【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
「次はセノアとラノアだな」
「は、はい」
「あーい」
「君たちはすでに述べた通り、術式の扱いに慣れてもらおうと思う。普通の装備も与えるが、できるだけ術を使って対処するようにするんだよ。術符ではなく直接術式でね。そうすれば、いざというときに役立つ。そのためにこれをあげよう」
アンシュラオンが十五センチ大の丸い球を差し出す。
少し白濁しているが、おおむね透明なものだ。
「これは水晶球ですか?」
「ただの水晶じゃないよ。『
術者が術を使えばBP(精神)を消費する。これは技も同じだ。
連発して使うには、武人ならば練気でBPを補充する必要があるが、武人でない術者にはそれができない。(ファテロナ等のハイブリッドならば可能)
そのために開発されたものが、この魔力珠である。
見た目は水晶玉だが、その内部は術式に反応する【魔素】で満たされている。
魔素とは、言ってしまえば術士版の戦気のようなものだ。普遍的流動体を使って生み出しているので、ほぼ戦気と構成要素は同じである。
異なるのは、その使い道。
戦気が技を使うことに特化した化合物であるのに対し、魔素は術を使うことに特化している。
術を実行するのはあくまで術者当人であるのだが、魔素は術者の精神を媒介することで演算処理の助けを行ってくれることが、大きな特徴といえる。
少したとえは悪いが、大量の計算をする際に「筆算」でやるか「計算機」でやるかの違いに似ている。
あるいはCPUに塗るグリスといってもよいだろうか。武器に設定されている『伝導率』に似た要素となるわけだ。これが優れていればいるほど、計算速度が上昇する。
さらに魔素には、演算結果を一時的に蓄積する機能があり、同じ術式を発動させる場合の簡易化に加え、それに伴う精神の疲労を軽減させる効果もある。
通常の魔素は術の発動時に自動的に生成されて消費するのだが、それを人工的に集めたものが魔力珠となる。
つまりは、まさにブースター。
さきほど与えた腕輪にもあったが、予備のエネルギータンクであり、演算処理を手伝ってくれる計算機でもある。
これがあると無いとでは術者の性能に大きな差が出てくる。
ただし、アンシュラオンのように化け物級の演算処理能力を持つ場合は、自前に生み出す魔素があまりに大きく質が良いため、こういう下級のブースターを仲介させるとマイナスの結果になってしまうので注意が必要だ。
もともと優れた映像処理能力を持つCPUに、低出力のビデオカードを差すと性能が悪くなるのと一緒である。
それを知っているエメラーダも、弟子の弟子(ロゼ姉妹)に渡すために用意してくれたものだ。
「さあ、起動してごらん。すでに生体認証は終わっているから、触ってあげれば動くはずさ」
「は、はい。こう…かな? うわ、浮きましたっ!?」
「そういう仕様みたいだね。オレとしては無駄に力を使うから必要ないと思うけど、発動中に落としたら困るから、それはそれでいいのかも。魔力珠から『
「は、はい。ちょっと気持ち悪いですが…」
「それは一般人には見えない術糸だ。君たちが念話で使っているものが『無線』だとすれば、それは『糸電話』と同じようなものだね。オレが君たちに作った専用回線と同じ仕組みさ。その管を通じて精神に介入して、処理を助けてくれるんだ」
「は、はぁ。すごいんですね…」
「『
「はい。でも、まだ上手く発動できなくて…」
「試しに、この石に術をかけてごらん」
「は、はい」
セノアは情報術式の勉強をしているものの、まだまだ始めたばかりなので、ようやく算数を覚え始めた小学生と同じ状況だ。
軽い足し算くらいならばよいが、核剛金などの強化系術式は、相手の情報を読み取る力も必要となるので難しい。
(ご主人様が見ているんだから、しっかりしないと…)
石をじっと見つめ、数値を読み取る。
肉眼を使うのではなく『術者の眼』を使って見るのだ。
上手く集中できないと他の数値が見えるし、交じり合って読み取れないこともある。そもそも調子が悪いと見えないこともあるのだ。だからこそ術は難しい。
しかし、魔力珠が光ると―――鮮明
近眼の子が眼鏡をかけた時のように、一気に視界がクリアになって細かいところまでよく見えるようになった。
(はっきり見える。これなら…数値をいじって……)
だいぶ前にも述べたが、この術は原子と原子を繋ぎ止める結晶構造を強化する術式である。
べつにセノアが、その一つ一つを操作して強固にしているわけではない。
核剛金という『すでに作られたプログラム』を走らせているのだ。それ以外の処理は基礎エンジンたる星のシステムがやってくれるように出来ている。
術士がやることは、魔素の生成とプログラムの起動コードを覚えることだ。魔力珠は、それをサポートしてくれる心強い味方である。
魔力珠の力を借りて、術式が完成。
「で、できた…! できました…よね?」
「うん、しっかり『堅く』なっているね。どうだい、よく見えたかい?」
「はい! こんなにはっきり見えたのは初めてです!」
「この魔力珠は補助輪みたいなものだ。慣れていけばブースター無しでも術が素早く使えるようになるだろう。まあ、そうなったらもっと強いブースターを使うことになるから、このままずっとお世話になるとは思うけどね。でも、今の核剛金だけで、君は一生職に困らないんだよ?」
「え? 今ので…ですか?」
「そうそう、マキさんとかはわざわざ買っていたくらいだ。その一回で五十万だよ」
「ええええええええええええ!!?」
泡を吹いて倒れそうなくらい驚いた。
「ね、これだけで暮らせるでしょ? 術符より安くしたら大繁盛さ。そうだ、一般街に買った土地の一角で術式屋でも開いてみるかい? グラス・ギースなら怖いお兄さんも来ないからね。むしろ泣きながら常連客になってくれるよ」
「むりむりむり、無理ですぅううう!」
「そう? いい訓練になりそうなんだけど…そうなるとコッペパンが廃業になっちゃうかな? と、それはいいとして、核剛金以外にも『
「そっちのほうが落ち着きます…」
(すごい才能を持っているのに、もったいないなぁ。これが一般人の感覚ともいえるけどね。謙虚なのはいいことだが、やはり自信を与えたいよね)
彼女にはこれだけでも十分だろうが、より自信を与えるために見栄えする術式も用意してある。
「『若癒』の術式も組み込んである。今日から傷の手当を手伝ってくれ」
「若癒…ですか? ご主人様がやっているやつですよね?」
「そうだね。ここには実験台がたくさんいるから、やればやるほど上手くなっていくはずだ。さすがに切断とかは難しいけど、魔力珠を使えば擦り傷や切り傷くらいならば治せるはずだよ」
「で、でも、今日からですか!?」
「実践して学ぶほうが早い。失敗してもオレがサポートするから安心してくれ。君がこの術式を自由に使えるようになれば、困っている誰かを助けることができる。とても良いことだろう? 身内が怪我をしても対応できるんだ」
「わ、わかりました…それなら…がんばれそうです」
「よしよし、いい子だ。そしてもう一つ、攻撃術式を教えよう」
「攻撃?」
「あそこの的を見ててね」
アンシュラオンが掌を向けると、小さな粒子が煌きながら的に向かっていき、激突。
細かい穴をあける。
以前アンシュラオンがモヒカンにやった空点衝に似ているが、こちらは純粋な術式による攻撃である。
「これが『魔力弾』だ。攻撃術式の多くは元素術式による属性攻撃が中心だが、この魔力弾は殴る蹴るといった通常攻撃に該当するものだ。情報術士の一般的な攻撃手段と思ってくれればいい。これの長所は構造が簡単ゆえに、いろいろとカスタマイズできるところだ。たとえば、より大きなエネルギーを与えてあげれば―――」
掌に、スイカくらいの大きさの魔力弾が生まれる。
さらに力を注ぐと、二メートルくらいにまで大きくなった。
球でなくてもいい。立方体にしたり長細くしたり、さまざまな形になる。
「こんなふうに威力や形を変えることができるんだ。原理的には、暫定的な物質の『殻』を構築する感じだね。この世界では、物質を生成する際に外郭のデータを作るから、それを応用したテクニックといえる」
この外郭を生み出しているのも魔素である。
さらに内部に魔素を注入することで質量を与え、固形として維持しているわけだ。
攻撃に使わずとも、土台にしたり、壁にしたりすることもできる。
「無限盾も、これを応用した術式だ。それはあとで教えるとして、まずは普通の魔力弾として使ってみよう」
魔力弾は、この物質を高速で射出することで破壊力を生み出している。
それだけだと物理攻撃になってしまうが、中身は魔素なので、殻が壊れて衝撃が伝わる時にはしっかりと術式攻撃となっている。(逆に物質性を高めると強固な物体として活用できる)
問題は、どうやって撃ち出すかだ。
射出の方法には複数のやり方があるが、ここでは一番簡単な『反発式』を使うことにする。
「反発式は、撃ち出す魔力弾のほかに、もう一つ射出用のものを逆側に作る。それを圧縮崩壊させて、反発するエネルギーを使って指向性を与えるんだ。言ってしまえば『術式事故』を意図的に起こして、空間が元に戻る際の反発力を利用するってことだね」
「……は、はい。なるほど…」
「…うん、ややこしいよね。そっちの作業は魔力珠が代理でやってくれるから、セノアは撃ち出したい弾の大きさや形を作ればいいよ。ただ、原理を覚えておくのも大切なことだ。慣れれば無意識のうちにできるようになる。さあ、まずはやってみよう」
「わかりました。や、やってみます!」
セノアは魔力弾のイメージを思い浮かべる。
弾という名前から素直に丸い形を作り出したのは、彼女の素直さゆえだろうか。
実はこれも普通の人間にはできないことなので、この段階で彼女に才能があることがわかる。
「形を作ったら、発射という命令を魔力珠に伝えるんだ」
「は、はい! 魔力珠さん、お願いします!」
セノアが魔力珠に命令を発し、弾が飛ぶ。
トトトトンッ
魔力弾が的に命中。
まだ彼女のBPの少なさや術式の不安定さから、銃弾というほどの威力はなく、命中率も良いとはいえない。いくつか外してしまう。
しかしながら、金属の的に窪みができていることから、まともに受ければ大人でも失神するレベルの衝撃はあるようだ。
地球でも強力な空気銃で木の板くらいは貫通できるので、それに近い威力だ。初めてにしては、なかなかよい。
「で、できた。できました!」
「そうだ。君は出来る子だよ。よしよし」
「…は、はい…」
頭を優しく撫でてあげると、恥ずかしそうにうつむく。
しかし、その表情には充実感が見て取れる。
(セノアは褒めて伸ばしてあげるのが一番いいな。もっともっと褒めて自信をつけさせよう)
そのほかに『無限盾』の練習もさせる。
これも魔力弾の応用であり、魔力珠のサポートがあれば発動は容易だ。
物理障壁は何かと便利である。これを使えるだけでも有益な存在となれるだろう。
「じゃあ、次はラノアだ。ラノアもお姉ちゃんと同じように専用のブースターを用意したよ。動かせるかい?」
「うん」
セノアを見ていたせいもあり、あっさりと起動に成功。
彼女は姉よりも術糸(念糸)の扱いにも長けていることがわかる。
「ラノアはオレと同じ操作系が得意みたいだ。念糸の扱い方には二種類ある。一つは物質の操作。単純に物に念糸を張り付けて、その力で動かすんだ。これに念糸を接続してごらん」
「わかったー」
アンシュラオンが生み出した魔力弾に、ラノアが念糸を結合する。
「動かせるかい?」
「うん!」
魔力弾がくるくる回ったり、上下に動いたりする。
それを操作しているのは、もちろんラノアだ。
「くるくるくるー」
「いいぞ、クルマでの訓練が役立っているな。これが『念動力』ってやつだ。今作ったものは質量が軽いから簡単に動かせるけど、当然ながら重ければ重いほど大変になる。生体磁気が少ないセノアにはまだ難しいかもしれないね。それでも覚えておくと、のちのち便利になるよ」
よく地球でも念動力が話題になる。念力やサイコキネシスといったものだ。
あれは実際のところ、こうやってエネルギーの糸あるいは紐を生み出して持ち上げるだけなので、はっきり言えば力技に等しい。
これも生体磁気と普遍的流動体の化合物である魔素によって作られたものである。
現状のラノアの体力や精神力を考えれば、動かせるのは椅子などの家具くらいなものだろう。
だが、念糸の可能性はこんなものではない。
「念糸の本領はどこにあるかといえば―――【精神操作】だ。では、こいつで試そうか。昨日、捕まえたんだ」
アンシュラオンが、一匹のウサギに似た魔獣を連れてくる。
中型犬くらいの大きさなので地球のものとは違うが、かなり温和な性格のようで、捕まえてもあまり抵抗しない不思議な魔獣である。
というより、一日の大半を寝ているようなので、いつも眠たそうにしているのが特徴だ。実際、名前も『夢兎』である。
能力も見たが、とても弱くて危険なスキルもなかったため、実験にぴったりだと捕獲してみた。
そのウサギの前足に念糸を接続。
「まずは、さっきやったように物理的に束縛して自由に動かす」
ぐいぐい
ウサギの前足が引っ張られて、アンシュラオンの思った通りに動く。
よく猫動画を見ていると、飼い主が抱きかかえた猫の手を持って遊んでいる光景が見られるだろう。あれと同じである。
念糸を操作したい部位に接続すれば、力が強いほうが強制的に動かすことができるという極めて当たり前の話だ。
が、ここからさらに先に進むと、途端に凶悪な話になっていく。
「続いて、念糸を【精神と結合】する。肉体じゃなくて、このウサギの幽的神経に結合するんだ」
肉体の構造の話でも出たが、肉体を操っているのは脳や神経であるが、その裏側には意識の本体である霊体が存在している。肉体は表現媒体であり、霊体の道具だ。
その両者の中間には、半物質で出来た幽的な媒体が存在し、これを仲介することで霊体が物的身体を動かす仕組みになっている。
そこに他者が念糸を差し込んで、横から別の命令を出して伝達ルートを乗っ取るのである。
こうした場合も、ウサギは思い通りに動く。結果は同じだ。
しかし、神経を乗っ取っているので物理的な力は必要ない。命令を出してやれば、ウサギ自身の筋肉で簡単に動いてくれる。
「これを脳神経で行うと、一時的に相手を完全に乗っ取ることができる。オレがエメラーダにやられたものと原理は同じだよ」
精神術式。
スレイブ・ギアスを筆頭に、もっとも危険とされている術式体系である。