【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
戦いを終えた部隊は、早めに休息を取ることにした。
武具の損耗が思ったより激しく、その修繕に時間がかかるからである。
兵士だけではなく騎士にも疲労が出ており、改めて荒野の厳しさを感じさせる。
その中でアンシュラオンだけは元気一杯に魔獣の死骸を漁り、使えそうな部位を吟味していたものだ。
夜になり、焚き火の前で手に入れた素材を広げる。
まず、ドドサウルス〈八角小竜〉の大きな八本の角。あれは硬度もそこそこあり、黒光りして見栄えもよいので、それ単体でも象牙に近い需要がありそうだ。
心臓のほうは『防御』属性の魔石。防具に加工しやすい性質である。
ガリムリプス〈首長牙小竜〉は牙が大きく鋭いので、そのままナイフにできるかもしれない。火炎ブレスも使えたので体内には火袋もあった。
心臓は『攻撃』属性の魔石。武器に加工しやすい性質である。
ガモーフサウルス〈尾呈拳鳥竜〉は、やはり大きな尻尾が特徴的だ。掌のように開くこともでき、物を自由に掴める構造になっているのも面白い。
といっても、これ単体では特段何かに使えるわけではない。せいぜい振り回してハンマーに使える程度だが、さすがに騎士団で使うことはないだろう。
心臓は『物質』属性。家屋の補強等々、物質の強化に向いている性質だ。
(微妙だなぁ…。うん、微妙だ。どれもスレイブ・ギアスには使えない。最悪はスレイブ館で使っているような『汎用』タイプでもいいんだけど、もっと質が良いものがいいよな。あとは魔獣の雰囲気や性質が適しているかどうかも重要かもしれない…)
最大の目的はギアスなので薄々予想はしていたが、見事にどれも不適合である。
「小百合さん、この素材を持っていけば傭兵団のランク上がるかな?」
「ハローワークの検査端末で調べましたが、どれも強い魔獣です。角ならば三体分もあれば上がるはずです。個人でも倒しておりますので、パーティーメンバー各自にポイントも加算されますね」
「じゃあ、サナとサリータがブルーハンターになれるくらいに調整してもらっていいかな? ブルーハンターも減っているみたいだし、それくらいなら大丈夫だよね」
ラブヘイアは都市を去ったし、ライアジンズのメンバーもハンターとしての仕事はない。
こうして考えるとだいぶブルーハンターも減っている。それを補填する形ならば、さほど目立たないだろう。
「了解しました! これだけあればアンシュラオン様もゴールドハンターになれるかもしれませんが、どうしますか?」
「んー、オレはべつにいいや。さすがに目立つだろうしね」
「そうですか…。グラス・ギース初のゴールドハンターなのですが…」
「そんな貴重なものを、あの領主のために捧げたくないからね」
「なるほど、それもそうですね。初めてを捧げる相手は大事ですもんね」
ハンターとして生計を立てているわけではないので、あまり意識はしないが、これによって「白の27」はブラックハンター級傭兵団に昇格する。
パーティー全体として第三級の討滅級魔獣までは討伐可能、という意味だ。
また、アンシュラオンとサリータだけで多くのドドサウルスを倒しているため、これにデアンカ・ギース討伐分のポイントを加算すれば、アンシュラオンがゴールドハンターになることも可能である。
(ゴールドハンターねぇ…イタ嬢っぽくて嫌なんだよな。肩書きだけ良くなっても面倒なことが増えるだけだ。少なくともグラス・ギースではやめておこう)
すっかり忘れそうになっていたが、イタ嬢の
金玉祭などという国辱ものの名前と一緒に祝われたら、死ぬに死にきれない。今回はやめておく。
多くの人間はより高い地位や身分、肩書きを求めるが、実際に手に入れてみると思った以上に嫌なことが多いものだ。わだかまりやしがらみはもちろん、嫉妬で邪魔をする者が増えるのは面倒で仕方ない。
(ゴールドハンターは、ハローワーク誘致の際のカードの一つとして残しておこう。そのほうが高く売れそうだしね)
「…ばしゃばしゃっ」
「あっ、サナ様!」
「…もみもみ、ぐいぐい」
「サナ様…く、くすぐったいです…あはは!」
「…ぎゅっ」
「サナ様をお守りできるようにがんばります。もう少し待っていてくださいね!」
「…こくり」
アンシュラオンの背後では、命気風呂に入ったサナとサリータがじゃれあっていた。
サリータが強くなっていることが嬉しいのだろう。あの決闘の日から、ずっとべったりである。
武人同士は、惹かれ合う。
親和力の法則によって、知らずのうちに似た者同士が集まる傾向にあり、結び付きも強くなっていくものだ。
サナが強くなり、それを感じられるくらいにサリータが成長する。それによって触れ合う相手のことが前よりも理解できるようになり、それが楽しくてまた一緒にいたくなる好循環だ。
それを微笑ましく眺めていたアンシュラオンが、立ち上がる。
「ちょっとおっさんと話してくるよ。先に寝てていいからね」
「はい! わかりました!」
その後、セノアとラノアは食事の片づけと翌朝の仕込み、ホロロはクルマの掃除と整備、小百合は魔獣素材の計算等々、各々の役割を果たしてくれた。
サナとサリータは、交代で夜番をして警戒を怠らない。
アンシュラオンのチームはチームで、上手く回りつつあるようだ。
本営の焚き火前でガンプドルフを発見。
来るのがわかっていたのか、彼一人である。
「少年、今日は助かった」
「いいって。たいした敵じゃなかったしね」
「兵士たちが見違えるようだ。ようやく肝が据わったな」
「ああやって死を意識させるのが一番早い。誰だってその瞬間になれば抵抗するもんだ。それが生物の保存本能ってやつだからね」
「ふっ、それができる君がすごいのだ」
「逆におっさんがすごいと思うけどね。オレには騎士たちの統率なんてできないし、兵士あたりが気楽でいい」
アンシュラオンも自然にガンプドルフの前に座る。
この両者がいるだけで周囲には安心感と同時に、張りのある緊張感も漂う。
強者同士だけが放つことができる独特のオーラがあるのだ。こうなると誰も近寄ることはできない。
「ほかに被害はなかった?」
「人的被害以外はなかったようだ。物資も無事だ」
「オレたちからすれば雑魚とはいえ、西方ではいつもこんな感じ?」
「そうだ。今日は少ないほうだった。この先の危険エリアに入れば魔獣はどんどん強くなる。数も増える」
「調査が進まないわけだよね。でも、戦艦にはこれくらいの相手を排除できるだけの力があったんでしょ? それが消えたとなれば、そろそろ注意しながら進んだほうがいいね」
「十分警戒はしておこう。後方はどうする? 騎士の部隊を少し回すか?」
「後ろは兵士たちだけでいいよ。前方のほうが強い敵が来る可能性が高いし、今日みたいに追加で来た相手をオレたちが排除する形のほうがいいだろうね。それより気になることがあるんだ」
「気になること?」
「普通、魔獣は自分たちの生活を一番にする。生物なんだから当然だね。敵と戦うのは狩りか防衛のためだけだ。群れ全体の防衛のためならば命を捨てる魔獣もいるけど、あの魔獣たちは群れそのものすら犠牲にしようとしていた。そんなことはありえないよね?」
「…なるほど。多くの魔獣を見てきた少年の言葉ならば説得力があるな。それで、何が言いたい? 何か気付いたのではないのか?」
「あの魔獣たちは―――【操られていた】んだ」
「なっ…魔獣が? そんなことが可能なのか?」
「昼間、あるラインを超えた瞬間から、大地に術式が展開されているのが見えたんだ。間違いない。あれは精神術式だよ。前に姉ちゃんが翼竜を支配した時、あんな感じになったんだよね。グラス・ギースのジングラスにも魔獣を支配する秘術があるし、人間だろうが魔獣だろうが精神がある以上は関係ないさ」
「では、それもスレイブ・ギアスなのか?」
「スレイブ・ギアスは基本、同意のもとでかけられる。その場合は、あんな血走った目にはならない。もっと強い強制力のある術式の可能性が高いね」
「しかし我々が調べた結果、西方の魔獣はどれもあんな感じだった。これだけの量の魔獣を支配できる者がいるのか?」
「そこなんだよね…。超広域術式なのは間違いないけど、それこそ誰にそんなことができるのか、って問題が付きまとう」
「よもや君の姉ではないだろうな?」
「うーん、断言はできないけど、まずありえないね。あの人はオレと似ていて、自分に興味がないことは一切やらないからね。やるにしても、あんな弱い魔獣をけしかけるなんてしないよ。撃滅級魔獣を連れてくるならわかるけどさ」
「…な、なるほど。君の姉でなくてよかった」
「だからオレの予想としては、やっぱり前文明関連じゃないかなと思うんだ。思えばジングラスが魔獣を支配していたのも、辿っていけば前文明の技術に行き着くのかもしれない。おっさんの話だと魔獣も支配していたそうだからね」
「その術式がいまだに残っていると?」
「たぶんだけどね。ただ、それだけじゃ整合性が取れない部分が出てくるんだ。文明はもう滅びているんだし、守るものだってない。もしかしたら財宝を守れとか命令されている可能性もあるけど、無差別に人間を襲う術式なんて危険すぎるよ。それ以前に魔獣にだって世代交代はある。すべての種や個体が例外なく命令に従うとも思えないしね」
「多少違和感はあるが、少なくとも魔獣が凶暴なのは『人為的』だと言いたいのだな。そして、君はそれを危険視している。特に術式をかけた者が気になるようだな」
「そういうこと。で、もう一つ付け加えるのならば、これがある限り土地の開拓はかなり厳しいってことだね」
「…たしかにな。まさかそのようなものが仕掛けられているとは…」
「なんてね。逆だよ。人為的なら壊すこともできるはずだ。もし魔獣たちがおとなしくなればどうなる? 危険は残るけど開拓自体はだいぶ楽にできるようになるよね」
「っ…! 少年、君ってやつは!! なんて朗報を持ってくるのだ! 頬ずりしたいくらいだ!」
「それはガチで拒否する」
ガチで!
「まあ、あまり期待を持たせたくはないけどね。術式が高度すぎて展開している中心部がよくわからないんだ。これだけの大きな術式だ。単体で起動しているとは思えないんだよね。そのあたりをもっと詳しく調べる必要がある」
「それでも朗報は朗報だ。希望が見えてきたではないか」
「希望は無いよりあったほうがいい、か。そうだね。そう思うことにしようか。これからは移動しながらオレも術式を探ってみるよ。明日はいつ出発?」
「夜明け前には準備を始める。それまではゆっくりしてくれ」
「オレが見張ろうか?」
「問題ない。そんなやわな鍛え方はしていないさ」
「わかった。任せるよ」
∞†∞†∞
キャンプを出立してから一週間が経過。
途中で何度も魔獣と交戦があったせいで、進む距離は日に日に短くなっていった。
ガンプドルフが言ったように、西に進めば進むほど魔獣たちは強くなり、なおかつ強烈な殺意を向けるようになっていく。
こちらから接近を控えていても相手側から突っかけてくるのだから困ったものだ。少しでも人間の気配がしたら目の色を変えて攻撃してくる。
こうなれば総力戦である。兵士たちも果敢に立ち向かった。
相変わらずアンシュラオンに神風特攻をさせられながらも、彼らは懸命に生き延びていた。
回復術式があるから遠慮なく突っ込めるんだろう? と思われるかもしれないが、受ける痛みは変わらない。つらいのは同じだ。
その中で何度も突っ込める気持ちの強さを得たことが、彼らを急速に成長させていく。
今では全体的なレベルも上がり、出立前より精強になったはずだ。顔つきが全然違う。闘争心だけならば騎士に引けを取らないだろう。
当然、アンシュラオンもサリータを引き連れて戦っていた。
何事も反復だ。実戦で何度も繰り返させることで感覚を覚えさせていく。それと同時に、さまざまな状況を与えて柔軟性も養う。
今まではボムハンマーだけだったが、単発式爆破銃も使わせたり、場面場面で最適な行動を取れるようにする。これも反復である。
その結果、サリータの練度も少しずつ上がっていく。
サナと日々鍛錬していることもあり、戦気を出すこと自体は問題なくできるようになった。剣気も十分使えるレベルだ。
が、まだまだサナの動きに完全についていけない。
アンシュラオンとは連携できていたが、あれは合わせる側に高い技術と余裕があったからだ。今のサナでは自分の動きをするだけが精一杯で、サリータを気遣う余力がない。
もしそれをやってしまうと速度や体勢が崩れて、サナの強みが失われるどころか、命の危険さえ生まれてしまう。
よって、こちらも反復あるのみ。魔獣の強さを見極めて、サナたちで対応可能と判断したら二人を出撃させて反復練習をさせる。
戦気術自体、何年も何十年も修練を続けなければいけないし、先は長い。彼女たちの成長は始まったばかりなのだ。
そうして進むこと、二日。
「全隊、止まれ」
ガンプドルフの命令で、荒野の中央で一行が止まる。
ここは地図でいうところの『白黒』の色が付けられていた場所。ひときわ強力な魔獣が出現するポイントである。
警戒しつつしばらく待っていると、偵察部隊が戻ってくるが、その数は増えていた。
ついに先行して偵察に出ていた部隊と合流を果たしたのだ。
「閣下、ご無事で」
「お前たちこそ、よくぞ無事だった。何かわかったか?」
「はい。この先に交戦した形跡があります。戦艦の砲撃と思わしき痕跡も見つけました」
「やはりここを通過したようだな。どちらに向かっている?」
「多少航路は複雑ですが、最終的には西に進路を向けているようです」
「西の森、か。こちらも予定通りだが…」
「おっさん、何かわかった?」
アンシュラオンもここで合流。
後ろの安全も確認してきたので問題はない。
「ここが戦艦と最後に連絡が取れた場所になる。我々が目指していた最初のポイントだ。痕跡も見つかっている」
「周囲五キロ圏内に戦艦は見えないね。戦艦は五百メートルくらいはあったよね。そんな大きなものなら目立つはずなんだけどな…。痕跡から辿れるかな?」
「簡単には見つからないだろうが、粘り強くやっていくしかないな」
戦艦の追跡が難しいのは、昨日まであった痕跡が今日には消えていることが多いからだ。
今まで倒した魔獣たちも、残った部位は次の日にはなくなっている。地中にいる虫型魔獣や、鳥型魔獣たちが綺麗に食べてしまうのだ。骨さえも食われて何もなくなる。
この荒野は、まさに大自然の食物連鎖によって構築されている。そんな中で戦艦の痕跡を見つけた偵察部隊が、いかに優秀かがわかるだろう。
「ここから先の単独行動は危険だ。先行した部隊を吸収して、一丸となって進んでいく。進路は西だ。少年もしばらく前にいてくれ。君の探知能力に頼ることになるかもしれない」
「わかった。やってみるよ」
そう言うとモグマウスを大量に生み出す。
見慣れない人間には奇妙な存在なので、ガンプドルフ以外の騎士たちは興味深そうに眺めている。
(命気で作っているのか? 操作系なのは知っていたが器用なものだな)
ガンプドルフも気配を感じたことはあるが、実際に見るのは初めてだ。驚きはしないものの、不思議な形状のほうに興味を惹かれているようであった。
「すでに周囲にはこいつを展開しているけど、さらに先にまで向かわせてみる。ここからはかなりやばそうだしね」
「ああ、頼む。では、出発だ!」
捜索隊は慎重に進む。
なるべく音を立てずに静かに移動したため、その日はそのまま夜になった。
進んだ距離は十キロ程度と寂しいものだが、以前ゼイヴァーが言っていたように百メートル進むのにも苦労する場所だ。
このあたりはまだ事前に調査が済んでいるものの、状況が状況のために慎重になることは悪いことではない。
そして、その翌日。
戦艦の残骸を発見。
一瞬だけ場の空気が凍りついたが、詳しく調べた結果、戦艦が連れていた輸送船の残骸であることがわかった。
おそらく魔獣との交戦で大破したのだろう。この場合は、乗り捨てた、といったほうが正しいかもしれない。
明らかに戦艦とはサイズが異なるので見た瞬間に違うとわかるのだが、誰もが最悪の事態を頭に入れているために一瞬でも騙されるのだ。
しかし、明らかに近づいている。
一向は、さらに歩を進めた。