【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
「このままだとまずいよね」
夜、焚き火の前。
アンシュラオンが集めたボーミンシーファの心臓結晶を袋に入れながら、ガンプドルフに話しかける。
「兵士たちのことか?」
「やっぱり気づいているんだね」
「うむ…」
「まあ、しょうがないとは思うよ。この緊急事態だもの。弱かろうと少しでも人手は必要だ。ただ、おっさんたちにとっては人間こそが最大の資源でもあるよね。現状では代わりはいないわけだからさ」
ボーミンシーファの襲撃で兵士たちにも被害が出たが、アンシュラオンが治療したおかげで死者は出なかった。
だが、それだけだ。現状維持ができただけで次はどうなるかわからない。
それだけの危険があると知りながらも連れてきたのは、やはり人間がいないと何もできないからだ。
クルマを動かすのも人間。弾薬を運ぶのも人間。指示するのも人間。
人間がいなければこの荒野では何一つできない。そう考えると人間こそが最大の資源でもあるわけだ。
「オレが来る前、おっさんはどれくらい生き残ればいいと思っていた?」
「最悪は…十数人だ」
「やっぱりおっさんは冷静だね。それでいてリアリストだ。オレと似ている」
「西方に行けば行くほど魔獣は強くなる。そんなことはもう嫌というほどわかっているのだ。それでも行かねばならない。覚悟はできている」
「なら、その兵士たちの命はオレに預けてくれないかな? どうせ捨てるはずだったんだ。もらってもいいよね?」
「どうするつもりだ?」
「昼間の体たらくを見て確信した。このままだと全滅すらありえる。どうせ死ぬにしても悔いは残したくないだろうからね。使えるように鍛えるだけだよ」
「では、任せる」
「そんなに簡単に決めていいの?」
「君はすでに我々の訓練方法を見た。そのうえで自分でやりたいと言うのだ。勝算があるのだろう?」
「まあね。軍隊式訓練法は悪くはないよ。少しずつ強くなるためには役立つ。でも、短期間に限界を超えて強くなることは難しい。今求められているのは急激な進歩だ。それはオレのほうが専門かもね」
「ケサセリアのようにか。…見違えたな。たった数日だぞ? 信じられない」
「その数日に命をかけられれば人は強くなる。あれでも壊れないように事前にしっかりと準備を重ねたんだ。だから綺麗に芽吹いた。でも、兵士たちにそんな時間はない。もっと荒療治でいくよ。師匠はもっと厳しかったしね」
「それが陽禅公のやり方ならば受け入れよう。すべて任せる」
「戦艦が見つかるまでには最低限仕上げてみせるよ」
「すまないな。助かる。ところで、その心臓は使えるのか?」
「うーん、微妙。スレイブ・ギアスには使えそうもないや。ただ、別の用途には使えなくはないかな」
アンシュラオンがジュエルの欠片を指で砕き、粉にして焚き火に投げ込む。
すると、粉がボボンッと破裂して火が大きくなった。
「あの鳥は体内で爆破物質を生成する能力があった。この心臓だけでもこれだけ燃え上がるんだから、きっと血液そのものに同じような性質があったんだろうね」
「ふむ、火薬のようなものか。だが、取れた量はそこまで多くはないのだろう? 倒す手間を考えると効率は悪いか」
「たしかにね。たったこれだけのために飛行型魔獣を倒すのは手間がかかりすぎる。普通に火薬を作ったほうが楽だとは思うよ。ただ、この荒野ではそんな贅沢も言っていられない。使えるものは全部使う覚悟でいないと物資不足になる」
「すでにトラクターを三台失っているからな。爆破された物資も半分は使えない。常に物資は不足しているな。少年の言う通り、魔獣の素材もしっかりと利用する時期が来たのかもしれん」
「オレが興味あるのはスレイブ・ギアスか能力強化の魔石、それと武器防具に使えるものなんだけど、本当に開拓するならこういう地味な魔獣素材も売り物にしないと駄目かもしれないね。一応綺麗に残っていた羽も取ってきたけど、今のところは羽毛布団にするか断熱材にするかくらいしか使い道が浮かばない。このクチバシも飾り物にするしかなさそうだよ」
ボーミンシーファは討滅級魔獣とはいえ、その素材がすべて有用とは限らない。
逆に強いからこそ倒す手間がかかり、メリットがあまりないのだ。珍しい魔獣の部位やら剥製やらを集めている好事家でもいない限り、用途は限られるだろう。
だが、そのまま捨てるのはもったいない。少なくとも工芸品として売りに出して金を稼ぐべきだ。
「とはいえ我々は軍人だ。そういったものは専門ではない。やはり東大陸の人間を雇うべきなのかもしれんな」
「それも候補の一つだね。でも、もっといい方法があるよ」
「それは?」
「ハローワークの【誘致】」
「…なっ」
「おっさんたちが魔獣の素材を売りづらい最大の理由が、グラス・ギースのハローワークを経由しないといけないことでしょ? たぶん他の都市の支店を使っても同じだよね。ならばいっそのこと、ここに誘致してしまうのが一番だ。それならば気兼ねなく使える。魔獣だってたくさんいるんだ。ハンターだって集まるよ」
「それは…そうだが、どうやるのだ?」
「小百合さんの上司とかに交渉して、本店に連絡してもらう手もある。こちらからアクションを起こせば話くらいは聞いてもらえると思うよ。相手にもメリットがあるはずだからね」
「ふむ…ハローワークか。盲点だったな。だが、あれだけの組織が簡単に動くかどうか…」
「これからここに国を作ろうって人間が、それくらいで動じてどうするのさ。ハローワークは経済を生み出すうえで必須の存在だ。オレたちは世界の根幹を敵に回してはいけない。味方に引き入れることを考えるべきだ」
当たり前だが、アンシュラオンたちは世界をどうこうしようとは思っていない。
世界のシステムを改革する! などという大それた目的ならばいざ知らず、未開の地を開拓するためには今あるシステムに乗っかる必要がある。
その中で貨幣流通という大きな役割を担っているハローワークは、一番最初に味方に付けねばならない組織であろう。
「しかし、今すぐにというわけにはいかないのだろう?」
「そうだね。誘致するにはそれなりの魅力が必要なはずだ。どこでもいいってわけじゃない。グラス・ギースにあってブシル村にはなかったから、最低でも街と呼べるくらいの規模は必要になる。まずは『交易所』を作って魔獣素材を売買させるんだ。そこで実績を作ればいい」
「ふむ、仮にハンターが手配できずとも、兵士たちの訓練がてらにやらせてもいいし、他の資源もそこで売買することもできるか」
「おっさんが考えていた通り、最初はグラス・ギースもある程度巻き込む必要があるけど、最終的には独立する方向がいいね。重要なことは三つ。素材を独自に加工する技術力の確保、卸売りができる魔獣素材専門の商人の確保、最後に品質の良い素材の確保だ。商人はオレがやってもいいかもね」
「では、最低でも独自の素材加工技術と素材集めが重要になるな。つまりは、もっと綺麗に倒せと言いたいのだろう?」
「そういうことだね。さすがに今回の魔獣は難しかったけど、余裕があるときは素材の品質にも気を配るべきだ。もちろん戦艦が見つかったあとでいいけどね。下手に余裕を見せて死んだら馬鹿丸出しだ。あくまで未来の話だよ」
「未来…か。そうだな。我々には未来がある。輝ける未来だ」
「いつだって最初は何もないところから始まるんだ。荒野は厳しいけど、手付かずの資源が眠っているはずだ。それを手に入れてからが勝負だよ。こんなところでつまずいている暇はないからね」
「ああ、わかっているさ」
「ともかく何か見つけたらオレのところまで持ってきてね。鑑定するからさ」
こうしてあえて未来の話をするのは、アンシュラオンなりの気遣いでもあるし、それがやり遂げるための力になるからだ。
今のDBDに必要なのは希望と未来である。状況が厳しい時ほど忍耐が試されるものだ。
そしてさりげなく自分を仲介させて貴重な素材を手に入れる目的もある。
(実際グラス・ギースでもそこまでたいしたものはなかったし、魔獣素材は未開発の分野のはずだ。ボーミンシーファは微妙だったけど、基本的に魔獣のレベルが上がるほど素材も質が上がるのは道理だろう。貴重なものを安売りするほど馬鹿なことはない。まずはオレがチェックしないとな)
ガンプドルフは所詮、軍人だ。うっかり貴重な素材やアイテムを安値で売りかねない。
だからまずは自分のところに素材を持ってこさせて、重要そうなものをあらかじめ確保する必要がある。そのうえで不要なものを売って利益にするのがベストだ。
アンシュラオンも商人としては駆け出しだが、『情報公開』もあるので彼よりはましだろう。
(でも、オレは自分のことで手一杯だから、やはり専門の職人は必要だよな)
DBDにいるのは鍛冶師だけだ。それはそれで重要だが、一般人は基本的に普通の生活を送るものだ。それに対応したさまざまな分野の職人が必要となる。
結局のところ、大事なものは『人』なのである。
人を管理することがどれほど重要かはマングラスによって証明されている。
(もしマングラスの力を手に入れたとしても、グラス・ギースから人を大量に引っ張ってくるわけにはいかない。下手をするとスパイも交じっているかもしれないしな。できれば違うところから持ってきたいが…そんな簡単に人が手に入るわけじゃないし、問題は山積みか)
ソフィア王女たちがどれくらいの規模で入植するかも問題だ。
多ければ軋轢が生まれるし、少なすぎても経済基盤が生み出せない。
∞†∞†∞
翌日。
一向は荒野を移動する。目的地はまだまだ先だ。
まずは戦艦が通ったであろう道をトレースすることが重要だ。そこで何があったのかを想像することができるからだ。
部隊は西に進路を取り、五十キロほど進む。
昨日のことがあったため警戒しつつも、いつまでもこんな場所にはいられない。それなりに速度を上げたことも奏功し、着実に移動距離は伸びた。
がしかし、あるラインを超えた瞬間―――
「―――っ!!」
ゾワリ
アンシュラオンの肌が粟立つ。
(なんだ…今の感覚は? 肌がざわつく)
今さっき過ぎ去った地点から完全に世界が分かれた。
見た目は同じ荒れ果てた荒野にもかかわらず、まるで薄紫のフィルターを通したような異様に暗い世界になったのだ。
周りを見るが誰もが淡々と歩いている。特に気にした様子はない。
(気づいていない? こんなに異様なのにか? …違う。見えないんだ。これは―――【術式】だ!!)
アンシュラオンは普段は色彩によって術式を見るようにしている。そのほうが綺麗だし感覚で理解できるからだ。
であれば、今見えるドス黒い色彩は何なのだろう。息苦しく、首を締め付けるような激しい負の思念に満ちている。
(まさか術式攻撃? だが、特定の人間に対して攻撃している様子はない。どこだ…どこにある? ……下? 大地……全体か!?)
術式の発生源を探すと、自分たちの真下からもっとも強い波動を感じる。
しかしながら、その場所にあるのではなく、大地全体がドス黒い色彩、【超広域術式】によって干渉されていることがわかる。
(嘘だろう!! なんだこの広域術式は!!! どこまで続いているんだ!? この荒野全部を…覆っているのか? いったい何千キロあると思っている? 化け物だ…ありえない。こんな術式、人間には使えないって! 誰がいったい何のためにこんなものを…)
アンシュラオンにそう言わしめるほどの超高等術式が展開されている。
おそらくエメラーダが百人いても絶対に不可能。姉でさえ単独では不可能かもしれない。そんなものが現実に荒野にあるのだから驚くのも仕方ない。
幸いながら人間に対して直接作用する類のものではないようだ。苦しんで倒れるような者はいない。
しかし、その効果はもっと危険なものであった。
「魔獣襲撃!! 数多数!!」
偵察部隊が戻った途端、大声で叫ぶ。
その緊迫した様子から、今までとは状況が異なることが一瞬で伝わる。
(こんな時にか。いや、こんな時だからだな。あまりに高等すぎてオレにも術式が解読できないけど、たぶんこれは……)
「ちょっと見てくる。警戒態勢を取っておいて」
ホロロたちにそう伝えるとアンシュラオンが輸送船の上まで駆け上がる。ここが一番高い場所なので遠くがよく見通せるのだ。
すると隊列の数キロ先、丘陵地帯を勢いよく駆け下りてくる集団が見えた。
見た目は二足歩行で走る大きなトカゲだが、首がやたら長く、足も長いために歩幅が大きく、かなりの速度でこちらに向かっている。
―――――――――――――――――――――――
名前 :ガリムリプス〈首長牙小竜〉
レベル:80/85
HP :2520/2520
BP :580/580
統率:C 体力: C
知力:E 精神: E
魔力:E 攻撃: C
魅力:E 防御: E
工作:E 命中: D
隠密:E 回避: D
☆総合:第三級 討滅級魔獣
異名:荒野のハイエナ
種族:魔獣
属性:火
異能:火炎ブレス、滅多噛み、囲い込み、人間憎悪
―――――――――――――――――――――――
(トカゲ…というよりは小さな恐竜だな。レベルも高いしHPも高い。たしかに魔獣のランクは確実に上がっているな)
性能としては、ジングラスが保有しているローダ・リザラヴァン〈土炎変色蜥蜴〉に匹敵する。
リザラヴァンのほうが隠密に関する強力なスキルがあったため厄介な相手だったが、こちらは数が問題だ。
向かってくるガリムリプスの数は、およそ二百に近い。
こんなものに襲われたら、そこらの傭兵団など一瞬で壊滅だ。ゲイルの黒鮭傭兵団でも同様の結果に終わるだろう。
しかし、こちらは本物の騎士団。しかもルシア帝国と戦っていたバリバリの将軍がいる。
「主力部隊を出す!! 重装甲兵は前に出て攻撃を受け止めろ!! その間にゼイヴァーの遊撃隊は回り込んで数を減らせ! まずは私が斬り込む!! 後衛は砲撃で援護しろ!!」
ガンプドルフは『トールガイアの剣〈雷霊の怒り〉』を握り、単独で走り込む。
トールガイアはアンシュラオンとの戦いで多少削れたが、シャクティマの力と自己修復機能によって復元されている。一度本格的に叩き直す必要はあるだろうが、この作戦中くらいはもつだろう。
それに合わせて騎士たちが援護砲撃を開始。すでにトラクターの上で準備されていた迫撃砲と輸送船の主砲も発射。
相手は集団で固まっているので、そこにガンガン砲弾をぶち込んでいく。
ただし相手もかなり強力な魔獣だ。砲撃で何匹か吹っ飛んだが、それでもなお、こちらに向かってくる勢いは衰えない。
「蹴散らす!!」
そこにガンプドルフの強烈な一撃が炸裂。
先頭にいたガリムリプスを切り裂きつつ、さらに雷の波動が群れを貫く。
剣王技、雷王・
剣にまとった帯気を集め、斬撃と一緒に叩きつける技である。帯衝劉刃をいくつも集約し、より貫通力を増した技といえばわかりやすいか。
因子レベル5で使える大技であり、直線上の敵を粉砕する広範囲技でもある。
「ギギギギギギャッ!?!」
それによって十数匹が剣圧で死亡。
その他多数のガリムリプスが感電して動きが止まる。
「閣下に続け!! 一匹たりとも通すな!!」
続いてフルアーマーを着込んだ屈強な重装甲兵が突進していく。
盾で押し出したり、ハンマーで殴ったり、至近距離から砲撃を浴びせたり、剣で斬ったりと攻撃方法はさまざまだが、彼らの役割は足止めである。
ガリムリプスは火炎ブレスを吐き、長い首を使って死角から噛み付いたりするが誰一人として下がる者はいない。
どんなに傷ついても、けっして退かない。それが彼らの仕事だ。
そうして足を止めたところに、左右に散ったゼイヴァーの遊撃隊が襲いかかる。
ゼイヴァーが槍を一閃。
鋭い突きがガリムリプスの頭部を的確に狙い、ガンプドルフが使った雅龍閃の槍版、
その一撃を受けただけで―――破砕
頭が完全に吹っ飛ぶ威力だ。それでも死なないガリムリプスは爪で引っかこうとしてくるから怖ろしい。
だが、部下の騎士が二人がかりで攻撃し、とどめを刺す。
あとはその繰り返し。
槍で突いたり、時には薙ぎ払ったり、槍を自在に操って一匹ずつ確実に仕留めていった。
(前の戦力だけで大丈夫そうだ。おっさんもいるし、ゼイヴァーも強い。多少ダメージを受けている騎士もいるけど、最初の一撃でほぼ制した。正面からの戦いならばDBDは強い)
今回は前回と違って正面からの迎撃だ。
もともと前面には強力な戦力を配置しているので、最大戦力同士がぶつかった結果が出ているわけだ。
何よりもガンプドルフの一撃が戦況を有利にしている。
あれで完全に敵の勢いを削ぎ、流れをこちらに引き寄せたのだ。
彼自身も勇猛な将なので、ばっさばっさと切り倒しているし、仮に一撃で倒せなくても後続の騎士たちがしっかりと倒しきる。
ゼイヴァーのように最初の一撃で敵の戦闘力を一気に削っておけば、後に続く騎士たちの負担が大きく減らせるのだ。だからこそ大将自らが先陣を切ったのである。
また、ガンプドルフの剣技も冴えに冴え渡っている。実は強くなったのはアンシュラオンだけではない。彼もまたあの死闘によって力を伸ばしていた。
今のガンプドルフは絶好調。抜群のキレで魔獣を叩き斬っている。
こうして前は万全のはずだった。
だがしかし―――魔獣たちもけっして引かない
どんなに傷つけられても、血走った目からは【殺意】が消えない。
その執念は異常とも呼べるもので、ガンプドルフに切り落とされた首でさえ、近くにいた騎士の足に噛み付く!
「ぐっ!! まだ死なないのか!! 死ね! 死ね!!」
騎士は大型のメイスで頭を破壊。
それでようやく動かなくなったが、死んだ魔獣の瞳はいまだ赤いままで憎しみの視線を向けていた。
その現象は他の場所でも起こっており、先手を打って有利になったにもかかわらず騎士たちは苦戦を強いられる。
(おかしい。明らかに異常だ。魔獣は自分の生存を第一に考える。人間みたいに他の何かのために死ぬなんてありえないんだ。やはり―――術式の影響か)
―――〈殺せ! 殺せ! 人間を殺せ!!! 皆殺しにしろ!〉
呪詛にも近い強烈な波動が魔獣の精神に干渉していた。
そして、これはアンシュラオンがよく知るタイプの術式。
【精神術式】であった。