【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
その夜、アンシュラオンたちはキャンプの外に出て野営をした。
普通ならば一緒に過ごすことで一体感や連帯感を培おうとするが、あまりに両者の性質が異なるためにあえて別行動にしたのだ。
一方は男臭い軍隊。他方は女性をはべらせる自由人。
そんな相反する者たちが同一の場所にいられるわけがない。規律にも影響するという理由でゼイヴァーも納得していた。
それを如実に示すように、アンシュラオンは風呂を作って女性たちとまったり過ごしている。
「自然はいいねぇ。こうしてみんなと入れる風呂だと格別だ」
いつ魔獣に襲われるかもしれぬ場所で、のんびり風呂に入る。
それができること自体が異常なのであるが、すでに周囲の者たちは慣れきっている。
「その戦艦というものは、武装商船とは異なるのですか?」
湯の温かさで火照ったホロロが、アンシュラオンに身を寄せる。
すでに事は終えており、身体中から力が抜けているので、いつもより穏やかな表情をしている。
相変わらず色気の点においては飛び抜けた魅力を持つ女性である。彼女を気に入ったのは、それが少し姉に似ていたせいもあるだろうか。
「武装商船はあくまで民間船だけど、戦艦は本当に戦うためだけに造られた兵器だ。戦闘力が違うね。あの時は通常弾だったから対応は簡単だった。でも、あの精度でもっと強い砲弾を撃ち込まれると防ぐのは大変かも。特に動けない拠点を潰すにはもってこいの兵器だよ。普通の人は都市や街に定住するものだからね。グラス・ギースとの交渉においても役立っていたはずだ」
巡洋艦クラスとはいえ戦艦は戦艦だ。
ひたすら遠くから主砲を叩き込めば、防護結界を貫いて都市部に攻撃することも可能となる。今のDBDの現状を考えると弾数的に難しいが威圧にはなっている。
城壁に絶対の信頼を置いている彼らも、あえて戦艦と戦いたいとは思わないだろうし、この荒野を航行する手段としても重要な足となる。
「その前文明の財宝は本当にあるのでしょうか?」
「さて、どうだろう。あったら面白いよね。グラス・ギースという『証拠』がある以上、可能性はゼロじゃないと思う。手付かずならばオレたちが最初の発見者になって、それを自由にすることができるのは楽しいね。でも、それだけを当てにするのは危険だ。ひとまずそこは忘れたほうがいいかもね」
「DBDの状況を考えますと、この荒野に国を作るのは難しいように思えます。特に財政的な問題が大きいです。本国からの補給もないようですし…」
「そうだね。まさに着の身着のままでやってきたようなものだしね。ただ唯一、それを打開する手段もまた戦艦にあるんだ。戦艦には【西側の技術】があるからね」
「それはどのようなものなのでしょう? 戦艦が【量産】できるようなものですか?」
「ほぉ、面白い発想をするね」
「それほど優れたものならば、アンシュラオン様にこそ相応しいと思われます」
「なるほど、量産…あるいは複製か。いつかはそういったことができるのかもしれない。ただし、まずは何事も最初の一歩が必要になる。戦艦にあるもの、それは―――『溶鉱炉』だ」
「以前、おっしゃっておられましたね。金属を生み出すのに必要な施設と記憶しております」
「その通りだ。多くの鉱物はそれ単体では脆いし、加工も難しい。中に不純物が含まれているからだ。混ぜて合金にするにせよ、一度純粋な鉱物資源を取り出さないといけない。それを可能にするのが高炉だよ」
※溶鉱炉=高炉
「ハピ・クジュネにもあると聞いたことがございます。あそこは鍛冶師も多くおりますし、製鉄技術も進んでいると」
「アズ・アクスの包丁はオレも使っていたし、作った鍛冶師の腕も良さそうだった。それは認めるよ。でも、レベルと規模が違うんだ。DBDは西側でも有名な鉱物産地らしい。あんな魔剣を打てるくらいの鍛冶師がいるんだから、その技術体系は数段上にいると思っていいだろうね。なにせおっさんたちの高炉は、二百メートル以上は軽くあるみたいだからね」
「そんなに巨大なのですか?」
「高炉兼補助エンジンにもなっているらしい。戦艦も普通の船と同じく風のジュエルで浮くけど、万が一の場合にハイブリッドにしてあるってさ。まあ、戦艦としては珍しい部類らしいけどね。別の見方をすれば、DBDが長期間少ない数で大軍と渡り合えたのも、移動拠点に生産設備があったからだろうね」
「そんなものをよく持ち出せましたね。監視はかなり厳しかったと思われますが…」
「そのあたりは若干気になるけどね。協力してくれる不穏分子が多いのか、根本的に侵略統治が進んでないのか、戦後のゴタゴタに乗じただけか。または何か目的があってあえて見逃したのか。知らない国だから状況もわからないし、推測も難しいや」
「そもそも信用できるのでしょうか。所詮は彼らも西側の人間です。こちらを利用することしか考えていないのではありませんか?」
「こっちの人は西側に良いイメージはないよね。どんどん犯罪者を送り込んでくるし、入植して好き勝手やるし、ただの侵略者でしかない。気に入らないのは当然だ。でも、追い詰められている相手に恩を売るのは悪いことじゃない。通常より何倍も安く買うことができるからね。もし支払いが滞ったら、欲しいもんだけぶんどって縁を切ればいいさ。それくらいが気楽でいい」
「戦艦は見つけられるのでしょうか?」
「オレが来たから準備が進められるってさ。このキャンプは新兵が多いから防備に難点がある。オレがここにいるだけで捜索隊を編成する余裕が生まれるみたいだ。一応出発は五日後の朝に決めて、それまでには目星は付けるらしいよ」
「戦艦が戻ったあとの計画はあるのですか?」
「少なくともおっさんは本気だよ。こっちで材料を手に入れて、戦艦の設備で武器や銃火器、あるいは売り物用の資源を生み出すつもりだ。東側は術式で強化した自然素材が主流だけど、しっかりと安定した鋼鉄が普及すれば一気に技術改革が起こるはずだ。それを目当てに人が集まり、資金が集まり、村や街となって開拓への力となっていく。その窓口としてグラス・ギースを利用しようとしている」
「表向きはグラス・ギースがやっていることにするのですね。隠れ蓑というわけですか」
「でも、旧態依然とした都市の風潮に難儀しているようだ。裏に傀儡士やグマシカがいるんだから、そう簡単にはいかない。やつらは逆に目立つことを嫌うからね。すでに西側より優れた技術を独占しているから必要ないんだ。ただし、それは一般人には公開されないから、グラス・ギースは発展しないままになる」
「公開しないのは、自分たちが支配者のままでいたいからでしょうか?」
「それもあるけど単純に危険だからだろうね。エメラーダも同じようなことを言っていたけど、本来遺跡は封じておくべきものだ。たぶんグラス・ギースの遺跡も前文明に近いものじゃないかな。一度滅びたのならば理由があるんだ。それだけ危ないものが眠っている可能性もあるからね」
「それも彼らの傲慢ですね。都市に還元されないのならば意味はありません。彼らが独占し続ける理由もないのですから」
「その通りだ。それならそれでさっさと封印してしまえばいいんだよ。でも、人間は一度知ったら忘れることはできない。オレができることは、せいぜいソブカが勝つためにサポートするくらいさ。あいつなら上手く面倒事も捌けるだろう。オレがDBDに接触したことはいつか伝わるし、それによってまた動きも出るだろうね」
「さすがはアンシュラオン様。こちらのカードを増やすのですね」
「どっちが勝っても利益になる。傀儡士が勝てばグラス・ギースはそのまま閉鎖的だ。それならオレは、あっちを見捨ててDBDと動けばいい。もしソブカが勝てばグラス・ギースと経済的に協力関係が築けるが、DBDがオレに付いていれば譲歩する案件が増えるだろう」
「もしや、こうなることを予期されておられたのですか?」
「多少はね。ガンプドルフたちが西側で何かしているという噂はあった。領主城の一件からまったく姿を見ないのも不自然だし、交渉に難儀していると考えるべきだ。もし遭遇したら様子をうかがおうくらいは思っていたよ。まあ、こんなに早く接触するとは予想外だけど、今のところは上々の出来かな。早くスレイブ・ギアスを作りたいからね」
「私はあなた様にどこまでも付いていきます。ああ、早く私の首に従属の証が欲しいです。はぁ…はぁ、想像するだけで興奮いたします」
目が潤い、声にも艶が増す。
自分が支配されることを考えるだけで「達して」しまうようだ。
「はいはーい、私もですー! 私もどこまでも付いていきますよー!」
「ありがとう、小百合さん」
ちなみに小百合も事が終わったあとなので上機嫌だ。
彼女もホロロと序列は同じであるものの、一番最初にしてあげたことで優劣をあえてしっかりとつけた。
近年では、すべてを平等にしろとか言う連中もよく見かけるが、正しい理由で上下関係をしっかり作ることこそ平和と安定につながるものだ。
みんなで一緒にお風呂に入り、しっかりと満足させる。
そうした肌と肌の触れ合いもあったせいか、小百合とホロロとの間にも絆が生まれたようだ。すぐ隣にいても、両者ともに自然体だ。
「ところで、その戦艦救出作戦には私たちも付いていくのですか?」
「未知数の荒野だからね。まず間違いなく危険はあると思う。かといって、ここに置いていくわけにもいかないし、一緒に行くことになりそうかな」
「アンシュラオン様と一緒なら、何も怖いものはありません! 小百合も根性見せますよ! 銃だって撃っちゃいます! 刀もあれば振り回します!!」
「う、うん。あまり無茶しないでね。危なくなったら逃げていいんだよ。まあ、おっさんたちも本気でいくだろうから戦力は出し惜しみしないはずだ。たどり着くまでは守ってくれるだろうね。問題はその先かな。一応オレは後方待機で、退路を守る役目をしようと思ってる。そのほうがみんなを守れるからね。前衛はおっさんがいれば十分だろうし」
「うーん、それにしてもDBDですか。そんなに軍事のイメージはなかったんですけどね」
「そうなの?」
「はい。聖剣があるだけの国…といっては失礼ですけど、それを見世物にして人材を集めていた国です。もともとの国力が高いわけではなかったですから、かなり無理をしているんじゃないかと思います。正直、ルシア帝国とやりあえる国ではありませんね」
「レマールとはどうなの?」
「レマールからは離れているので、そんなに詳しくはありませんが…よく宝石とかは輸入していたみたいです。どちらかといえば『燃料石』の印象のほうが強いですかね」
術式やジュエルで何でもやっているように見えるが、それはアンシュラオンに金があって高級ホテルに暮らしていたからだ。
多くの平均的な庶民は地球同様、普通に燃料を使って生活している。火のジュエルもライターのように着火に使うくらいで、それでずっと調理するわけではない。
その中で重要なのが『燃料石』と呼ばれるものだ。
当然ながら燃料の種類によってさまざまなものがあるが、主に鉱物由来のエネルギー源全般をそう呼んでいる。
これも性質を宿した小さな魔石といえるかもしれないが、加工しないとまともに使えないクズジュエルの集まりである。
たとえば発火性のある石ならば、細かく砕いて木材と一緒に固めることで、固形燃料として重宝されている。これはグラス・ギースでも売っているものだ。
このほかに化石燃料もあり、海底油田の開発を行っている国も存在している。ルシア帝国はそういった資源開発にも力を入れており、技術を輸出して金を稼いでいるわけだ。
「あとはアフラライトが有名ですね。DBD産は質が良いらしいです」
「それも燃料石?」
「はい。小さなものでも異様に発熱性、発火性が強く、薬品と混ぜて精製すると莫大なエネルギーを生み出す液体燃料になるそうです。ただ、管理が難しいのと火力が強すぎるので、今のところは戦艦に使用されるくらいのようです。レマールでは大型戦艦も多いので、かなり輸入していたと聞いています」
「大型戦艦か。レマール軍は水軍もあって強いみたいな話を聞いたけど?」
「そうみたいですね。演習をやっているのは知っていましたけど、最後に戦争をしたのはだいぶ前みたいですから、みんな意識せずに普通に暮らしていました」
「軍事が強ければ、中は平和か。逆に意識しないくらい安全だったんだね。改めて軍備の重要性を感じるな」
「私から見れば、ルシア帝国の狙いはやっぱり鉱物資源、それも燃料資源じゃないかと思います。ルシア軍の主力は大型戦艦ですから、それを大量に作って動かすには資源が必要ですからね」
「なるほど。南への足がかりを作るには、どのみちDBDを制圧するしかなかったんだね。そう考えると聖剣はおまけか」
「箔は付きますよね。聖剣って名前がすでにカッコイイですし。ルシアはまだ成り上がりの国家ですから、そういうものが欲しいのかもしれません」
(そんなに重要な場所なら本国の解放は、ほぼ絶望的だな。おっさんも本音ではそれを理解しているからこそ、一発逆転の博打で東大陸に来たんだ。さて、どうなるかな。上手くいけばいいけど)
「………」
「サリータさん、どうしたんですか!!?」
「うにゃっ!! さ、小百合先輩! む、胸を揉まないでください!」
「いいじゃないですか。もう知らない仲じゃないんですから。ふふふっ!! 裸の付き合いは大切ですよぉー!」
「あっ、ああ!! お、女同士でなんて…! ああああ!」
アンシュラオンが今後のことを考えていると、小百合がぼーっとしていたサリータに襲いかかっていた。
もちろんサリータにもしてあげたので余韻に浸っていたのだろうが、その中に少しだけ影が差しているのを見て取ったのだ。
(小百合さんは暴走しちゃうこともあるけど、よく周りを見てるよな。逆にホロロさんは立場上、距離を取らないといけないこともあるから、ここはほんと助かるね)
「サリータ、何か悩み事でもあるのか?」
「い、いえ、そのようなことは」
「隠し事をしても駄目ですよ! こちょこちょこちょ!!」
「あっ、ああ!! そ、そこは!!」
「ほらほら、全部話してすっきりしましょう!」
「うううううっ!! お、お許しをぉおおお!」
小百合にくすぐられても必死に耐える。
そこまで言いたくないことなのかと勘ぐるが、なにせ犬だ。キャンプでの様子を見ていればすぐにわかる。
(おおかた自分の非力さを嘆いていたんだろう。あそこにいた騎士たちは全員、サリータより強いからね。逆に現役の軍人で弱いやつを探すほうが難しい。ほとんどが武人だしな)
新兵とはいえDBDの騎士だ。
ゼイヴァーやバルドロスはゴリゴリの武闘派だし、下の連中も腕が立つ者が多い。
アンシュラオンが戦った二人の男もブルーハンターとしてやっていけるくらいの力量はあるだろう。
その中でサリータが受ける好奇の視線は、あまり気持ちがよいものでないのは確かだ。
だからこそ彼女に対しては、人一倍「かまってあげる」必要がある。
「サリータ、明日は合同訓練があるからな。お前も参加しろ」
「合同訓練…? 彼らとですか?」
「そうだ。出立するまで時間がある。その間に互いの力を少しでもわかっていたほうがいい。いい勉強になるはずだ」
「サナ様も参加されるのですか?」
「もちろんだ。ホロロさんたちにも本格的に銃火器の使い方を覚えてもらうつもりだ。そしてサリータ、お前は連中に交じって訓練をしてもらう。そのために防具も一式用意してもらう予定だ」
「は、はい。わかりました」
「不安か?」
「いえ、そんなことはありません!」
「盾の使い方も教えてもらえるように手配してある。学びが多い修行になるはずだ。気合を入れろよ」
「…はい。がんばります!」
「大丈夫だとは思うが、なめられないように注意しろ。ただでさえ女だからと侮られるからな。そうそう、もし絡まれたときのために『秘策』を与えてやろう。これにはみんなの協力も必要だ。やってくれるな?」
「はいはい! 何でもしますよー!」
「では、教えよう。ごにょごにょごにょ―――」
「ふんふん、なるほどですー!」
「ええ? 私もやるんですか!?」
「セノアさんも協力してくださいね!! 一緒にやりましょう!」
ということで、女性たちは夜遅くまで盛り上がっていた。
小百合が加わったせいか、夜の風呂はほぼ女子会になっているが、彼女たちが楽しいのならば満足である。