【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
「申し訳ありませんでした。いかなる罰も受ける所存です」
リッタスが、サナに向かって土下座をしている。
しかも宣言していた通り、頭を地面にこすり付けて…いや、叩き付けている。
額には血が滲むが、まったく気にしたそぶりはない。何度も何度も叩きつける。
「サナ様、どうされますか?」
見届け人はサリータだ。
彼女が決闘でもぎ取ったのだから、この役だけは絶対に譲れない。
「…じー」
「………」
サナが、じっとリッタスを見つめる。
「…ぽんぽん」
そして、近寄って頭を軽く撫でる。もういいよ、というように。
「サナ様、よろしいのですか? なんなら罰を与えることもできますが?」
「…ふるふる」
「わかりました。さすがサナ様、なんとお優しい…。おい、サナ様はお許しくださるそうだ。お前も感謝しろよ」
「…ふん、これで終わりか? なら、もう戻るぞ」
「お前な…自分が言うのも変だが、恥というものを知らないのか?」
「謝れと言われたから謝っただけだ。文句はなかろう?」
「それはそうだが…すごいな」
決闘が行われた夜、回復したリッタスが土下座をしに来た。
この短期間で治るほうもすごいが、あまりに潔い土下座を見せたことも驚きだ。
「頭を下げるだけならば安いものだ。いくらだって下げてやる。失うものなど何もない」
「だが、お前の評価は下がったのではないのか?」
「それこそくだらない。べつにこのキャンプの連中に好かれたいわけではないからな。国全体の問題なのだ。どうでもいいことだ」
「このキャンプの騎士にさえ支持されないやつが、どうやって国をまとめるんだ?」
「いちいちうるさいやつだ! お前には関係のないことだ!」
「その通りだが…今後は邪魔するなよ。気安く話しかけるのも禁止だ」
「ふん、誰がお前などに。お前こそ、あまり調子に乗るなよ。私に勝ったからといって、それで実力が上がるわけじゃない。油断していると死ぬぞ」
「心配してくれるのか? 明日は雨かもしれんな」
「馬鹿馬鹿しい。こんな荒野に雨が降るものか。それで降るのならば、それこそいくらでも心配してやる。お前が女であることには変わりがない。それを忘れるな」
そう捨て台詞を残し、リッタスは去っていった。
「女…か」
「あの人、まったく変わりませんね。ホロロさんの言う通り、人間の性格なんて簡単に変わりませんもんね」
小百合が塩を撒く。
さりげなくやっていることだが、こういった小さなことにも日本文化が浸透していることがわかって面白い。
「それはそうと、早く始めましょう! 私たちが嫌な気持ちになることなんてないですしね! ぱーっと楽しみましょう!」
キャンプ外にあるクルマの外では、お菓子や飲み物を用意して簡易パーティーの準備が整っていた。
何のお祝いかといえば、もちろん―――
「サリータさん、おめでとうございます!!」
「おめでとうございます」
「おめでとうございます! やりましたね!」
「おめでとー」
「…ぱちぱちぱち」
「いやぁ…その、なんと言いますか……ありがとうございます」
サリータも恥ずかしそうにしながらも、まんざらでもない様子だ。
決闘で勝ったこともそうだが、彼女が初めて戦気を出せたお祝いをしているのだ。
ますます女子会の様相が強まるが、そもそも女性ばかりを集めているので、そうなるのも自然であろう。
「戦気って出すのが難しいんですよね? サリータさん、すごいです!」
「本当に長らくお待たせして申し訳ありません…」
「そんなことないですよ! 出せるだけですごいんですから! サナ様、そうですよね?」
「…こくり!」
サナもサリータが戦気を出せるようになって嬉しそうだ。
もしかしたら、この中で一番嬉しいのは彼女なのかもしれない。
少しずつサナの中に喜びの感情が育ってきているようで、アンシュラオンも嬉しい限りである。
「サリータもついに戦気が出せるようになったか。これでスタートラインだな」
「はい!! ですが、師匠……自分はその……」
「お前はお前の信じたやり方で強くなればいい。たとえばだ、オレより強いやつが甘いことを言うのならば、そのほうが正しいことを意味する。結局のところ、強いやつが正しいんだ。出会った頃にも言ったかもしれないが、まずは強くなれ。強くなってから考えろ。そこに答えがある」
サリータが相手を殺したくないのならば、そうすればいい。
自分の命令以外のところでは彼女の好きにやっていいのだ。
「強くなれば、ある程度は自分の思い通りに生きることができる。その自由を力で勝ち取ればいい。この調子でがんばるんだぞ」
「師匠……はい! ありがとうございます!」
「じゃあ、戦気を出してごらん。自分で意識して出せないと意味がないからな」
「は、はい!! ええと…たしかこうやって……んんんんっ!」
「力みすぎだ。筋力で出すんじゃないぞ。心を燃やすんだ」
「…ど、どうやるんでしたっけ?」
「一度できれば二度目は簡単なはずだが……逆に訊くが、何がきっかけだった? それを思い出せ。どんな状況が自分にとって一番力が湧くかを考えろ」
「自分にとって一番力が湧く状況…」
ちらっとサナを見る。
彼女のつぶらな瞳が、じっとこちらを見つめ返す。
そのたびに身体が震え、熱くなるようだ。
面倒を見て鍛えてくれるのはアンシュラオンだが、自分を選んでくれたのはサナなのだ。
昼間の決闘の時だって、守ろうという気持ちが強さに直結したはずだ。
(サナ様をお守りする。サナ様とともに戦う。それが私の使命だ。そして、望み。守る…守る時、私は強くなれる)
ボボッ ボッ
サリータから戦気が溢れ出る。
「わっ、出ましたよ! 触っても大丈夫ですか?」
小百合が興味津々に手を伸ばす。
たしかに一般人からすれば珍しいものだろうが、シャイナの一件を忘れてはならない。
「オレくらいになれば戦気の質を変えることもできるけど、まだサリータには難しいね。触らないほうがいいかも。指紋が消えちゃうからね」
「そうですか。残念です」
「戦気に触れられるのは、その戦気と同質以上の力を持つ者だけなんだ」
その反面、アンシュラオンは平然と触る。
自分も戦気を出せば相殺できるし、サリータ程度の戦気では出さなくてもダメージは負わないかもしれない。
そのまま身体中をチェック。
いろいろなところを触って確認する。
「あっ、あっ…く、くすぐったいです」
「うむ、もっと見たいな。服を脱ぎなさい」
「えっ!?」
「べつにいやらしい目的じゃないぞ。毎日風呂に一緒に入っているだろう。何を恥ずかしがる」
「そ、そうですよね……あふっ!」
「こら、我慢しなさい。いやらしい目的じゃないぞ」
「は、はい」
あえて二回言うのが怪しいが、顔つきは真剣である。
まあ、真剣な顔をしながら卑猥なことを平然とするので、なんとも評価は難しいが。
ともあれサリータが全裸になり、アンシュラオンが身体を触る。
「ふむ…なるほど」
「ど、どうでしょう? 何かおかしなところはありましたか?」
「問題はない。『気孔』も開いているし、しっかりとした戦気だ」
「きこう?」
「植物の気孔じゃないぞ。【
「戦気は汗と同じなのですか?」
「そうだ。武人だけが流す汗さ。そこから生体磁気が出て……と、お前にそんなことを言っても仕方ないな。まずは戦気を出す感覚を忘れないように、日々サナと特訓を命ずる。移動中とか暇な時も常に戦気を出すんだよ」
「普通に出せばよいのですか?」
「何もないところならば普通に出してもいいが、戦気は攻撃的な気質だ。周りに物があると壊す可能性があるし、うっかり小百合さんたちが触ったら怪我をする。できるだけ中で燃やすんだ」
「な、なか?」
「こうだ」
「―――っ!! あ、あつい!!」
サリータの手を自分の胸に押し当てる。
そこはまるでマグマのように熱かった。
「わかるか? オレは今、体内で戦気を燃やしている。オレも暇な時はずっとこうやっているんだ」
「今までもそうされていたのですね」
「そうだ。これが武人の世界だ」
誰もが疑問に思っていたはずだ。アンシュラオンはどうやって修行しているのだろうか、と。
あまりに強すぎるため修練の相手もいない。それにもかかわらず、いつも臨戦態勢でかげりが見えない。
その理由が、『体内発気』である。
練気で作った戦気を体内で循環させる鍛錬法だが、外に放出するのと内側で出すのとでは難度が違う。
たとえば、それは『感情』に似ているかもしれない。
怒りで感情を表に出すのは簡単だが、中でじっと耐えるのは難しい。感情を制御する意思力が必要となるからだ。
体内発気も同じで、アンシュラオンはあの激しい全力の戦気を体内で燃やして制御している。外からは何も変わっていなくても中ではマグマが渦巻いているのだ。
そして、最終的には外に放出する前に自ら滅して消し去る。出した戦気と同等の力をぶつけて相殺するわけだ。
「体内発気は高度な技だ。お前が完璧にできるとは思えないし、慣れない者が処理を間違えると体内で戦気が暴走して危険な状態になる。危ないと思ったら外に放出してかまわないぞ」
「………」
「どうした? 聞いているのか?」
「…っ! は、はい! も、もちろんであります!!」
「ん? 妙に肌が赤いな? 初めて戦気を出したあとは細胞が異常に活性化するから、そのせいかな?」
「……はぁはぁ…はぁはぁ」
「熱が出ているなら少し休むか?」
「い、いいえ! だ、大丈夫……です……はぁはぁ」
「そうか? それならいいが…汗も出ているし、妙に感覚が鋭いな」
「…ふぅー、ふーーっ!」
アンシュラオンが触るたびにサリータがこわばる。
それに伴って汗が噴き出て、ついには涙さえ出てくる。
幸いながら身長差があるので、アンシュラオンはその表情の変化には気づいていなかった。
(な、なんだ。身体が…熱い。師匠が触ったところから…何か熱くて…気持ちいいものが溢れ出ているような……それが自分の……自分のぉぉぉ……はぁああ!!)
潤んだ目。紅潮する肌。乳首まで立ち始める。
(し、師匠……あ、アンシュラオン様……ああ、なんて綺麗で…強くて……逞しい。この御方に触れられるだけで、自分は……私は……心が……とろけ……る)
「……すき」
「え?」
「っ!! い、いえ!! な、ななななな、何でもあり、ありません!!」
「んんん? 何か変だぞ。本当に大丈夫か?」
「は、はい……………スキ」
サリータの心が妙にふわふわして、とろとろになって、くすぐったい気持ちになる。
まるで―――【恋】
乙女が誰かに恋するように、アンシュラオンのことばかり考えてしまう。そのたびに貫かれるような快感が走るのだ。
当然、それに一番驚いて戸惑っているのは彼女自身である。
(ま、まさか…! お、乙女でもあるまいし…! 二十六歳にもなって…! でも、ああ……好き……好き。好きが……止まら……ない……。愛されたい……愛したい……抱かれたい……うううううっ! なんてはしたない…でも、好き)
好き!(ハート目)
サリータも日々アンシュラオンと性交しているので、こういった気持ちがないわけではない。
がしかし、今までは師匠と弟子という関係が前面に出ていたし、何よりも力に差がありすぎた。
それが戦気を出せることによって武人として覚醒。まだまだ大きな差はあるものの、同じ土俵に立ったことで彼の大きさが実感できるようになったのだ。
プライリーラもそうだったが、武人の女性は強い武人の男と惹かれ合う。
因子が覚醒している者同士、より感覚も合い、肉体強度的にも釣り合うからだろう。
その結果、彼女の女性の部分がより表面化してきて―――『姉魅了』が発動!
思えばサリータも一応は年上である。姉魅了が発動してしかるべきなのだが、ここにきてまさかの魅了。
戦気もそうだが、女心という意味でも大器晩成型なのかもしれない。
「よし、服を着ていいぞ」
「…あっ…はぃ……」
(…って、何を期待しているのだ!! 駄目だ駄目だ駄目だ!! これは駄目だ! たしかに戦気の修行は必要かもしれない。この気持ちを紛らわすためにも…どこかで発散しなくては!)
なんとか平静を保ちながら服を着る。
すでに小百合やホロロという妻がいるのだから、自分はあくまで一人の武人としてサナに尽くすべきだ。
それでも日々愛してくれるのだから、それだけでも十分。それで満足できる。
今のところは。
「し、師匠。さっそく鍛錬を……したいです」
「うん、意欲があってよろしい。サナ、面倒を見てあげてくれ。お前のほうが先輩だからな」
「…こくり!! ぐいぐいっ!」
「あっ、サナ様…!」
「サナも体内発気を練習中だ。魔獣が出ていない間は一緒に修練すればいい。サナ、危なくなったらサリータを止めるんだぞ。わかったな?」
「…こくりこくり!!」
サナが興奮して何度も引っ張っている様子は、彼女の愛情を深く感じさせる。
(ああ、サナ様は本当に私を待っていてくださったのだ。それだけで泣けてくる…)
「サナ様…ううっ……ありがとう……ございます」
「…なでなで」
その様子にアンシュラオンも感じ入るものがあった。
まるで最初に出会った時のような二人のやり取りに、思わず心が温かくなる。
足手まといのサリータが戦気を覚える。ここまでが一つの目標だったからだ。
しかし、ある【異変】についても感づいていた。
(山を降りて半年ちょい。いろいろな人間に出会って、さまざまな実験をした。ただの子供だったサナが、こんなにも強くなれた。そのことは嬉しいが、ずっと疑問に思っていたこともある。そしてエメラーダに出会って知識を得たことで、オレの中で仮説が確信に変わった。もしかしたら…近いうちに『そうなる』のかもしれないな)
サリータが笑っている。戦気を使えたと喜んでいる。
彼女は努力をしてきたので、その結果が出ることは嬉しいに決まっている。
だが、まだ気づいていない。
魅了以外にも、彼女の中でもう一つの変化が生まれていることを。