【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
翌日。
ガンプドルフは回復し、慌しく出立の準備を進めていた。
休めと言われても、それが簡単にできないのが司令官である。
だが、今まで以上に気迫と自信に満ちた彼の姿は、部下たちのやる気を引き出す。
昨日の戦いでアンシュラオンの力を見たことで希望が湧いたのだ。
頼るべきものが聖剣以外にもある。そのことがいかに彼らを勇気付けるのか、当事者でなければわからないだろう。
そして、それは訓練にも如実に表れる。
サナは再びゼイヴァーと戦っていた。
武器は模擬戦用のものだが、今回は新しい技を引っさげての再戦であるので善戦するかと思われた。
が、すでにサナの力を認めているゼイヴァーには通じない。
多少驚かせた場面はあったが、試合は終始ゼイヴァーのペースで動く。
闇属性の攻撃は奇襲でこそ真価を発揮する。すでに特性を知っている相手には必然的に警戒され、一対一の何もないフィールドでは効果は薄かった。
ここで魔石が使えれば一味違っただろうが、訓練ではそうもいかない。彼もまた作戦が近づいていることで本気モードであった。
結果はサナの負け。
連敗である。
それでもゼイヴァーと戦えることは大きな財産となっているようで、少しずつ対応している場面も増えてきた。
ただし、やはりDBDの騎士は強い。
怪我が治ったバルドロスとも連続して模擬戦を開始。
バルドロスはゼイヴァーのような細かく正確な動きはしないが、その分だけ読みの鋭さと範囲攻撃で応戦してくる。
耐久力も桁違いであり、多少の被弾は物ともしない強靭さがあった。
特に地面を使った攻撃は脅威で、足場を崩すことでサナの足回りを地味に潰していく。
サナがゼイヴァーにやった土砂による目潰しも通じない。それどころか逆に同じことをされて動きを封じられる。当然、彼のほうが放つ土の量は多いので、魔石なしでも散弾と変わらない威力がある。
結果、敗北。
特殊な武器無し、魔石無しの現状では、彼らに勝つことは不可能に近かった。
続いてサリータの模擬戦が始まる。
前回と違うのは【武器】があること。杭無しかつ噴射機能無しのボムハンマーを持っている点である。
これだけならばただの鈍器なので、刃の無い剣や斧とそう変わらない。
初戦は、勝利。
前回同様、義勇兵として集められた弱い相手だったので、勝つことはそう難しくなかった。
が、次に出てきた兵士には負けてしまった。
今回は盾を破壊されることはなかったが、逆に盾を気にするあまり動きが単調になってしまう。
そうして左右に振られ、盾の制御が甘くなったところを狙われ、次第にダメージを負っていく。
結局、そのまま不利な状況を挽回できずに終了。
戦気が使えないので力負けするため、そこをカバーしようと体勢が前がかりになって動きが鈍くなるのだ。
しかしながらハンクスが言ったように相手が魔獣だと思えば、いくら戦気が使えたとしても同じ状況に陥るだろう。
それを見ていたアンシュラオン評が、こちら
昨日の戦いで注目を浴びてしまったので、陰からこそっと見ていたのである。
(勝てたかは別として、もっと粘れた相手ではあったはずだ。技術の習熟度と筋力は仕方ないにしても、咄嗟の判断力や対応力が足りないんだ。あとはやっぱり【自信】かな。自信があるかどうかってのは対峙すればすぐにわかることだし、戦いではどうしても影響しちゃうんだよな)
スポーツの試合でも、びくびくしていれば相手に付け込まれる場面が増える。
肉体を操作するのは精神であり、感情が大きく関わってくるからだ。マイナスの感情がどうしても足を引っ張り、最初の判断が遅れるのだ。
(おっさんの影響もあって相手の士気も高い。こうなると手加減もしていられない。かまっている暇がないんだ。うーん、昨日の戦いはサリータには逆効果だったかもしれないな。逆にオレとの差が浮き彫りになっちゃったからな。彼女も真面目だからな…もっと気楽でいいのに)
と思うのは、いつも好き勝手やっている人間だけであり、真面目な分だけ器用に生きられない者は意外と多い。
サリータも完全にそのタイプだ。真面目で愚直。それだけが取り柄なので、人一倍苦しんでいる。
(さぁ、【そろそろ】かな。全体的に良い流れにあるような時こそ、何か問題が起こるもんだ。まあ、今回はオレは手を出さないけどね。おっさんの立場もあるし、何よりもやる気満々の女性たちを邪魔するのは怖い。ゆっくり見物といくかな)
そう言って、またこっそり隠れる主人公であった。
ほぼストーカーであるが、自覚はない。
∞†∞†∞
「くそっ!」
負けたサリータが、キャンプの裏側で悔しがっていた。
ハンクスの訓練を受けて少しは成長したと思っていたが、相手は毎日のようにここで鍛錬している連中だ。
少し教わったからといって簡単に追いつけるわけがない。上達の兆しが見えたからこその悔しさがある。
「なさけない! これでは師匠に会わせる顔がない! どうすれば強くなれる! どうすれば…!」
弱いのはわかっている。才能がないのは知っている。
なにせ同時期に鍛錬を始めたサナに、すでにこれだけの差をつけられているのだ。
今となっては彼女と腕力勝負をしようものならば、あっという間にひっくり返される始末である。
戦術理解度でも足元にも及ばない。サナは記憶力だけならば、まさに天才なのだ。勉強だって国語以外は満点だ。(漢字は覚えられても、相手の感情を理解することができない)
それだけならば、まだいい。サナはいいのだ。
「さすが自分が仕える『姫』だ!」と感動すらしている。
しかし、ホロロや小百合にまで微妙に立場を奪われていることが問題だ。
ホロロは術具を使うとはいえ、ホテル脱出時に見せたような危ない場面での冷静な判断力を持っている。さらに最近では射撃の腕前も上がっているではないか。新しい武器にも簡単に順応している。
アンシュラオンが彼女をメイド長にしていることには、はっきりとした理由がある。それだけの資質があるのだ。
小百合は明るい性格だけではなく最低限の護身術も学んでいる。アンシュラオンから刀をもらうほど、さりげなく期待されている人物である。
移住したとはいえ西側先進国のレマール人なので、親から高い教育を受けていることも要因だ。教育の高さはそのまま基本性能を押し上げるため、ここでも差が生まれつつある。
そして、ロゼ姉妹も強敵となっている。
彼女たちにも術士の才能がある。このままいけば、あっという間に戦闘面でも自分より使える存在となるだろう。
彼女たちと自分の最大の相違点は、【戦闘要員】かそうでないか、である。
べつに戦闘に参加しなくてもよい者と、そのためだけに用意された者の立場の差だ。
ロゼ姉妹たちはメイドだけやっていても問題はないだろう。その愛らしさだけでも価値がある。
(何を考えているのだ……こんなことを思うこと自体、無礼だ。序列では自分は一番下。これは当然なのだ。師匠は才能を見る目があるからだ。だが、あまりになさけない。護衛として雇われておきながら、この有様とは…まるで役立たずだ)
才能を考慮して序列が決められているということは、自分には才能がないことを意味する。
このあたりが階級制度の残酷な点だが、あくまで『現状は』である。
このシステムが正しく機能すれば、その順位は変動する可能性があるわけだ。階級があるからこそ、下からのし上がろうという気力が芽生えるものだ。
だが、アンシュラオンの予想通り、サリータは昨日の戦いを見て【萎縮】していた。
強いことは知っていたが、思えば彼女もアンシュラオンの戦いを見たのはヤドイガニ戦以来である。(だいぶ前だ!!)
だからショックのほうが大きかった。
(一国の軍団長に勝ってしまう。しかも西側国家の軍なのだ。…師匠はすごい!! すごすぎて…【弟子】を名乗ることもおこがましい。恥ずかしくてしょうがない!!)
あの戦いの直後、さりげなくアンシュラオンが『覇王の弟子』である情報が流された。
流したのはもちろんガンプドルフ当人だが、それによって一夜にして騎士たちの目の色が変わった。
それだけ覇王の名は世の中に影響力があるのだ。世界最強の【三王】の一角なのだから当然ともいえる。
アンシュラオンは見事、それだけの価値を示した。
自分たちには覇王の弟子が味方にいる、という心強さが、今日の訓練の張り切り具合に出ていたのである。(だからこそアンシュラオンも姿を隠していた。男の注目を浴びるなど真っ平御免だ)
だが、これこそが最大の―――【棘】
今度はサリータが『覇王の弟子の弟子』という、何やら面倒な肩書きを背負うことになってしまった。
これは事実なので仕方ないものの、周りからの視線が痛いのも事実。
いつも以上に落ち込んでいるのは、負けた時のなんともいえない奇妙な空気感が心を抉ったからだ。
誰も何も言わないが、だからこそ痛い。
「私は…向いていないのか? 分不相応だったのではないのか…? 師匠に優しくされればされるほど……惨めになっていく…!」
ついつい本音がこぼれてしまう。
身体を張った自爆しか取り柄がないのならば、それこそ誰でもできるのだ。
自分がいる必要はない。そんな気にさえなってくる。
そんな時である。
―――「おい、うるさいぞ」
「…っ!」
背後から声がしたので慌てて振り向くと、そこには
まだ若く、二十代半ば前といったところだろうか。目はやや垂れ目で、顔立ちも整っていないわけではないので、とりあえずギリギリ良い顔のラインに乗っている部類だ。
鎧と剣に加えて小盾を持っているので、おそらく兵士の一人であろう。
(誰だ?)
サリータは見覚えがなかったので、しばし青年の顔を見つめていた。
しかし、青年のほうはすぐにこちらが誰かわかったのか、明らかに不機嫌な表情を浮かべる。
「なんだ、聖剣長が連れてきた男の連れの女か」
青年はつまらなそうにそう言いながら座り込むと、剣を磨き始めた。
誰もいなかったのでサリータは気付かなかったが、ここは武具の手入れをする
本格的な鍛冶師は戦艦にいるが、別行動をしている状況では頼るわけにもいかない。そうしている間にも武器は刃こぼれし、防具は凹んでいく。
それゆえにこのキャンプでは、自分の武具は自分で修理することが義務付けられている。どうしても壊れてしまったときだけ、新しい武器が支給されるのだ。
「………」
「………」
コンコンコンッ ガンガンガンッ
「………」
「………」
シュッ シュッ シュッ
青年が武具の手入れをする音だけが響く中、そのまま時間が過ぎる。
サリータも人前で愚痴るつもりなどはないが、移動する気も起きなかったのだ。
その様子に苛立ったのか、青年が先につっかける。
「…なんだ、何か用か? 用がないのなら、さっさと立ち去れ。暇人が来るところではないぞ」
「自分も武器の手入れに来ただけだ。用がないわけではない」
「そうか。ならば好きにしろ」
「当然だ」
サリータも鎧を脱ぐが、手入れの仕方がわかるわけでもないので、ただじっとするしかない。
武器に至っては術式ハンマーである。これまた自分ではどうしようもない。
やることといえば、傷が入った盾に補修剤を塗り込むことくらいだ。
それをじっと見ていた青年が、またもや一言。
「不器用だな」
「なんだと?」
「自分の道具の手入れもできないのか。武具が泣いているぞ」
「そ、それは…まだ慣れていないからだ」
「そう言って、こないだ盾を壊したな。お前にとってはいくらでも代わりのある盾だろうが、ここでは盾一つだろうが貴重品だ。それを贅沢に壊してくれるものだ」
「くっ…あれは師匠が手に入れたものだ。お前にどうこう言われる筋合いはない」
「やはり女だな。与えられることが当然だと思っている。女が似合わない格好をして騎士気取りとは笑わせる」
「たしかに騎士とは違うが、これでも傭兵だ。戦うために来ている」
「勝てるのは、まだまだ未熟な兵士ばかりだろう。いいか、あいつらは【一般人】だぞ。まだ見習いの子供と同じだ。そんな相手にしか勝てないんじゃ、お前がいる価値などあるのか?」
「―――っ…!!!」
「おおかた、ここで泣いていたんだろう。女がしゃしゃり出るからそうなる」
「さっきからおんなおんなと、随分と言ってくれるな!!」
「女は女だろう。女など、家でおとなしく家事でもしていればいいんだ」
(なんだこいつは! 喧嘩を売っているのか!!)
サリータもこう見えて傭兵である。アンシュラオンとはあまりに差がありすぎるので従順だが、それだけで傭兵稼業などやってはいられない。
特に女傭兵などは目立つので、こうしてちょっかいを出されることもある。
そんなときは、しっかりと言い返さないと駄目だ。
日本は平和なのでへらへら笑っているだけでも大丈夫だが、自分の意見ははっきりと伝えないと「なめられる」。
たとえ相手が言っていることが『事実』であっても、だ。