【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
サナはゼイヴァーの突きに圧される。
痛みもなく裂傷もないが、衝撃だけは確実に中にまで伝わるので、次第に体力が奪われて身体がだるくなっていく。
彼は他の騎士以上に生粋のフェミニストなので、女性を傷つけることを好まない。こうやって動けなくして勝つことを想定しているのだろう。
そうやって男女で対応を分けること自体が差別じゃないのか、というツッコミは置いておいて、完全に手加減されているのがわかる。
だが、サナにはまだ手段が残されている。
魔石を―――発動!!
雷撃は反則になる可能性があるため、セクトアンク戦でもやった身体能力だけを引き出す『段階使用』を選択。
それによって能力が向上。
これでもう負けない。強引に押し切れる。
そう思ってサナも攻撃を仕掛けるが―――
カカカカンッ
「―――っ!!」
鋭いゼイヴァーの棍先が、的確にサナの鎧をリズミカルに叩く。
どんなに速度を上げようが、左右に振ろうが、フェイントをかけようが、ゼイヴァーはまったく動揺せず、淡々と攻撃を当ててくる。
何も変わっていない。結果はまったく同じだ。
被弾覚悟で強引に接近して一撃を繰り出すも―――手が伸びる
ぐいっ ドンッ
またもやあっさりと離され、棍の間合いを作られて突きを受ける。
中距離でも駄目。近づいても駄目。サナは何もできていない。
いったい何が起きているのかといえば、見たままだ。
(さすがおっさんの部下だ。今初めて使った動きじゃない。手馴れている様子だ。いつもこれを想定して鍛錬している証拠だな。しかもゼイヴァーはやや細身だが、皮膚の下には強靭な筋肉が詰まっている。腕力も相当なものだ)
ガンプドルフが蹴りを使ったのを覚えているだろうか。それなりに戦士因子が覚醒している武人ならば、剣士であっても体術を使えるのだ。
ゼイヴァーにも戦士の因子があり、なおかつ修練によって才能を伸ばしていた。
そして、その腕力も戦士並み。ソイドビッグ程度ならばねじ伏せられるだろう。
もう一つ付け加えれば、彼はまだ『剣気』を出していない。普通の戦気で抑えている。
棍自体が木の棒のため伝導率がかなり低いせいもあるだろうが、それでも使うことはできるはずだ。あえてそうしないのは、想定以上のダメージを与えてしまう可能性があるからだ。
彼は武具に頼らずとも、魔石で身体強化をしたサナより強いことを証明している。
(ゼイヴァーの強さの本質は『安定感』にある。同じ槍でもマタゾーとは根本的に違うタイプの武人だ)
マタゾーは、一点を貫く技術に長けていた。だからこそ彼の長所は『突き』にこそある反面、槍の間合いが必要になる弱点があった。
一方のゼイヴァーの一撃一撃はマタゾーに及ばないものの、払う技術、突く技術、防御の技術、身体の使い方、どれも隙がない。
アンシュラオンが雇った戦罪者は、裸でポン刀だったり手が異様に大きかったりと、やたらと歪だった。それはバランスよくすべてを鍛えるのではなく、自己の長所だけを伸ばそうとした結果である。
されど軍隊においては平均的な力が求められる。いかなる戦場でも安定したほうが役立つからだ。
そのおかげでゼイヴァーは、実に穴の無い武人に育った。
マタゾーとは違い、近距離に持ち込まれても対応できるのは大きなアドバンテージとなる。
(ゼイヴァーは百光長はどれも同じレベルとは言っていたが、実際はバルドロスより強そうだ。といっても、バルドロスも本調子ではなかったし、それだけでは測れないか。…DBDの騎士は強いな。出会った時に持っていた武器を使えば今より強くなるんだしな)
さすがルシア帝国とガチで戦争していた連中だ。兵士の質も高いし、騎士はさらに上のレベルにある。
あくまで現段階ではあるが、圧倒的にゼイヴァーのほうが【完成度が高い】。
普通にやればサナが勝つことはありえない。
当然、対戦しているゼイヴァーも実力差を感じている。
(閣下の命令で戦ってはいるが、まさに大人と子供だ。まだまだ若い。若すぎる。こんな少女を戦わせるとは…納得がいかない。女性は守らねばならないものなのだ。そうだ…私は強くなければいけない。すべての女性を守れるほどに、もっともっと強くならねばならない)
ハンクスがそうであるように、ゼイヴァーの戦気にも『覚悟』が宿っていた。
彼の戦気は、静かに燃える闘志の如く。
猛々しくはないが、その奥底には芯のある強烈な熱量が見え隠れしている。
女性は弱い。だから守らねばならない。
そんな当たり前でありながらも若干偏屈な感情が、彼をここまで強くしている。
たしかに彼の言う通りだ。女性は基本的には弱い。単純な戦闘能力ならば男のほうが有利だ。
そう、普通の女性ならば。
だがしかし彼女は―――普通ではない!!
防戦一方の何もできない状態であっても、サナの目には『知性』が宿っていた。
どんなに攻撃されても打開策を探り続ける力が、今の彼女にはある。
棍に圧されながらも、刀の先端を地面に打ち付けると―――爆発
ボンッ ザァァアアッ
地面が大きく抉れたことで、土砂とも呼べる大量の土がゼイヴァーに降り注ぐ。
その性質を利用して土を斬るのではなく、ゴルフのバンカーのように一緒に巻き上げたのだ。
サナの得意な戦場は局地戦。周囲に使える環境がないのならば、自ら作り出してしまえばいい。それだけのことだ。
土砂によって、ゼイヴァーの視界が一時的に塞がる。
「…しゅっ」
そこにサナの中距離攻撃、剣衝が襲いかかる。
(この程度の目くらまし。目を瞑っていても防げますよ)
ゼイヴァーは剣衝を軽々と弾いて霧散。
なぜサナがあまり剣衝を使わないかといえば、現在の剣気量では威力が乏しいからである。
もともと戦気量が多いわけでもないので、それならば移動と直接斬撃に力を割いたほうが効率が良いのだ。
では、あえてサナが非効率な真似をしたのならば、そこには意味がある。
ブワワワッ!!
ゼイヴァーの周囲が―――【闇】に染まる
「なっ…!」
イカスミで一瞬にして海水が黒に染まるように、視界すべてが完全に闇に包まれた。これは明らかに土によるものではない。
であれば【技】。
(これは『
ヤキチが使っていた闇属性の剣衝であり、相手の視界を奪うための技だ。(そのまま直撃してもダメージは剣衝と同じ)
サナが土をあえて使ったのは、自分の剣衝が暗衝波だと悟らせないためである。
熟練した武人ならば、太刀筋と戦気の色合いを見ただけで発動した瞬間に技を見破ってしまうからだ。
ゼイヴァーも暗衝波は知っているため、もし見えていればかわすことを優先しただろう。最低でも体重移動はしていたはずだ。
彼のミスは、女性だからと侮っていたこと。
サリータと同じだと思っていたことだ。
その油断を、サナは見逃さない!!
素早い動きで接近するとゼイヴァーに剛斬を繰り出す。両手で刀を握った全力の一撃だ。
ゼイヴァーは暗闇の中でも太刀筋を感じ、咄嗟に反応。棍でガードする。
虚をつかれた一撃であるが、それでも防ぐのはさすがである。風の流れや戦気の気配を掴んでいる証拠だ。
されど接近したサナの怖さは、こんなものではとどまらない。
そこに―――拳!!
刀と棍が密着した状態から片手だけを離し、サナが虎破を突き出す。
しかも狙ったのは股間。べつに意図したわけではないが、身長差があったため角度的にそこが狙いやすかったにすぎない。
「っ!!」
ゼイヴァーも男だ。嫌な予感がしたのだろう。本能的にかわすことに成功。(一応肉体操作でガードしているが、心情として理解できる)
女性が護身術を習う際、必ず金的攻撃を教えられるというが、フェミニストの急所を狙うとはなんとも皮肉である。
そして、大事な部分を守った代償として完全なる隙を晒す。
腰を引いて屈んだところに、サナの虎破がクリーンヒット!!
バキャッ!! ミシミシッ
「ぬぐっ!!」
拳は顔面に当たり、頬骨が軋む音が響く。
(これが子供のパワーなのか!? 信じられない!!)
まるで同体格の大人の武人に殴られたような衝撃が走る。
それもそのはず。サナの戦士因子は2であり、しかも【劣化していない】。
いくら子供であっても純粋な戦士因子2のパワーは、劣化している倍のレベルの剣士と変わらない。
(目が…見えない! 見失った!)
暗闇に加えて顔面への強打。ショックとダメージで視界が遮断される。
ここが勝負所。
サナはゼイヴァーの真後ろに回り込むと、下からアッパーカットのように強引に刀を振り上げる。
暗殺剣、
それを完全コピーしつつ、同じ闇属性を持つがゆえに自分のものとして百パーセントの力で使いこなす。
視界を塞がれた状態から、普通ならありえない角度からの一撃。
正道で敵わないのならば『詭道』で挑むしかない。これもまた武人の戦い方だ。
タイミングばっちりの虚をついた攻撃である。これは防げない。
サナの刀がゼイヴァーに―――
スカッ
当たらない。
たしかに防げない攻撃である。
しかし、かわせないとは言っていない。
その時、すでにゼイヴァーは【宙】にいた。
サナが卑転を放った瞬間には棍を使って跳躍し、暗衝波の空間から離脱。
そこから棍がしなるような軌道を描き、サナの背中に激突!!
「…かふっ……!」
衝撃の強さにサナの呼吸が止まる。
剣王技、
マタゾーが使っていた三蛇勢の下位かつ、棍版といったところだろうか。棍をしならせて軌道を変化させつつ、剣応打と同じく打撃属性の剣気を叩きつける技だ。
卑転の最大の弱点は打ち終わりにある。どうしても動作が大きくなり、隙ができるため防御に難があるのだ。
当たれば強い大きな振りも外れれば欠点であり、空気の流れで場所も特定されてしまうわけだ。
それでもサナはまだ動けた。
着地したゼイヴァーに殴りかかる。
が、このレベル帯になると、一度使った技は相手に対応されて当然となる。
ゼイヴァーは拳を棍で受け流すと、左手を伸ばして再び鎧を掴み―――大地に押し付ける!!
どんっ ごりりりっ
「…っ」
「動かないでください。これ以上は無理です」
「…っ……っ」
サナは話も聞かずにジタバタするが、技を使わない状態ではゼイヴァーの腕力のほうが上であった。
「そこまで。ゼイヴァーの勝利だ」
ガンプドルフが戦いを止めた。
結果はゼイヴァーの勝利で終わる。
裁定に文句はない。実際に実力差はかなりあったといえる。雷撃無しでよくここまで戦ったというべきだろうか。
(順当な勝利…サナにとっては敗北か。だが、今の戦いを見ればわかるように、これがのちの糧になる。練習ではいくら負けてもいい。本番で勝てば問題ない)
ここも地下闘技場と同じ考え方でよいだろう。
残念ながら団体戦では全敗したが、いったいそれがなんだというのだ。その後の戦いでバルドロスを圧し込む布石になったではないか。前者は練習。後者は本番だ。
武人にとって本質を見極めることも大事な資質である。
だがしかし、それをもっとも知る者から、やや変なクレームが入った。
「閣下、今の勝負は私の負けです」
勝者であるはずのゼイヴァーが、なぜかそんなことを言い出す。
「誰がどう見てもお前の勝ちだ。どこに不満がある?」
「こんな幼い少女相手に本気になってしまいました。最後の一撃は思わず手が出てしまったのです。大人の男として恥ずべき振る舞いです」
「戦場において、大人も子供も男も女も関係ない。互いに戦い、結果が出た。それだけだ」
「いいえ、違います。私はこの勝負で一撃ももらうつもりはなかったのです。ですから、この頬が敗北の証です」
ゼイヴァーの頬は、サナのクリーンヒットを受けて赤く腫れていた。もしかしたら骨にヒビが入ったかもしれない。
これは完全に油断であるし、その一撃によって彼の本気を引き出したのだ。
「油断したのはお前のミスだ。反省すればいい。だが、勝ったのはお前だ」
「私は女性を…殴ってしまったのです。やはり私の負けです」
「ゼイヴァー、いいかげんにしろ」
「これは閣下であっても譲ることはできません!!」
「まったく…お前というやつは…。まあいい、戦場では迷うなよ。何事も強いやつだけが選ぶことができる。負けたらすべてが終わりだ。わかっているな?」
「もちろんです。そして、罪は償わねばなりません」
ドゴッ!
何を思ったのか、サナに殴られて腫れている頬に対して、さらに自分で拳を叩き込む。
それによって怪我は悪化。かろうじて耐えていた骨も完全に砕けた。
だが、当人はそれで満足したようで、すたすたと元の場所に戻ってニコニコしている。
(いやー、引くわぁー。フェミもそこまでいけばすごいよな。ラブヘイア並みにヤバイやつだったのか…!!)
アンシュラオンも思わずドン引きである。
たしかに女性を大切にすることは重要だが、女だからといってすべてが正しいわけではない。シャイナを見てもわかるように、女だって普通に犯罪を犯すものだ。
駄目なものは駄目。良いものは良い。そこに男女の差はない。
アンシュラオンも女性を守る理念を抱いているが、さすがにここまではいかないし、いきたくもない。
「ねぇ、あの人、大丈夫なの?」
ヤバイやつリストに入ってしまったため、素性をガンプドルフに確認。
「ゼイヴァーか? …言いたいことはわかるが、当人の中に流儀があるのだから仕方がない」
「何か理由でもあるの? それとも最初からヤバイの?」
「最初からではない。…戦後からだ。あいつは家族を戦争で失っている。女性が多い家庭だったらしくてな。父親が死んでからは、男はあいつ一人だったらしい。それだけならばまだよかったのだろうが…」
戦後、ルシアの駐屯軍が町の女性に暴行を加えようとしたところ、ゼイヴァーはその連中を殴り殺した。
普通に殴り殺すのではない。徹底的に存在を消すかのように叩き潰した。文字通り、ミンチにしたのだ。現場検証をした者に訊いたところ、骨と皮がかろうじて残っていたくらいだったというから壮絶だ。
事件を起こしたのはルシア騎士ではなく、雑兵として扱っていた傭兵団だったらしいが、それでもルシアの兵だ。捕まり、牢獄に入れられた。
強い武人はルシアにとっても貴重な存在である。たびたび不問にする代わりにルシア軍に入ることを勧められたが、彼が頷くことはなかった。
見せしめの意味もあったのだろう。それによって『死刑』が決まった。
「処刑される前に私の部下が収容所を襲撃し、助け出したのだ。だが、その頃にはすでにやつは、ああいった考えに染まっていた。間違ってはいないし悪いとは言わないが…困ったものだ」
「実戦で邪魔にならない?」
「自分より強い相手ならば女でも問題ないようだ。が、積極的に戦おうとはしないだろうな。そもそも女の武人は少ない。無理にあいつが戦う必要はないし、見た通り能力はかなり高い。少なくとも魔獣との戦いでは大丈夫だ。そこは保証しよう」
「まあ、強いのならいいか。こっちが使い場所を見定めればいいしね」
(ここにいる連中は、多かれ少なかれルシアに恨みを抱いている者たちなんだな。そりゃそうだよね。恨みの感情…か。サナはそれも吸い取るのかな? オレとしては冒険の楽しさを味わってほしいんだけどな)
怒りと恨みは似ているが、また若干違うものである。
それがサナにどういった影響を与えるのかはわからない。