【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
「主砲を発射して援護します」
「ガンガンいっちゃいましょう!」
戦っているのはアンシュラオンたちだけではない。
兵士の動きに合わせて、ホロロたちもクルマの主砲で援護開始。
術式反発キャノン砲に石弾をセットし、発射。
バシュンッ ドゴーーンッ
属性反発によって高速で射出された弾が、ドドサウルスにヒット。
初弾は胴体に当たり、そこそこ大きな窪みを生み出す。
一応ダメージは与えているのでそのまま数発放つが、頑強な魔獣なので致命傷には至らないようだ。
「通常弾では効果は薄いですね。前回使わなかった『雷撃閃光弾』を試してみましょう」
「はいはーい! 装填しまーっす!!」
続いて黄色い弾、サンダースタン弾を発射。
ドーンッ バチバチバチッ
今度は敵に当たった瞬間、閃光と雷撃が周囲に撒き散らされる。
「ブブブブウッッ!!」
これは効いた。感電して明らかに動きが鈍っている。
閃光弾自体はマングラスの兵士たちも使っていたが、アンシュラオンが作ったものは雷撃も同時に放つのがポイントだ。
生物にとって電撃がいかに有効かを思い知る。皮膚が絶縁体の魔獣以外ならば一定の効果が挙げられるだろう。
「今はこちらのほうがよさそうですね。雷撃閃光弾を中心に援護しましょう」
「兵士さんたちが邪魔ですね。射線をずらしましょう。ラノアちゃん、ちょっと右に移動できますか?」
「あーい、えーと、こうかな?」
「いい感じですよ! その調子です!」
「えへへ♪」
夢太郎を助手席に置いて、ラノアもクルマの運転をしっかりこなす。
もともとハンドルで簡単に操作できるものなので、これくらいの前後移動ならば彼女でも十分可能だ。
その後はホロロの目の良さを利用し、危ないところを中心に雷撃閃光弾を撃ち込み、群れの突撃を防いでいく。
ついでに燃焼弾のテストもしてみるが、ドドサウルスの皮膚にはいまいちであった。
ただ、前述したように雷撃閃光弾は十分通用するため、敵に合わせて使い分けられればクルマも戦力になることがわかる。
アンシュラオンとサリータによって次々と駆逐され、右翼の戦いはほぼ決着がついているのだが、一応この男のことも紹介しておこう。
「よそ者に負けていられるかぁああああ!!」
リッタスが猛然と一匹のドドサウルスに突っ込んでいき、反撃のドゴン!!
綺麗に吹っ飛ばされ、大地に転がる。
「がはっ!! げほっ!!」
アンシュラオンたちのおかげで群れ全体の動きが止まっているとはいえ、こんな頑強な魔獣の一撃を受けたのだ。骨に亀裂くらいは入っただろう。
しかし、立ち上がる。
「負ける…か!! 負けるものか!!! うおおおおおおお!」
そう叫んで、またドン。飛ばされる。
が、また起きて叫んで突っ込んで、飛ばされる。
そして、また起きて叫んで飛ばされる。
そんなことを繰り返すうちに身体はズタボロ、装備も傷だらけになる。
予想通りの結果に特に語ることはない。まったくもって平常運転である。
「で、殿下! ご無事ですか!?」
「エノス、下がっていろ。はぁはぁ…お前まで命をかけることはない」
「わたくしは従者ですよ! 死ぬまでついていきますからね!」
「…勝手にしろ! うおおおおおおお!!」
リッタスが再び魔獣に向かっていき、期待を裏切らない吹っ飛びを見せる。
ついでにエノスも飛ばされ、仲良く大怪我を負った。
付き合わされているほうは大変だが、彼も彼なりに従者としての矜持がある。これくらいは覚悟の上なのだろう。
これだけならば特筆すべき点はなく、兵士と同じだ。
だがしかし、彼にもアンシュラオンとは違う意味で人を動かす力があった。
「イカ殿下に負けていられるか!!!」
「あいつにだけは遅れちゃいけない!」
「いくぞ! 根性見せてやるぜえええええ!」
心が折れそうになっていた兵士たちも立ち上がり、再びドドサウルスに突撃していく。
その一撃一撃は効果が薄いものの――引っ張り上げる
アンシュラオンのように先頭からではなく、最底辺から押し上げる形で兵士たちを鼓舞していた。
凡人は才能が上の人間に嫉妬はすれど、それで焦りはしない。差がありすぎるからだ。
されど一方で、下だと思っていた相手に追いつかれそうになると突然動き出す。自尊心が刺激されるからだろう。
どんな方向からにせよ部隊の力になるのならば、それは『才能』といえる。
「くそぉおおっ! どわっ!?」
リッタスが突っ込もうとした瞬間、目の前のドドサウルスが爆発。
破片が飛び散り、リッタスも被弾する。
次の瞬間、ドドサウルスが両断。
果物に刃物を入れるように、真っ二つに分かれる。
「な、なんだ! 何が起こった…!」
「よぉ、マッケンドー」
「ま、またお前か!」
「またとはなんだ。がんばって戦ってやっているんだぞ。ありがたく思えよ」
分かれた魔獣の先にはアンシュラオン。
どうやらサリータの爆破杭の残弾が尽き、ピストルグレネードランチャーの実験を行っていたらしい。その跳弾がリッタスにヒットしたのだ。
しっかりと腕やら足に食い込んでいるので普通ならば転げ回るところだが、何度も倒されているがゆえに感覚が麻痺しているのだろう。そこにはまったく言及しない。
「それにしても苦戦しているようじゃないか、百十五位」
「くっ…順位で呼ぶな! そんなもの、あとからいくらでも変えてやる!」
「それは同感だな。他人からの評価など、勝った者ならばいくらでも変えることができる。だが、お前には力がない」
「私にも武器があれば…! 聖剣があれば…!」
「そんな哀れなお前に戦う力をくれてやろうか? べつに嫌ならいいんだが…」
「よこせ! 今すぐよこせ! 何でもいいからよこせ!」
「即答か。いいぞ、気に入った!」
普通は「お前の力など借りるか!」と言うところだが、リッタスは力に貪欲だ。そこがどこかルアンを彷彿させて面白い。
「盾と剣を出せ」
「…こうか?」
「じっとしていろ」
アンシュラオンがリッタスの剣と盾に手をかざすと激しく発光。強烈な波動を放つ。
「な、なんだこれは!!」
「お前も見ていただろう? 『双因剣』さ」
「なっ…他人に付与できるのか!?」
「オレが使っていたものよりレベルは低いがな。この程度ならば楽勝だ」
双因剣の『遠隔付与』である。
剣気を維持する能力が高ければ、それ自体はとどめることができる。問題は術のほうだが、こちらもアンシュラオンの演算処理能力によってカバーする。
ガンプドルフ戦でやった因子レベル4はまだ難しいが、レベル1程度ならば十分可能である。その実験を兼ねての提案であった。
「聖剣には遥かに劣るが、それならば少しは戦えるはずだ。それで相手の足を止めろ」
「…なぜ私に? お前の妹を侮辱した男だぞ」
「少しでも戦力が必要なんだ。そんなことにかまっていられるか。それより利益を上げるために死ぬ気で戦え」
「商人みたいな発想だな。覇王の弟子とは思えん」
「好きでなったわけじゃないからな。商人くらいのほうが気楽さ。だが、お前は力が欲しいんだろう? 所詮人間なんて俗物さ。そういった悪い部分を利用するのも『王の度量』だぞ。じゃあな、がんばれよ」
それだけ言うとアンシュラオンは、さっさと先に行ってしまう。
取り残されたリッタスであったが、剣に宿る力の強さがわからないわけではない。
(覇王の弟子、アンシュラオン…か。俗物で傲慢ではあるが…思ったより欲がない。あれだけの実力があれば、わざわざ火中の栗を拾う必要もないだろうに。たかが女のために…か)
アンシュラオンの後ろには、サリータが付いて回る。
世界で数人しかいない覇王の弟子というステータスを持つ男が、たかが女性一人を鍛えるために貴重な時間を使っている。
酔狂である。無頓着である。自由奔放である。
それが、眩しい。
自分もあんなふうに生きてみたいと思わせる。
何よりアンシュラオンは、自分を『王』と呼んだ。少なくとも血の価値は認めているようであった。
(殿下…か。似合わぬ肩書きを背負わされたものだ。だが、迷っている暇はない。私は戦うと決めたのだ!)
「いくぞ、エノス! ついてこい!」
「はい、お供いたします!」
「うおおおおおおおお!」
リッタスが振るう剣が、ドドサウルスの皮膚を貫く!!
今までの苦戦が嘘のように、軽く振るだけで致命傷を与えられるのだ。
盾も同じ。突進したほうの角が消失してしまうほどのエネルギーを放つ。
「私は負けぬ!! 何を利用しても勝つ!!」
兵士たちはリッタスに押し上げられ、最終的にアンシュラオンが定めた線から下がった者は一人もいなかった。
強制的にとはいえ、彼らが前に前にと進んでいた証である。
こうして次々と魔獣を潰していき、ついに敵を全滅させるに至る。
終わった頃には、全員ボロボロ。
回復術式さえ間に合わず、手足が折れている連中もいれば、目が潰れている兵士もいる。
だが、なぜか心地よい。
「勝ったぞぉおおおおおおおぉおおおおおお!!」
「「「「 おおおおおおおお!! 」」」」
アンシュラオンの勝ち
思えばこの男の統率Fが一番問題だったのかもしれないが、もうそんなことはどうだっていい。
身体が熱くてしょうがない。叫びたくてしょうがない。
戦って勝つ。勝ちたいから戦う。どんなに痛くても知ったことではない。勝つためならば何を犠牲にしても戦う。
傷がなんだというのだ。腕を失ったからなんだというのだ。目が見えないからなんだというのだ!!!
俺たちは勝った!!
ただそれだけが重要なのである。
(なんという戦いをするのだ。布陣も隊列もあったものではない。ただがむしゃらに戦い、傷ついても気にせず戦い続けただけではないか。…だが、勝った。経験の浅い兵士たちでは到底勝ち目のない相手に…勝ってしまった)
バルドロスもアンシュラオンの戦い方に驚きを隠せない。
何か作戦があると思いきや、ただ突撃させるだけなのだから当然の感想だ。
戦罪者を率いていた時から、まるで変わっていない。無能な指揮官でもできる神風特攻である。
しかしながら、なぜか勝ってしまう。勝ちたいと思わせる何かが、あの少年の声には宿っている。
彼の戦いが、それに必死についていく弟子の姿が、部隊全員に伝播して奮い立たせたのだ。
バルドロスの心が、何かに満たされた気がした。
熱せられたドロリとしたものが、喉から入って心臓に絡み付いて離れない。
うっかりと熱いお茶をがぶ飲みしてしまった時の、あの強烈な熱さが心の中心部を焦がす。
(戦いたい…戦いたい! 次はわしも戦うぞ! そうか…これこそ!! これこそ閣下が求めていたものか!! 純粋な闘争への憧れを与えてくれる存在! 白い太陽!!)
「はははははははははは!!!! あははははははははははっ!!」
この日、バルドロスは笑った。
心の底から笑った。
兵士たちも傷つきながら笑っていた。
常にマイナスの感情で戦っていた彼らに、アンシュラオンというマイナスが乗算されて、結果としてプラスに転じる。
逆に微妙に優秀な指揮官であったら、ここまでの成果は出せないだろう。損害が少しばかり減る程度で結局はマイナスのままだ。
飛び抜けてマイナスの破天荒な男がいるからこそ、この勝利を掴めたのだ。
「あいつら、何を笑っているんだ? 気でも狂ったか?」
当のアンシュラオンは、その様子を気味悪がっていたという。
男が笑っている姿を見ても何も楽しくないと思う男。そんな男だからこそ、この荒野には相応しいのである。
そして、バルドロスがこうして笑っているということは、左翼も片がついたことを意味する。
サナが縦横無尽に駆け巡り、ゼイヴァーがそれをサポートする形で敵陣を掻き回す。
ゼイヴァーは優れた武人なので、直線の速度はサナには敵わずとも、経験の豊富さで絶妙のエスコートをみせたようだ。
ただ、サナにそんな気遣いはわからないので、思いきり顔面を踏み台にして跳躍したり、かなり好き勝手やっていたらしい。
が、そんなことをされても笑顔のゼイヴァー。清々しいまでの変態である。
当然、ガンプドルフたちもガリムリプスの群れを撃破成功。
彼らが前面に集中できたのも、左右を守ったアンシュラオンのおかげである。もし英雄が独りだったならば部隊を分けねばならなかった。
その場合は激しい乱戦に突入し、混乱した兵士からも大勢の死者を出していたはずだ。
間違いなくアンシュラオンが彼らの命を救ったのである。
「よーし、お前ら! 素材を拾ってこい! 角は絶対見逃すな!」
「ええええええ!? 今からですか!?」
「当たり前だ! 貴重な資金源だぞ! オレのな!」
「鬼だ!!」
「うるさい! さっさと行け! 角を持ってきたやつだけ傷を治してやるからな! 早くしろ! この愚図ども!」
と、綺麗に終わりたいところだったが、ボロボロの兵士たちを蹴飛ばして素材回収に行かせるあたり、さすがの鬼畜である。