【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
(情報をアップデートしよう。ルシア帝国の狙いは複合的なものだ。オレたちにとっては聖剣やら鉱山資源は重要な話だが、そこが目的地じゃない。DBDを足がかりにして狙うのは『世界の根幹』だ)
現在でこそダマスカス共和国は世界経済の中心だが、建国してからそう時間が経っていない。
あれはあくまで中継地。西と東の中間にあることから便利であったことと、特殊な『遺物』が発掘されたことで発展していった国である。
すでにダマスカスの影響力は強く、ルシア帝国が入り込む余地はない。
であれば、狙いどころは―――西の中心地
DBDを通り過ぎ、海沿いに南東にずっと向かうと、ハペルモン共和国という『人工国家』が存在する。
人工国家の定義は人によって異なるかもしれないが、意図的に作り上げたという意味で、紛れもなくハペルモンは人工国家である。
誰が作ったかといえば、最近よく話題に出る【大陸王】。
彼がハペルモンを作った理由が―――『国際金融市場』
大陸王が世界中にばら撒いた大陸通貨をまとめ、管理する機関である。
ダマスカスが金自体を管理するのならば、ハペルモンは世界中の投資が集まる場所だ。当然、胴元が儲けるシステムが導入されているだろう。
そこを抑えることが、彼らの当面の目標だと思われる。
ハローワークの本店もそこにあるらしいので、世界を支配したいのならば確実に制圧したい場所だ。
(そう上手くいくかはわからないがな。少なくとも連中はやる気だってことだ。…しかし、大陸王のやり方は面白い。世界を変えることは難しいが、新しく作ることは実は簡単なのかもしれない。最初から壊れているのならば、なおさらだ)
社会が完成してしまうと、地盤が頑強になって簡単には崩せなくなる。
たとえば現在の日本社会を一部の人間が壊そうとしても、警察組織や機動隊、自衛隊、さらにその上の特殊部隊などが出動して排除するだろう。
ルシア帝国が歩んでいるのは、そんな厳しい道だ。だからこそ強硬手段も辞さない。
一方、最初の枠組みを作るのは難しくはない。何も制限がないのだから統一した人間の好きにできる。
その状況は、今のアンシュラオンに酷似している。
荒野には、誰もいない。ルールを押し付ける『人間はいない』。
∞†∞†∞
多少の休憩を挟み、今度は『模擬戦』の時間だ。
対戦形式は一対一で、勝った側は負けるか棄権するまで続ける連戦方式となっている。
これも連戦が続く戦場を意識してのことだ。一人倒したからといって休めるわけではないからだ。
一度模擬戦が始まれば、誰もが手を止めて戦いを注視する。
武人の世界は多様だ。さまざまな戦いを観戦することで知識やアイデアを得ることができ、それが生死をかけた一瞬の攻防で役立つ。
―――模擬戦、開始
相撲やプロレスのように、最初に戦うのは末端の兵士たちからだ。
武器や防具は基本的に自由だが、特に今は武具の損耗を避けるために模擬戦用の刃の無いものを使う場合が多い。防具も練習用のものである。
それでも模擬戦はかなり激しかった。
最初に戦った幾人かは、倒れ込んでしばらく動けなくなるほどだ。
アンシュラオンもその様子を見学。
(一般的な訓練といったところか。地下闘技場よりはましだな)
兵士たちも本気で倒すつもりで戦っている。その点は評価できるだろう。
また、当たり前に聴こえるが、死なないことがメリットにもなっている。
陽禅公が提唱する負けたら死ぬ鍛錬法は、やはり常人には厳しい。一般人には反復で学ぶ『訓練』のほうが効果的だ。
それはサリータを見ればよくわかる。
「次、ケサセリア十光長、ヴァージ
模擬戦にはサリータも参加。こんな絶好の機会を逃す手はない。
相手のヴァージという一光長は、まだ青年の兵士で戦気が使えないようだ。
これはアンシュラオンが、事前にそうしてくれとガンプドルフに依頼していたことである。
結果―――勝利
相手の攻撃をしっかりと盾で防ぎ、突進で相手を押し切った。
今回は盾の扱いに慣れさせるために、あえて他の武器は持たせていない。それだけでもかなり不利な状況だが、しっかりと勝ってみせる。
サリータも嬉しそうだ。が、表情には出さず無表情を演じている。
彼女以外は全員男であるため、なめられないようにしているのだろう。
(サリータは不器用だ。サナと同じやり方では成長できない。こういった成功体験も必要だ)
地下闘技場がそうだったように、サナは負け続けても長くは引きずらない。
その場で多少の感情の発露があるくらいで、次からは平然と相手を殺すために行動できる。
それができないサリータには、厳しい訓練が成長に役立った証が必要なのだ。それが自信になる。
こうして末端の二人の兵士に勝つことができたが、さすがにそれが限界。所詮その兵士たちは見習いにすぎない。
次に出てきた兵士は【戦気の使い手】。
戦気を使えば攻防力は格段に上がる。相手は刃の無い普通サイズの剣を使っているのに、一撃受けるごとに大盾が大きく抉れていく。
ハンクスの動きに慣れていたからこそ、かろうじて防ぐことはできたものの、やはり大きなハンデを背負っていた。
盾が破損して、どうしようもなくなったところで万事休す。負けとなる。
(あー、手加減されちゃったな。意図的に相手は盾を破壊しにきた。そりゃ女性陣を敵に回したくないよな。オレでもああするよ)
通常の戦いならば盾以外を狙ってくるが、明らかに相手は盾を狙っていた。
盾しか武装がないことは二戦を見てわかっていたし、女性に大きな傷を付けてしまったら、他の女性陣からも反感を買うかもしれない。そういった配慮である。
逆に、相手がそんな配慮ができるほど余裕があった証拠だ。
動きにしても戦気をまとえば身体能力が三倍以上にはなるため、強引に攻め立てることもできたが、あえてしなかったのだ。
つまりは、手加減された。
今しがた得た成功体験が、あっという間に崩れ去る厳しい世界に彼女は足を踏み入れたのである。
(いいんだ。負けてもいい。所詮は【練習】なんだからさ。今は覚悟だけじゃ勝てない世界をたくさん味わえばいい。…こう考えると訓練もいいよな。やっぱりうちの師匠ってどうかしてるよ)
と陽禅公批判をしながら模擬戦をぼけっと見ていた。
兵士の力量は、半数がブルーハンター級。半分はレッドハンター以下といったところだろうか。
それを見て感じたことがある。
(西側の人間は根本的に強いな。すでに体系化されているせいもあって、誰もが強くなれる土壌が出来ているんだ。西側を怖れる理由がわかるよ。ラブヘイア級は稀でも、シーバン級ならありふれているんだからさ)
そこらじゅうにブルーハンターがいる。それだけでグラス・ギースの戦力を遥かに上回る。
しかも、彼らはただの兵士。まだまだ見習いだ。
では、騎士になればどうなるのか。それはこれからわかる。
―――がやがやがや
周りの兵士が急にざわつき始める。
だんだんと状況がわかるにつれて、兵士たちの視線が二人に集約されていく。
「次! ゼイヴァー百光長、サナ百光長!!」
サナとゼイヴァーとの試合である。
今回のスペシャルマッチにしてメインマッチは、この二人。
ゼイヴァーの実力は兵士ならば誰もが知っているが、それに十歳ちょっとの少女が立ち向かうのだ。興味を抱かないわけがない。
(懐かしいな。地下闘技場でもこんな感じだったっけ)
サナは革鎧を着込み、刃がない模擬刀を持っている。
対するゼイヴァーは、インナーシャツ一枚に、手には一本の『棍』を持っていた。
シャツは単純に鎧の下に着ていたもので、何の効果もない普通の肌着だ。持っている棍も一応武器だが、言ってしまえばただの『長いだけの木の棒』だ。
サナは刃が無いとはいえ金属製なので、武器の質の差は明白である。
それを見て普通ならば違和感を覚えるのだろうが、他の兵士たちはごくごく当たり前のように受け入れている。
(たいした自信だな。これはつまり『サナの攻撃は受けない』という意思表示でもある。さぁ、どうなるかな。イケメン君の実力拝見といくか)
ちなみにゼイヴァーはフルフェイスの兜を脱いで素顔になっている。
予想通り、金髪のイケメンである。
特にこの世界ではイケメンだから強いというわけでもなく、かといって弱いわけでもない。
ソイドダディーもイケメンではないが強く、アーブスラットも昔は美男子というわけではない。普通の顔である。
地球と比べると誰もが美男美女に見えるのだから、どちらでもよい要素だ。
「模擬戦、開始!!」
開始の掛け声とともに、サナが飛び出す。
刀を構えたまま低い姿勢で間合いを詰める。その際もしっかりとフェイントを入れて相手の軸をずらそうとする。
このあたりは地下闘技場で鍛えた成果が出ている。魔石なしの動きもすでにブルーハンターの領域である。そこらの武人では簡単に対応できない。
だが、ゼイヴァーはその場からまったく動かず棍を構えるだけだ。
構え方は槍と同じ。特におかしいところはない。
先に間合いに入ったのは、もちろんゼイヴァーのほう。
長い間合いを持つのが槍(棍)の特徴なので、まずは横薙ぎ一閃。鋭い一撃がサナに迫る。
サナはタイミングよく刀を棍に擦り当てて防ぎ、そのまま潜り抜ける。身体が小さく小回りの利く彼女だからこその動きだ。
だが、サナがさらに前に出ようとした瞬間、返す棍が襲いかかり、弾き飛ばす。
返す棍の威力はさほど高くはなかったため、サナが鎧を着ていたこともあってダメージは軽微。
再び突進を試みる。
それをゼイヴァーは薙ぎ払いを中心にいなしていく。サナは掻い潜ろうとするも、一撃目は可能でも二撃目で必ず捉えられる。
その光景はまるで、野犬を軽く棒であしらう牧場主の姿であった。
アンシュラオンから見ても、その棍捌きは見事である。
(棍の扱いにミスがない。正確に同じ動作を繰り返している。体力もあるから何度やってもブレがない。まさに軍人だな。しかもあえて一撃目をかわさせることで、二撃目を当てやすい場所に誘い込んでいる。完全に主導権を向こうに取られたな)
もしこれが槍ならば、すでにサナの身体は無事では済まなかっただろう。
だが逆にサナが突っ込むのも、棍が武器だと理解しているからこその戦い方である。
「…じー」
サナがゼイヴァーと周囲を観察。打開策を探る。
この模擬戦で認められているのは手持ちの武器だけ。それが銃(模擬弾)でも斧でもかまわないが一つだけ(盾は除く)に限られるため、現在は刀しか攻撃手段がない。
彼女が得意とするのは、すべての環境をフルに活用した局地戦だ。そこに魔石が加わるからこそバルドロスを追い詰められたのである。
それがない今、頼れるのは自らの剣技のみ。
サナが前に出る。
そこにゼイヴァーの棍が迫るが、今度は逃げない。
刀の芯で打ち払う。
ガンッ!!
鉄と木がぶつかる鈍い音が響き―――棍を弾く
サナは棍の初撃が誘導するものだと気づいていた。
だからこそ同じことを繰り返すふりをして、刀の『芯』で思いきりぶっ叩いたのだ。
相手の攻撃の質を見切る観察眼と、的確に芯を当てる技術。どれも地下闘技場で得たものだ。
サナはそのまま一気に間合いを詰めて剣撃。
ゼイヴァーは棍を引いてガード。刀を受け止める。
さすがに大人と子供の体格差がある。攻撃は完全に止められた。
が、ここから刀は変化。
棍の表面を滑らせて、武器を持っているゼイヴァーの手を狙う。
これが鎧ならば篭手も付けているので防御可能だが、今は剥き出しの素手のままだ。
そう。槍や棍はリーチの長さは優れているが、マタゾーもやられたように、こうして武器を持っている手を狙われやすいのが短所だ。
サナがこの点を狙ったのはさすがである。少しでも相手の力を削ぐための戦術を考えた結果なのだろう。
だがしかし、この弱点を一番よく知っている者は誰だろう?
当然―――ゼイヴァー自身
ゼイヴァーは狙われた片手を離して回避。
サナは片手持ちになって不安定になったところを攻め立てようとする。
しかし
手が―――伸びた
伸ばされたのは、今しがた棍を離したゼイヴァーの手。
その手が、サナの鎧を掴んで―――引っ張る!!
ぐいっ!! ぐらっ
「…っ!!」
思った以上に強い力で引かれたため、サナが大きくバランスを崩す。
その間にゼイヴァーは棍をサナに押し付けながら動きを封じつつ、今度は突き放して間合いを広げた。
再び棍の間合いを作られる。
サナはまだバランスを崩したままで動けない。
そこに突きの連打。
トトトトンッ
非常に綺麗でリズミカルな音を立てて棍がサナに命中していく。
棍の先端は丸く整えられており、直接刺さることはない。
だが、当然ながら戦気をまとっているので、その一撃は強烈。
サナは次々と命中する棍の衝撃に押されて防御する暇もない。
ただし、そのすべての攻撃は鎧の一番硬い部分を狙って放たれているので、致命傷を受けてはいなかった。
これはつまり―――手加減
最初に述べたように、軽々と野良犬をあしらっているわけだ。
サリータに続いて、サナも手加減されている。
これが西側の騎士の実力である。