【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
アンシュラオンがコテージから出ると、ホロロが出迎えてくれる。
彼女はいつどこだろうが、メイドであることを忘れない。
「メイドだ…こんな場所にメイドがいるなんて…」
そんな姿に周囲の兵士たちも動揺を隠せない。
そもそもメイドなどという存在は、一般人ではなかなかお目にかかれないものだ。兵士や騎士とて身分が低ければ、生活水準は一般家庭と大差ないものである。
せいぜい使用人のおばさんが家事をしてくれる程度。このようなメイドは西側でもそこまで多くはない。
「異常はない? 何かちょっかいかけられていない?」
「問題ございません。みなさん、丁重に扱ってくれています」
ホロロの後ろにはセノアとラノア、その護衛としてサリータもいた。
それを遠巻きに兵士たちが物珍しそうに見ている状態だ。やはり違和感のほうが強いらしい。
だが、サナと小百合の姿が見えない。
「サナは何してるの?」
「小百合様のところにおられます。あちらです」
アンシュラオンが視線を向けると、少し離れた場所にサナと小百合の姿が見えた。
なぜかそこでは多くの兵士たちが集まり、妙な熱気に包まれていた。
「はいはい、次の方どうぞ!!」
「は、はい! こんな汚いので申し訳ありません…」
「大丈夫ですよ! ついでに洗濯もしちゃいますからね! あっ、ここもほつれてますね! こっちは穴もあいてます。んー、同じ色の端切れがあればいいんですけど…」
「こちらにありますです! はい!」
「ありがとうございます! じゃあ、すぐにやっちゃいますね! 小百合にお任せあれ!」
「い、急がなくても大丈夫であります! ごゆっくりどうぞ!」
「おい、お前だけ幸せな時間を長く味わおうたって、そうはさせんぞ!」
「なんだと! ミナミノさんを急かせるつもりか! なんて失礼なやつ!」
「お前の臭い服なんぞを渡すほうが数百倍失礼だ!」
「そうだそうだ!!」
「み、ミナミノさん、俺…あなたのことが…」
「なっ! この馬鹿!! 何を言い出す!! 出会って二時間も経っていないだろうに!」
「一目惚れに時間なんて関係ない!!」
「お前のは欲望だろうが! このやろう!!」
「いてっ!? なにしやがる!! やるってのか!」
「おお、やってやる!!」
「貴様らぁああああああ! そこで何をしている!!」
「げぇえええ!!! ゼイヴァー百光長!?!」
「貴様ら、恥を知らんのか!! よもや邪なことを考えていたのではないだろうな!! 閣下の命令を忘れたのか!! 命令違反には、死あるのみだ!!」
「ぎええええ! 違うんです!! これはミナミノさんのほうから…!!」
「女性のせいにするとは不届き千万!! 問答無用!!」
「ぐえっ!!」
「ぎゃぁああああ!!」
「ふんふんふーん♪」
兵士たちがゼイヴァーにボコボコにされている隣で、バッグから自前の裁縫道具を取り出し、平然と服を修繕する小百合の姿がシュールである。
しかし、殴られようが蹴られようが、その場からけっして動かない彼らの熱意のほうがすごい。
その様子にアンシュラオンも困惑する。
「…あれは何をしているの?」
「花嫁修業とおっしゃっておられました」
「花嫁修業って…ここで? たしかに男物の衣服はたくさんありそうだけど…いや、男のしかないけども…」
「さすが小百合様です。ああすることで兵士の皆様方からの信頼を勝ち取ることに成功しています。それがアンシュラオン様への信頼につながるのですね。見習いたいものです」
「たぶん、そんなことはまったく考えていないと思うよ…」
小百合は感情と欲求に素直な女性であり、なおかつラノアとは違う意味で天然が入っている。単純に世話を焼きたがる性質なのだろう。
そして、それこそが女性に飢えた騎士たちを魅了している。
性的なものというより、彼らは【家庭】に飢えていた。
遠い西の地から、こんな不毛な土地にわざわざやってきたのだ。独身男性だろうが既婚者だろうが、家庭の温もりを欲するのは自然なことだ。
こうして知らずのうちに小百合を守る会が設立しているとは、当人は夢にも思わないだろう。
(まあ、これは好都合だ。ガンプドルフとも話し合ったが、これからはDBDの騎士たちの信頼も勝ち取らないといけない。そこで役立つのが『女性』だ。ここに存在せず、彼らが一番求めるものをオレは持っている。面倒だけど利益のためだし、がんばるとするかな)
当然、小百合たちへの手出しは許さないが、それ以外の女性ならばいくらでも都合はつく。
こういうときのためにモヒカンなどという小悪党を支配しているのだ。ラブスレイブはもちろん、恋人・嫁用のスレイブは好きなだけ用意できる。
しかも相手が騎士ともなれば、むしろ女性側も勝ち組ではないだろうか。変なマフィアに囲われるよりは何倍もましだ。
そして自分たちもスレイブの嫁を持っているのだから、スレイブへの認識を改めるしかない。まさに悪魔の計画である。
いわゆるハニートラップに近い。あるいは慰安所か。どちらにしても意識改革に役立つ。
(このあたりはゆっくりやろう。ゼイヴァーみたいなやつもいるから急いでやると逆効果になるかもしれない。くくく、だがどうせ我慢できなくなる。それが男というものだからな。さて、サナは…と)
サナも小百合の明るい雰囲気に惹かれて、興味深そうに裁縫を眺めていた。
周囲の者たちの中には、ロリータドレスに着替えたサナに熱い視線を向ける者もいる。ロリコンかはわからないが超絶美少女なので仕方がない。
ただ、彼女に注目するのは、それだけが理由ではない。
「………」
大きな体躯、長い白髪と白髭の老人、バルドロス百光長がサナの近くに立っていた。
半開きになったシャツの下には包帯が巻かれて松葉杖も使っているが、その目は強い活力に満ちている。
彼をこんな姿にしたのは、紛れもなくこの黒い少女なのだ。その情報はすでに広まっているため自然と視線も集まるのである。
「………」
「…じー」
サナも視線に気づき、じっと老人を見つめ返す。
敵意はないので反応はしていないが、いつでも動けるように準備していることがわかる。
バルドロスも、そんなサナの様子を観察している。
(間合いに入ってから臨戦態勢になるまで多少もたついたな。波動円は使っていない。感覚だけで捉えているのか。戦っている最中は獣のような動きをしていたが…今は普通の少女だ。やはりあれは魔石の力なのか?)
「そう構えるな。戦うつもりはない」
「…じー」
「覚えておらぬか? ついさきほど戦っていた者だ」
「…くんくん、じー。…こくり」
サナはいちいち戦っていた相手の顔など覚えていないようで、匂いのほうで理解したようだ。
魔石が有用なのはいいが、ますます犬化しているのが心配ではある。
「小さいな。思っていた以上に子供よ。そんな小さな身体でわしを倒すか。末恐ろしいな」
「…じー」
「…ん? もしや言葉が出ないのか? 喉でも傷ついたか?」
「その子はまだ言葉をしゃべられないんだよ」
「っ…!」
老兵の真後ろにアンシュラオン。
ただ静かに立っているだけだが、それだけで冷や汗が垂れた。
まったく気配に気付かなかったからだ。もし少年がその気ならば簡単に殺されていただろう。
「へー、あんたがサナと戦ったバルドロス百光長だね。老化しているけど悪くない。いい武人だ」
「むぅ…」
今しがたサナの技量を測っていた老兵だが、今度はアンシュラオンに測られてしまうというお返し付き。
こういったところにも「やられたらやり返す」流儀が見て取れる。
ただし、正当な評価は下す。
「普通に戦っていたらサナが負けてたね。貫禄が違う」
「負けは負けよ」
「それはそうだけど、素の力じゃあんたのほうが強いよ。まだ身体が環境に慣れていないんじゃないの? 筋肉が固いし、怪我の治りも悪そうだ。ゼイヴァーさんの言っていた通り、ブランクがまだありそうだね」
「言い訳はせぬ。準備が足りなかったのは己の未熟ゆえだ」
「堅物だね。嫌いじゃないよ、そういう武人はさ。今度サナとまた戦ってよ」
「この子は何歳なのだ?」
「十歳半くらい? 推定だけどね」
「幼い。あまりに幼い。年齢以上に幼く見える」
「そうだよ。小さくて可愛いんだ!! あーん! サナちゃん、かわいぃいいいいいいい!」
アンシュラオンが、サナをぎゅっと抱きしめる。
抱き上げて、なでなでして、ちゅっちゅして、ぺろぺろして、匂いを嗅ぎまくる。
これが成人男性ならば即通報案件だが、サナはまったく嫌そうな顔はしない。すでにこれが当たり前になっているからだ。
(ガンプドルフが変なこと言うから、ますますサナが心配になるじゃないか! ああ、やっぱりサナは可愛いなぁ。最高だ。この子に勝る子はいないよな!)
「ああ、サナ…サナ。オレの可愛いサナ。お兄ちゃんがお前にすべてを与えてやるからな…なでなで。もうちょっと待ってくれな」
「…? …こくり」
よくわからないが、とりあえず頷くサナ。そんな様子もまた可愛い。
と、完全にバルドロスを置いていってしまっているので、ここで正気に戻る。
そして、自慢するようにサナを見せつける。
「改めて会って驚いたでしょ」
「うむ…貴殿とは逆の意味で驚いた」
バルドロスが言った「幼い」の中には、武人としての成熟度も含まれている。
武人とは、戦いの経験値が意識せずとも自然と滲み出るものだ。だからアンシュラオンの見た目は若くても、その内面の深さに誰もが驚く。
一方でサナは、まったくの逆。
中身は『スカスカ』なのだ。まったく深みは感じない。だが、強いという矛盾。そこに熟練の武人だからこその違和感を抱く。
「あの戦い方は貴殿が教えたのか?」
「そうだよ。自分が有利となって、逆に相手が不利になるフィールドを生み出すのは戦いの基本だ。それが実践できたのなら価値ある戦いだったね。五回に一度しか勝てなくても、その一回を引き寄せられれば勝者になれる」
アンシュラオンはサナを鍛えているが、どうしても子供ゆえのハンデが生まれる。こればかりはどうしようもない。
そこを埋めるための手段が、『かりそめの強さ』を与えることだ。
中身は成熟していないのに表面上は強いというチグハグさ。子供が銃を持って大人を殺しているような恐怖心と危うさを感じさせる。
だが、それも戦いである。
「紙一重ですべてが決まってしまう。儚いものだ」
「戦いに疲れたの?」
「そう見えるか?」
「剣士のおっさん…ガンプドルフから少し聞いたよ。あんたたちは激しい戦いを生き抜いたんでしょ。そのあとに来る強い反動は誰にだって避けられない。それが負けたものなら特にね。すべてのピースがあんたの悪いほうに向かったんだ」
「………」
「でも、意識して引き寄せられる結果もある。オレがサナに教えたいのは、そういうことさ。そしてそれは、そっちに足りなかったものでもある」
「努力を惜しむな、ということか」
「努力を信じろ、ってこともね」
「努力しても…届かないことはある。想いが届かないときはどうする?」
「それは単純に始める前の準備が足りなかったのさ。準備期間を選べないこともあるけど事前に兆候はあったはずだ。何事も適切な対応を取らなかったために起こることだからね。それだけの軍事力があったなら、防衛戦になる前に手は打てたはずだよね」
「命令がなければ騎士は動けんのだ」
「なら、上層部が悪かったってことだ。心当たりはあるんじゃない? どこの組織も馬鹿が上にいると大変だ。オレなら先にそいつを潰すけどね」
「………」
「まあ、しばらくは一緒にいるつもりだから適当によろしく。サナ、小百合さんは任せるよ。夕飯までには戻っておいで」
「…こくり」
「それじゃ、オレは西側の技術でも見て回るか。あの戦車の主砲、欲しいなぁ…クルマに付けられないかな。武器も何かいいのがあればいいけど」
そう言って、ふらふらと歩いていった。
その後ろにメイド三人と女性の傭兵をはべらせて。
(あの少年が閣下が話していた男。…まだ掴めんな。私の感性が鈍っているのか、閣下に見る目があるのか。あるいは閣下も疲れておられるのか。わしには何もわからん)
老兵は敗戦に疲れきっていた。
まだ彼には希望は見えない。