【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
ぶつかるたびにサリータの動きがよくなっていく。
叩かれれば叩かれるほど、さらに強靭になっていく。
何よりも【気迫】に溢れている。
心が具現化しやすい世界において精神力ほど重要なものはない。
うっすらとサリータの周囲に『モヤ』のようなものが発生。
武人の体組織は一般人のものとは規格が違う。因子が覚醒するたびに身体全体が作り変えられ、燃焼させることで莫大なエネルギーを発するようになる。
賦気によってアンシュラオンから分けられた生体磁気が活性化し、彼女の身体が急速に熱を帯びている。
こうして激しい激突を繰り返すことで一般人の体組織が壊れ、武人としての筋肉が培われていく。だから次第に力負けしなくなっていったのだ。
(これが『選ばれた者』…か。優れた武人に師事するメリットがここにある。あの男、やはり【化け物】だ)
長年の研究によって、武人の成長に関するレポートも数多く出ているが、大多数の論者は古くから伝わる『師弟関係』を推奨している。
その最大の理由が、技術の継承および『能力と気質の伝播』である。
技術の継承は門外不出の奥義を除けば、普通の組織でも可能だ。しかし、気質の伝播あるいは伝承だけはどうしようもない。直接当人から受けるしかないのだ。
―――それこそが
アンシュラオンがやっている賦気には、陽禅公やパミエルキから受けた気質が残っている。アンシュラオンを通じて、今まで受けた歴代の気質が伝播するわけだ。
もちろん気質はそれぞれ違うため完全に同じものにはならないが、優れた武人から受け継ぐ優れた気質は、それだけで各国王族が秘蔵する血統遺伝に匹敵する。
その意味で、サリータは選ばれたのだ。
覇王陽禅公の弟子であるアンシュラオンの弟子という【覇王の系譜】。もっと辿れば【大陸王の系譜】である。
その力を受けた者がどうなるか。それはすでにサナが証明しているだろう。
「はぁはぁ…!」
「疲れたか?」
「まだいけます!」
そして、サリータ自身に才能がないわけではない。あくまでアンシュラオンの基準では無いように見えるが、けっしてそんなことはない。
彼女が持っている『熱血』スキルはダメージを受けるほどに体力が上昇していくので、長期間の戦いや特訓には向いている。今もこれだけぶつかっているにもかかわらず、体力にはまだ余裕がある。
知力にマイナス補正がかかるデメリットも、軍隊方式という何も考えなくてよい鍛錬法によって相殺されているわけだ。
ただし、ここからは少し難易度が上がる。
「これより【盾の技】を教える」
サリータに変化の兆しが見えてきたところで新しい課題に移る。
これまでは彼女の体力、気力、順応性を見てきたのだ。それと同時に可能性を見極めてきた。
アンシュラオンの言う通り、見込みはあると判断した結果だ。
「まずはこれだ」
ハンクスが盾に『剣気』をまとわせる。
剣気は戦気よりも攻撃的な気質で、主に刀剣類などの武器を使って発動させる強力な力だ。
媒体を通せば発生できるため、盾でも同じように剣気をまとわせることができる。そこに差はない。
実際に剣気をまとった盾は、赤く力強い光を放っていた。
剣王技、
以前、ザ・ハン第一警備小隊のウォナーが使っていた因子レベル1の技である。
剣気をまとっているため、このまま殴るだけで相手にダメージを与えることができる。
仮に剣気が出せずとも戦気を使えば盾は著しく強化されるため、普通に防御するにせよ使って損はない技である。
「相手を押し込むときは『戦盾』が基本の技となる。防御しながら攻撃も同時に行えるからだ。剣ほど攻撃力はないが盾使いには必須の技だ」
「自分はまだ戦気は…」
「そんなことは関係ない」
「っ!」
「そうあるべき、使えて当たり前と思って盾を扱うのだ。我々には盾しか頼るものはない。ならば必死にすがるしかない。誰もがこの盾に命を託すしかない。いつでも気持ちは乗せておけ」
「盾に命を…」
ハンクスも武器類を扱う才能に乏しく、盾しか誇れるものがなかった。
だから、すがった。頼った。頼りきった。依存した。
「剣士だろうが戦士だろうが関係ない。戦い抜く覚悟次第だ。それがあれば盾は力を貸してくれる」
それがいつしか信頼に変わっていく。信頼されることに変わっていく。
盾は道具にすぎないが、剣士にとっては命と同じである。その域にまで精神が高められると、不思議なことに道具が非常に馴染んでくるのだ。
原理的にいえば、何度も媒体にオーラを通すことで『自分色に染まる』わけだ。伝導率のパターンが自分の戦気や剣気の形にセットされるわけである。
これは武人でなくとも同じ。鞄、ペン、お茶碗、服等々、いつも使っている道具は一般人でも手に馴染む。
「型を覚えて頭の中でイメージを続けろ。自分が本当に戦気や剣気を発している気持ちになり、力の流れを実際に想像してみろ。努力を続ける者だけが結果を得ることができる。お前は…恵まれているのだからな」
(いつも師匠に言われていることと同じだ。…師匠の言っていたことはすべて正しいのだ。だが、身近すぎて理解できなかった。自分はなんと愚かなのだ!!)
自分はアンシュラオンとは違うと思っていた。サナとは違うと思い込んでいた。だからアドバイスを受けても実感がなかったのだ。
だが、ハンクスの教えは、すでに何百回と師から聞いていたことだ。ハンクスよりも遥かに遥かに優れた武人から、何度も何度も丁寧に教えられていたことだ。
ちらっとアンシュラオンを見れば、静かにこの特訓を見守ってくれている。
DBDの聖剣長と対等に話し合える人物が、自分などに貴重な時間を使ってくれている。
それが―――嬉しい!!
(真剣に学ぼう!! 一秒たりとも無駄にはできん!!)
サリータは戦盾の型を何度も練習する。
戦盾自体はどんな角度や持ち方をしても発動できるが、しっかりと一番安定するポジションに盾を固定し、気のイメージを繰り返す。
たしかにまだ何も出ない。が、当人がどうイメージをしているかは、見ている側にはすぐにわかる。
体内から体外へ、体外から盾へ、細胞の活性化から盾の表面まで、流れるように気を通すイメージを固めていく。
「ふぅ…ふぅっ!!」
たったそれだけで身体から汗が噴き出していく。
それでいい。それが正しい。意識と肉体が一体となり、燃焼し、エネルギーが捻出されている証拠だ。
細胞が活性化を始め、急速な体温の上昇によって、ジュウウウと今まで以上の湯気が発生している。
(オレには聴こえる。雛鳥が殻をつついている音がね。いい音色だ。サナとはまた違う美しい音がする。これが師匠というものの醍醐味かな)
アンシュラオンも、サリータの予兆をダイレクトに感じていた。
サナのような何でも吸収する底無しの黒とは違う、純粋で清らかでまっすぐな波動だ。
それが少しずつ外に出てきている。自らの意思で出ようとしている。
「次に戦盾の派生技をいくつか教える。どれも重要なものだ。覚えておけ」
基本の型で進歩が見られたところで、一通りの技を見せることにする。
『
戦盾にまとわせた剣気を拡大し、広い範囲を防御する技。
たとえばマシンガンを持った相手が後衛を狙った際、咄嗟にこれを出して弾丸を防ぐことに使える。魔獣ならば範囲が広いブレス攻撃に対応することも可能である。
『
戦盾にまとわせた剣気を強化し、盾正面の攻撃に対してより強い防御で迎え撃つ技。
普通の銃弾くらいならば軽々と戦盾で防げるが、戦車の砲撃や術式弾が飛んできた際には、これでないと防げないことが多い。
『
戦盾にまとわせた剣気をあえて柔らかくして、強い攻撃を受け流す技。
盾だからといって正面から受ける必要はない。損耗を防ぐためにいなす技も必要となる。
それらの応用技として、全方位を防御する『
当たり前だが、敵は盾以外の箇所を狙ってくる傾向にあるし、集団戦闘においては至る所から銃弾が飛んでくるものだ。それを防ぐ技である。
ただしその分だけ消耗が激しく、使っている間は動けないので、あまり多用してもいられない。
さらに上位の技として、より広範囲を防御する『
これらはすべて防御の技だが、盾には違う側面もある。
「次に【攻撃の技】を教える」
「攻撃ですか? 突進以外にもあるのでしょうか?」
「当然だ。盾は防御しながら攻撃できる非常に優秀な【武器】だ。それを忘れるな」
ハンクスが、近くにあった木に盾を密着させた瞬間―――
ババババババンッ!!
激しい振動と衝撃波が発生し、幹が削れるように粉々に吹き飛ぶ。
「す、すごい!!」
『
展開した剣気を震わせて衝撃波を生み出す因子レベル1の技だ。
これは前方扇型に放出されるので、敵が複数近寄ってきたときに弾き飛ばすことも可能だ。あるいはタイミングよく使えば、相手の強い攻撃を迎撃相殺することもできる。
応用すれば好きな範囲に放出できるため、使い方次第では広範囲の防御にも使えるだろう。
「相手が盾に無警戒のときは、こんな技もある」
ハンクスが盾を裏返し、鋭く突き出すと、ザクっと先端が岩に刺さる。
だが、そこで動きは止まらない。そのままかち上げるように振り抜くことで、岩の大部分が抉られてしまった。
『
盾の先端に剣気を集中させて刃として攻撃する技だ。
下から突き上げることが多いため相手にとって見えにくく、基本技ながら盾の重みも加わることで致命傷を与えやすい。盾自体の幅が広くて太いので、こうやって抉り取ることも可能だ。
これは相手が、盾は防御するだけのもの、と知識不足の際にはより効果的となる。
「軽装の相手に有効な技もある」
ズズズズッ
ハンクスの盾の表面に太い針、棘がいくつも生まれる。
それを勢いよく木の幹に叩き付けると、穴だらけ。
『
盾の表面に剣気で凹凸、スパイクを作って攻撃する技となる。
単純にスパイクシールドを使えば誰でも可能だが、剣気で作れば破損の心配もなく、他の技を使う際の邪魔にもならない。
これを使って重装甲兵の重さで突っ込めば、軽装にとどまらず準装の相手にも大きなダメージを与えることができるだろう。棘の長さを伸ばせば串刺しにもできる。
その棘を放出すれば、因子レベル2の『
「相手を殺さずに拘束したい場合、この技を使え」
『
盾に触れた者を戦気で作った鎖で拘束してしまう技だ。これを剣気に変えれば、拘束と同時に逃げようとする相手をズタズタにできる。
犯罪者やテロ組織の制圧などには、こうした技もよく使われる。
「私が使えるのはこの範囲だ。しかし、基本は『戦盾』にある。それを使いこなして応用することがすべてだ。無理に技を使うよりも基本の戦盾を使えるように努力しろ。強い相手には、どうせそれしかできない」
ハンクスがアンシュラオンと戦った際、防御以外の行動が取れなかった。
あの時はひたすら前面に防御を集中しなければ、術式を受けた段階で盾ごと貫かれていたに違いない。だからこそ角度を変えた水刃砲に手も足もでなかったのだ。
仮に円強盾で周囲を覆ったとしても力が分散されるだけで、それだけで防ぐことはできない。結局は同じ末路を辿っただろう。
であれば、素直に前面に力を集中させるほうが生存率が上がるのだ。実際にアンシュラオンの術式を防いだことは事実。ハンクスに才能はないが、代わりに技術を磨いて対抗した。それがすごいのである。
「盾は強い。何度でも言うぞ。盾は最強の武具だ! 因子レベル3以上にはさらに強大な防御の技がある。因子レベル6以上ともなれば、一時的に絶対防御を付与する技もあると聞く。それがあれば戦艦の主砲さえ怖れることはない。そして神の領域、因子レベル8以上ともなれば、もはや想像を絶する世界が待っているだろう」
(なんと多様な……こんな可能性が盾にはあるのか!!)
サリータにとっては、まさに目から鱗。
今までは防御するか突進するかしかできなかった盾が、これほどの攻防力を秘めているとは思わなかったのだ。
「では、これらの型を反復練習する。死ぬ気でやれ」
「はい!」
ハンクスはサリータに盾の持ち方から動かし方、固定の仕方、視線の置き所からすべてを教えていく。
こうした型を学ぶうちに、あらゆる技に『想定された場面』があることがわかった。
すべての技は、特定の状況を打破するために生まれたものだ。
アンシュラオンが使う修殺だって、戦士が中距離で戦うために編み出された技であり、意表をつく目的以外で近距離であえて使う者はいない。
虎破にしても隙が大きいため、使う場面は相手がバランスを崩した際を想定している。
盾技も同じ。あらゆる局面に対応するために編み出された『極意』なのだ。
結果として―――【集団戦術】を学ぶことになる。
後衛を守るためにはどこにいて、どうすればいいのか。何を気をつけるのか。何に注目するのか。隣にいる仲間を信じること。怖れないこと。時には後退もすること。
こうした知識がサリータの世界を押し広げてくれる。
(これが軍隊!!? なんとわかりやすい!)
手っ取り早く強くなるためには、どうすればよいのだろうか?
そう、誰かに基本を教わることだ。
騎士の戦い方は我流ではない。各国騎士団、各部隊によって差はあるものの、戦い方の【マニュアル】が存在する。
それは今まで人類が積み重ねてきた武術のあり方だ。伝えることで土台とし、未来を生きる者たちがさらに上を目指すことを目的としたものである。
アルバイトがマニュアルを読んで動けば、バイト先で早い段階で戦力になるだろう。流れがわかり、しかもコツが書いてあるのだから、不器用な人間でも反復すれば上達するのが自然だ。
これはアンシュラオンがサナにやらせている『陽禅流鍛練法』とは真逆のやり方であった。
されど【一定のラインまで】は、両者のたどり着く場所は同じ。方向性の違いにすぎない。
だからこそ、気づく。
(ああ、そうか。そうなのだ! だから師匠は何も教えなかったのだ)
アンシュラオンは覇王の弟子で、武を体現するほどの猛者だ。
がしかし、盾は完全に専門外。真正面から敵と戦うことも専門外。
いくらあの男とて、ここまで分野が違うと教えることは不可能だ。生半可に教えて変な癖がついたら困る。
だから、いつかそれを教えてくれる者に出会うまで、下地を作ることだけに専念していた。
戦闘経験を積ませ、痛みや恐怖に打ち勝つ心を鍛えた。サナのために死ぬ「覚悟の下地」を作った。絶対に走り負けない体力を培った。これらがなければ何も学べなかっただろう。
その愛情に気づいた瞬間、涙が止まらなくなった。
「師匠、自分は…!! 師匠ぅうううううううう!! うおおおおおおーーーんっ!!」
「少年、なにやら泣いているようだが…ケサセリアは大丈夫か?」
「いいのいいの。ああいう子だから。それにしてもDBDの盾の技術もいい感じだね」
「盾を作って売るのだ。扱う技術がなければ、どこをどう作ってよいのかわからぬだろう」
「なるほど、道理だ。で、盾って実際どうなの?」
「強いぞ、盾は。私もすごい使い手と戦ったことがあるが、満足にダメージを与えられなかった。持久戦に持ち込まれると攻撃型の武人は不利となる。敵に仲間がいる場合は特に厄介だな」
「へぇ、いいね。たしかに姉ちゃんが盾とか使ったら反則だよな…」
「ハンクスに任せておけば大丈夫だ。あの男は教えることに向いている教練部隊の一員だからな。必ず結果を出してくれる」
「不愛想だけど、それがいいんだろうね。彼女には合ってるよ。結果が出るのが楽しみだ」
「午後からは模擬戦でよいのだな?」
「うん、よろしく」
こうしてサリータの特訓は進んでいく。
雛鳥の目覚めは近い。