【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
「師匠、申し訳ありません」
「どうして謝るんだ?」
「いえ、あんな安っぽい挑発に乗ってしまって…」
「サリータ、お前は何のために戦うんだ?」
「サナ様の名誉のためです」
「ならば、それでいい。サナのために勝て。オレから言えることはそれだけだ。観客の目の前ではっきりと証明してみせろ」
「はい! 必ず勝ちます!」
今回の勝負は彼女自身が望んだことである。ならばアンシュラオンにそれを拒む理由はない。
周囲を見渡すと、両者が【決闘】を行うという噂を聞きつけて、思った以上のギャラリーが集まった。
半分は色物同士の面白勝負を期待してのことだが、それだけ注目されているともいえる。
「サリータさん、大丈夫ですかね?」
戦いの準備をしているサリータを見ながら、セノアが不安そうに聞いてくる。
「心配かい?」
「いつも私たちのために危ない目に遭っていますし…」
「あれが彼女の役割だよ。君がメイドで術士であるように、彼女はみんなの盾になるのが役目だ。そして、今回はサナの名誉のために戦ってくれる。オレは彼女を信頼しているよ。セノアだってそうだろう?」
「も、もちろんです! サリータさんは素敵な女性ですし、勝つに決まっています! …ところで、模擬戦と決闘は違うのでしょうか?」
「模擬戦はあくまで練習だね。だから刃がない武器を使う。でも、決闘は真剣勝負なんだ。武器も普通に使うから死人が出ることもあるらしい」
「そ、そんな…! 明日は出立なんですよね? こんなときに決闘なんてやっている場合なんですか?」
「だからこそだよ。大事な作戦中に不和が原因で事故が起きたら、それこそ目も当てられない。わだかまりは今のうちに捨てたほうがいい」
「負けたほうに恨まれたりするんじゃないですか?」
「そりゃ人間だからね。そういうこともあるだろう。ただし、そもそも決闘自体が騎士同士の意地の張り合いだ。変に逆恨みすれば、今回みたいに言いふらされたりするから、少なくとも負けた側はおとなしくするみたいだね。野良の武人と違って組織に属している騎士は、恥や外聞を気にするのさ。グラス・ギースのマフィアもそうだったけどね」
(そしてこれは『最下位』を決定するための戦いでもある。負けた側はこのキャンプでの完全なる異物となるだろう)
どんな組織や集団、あるいは社会であっても必ず『最下層』は存在する。
それが子供や女性ならば誰も気にしないが、サリータのように男に交じって戦う者や、リッタスのような複雑な環境下にある者の場合、往々にして厄介者扱いされることが多い。
昨日まで、それはサリータだった。
ガンプドルフの命令があるので言動には出さないが、あまり良い印象がなかったのは事実だろう。バルドロスが擁護していたように、リッタスの言っていたことは事実でもあるのだ。
だが、その流れが昨日の一件で変わった。
ただでさえ問題を起こしていたリッタスに対して、騎士たちの視線がさらに厳しくなったのだ。やはり女性に負けたという点が致命的である。(女性陣全体を敵に回していることも大きい)
そのおかげでサリータに対する視線も和らいでいるが、まだどちらに傾くかはわからない。それをはっきり決めるための戦いなのだ。
つまりこの戦いに負けたほうが、ヘイトを一身に集めることになるわけだ。どちらも負けるわけにはいかない。
「か、勝てますよね? 殿下って人はあまり強くなかったですし…」
「能力だけならリッタスのほうが強いよ」
「え!? だ、だって、あんなに簡単に倒せましたよ!?」
「侮っていたところに不意打ちだからね。誰だって準備ができていない時に畳み掛けられたら負けるもんだ。しかも仮にも騎士だ。逆に剣を持ったから逡巡したんだろうね」
女性が相手。しかも非武装の民間人であるセノアまで見てしまったことで、こんな相手に力を振るっていいのかと迷ったのだ。
だが、能力はリッタスのほうが上。ガンプドルフに才能がないと一蹴されても、それは強者から見ての評価だ。西側の一般騎士の実力は、グラス・ギースの上位の武人に相当する。
「あの殿下は馬鹿だけど、努力はしている。努力した人間を女神様は見放さない。それなりの結果をもって応える。これは絶対の法則だよ」
「じゃ、じゃあ…サリータさんは……」
「サリータだって努力しているだろう? オレが彼女に君たちを任せているのは、一番適任だと思っているからだ。よく見ていてごらん。その意味がわかると思うよ。だから信じてあげてくれ」
「…はい、信じます!」
リアリストのアンシュラオンらしからぬ発言であるが、こと戦闘に関する分析力はトップクラスである。
溺愛するサナの戦いでさえ冷静に見ているのだから、サリータの戦いはもっと冷静に状況を分析できている。
(贔屓目に見て、五分五分かな。相手だって本気だしな)
少し離れた場所にいる相手サイドを見ると、エノスとバルドロスがリッタスに助言している姿が見受けられる。三者とも、かなり真面目な表情だ。
それだけ騎士にとって決闘が重要なことがうかがえる。
面倒を起こすなと釘を刺したばかりのガンプドルフでさえ、こういうやり方をされると文句も言えないようで、じっと進行を注視している。
「マッケンドー特別百光長、ケサセリア十光長、前へ!」
多くの観客がいる中、両者が対峙。
「殿下、がんばれー!」
「殿下! いけー!」
「いけ殿下!!!」
「イカ殿下!!」
「死ね殿下!!」
周囲から明らかなる野次が飛ぶ。どう考えても煽っているようにしか聴こえない。
雰囲気が地下闘技場に似ているが、男たちが集まればどこでも同じような状況になる。身分の違いなど所詮はその程度のものだ。
ちなみに、ここでリッタスの階級が百光長であることが判明。ただし、『特別』が付けられているので、あからさまに特別待遇であることを示している。
これはDBD内で不当に攻撃されないための措置であるが、逆効果になっているような気がしないでもない。
「くそ、あいつら! どさくさに紛れて!!」
「殿下、落ち着いてください! 勝てばよいのです!」
「わかっている。私は勝つ! 勝てばよいのだ…勝てば!! 勝てばすべてが変わる!」
こうして見ると、リッタスとエノス、バルドロスの三人だけが他とは違う枠組みに感じられる。やはり宮家は特別なのだろう。
さすがにサリータも、この様子には同情する。
自分はよそ者だが、彼らはDBD人なのだ。その中で孤立するのはつらいだろう。
(だが、この場で結果を出さなければ、私も何も変わらない。―――勝つ! それしかないのだ! 勝ってみせる!!)
自分を信じてくれるアンシュラオンのために。サナのために。応援してくれる仲間のためにも絶対に負けられない。
―――勝負、開始
サリータは基本通り、しっかりと盾を構えて防御の姿勢。
対するリッタスは、片手剣と盾というオーソドックスなスタイルだ。
これはガンプドルフが率いる雷艦隊の基本兵装であり、彼自身もアンシュラオンとの戦いで披露した防御重視のスタイルである。
地下闘技場でいえば、クロスライルに殺されてしまったニットローに近い。
唯一の違いは、盾がカイトシールドではなく、しっかりとした長方形であること。受け流すのではなく、押し返すこともできる強い盾を装備している。
鎧はサリータと違ってやや軽めなので、カテゴリーでは『軽装兵』に該当するだろう。ただし、騎士の鎧なので防御力はそれなりに高い。
まず最初に仕掛けたのは、リッタス。
ブーンッ ガンッ
少し腰を落として慎重に近寄ると、あえてシールドに一発剣を当てる。
剣は弾かれたが、それによってサリータの防御力を調べたのだろう。その証拠に叩いた瞬間には後ろに下がっていた。
それに対して「へっぴり腰め!」と野次が飛ぶが、当人の顔色はまったく変わらない。
単になじられるのに慣れていることもあるのだろうが、その顔はひどく真剣であり、まっすぐにこちらを注視している。野次など気にしていない。
サリータも盾の隙間からリッタスの表情を見て、印象が少し変わる。
(この男、案外まともなのかもしれないな。あくまで剣に対してはだが)
サリータも外野の声など気にせず、まずはひたすら防御を固める。
この様子を見て、リッタスは正面からの突破は難しいと考えたのだろう。
前に突っかけながらも無理に攻めず、左右に振ってこちらの隙を作ろうとしてくる。
サリータは足をしっかりと地面に密着させ、身体ごと回転し、常に盾を相手の正面に据える。
もし訓練を受ける前ならば身体がブレてしまい、無防備な部位を晒したかもしれないが、今は完璧に対応している。
単純にDBD騎士の動きに慣れてきたこともあるが、そもそもリッタスの動きがあまり良くないことも要因だ。
見た目は回復したようだが、まだダメージは残っているのだろう。
それに加え、他の騎士と比べると動きがたどたどしい。微妙な差だが、訓練で多くの騎士や兵士を見ていたからこそわかる違いがある。
(そういえば、あいつが騎士になったのは東大陸に来てからだったな。それまでは一般市民と変わらぬ生活を送っていたと聞く。戦闘経験もあまりないのかもしれない。それなら…『釣って』みるか)
サリータが、前に出る。
盾を使っての突撃。一気に間合いを詰めてシールドを突き出す。
「二度はくらわん!」
リッタスは盾の突進を回避。
最初から腰を落とした受身の態勢であったのと、昨日一度もらっていることから警戒していたのだろう。ほぼ完璧にかわす。
そして、剣のカウンター。
空いたサリータの左側面に回り込んで、突きを繰り出す。
サリータは防御。鎧の性能で弾き返す。
「ちっ、硬いな! 鎧に助けられたな!!」
(逆に言えば、お前の攻撃力が低いのだ!)
サリータも心の中で言い返す。
今までの騎士ならば、この攻撃で鎧を大きく抉ることもできただろう。だが、リッタスの攻撃力ではそれができないことが判明する。
その後もサリータは盾での攻撃を続け、それをよけたリッタスが空いた場所に剣で攻撃する戦いが続く。
現状、サリータのダメージは、ほぼない。
ナイトアーマーの防御力はD、およそ200だ。あまり高い数字ではないが、重鎧ならではの『耐久B』が売りである。
この耐久が高いと損耗度も抑えられるため、より長く、より多くの攻撃を受けることができる。
これを利用して耐えているわけだが、より強い攻撃を受ければ一撃で破壊されるものなので、やはりリッタスの攻撃が弱いことが要因だ。
このことから両者の性能に大きな差がないことがわかる。
サリータは重装甲兵特有の堅牢さをもって勝負し、軽装兵であるリッタスは手数と安定度で勝負する形となる。
では、これ以外に両者の差を分けるものがあるとすれば―――
グラッ
サリータが突進をした際、大きくバランスを崩した。
「『体力の差』が出たな! それが女の限界だ!!」
リッタスはここで勝負に出る。
このまま戦っていても埒が明かないため、思いきって前に出たのだ。
今まで攻撃が通らなかったのは軽く当てていたからでもある。全力でいけば鎧の上からでもダメージを与えられる自信があった。
リッタスの剣が、大きく振るわれる。
狙いはサリータの肩。いくら女性を蔑視しているとはいえ、さすがに頭を狙うことはしなかったようだ。いや、蔑視しているからこそ狙わなかったのかもしれない。
女性愛護主義者と女性差別主義者が、まったく同じ行動を取るとは、これまた皮肉なものだ。中身は同じなのかもしれない。
だが、それは彼女を侮りすぎである。
サリータは盾の向きを変えると―――剣を迎撃
両手で盾を掴み、身体全体で振り回すように剣にぶち当てる!!
「なっ!!」
突然予想外の斜め下から盾が飛んできたため、まったく反応できなかった。
剣が、腕ごと大きく弾かれる。
よく剣を手放さなかったと褒めたいところだが、それは衝撃すべてを腕が背負うことを意味した。
その間に晒した隙は、大きい。
「うおおおおおおおお!!!」
サリータの突進。
盾を構える暇も惜しみ、身体ごと相手に突っ込むいつものスタイル。昨日もリッタスにお見舞いしたものだ。
ただし、今回は加速力が違う。
すべての力を足だけに集中し、一気に解き放った突進には、いつも以上にキレがあった。
彼女の突進には『二種類』ある。
一つは守りながら相手を押し返すもの。これは護衛の任務で使う『防御型の突進』だ。ソブカを守っていたときに繰り出したのも、こちらである。
もう一つは相手を【制圧】するためのもの。
後者の場合、護衛対象を狙う相手の射線を気にしなくていいので、すべての力を推進力だけに集約できるのだ。
全身の力を込めた体当たりが―――激突
「ご―――ばっ!!」
全身の骨が軋み、歪み、圧縮される感覚がリッタスを襲う。
直後、そのすべてから解放されるが、それと同時に激しい衝撃が全身を貫き、激震となって世界を揺らす。
まるで交通事故。
十メートル以上は吹き飛んだだろうか。大地に強く叩きつけられ、転がって転がって、止まったと思ったら血反吐を撒き散らす。
見れば、彼の鎧は大きくひしゃげていた。
いくら軽鎧とはいえ、一応は同じ素材を使ったナイトアーマーである。それをここまで破損させるのだから、今の一撃の衝撃がいかに大きかったかがうかがえる。
(な―――んだ……今のは……!! 昨日とは…違う……!)
あまりの威力の違いに困惑を隠せないリッタス。
目の前が白くチカチカして、意識が飛びそうになっている。
まだ盾を間に挟んだから無事だったが、それがなければ一発KOだった可能性すらある。
これには周囲も驚きだ。誰もが予想外の威力に野次ることも忘れてしまっていた。
だが、それを見ていたアンシュラオンには、最初から結果がわかっていた。
(オレはね、彼女の突進に惚れたんだ。もちろん仲間にしたのは成り行きだよ。全然そんなつもりはなかった。でも、気に入らない相手をサナの護衛に付けたりはしないさ)
初めてサリータと出会った時、彼女は迷いのない突進を見せていた。
サリータの思いきりの良さは、見ていて清々しい。
特に【覚悟を決めた時】、強い意思が宿ったときの突進は、美しい。
あの頃の彼女は無知で、まだ何も知らなかった。だからこそ思う存分、全力を出せていたのだ。
しかし、アンシュラオンの強さを知って完全に萎縮してしまった。守ることへの責任感や守れないことへの無力感が、知らずのうちに彼女を縛っていた。
それも仕方がない。彼女が対峙した相手は、アンシュラオンやJBといった超絶級の化け物ばかりなのだ。そこらのブルーハンターでさえ足元にも及ばないのだから自信を失って当然だ。
それが同じレベルの相手と接することで、少しずつ解放されていく。
頭で考えずとも身体を動かすうちに慣れていく。自信に変わっていく。
(サリータ、君は強いよ。同じレベル帯の相手には絶対に負けないはずだ。だからもっと自信を持つんだ)
忘れていけないのは、彼女の土俵は「対人戦」である。
もともと要人警護で暴漢を打ち倒す役目を負っていたのだ。相手を殺すのではなく、『倒す』能力に関しては長けているのである。