※この作品はR-18です。

【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了   作:ぷるっと企画@園島義船

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671話 「サナの武、その完成形」

 

「だらっしゃああぁあああ!! やってやんよ!!」

 

 

 戦闘を開始してから三十分。

 

 兵士たちがプロレスラーのような声を上げ、魔獣たちに突進。

 

 ドドサウルスは頭部に八本の角があることもあり、前面に対して極めて強い力を持っている。

 

 そこに突撃するのだから、ごくごく当たり前の結果―――ブスブスッ!

 

 全員が串刺しになる。

 

 

「痛ぇえええな、こんちくしょうううううう! 押せ、押せ、押せぇえええええ!!」

 

 

 しかし、骨が砕け、角が刺さりながらも兵士たちは止まらない。

 

 魔獣も抵抗し、首を振って引き剥がそうとするも、必死にしがみついて動きを封じる。

 

 

「このやろぉおおお!! この! このっ!!」

 

「頭を叩いても駄目だ! 硬すぎる! 横っ腹を狙え!」

 

 

 ドドサウルスは頭部が硬い反面、腹の部分は比較的柔らかい。

 

 そこに向かって剣を突き刺す。が、軽く切り裂く程度しか通らない。

 

 柔らかいとはいっても魔獣自体が硬いため、彼らの剣気をもってしてもたいしたダメージにはならないのだ。

 

 その間もドドサウルスは暴れ続け、角が刺さった兵士たちは肉が引き千切れていく。

 

 

「だったらなんだってんだよぉおおおおお!!」

 

 

 それでも彼らの戦意は―――消えない!

 

 必死にしがみつき抵抗する。

 

 

「横からも来るぞ!!」

 

「あれは俺らに任せろ!!」

 

 

 他の個体が横から迫ってきたが、何人かの兵士が玉砕覚悟で突っ込み、自らを盾にして突進を止める。

 

 

「うああああああああ!! ぎゃあああああ!」

 

「お、お前ら!!」

 

「は、早く!! 一匹ずつ殺していけ!! そうしないと終わらないんだよ! こんな地獄、早く終わらせないと死んじまう! いや、死なないから困っているんだからよ!!」

 

「ちっくしょぅうううう! いってぇえええ! くそおおおおお!!」

 

「頼む! 俺たちが犠牲になっている間に…! 早く殺せぇえええ!」

 

 

 まさに魂の叫びである。

 

 アンシュラオンの術式によって常時回復が行われる結果、彼らは大きなダメージを受けても即死でなければ死なない。

 

 自ら死にたいと思う者は少ないだろうが、終わらない苦しみもまた地獄だ。

 

 そもそもなぜ右翼を激戦区に選んだのか。それはドドサウルスの攻撃力が三種の中でもっとも低かったからだ。

 

 これならば即死しないだろう、という確信をもって、あえて兵士たちに突撃させているわけだ。

 

 ただし死なないだけで見ての通り、一匹倒すだけでも地獄絵図。ひたすらに身体が傷つき、心も疲弊してボロボロになっていく。

 

 

 しかし、それがいい。(笑顔)

 

 

 アンシュラオンが言ったように武人は戦ってこそ真価を発揮する。

 

 まさに死に物狂いで戦っている彼らは、知らない間に底力が引き出されているし、けっして諦めない心が生まれている。

 

 死なないので諦められない、というのが正しい表現かもしれないが、どのみち相手を殺すまで終わらないのである。どうせやることは同じだ。些細な違いだろう。

 

 

「爆弾だ! 爆弾持ってこい!」

 

「どうするんだ!? そのまま投げても通じないぞ!」

 

「いいんだ! 貸せ!」

 

 

 兵士の一人がDP1を手に取ると、さきほど腹を傷つけたドドサウルスに向かっていき、転がりながらもその裂傷部分にDP1を突っ込んだ。

 

 その時に踏まれて兵士は胸部が陥没。血反吐を撒き散らすが、押し入れた手からは力を抜かない。

 

 

―――爆発

 

 

 ボンッという音とともにドドサウルスの腹が一部欠損する。

 

 魔獣の筋肉は人間より強靭だが、それでも内部で爆発すればただでは済まない。

 

 もちろん兵士の腕も吹っ飛ぶ。

 

 

「だっしゃぁあああ!! どうだこの野郎!! 痛ぇな! こんちくしょう! どんどんこい! もっとやってやるぜ!」

 

 

 もはや腕が吹っ飛んだところで関係ない。痛みもだんだん感じなくなる。

 

 精神が高揚しすぎて感覚が麻痺してきているのだ。いわゆるランナーズハイと同じ現象で、快楽物質が生成されて好戦的になっていく。

 

 

「たまんねぇな! 戦いはよ!!」

 

「ガンガンこい!! こらああああ!」

 

「ぶっ殺す!!」

 

 

 その目はある種の『狂気』に満たされており、腕の欠損どころか死すらまったく怖れなくなる。

 

 それによって予想外のことが発生。

 

 

「グルッ!?」

 

 

 魔獣が怯んだ。

 

 突進をやめ、戸惑うそぶりを見せる。

 

 『人間憎悪』という精神術式に支配されている彼らが、人間の狂気を見て逆に気圧されたのだ。

 

 人間の言葉に訳すと「なにこいつら、やばすぎっ!?」だろうか。

 

 たしかに何度も何度も立ち上がって殺そうとしてくる姿は異常だ。なぜならば魔獣の第一目標は生存にこそあり、無駄な戦いを好まないからである。

 

 それを強制的に支配しているのだから、どこかでほつれが生じるのは致し方ないことであろう。死んでも相手を殺そうとするのは、子を守る親を除いては人間しかいないのだから。

 

 

「一気にやっちまえええええ!」

 

 

 そこからは血みどろの戦いであった。

 

 どんなに傷ついても兵士たちは立ち上がり、集団で一匹を囲って攻撃を続ける。

 

 一人ひとりの攻撃は微々たるダメージしか与えないが、それでも積み重なれば次第に相手の動きは鈍くなる。

 

 他の個体から攻撃を受けても怯まない。逆に爆弾をもって玉砕しにいくものだから、ますますカオスな状況に拍車をかけていく。

 

 はっきり言えば『泥沼』である。

 

 作戦も何もないため、こうなることは最初からわかっていた。

 

 普通ならば愚策、凡将と揶揄されそうなものだが、これでいい。これしかできないのだから、それを続ければよい。

 

 

(うんうん、素晴らしい。ようやく戦う武人の目になってきた! やっぱり指揮官が優秀だと違うよな)

 

 

 その光景にアンシュラオンも大満足だ。

 

 たった三十分で役立たずの兵士が『武人』になったのだ。たしかにすごい。

 

 されど彼らは優れた資質を持った武人ではないので、普通の騎士団にいれば絶対にできない戦いだ。特に損害を怖れるDBDならば絶対に不可能だろう。

 

 これは破天荒かつ、高い回復能力を持つアンシュラオンだからこそできる芸当なのだ。こんな馬鹿なやり方をいったい誰が真似できようか。

 

 だが、回復術式は傷の再生には長けているが、生体磁気の回復までは行わない。

 

 細胞から力がどんどん失われ、限界値にまで達した兵士たちが後方に運び込まれる。

 

 

「…悪魔だ……悪魔より……おそろしい……げぼっ」

 

「もう嫌だ……しんどい……」

 

「大丈夫ですか!? 今助けますからね!」

 

 

 回収された兵士たちを命気風呂に突っ込むのが、セノアの仕事。

 

 だんだん手が足りなくなり、援軍として救護班を手伝っているのだ。

 

 そして命気風呂でエネルギーが補充されたら、また戦場に叩き出される。

 

 

「がんばってくださいね!!」

 

「ありがとう、お嬢ちゃん! だっしゃぁああああ!!! やってやるぜええええええ!」

 

「いってらっしゃい!!」

 

 

 小さな女の子を見せることで庇護欲を煽り、彼らのやる気を引き出す目的もある。

 

 元一般人の兵士なんぞ、そこらの傭兵と大差はない。女の子が見ていると思えば格好を付けたがる馬鹿である。

 

 

 

 こうして戦況は少しばかり盛り返すが、兵士たちだけで倒せるほど甘くはない。

 

 当然、アンシュラオンも動き出す。

 

 

「いいか、サリータ。これからオレはサナの動きを再現する。それにしっかりとついてこい」

 

「サナ様の…ですか?」

 

「そうだ。先日も言ったように、お前に求められるのはサナとの【連携】だ。今回はその練習だと思え」

 

 

 サナはそれなりに強くなっているが、単体ではどうしても不利な局面が増える。

 

 それをカバーできるのがサリータという存在。もともとそのためにDBDの訓練に参加させていたのだ。

 

 こうして武人として覚醒した今こそ、その時である。

 

 

「いくぞ! オレの動きに合わせてカバーしろ!」

 

「はい!!」

 

 

 アンシュラオンが突っ込むと、『命気刀』を一閃。

 

 ずばっとドドサウルスの首を切り落とす。

 

 あれだけ兵士たちが苦戦した魔獣でも、この男にかかれば一撃である。

 

 今回はサナの戦いを真似るために刀にしているのもポイントだ。斬撃に限れば刀がもっとも優れているとわかる。

 

 しかし、次々と魔獣はやってくる。

 

 なにせ八十匹もいるのだ。兵士たちが受け持っているのは、その一部にすぎない。

 

 横から一匹のドドサウルスが突進。アンシュラオンを狙う。

 

 

「カバーだ!」

 

「はいい!!」

 

 

 サリータがアンシュラオンのカバーに入り、まともに魔獣の激突を受ける。

 

 当たった瞬間にミシミシと腕が軋む音がする。

 

 

「ううう…退くもの―――かああああああああああ!!」

 

 

 ドンッッ!!

 

 戦気を大量に放出するも、結局吹っ飛ばされたのはサリータのほうだった。

 

 当たり前だがパワーが違いすぎる。ドドサウルスは以前戦ったワイルダーインパスとは階級が違うので、その膂力も段違いであった。

 

 されど、気持ちは乗った。力は乗った。

 

 その結果は、実る。

 

 

「ブゥウウウウッ!!」

 

 

 ドドサウルスが首を振って動きを止めた。

 

 見れば、その角の一本にヒビが入っている。サリータが意図的にその箇所を狙ったのである。

 

 いくら小さな力でもピンポイントで狙えば、一点に衝撃が集まることになる。激突の力が全部角に集まった結果、ヒビが入ったのだ。

 

 その衝撃の大きさは、サリータの盾に入った亀裂を見ればわかるだろう。

 

 ボーミンシーファの糞爆発でもびくともしなかった盾が、この魔獣の頭突きで一部破損している。剣気で強化してもこれだけの衝撃なのだから、兵士たちの惨状も頷ける。

 

 だが、彼女は『選ばれた存在』だ。

 

 盾はともかく腕の傷は命気で即座に修復していく。

 

 

(命気のノリがいい。オレの気質に馴染んでいるな。風呂も役立つもんだ)

 

 

 べつに遊ぶためだけに命気風呂をやっているわけではない。あれによって全員が命気を存分に吸収する場を提供しているのだ。

 

 毎日アンシュラオンの気質に触れ、吸収する。

 

 サナはさらにスキルによって純度を上げているが、サリータも少しずつ『近づいている』のは間違いない。

 

 

「いいぞ、サリータ! 盾は壊れてもいい。いくらでも取り替えてついてこい!!」

 

「はい、師匠!!!」

 

 

 アンシュラオンが敵を切り裂き、動きが止まった背後をサリータが埋める。

 

 そのたびにサリータが吹っ飛ばされるが、角を狙った防御はなかなかに効果的で、敵の動きを止めることに成功しているようだ。

 

 転んでも倒れても何度でも立ち上がる。

 

 立ち上がるたびに、その目には力が宿っていく。力強さが増していく。

 

 そこには荒野で生き抜く覚悟を決めた『人間の力』が宿っていた。

 

 

 しかし、ここから一気にギアが上がる。

 

 

 アンシュラオンが素早い直線の動きで接近し、剣を一閃。

 

 次の瞬間には、すでに違う敵に切り込んでおり、さらに次の瞬間にはもういない。

 

 その動きは、まさにサナと同じ。

 

 彼女が魔石を使った時のフルパワーの動きを完全に再現していた。しかも雷気を放出して髪の毛を逆立てるほどの再現率だ(まったく必要はない演出である)

 

 

 それにサリータが―――ついていけない!!

 

 

(速い!! まったく追いつけない!!)

 

 

 群れの数が減ったことで一匹一匹の距離が遠くなったせいもあるが、そんなことは関係ない。

 

 最初からスピードが違いすぎるのだ。一歩や二歩の遅れではなく、十数メートルの距離が一瞬にして開く。

 

 

「遅い!! 斬り終えた瞬間は無防備になる。その時のお前の役目は、サナの背後を守ることだ!」

 

「は、はい!!」

 

「同じ動きをするな! 直線のスピードでサナに勝てるわけがないだろう! 役割を考えろ!! 一生追いつけないぞ!」

 

「申し訳ありません!!!」

 

「謝っている暇があったら足を動かせ! 頭を回転させろ! ほら、後ろ!」

 

「っ!!」

 

 

 サリータの背後からドドサウルスの突進。

 

 反応が遅れて防御できない。鋭い角が鎧を貫通して左肩を砕く。

 

 

「ぐっ!!」

 

「痛がっている暇があるなら、すぐさま反撃しろ!! 何のための武器だ! ほら、ハンマー!!」

 

「っ―――うおおおおお!」

 

 

 ここでサリータが、思い出したかのようにボムハンマーを振る。

 

 風の力によって加速された一撃が、ドドサウルスの頭に直撃!!

 

 杭は微妙に全部刺さらなかったものの、中ほどまで食い込んだために爆破に成功。

 

 それで怯んだところにアンシュラオンのとどめ。命気刀で両断する。

 

 

「まだまだいくぞ。這いずってでも走れ!」

 

「は、はい!!」

 

 

 アンシュラオンは一切手加減をしない。サナの動きを再現し続ける。

 

 それどころか、もっともっとギアを上げて速くなる。

 

 一瞬で相手に接近する直線の機動力はさらに磨きがかかり、魔石を使ったガンプドルフの速度と同等になる。

 

 叩き込む刃も鋭く、強く、一撃で敵を両断する。

 

 これだけの速度で勢いを加えているのだから当然だが、鍛えられた腕力によって刀身が深々と入り込み、簡単に致命傷を与えることができるのだ。

 

 もし相手が全身鎧を着ていたとしても、ガンプドルフほどの猛者でない限りは、一刀両断は間違いない。それだけの威力である。

 

 仮に敵がこちらの動きを予測しても無駄。待ち構えても無駄。

 

 アンシュラオンは直進しつつ相手の視線を誘導してから、ぶつかる寸前で左足を大地に叩きつけ、速度はそのままに直角に跳ぶように曲がる。

 

 ジュンユウ戦で見せた直角に曲がる移動術だ。こうなると野球の高速フォークボールのように相手からは消えたように映る。

 

 もし相手が動かなければ、そのまま斬ればいいし、間合いを外してもいい。どのタイミングでも使えるのが強みなので、カウンター潰しにもってこいの技である。

 

 今のサナがこれを全力でやると足が折れてしまうが、アンシュラオンはまったくブレない。鍛えられた筋肉と靱帯、足腰の強さで完全に支えきる。

 

 

 そこから再び右足を大地に叩きつけ、速度を落とさないままに刀を―――横一閃!

 

 

 ドドサウルスが真っ二つに切り裂かれ、絶命。

 

 もう皮膚が硬いとか角が硬いとかいうレベルを超えている。圧倒的なまでの速度と力強い腕力から放たれる一撃は、問答無用に敵を切り裂く。

 

 そして、次の瞬間には違う相手に向かっているのだ。その間にもいくつものフェイントを加えて敵陣を翻弄している。

 

 時には左手から『雷爪』を出し、二匹同時に切り刻む。ここではあえて殺さずに感電させることで動きを止め、群れ全体の勢いを削ぐのが目的だ。

 

 速度、パワー、判断力。どれをとっても超一流。

 

 こんなもの、止められるわけがない!

 

 

 

 まさに―――【迅雷】!!

 

 

 

 戦場を駆け巡る雷狼そのものである。

 

 そこらの武人では、もはや目で追うこともできない。ただ雷が疾(はし)っているようにしか見えていないだろう。

 

 

(ああ、見える! 師匠と重なって…これが【サナ様の完成形】!)

 

 

 サリータの瞳が、その姿にサナの幻影を重ねる。

 

 だが、子供の姿ではない。愛らしくも小さい姿ではない。

 

 しっかりと健康に成長し、『大人の女性』と呼ぶに相応しい身体付きになっている。

 

 鍛えられた肉体は雷の動きにも十分耐え、刀を振るって敵陣を切り裂いていく。

 

 その姿はあまりに美しく、見る者を魅了してやまない【黒い雷狼】。

 

 このまま鍛錬を積んでいけば二十年後、いや、天才で早熟の彼女ならば五年から十年もあれば到達できる領域かもしれない。

 

 才能の塊。溢れ出る力。珠玉の美。

 

 なんと呼んでもかまわない。誰もが羨む存在が目の前にいる。戦場を駆けている。

 

 そのことに感動を隠しきれない。思わず涙が出てくる。

 

 

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