【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
アンシュラオンの動きは、完成されたサナそのもの。
この状態でスキルやら武具やら、さまざまな別の要素が加わるが、これが彼女の基本の動きとなる。
ここまで強いのならば誰の助けもいらないように思えるだろう。
しかし、どんなに素早くてもどんなに攻撃力が高くても、一人では限界がある。
魔獣の群れがアンシュラオンに殺到。
完成されたサナの動きで敵を両断するが、何匹も連続で突進されてスペースを埋められると、持ち味の素早さが生かせなくなってくる。
敵を斬ったあとも死骸が消えるわけではないので、魔獣が大きければ大きいほど、そうした障害物も邪魔になってくる。
仕方なく上空に退避するも、ドドサウルスが仲間の死骸を踏み台にして追撃。空中で激突する。
突進系の魔獣は直線には強い。こうして勢いよく予想外の行動をすることもあるのだ。
アンシュラオンはガード。
大きな質量を完全に受けきり、なんなく着地する。さすがの肉体強度だ。
が、これがサナだったらどうだろう?
仮に大人になったサナであっても、その身体の強さはアンシュラオンには及ばないはずだ。これで勢いを潰されれば一気に形勢逆転もありえる。
魔獣でなくても脅威は同じ。人間ならば力だけではなく知恵を使って、別の角度から攻めてくるはずだ。意図的に消耗戦を仕掛けるかもしれない。
天才型の優れたドリブラーが、ラフプレーによって簡単に潰され、最悪は怪我を負わされて再起不能にされてしまうように、輝きが強いがゆえにサナも狙われてしまうだろう。
凡人にとって、天才はあまりに眩しい。
その眩しさに耐えられない卑しい人間は、何が何でも彼女の存在を消そうとしてくるはずだ。世の中の大半が凡人なのだから仕方がない。
彼らは天才がいたら困るのだ。自分たちが弱者であり、支配される側の存在だと認めることが怖いからである。
なればこそ【盾】が必要。
(守らねばならない…! 自分が! 命をかけて!)
サナを守れるのは、自分しかいない。
某サッカー監督も言っていたが、誰よりも汗を流して走り、身体を張って敵を食い止めて天才が自由に輝ける場を作る者、『水を運ぶ選手』がチームには必要なのである。
地味な役割でかまわない。評価されなくてもかまわない。サナが才能を発揮できるのならば、それでいい。
それこそがサリータ・ケサセリアの【使命】であると、二度と消えないように心に刻み付ける。
その瞬間から、サリータの戦気の色が変わる。鮮やかさが増していく。
魂の炎が、心に宿した想いが、彼女を強くする。
(いい色だ。どうやら理解したようだな。実際に見せたほうが早いからな)
アンシュラオンがあえて速度を上げていたのは、今の映像をサリータの心に焼き付けるためである。
彼女は残念ながら頭があまりよろしくないので、こうやって実戦で身体に叩き込んだほうが覚えが早い。
なぜ自分が必要なのか、もし自分が役目を果たさねばどうなるのか、そのイメージを植えつけたのである。
目的を果たしたので、一度サリータのもとに戻る。
「今見せたのが未来のサナの動きだ。当然だが、今はまだ絶対に追いつけない。しかし、自分がやるべきことのイメージはできたな?」
「はい!」
「よし、ならば次は現状のサナの動きに戻す。攻撃力も下げるぞ。しっかりとついてこい!」
「はいぃい!」
アンシュラオンがドドサウルスに斬りかかる。
子供のサナに合わせて力を弱く設定したため、首を狙っても切り落とすまでには至らない。ザクッと大きく傷つけて終わりだ。
このドドサウルスは、最下層のレベル帯であっても『竜種』である。ドラゴンワンドホーゼリア〈両腕風龍馬〉の『龍種』と類似のカテゴリーに存在している強い魔獣といえる。
データ上でも体力が「A」であるので、ダメージに対する耐久力が相当に高いのだ。サナがこの魔獣を倒すのに、最低でも五回以上は斬る必要があるだろう。
「サリータ、カバーだ!!」
斬り終わりにサリータがカバーに入る。
しかし、遅い。
斬られて怒り狂ったドドサウルスの角が、アンシュラオンに突き刺さる。
「遅い! サナの防御力だったら今の一撃でも貫通だ! サナを殺す気か!!」
「申し訳ありません!!」
「謝ればいいって問題じゃない! 実際にやってみせろ!!」
「はい!!」
「前ばかり見るな!! もう一匹来るぞ!」
「えっ―――がはっ!!」
もう一匹のドドサウルスが突進。サリータを吹き飛ばす。
こうして戦場で目立つと敵視を集めることになり、攻撃が集中してくる。
特にサナは雷で光っているので標的にされやすい傾向にある。
サリータに突っ込んできたドドサウルスは、アンシュラオンが
ちなみにアンシュラオンも雷属性を持つに至ったので、雷技の性能がかなり上がっていた。本家の雷狼にも引けを取らないはずだ。
「壁が飛ばされてどうする!! 踏ん張って耐えろ!!」
「ぐっ…は、はい!!」
「はいはいと適当に返事だけすればいいと思うな!! 行動で示せ!」
「はい! 申し訳ありません!!」
「身体を動かしながら頭も使え! こら、なにやってんだ! 全然動きが合ってないじゃないか! 同じ動きをするなと言っただろう!!」
「は、はいい!!」
「何度サナを殺す気だ! 追いついてさえいないじゃないか! もうバテたのか! 子供の遊戯じゃないんだ! 気合を入れろ! これは殺し合いだぞ!」
「はぁはぁ…!! 申し訳ありません!」
「遅い、遅い、遅い!」
「はいいい!」
アンシュラオンの言動がいつもより厳しく感じられるのは、これが実戦だからだ。
そして、サリータを【弟子】として扱っているからである。
それはサリータ当人が一番よく感じていた。
(なんだ、この感じは! 師匠から…アンシュラオン様から熱いものが自分の中に……うううううう! 入ってくるうううう!!! ああああああ!!)
けっして卑猥な言動ではないのだが、罵詈雑言にも似た叱咤激励を受けるたびに、たしかに身体の中に熱い衝動が湧き上がる。
そのすべてが自分を想っているから。
愛が込められているからこそ、厳しい言葉でも心を打ち奮わすのである。
それに加えて、もともと彼女には体育会系特有のそういった性癖…もとい習慣がある。ビシバシ鍛えるほうが向いているのだ。
事実、アンシュラオンは【優しい】。
従来の陽禅流鍛錬法ならば、ただ巣穴にぶち込むだけ。ソイドビッグにやったように丁寧に教えたりしない。
それがサリータに対しては、動きを調整して導こうとしている。これでもだいぶ手加減しているのだ。相変わらず女性には甘い男である。
ただし、やはり追いつけない。
期待に応えたいものの、サナを模した速度に完全に置いていかれる。
それも仕方がない。そもそもの速度に圧倒的な差がある。
しかもサリータは重装備。軽装あるいは準装のサナに速度で勝つことは不可能だ。
(どうすればいいのだ! 何が足りない! どこを見ればいい!?)
周囲の魔獣の距離はバラバラ。近いものもいれば遠いものもいる。
アンシュラオンの行動に規則性はなく、その瞬間瞬間で隙を晒した相手から攻撃しているようだ。
それはわかる。理屈はわかる。
しかし、あまりに速くて対応できない。思考も脚力もまったく及ばない。
戦場では消耗度も激しい。あれだけ毎日走っているのに、すでに息が上がり始める。
(はぁはぁ…無理…なのか。自分では無理なのか? 才能が違いすぎるのか!?)
と、【言い訳】を探しそうになる。
(駄目だ! 何を泣き言を言っている!!!!! 馬鹿か私は!! 師匠はそんなことは百も承知だ。そのうえで要求しているのだ! 自分にはできると知っているからだ! 何か、何か…! 何かないのか…! 何かヒントは…)
アンシュラオンは馬鹿なことはしても、無駄なことはしない合理主義者だ。
サナとサリータの性質と能力の違いなど、とっくに理解している。
ならば絶対に間に合う方法があるのだ。しかも彼女に合わせた簡単な方法が。
その時である。
「…チラ」
「―――っ!!」
戦場が真っ白に染まり、時が止まった気がした。
兵士たちが必死に戦い、飛ばされ、重傷を負っている。
魔獣にも損害が出ている。それでも血走った目で暴れ狂っている。
砲弾や銃弾が飛び交い、人間も魔獣もお互いに血が飛び散る。
そんな弱肉強食の世界で―――【目が合う】
アンシュラオンと、目が合う!!
そして直後、その視線の先にいたドドサウルスに斬りかかる。
次も、目が合った。
今回も視線が動いた先、右背後にいたドドサウルスを狙って動く。
たしかに規則性はない。刹那で動きを不規則に変化させるからこそ、サナの動きは相手にも読まれないのだ。
だからといって無差別に標的を選んでいるわけではない。
アイ―――コンタクト!!
戦場でいちいち声を出していれば相手に丸聞こえになる。
魔獣といえども音には敏感だ。すぐに察知されて警戒される。
ならば目で合図すればいい。目で合図するしかない。
言葉を発せないサナにとっては最初からこれしかないのだ。
これで謎が解けた。
(そうだった…のか!! そうだ!! サナ様も目で合図をしてくれていた!)
この荒野に出てから数度となくサナと一緒に魔獣を倒している。
その都度サナは、サリータに視線を送ってから行動をしていた。たまに目が合うこともあったが意味はわからなかった。
ついこの前までの彼女は、サナが動きについてこられない自分に呆れているとか、何か不満があるのかもしれないといった悪感情ばかり気にしていた。
萎縮していた。自信がなかった。
否。
それは大きな思い違いだ!!
(サナ様は一緒に戦おうとしてくれていたのだ!! こんな自分を仲間だと思って…信じてくれていた……!! 信じてくれていたぁあああああああ!! 追いつく! 絶対にぃいいいいいいい!)
「サリータぁああああ!! 気合を入れろぉおおおお!!」
「はい! 師匠ぉおおおおお!!」
弟子は、師匠を追いかける。
今度は目の動きを見逃さない。アンシュラオンが見た先の相手をしっかりと確認し、多少の被弾は気にせずに最短距離で向かう。
その間にアンシュラオンは、雷の動きで敵陣を縫うように動きながら標的に到着。剣で切り裂く。
グググッ ドンッ!!
サリータが足に力を入れ、ダッシュ!
もう何も考えない。迷わない。走り方に一切の無駄を入れない。
彼女らしく、がむしゃらに。ただ目の前に突進。
間に―――合う!!
斬り終わりにカバーに入ったサリータが、ドドサウルスの反撃を盾で防ぐ。
ドンッ!! ズザザザッ!!
押される。やはり強い魔獣だ。一撃一撃がトラクターと正面衝突するレベルである。
しかし、止める。
かろうじて体勢を維持し、踏ん張る! 身を挺して守る!
(力が湧いてくる! サナ様の未来を守るためならば、どんな泥臭い役割だってこなしてみせる! 信じてくれる人のためにならば、死ねる!)
サリータの心が燃える。戦気が燃えている。
まさに戦いの本能が具現化したような真っ赤な炎が全身を包んでいた。
より力強く、真っ直ぐに、愚直に、ただただ強く、硬く!
「戦盾! 押し込め!」
「はいいい!!」
アンシュラオンの言葉に身体が勝手に動き、盾に剣気がまとわりつく。
それによって―――ジュウウウ!!
「ギュウウウウウッ!!?」
ドドサウルスの皮膚に、はっきりと盾の跡を焼き付ける。
戦盾は防御と攻撃を両立したものなので、押し付けるだけでもダメージを与えるわけだ。吹き飛ばされなければ、こうして反撃も可能なのである。
そこにアンシュラオンの追撃。根元から角を切り落とし、目を抉る。
それと同時に頭部を蹴って空中に離脱。
「拡盾!!」
「はいいいいっ!!」
魔獣は暴れるが、サリータが拡盾を使って離脱したアンシュラオンを守る。
アンシュラオンは着地。十分な余裕を持って体勢を整え、刀を構えて突撃。
二度三度切りつけながら最後に心臓を貫く。それで絶命。
だが、相手はまだいる。真後ろに殺意。
「後ろ!!」
「はいいい!!」
急激な方向転換に、ギチギチッと靱帯に負荷がかかるのがわかる。
しかし、もともと身体が頑丈なサリータは、その程度ではびくともしない。
強引に身体を捻り、後ろから来たドドサウルスを迎え撃つ!!
―――激突!!
「何度ぶつかったと思っている! 押し負けるものかあああああああ!!」
ハンクスとの特訓で嫌というほど転がされたが、次第に慣れていった。
この魔獣に対しても最初は遅れを取ったが、その重さと行動パターンに身体が慣れていけば、もう負けない!
『炎の体育会系』と『熱血』スキルによって、叩かれれば叩かれるほど彼女の力は上昇していく。
能力値は補正を受け続け、上昇し続け、ついに―――
ズズズズッ ピタ
ドドサウルスの突進をサリータが止める。
今度は完全に受け止めたおかげで、相手は死に体になっている。
そこにアンシュラオンが滑り込み、足を切断。
がくんとドドサウルスの身体が沈み込む。
「ボムハンマー!!」
「はいいいい!!」
相手に隙ができたら、ボムハンマー。
合言葉のように何度も言われたことで、反射となって身体が勝手に動く。
相手の鼻っ面に杭を叩き込み、爆破。
からのアンシュラオンの輪切り! 真っ二つ!
サナなら最低五回は斬らねば倒せないことをすっかり忘れ、一撃で倒す。実に大雑把な男である。
だが、それだけサリータが『ノっている』証拠だ。
アンシュラオンが思わず力を入れてしまうほど、彼女が動きについてきているのだ。その成長が嬉しくて興奮が止まらない。
「いいぞ、サリータ! 動きが合ってきた。一気に蹴散らす!! 遅れるなよ!」
「はい! 師匠!!」
師匠と弟子は、戦場を駆け巡る。
師匠が弟子を鍛えるのは当然だが、弟子も師匠を鍛えていく。
(楽しい。楽しいんだ! 自分が鍛えた子と一緒に戦うことは、本当に楽しい!)
独占欲の強い男である。
どんなに頭が悪くても、どんなに才能がなくても、自分が育てた弟子は可愛い。
いったい誰がこんな荒野での戦いで心を躍らせるだろうか。血みどろの生存競争を行っている最中であるにもかかわらず、意気揚々と戦っているではないか。
それが戦場全体に伝播し、奇妙な高揚感を生み出していった。
そのドキドキが加速することにより、呪詛とも呼べるような術式が侵食される。薄れていく。打ち勝っていく。
今、この場はアンシュラオンが制していた。