【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
ここで順番に状況を説明しておこう。
このキャンプに来た初日の夜、風呂で会話したことを覚えているだろうか。
まずアンシュラオンがサリータにこう話した。
「おそらく、このままいくとお前は狙われることになる」
「自分が…ですか?」
「狙うといっても、そこまで悪質ではないだろう。お前も傭兵ならばわかると思うが、こんな男だらけの場所にいれば女の傭兵は悪目立ちする。ちょっかいを出されたこともあるだろう?」
「は、はい。その…セクハラされたりしますね」
「そういえば、初めて会った時にもそんなことを言っていたな。以前ならばしょうがないが、オレの身内になったからには許すわけにはいかない。わかるな?」
「はい、もちろんです!」
「もし絡まれたら徹底的にやり返すのが一番いい。手を出したことを永遠に後悔させるくらいに徹底的にだ。これが一番の抑止力になる『もっとも平和なやり方』だろう」
人間社会において最大の平和的防衛策は、逆らう気力すら起きないほどに痛めつけることである。
たとえば防衛するにしても敵の攻撃を待つより、圧倒的火力をもって敵のミサイル基地を事前に破壊したほうが安全だ。攻撃する相手がいなくなるのだから、それも当然といえる。
むろん何の根拠もなくそれをやれば単なる暴力だが、反撃や潜在的脅威に対して行う場合は防衛である。そこははっきりと理解しておくべきだろう。
「だが、サリータ独りだけでがんばっても駄目だ」
「自分では勝てない…ということでしょうか?」
「それは違うぞ。仮にサナが同じことをしても独りじゃ効果が薄いんだ。こういうのは『集団』で襲わないといけない。マフィアの世界と同じだな。組織がバックにいると思えば、相手も迂闊には手を出さなくなる」
「はいはーい、私も手伝いますよ!! なんてたってサリータさんのためですからね!」
「ありがとう、小百合さん。ただ、これは小百合さんたちにも該当することなんだ。つまりはこの身内の中の誰か一人でも何かされたら、集団で報復する体制を整えるんだ」
「たしかに効果がありますね。私もハローワークが後ろにいるので、グラス・ギースでは誰も手を出してきませんでした! ほんと、こんないい女がいるのに!! でも、アンシュラオン様に出会えたので、すべて万々歳です!!」
「う、うん、そうだね。…ということで、みんなで協力して戦うんだ。オレがやってもいいけど、オレがいないところでも自分たちでやれるようになれば一番だよね」
「その通りです! 女の敵は女が倒すべきです! ね、そうですよね!」
「は、はぁ…恐縮です。ですが、やはり自分で対応できれば一番だと思いますが…」
「サリータ、それは思い違いですよ。私たちはアンシュラオン様のものです。それに手を出すことは、アンシュラオン様に仇なすことと同じです。あなた個人の問題ではなく、ご主人様の問題でもあるのです。粛清は当然のことです」
「な、なるほど…ホロロ先輩の言う通りかもしれません…」
「これも面子の問題ってやつだな。まあ、マフィア連中を散々潰したオレが言う台詞じゃないが、アーパム商会としても、なめられたらやり返すしかない。やり方は任せる。今回オレは手は出さないから、みんなで好きにやるといい」
「わかりました!! 小百合たちにお任せください!! 派手にやっても大丈夫ですよね?」
「ああ、そこは問題ないよ。おっさんの言質は取ってあるし、そもそもオレのものに手を出すようなやつは誰であっても許さないからね。好きなだけやっていい。殺すかどうかも任せるよ」
「それを聞いて安心しました! みんなでがんばりましょうね!」
まずはこうしてアンシュラオンが注意喚起をし、すべてを女性たちに任せることにする。
その理由は簡単だ。
(オレが全部をカバーしていくのは難しい。安全面だけならばまだしも、女性間の問題にまで口は出しにくいからね。彼女たちがお互いに争っているわけじゃないから焦る必要はないけど、今のうちに仲良くなってほしい。こういうときは『共通の敵を作る』のが一番だ)
内部をまとめるために外部に敵を作る。これも外交戦略でもちいられる一般的手法である。
今回はさらに男と女という枠組みで分かれているため、あえて自分が関与しないことで敵をより明確にできる。
仮に彼女たちの犠牲になった者がいれば災難だが、最初から手を出さねばいいだけなので、馬鹿には相応しい末路となるのかもしれない。
翌日。
アンシュラオンの目論見通り、女性たちは自発的に話し合いを開始。
より具体的な話も出てくる。
「サリータさんは自由に動いてくださいね。作戦の詳細は教えません」
『作戦指揮官』である小百合が、サリータを指さす。
「ええ!? な、なぜでしょうか?」
「だって、サリータさんって嘘がつけないタイプですよね。それじゃ不自然になっちゃうじゃないですか。訓練にも支障が出ます。それに、そもそも絡まれない可能性だってありますよね?」
「そ、それは…はい。そうですね。今のところは視線が気になるくらいで、それ以上のことはありませんし…」
「ですから、合図だけ決めておきましょう。セノアさんがお皿を叩き割った時が作戦開始です!」
「どういう状況ですか!?」
「たぶんですけど集団で絡まれることはないと思うんです。いろいろと調べてみましたが、DBDの兵士の中に派閥やグループといったものはないらしく、あぶれた不良兵士もいないようなんです」
「あそこは軍隊です。司令官のガンプドルフ様がおられますし、軍紀違反には死刑も適用されると聞いております。相手はアンシュラオン様のお力を欲しておりますから、あえてそれを乱すようなことはしないでしょうね」
ホロロも捕捉を入れる。
「といってもですよ、やっぱり男なんです。いきなりムラっとくる可能性も否定できません!! サリータさんは美人ですし、襲われるかもしれないのです!!」
「ええええ!?」
「なんですか、その驚いた顔は。こんなにも可愛くて綺麗なんですから、誰だって触りたくなっちゃいます!」
「あ、あの…小百合先輩……も、揉んでます…揉んでます……」
「ほら、こんな感じでうっかり触ってしまうかもしれないのです! 注意は必要ですよ!」
一応述べておくが、小百合にそっちの
単純に可愛い後輩とスキンシップしたいだけなのだ。親愛の気持ちを伝えるボディタッチが多い女性、といった感じだろうか。
「なので、もし起こったとして単独犯なんじゃないかなーと考えられるわけです。もしほかに誰かいても、それは私たちが分断しますから安心してください」
「安心…と言われましても……」
「ともかく、セノアさんがお皿を持っていたら作戦を意識してくださいね。相手は男。遠慮は無用です。こちらもできる限りの援護はしますから、様子を見ながら戦ってください」
「は、はい…」
「いいですか、これはアンシュラオン様の面子の問題でもあるのですよ!! けっして自分だけで戦っているとは思わないようにしてくださいね!! 私たち全員の問題なのですから!!」
「わかりました…肝に銘じます」
と言いつつ、サリータはあまり乗り気ではないようだ。
これもすでに述べているが、彼女自身は自分が戦闘要員という自負、あるいは負い目が存在しているため、できれば自分独りでなんとかしたいと思っているわけだ。
だがしかし、面子の話となれば仕方ない。渋々納得する。
(結局、なぜ皿を割るのかまでは教えてもらえなかったな…。だが、これは自分だけの問題ではないのだ。わきまえろ。わきまえるんだ…)
と、サリータが知っているのはここまで。
彼女は不器用なので、その場その場で対応することになった。
実際にサナが侮辱されたのだから、小百合たちの言葉は正しかった。
だからこそサリータもあえて自分独りでは無理はせず、仲間の援護を待って戦ったのだ。絶対に負けられない戦いになったからだ。
翌日。
新しい武装をもらい、練習したあと。
サリータが個人訓練に赴いている間に女性陣が集まり、人知れず作戦会議を行っていた。
メンバーは、サナ、小百合、ホロロ、ロゼ姉妹の五人だ。
「これが『リスト』です」
最初に小百合が一枚の紙を差し出す。
それを受け取り、一読したホロロが感嘆。
「…ここまで細かく。よくお調べになりましたね」
「ハローワークではこういう仕事も重要ですからね。荒くれ者たちを相手にしていますし、安全を確保するためにも素性を調べる癖がついているのです」
「さすが小百合様です。やはりあの行動は意図的でしたか」
「ホロロさんも独自に調べてくれていたのですよね。このメモ、助かります」
「私は少しばかりお話を伺っていただけです。たいしてお役に立てておりません」
「いえいえ、グラスハイランドに勤めていただけでもすごいです! あそこは普通の人は雇いませんからね。お客さんの本質を見極める目がなければ、VIPルームのメイドには選ばれませんって!」
「ふふふ、では、お互いに役立ったということで」
「そうですね。ふふ」
二人が笑う。そこに互いを牽制する要素は何一つない。
これも小百合の性格があってこそだが、彼女たちもまた『家族』なのである。
ホロロも独自に調査した内容をメモとして提示し、リストと照合。
このリストやメモには、事件を起こす可能性がある人物が明記されている。
それによって【監視対象】が浮き彫りになる。
「この人物は酒癖が悪く、以前女性に対して絡んだ経歴があります。軽いナンパ程度で実害は少ないようですが、酔えばちょっかいをかける可能性があります」
「キャンプ内では飲酒は禁止となっているようですね」
「はい。ですが、絶対はありえません。グラス・ギースからの補給物資に紛れて酒を持ち込む者がいるかもしれません。人は誘惑に弱いものですからね。特に見知らぬ地に来てストレスも溜まっているでしょう。酒くらいは、と思っても不思議ではありません」
「そうですね。恐怖を酔いで誤魔化す方もおられますし…注意が必要でしょうか」
「次にこちらの人物は、女性の軍人にセクハラを働いた過去があるようです。その後に処罰は受けたようですが、戦後の混乱期に同じようなことをしていたと聞いています」
「まったくもって不浄で不潔な存在です。セクハラや淫猥な言動に対しては、手を切り落とすくらいは必要ですね」
「いいですね、そうしましょう!! 二度と手を出せないように―――と、洒落じゃないですよ!」
「ふふ、わかっております」
「では、制裁は手の切断、とします。死刑にされるよりはましでしょう」
(本気で言ってるのかなぁ……目は本気っぽいけど。小百合さん…もしかして、本当は一番怖い人なのかも)
それを聞いていたセノアが、引きつった笑顔を浮かべる。
どうも本気で言っていそうな気がするから怖い。
(でも、やっぱりすごい。私も一緒に兵士さんたちと話していたのに、こんな話は訊き出せなかったもの。何が違うんだろう?)
こうした情報は、小百合やホロロが兵士や騎士たちから訊き出したものである。
相手が女性なので、あまり免疫がない男は緊張してうっかり話すこともあるし、そうではない者も無力な者に対しては警戒が緩み、口が軽くなるものだ。
小百合は持ち前の明るさと率直さ、ホロロはメイドらしい従順さと色気を使い、普段は表に出ない情報まで入手していた。
その中には、【殿下】の情報もある。
「私が個人的に一番衝突の可能性があると考えているのが、この人物です。殿下と呼ばれているみたいですね」
「殿下…ですか? 殿下って…偉い人のことですよね?」
セノアもそこは気になったのか、話に食いつく。
「DBDの情勢はアンシュラオン様から聞いた通りです。多くの王室関係者は国内から出ることはできません。上位の王位継承権を持つ者ならば、なおさらです」
「えーと、そうなると…あれ? あまり偉くないってことでしょうか? それでも殿下なんですね」
「はっきり言えば、そうですね。ずばり訊いちゃいましたよ! なんと、彼の順位は―――【百十五位】です!!」
「…え? 百……え?」
「間違ってはいませんよ。上から数えて百十五位です」
「あの……それって……意味あるんですか?」
「セノアさんもはっきり言っちゃいましたね!」
「い、いえ、びっくりしたもので…すみません!」
「いいんですよ、事実ですから。そして、どんなに低くても『殿下』なのも事実です。すでに多くの『宮家』が潰されているそうですから、実際はもう少し上でしょうね」
「そもそも聖剣長のガンプドルフ様が国外に出ただけでも一大事。連れてこられるのは、せいぜいその程度の人物なのでしょう。ただし、重要なのは【血】です」
「そこですね。アンシュラオン様からの情報から推察するに、彼は本命ではないのでしょう。あくまで【保険】であり【繋ぎ】だと思われます」
「ソフィア王女殿下が来られるまでの…ですね。あるいは来てからも何があるかわかりませんし、血の保存役といったところでしょう」
「王女殿下には来てもらいたくありませんが…こればかりはどうしようもありません。アンシュラオン様がお決めになられることですからね」
「私たちのような者が、ご寵愛を賜るだけでも畏れ多いことです。十分満足しております」
「ホロロさん、大事なことを忘れてはいけませんよ! 仮に王女殿下が来たとしても、私たちの立場は同じ『妻』です。先に【孕んだほうが勝ち】ですよ?」
「…さようでございますか。ふふ…それならば、まだまだ可能性はありますね」
「ですよねー。ふふふ」
「ふふふ」
(こ、こわいよぉ)
三十路前の女性を侮ってはいけない。
婚期には激しく敏感だし、こういう状況になればいかに主人の寵愛を受けるかで揉めるのが世の常。言ってしまえば【宮廷闘争】と同じだ。強大な権力を持った人間の周りでは、こうした女性たちの闘いがあるものなのだ。
ただし、そこに陰惨ないじめや殺し合いは絶対に発生しない。
そこがアンシュラオンが求める理想世界の在り方であり、スレイブ・ギアスの価値なのである。
現在はまだギアスはかかっていないが、アンシュラオンによって絶対階級制度が作られている以上、それと同種の縛りがかかっていると思ってよい。
そして、女性の最大の権利は、子供を宿せること。
以前どこぞの政治家がこの手の発言で大炎上したことがあるが、生物学上の事実なので致し方がない。むしろ人類が存続して歴史を紡ぐ以上、最大のアドバンテージでもあるため、女性ならば利用しない手はない。
アンシュラオン当人も、当然このことは知っている。
だからこそ余計な混乱を招く前に女性たちを一致団結させるべく、『哀れなる子羊』を生贄に捧げねばならないのだ。
これはサリータのためでもあるが、何よりも自身の保身のため。
それが実にあの男らしくて『微笑ましい』ではないか。