相手には効果がない、という最大のデメリットでもあるわけだ。
こうしてスレイブ・ギアスの研究は着実に進んでいる。
しかしながら、どうしても避けられない問題があった。
それをガンプドルフが指摘する。
「君がもし国を欲する場合、あまり時間をかけられないかもしれない。最初からすべてを作り上げるには君の……いや、【妹の寿命】が足りなくなる」
「………」
「君は優れた武人だ。もしかしたら何百年も歳を取らない可能性もある。しかしながら妹はそうはいくまい。彼女には時間制限がある。普通の人間がゆえにな」
そう。
サナには―――寿命がある!!
実に当たり前のことだが、アンシュラオンにとっては非常に重要な問題だ。それゆえに、あまり考えないようにしていたことでもある。
まだまだ始まったばかりのサナとの生活なのだ。しかもまだ子供。彼女が死ぬ時のことを考えたくないのは当然だ。
だがしかし、本当に彼女を頂点に押し上げたいのならば、無視できない問題ともいえる。
だからこそ―――
「サナは死なない。オレが生かす。どんな手段を使ってもだ。だからマングラスの知識を奪わねばならない」
「それはどのような手段なのだ? まっとうな力なのか?」
「人を生かす力にまっとうも不当もない。どんな力も同じ力だ」
「それは違うぞ、少年。人が触れてはいけないものもある。君だってそれはわかっているはずだ」
「サナが死ぬなんて言うな!! 思いたくもない!」
「…愛が深すぎると傷も深くなる。終わりを考えるのは悪いことではない。親は子が生まれた時から大人になった時のことを考える。その子の人生を考えて行動するはずだ。それが本当の愛ではないのか?」
「………」
「少年、人の世で暮らせ!! 人の世で生きろ!! 人には寿命があってよいのだ! だから想いを繋いでいけるのだ! 我々を利用しろ! 君の妹のために!!」
「…くそ……っ! 卑怯だぞ、ガンプドルフ。オレがサナに弱いことを知っていて、それを言うなんてね」
「…すまない。気分が良い話ではないな。だが、我々と同じ過ちを犯してほしくはないのだ。君にとっては火中の栗かもしれないが、必ず力になると約束しよう。君のやりたいことのために尽力すると誓う」
「もし他の聖剣長が反対したら?」
「…私の命は君にやろう。少なくとも私とこの聖剣は君の味方だ。ソフィア様を選んだのがこの剣ならば、君を選んだのは私なのだ。その責任は取る」
「…そっか。ま、そこまで言うならオレも少しは覚悟を決めるよ。サナにすべてを捧げると決めているからね。絶対に志半ばで寿命で死なせるようなことはしない。そう、絶対にだ…」
人は鏡をいつも見ているわけではない。
だからこそ気づかない。
その表情は、姉のパミエルキによく似ていた。
愛する者のためならば世界すら滅ぼしかねない、災厄の魔人の顔に。