【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
「第三、第四隊、帰還いたしました」
昼過ぎ、ゼイヴァーとバルドロスたちの部隊が帰還。
西に向かったゼイヴァー率いる第三部隊は、予定通りに遭遇した魔獣を倒して無事に戻った。
サナも無事だ。今回はそこまで強い相手には出会わず、軽い戦闘で終わったようである。
ただし、南に向かったバルドロスの第四部隊は、やや強力な魔獣に出会ってしまい、一名が重傷、三名が負傷する結果になった。
バルドロス自身も万全ではないため即座に撤退を開始。早めの帰還となった。
こうして怪我人が出たときは、いつもならば応急処置をして自然回復を待つしかないが―――
「はい、治ったよ」
「い、一瞬で元通りとは……」
アンシュラオンの術式治療によって修復。酷い複雑骨折も復元してみせる。
(いやー、ここなら実験台に事欠かないな。今こそ医者になればよかった)
命気を使えば似たような結果にはなるが、あえて術の実験に勤しむ。
「一万時間の法則」ともいわれるように何事も場数が重要だ。同じ術式でも使えば使うほど理解が進んで精度が上がっていくものだ。
毎日のように怪我をしてくれるので、軍隊は実に貴重な修練の場所であった。
「これは術式だな!? 少年、いつの間にこんな力を!!」
「近い、近いっ!! つい最近だよ。言ったでしょ。術も使えるってさ。街の錬金術師に教えてもらっているんだ」
「錬金術師か…。私も捜したが会うことはできなかったな」
「会わないほうがいいと思うよ。かなり危ない人だし」
「うむ…そうか。残念だ。それにしても才能が桁違いだ。また惚れ直したぞ」
「というか軍医はいないの? 最低限の薬はあるみたいだけど、医者っぽいのはいないよね」
「自力で治すのも訓練…と言いたいところだが、軍医は戦艦に乗せている。備え付けの治療術具も戦艦にあるからな。ここでの本格的な治療は難しい状況だ」
ゼイヴァーと出会った時に「今は治療も難しい」と言っていたのは、こういう事情があったためだ。
彼らの頼みの綱は、いつどこにいても戦艦なのだ。改めて戦艦の重要性がわかる事案である。
「そこまで戦艦の価値が高いなら、やっぱりおっさんが向こう側にいるべきだよね。このキャンプの重要性もわかるけどさ」
「もっともな意見だな。…ふむ、そうだったか。少年にはまだ見せていなかったな。案内しよう」
「…え? なに?」
「こちらに面白いものがある。来てくれ」
ガンプドルフがアンシュラオンを連れて、岸壁のほうに移動。
「あそこにある。見えるか?」
ガンプドルフが崖下の岩を指差す。
ぱっと見ると岩だが、若干周囲とズレがあることがわかる。
「擬態かな? 何か大きなものがあるね」
「さすがだな。では、お披露目といこうか」
「これこそが―――私の【相棒】だ」
ガンプドルフが保護カバーを外すと、下から【黄金色の機体】が現れた。
その姿は、まさに大きな人。全長およそ十二メートルはあろうかという巨大な【人型の機械】であった。
「これは…
「神機を知っているのか?」
「うん、野良神機は見たことあるよ。火怨山にもいたしね。姉ちゃんが倒したのは大きな蛇みたいなやつだったけど」
「それはおそらく『竜界』出身の神機だな。竜神機はかなりレアな部類だ」
「いろいろあるんだね。じゃあ、それも神機なの?」
「あれは神機ではない。そのレプリカの【
「魔人機? …どこかで聞いたことあるかも。ああ、マザーが何か言っていたかな。見た目は神機と大差ないよね。だからレプリカか」
「今のところ世界中で千機程度しか現存していないからな。それなりに珍しいものだ」
「現存? 変な言い方だね。レプリカならば作れるんでしょう?」
「そう簡単にはいかない。この魔人機、通称『MG』の製造は
「なにその組織、やばくない? 絶対データ収集が目的でしょ。戦乱をばらまく死の武器商人と一緒だ」
「言いたいことはわかる。だが、弱国にとってみれば貴重な戦力なのだ。我々が侵略に抵抗できたのも魔人機があってこそだ」
「DBDには何機あるの?」
「それぞれの聖剣長用に一機ずつ魔人機があり、王家専用にも神機が一機ある。計七機だな。その神機もWGから供給されたものだ」
「各国に配っているなら敵も持っていたってことだよね?」
「その通りだ。ルシアは侵略を進めるごとに植民地から魔人機を回収している。そのため数は向こうのほうが多いが、すべての戦力をこちらに回せるわけではないからな。重要な局面で投入する決戦兵器に近いだろう」
「魔人機は戦艦より強い?」
「乗り手にもよるが、最低でも戦艦と同等以上の力は持っている。この魔人機の最大の長所は、『オーラ増幅式ジュエル・モーター』を搭載していることだ。乗り手の戦気を増幅し、機体の駆動力に変換する。そして、そのまま武装にも伝達することができる」
「それって…すごくない?」
「ああ、すごい。だから貴重なのだ」
戦車の説明でも少し述べたが、通常兵器の多くは戦気をまとわせることができない。(銃弾くらいならば可能だが、砲弾となると非常に難しい)
厳密にいえば、多大な戦気を生み出して『放出維持』することができれば可能ではある。アンシュラオンもやろうと思えばできる。
だが、強力な武人はそれ単体が優れた兵器だ。特殊な場合を除いて、そのような使い方はしない。
そういった通常兵器は、あくまで普通の兵士が扱うために用意されたものだからだ。
では、強い武人には何が用意されるのだろうか?
答えが―――魔人機
この兵器は、通常兵器とは根本的に質が異なる。
まさに武人が全能力を発揮するために設計されており、装甲や武装のほぼすべてに戦気を利用することができる。
それによって『同じ機体でも乗り手によって出力が変化する』ことが、最大の長所であり短所であるといえる。
優れた武人ならば、まさに自分が巨大化したように振る舞うことができるが、弱い武人は性能をまったく発揮しきれない宝の持ち腐れとなってしまう。
ただし、もともと製造数が少ないため、弱い武人の手に渡ることは極めて稀だ。国家においては国家最強の騎士、傭兵団においても最高レベルの者たちに限られる。
なぜならば仮に弱い者たちが持ったとしても、すぐに奪われるからだ。そうやって自然に強い者の手に渡るようになっているのである。
この仕組みを生み出したのは、【
「現状では魔人機の製造や修理はWGにしかできない。なかなか手間のかかる兵器ではあるな」
「WGって何者? 技術の独占は簡単にできることじゃないよね」
「…わからん。正体不明だ」
「はぁ? そんな連中に従ってるの?」
「一応、魔人機を譲渡する名目は『人類の可能性を高めるため』となっているが…まあ、さすがに信じるのは難しいな」
「そりゃそうだよ。そんな怪しい組織、誰かは調べるよね。何か情報はないの?」
「WGの機密はどうしても出てこない。秘密主義を徹底しているようだ」
「それでも受け渡しの時に会ったりするでしょ?」
「もちろん下請けは存在する。世界地図でも見せたように、世界の右上にある島国、【グレート・ガーデン〈偉大なる箱庭〉】は技術大国として知られている。かの国の技術者が関係していることは間違いないと思うが…」
「そこまでわかっていて調べられないとなると、何か理由がありそうだね」
「うむ。昔、とある国家が秘密裏に下請けの人間を拉致して情報を訊き出そうとしたが、何一つ情報は得られなかったという。しかもその後、あらゆる国際機関がその国から撤収し、国家は衰退して滅びた。それを怖れて手が出せないのだろう」
「WGからの報復ってこと?」
「おそらくはな。WGは一部の神機の製造も行っていると聞く。その強大な力を発揮すれば、国の一つくらいは壊滅させられるだろうが、彼らが直接的な暴力を振るったことはない。だが、もっとも恐ろしいことは、その『影響力』だ。ハローワークすら彼らの影響下にあると言ってもいい。ハローワークがなければどうなる?」
「雇用の管理と捻出ができない…ってのもあるけど、それは何とかなるとして、一番は【銀行】かな? 送金もできないし、信用もなくなる。金の動きがなくなれば商人が来なくなって経済が回らず、自給自足ができなければ食べる物にも困るようになる」
「そうだ。ハローワークの存在は思った以上に大きい。世界のすべての金はダマスカスに集まっているが、ハローワークの組織を通じて流通している。どんな大国であろうが彼らを敵に回すことはできないのだ」
「待って。その話って重要じゃない? 裏側では全部が繋がってるってこと?」
「…そういうことになるな。そもそもハローワークが出来たのは、大陸王が世界を統一してからといわれている。全世界に人材と資金を流通させるために作られた組織がハローワークなのだ」
(だからハローワークか!! オレとしたことが、こんな簡単なことを失念していた。この世界の人間が、ハローワークなんてセンスのある名前を使うわけがない。日本にあるのをそのまま流用したんだ)
ハローワーク。この名前を考えた人間は天才だ。これが欧米だったらワーカホリックになりそうな名前だから禁止ね、とか言われそうだ。
当然、これも大陸王が異邦人であることを示している。「面倒だからハローワークでいいんじゃね?」という安直な雰囲気が感じられる。
これによって、なぜハローワークが全世界にあるのか、なぜグラス・ギースのような辺境都市にもあるのか、その理由が解明される。
だからこそ、きな臭い。
世界最高の軍事技術を持つWG、下請けの技術大国、それを支えるハローワークと世界中央銀行。明らかに【グル】である。
その構造を作ったのが大陸王というのならば、なおさら説得力がある。
「ここまでいくと世界を支配していると言っても過言じゃないよね。金と武力の両方を持っているんだからさ」
「しかしながらWGは何もしない。単純に神機や魔人機の製造や改修を続けるだけだ」
「何がなんでも戦争をさせたいんだろうね。やばい組織確定だ」
「そうであっても、利用できるのならばするしかない」
「でもさ、神機も製造できることには違和感を覚えるね。オレが出会った神機は野良神機だけだけど、明らかに異常な存在だったよ。あれって【生きている】んだよね?」
「私も詳しくは知らぬが、そのようだな。機械生命体の一種ともいえるのかもしれん。ただし、【適合者】がいてこそ完全体になる。だからこそ野良神機は【適合者】を捜してさまよっているらしいな。一万年以上前に存在した前文明のものだとは聞くが…」
「そもそもそれがおかしいよね。前文明の技術はすべて失われたはずなのに、どうして彼らだけが持っているんだろうね」
「…その通りだな。解析して多少の復元は可能でも、神機の製造ができる国家は世界に一つたりとも存在しない。だが、それができてしまうのがWGなのだ」
「………」
(それで納得するのはおかしいでしょ。ガンプドルフは、どうしてこの異常性に気づかないのかな? いや、気づいてはいるんだ。でも、それが当たり前になりすぎて感覚が麻痺しているのか。WG…か。エメラーダに近い臭いがするぞ。世界の根幹に近い連中だ)
ガンプドルフは与えられる側だ。言い換えれば『支配される側』の人間である。
これだけ強くとも世界の構造の中からは逸脱することができない。所詮は、ただの人間である。
しかしアンシュラオンのような『例外』は、即座に危険性を感じ取ることができる。今まで外界と接しなかったがゆえに客観的に世界を俯瞰しているからだ。
そして、この技術体系は『彼ら』とも共通する。
(機械の身体。適合者。…まるでマングラスの技術そのものじゃないか。やはり遺跡の一部は前文明の技術力が継承されていると見るべきだな)
どこかで聞いたことがあると思えば、それこそ傀儡士そのものである。
機械の身体に擬似エメラルド、あるいは賢者の石そのもの。思えば地下闘技場の通路にも神機を模した石像が並んでいた。
具体的にどの文明があれを作ったのかはわからないが、最終的には一万年以上前の『前文明』に行き着く。
(だが、グラス・ギースの地下のものは、あくまで全体の一部にすぎない。オレたちが目指しているのは、その大本山である『首都』だ。どうせ奪うのならば本物の技術のほうがいいよな。よし、希望が見えてきたぞ。もしグラス・ギースで失敗しても問題はない。両方を同時に進めればいいだけだ)
本物の神機とレプリカの魔人機。オリジナルの日本産とパチモンの海外産。どちらがいいかといわれれば、当然ながら本物のほうがいいに決まっている。
「で、これを見せた理由は? くれるの?」
「欲しいのか?」
「うーん、いいや。邪魔そうだし」
「こんな貴重なものに対して、あんまりだな」
「理由は輸送船と同じさ。置き場所に困るし、目立つ。これ目当てにいろいろな連中が集まってくるよね。そんなの面倒だし、防犯対策をするのも手間だ。やっぱり邪魔だよ。おっさんだって扱いに困ることがあるんじゃない?」
「そうだな。聖剣同様、簡単には使えないものだ。もともと搭乗者の認証が必要だから少年にあげるのは難しい。国の財産でもあるしな。まあ、少年がソフィア様と結婚すれば、君のものにはなるがな」
「そこで色気を出さないでよ。…なるほどね。これが戦艦とおっさんが別行動をしている理由か」
DBDには、戦艦と魔人機という強力な兵器が二つある。
二つ揃えば一番だが、二つ同時に失うことは避けねばならない。
そのうえで、さらに分ける理由がある。
「私の愛機、ゴールドナイト99-092、『ゴールドミーゼイア〈黄金の
「へぇ、太陽光で充電できるんだ。すごいね。西側ではそれが普通なの?」
「この点に関しては、ゴールドナイトが異端だな。他の魔人機はアフラライトと呼ばれる燃料石から精製できる液体燃料を使っている」
「アフラライト、小百合さんから聞いた戦艦用の燃料石か。魔人機にも流用できるんだね」
「わが国からも産出していた希少なものだ。とはいっても現在の用途は限られているため、そこまで値が張るものではない。ただし、この大地では希少価値はさらに高まるはずだ。この荒野では、さすがにアフラライトまでは用意できない。だからまだ東側西部には魔人機を配備できていないのだ」
「じゃあ、ますますこの機体の価値が高まるってことだ。おっさんの奥の手だね」
「ミーゼイアは戦艦よりも貴重だ。できれば万全の状態で動かしたい。今こうして悠長に時間を費やしているのも、その準備期間ともいえる。急いて事を仕損じる真似だけは避けたいからな」
「戦力としてはどれくらい期待していいの?」
「全出力を出せば、撃滅級魔獣が出ても単機で足止めくらいはできるだろう」
「いいね。期待しちゃうよ」
第一級の撃滅級魔獣は、もはや都市が消え去るレベルに凶悪だ。アンシュラオンでも工夫しないと勝てない相手である。
それと真正面から張り合えると豪語するのだから、魔人機は武人にとっての拠り所であることがうかがえる。
「やっぱりWG以外に複製はできないの? 分解すれば中がわかるんじゃない?」
「戦力に余裕がある国では、そういうケースもあるようだ。譲渡されたあとは自由だからな。独自に解析して研究をしている機関もある。その結果として、まだまだ遠く及ばないものの簡易タイプの類似品は作られている。大半は土木作業が精一杯の紛い物だがな」
「技術は簡単に盗めないか。どっかに【機械の天才】はいないもんかね。それにしても『魔人』ねぇ。名前の由来とかはあるの?」
「【偉大なる者】の一人に『魔人』と呼ばれている御方がいるらしい。あまり有名ではないため、知っている者のほうが少ないがな」
「偉大なる者の名前は、師匠から聞いているよ。女神様の伴侶たちだよね」
「そういわれているな。全員で何人いるのか伝承や神話によって異なる。これも詳細は不明だが、人はいつでも強力な存在に憧れる者だ。そこから名を拝借したのだろうというのが通説だ」
「ふーん、なるほどね」
(魔人と称されるのならば無関係じゃないよね。そもそも魔人因子自体、それを参考にして作った可能性もある。いろいろややこしいよ、まったくもって。ともかく、オレも姉ちゃんも魔人なんてものに興味はない。それだけは確かだ)
パミエルキほどの存在が、災厄の魔人に気づいていないわけがない。
そうにもかかわらず火怨山での日々で、彼女がそれに言及したこともなければ、特別な興味を示したこともない。
彼女の興味は【最愛の弟】にしかないのだ。
「もう、しょうがないなぁ、姉ちゃんは。オレのことが好きすぎるんだよなぁ。そりゃオレも姉ちゃんは大好きだけどさ。まったくなんて乳だ…けしからん!!」
「少年は…いつも幸せそうでいいな」