【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
サリータの強烈な体当たりが炸裂。
会心の当たりになったのは、たまたまではない。
ふらついていたのは『釣り』だった。
自分を侮っている相手にわざと隙を見せることで、攻撃を単調にさせたのだ。
リッタスはまだ半年程度の戦闘経験値しかないが、サリータは十五歳で傭兵になってから十年以上のキャリアがある。
軍人と傭兵の実情はかなり異なるものの、やはりこれだけの経験の差は如実に出てしまうものだ。ちょっとしたところの差が、こうした大きな結果の違いを生み出す。
その一撃を見て、女性陣も大盛り上がりだ。
「サリータさん、すごい!!」
「…こくりこくり!! …ぐっ!!」
「サリータさぁああああーーーんっ!! がんばれぇえええええ! 遠慮なく叩き潰しちゃってくださーーい!」
「おねーたん!! がんばーー」
小百合もサナも、セノアもラノアも大興奮。
ホロロも口には出さないが、じっと戦いを見つめている。心の中では応援していることだろう。
それに触発され、周囲の男たちもサリータを応援し始める。
「お嬢さん…じゃなくて、ケサセリアさん、やっちまええええ!」
「サリータさん、がんばれぇええええ!」
「あっ、お前!! 名前で呼んだな!? ずるいぞ!」
「いや、だってよ。そっちのほうが可愛くないか?」
「それは俺も思ってた。名前のほうがいいよな」
「俺、昨日…彼女が泣いてるのを見て、ぐっときちまったんだよな。改めて見ると、すごい美人だよな」
「あー、わかる。すらっとしている長身美人っていいよな」
「そうそう。ああいう嫁さんもいいよな。夫婦で騎士か…憧れるぜ」
「昼間は仲間として、夜は夫婦としてか。…いいな。燃える」
「貴様ら…!! 死にたいらしいなっ!!!」
「げぇええええ! ゼイヴァー百光長!!!!」
と、彼らが殴られるのはよいとして、サリータも解放される感覚を味わっていた。
(身体が軽い。盾も思った以上に動いてくれる。なぜだ? 昨日まではまったく駄目だったのに、どうして今日になって動きがいい? 自分にはわからない。わからないが…師匠たちの熱い気持ちは伝わってくる! それが勇気をくれる!)
世の中に偶然はない。身体が軽いのは今まで培った体力のおかげであるし、ようやく重い鎧に馴染んできたからだ。
盾も昨日リッタスを吹っ飛ばしたことで、相手を倒す感覚が戻ってきたからにほかならない。
実戦では実力以上のことはできない、というのならば、今の彼女の動きは紛れもなく実力通りといえるはずだ。
ただし、それは相手も同じ。
「くっ…油断した。だが、負けない…! 私は…負けられない!!」
リッタスが立ち上がる。
かなりのダメージを受けているはずだが、もともとがタフな身体をしている。これくらいではまだ倒れない。
彼も日々の鍛錬では一切手を抜いていない。身体を何度も何度も痛めつけることで武人としての力を引き出していったのだ。
その目には、強い意思の力が宿っていた。
身体から―――【戦気】
リッタスの鎧の表面に揺らめく炎が見える。
そう、彼もまた戦気が扱えるのだ。そうでなければキャンプ外に出る許可は与えられないはずだ。それでもワガママと捉えられ、渋々出されている許可である。
そもそもお飾りなのだから適当に匿っておけば済む話だ。所詮は種馬。王室の保険にすぎない。誰もがそう思っているし、実際に口に出す者も多い。
しかし、彼はそれを断固拒否!
「国は私が守る!! 二度とあのような惨めな目には遭わせない!! 遭わせてたまるか!!」
防衛戦となったためDBDの都市部にも多くの被害が出ている。
その中には数多くの犠牲者がいた。ゼイヴァーの家族も死んだし、よく挨拶をしてくれていた気の好い老夫婦も死んだ。花をくれた愛らしい少女も死んだ。いつも家の前で遊んでいた活発な少年も死んだ。
一般人として暮らしていた自分の両親も、瓦礫に埋もれて死んでしまった。
怒り、怒り、怒り!!
自分への無力さに対する怒りが、彼に戦気を与えたのである。
「勝って証明する!! 私は戦えるのだと!」
リッタスがサリータに突進。剣を振る。
ザギィィンンッ!!
サリータは盾で攻撃を防ぐも、明らかに今までと音が違う。
戦気によってリッタスの動きが良くなったこともあるが、剣に赤く鋭い輝きが宿っていた。
―――剣気
戦気の五割増しのエネルギーを秘めた攻撃的気質である。これをもってすれば、サリータの盾を傷つけることも可能となる。
ここからリッタスの反撃と猛攻が始まった。
技を出すまでには至らないものの、剣気の攻撃力に任せて強引に剣を振ってくる。
こうなるとサリータは防御に徹するしかない。いくら重鎧でも斬られてしまう可能性があるからだ。
その盾にも少しずつ傷が入っていく。
模擬戦で盾を破壊されたように、剣気を受け続けるだけでも不利になっていく。
「あああ、サリータさんが!! 銃を使ってください! 銃を!!」
「小百合さん、サリータは銃を持ってないよ。ここにあるし」
「じゃあ、どうすればいいんですか!! はっ、そうです! あの爆破杭でグサっとやっちゃいましょう!! グサッとボンで勝利です!」
「いやぁ…死んじゃうんじゃないかなぁ、さすがに。というか、杭もここに置いていってるけどね」
「なんで置いていったんですか!? 決闘は何でもありですよね!? サリータさん、今届けますからね!! 投げた杭が空中で合体して、そのまま―――」
「待って待って! 大丈夫だから落ち着いて! 投げても絶対に空中合体しないから!」
「でも、サリータさんは戦気が出せないんですよね? これって絶対に不利じゃないですか!」
「たしかにオレは常々、戦気の重要性を説いている。あると無いとでは雲泥の差だからね」
「それを埋めるのが武器の優劣じゃないんですか?」
「その通りだ。でも、彼女は自らの意思でこれを置いていった。周囲の評判を気にしたり、ましてやハンデを与えたからじゃない。今の装備で勝てると思ったからだよ」
「どういうことですか? 圧されていますよ?」
「戦気はとても便利だ。使えないより使えたほうが断然いい。でも、戦気が出せるせいで起こる『デメリット』もあるんだ」
「それはいったいなんですか!? サリータさんは勝てるんですよね!!」
「大丈夫。彼女はちゃんと見えているよ」
(オレは戦いの前に五分五分だと思っていたけど、刻一刻と戦況は変わるもんだ。今の彼女は安心して見ていられる)
そのアンシュラオンの言葉通り、サリータは落ち着いていた。
(なぜだ? あまり怖くないぞ。迫力が師匠とはまるで違う。サナ様のような速さもないし、あの触手男のような力強さもない。ハンクス十光長のような深みもない)
今までサリータが対峙してきた相手と比べると、あまりに稚拙で弱々しい。そんなことは当たり前なのだが、強者と対峙する価値がここにある。
リッタスの戦気は、とりあえず出せるだけのものだ。剣気も強化には役立っているものの、まだまだ揺らぎが多くて威力が不安定である。
アンシュラオンのように膨大な量もなく、サナのように綺麗でもなく、ただただ【雑】な剣気でしかない。
しかもそのせいで、彼には最大の『デメリット』が襲いかかっていた。
「はぁはぁっ!! ―――はぁはぁっ!!」
呼吸が荒い。むさぼるように激しく吸って吐いてを繰り返している。
そのせいで鬼の形相になっているが、これは単純に余裕がないのである。
最大の欠点は―――スタミナ
戦気の材料は自身の『生体磁気』と『神の粒子』だ。
生体磁気は細胞のエネルギーそのものなので、使えば使うほど疲れていく。そこに神の粒子と結合する際の『精神的疲労』も加わる。
一般人ならば、全力疾走しながら針の穴に糸を通し続けるようなものだ。集中力が途切れれば戦気は霧散してしまうのだから、一瞬たりとも気が抜けない。
慣れない者が使うと体力も精神力もガリガリ削られていき、次第に呼吸すら難しくなる。その呼吸の乱れにより戦気の維持がさらに難しくなる悪循環に陥る。
無理な背伸びをした結果、リッタスは自分で自分を追い込んでしまった。
サリータの体力を侮った彼が、自らの体力の無さに苦しめられることも皮肉でしかない。
されど、それを呼び込んだのはサリータ自身だ。彼女の一撃が戦気を使うことを余儀なくさせたのだ。
だからこその―――勝機!!
(攻撃は受けても問題ない。引きつけて引きつけて―――)
リッタスの猛攻で鎧も削られ、少しずつダメージを受けてきている。
だが、相手の消耗のほうが早く、次第に大振りが増えていく。
ブンッ スカッ
そして、ついにサリータでもかわせるほどになった時―――
「今だ!!」
盾を押し出して相手の視界を覆い、死角からボムハンマーが襲う!!
「っ!!」
リッタスは無意識のうちに盾を出して防御。
するも、すでに消耗が激しく反応しきれない。
しかもハンマーは、風の噴射によって一気に加速。
盾ごと腕を吹き飛ばし―――顔面に直撃!!!
ドッゴーーーーンッ!!
「―――っ!!」
鈍器として扱っても鎧を破壊できる代物だ。
それが顔面にヒットすれば、いくら戦気で覆っていたとしても無駄。
リッタス程度の戦気の質ではまったく役立たず。
がくん ドサッ
その場で真下に崩れ落ちるように倒れる。
「やった!!」
思わずサリータが喜びの声を上げる。
すべてがサリータの予定通りに動いたのだ。嬉しくないわけがない。
実はこの勝負は、始まる前の『情報戦』によって大方の趨勢が決まっていた。
―――「あの殿下は騎士になってから日が浅いみたいですよ! 経験なら断然サリータさんのほうが上ですね! フェイントとかにも引っかかるんじゃないですかね?」
―――「戦気も長時間は出せないみたいですね。昨日のダメージも残っているでしょうから、おそらく最初は様子見で使ってこないでしょう。そこを狙ってみてはどうでしょう」
―――「私も聞いてきました! 攻撃に集中すると盾を引く癖があるみたいですね。夢中になって忘れちゃうんでしょうか? それって狙い目ですよね?」
小百合が、ホロロが、セノアが、この短時間で必死になって情報を集めてきてくれた。だからこその勝利である。
(みんな、ありがとう。自分はもう頼ることを恥だとは思わない。誰もがサナ様のために戦う仲間なのだから)
みんなで団結して敵に立ち向かうことは、けっして悪いことではない。
プロボクサーだって事前に相手を研究し、コーチから助言をもらうではないか。何ら恥じることではないのだ。
されど、それもまた相手も―――同じ
「ぐうっ―――おおおおっ!!」
ここでリッタスが驚異の粘りを見せる。
すでに顔面は痛々しいほどに潰れ、口すら閉じられないほどにダメージを負っているにもかかわらず、倒れたまま剣を振る。
足を―――斬る!!
重装の全身鎧はもちろん足もカバーしているが、どうしても可動域を確保する都合上、脆い部分が存在する。
そこを狙って剣が飛んできた。剣気も乗っているので装甲を貫き、アキレス腱を損傷させる。
これはアンシュラオンがルアンに教えた戦い方でもある。それを実践された形になってしまった。
「っ!! しまった! まだ動けたのか!!」
「油断…したな! これは模擬戦ではない…ぞ!!」
「殿下! そのまま押し込めば倒せますぞ!」
「わかって…いる!!」
リッタスが起き上がりながらも、再び倒れこむようにタックルを仕掛ける。
本来ならば鎧の重さもあって耐えられるが、足を切られたことで踏ん張りが利かない。
バランスを崩し、逆に鎧の重さが邪魔をして倒れてしまう。
そこにリッタスが馬乗りになり、剣を突き立てようとするが、サリータもハンマーを使って押しのける。
こうしてその場はなんとか凌いだものの、極めて不利なハンデを背負うことになってしまった。
まさにサリータの油断から生じたミスである。
(バルドロスの指示か。さすがに相手も熟練の武人だな。サリータが『生死をかけた真剣勝負』の場数が少ないことを見抜いている。その一瞬をつかれたな)
こちらに女性陣のサポートがあるのならば、相手側にはバルドロスが付いている。
熟練した武人は常時、相手がどんな戦い方をするのかを観察しているものだ。そこから経歴を割り出し、癖や欠点を洞察するのである。
たとえばヤキチがクロスライルを見た瞬間、無頼者だとわかったのもそのためだ。サリータもまた訓練で動きを見られているので、どんなタイプかはバルドロスには一目瞭然だっただろう。
そして、サリータの大きな弱点は、殺した人間の少なさにある。
彼女がグラス・ギースに来てから殺したのは、魔獣を除けばホテル脱出の際の裏スレイブくらいだ。あの時も守るために致し方なく殺したのであって、殺したくて殺したのではない。
殺した数によって武人は強くなる。そこに『覚悟』が宿るようになるからだ。
アンシュラオンがサナに大量のマフィアの構成員を殺させていたのは、この一瞬の凄みを与えるためでもあった。
「俺は…負けぬ!! こんな場所で…負けては…いけないんだ!! 私が戦って…勝ち取る!! この剣で…!!」
リッタスの目に『覚悟』が宿る。
ガンプドルフやハンクスたちDBDの騎士に共通する、祖国を守るための強い意思だ。
彼自身が騎士になったのはつい最近であるも、本物の戦争〈大量殺戮〉を体験した人間は、その目の色が常人とは異なる。
『殺す覚悟』を決めたリッタスが、剣を振る!!
サリータは防御。なんとかいなす。
だが、執拗にリッタスが迫ってくるため回避が間に合わず、両者がもつれる形で倒れこむ。
重装甲兵は盾を前に押し出すからこそ真価を発揮するのであって、後退しながらでは持ち味が半減してしまう。
リッタスが狙うのは、やはり足。
サリータの足を掴んで離さない。
「くっ!! 離せ!」
「逃がさん!! 負けるくらいならば……殺す!!」
もう男女がどうやらの話ではない。ひたすら勝つための意思を燃やしている。
だが、もちろんサリータも殺されるつもりはない。
無事なほうの足でリッタスの顔面を蹴る。
がしかし、そこに普段から殺し慣れている者と、そうでない者の違いがある。
リッタスはよけるどころか顔面を自ら差し出すように前に進む。足蹴りは彼の鼻を潰し、首の骨にダメージを与えるが、殺すには至らない。
その間に剣を―――突き立てる!!
剣先はサリータの横腹に突き刺さった。
間合いが近すぎるせいで完全には力が入らなかった一撃だが、出血を伴う怪我を負う。
ダメージがあるにもかかわらず、彼の覚悟によって剣気が強さを増しているのだ。
サリータは脇を庇いながらも盾を押し付けることで、かろうじて剣を防いで立ち上がる。
が、相手もまた立ち上がる。
瀕死のように見えるが、目から光は消えていない。
「はぁはぁ…俺は……殿下だ!! 象徴が負けることは…許されないんだ!! あいつらみたいに…のうのうと……諦めて…たまるか! 売国奴の卑しい女どもに…屈するものか!!」
彼の言葉が誰を指しているのかはわからないが、強靭な精神が身体を支えている。
剣を構え、刺し違えてでも倒そうとしてくる。
その迫力にサリータが気圧される。
(なんて執念だ…! こいつ、本当に死んでもいいと思っているのか!?)
死んでも殺す。常々アンシュラオンが言っていることだ。
それが武人の生き方なのだと。殺す覚悟なのだと。
それに異存はない。そうすることでサナのように強くなれるのならば、何一つ間違っていないのだろう。
「はぁはぁ―――はぁはぁっ!」
サリータの呼吸が荒くなる。
ここで彼女は生死を強く意識したのだ。
これは決闘であり、どんなに着飾っても殺し合いであると悟った。
そして、それと同時に目が『赤』に染まっていく。
昨日リッタスを殺そうとした時のように、自身もまた殺意の塊になっていく。殺さねば殺されてしまうからだ。
(殺す…!! 殺される前に…こいつを殺―――っ!!)
だが、そこで意識を取り戻す。
何かが違うと頭の中で誰かが囁いたのだ。
おそらくは直感。ただの勘だ。だが、どうしてもそれが正しいように思えてならない。
(…違う!! そうではない!! 自分も死を怖れない! だが、それは殺すための力ではない!! 守る―――ためだ!!)
師であるアンシュラオンには申し訳ないが、これが自分の矜持。
誰かを守るために傭兵になったのだから、こればかりは譲れないのだ。
しかし、こんな自分を拾ってくれた恩義もある。師のほうが正しいのかもしれない。
彼は凄まじく強いし、サナを育てた実績もある。同じように戦ったほうがいいのかもしれない。そんな思いも生じる。
(師匠、自分はどうすれば…)
「………」
アンシュラオンのほうに視線を向けると、彼は何も言わずに見ていた。
ただ見ているだけではない。
―――【信じている】
理由はわからないが、彼は自分が強くなることを信じて疑っていない。
それがなぜかはわからない。なぜかと問う必要もない。
根拠の無い自信に関して、この男の右に出る者はいないからだ。
「…ぶんぶんっ!! …ぶんぶんっ!!」
サナも刀を振って応援している。
自分を信じてくれている。
「サリータさぁあああああああああんっ!!!」
小百合が、セノアが叫んでいる。ラノアだって小さな身体を思いきり動かしている。あのホロロだって一瞬たりとも目を離さない。
だって、信じているから。
信じることに理由はいらない。金もいらない。されど一番難しいことだ。
その気持ちを惜しげもなく与えてくれる『仲間』がいる。
ならば、十分!!!
もう十分!! これで十分!!!
「私は…!! みんなが信じてくれる自分を―――信じる!!!」
サリータの瞳に、赤く、それでいながらも強い『覚悟』が宿った。
ハンクスとの訓練の際にも覚悟はあったが、今はその比ではない。
自分を信じてくれている人を、信じる気持ち!!
それすなわち、自分を信じることである!!!
「くううううううう―――ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
魂が、燃える!!!
すべてのマイナスがプラスに変換され、彼女の中に愛が満ちる!!
アンシュラオンからの愛、サナからの愛。仲間からの愛。
それ以上、何を求める必要があるのか!!!
サリータの体表から大量のモヤが噴き出すと―――カチッと点火!!
ボッ!! オオオオオオオオオオオオオオ!
身体が―――燃える!!!!
まるでガスが爆発するように次々とモヤが燃えていく!!
爆発していく! 燃焼していく!!
今の彼女の心のあり方を示すように、真っ赤に燃え盛る!!!
「なっ…にっ……【戦気】…だと!」
誰が見ても、それは戦気だった。
しかもサリータの気持ちを代弁するかの如く、大きく激しく強いものである。
リッタスもあまりの迫力に気圧される。
それも仕方がない。自分の数倍以上の戦気を彼女は放出しているのだ。
「これが自分の、ありったけだああああああああああ!!」
サリータが盾を構えて突っ走る。
足の痛みなど、今の瞬間に消し飛んでしまった。損傷したアキレス腱が、戦気によって向上した肉体機能によって修復されたのだ。
強引に筋組織が伸び、新たな腱となって身体を支える。覚悟を体現するのに相応しい道具が用意される。
これが武人という存在。戦うために身体を変化させる者たちである。
彼女は大地を踏みしめ、全身で気持ちを表現するように駆ける。
その姿は―――あまりに美しい
完全に迷いがなくなった突進は、文句のつけようもない一直線。
まるでサナの直進のように一本道に突き進み、反射で振り下ろしたリッタスの剣を
―――バリンッ!!
叩き割る!!!
「馬鹿な!! どうして俺は―――っ!!??」
その言葉は最後まで続かなかった。
直後、サリータの盾が彼の覚悟を完全に断ち切ったからだ。
意思に勝るものがあるとすれば意思だけ。
リッタスの意思は執念とも呼べるほど強いものだったが、凄惨な戦争を体験したがゆえの力だった。そこにネガティブな感情があったのは間違いない。
それでは届かない。
けっしてポジティブが絶対的に良いわけではないものの、サリータという女性が前向きになった時の『気持ち良さ』には到底及ばなかった。
リッタスが宙に舞う。
衝撃が強すぎて、痛みはもう感じない。
ただ全身から力が抜けていく感覚しかない。
(あいつ…こんなに……美人だった……のか。女の…くせに…)
薄れゆく意識の中、リッタスが見た彼女は美しかった。
兜が外れ、銀色の髪と汗が風に舞う。
午前中にだけ降り注ぐ爽やかな太陽の光が、彼女の戦気を照らして輝かせていた。
大きく力強く、正々堂々とまっすぐ清らかな炎。
それが彼女の想い。彼女の美。
(甘い……やつ…だ)
そして、意識を失った。
死んではいない。サリータがあえて頭を狙わなかったからだ。
甘いと言われても仕方がない。しかしながら、それも彼女の矜持である。