【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
「女だって戦える。現にDBDの聖剣長のうち二人は、女性だと聞いているぞ」
「あれは特別だ。あんな化け物と比べるほうがおかしい。ああいうのは『選ばれた』連中なんだよ。お前とは違う」
「それならば男だってそうだろう。お前はどうなんだ。その顔、相当腫れているじゃないか。お前も負けたのだろう?」
最初は逆光でよく見えなかったが、青年の顔は腫れていた。
どうやら彼も模擬戦に参加していたようで、鎧には傷、顔には打撃痕が残っている。なんとも生々しく痛々しい姿だ。
「私は男だ。殴られようが倒されようが、また立ち上がればいい」
「お前も選ばれなかったということではないか。それでよく偉そうに言えたものだな」
「私には戦う理由がある。お前のように囲われているだけの者とは違う」
「自分とて戦士だ!」
「聖剣長とあの男の戦いを見ただろうに。それでも同じことを言えるのか?」
「っ…! そ、それは…!」
「あんなやつがいるんだ。お前など、いてもいなくても同じだ。いや、いるほうが迷惑だ。ここの兵士たちに余計な感情を与える。苦しい中でギリギりで保っているんだよ。そんなところにお前らみたいな浮ついた連中がやってきたら、どうなる? 風紀も秩序もあったもんじゃない。たった数日でこの有様だ」
青年の言うことも正しい。
アンシュラオンたちがやってきたせいで、このキャンプの空気が変わってしまった。
今までは緊迫した張り詰めた雰囲気だったものが、一気に瓦解していくのを感じる。
それはそれで良いことなのだが、その緊張の糸がギリギリのラインで保たれていればどうなるか。一度切れたら戻らなくなるおそれがある。
特に女性がいない環境下では性欲だって我慢しないといけない。戦いの疲れで無理やり発散しているだけであり、中には苦しんでいる者もいるのだ。
誰もが強い武人ではない。人間であり、男である。
「キャンプの外で騒がれているだけでも迷惑だ。さっさと帰れ」
「お前にそんなことを言う権限などないだろう! 師匠はそちらのトップの要請でここにいるのだぞ!」
「だからいてやる、とでも言いたいのか? まあ、あの男はいいだろう。強いからな。だが、それ以上でも以下でもない。どこの馬の骨とも知れない男など、用心棒程度が関の山。所詮は相容れない存在だ」
「師匠は覇王の弟子だぞ!」
「それは聞いた。だが、【あの陽禅公】のだろう? 歴代覇王の中で最強といわれているが、素行は最低中の最低の人物だ。…ああ、そうだな。たしかに弟子だろう。素行の悪さは似ているのかもしれないな」
「なんだと! 師匠への無礼は許さんぞ!! そもそも何様だ、お前は! ただの兵士のくせに偉そうだぞ!」
「兵士ではない。騎士だ。そんなこともわからないのか?」
「…むっ、そういえば良い鎧を着ているな。では、お前は騎士なのか? あまり強そうには見えないが」
「大きなお世話だ。私はこれから王国を守っていかねばならない立場だ。だから強くならねばならない。だが、お前はべつに強くなる必要はないだろう。さっさと帰れ。女は邪魔だ!」
「さっきから好き放題言ってくれる!! 女性差別主義者か!」
「女は女だろう! 俺は女が嫌いなんだ! 女なんてやつはろくでもない連中だ!! 男を利用して、隠れ蓑にして、自分たちだけ利益を得ようとしやがる! 俺たちはお前たちの奴隷じゃない!!」
「何を言っている! 普通は男のほうが女を犠牲にしているだろうが!」
「はんっ、女のくせに女を理解していないな! だからこそ、たちが悪い! お前たちの本性は、ただの寄生虫だ! 寄生して吸い尽くすことしか考えていないだろうに! 現にお前がそうだ! 飼い主がいないと何もできないやつが、恥も知らずによくも吠える!」
「言わせておけば…!!」
二人が睨み合い、一触即発の空気が生まれる。
サリータも傭兵であるうえにアンシュラオンの身内だ。こんなところで引き下がるわけにはいかない。
一方の青年も現場の人間としてはまともな意見なので、ここで引き下がるとは思えないが、そもそも女性を見下している節がある。
ゼイヴァーのような偏向的な女性愛護主義者もいれば、こういった女性蔑視の考えの者もいる。なかなかどうして、DBD内も荒れているものである。
ここまでならば、まだかろうじて止められる範疇だろう。軍隊や傭兵団ではよくある『些細な喧嘩』だ。
しかしながら青年も模擬戦で負けたうえに、今までの不満が溜まって、むしゃくしゃしていたのだろう。
ある言葉が衝突の発端となる。
「覇王の弟子…か。で、お前が覇王の弟子の弟子。笑わせるものだな。まあ、あの男は少し変わった趣味を持っているようだからな。お前のような弱いやつに加えて―――」
「あんな言葉の話せない―――【障害児】を囲っているなんてな」
「―――っ!!!」
「まったくもって変わり者だな。強ければ何をしても許される。それも世界の真実か。同意も賛同もできない趣味だがな」
客観的に見れば、この発言は間違ってはいない。
サナが言葉を話せないのは事実だ。それが精神性のものであれ、やはり障害は障害である。
実際にモヒカンにも、それが理由で商品価値を下げられていた。べつにスレイブ商でなくても扱いは同じ。労働目的でどこぞの養子になっても、出来損ないの子供として軽く扱われていただろう。
これが社会一般の認識といえる。
だがしかし、当事者たちにとってみれば、あまり触れられたくない事実だ。
アンシュラオンはあまり気にしていないものの、それを他人に言われるのは不愉快極まりない!!
サリータの胸に、激しい怒りの感情が湧き上がる。
「その発言は…絶対に許せない!! サナ様は正常な女性だ!! お前に何がわかる!! 無礼な発言を取り消せ!!」
「怒るってことは自分たちでも自覚している証拠だろう。たしかにあの子供も強いが…百光長と同レベルならば代わりはいくらでもいる。お前と同じだな」
「自分のことはいい。お前の言う通りだ。だが、サナ様を…私の『
「ふん、やはり騎士気取りじゃないか。だが、ここは軍隊だ。お前たちみたいな連中と関わる余裕はないんだよ!」
サリータはアンシュラオンのものだが、その彼から『サナに命を捧げろ』と言われている。
よって、彼女にとっての主人はサナである。
サナこそ、サリータのすべて。サナのことを考えない日はない。
サナの役に立ちたい。サナのためにがんばりたい。そのためならば命も惜しくない。
なぜならば、こんな自分を選んでくれたのは―――サナ!!!
「もう許さん!! 二度とそんな口が利けないようにしてやる!!」
「お前にやれるのか? いいぞ、やってみろ!! 女などに負けるものか!!」
ここまで言ってしまえば、もう衝突は避けられない。
両者が、対峙。
(サナ様を侮辱されて負けるわけにはいかない!! どんなことをしても絶対に勝つ!! そう、どんなことをしてもだ!)
「どうした、来ないのか?」
「………」
「達者なのは口だけか? それも女の―――」
と、青年がサリータを挑発していた時である。
―――「きゃああああああ!」
ガシャンッ
「え…?」
突如背後で叫び声がすると同時に、何かが砕ける音がした。
青年が思わず振り向くと、そこには『少女と割れた皿』があった。
(メイド…? 皿…?)
そこにいたのは、セノア。
なぜか彼女が、こんな場所で皿を落として悲鳴を上げたのだ。
なんとも奇妙な光景だ。洋館物の小説の一節ならばありえるが、戦時キャンプにおいてはまったく似つかわしくない。
その様子に完全に意識がもっていかれる青年。
「今だ!!」
その隙を狙って、サリータが突っ込む。
青年に―――体当たり!!
「ぶぇっ!!?」
虚をつかれた青年は、まともにその一撃をくらって倒れる。
普通ならばここで失神してしまうところだが、このあたりはさすが騎士。
まだ意識が途切れることなく、起き上がる。
「ぐぬぬ! やったな…!」
「女に吹き飛ばされるとは無様だな! それでも男か!!」
「いきなり攻撃してくるほうが卑怯だろう!!」
「自分の油断を他人のせいにするのか? 文句があるなら、かかってこい! もしお前が勝てたら、おとなしく帰ってやる。それとも負けるのが怖いのか?」
「この女…後悔するなよ!!」
お返しとばかりにサリータが挑発。
彼もここまで言われたら、今まで女を軽視した発言をした手前、引き下がるわけにはいかない。
青年もサリータに突っかかっていく。
だが、彼には大きな誤算があった。
ゴンッ!!
「がっ!?」
前に大きく出ようとした瞬間、何かに頭をぶつけた。
目の前には何もなかったはずなのに硬い感触が確かにある。
それは―――『無限盾』
肉眼では見えない物理障壁がサリータの前に展開され、青年の行動を阻害したのだ。
まだまだ枚数は少なく発動も遅いが、紛れもなく術式である。
では、誰がそれをやったのかといえば―――
「やった!! できた!!」
ブースターを展開したセノアである。
彼女は教わったばかりの無限盾を実戦で成功させる。
「なっ、あのメイド! 魔力珠だと…!? まさか術士…」
「うおおおお!」
「っ―――ぐえっ!!」
再びサリータが青年に向かって突進。
今度は盾を使っての強烈な一撃をお見舞いする。
ドンッ ガラガラガラッ
青年は吹っ飛び、壁に当たってさまざまな工具が頭に落下。
「ぬぐぐぐっ…! お前ら…!」
特に戦気を出しているわけではないが、青年はまたもや耐える。
まともに受けたわりには、なかなかタフな男である。
「そっちが武器を使うのならば遠慮はしないぞ!」
今度は青年が剣を取る。
といっても刃の無い模擬戦用のものだ。
「女相手に武器を使うなんて卑怯じゃないのか? 恥ずかしいやつ!」
「お前は盾を使っているだろうが!」
「男ならば武器なんて使わないで戦ってみせろ!」
「二人がかりで攻めているやつの台詞か!?」
「残念だな。二人じゃないぞ」
「なに?」
ガンッ!!
直後、青年が持っていた剣が弾き飛ばされる。
まったく予想していない角度から強い力が加わったので、あっさりと落としてしまったのだ。
「な、なんだ!?」
「余所見をしていていいのか!!」
「ま、待て!! 卑怯だぞ! 何かやってるだろう―――ぐばっ!」
サリータが青年に盾を強く押し当てる。
青年はかろうじて飛ばされずに済んだが、それはあえてサリータがそうしたから。
狙いはそのまま―――倒す!!
盾を横に捻るように力を加え、足を引っ掛けながら押し倒す。ハンクスとの練習で学んだ技である。
そして、全体重をかけて盾を上半身に押し付ける。
「ぐうううう、お、おもっ…!!」
「女性に対して重いとは失礼だ―――な!!!」
バキッ!!!
盾で青年の両肩を封じながら、空いた顔面に拳を叩き込む。
青年にできることは、せいぜい首を動かしてダメージを軽減することだが、この体勢ではろくなことができるわけがない。
そのまま、殴られる。
「ふんふんふんっ!!」
「ぐえっ! ぐあっ!! がはっ!!」
ドガ バキッ グシャッ ドゴッ!!
まるでマキに殴られるラブヘイアを思い出させる滅多打ちだ。
その様子に刺激されたのかセノアも動く。
「はぁはぁ! そ、そうだ! あ、足を、足を潰さないと!」
「―――っ!?! ま、待て! 何をするつもりだ!!?」
「え、えーと、メモは…あった! 足を潰して逃げられないようにして、手の腱を切って武器を握れなくすれば無力化できる…っと」
「まてまてまて!! なんかすごいことを言って―――ごばっ!?」
「ふんふんふんっ!!」
そうしている間もサリータの拳は止まらない。
セノアも何やら不穏な発言をしているので、青年はさぞや怖いに違いない。
ちなみにこれは、アンシュラオンから教わった敵を無力化させる方法であるが、「殺したくなければ両手足を潰すんだよ」という、さらに怖ろしいやり方である。
普通の人間だと足を撃たれただけで、ショックや失血で死ぬリスクがある。逆に危ないので良い子は見習わないようにしよう。
「サナ様…!! サナ様を侮辱するな!! サナ様を…サナ様ぉおおおおおおお!!!」
ドガ バキッ グシャッ ドゴッ!!
「ごっ…ぐばっ……がっ…っっ…」
サリータは鎧を脱いではいるが、篭手は付いているので金属で殴っているようなものだ。
青年の鼻が潰れ、歯が折れ、血が噴き出しているが、そんなこともお構いなしに殴り続ける。
そこには絶対になめられない、という強い信念が感じられる。
が、それ以上に―――ゾワリ
「死ね、死ね、死ねっ!!! 死ねぇえええええ!!」
サリータの目が―――【赤く】光る。
彼女の瞳の色はもともと『赤紫』であるも、今は完全に真っ赤に輝いている。
当人は激しい感情の中で理解していない。自分の瞳の色など誰もが見えないのだから当然だ。
それは、血の色。
その瞬間の迫力は、普段の彼女からは想像できない異常なものであった。
まるで殺意が具現化したように異様な気配を放つ。
そう、サナの目が赤く光るように。
強烈な殺意の前に青年は何もできない。
押さえ付ける力も徐々に強くなり、ギシギシと骨が軋む音が聴こえる。
殴る力もさらに増していき、青年の顔面が酷いことになっていく。
「死ね、死ね、サナ様に害なす者は―――死ねぇええええええ!!」
殺すことへの抵抗がなくなっていく。
むしろ、殺さないといけない気がしてくる。
それが正しく、唯一の真理であるかのように思えてくる。
だから、拳は止まらない。
殴る、殴る、殴る、殴るぅうううううううう!!
骨が砕ける音、歯が折れる音、肉が削げる音が聴こえても、殺意だけが高まっていく。
それが何よりも快感。
(はぁはぁはぁ!!! なんだこの気分は!! 何がなんだかわからないが、今ならば何でもできそうな気がする!!)
ゾワリ ゾワリ
湧き上がってくる力に背筋が震える。
ある種の全能感が、麻薬のように暴力を振るうことを肯定し、絶賛する。
主のために。主に逆らう者を殺せと命じてくる。
「サナ様!! 私はぁぁあああ!!」
そして、最後の一撃を繰り出そうと拳を振り上げた時―――ガシッ!
誰かに腕を止められる。
「そこまでにしてもらえないだろうか」
「っ!!」
「それ以上やれば死んでしまう。そこらで許してやってほしい」
「…っ……っ!」
視線を移すと、そこにはバルドロスがいた。
それによって正気に戻る。
「はぁはぁ…自分はいったい……」
「すまなかったな」
「え?」
「嫌な予感はしていたのだが、それが的中してしまったようだ」
どう見ても一方的に殴っていたのは彼女だが、バルドロスの口調にサリータを咎める様子はなかった。
そして、倒れている青年を軽々と持ち上げて肩に担ぐ。
「非礼があれば詫びよう。すまなかった」
「あっ……い、いえ、あなたが謝ることでは…」
「『殿下』に関してはわしの管轄。無関係ではない」
「でん…か?」
「サリータさん、援軍はしっかりと潰しておきましたよ!! やりましたね!! …って、あれ? どうなったんですか?」
そこに小百合がやってくる。
手には縄が握られており、先を辿ると一人の見知らぬ青年が縛られ、がんじがらめにされているのが見えた。
なんとも謎の光景であり、これだけ見ると状況がわからないだろう。
安心してほしい。これから改めて詳しく語ろう。
なぜならばこれは、女性たちの女性たちによる女性たちのための友情物語なのだから。