※この作品はR-18です。

【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了   作:ぷるっと企画@園島義船

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637話 「魔剣士の現状 その6『世界地図』」

 

 アンシュラオンには、サナの寿命という制限時間がある。

 

 それがいつになるかはわからない。すでに武人としての才能が覚醒しているので百年かもしれない。あるいは百五十年かもしれない。

 

 だが、自分よりは確実に早く死ぬ。

 

 

(わかっている。知っている。…それでも胸が痛いんだ)

 

 

 生命に終わりはない。霊の世界を知っている自分ならば、よくわかる。

 

 しかし地上に生きる以上、愛が深すぎる以上、サナともっと一緒にいたいと思うのは当たり前だ。

 

 誰だって終わりを考えると寂しい。

 

 まだ若い両親を見た時、年老いて寝たきりになると想像すると哀しいだろう。ペットを飼う時、いつかは死んでしまうと思うと心苦しいだろう。

 

 だからこそ悔いを残してはいけない。

 

 

(オレはサナのために国を創る。スレイブとしてすべてを奪われていたサナに、逆にすべてを与えてやる。そのためならば何でもする。邪魔するものがいたらすべて殺す。そう、サナだけがオレのすべてだ。たとえ姉ちゃんが相手でも譲れない)

 

 

 サナが頂点に立つ国を創る。

 

 当初漠然と描いていた画が、今まさに現実の計画になった瞬間である。

 

 そうなると、より具体的なロードマップが必要となる。

 

 

(サナが年老いてから与えるのでは意味がない。若く美しい花の時代に人生の豊かさをすべて味わってほしい。となれば、ひとまず【二十年以内】ってところか)

 

 

 国を生み出す方法はいくつかある。

 

 一番早いのが、すでに存在している国を乗っ取ることだ。

 

 これは小国でもかまわないが、他国の人間までギアスで縛れないので簒奪者への目は厳しくなるだろう。それを口実に攻め込まれると繁栄どころではない。

 

 

(やはり現状では『西方開拓』に乗るしかない。DBDの色は混じるが、最終的にオレ色に染めてしまえばいい。それ以外の勢力も吸収できるものはしていかないとな。たかだかDBDくらいでごちゃごちゃ考えることもない。サナはすべてを統治するんだ。元騎士団だろうが傭兵だろうが賞金首だろうが、すべてを力に変えてしまえばいい)

 

 

 覚悟が決まれば、今まで危惧していたDBDに関わるリスクも軽く感じるから不思議だ。

 

 

「サナを出しに使ったんだ。おっさんにも死ぬ気でやってもらうよ」

 

「当然のことだ。もとより命など惜しんではいない」

 

「反対さ。ここまで責任がある以上、他のものを犠牲にしても生きなきゃいけない。結局おっさんが死んだら、DBD内でオレの味方はいなくなるからね。そうなれば、ここでの協定だって無駄になるかもしれない。これはあくまでオレとおっさんの契約なんだからさ」

 

「…そうだな。巻き込んだ手前、簡単には死ねないな」

 

「実務的な話に戻ろう。おっさんたちの目的は、この東大陸北部西方の『不毛の大地』に入植…いや、ルシアに対抗できるだけの国を生み出すこと。その認識でいい?」

 

「私の都合で聖剣王国の再興という言葉を使っているが、実質はもう違う国になってしまうだろう。我々も他の者たちと同じく東大陸に亡命したようなものだからな。無理に西側の都合は押し付けないつもりだ」

 

「もし本国を解放できたら戻るの?」

 

「…そうしたいところだが地理的な問題もある。ルシア帝国の増長を止めることは難しいかもしれない。私としては象徴と文化が残れば十分だと考えている。より多くの人々の尊厳も含めてな」

 

「わかった。そっちが屈辱を受け入れる代わりに、オレは常に主導権争いで勝たないといけないね。ある程度は意識して動かないと駄目そうだ」

 

「そのあたりは任せる。君の好きなようにしてくれ。私もできうる限りはフォローする」

 

「ほどほどでいいよ。あまり肩入れすると他人から嫉妬されるかもしれない。聖剣長という肩書きは、オレが思っているより地位が高そうだしね」

 

「覇王の弟子よりは低いさ。それをどう扱うかは君次第だ」

 

「侮られるのは嫌いだけど、あえて自慢する気もないかな。それよりは今できることに集中すべきだろうね」

 

「では、当面の君が求めるものは何だ? 地形データと鉱物でいいのか? ほかにも欲しいものがあれば何でも用意しよう。我々で可能なことならばな」

 

「せっかくだ、戦闘訓練を行いたい。ここには強そうな連中もいるしね。それと、妹に剣技を教えてやってよ。オレもそうだけど、そろそろ本格的に習いたいんだよね」

 

「少年もということは…まさか剣の資質まであるのか?」

 

「そういう体質みたいでね。戦士が本職だけど、剣も術もいけるよ」

 

「三つの因子を使えるのか? …さすがは覇王の弟子か。あの時は手加減をしていたのだな」

 

「それはお互い様でしょ。そっちも聖剣は使わなかったんだからさ」

 

「私のは武具だが、君のものは才能だ。比べるのは失礼だろう。剣技については了承した。私に教えられることはすべて教えよう。私以外にも教練に適した者もいる。彼らも自由に使ってかまわない」

 

「助かるよ。あとは武具の提供もしてほしいかな」

 

「ほぉ、装備か。何がいい? 剣か? 銃か? 全身鎧もあるぞ。だが、少年のサイズでは少し大きいかもしれんな」

 

「オレじゃないよ。女性たちに与えるんだ。だからそんなにすごいものじゃなくてもいい」

 

「ふむ、なるほどな。そのあたりも自由に使ってくれ。ほかにはどうだ?」

 

「いろいろあるけど、とりあえずはそれだけかな。地形データはもらうけどね」

 

「その件で伝えねばならないことがある。非常に言いにくいことだが、実は―――」

 

 

 

 

 

―――「戦艦との連絡が途絶えた」

 

 

 

 

 

「え? どういうこと?」

 

「四日前、巡洋艦ナージェイミアが消息を絶った。我々が保有する唯一の戦艦だ。君のクルマを破壊した艦といえばわかってもらえるか」

 

「それって…まずくない?」

 

「ああ、最悪だ。この大地において戦艦は貴重な『拠点』となる。我々の東大陸における本拠地はこのキャンプではなく、ナージェイミアなのだ。君が欲している詳細な地形データもそこに記録されている」

 

「おっさん、また厄介事を隠していたな。どこまで災難なんだよ」

 

「私とて好きでこうなっているのではない。運が悪いのだろうな…」

 

「悪いにも程がある。ここで戦艦を失ったら終わりだ。開拓作業にも大幅な遅れが出る」

 

 

 ガンプドルフがどれほど苦労して戦艦を持ち出してきたのか、今までの話を聞いていれば誰でも想像できるだろう。

 

 東大陸で寄る辺なき彼らにとって唯一の希望であり、生命線なのだ。

 

 また、他の勢力と交渉する際には威圧にもなる。ああいった見た目のインパクトはとても大事だ。

 

 それが失われたら、ただでさえ難しい彼らの計画がさらに困難になってしまう。

 

 

「すぐに探したほうがいいんじゃ…って、もうやってるか」

 

「いや、我々はまだ動けていない状態だ。捜索部隊も編成できていない」

 

「どうして? かなり緊迫した状況でしょ?」

 

「まだ戦艦の居場所を完全に特定できていないのだ。迂闊に動き回って【全滅】することだけは避けねばならない。なぜ我々が戦力を二つに分けているのか。それは戦力の最低限の維持が目的だ。失敗は許されないからな。それに、そう簡単に落ちてもらっては困る。最低限独自で対応できるだけの戦力は与えてあるのだ」

 

「戦艦側には経験豊かな騎士もいるって言っていたね」

 

「ああ、副官のメーネザーが指揮を執っている。優秀な男だ。戦艦も単体で拠点としての機能がある。よほどのことがなければ対処可能だろう」

 

「消えてから四日…か。こっちは新兵が多いみたいだから、焦って動くとたしかに危ないかもね」

 

「だからこそ君が来てくれたことは、女神の助けとしか思えないのだ。荒野では何が起こるかわからない。早く見つけるに越したことはないからな」

 

「で、目星は付いているの?」

 

「ちょうどいい。詳細なデータはないが簡易地図ならばある。まずはここから西方がどうなっているのか教えよう。我々がなぜここまで苦戦しているかがわかるはずだ」

 

 

 ガンプドルフは、ハローワークの地図を基にして作った西方地図を広げる。

 

 

https://public.muragon.com/a0sluz78/o6437ykd/resize/640x640.jpg?1622959975000

※ブログの画像参照

 

 

 それを覗き込んだアンシュラオンであったが、表情は渋い。

 

 

「これは…なんと感想を述べればいいのかわからないね。大事なところがまったく見えないよ」

 

「そう言うな。これでも二年以上かけて調べたデータなのだ。数多くの犠牲を払って得たものだ」

 

 

 地図を見れば、赤い部分はだいぶ削れている。

 

 が、その大部分は外郭をなぞったようなもので、肝心の中心部は表示されていない。

 

 だがこれこそが、この大地が人が立ち入れぬ場所であることを示してもいるのだ。

 

 それをこれからガンプドルフが説明してくれる。

 

 

 

「今から二年前、国の滅亡を危惧した我々は調査隊を東大陸に送った。西大陸から出発して『中央大洋』を渡り、島国であるロイゼン神聖王国とダマスカス共和国を経由しながら、人目につかないように東大陸西海岸から上陸した」

 

「中央大洋?」

 

「…そうだったな。少年は【世界地図】を見たことがあるか?」

 

「んー、ないかも」

 

「では、そちらも見せよう。かなり大雑把なものだが位置関係はわかるだろう」

 

 

 

 ガンプドルフが世界地図を取り出し、テーブルに広げる。

 

 

https://public.muragon.com/a0sluz78/qpr05skc/resize/640x640.jpg?1621679425000

※ブログの画像参照

 

 

(これが…世界か)

 

 

 アンシュラオンは、初めて見る世界地図に興味を抱く。

 

 今まではグラス・ギース近辺の地図しか見たことがなかったが、世界は―――広かった。

 

 

(たしか火怨山だけで一万キロくらいの距離があったはずだ。それでも全体の一部でしかないのか。やはり大きな星だよ、ここは)

 

 

「ルシア帝国がここ、我々の国がこのあたりだ」

 

「侵略されそうな場所にあるね。陸続きのど真ん中はつらそうだ」

 

「地理的にはあまり好ましくはないが、それだけ良い鉱山があるのは強みだったのだ。今述べたように、我々はこの中央大洋を突っ切ってやってきた。西大陸と東大陸、南西大陸と南大陸で囲まれた海をそう呼んでいる」

 

「かなりの距離だね。ルシアからの追っ手はなかった?」

 

「ルシアといえど、わが国より南に対する影響力は大きくはない。一部の艦隊は海を移動して侵略を開始しているようだが、西側すべてを抱き込むことは難しい。数千年以上の伝統のある国も多いから、ぽっと出の国には簡単には従わないだろう。我々もそういった反ルシアの国々を利用して脱出を可能にしたのだ」

 

「このロイゼンって国は、たしかカーリス教の本山があるところだっけ?」

 

「よく知っているな。ロイゼン神聖王国はカーリスを国教とする宗教国家だ。シルバーナイツ〈白銀騎士団〉と呼ばれる騎士団も強力で、ルシアに劣らない強国といえるだろう」

 

「ルシアとの関係はどうなの?」

 

「ロイゼンは表面的であれ、カーリスが説く道徳や平等を重んじる国だ。植民地を広げるルシアのことはよく思ってはいないだろう。警戒を強めているはずだ」

 

「でも、ここまでルシアが勢力を拡大しているってことは、ロイゼンはあまり抑止力にはなっていないんだね。やっぱり大陸が違うせいかな。せいぜい海上防衛くらい?」

 

「うむ、その通りだ。ルシアとロイゼンは近い。突発的な衝突が起これば、両者ともに甚大な被害を受ける。そのあたりはデリケートなところだ。それゆえに海上封鎖程度にとどめているようだ。さすがにルシアがカーリスを蔑ろにすれば厳しい態度に出るだろうが、ルシアも馬鹿ではない。カーリス教徒には気を遣っている」

 

「ルシアに宗教の自由はあるの?」

 

「特に制限している話は聞いていないな。そんなことをすればルシアは西側すべての国家を敵に回す。そこまで馬鹿ではないだろう」

 

 

(ダビアの話だと、人種よりも思想が大事にされる世界だ。宗教を禁じることは思った以上に罪深いことなのかもしれないな。かといってカーリス教や救済者たちの思想が良いとは思えないけどね)

 

 

 主義主張の違い程度ならばまだしも、こと宗教においては地球以上にデリケートな可能性がある。

 

 なにせ女神の存在がはっきりと認識される世界なのだ。それを否定することは誰にもできない。あとはその扱い方の差だ。

 

 カーリスは女神そのものに加え、女神の意思を伝える『神託の巫女』である『聖女』に対して強い信仰心を抱いている。

 

 宗教は怖い。少しでも否定しようものならば、(ホワイト教の信者のように)暴力をもって反撃してくるだろう。

 

 逆に否定さえしなければ、彼らは基本的に温和である。自分が正しいと思っているから満たされるのだ。

 

 

「ロイゼンの姿勢はわかったよ。何もしないよりましだね。それだけでも防波堤にはなる。でも、ルシアは『西大洋』から回り込んで東大陸にも来られるし、万全とは言いがたいね」

 

「西大洋から東大陸には行けないぞ」

 

「…え? だって世界は丸いんだから、地図の西はこっちの東側に繋がっているんだよね?」

 

「いや、この地図は見たままだ。上下左右の先には【巨大な狭間】が存在していて通ることはできないのだ」

 

「どういうこと!? 穴があいているってこと?」

 

「私もじかに見たことはないが、見渡す限りの奈落のようなものがあり、海水すらそこで切れているらしい。空は飛べぬから、誰もそこを通ることはできないのだ。それゆえに【世界の果て】と呼ばれている」

 

「何それ? どうなってるの?」

 

「わからないのだ。前文明による破壊の痕跡だとか、あるいは最初からこうだったとか、またはこの世界は隔離されているだとか、さまざまな説はあるが、どれが正しいか立証されたことはない。よって、我々にとってはこれが世界のすべてだ」

 

「…面白いし興味深いけど、規模が大きすぎて想像することしかできないね。でも、空が飛べないことと関係がありそうだよね」

 

「もし空が飛べるのならばわかるのだろう。しかし、そういった分野は探検家に任せるしかない。我々は目先のことで常に精一杯だ」

 

「まあ、そうだよね。考えても仕方ないか」

 

 

 と言いつつ、そのことに強い違和感を覚える。

 

 

(まさかこれも『世界規模のギアス』なのか? 可能性は大いにあるな)

 

 

 天竜の話を聞いてしまうと、これが偶然とは思えない。

 

 彼らが世界を管理しやすいように、こうやって移動を制限している可能性すらあるわけだ。

 

 人が空を飛べないことも陽禅公いわく「女神様の慈悲」らしいので、意図的に封印されていると考えるべきだろう。

 

 それでも軽く地球の八倍以上の面積はあるので、人が暮らすには十分すぎるスペースである。

 

 

「それにしても星の概念を知っているとは驚いた」

 

「師匠に聞いたのさ。意外と物知りだよ、あのじいさん」

 

「なるほど。君が博識なのも陽禅公のおかげか。たしかに現覇王は知能も高いと聞いているからな」

 

 

(そうだった。この星では、星を星として認識していない人も多いんだよね。まあ、他の惑星に興味がないと宇宙について考えないか。闘争と生存に必死で、その余裕もないんだろう)

 

 

「ダマスカスはハローワークで銀行口座が作れる国だよね?」

 

「世界中の資金が集まる場所といわれている。その性質から完全中立国として、どの国も手出しができない状況にある。我々も少し前まではダマスカスを一時的な拠点にしていたものだ。金さえあれば素性は問わないから便利だ」

 

「金は天下の回り物か。ダマスカスはここからけっこう近いね」

 

「地図ではそう見えるが、そう簡単にはいかないぞ。東大陸の西の海がどうなっているか知っているか?」

 

「いいや、海の情報はまったく知らないや」

 

「西の海、それも火怨山に近い海流は非常に激しく、通常の船では航行すらできない状況にある。強烈な嵐も発生するため、軍艦を使っても場合によっては沈没する可能性があるほどだ。だから我々は当初、潜水艇を使って上陸を試みたが、海中に生息していた大型魔獣に攻撃されて撤退を余儀なくされた」

 

「へぇ、潜水艇もあるんだ。すごいな」

 

「わが国は海に面していないため水軍がない。あくまでダマスカス経由の裏ルートで調達したものだ。有名なレマール水軍ならば、何十艇も持っているのだろうがな」

 

「小百合さんの母国か。水軍が強いんだね」

 

「場所はここだな。西大陸の中央東に位置する伝統ある中堅国家だ。私個人は行ったことはないが、水の都は実に美しいと評判だ。騎士団もおそらく西側勢力で最強クラスだろう。あそこには我々よりも優れた剣士が何人もいる」

 

「へぇ、おっさんよりも強いんだ」

 

「レマール王家は代々優れた剣士の血筋で、現在も『剣聖』を輩出している名門だ。門下の騎士たちも相当な手練れたちばかりと聞く」

 

「剣聖なんているんだ。剣王とは違うの?」

 

「剣聖は剣王評議会によって認められれば何人でもなれるが、剣王は一人だけだ。逆にいえば、剣王は剣聖の中から選ばれることが多い。ある意味で剣王候補とも呼べるかもしれないな。我々の中ではシントピアも剣聖候補に挙がっている」

 

「すごいね。そんなに優れた剣士だったんだ」

 

「そうともいえない。おそらくはルシアに対する牽制だろう。負けた側に剣聖の称号を与えることでルシアを遠回しに非難しているのだ」

 

「そのあたりも政治なんだね」

 

「それも仕方ない。覇王とて世界に影響を与える人物だ。陽禅公のように火怨山に閉じこもらない限りは政治に影響を与える。唯一関わらないのは魔王だけだ」

 

「魔王か。名前は師匠から聞いているよ。この魔王城ってところにいるんだよね? へー、本当に世界の真ん中だ」

 

「おそらくはな。しかし、実際に魔王城に行っても誰も入れないから確認するすべがない。城は見えているのだが、どうも実体ではないようだ。魔王は術士の頂点に立つ人物だからな。何か結界を張っているのだろう」

 

「魔王は支配者〈マスター〉を使役しているんだっけ? 支配者って何者なの? 強力な術を使う種族なんだよね?」

 

「そのあたりもよくわからないのだ。人間にとって有益な支配者もいれば、やたら攻撃的で害悪となる者もいる。魔王が管理しているという噂はあれど、実態はやはりわからない」

 

「今の魔王って誰なの?」

 

「わからない。…そんな目で見るな。本当にわからないのだ」

 

「魔王についてだけ情報が少なくない?」

 

「うむ…そうだな。あまり人の世に関わることはしないせいだろうか。接点がないから情報も少ないのは仕方がない。ただし、世界を守護する三王の一人であるのは間違いない。世界にとって必要な存在だということだ」

 

「ふーん、まあいっか。どうせ関わることもないだろうしね。話は戻るけど、西の海が荒れていても上陸はできたんでしょう? どうやったの?」

 

「何度も調査しているうちに、海流が緩やかになる時期があることがわかった。その時は海の魔獣も繁殖期を迎えるようで、餌が豊富な場所に狩りに行くようなのだ。その隙を狙ってやってきた」

 

「どこに上陸したの?」

 

「結局海流の影響で流されてしまい、西海岸の中央あたりにたどり着いた。そして上陸して数時間後、偵察隊が非常に強力な魔獣の群れに遭遇した。すべてが大型の魔獣で、なすすべなく蹂躙された。地図の白黒で表示されている部分がそれだ」

 

「ちらほら見える…というか、海岸沿いから中心に近づこうとすると全部だよね」

 

「そうだ。このあたりで遭遇する魔獣とはレベルが違う。最低でも第三級の討滅級魔獣から、強いものは第二級の殲滅級魔獣までいる。まさに魔獣の巣窟だ」

 

 

 殲滅級魔獣はハローワークの規定では、軍隊でさえ対応が難しいとされている魔獣全般を指す。

 

 実際にガンプドルフの部隊も甚大な被害を受けて後退を余儀なくされたのだから、その力の強大さがわかるだろう。

 

 

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