【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
二時間後。
キャンプから三百メートルほど移動した森の中に、戦艦調査隊と周辺哨戒隊および、キャンプ防衛隊以外の『全兵士』が集まっていた。
その数は、およそ百名。キャンプの半数である。
ここで【騎士】と【兵士】の違いについて述べておこう。
『騎士』とは、国家への忠誠を誓い、正式に叙任式を経て得た身分の総称である。
大まかにいえばガンプドルフも騎士だし、ゼイヴァーもバルドロスも騎士だ。その中で階級によって上下関係が築かれているにすぎない。
では『兵士』とは何かといえば、それ以外の者全員を指す。叙任式を受けていない軍属の者たちのことである。
簡単にいえば騎士と呼ばれる部類の者たちは、エリートコースのキャリア組と思えばいいだろう。その他の者たちはノンキャリアの道を歩むので、よほどの武勲を挙げねば出世は難しい。
この両者の最大の違いは、【戦闘教育の差】にある。
地位とか給料とか年金とかさまざまな違いはあるものの、やはりこの一言に尽きるだろう。
騎士になる、あるいは騎士になることが確定している場合、その者は年齢にかかわらず戦闘教育を受ける義務が発生する。
良家や名門の家柄ともなれば、幼い頃から師範や家庭教師が付き、優れた戦闘技術を叩き込まれることになる。
こうした訓練を受けたか受けないかの違いは思った以上に大きい。それは幼い頃から姉や陽禅公に鍛えられたアンシュラオンを見ればよくわかる。
一方の兵士は、いってしまえば『元民間人』である。
戦闘技術を学ぶには自らの意思で道場に通ったり、個別に家庭教師を雇わねばならない。
ハンターや傭兵でもなければ、他人と本気で殴りあうこともないだろう。普通に暮らしている者たちにとって護身術以外の戦闘訓練は必要ないため、おのずとここで差が生まれてしまうのだ。
DBDは戦争当初こそ騎士団だけで戦っていたが、次第に騎士の数が減り、徴兵をするしかなくなった。その対象は元傭兵や元ハンター以外にも、一般人から義勇兵を募っていたくらい切羽詰っていた。
その結果、ガンプドルフが連れてきた兵たちも全員が騎士ではなく、大半の者が兵士の扱いになり、戦闘経験もまちまちという状況にあった。
そのため比較的安全な魔獣の狩場キャンプでは、周辺の安全確保を兼ねて魔獣(または盗賊団等)を狩りながら兵の訓練を行っているのだ。
すでに述べたように、ガンプドルフたちは戦力が補充できない。今この場にいる兵士がいかに未熟であっても貴重な戦力であることには変わりない。
「これより訓練を始める。第一と第二部隊は、この場にて白兵戦闘の訓練。第三部隊は西の安全確保。第四部隊は南の安全確保。四時間後に再集結。第三隊はゼイヴァー、第四隊はバルドロスが指揮を執る。第一と第二は私が担当だ」
ガンプドルフが兵士たちの前に立つだけで、彼らの顔つきが精悍なものとなる。
DBDの兵にとってこの男は、紛れもなく英雄である。しかも叩き上げの軍人なので、新兵たちの苦労もよく知っているから人望もある。
おのずと部隊全体の士気も上がるというものだ。
(へぇ、これが本物の司令官ってやつか。オレとは次元が違うな)
アンシュラオンは安定の統率Fであるから、比べるのはガンプドルフに失礼だろうが、彼の統率の値は「SS」であり、極めて高いといえる。
統率の値はそのまま全ステータスに補正効果を与える。他の統率系スキルとも重複するため、下手をすれば性能が二倍になることもありえる。
実際にガンプドルフには『集団統率』と『上級戦闘指揮』のスキルがあり、彼が指揮を執れば、たかが新兵でも並の騎士にまで能力を上げられるのは大きい。
もちろん最初から優れていたわけではない。ルシアとの長い戦争によって培われた努力の結晶だ。
「今回は特別に、二人の人物を訓練に加えることとする。サナとケサセリアの両名だ」
その場には、サナとサリータの姿もあった。
サナの装備はいつも通りだが、サリータだけはDBDの騎士が使う鎧に身を包んでいた。
―――――――――――――――――――――――
名前 :クリスタルナイトアーマー(重装)
種類 :鎧
希少度:C
評価 :C
概要 :純度の高いクリスタルを加工し、練成強化した重鎧。見た目以上に軽く、高い強度を誇るために多くの一般騎士に愛用されている。
効果 :防御D+1.3倍、物理耐性
必要値:
【詳細】
耐久 :B/B
魔力 :C/C
伝導率:C/C
属性 :無
適合型:物質
硬度 :C
備考 :
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クリスタル本来の色は無色あるいは白濁色だが、戦場で使用するためにボトルグリーンに統一されている。
説明文にある通り、騎士にとってはありふれた装備であるも、一般兵士には腕利きにしか与えられない上等なものである。
また、サナの完全武装が準装ならば、この鎧は大型の重装。前衛に立ち、敵の攻撃を真正面から受けて立つ重装甲兵が身に付けるものだ。
ガンプドルフに頼んで用意してもらった最初の一つは、サリータ用の装備であった。
能力的にこれより上の鎧は着れないため、このあたりが妥当といえる。
「彼女たちには便宜的に階級を与える。サナを百光長、ケサセリアを十光長。協力者であるアンシュラオンは『
「………」
「よし、サナは第三部隊、ケサセリアは第一部隊に入れ。隊に入ったからには他の兵と同じ待遇で扱うこととする。覚悟はいいな!!」
「…こくり」
「はい!!」
「準備ができ次第、第三、第四部隊は出立!! 何が起こるかわからん。指揮官は危険だと判断したら即座に撤退せよ。だが、敵にキャンプの場所は悟らせるな。死んでも阻止しろ」
サリータは第一部隊なので、ここでサナとは別行動となる。
「サナ様、ご無事で」
「…こくり。ぽんぽん」
「そうですね。自分のほうが大変かもしれませんね。がんばります!」
「…ぐっ!」
サナを励まそうとしたが、逆にサナに心配される始末だ。
だが、これが現実である。
(自分はサナ様の従者として、お守りする盾として相応しい力を身に付けねばならない。そのために師匠はこの鎧を与えたのだろう。…この中で強くなるために!)
サナは体格的に合わなかった可能性もあるが、自分に周囲と同じ武具を与えたのは意図的だと理解している。
そのことに若干の戸惑いはある。なぜ自分だけ、と考えることもある。
しかし、アンシュラオンは何かを期待しているのだ。不器用な自分は、ただただその期待に応えるために努力するだけでいい。
―――サナたちが出立
二つの部隊、部隊長のゼイヴァーとバルドロスを加えた五十二名が荒野に旅立つ。
魔獣の狩場を境にして、魔獣のレベルは一段階も二段階も上昇する。
ここから先は第三級の討滅級魔獣が出て当たり前の世界。訓練も命がけになるだろう。
そんな場所にサナが行くのだ。当然ながらアンシュラオンも同行すると思いきや、彼はこの場に残っていた。
「師匠は行かれないのですか?」
「もちろん行きたい気持ちはあるが、オレはここに残るよ」
「サナ様はお一人で大丈夫でしょうか?」
「ゼイヴァーがいる。あいつに任せておけば問題はない」
サナはゼイヴァーの部隊に組み込まれることになったが、これはあとで模擬線をやるので時間を合わせるためと、彼と一緒ならばサナを最優先で守ってくれるからだ。
ゼイヴァーを観察していたところ、フェミニスト発言はポーズではなく【真性】であることがわかった。だからこそ周囲の者たちも彼の前では下手なことはできないのだ。
実力も申し分ない猛者である。サナを任せても大丈夫だろう。
万一にそなえて命気を与えてあるが、その場合に怖いのは青雷狼の暴走なので、逆に周囲の兵士たちの安全が気がかりだ。
(オレも少し周辺を探らないとな。危険な魔獣や敵性勢力がいないか、モスマウスたちを放っておこう。少し遠出をさせる部隊も作って戦艦の足取りも追ってみるか。自動操作にすれば五百キロ以上は索敵できるはずだしな)
アンシュラオンの遠隔操作が優れているところは、特殊アルゴリズムによる自律モードが搭載されていることだ。
エネルギーを補充しなければ、そのうち力尽きて消滅するだろうが、最低でも情報を管理する隊長だけが生き残ればいいので、使い捨ての道具としてはなかなか優秀である。
ガンプドルフが見せた地図が本物であるかを確認するためにも、こうした作業は必要となる。
一つ注意が必要なのは、ハローワークが出している地図は【縮小地図】である点だ。
体感した火怨山の大きさに比べて、グラス・ギースやブシル村との間の距離に差があるので、そこまで正確な地図ではないと思っていたほうがいい。
そういった面も含めて、自分なりに測定したほうがよいと考えている。
「オレやサナの心配をする必要はない。それよりはお前の訓練のほうが大事だ」
「は、はい!」
「お前にはサナの盾になってもらう必要がある。ただの身代わりじゃないぞ。サナのレベルに近づき、【戦友】の一人として共に戦えるようになれ」
「せ、せんゆうっ!! 自分がでありますか!?」
「当然だ。何のためにお前がいるんだ。いいか、これからオレは大きな事業に取り組む。もしかしたら何十年もかかるかもしれないものだ。どう考えても、今以上の大きな困難が待ち構えているだろう。その時、サナを守るのはお前だ!!」
「―――っ!!」
「オレだっていつでも助けられるわけじゃない。お前には強くなってもらうぞ」
「し、師匠……あ、ありがとうございます! がんばります!!」
「安心しろ。そのための講師も呼んである」
「講師!?」
アンシュラオンが手招きをすると、一人の男がやってきた。
彼もサリータと同じクリスタルナイトアーマーに身を包んでおり、手には身体全体を覆うほど大きな盾を持っている。
「どこかで見覚えが……あっ、あのときの!」
「ユーリー・ハンクス十光長だ。オレがボコボコにした人だよ」
運悪くアンシュラオンと遭遇したばかりに、術の実験台にされた大盾の男である。
彼は騎士で、小隊長クラスの十光長の階級であったようだ。階級のわりにはしぶとく、腕は良いと判断できる。
「身体は大丈夫かい?」
「問題ありません」
「今日は彼に盾の技術を教えてもらうといい。今現在、キャンプにいる中では一番の使い手らしい。おっさんからの推薦さ。オレも実力は保証する」
「ケサセリアだ、よろしく頼む!」
一応臨時階級とはいえ、サリータと同じ十光長だ。
ため口でいいだろうと手を差し伸べるが―――
「………」
「よ、よろしく?」
「………」
ハンクスは黙ってサリータを見つめている。
そして、彼女を無視してアンシュラオンに向き直る。
「どれくらいに仕上げればよろしいのでしょうか?」
「多くは望まない。型を教えてくれればいい」
「それでは死にます」
「え?」
その言葉に驚いたのは、もちろんサリータである。いきなり死ぬとは穏やかではない。
だが、彼は嘘を言っているわけでも、けなしているわけでもない。すべては経験則によって導かれた答えである。
「この先に彼女を連れていくおつもりならば、必ず死にます。私とて、このキャンプで待機を命じられるほどの場所です。彼女の腕では初遭遇で死にます」
なぜ、ハンクスが東側の哨戒任務を行っていたのか。
なぜ、ガンプドルフが緊急事態でもなかなか兵を動かさないのか。
理由はとても簡単だ。半端な力の持ち主では、すぐに死んでしまうからである。
ハンクスもその一人。騎士として一人前の力を持っている彼でも、この荒野では虫一匹と大差ない。
「命をかける価値があるのですか?」
「ある。まだ眠っているだけだ」
「眠ったまま死ぬ者など何百と見てきました」
「サリータは普通の女じゃない。選ばれた存在だ。お前ならわかるはずだ。選ばれた者と選ばれなかった者の歴然たる差をね。彼女は必ず目覚める。オレがそうすると決めたからだ」
「………」
「サリータが十光長になったように、暫定的とはいえオレはお前の上官だ。命令だ。やってくれ」
「…わかりました。少々厳しくなりますが?」
「かまわない。どうせ死にはしないからね。そのことも一番よく知っているはずだろう?」
「たしかに」
「サリータ、賦気を施しておく。常に全力で挑め」
「は、はい! 師匠!」
(よくわからないが、師匠が見守っていてくれるのだ! ならば、その期待を裏切るわけにはいかない!)
こうしてサリータの特訓が始まる。