【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
「うおおおおっ!!」
ガンプドルフが転がるように炎から脱出。
ブスブスと鎧の表面が焦げているが、中の肉体はしっかりと守ってくれていた。
どんだけ強いんだ、この鎧は。と言いたくもなるが、だからこそ武人は強い武具を欲する。
ソブカに雇われた傭兵たちが術式武具をもらって感謝するのは、こういう理由からだ。それが生存に繋がるからである。
一方で、こうして実験台が頑強だからこそ、アンシュラオンのインスピレーションが刺激されていく。
打開するにはどうすればいいのか、思考がフル回転するのだ。
(あと少し…少しだけ何か違う。これじゃ力が無駄に散らばっているだけのような気がする。もっと違うやり方があるはずだ。世界の法則は、おのずと効率と完全性を求めるんだ。もっと先があるに決まっている)
術はたしかに有用で、剣での攻撃をサポートしてくれる。剣もまた牽制として役立っている。
しかし、物足りない。
どちらも単発では大きなダメージにならない。まだ歯車が噛み合っていない、何かもどかしい感覚が残っているのだ。
(あの鎧を切り裂くには、剣と術を同時に叩き込む必要がある。しかし、別々に展開するとどちらかが潰れてしまう。…そういえば、たしかこういう技があったな)
ボォッとアンシュラオンの剣が燃える。
『属性剣』。
ファテロナが使っていた『
今は『
アンシュラオンは試しに属性剣を使って攻撃を開始。
互いの剣が激突。
ガンプドルフも術のダメージはあるが、まだまだ体力はあった。しかも今度は術をかなり警戒しているようで、一撃離脱戦法を取り始める。
もともと一撃重視なので、ああいう戦い方もあるということだ。
当然、属性剣もあまり役立たない。所詮『化紋』は低レベルの術式だからだ。
(違う。これじゃない。そうじゃないんだ。もっとこう、剣と一緒に強い術を叩き込む感覚が―――あっ! そうか…これならいけるか?)
アンシュラオンが剣を構え、剣気を放出。
そして、その【剣気の内部】に意識を集中させていく。
炎が―――宿った
剣気の上ではなく、中が炎で満たされていく。
(いける…のか? 剣気の中で術式を構築するように……反発させないように…一つに融合する感覚で、常時高速で術式を展開し続ける…)
ここで重要なことは術式を展開し続けることだ。
一発放って終わりでは、そこで燃え尽きてしまう。剣気と同じように常時放出し続け、それでいながら剣気と反発しないように調整する。
アンシュラオンの演算処理が加速していく。
0と1の数字で世界が満たされ、そこで構築された空間に、今度は強い元素の力が招かれる。
(そうだ、こい。火の精霊が好む空間を作るんだ。それを剣気の中で循環させる。放出と還元によって回転させていく感覚で…)
剣士と術士の因子が、混じって一つの色になるように、パズルを一つずつ組み立てていく。
カチッ
しばらく試行錯誤していると、二つが綺麗にはまった。
「―――ッ!!」
この時、アンシュラオンの中で激震が走った。
いつもは漠然とした予感でしかなかった『デルタ・ブライト〈完全なる光〉』が、はっきりと動き出すのがわかった。
ギギギギッ ギュルッ ギュルルルルッ!!
剣士と術士の二つの因子が―――廻り出す!!
回る、周る、廻る!!
油を差したギアのように、ガソリンを補充したエンジンのように、最初は手間取ったものが一気に高速回転していく。
光が、溢れる。
―――〈アンシュラオン〉
声が聴こえた。
その声はここにあるわけでも、現実の物的世界にもあるわけでもない。
因子の中から声が聴こえるのだ。
そして、肉眼では見えない【女性の姿が、視える】。
彼女は赤い着物を身にまとい、大柄な体格で、それに見合うだけの大きな剣を持っていた。
顔つきは穏やかながらも、その青い瞳には強い意思が宿り、見る者を慈愛と畏怖で包み込む。
その両極端な性質が見事に絡み合い、アンシュラオンでさえ息を呑む美しさが生まれていた。
女性が、剣を突き立てると―――海が生まれた
巨大な海流の流れが、時には優しく、時には激しく蠢き、世界そのものを動かしていく。
女性は、背筋が震えるような強く美しい声で自分を呼ぶ。
―――〈いまだ『盲目』の身でありながら【約束通り】、よくぞここまで来てくれましたね〉
(…約束? 何のこと? というか、お姉さんは誰? こんな美人、一度見たら忘れることはないと思うけど)
―――〈ふふふ、何も覚えていないのね。私はあなたと縁ある者。あとは自分で思い出してごらんなさい。本当は『私の旦那』がやってくるはずだったのだけれど、あの人はまだあなたには会えない。あなたの剣の因子が完全に覚醒した時、彼があなたに『神技』を授けます。その時まで待っていなさいな〉
(それはありがたいけど…今、戦闘中なんだよなぁ。まあ、止まっているみたいだからいいけどさ、けっこういっぱいいっぱいなんだよね。処理が追いつかなくて)
―――〈それはあなたの剣の因子が解放されていないからです。術の因子は解放されたようですが、剣の因子の流れが悪い。だからそこで詰まっているの〉
(え? そうなの? まさか、また『封印』ってやつ? それも姉ちゃんがやったの?)
―――〈これはそれ以外の要素。あなた自身が、あなたを封じたものです。あなたが忘れているだけ。その記憶も【
(っ……どういう……普通は逆じゃない?)
―――〈アンシュラオン、可愛い子。あなたが私の子でなくても、この愛はいささかも衰えることはありません。なぜならば、すべての人間が私たちの子供。だからこそ、あなたの中にはさまざまな想いや願いが込められているのです。それを忘れないでください)
(オレは…オレだけのために生きる!! そう決めたんだ! いくらお姉さんでも、それだけは譲れないよ!)
―――〈それでかまいません。しかし、強くなることを怠ってはいけません。神技をもって『真の災厄』と『因果』に打ち勝つのです〉
(真の災厄? 今までのものは本当の災厄じゃないってことなの?)
―――〈それを語るのは私の役目ではありません。代わりに時代が、あなたを取り巻く環境が語ってくれるでしょう。そのためにすでに【宿命の螺旋】は動いています。あなたの前に現れる強き者たちすべてが、真のあなたを目覚めさせてくれます。私もその一人。さぁ、早く起きなさい。寝坊助は叩き起こされるのが世の常よ〉
(待って、まだ訊きたいことが―――)
―――〈マリスの輝きが、あなたを導きますように。マグリアーナの愛が、あなたを守りますように。そして私の渦が、あなたを激しく揺さぶりますように〉
(っ!!)
女性が剣を、アンシュラオンに突き刺す。
だが、痛みはない。
それどころか―――
「うううっ…おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
身体の中、気持ちの中、感情の中、精神の中、霊の中。
あらゆるものが渦に巻き込まれ、加速していく。
それに伴い、アンシュラオンの凄まじい戦気が爆発!!
周囲の帯気をすべて吹き飛ばすほどの強烈な波動を生み出す。
本来ならばガンプドルフは、このタイミングで攻撃を仕掛けるべきなのだが、動けない。
その荒ぶる波動に気圧されているのだ。
アンシュラオンの剣が―――激しく燃えているから!!
属性剣でも同じ現象は起こるのだが、見た目は一緒でも中身がまるで違っていた。
(熱い…身体が熱い!! わかるぞ、因子が燃えている!! 今、オレの因子は急速に目覚めているんだ!! 剣の流れがわかる! 剣にかける想いが、オレを貫く!!)
ガンプドルフという剣の達人を相手にして、剣の道筋を見た。
今自分が超えるべき壁を認識したことで、因子の覚醒が始まったのだ。
そして、女性によって【
半ば眠っていた剣の因子が、錆付いていたものが、今ようやくにして解放されたのだ。
だから―――絶好調!!
(いける!! これならばいける!!)
アンシュラオンが接近し―――【一閃】
燃えた剣を振る。
「っ!」
ガンプドルフは思わず引いた形で、剣でガードするも―――
ザチュンッ!! ジュオッ
「なんと!! トールガイアが!!」
受けた側には、明らかにこれが今までと違うことがわかる。
その証拠にトールガイアの剣が『溶解』している。
「すげぇ!! これはすごいよ!! ありがとう、お姉さん!! オレはあなたが好きだ!!」
アンシュラオンはかまわず剣を振りまくる。流れもくそもあったものではない。
ただがむしゃらに、地下闘技場でのサナのように叩きつける。
今ならば彼女の無邪気な気持ちもわかるのだ。だから自分も童心に返りたかったのかもしれない。
叩きつけるたびにトールガイアの剣に傷が入り、ほんの少しずつだが溶けていく。
ガンプドルフはショックのほうが強くて防戦一方。
しかし、今起きていることはとんでもないことなのだ。すぐに対応できるわけがない。
(まさか…【剣で術式を発動】させている…のか!? 剣気の内部で術式を展開させて…!! 馬鹿な…これは、これは…!!)
アンシュラオンは通常の斬撃と同時に【術そのもの】を叩き込んでいる。
この違いがわかるだろうか?
化紋はあくまで属性の付与。表面に火属性を付与するだけだ。簡単に言ってしまえば、一時的に術式武具を生み出すことに等しい。便利だが、それだけだ。
しかしこれは、剣で斬りつけた場所に追加で炎柱陣を見舞っている。正しくいえば、剣用にカスタマイズした因子レベル4の『炎柱陣』が同時に発動している。
これが結論。
剣と一緒に術も使いたいなら、剣と一緒に叩き込んでしまえばいい。
それならば剣の威力も上がってちょうどいいじゃないか。術だって至近距離で発動できるよね。
それだけの発想である。
だが、だがしかし!! それはまさに!!!
(これは!!! 【剣王】の奥義だ!!!)
実はこの技、すでに歴代の剣王が開発しているものである。
その技の名は、属性剣を超えた―――『
二つの因子を完全に『同期』させた者だけが使える剣、という意味だ。
世界最強の剣士である剣王の中には、術の才能を同時に併せ持つハイブリッドも少なくない。
これは各因子の配列が正三角形ではなく、
戦士――――――剣士―――術士
となっているからだ。
戦士の因子は身体能力の向上であるため、もっとも精神的な要素である術とは遠い場所にある。
剣士は剣気を操る能力であるため、戦士よりは精神性が高い。それゆえに剣士には術の才能を併せ持つ者が多いのである。
ファテロナが低因子でもあれだけの力を放つのは、やはりハイブリッド自体が【倍の効果】もたらすからだ。
それをアンシュラオンは、因子レベル4で体現している。となれば、今この剣には因子レベル8に等しい力が宿っていることを意味する。
これを
―――【ツインミユーズ・ドライブ〈双因子覚醒〉】
と呼ぶ。
間違いなく、剣王級の才覚。
目の前の少年はその気になれば、剣王にさえなれてしまう才能がある!!
覇王の弟子が剣王になる、といった世界初の珍事が発生するかもしれないのだ。世界中が大騒ぎになるだろう。
ただし、この男はそれすら超える。
目前に―――アンシュラオンの脚
鋭い蹴りが目の前まで迫り…ながら、急激に速度を落として止まる。
(おっとっと!! 無防備だから、ついつい蹴りそうになっちゃったよ! 危ない危ない。調子に乗っちゃいけないな)
驚愕していたガンプドルフに隙があったので癖で攻撃しそうになったが、なんとか未然で防ぎ、一旦離れて頭を切り替える。
そう、現在のアンシュラオンは格闘を封印している。
この状態で一番得意である覇王技が加わったらどうなってしまうのか。それを想像するだけで身震いするものだ。
だが、それでこそアンシュラオン。
ガンプドルフが惚れた逸材。
心が―――燃え立つ!!
「君は素敵だな、少年!! 本当に太陽そのものだ!! だからこんなにも熱い!! 熱くて熱くてたまらない!! 私を熱く燃えさせてくれる!!」
「おっさんも出し惜しみはなしだ。全部をぶつけてきな!」
「ああ、そうさせてもらう!!」
ガンプドルフは戦う相手に飢えていた。
自分の全力を出せることを求めていた。
この東大陸では責任ばかりを感じていて、武人として心から戦うことなどできない。
自分と対等な者もおらず、常に湿った感情が渦巻いていた。
それが急速に燃焼し、体温が上昇していくのを感じる。心が燃えているのだ。
この太陽の前で、ナヨナヨした感情など、いらない!!
(力が漲ってくる! やる気が出てくる!! 私は武人だ!! どこまでいっても武人なのだ!! ルシアがなんだ!! 国の命運がなんだ!!! どんな困難にだって打ち勝てる!!)
「私はぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
ガンプドルフの右手が激しい輝きを放つ。
彼が最後の最後まで取っておいたものは―――魔石!!
「雷剄の力、聖剣の資質―――シャクティマズ・グラズム〈雷範の結合者〉!!」
サナの魔石同様、ガンプドルフ専用の魔石が発動。
これは聖剣を起動させる前に適合者であることを示すため、各聖剣長それぞれに与えられている魔石である。
言ってしまえば聖剣のセキュリティの一つなのだが、聖剣の素材の一部を使って作られたものであるため、それそのものが強力な媒体となる。
そして、サナが魔石を使えばあれだけ強化されるのだから―――
「うおおおおおおおおおおおおお!!」
ガンプドルフの戦気が増幅。
残っていた周囲の帯気をすべて右手が吸収すると―――輝く
それは雷が超圧縮したもので、もはや人間の手ではなかった。
この圧力に耐えられるのは、雷に特化したトールガイアと聖剣のみ。
雷手の力を吸ったトールガイアが―――圧縮された雷で光り輝く!!
その姿は、まるで擬似聖剣に等しい。
だが、これだけの力だ。当然デメリットも存在した。
―――〈つれないお誘いだね、ガンプドルフ。手だけなんてあんまりじゃないか。私を退屈させるつもりなのか?〉
姿は見えないが、声だけははっきりと聴こえる。
男か女かもわからない中性的な声だが、身体の芯に響くような力強さと妖艶さがあった。
まさにエネルギーの塊が、音を通じて突き刺さるようだ。
それこそ―――!!
「シャクティマ! 今は手だけを使う!!」
―――〈我慢しないで私を使えばいいのさ、ねぇ、弱い弱いガンプドルフ。また這いずっておくれよ。それを眺めるのが好きなのさ〉
「これから好きなだけ拝ませてやる! 嫌でもそのうちお前の出番が来るからな! だが、今は我慢しろ!」
―――〈まあいいよ。これもまた面白そうだからね。『女神の加護』と『精霊王の加護』、どっちが強いか試してごらん。私も興味がある〉
「女神だと? 何を知っている?」
―――〈知っているもなにも、今来たじゃないか。大海の女神がやってくるとは、なんて珍しい。まあ、あれは因子に記憶させた疑似人格のようだけどね。いいかい、ガンプドルフ。ここでの出会い、戦いのすべてが定められたものなんだ。でも、お前たち女神の子には『完全なる因子』が宿っている。どんな思惑だって打ち破れるのさ。人らしく、せいぜいあがいてみせるんだね〉
「むろんだ!! 言われるまでもない! 私の全力を、恋焦がれるようにぶつけるだけだ!!」
―――〈はははは、やはりお前は面白い。さあ、踊ってごらん。宿命の螺旋の中で踊り狂ってみせな〉
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名前 :シャクティマズ・グラズム〈雷範の結合者〉
種類 :魔石
希少度:SS
評価 :S
概要 :聖剣の一部を使って作られた魔石の一つ。聖剣を起動させる前の準備段階として使用するが、雷妖王の力が部分的に宿っているため、通常時でも使用は可能。雷妖王の手が具現化するSランクジュエル。
効果 :雷妖王の手、雷吸収、精神耐性、BP+2000、精神+2、命中+2、回避+2
【詳細】
耐久 :S/S
魔力 :S/S
伝導率:S/S
属性 :雷
適合型:魔力
硬度 :S
備考 :ガンプドルフ専用
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