【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
人間も死に物狂いならば、魔獣も死に物狂いの異質な戦いが繰り広げられる。
なぜならば、これは『生存をかけた戦いではない』からだ。
人間側はそうでも、魔獣は大地から溢れる術式によって精神を支配され、死んでも人間を排除しようと向かってくる。生存第一の生物としてあるまじき行為である。
問題は、それを可能にさせてしまう強制力のほうだ。
(おっさんたちが苦労した理由がこれか。ただでさえ強い魔獣が、がむしゃらに攻撃してくるんだ。厄介極まりない。デアンカ・ギースだって逃げようとしたくらいだしな。…ってことは、やっぱり限定範囲の術式か?)
精神術式には、当事者にかけるものと範囲に設置するものの二種類が存在する。
サナのスレイブ・ギアスは前者のもので、どこにいようが当人だけに作用する。一方の範囲型は設置された場所だけに作用するものだ。
魔獣の狩場付近に出現したデアンカ・ギースは逃げようとしたので、この術式の影響下にはなかったと思われる。
(完全な直線ではないようだが、さっき通った場所から西側だけに影響を与えているんだ。最悪は東側に逃げれば追ってこないかもしれない。ただ、こっちは戦艦を捜しに行かないといけないし、魔獣が襲ってくるといって諦められる状況でもない。どのみち倒していくしかないな。だが、この術式を【設置した誰か】の存在も無視はできない)
術式は自然に生まれるものではない。誰かが意図的に作る必要がある。
しかも『人間憎悪』を植えつけるえげつない代物である。長年人間が荒野を開拓できなかった理由の一つがこれだろう。
では、誰がこんなものを設置したのかは、まったくもって謎である。
(人間を立ち入らせたくないって意思がひしひしと伝わってくるな。前文明が滅びる前からあったものか、滅びたあとに誰かが作ったのか。どっちにしろ人間の仕業とは思えない。それとも昔の技術は今よりも上だったのか? …駄目だな。話が大きすぎて現状では答えは出ない)
「魔獣だ!! 違う群れだ!!」
アンシュラオンが思案している暇もなく、偵察部隊が再度叫ぶ。
前方のガリムリプスに加え、右側面からも魔獣の群れが走ってくるのが見えた。
平べったい大きな頭部に八本の角が生えた四足魔獣で、こちらも恐竜のような外見をしている。
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名前 :ドドサウルス〈八角小竜〉
レベル:73/85
HP :3200/3200
BP :780/780
統率:D 体力: A
知力:E 精神: E
魔力:D 攻撃: D
魅力:E 防御: C
工作:E 命中: E
隠密:E 回避: E
☆総合: 第三級 討滅級魔獣
異名:八本角自慢
種族:魔獣
属性:岩
異能:集団突撃、突き刺し頭突き、草食、人間憎悪
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だが、これで終わらない。
「左側からも来るぞ!!」
さらに左側面から魔獣の群れ。
尻尾がやたら肥大化した大きな鶏のようなものが走ってきた。
―――――――――――――――――――――――
名前 :ガモーフサウルス〈尾呈拳鳥竜〉
レベル:83/90
HP :2800/2800
BP :670/670
統率:E 体力: C
知力:E 精神: D
魔力:D 攻撃: B
魅力:E 防御: E
工作:E 命中: E
隠密:E 回避: D
☆総合: 第三級 討滅級魔獣
異名:荒野の尻尾自慢
種族:魔獣
属性:土
異能:尻尾攻撃、尻尾捕縛、尻尾叩きつけ、人間憎悪
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強さ的にはガリムリプスと変わらないので、この周辺の魔獣のレベル帯がこのあたりなのだろう。
ただし、本来ならばこの三種の魔獣は互いに縄張りを持ち、遭遇すれば対立する関係にあるはずだ。それが今は人間だけを敵と認識して迫ってくることが問題である。
さすがに背後からは来ないようだが、三方面からの挟撃は現状ではかなりつらい。
(右翼の角魔獣は八十匹。左翼の尻尾魔獣は六十匹くらいか。数が少なめなのが救いだな。だが、思いきり後方に向かってくるな。この術式は連携しろとでも命令しているのか?)
彼らは前方の戦いを無視して、一直線に補給部隊に向かって動いている。
そこはまだ若い兵士たちの持ち場である。相手にするには荷が重い。
(さて、黙って見ているわけにもいかない。さっそくやるか)
アンシュラオンは輸送船の上で立ち上がると―――
「バルドロス!! 左翼に防塁を築いて魔獣の侵攻を防げ!! 補給部隊には絶対に近づけさせるな!!」
「っ…承知!」
バルドロスが瞬時に動くと、両手を地面に付けて魔石を発動。
補給部隊および輸送船の前に土塁が築かれる。外側から土を持ってきたため、その部分が下がって堀も生まれて一石二鳥だ。
「バルドロスはそのまま死守! 銃を装備している兵士は、土塁を盾にしながら応戦しろ! サナ、お前も左翼の援護だ。無理をしないで掻き回すことだけ考えればいい」
「…こくり」
「サリータ、来い!! お前はオレと一緒に右だ」
「はい、師匠!」
「ホロロさんたちもこっちに来るんだ」
アンシュラオンの声はよく通る。
ガリムリプスとの混戦に陥っている前方の部隊まで、一言一句はっきりと聞き取れるのがさすがである。
(少年、動くか。こうして共に戦う日が来るとは心躍るものだ。君の声は私に勇気と希望を与えてくれる)
「ここは私の部隊だけで十分だ! ゼイヴァーは左翼防衛にあたれ!!」
ガンプドルフもそれに呼応。
これによって左翼はバルドロスとゼイヴァー隊に加え、サナが担当することになる。
こちらの人数はやや少ないものの、強い騎士とサナがいれば十分対応が可能だろう。
残った右翼を担当するのはアンシュラオンとサリータと『兵士たち』。
アンシュラオンは輸送船のてっぺんから駆け下りると、補給部隊の前まで一気に跳躍。
「わっ!?」
いきなり目の前にアンシュラオンが降ってきたので、若い兵士が目を丸くする。
だが、いちいち彼のリアクションにかまっている暇はない。
「残った全兵士に告げる!! 右翼はオレたちで対応する! 準備を急げ!」
「わ、我々だけで…ありますか!?」
「当然だ。何のためにここにいる! 戦うためだろうが!! 命を張って戦うんだよ! わかったか!」
「は、はい!」
「盾持ちは集まれ!! 命令だ! 早くしろ!!」
即席の階級であるが、まるで本物の上官がそこにいるかのように、兵士たちは命令に従ってしっかりと動く。
瞬く間に兵士たちは集結。迎撃態勢を取る。
(統制がとれている兵士もスレイブと変わらないな。オレも軍隊のほうが合うのかもな)
その間にホロロが運転するクルマも到着。
サリータも完全装備で出てくる。今回はしっかりと爆破杭も装着済みだ。
「ホロロさんと小百合さんはクルマの主砲で牽制。効くかどうかはともかく、ひたすら撃ち続けて。残弾はすべて使ってもいいからね」
「かしこまりました」
「セノアは代わりに運転を頼む。ただし、治療班として動いてもらうかもしれないから準備しておいてくれ。その場合はラノアに運転を任せる。緊急時以外は動く必要はない。落ち着いて行動するんだ」
「は、はい! わかりました!」
「うん、がんばる!」
「師匠、自分は!」
「当然、戦闘に加わってもらうぞ。あいつらと一緒に壁役だ」
「はい!!」
「今から直接オレが指導する。しっかりと動きに付いてこい!」
「し、師匠が直接…!! 光栄であります!!」
(つ、ついに師匠が…!! 認められた…のだ!)
今までアンシュラオンは、サリータを直接指導することはなかった。その理由はすでに述べた通り、彼女の才能を正しく伸ばすためである。
そのうえで今回から直々に指導するというのだから、サリータの感動もひとしおであろう。
つまりは戦力としてしっかりと数えられている証拠だ。武人としての人生がここからスタートするのである。
「よし、壁役は大きく前進!! 前に出ろ!!」
「ま、まさか…あれと戦うの…か?」
ドドドドドドッ!
兵士たちの目が、猛烈な勢いで突っ込んでくるドドサウルス〈八角小竜〉の群れを捉える。
大きい。とても大きい。小竜というわりに象くらい大きい。
皮膚は鎧のように硬く、角は強靭で、クルマくらいならば一撃で破壊しそうな頑強な魔獣である。
三十人は左翼の攻撃に回ってしまったので、こちらの兵士はおよそ四十人。
当然全員が盾の扱いに長けているわけではなく、身体を張って壁になることしかできない【雑兵】である。
そこにサリータが加わっても、さほど戦力は変わらない。こちらの総合力に比べて魔獣のレベルが高すぎるのだ。
一瞬で蹴散らされる未来が脳裏にちらついて離れない。
「はぁはぁ…はぁはぁ。こ、こんなの無理だ…! き、騎士じゃないんだ。無理に決まってる……」
「し、死ぬ……死んじまう…」
「戦う前から何を怖気づいているか!! この戦いには国の命運がかかっているんだぞ!! よそ者ばかりが目立ってどうする!」
「そ、そんなこと言われてもよ……」
「ええい、私が手本を見せてやる!!」
「殿下、お下がりください!! バルドロス様もおられないのですよ!」
「お前は黙っていろ! 前に出ない者が、どうして誇り高く生きられる!? 誇りを忘れたら終わりだ!! 私は戦うぞ!」
エノスの制止も無視して最前列で盾を構えているのは、リッタス。
重装甲兵ではないのに前に出てくるとは、さすがにやる気が違う。
だが、彼がどんなに叱咤激励しても兵士たちの怯えは止まらない。
「やってやる、やってやるぞ……死んでたまるか…!」
そう言っているリッタスも、あまりの魔獣の迫力に足が震えている。
まだ距離はあるのに凄まじい威圧感がひしひしと伝わってくるのだ。
その理由は、魔獣の目にある。
彼らの目に宿るのは【憎悪】。人間に対する強烈な憎しみだ。
それを感じ取った兵士たちは気持ちで負けてしまっていた。
だが、だがしかし、それでもしかしながら!!
この男が―――いる!!
すぅううううと息を吸い込み―――
「全員、気合を―――」
「入れろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ビリビリビリビリィイイイイイイッ!!!
「―――っ!!!!!!」
声で、大地が震えた。
身体の芯を直接殴られたような衝撃が兵士たちを貫く。
「怖れるな! 下を向くな! 前だけを見ろ!! あんな雑魚にお前たちが負けるものか!!! 何のために毎日訓練をしている!! もっと前だ!! 前に出ろ! この愚図どもが! 一度で理解しろ! 手間をかけさせるな!」
「は、はい!!!」
弾かれるように兵士たちが前に出る。
何も考えている暇はない。ただただ声に実体があるように『物理的に』押されたのだ。
そして、命気剣を取り出すと一閃!!
ずばっと大地が斬られ、兵士たちの後ろに一本の線が生まれる。
「この線から一歩でも退いたやつは、この作戦中に飯が食えると思うな! 焼いた石でもかじらせてやるから覚悟しておけ! 美味いぞぉ、歯が欠けるほどにな!!」
「ひ、ひぇっ」
何かよくわからない罰を設けるが、この男のことだ。本当にやらせるに違いない。
と、それはいいとして明らかに無謀である。無理だ。
そんなことをしても絶対に止めることなどできない。誰だってそう思う。
「よく聞け! ここからの戦いは気合で負けたやつから死んでいく! 今の自分たちの足を見てみろ! 震えているやつはどこの臆病者だ! 素敵な未来が勝手に向こうからやってくるなどと思うなよ! 戦え!! 奪え!! 敵を殺して勝ち取れ! あいつらは敵だ! 敵は殺せ! 死にたくないのならば手を血で染めろ!」
アンシュラオンから激しい波動が迸る。
戦気のように赤くありながらも、純粋なまでに白い力だ。
まだ何も記されていない真っ白な世界が、ここにある。
それは―――未来
誰も先がわからない無限の可能性を秘めた『ドキドキ』に満ちている。
その力は大地から発せられる術式すら押しのけ、兵士たちを包み込む。
足の震えが止まっていく。手に力が入っていく。思考がはっきりしていく。
心臓は高鳴っているが、今までのような恐怖心はすっかりと消えていた。
(なんだこの感覚は…! あの男の力なのか!?)
それにはリッタスも驚愕の眼差しを向ける。
どこの馬の骨とも知れない男と称したアンシュラオンが、今は世界の中心にいるかのように思えてくる。
この男だけは、こんな状況にあっても一向に負けるとは思っていない。
わかるのだ。今この場にいる全員が彼の力に支配されているからこそ、その本気度が伝わってくる。
「来るぞ! 構えろ!!」
そうしている間にも魔獣は接近。
もう目と鼻の先まで迫り―――
「全員、突撃ぃいいいいいいいいいいい!!」
アンシュラオンの号令が発せられた。
相変わらずの突撃指示である。
作戦もくそもない。あるのは神風特攻一択だ。
「うわぁあああああああああ!!」
兵士たちは、もうやけくそ気味に盾を押し出して突っ込む。
潰されることを想像してしまい、目を閉じている者さえいた。
彼らを責めてはいけない。訓練した兵士だって怖いのだ。しかも統率Fのアンシュラオンに率いられるなど何の罰ゲームだろうか。
―――接触!!
兵士と魔獣の全面衝突が始まった。
次の瞬間に視界に映ったものは、当然ながら『吹っ飛ぶ兵士たち』であった。
盾がひしゃげ、角が鎧に突き刺さって悶絶する暇もない。
大きな恐竜と激突したのだ。その衝撃で飛ばされる者が続出。
「がはっ…! げぼっ!!」
「う、腕……が……!」
戦気をまとっていてもこれだけのダメージを受ける。
全力で突っ込んできた魔獣と人間には根本的な力の差があるのだ。
だが、そんなことは最初からわかっていたこと。即座にアンシュラオンの怒号が響く。
「何をしている! さっさと立ち上がれ!! もう一度だ!!」
「はぁはぁ…!!」
「遅い! 早くしろ!」
「ぎゃぁああっ!! 熱い!!」
アンシュラオンが水流波動で強制的に倒れた兵士たちを叩き起こす。
水気は攻撃的な気質のため、常人でいえば源泉から吹き上がった熱湯に晒されるようなもの。熱くてしょうがない。
ただし同時に魔獣たちも水気で吹き飛ばされ、二百メートルほど戻される。
かなり乱暴に飛ばしたが強靭な身体の魔獣である。すぐに立ち上がると憎悪の視線を向けて突っ走ってきた。
彼らはすでに術式によって正気を失っているため、目の前に人間がいる限り戦いをやめないのだ。
「ふんっ、魔獣のほうが立派な心構えじゃないか。それに比べて、お前たちはなんだ!! たかが腕一本で騒ぐな!!」
「い、いや…む、胸も…」
「胸も同じだ! 穴があいたくらいで騒ぐな!」
「っ!!」
「お前たちは武人だ! 戦うために生きている存在だ! 騎士団などというぬるま湯に浸かって忘れているようだが、武人は死に物狂いで戦ってこそ強くなる生き物だ! さあ、行け! いくらでも治してやるから全員一度死んでこい! 一度で駄目なら二度死ね!! 二度で駄目なら三度死んでこい! 死ぬまで戦い続けろ!」
「な、なんなんだ……この人は…」
そう言いたくなる気持ちも理解できる。
が、魔獣は待ってはくれない。突っ込んでくる。
目の前に自分の命を狙っている相手がいるのだから、もう考えている暇はない。
「う、うぁあああああああ!!」
致し方なく兵士たちも応戦するが――― ドーーーーンッ!!
再び吹っ飛ばされる。
その当たり方は、兵士同士がぶつかる軍隊方式とは意味合いが違う。
筋肉の繊維が強引に引きちぎられ、容赦ない衝撃で骨が粉々に砕ける。ついでに角も突き刺さるものだから、このまま即死してもおかしくはない。
「全然駄目だ! もう一度だ! 立て!!」
しかしながら、そこでアンシュラオンが術式を展開。
その『陣』の上にいる兵士たちの傷が急速に復元されていく。
広域設置型の回復術式、『
回復の若癒と継続回復の発芽光の両方を同時に展開する、因子レベル4で使える術式である。しかもアンシュラオンの演算処理が極めて高いために、傷の回復具合は異様に早い。
回復してもそのまま寝ていることもできるのだが、魔獣が躊躇なく踏み潰していくため、兵士たちは嫌でも立ち上がることしかできない。
「行け!! ぶち当たってこい!!」
「ち、ちくしょうぉおおおおおおおおおおお!」
そうして向かっていっては、また吹っ飛ばされる。
顔面がぐちゃぐちゃになった兵士もいたが、即死でないのならば問題はない。
即座に修復され、まだ完全に馴染んでいない肉体で再び突っ込む。
地獄とは、まさにこのこと。延々と神風特攻が繰り返される。
だが、それでいい。
武人は戦えば戦うほど強くなっていく。それはサナですでに証明されていることだ。
そうして三十分ほど交戦し続けた結果、兵士たちに変化が表れ始めた。