【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
「よっと」
アンシュラオンが亀裂の底に到着。
特段何事もなく、あっけないほど簡単に降り立つことができたが、あくまで火怨山の大自然に慣れているからこその芸当だ。
普通に調査する場合は何が待ち受けているかもわからないため、安全確保にかなりの時間を要するものである。
しかも底は完全なる暗闇。亀裂があまりに深く、中層から下層に関しては太陽の光はほとんど入ってこない。それだけでも危険な場所といえた。
だが、目が極めて良く、暗視能力も高いアンシュラオンには丸見えだ。今は術士の目も持っているため明かりを生み出す必要さえない。
改めて周囲を見回す。
地層は全体的に岩盤であり、土や粘土質のものは少ないようだった。
(見た感じ、自然に地割れが発生するような場所じゃないよな。大地震があったならばともかく、こんなものがいきなり生まれるのはおかしい。常識的に考えれば調査班の見落としの可能性を考えるけど、この荒野は普通じゃない。ここで何か起こった可能性は高いと思ったほうがよさそうだ)
アンシュラオンは一度、亀裂の南端にまで移動。
モグマウスを使って上層まで調べてみたが、表面的には異変はなかった。
しかしながら優れた武人だからこそわかることがある。
(ここが一番強く壊れているな。おそらくだが、南側から力が加わって北側に通り抜けたんだ。力も地下からではなく『地上部から』押し込まれている。少なくとも自然発生したものじゃない)
何か強い力が真上から突き刺さり、北側に抜けていった痕跡が残っている。
地震のようにプレートがずれて引き起こされたものとは明らかに異なる。
気になったので、もう少し調べてみる。
(技とかじゃない。力ずくで叩きつけて引き裂いた感じだ。人間の可能性もなくはないけど、こうなると魔獣のほうが確率は高いだろう。しかし、これだけの亀裂を生み出せる魔獣ならば最低でも『撃滅級魔獣』だ。この近くにいるのか?)
魔獣の強さは、ある一定のラインまでは【大きさに比例する】傾向にある。
技を使わない彼らは、特殊なスキルを除けば、その肉体能力が最大の武器であることが多いからだ。
ただし、それも撃滅級魔獣の途中までだ。それ以上になると大きさはあまり関係なくなる。なぜならば肉体能力が『カンスト』してしまい、スキルの重要性がより高まるからだ。
では、この亀裂を生み出した魔獣は、いったいどんな存在だろうか。
(この亀裂をほぼ一撃で生み出していることから、身体の大きさは数百メートル以上はあるだろう。下手をすると千メートル以上かもしれない。巨大な腕、あるいは爪か尻尾みたいなものもありそうだ。…そうなると戦艦とサイズ的には遜色ない。狙われたら一発で撃沈だろうな)
最悪、すでに戦艦が砕け散って存在していない可能性もある。
餌と間違われて捕食されれば残骸すら残らないだろう。
(いや、落ち着け。それだけの魔獣がいるのならば、もっと痕跡があっていいはずだ。移動しただけでも跡が残る。だが、上にはそんなものはなかった。亀裂が生み出した時にはいたかもしれないが、戦艦が通った時にいたとは限らない。もっとよく調べよう)
調査班を信じるのならば、この亀裂が生まれたのは二年間のどこかのタイミングだ。周囲の風化具合から見ても、昨日や今日に出来たとは思えない。
アンシュラオンは、今度は南から北に向かって移動。
その間もモグマウスと波動円を使って周辺を探知。あまり距離は伸ばさず、精度を上げてしっかりと調べる。
すると、すぐに明確な痕跡を発見。
(上から下にかけて大きく削られた部分がある。新しい痕跡だ。けっこう長いな)
その岩盤の傷は、上から下に大きく長く付いていた。
軽く触ってみたが、ここの岩盤はかなり硬い。となれば、それ以上に硬いものが押し付けられたと考えてよい。
そして一番重要な点は、この傷がかなり新しいものであることだ。本当につい最近といった様相である。
残念ながら、これ自体が戦艦が落ちた可能性を示唆していた。
(岩盤に傷が残るということは、勢いよく飛び出して落ちたってわけじゃないようだ。落ちることがわかっていて抵抗した、ってところか。もし落ちた場合、今のところ可能性は二つだ。一つは地上で危険があって亀裂に逃げるしかなかった。もう一つは、抵抗したが引きずり込まれた場合だ)
だが、この考えにはいくつかの矛盾点も存在する。
(落ちないように風を噴射しているのに、どうして砲撃の痕跡がない? 普通に落ちた場合なら砲撃で脱出するはずだ。もし何かに捕縛された場合でも抵抗して射撃くらいはするだろう。それがまったくないのは不自然だ)
地上部では魔獣と交戦した形跡はあるが、亀裂に入ってから抵抗した様子がまったくない。そこが不可思議である。
アンシュラオンが疑問に思いながらさらに進むと、ふと湿った匂いがした。
(このあたりに『湿気』を感じる。地層も完全に乾いていない。雨が降った様子はないし、もしかして…)
アンシュラオンは、試しにモグマウスを地下に潜らせる。
百メートル、二百メートルと進むごとに湿り気は増していくように感じられた。
(間違いない。【地下水脈】がある)
この荒野で水場は、ほぼ存在しない。
リッタスもサリータとの会話で述べていたが、何より雨自体があまり降らないので、ひたすら乾燥した地域が多いのだ。
だからこそ魔獣の狩場や、時々見かける大きな湖は貴重なのである。あそこにも地下水脈があると思っていいだろう。
では、雨が降らないのになぜ水脈があるかといえば、大きな枠組みで考えれば、火怨山から水が流れ出ているからだ。
(より高い場所にある火怨山からこの荒野に水脈が流れ込むのは道理だな。ああ、師匠に水汲みに行かされたのが懐かしい。あのジジイ、とんだ鬼畜だったな)
火怨山は全高二万メートルを超える巨大な山脈であり、天候の変化も激しく、雨もよく降るために水源としての機能も十分だ。(アンシュラオンが暮らしていた頂上付近は雲の上なので降らない)
かなり初期の話で語られたが、アンシュラオンも修行がてらに地下水脈に水汲みに行かされたことがある。そこで大量の撃滅級水棲魔獣と遭遇し、命からがら逃げ帰ったのは懐かしい思い出だ。
ともあれ、荒野において水脈の存在は貴重だ。ガンプドルフたちも西森を基点にして、食人森にある湖を制圧したいと考えていたくらいである。
もしここに水があるとすれば、まさに吉報といえるだろう。
(だから戦艦が調べに入ったのか? その可能性はある。荒野で水を発見したら調べないわけがない。だが、もう一つの危険性を忘れてはならない。水がある場所には魔獣もいる)
魔獣の狩場に魔獣が集まっていたように、荒野の魔獣だって水は必要である。逆にいないほうがおかしい。
喜び勇んで油断したところに魔獣と鉢合わせたことも十分考えられる。
そして、亀裂の北端にまで到着すると―――【巨大な穴】を発見
上からだと暗闇と岩盤が邪魔をして見えなかったが、地下に向かって斜めに穴があいていた。
(…でかい。入り口だけでも三百メートル以上あるぞ。しかも深そうだ)
そこらの洞窟を想像してはいけない。もはや大空洞と呼んで差し支えない『奈落』が、そこにはあった。
火怨山にもこういう場所はあったので驚きはしないが、これだけ大きければ戦艦が入ることも可能である。
戦艦の長さは五百メートルと大きいが、幅約百メートル、高さ約七十メートルの長方形をしている。なんとなくアイスバーを想像してもらえると形が想像できるだろうか。
(亀裂に落ちた戦艦が、ここに入った。…そりゃ可能といえば可能だが、わざわざそんな危険を冒すか? だが、痕跡がある以上はそう考えるのが妥当か。少し波動円で探ってみよう)
アンシュラオンが入り口から波動円を展開。
この男の波動円の粒子はかなり細かく、これに気づいた人間は、今のところガンプドルフとアーブスラットだけだ。
そこらの鈍感な魔獣程度ならば絶対に気づくことはない。
そう思っていたのだが―――ぴくんっ
(っ…! なんだ、今の感覚は? まさか【逆探知】された?)
こちらが探知しようとしたのに、逆に探知されたような違和感。
それを証明するように、奈落の中から気配が急激に増えていく。
ゴソゴソゴソゴソッ ゾロロッ
そして、数匹の魔獣が姿を現した。
姿は蜘蛛。タランチュラに近い形状をしている。大きさは体長三メートル程度で、高さは成人男性の胸くらい。
人から見れば大きな蜘蛛なので怖いが、魔獣としてはあまり脅威は感じない。
だが、問題は【数】だった。
ゴソゴソゴソゴソッ ゾロロッ
ゴソゴソゴソゴソッ ゾロロッ
ゴソゴソゴソゴソッ ゾロロッ
次々と穴から蜘蛛が這い出てきて、その数は十秒たらずで百匹を超えた。
地面だけではなく岩壁にも張り付き、こちらを凝視している。
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名前 :カーモスイット・スパイダー〈石喰蜘蛛〉
レベル:42/50
HP :690/690
BP :150/150
統率:D 体力: D
知力:F 精神: E
魔力:F 攻撃: E
魅力:F 防御: E
工作:D 命中: D
隠密:D 回避: D
☆総合: 第四級 根絶級魔獣
異名:悪食石喰い蜘蛛
種族:魔獣
属性:土、岩
異能:集団行動、脱皮再生、脱皮進化、糸放出、思念糸、鉱物喰らい
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(蜘蛛型の魔獣か。あまり強くはないな。兵士でも十分対応できるレベルだ)
アンシュラオンは蜘蛛を観察。
この程度の魔獣ならばたいした問題ではない。道中で出会ったガリムリプスのほうが、よほど危険な魔獣であろう。
しかし、こうして対峙していても一向に襲ってくる気配がなかった。
(やはり『人間憎悪』がない。こいつらは大地の術式に囚われていないんだ)
もっとも興味を惹いたのが、その部分だ。
ガリムリプスやドドサウルスは、文字通り目の色を変えて攻撃してきたが、彼らにそんな様子は微塵も感じられない。
虫だから哺乳類とは違う可能性も残ってはいるものの、ステータス上に『人間憎悪』がない段階でほぼ確定である。
(上にあった抜け殻に似ている。同一の種類と思っていいだろう。この亀裂の一帯はこいつらの縄張りなのかもしれない。もっと調べたいが…どちらにせよ一時後退だな。『探知型』となれば厄介だからな)
入り口でこれだ。中にはもっと大量の蜘蛛がいると思っていいだろう。その数も問題だが、彼らが『探知型』であることも問題だった。
彼らのスキルに『思念糸』というものがあるが、これはアンシュラオンが使っている術糸と同種の代物だ。肉眼では見えない糸を空間に張り巡らせて、周囲の状況を常時監視していると思われた。
その精度はアンシュラオンの波動円にも気づくレベルだ。こちらが探知しようと波動円、あるいは念糸を展開すれば、逆に敵を集めてしまう可能性がある。
アンシュラオンほどの力があれば強引に突破も可能、と誰もが思うだろう。しかしながら先が見通せない以上は無理をすべきではない。
(利益が出ないのに戦っても意味がない。弱いからと侮って痛い目に遭ったことはいくらでもある。蚊に刺されたって人間は不快なんだ。それを知っていて、わざわざ藪に突っ込むのは馬鹿でしかない)
これも長年の魔獣狩りの経験で得た教訓である。簡単に見えそうな場所ほど罠があるものだ。
アンシュラオンはそれ以上の探査を諦める。刺激しないようにそっと場を離れ、静かに壁を登っていく。
その間、蜘蛛は動かなかった。こちらをじっと観察しているようだが、追ってはこない。
相手側にも戦う理由がないのだ。ならば、こうして互いに離れるのが一番であった。自然の多くは、こうした不干渉によって成り立っている。
「お戻りになられたぞ!」
「輝光長! ご無事で!」
地上に戻ると、三人が駆け寄ってきた。
「お待たせ。そっちはどう? 変わりはない?」
「はい。魔獣とは出会っておりません。引き続き周辺の調査を進めておりました。輝光長のほうはどうでしたか?」
「地下に巨大な空洞があって、そこに蜘蛛型の魔獣が大量にいる。さっき見た抜け殻のやつだと思う」
「なんと…! では、ここはやつらの巣穴なのですか?」
「だろうね。もっと調べてみたいけど、オレだけの判断じゃどうにもできない。下手に刺激して連中と戦争になるのは面倒だ」
「戦艦はどうでした?」
「痕跡はあったけど、まだ五分五分だね。もしやつらと関係している場合、かなり危険な調査になる。その意味でもガンプドルフの判断が必要になるんだ。一度戻って報告しよう」
「了解です」
アンシュラオン隊は、一旦本隊に戻ることにした。
実際にどうするかはガンプドルフとの相談次第だが、アンシュラオンには一つの予感があった。
(たぶん、死闘になるだろうな)
長年危険と隣り合わせで生きてきた男の本能が、ここに戦艦がいることを告げていた。