※この作品はR-18です。

【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了   作:ぷるっと企画@園島義船

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678話 「蜘蛛の脅威 その2『脱皮進化』」

 

 敵の数は、三万。

 

 その凄まじい物量に部隊が呑み込まれようとしていた。

 

 いかなる『数の暴力』を打ち砕いてきたアンシュラオンでさえ、この規模が相手では簡単にはいかない。

 

 

「少年、撤退してくれ! これは防げそうもない! 聖剣を使う!」

 

「駄目だよ。まだ大空洞の中に敵戦力が残っているはずだ。それを全部倒せるとは思えない」

 

 

 ガンプドルフの聖剣はそのデータを見た限り、非常に強力だ。

 

 だが、シャクティマズ・グラズム〈雷範の結合者〉と実際に触れ合ってみて、その性質が『短期決戦』であることがわかった。

 

 アンシュラオンを超えるレベルの攻撃力を生み出せるだろうが、数の多さとは相性が悪い。おそらく半分も倒せないままで力尽きる。

 

 

「ここが勝負所じゃない。今は戦力を温存するべきだ」

 

「だが、このまま消耗すれば、攻撃にも転じられないぞ!」

 

「単独での集団戦闘はオレのほうが得意だ。ここは何とかするから、おっさんは部隊の立て直しを頼む」

 

 

 アンシュラオンから大量のモグマウスが出現。

 

 周囲にいたカーモスイットたちを一瞬で八つ裂きにする。

 

 だが、まだ足りない。全然足りない。

 

 

(しょうがない、全力展開だ。自動モードになっていない技はすべて解除されるが、この場を凌ぐほうが先だ)

 

 

 アンシュラオンは、ほぼすべての力をモグマウスに注ぎ込む。

 

 これによって約五百体が操作可能となるが、その代わりに他に仕掛けたものは、ホロロたちの緊急回復用命気だけになってしまう。

 

 ただしグラス・ギースの白樹の館等の防犯設備は、時間制限のない術式に切り替えているため、そこまでのデメリットはないはずだ。それよりもここでの犠牲が増えるほうが問題であろう。

 

 

「三百匹はおっさんたちを援護! 百匹は敵陣を切り裂いて分断しろ! 残り百匹はオレと一緒に中央突破だ!」

 

「チュキッ!!」

 

 

 これによって一時的に状況は好転。

 

 巨大な群れをモグマウスが猛烈な勢いで掻き分けていく。それと同時にアンシュラオンが蜘蛛を倒しながら走り抜け、大型蜘蛛に一気に接近。

 

 命気刀を生み出し、伸ばした全力の剣硬気で周囲数百メートルを薙ぎ払う。

 

 

 ズバッ! ブシャババババババッ

 

 

 汚れた窓を薬剤付きの雑巾で拭いた時ように、その部分だけが完全に切り抜かれ、蜘蛛の体液や部位があちらこちらに舞い飛ぶ。

 

 この攻撃に対しては大型蜘蛛も普通の蜘蛛と同じ。真横に真っ二つに切断される。

 

 それでもまだ手が足りないので、両手で命気刀を構えて二刀流からの―――不知火・空連美。

 

 ガンプドルフは止めたのでその場で回り続けたが、もともとはこういう密集した戦場でこそ真価を発揮する技だ。

 

 蜘蛛を次々と切り裂き、敵陣に穴をあけていく。

 

 アンシュラオンの場合はサナと違い、遠隔操作したモグマウスや闘人などがカバーに入ってくれるので、遠慮なく大技を使っていくことができるのだ。一人で大多数の魔獣と戦ってきたからこそ身に付いた戦い方だ。

 

 

「見事だ、少年! これならば時間が稼げる! よし、後衛の撤退を急がせろ! 騎士は周囲に壁を作って防衛に専念だ! 無理に突っ込むなよ!」

 

 

 ガンプドルフも敵の圧力が弱まったので、多少ながら余裕が出てきたようだ。

 

 騎士たちを再編成し、モグマウスが取りこぼした相手を確実に迎撃、撃破していく。

 

 

「これならばいける!」

 

 

 ゼイヴァーも、その機動力をいかんなく発揮。大蜘蛛の砲台を潰して回る。遠距離砲撃がなくなるだけでだいぶ楽になるだろう。

 

 

 アンシュラオンも全力を出しているだけあり、撤退は十分可能だと思えた。

 

 だが、ここで簡単にいかないのが荒野の怖ろしさだ。

 

 蜘蛛の脅威は数だけではない。もう一つ重要な【特性】があった。

 

 

「なんだ…これ?」

 

 

 撤退準備を急いでいた兵士が、大きな『繭』のようなものを発見する。

 

 よくよく見れば、それは蜘蛛の形をしていた。さきほど倒した蜘蛛が、いつの間にかこんな姿になっていたのだ。

 

 

「蜘蛛が死ぬとこんなふうになるのか?」

 

「おい、そんなの放っておけ。急ぐぞ!」

 

「ああ、わかった。でも、なんか動いてるような―――」

 

 

 シュンッ ブスッ

 

 

「あ…れ? なんだ……これ……ごぼっ」

 

 

 突然繭が割れ、そこから出てきたのは、やはり蜘蛛である。

 

 が、今まで焦げ茶色だった体表が禍々しい黒に変色し、鋏角(きょうかく)も大きく肥大化している。

 

 触肢は鋭く長くなり、まるで槍のように変化。今兵士を突き刺しているのも、その【槍脚】である。

 

 

―――――――――――――――――――――――

名前 :カーバラモ・スパイダー〈石喰戦闘蜘蛛〉

 

レベル:60/70

HP :1300/1300

BP :380/380

 

統率:B   体力: C

知力:E   精神: E

魔力:D   攻撃: C

魅力:F   防御: D

工作:C   命中: C

隠密:D   回避: D

 

☆総合: 第三級 討滅級魔獣

 

異名:石喰い兵士蜘蛛

種族:魔獣

属性:土、岩、毒

異能:集団行動、毒液放射、脱皮再生、脱皮進化、糸放出、思念糸、鉱物喰らい

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――【進化】

 

 

 

 彼らは脱皮することで再生と進化を繰り返すことができた。

 

 それはアンシュラオンたちが倒した蜘蛛でも同様。即死しなかった蜘蛛が次々と再生し、カーバラモに進化して襲いかかってくる。

 

 データを見たところ、この蜘蛛こそが本物の『戦闘兵士』であるようだ。全体的にステータスが攻撃寄りに向上している。

 

 それに加えて凶暴性が増しており、今までは無視していた騎士たちにも積極的に攻撃を開始していく。

 

 

(そりゃ『情報公開』で見ていたからスキルは知っているさ。だからこそおっさんに忠告したんだ。でも、速度がおかしい! 進化なんてそんなに簡単にできるか!)

 

 

 アンシュラオンも文句を言うが、実際に起こっていることは受け入れねばならない。

 

 たしかに地球の蜘蛛でも、脚がなくなっても脱皮で再生できる能力を持っている種類がいる。

 

 がしかし、あまりに早い。

 

 繭状になってから、およそ三十秒たらずで再生と進化を成し遂げている。これは明らかに異常である。再生はともかく進化するスピードがおかしいのだ。

 

 そして、当然ながら大型の蜘蛛にも同じことが起きていた。

 

 さらに大きく巨大となり、砲台管も二門になって再登場である。

 

 

「穴に落ちてろ!」

 

 

 アンシュラオンが蹴りを入れて谷底に落とそうとするが、重い。

 

 全力の一撃でも蹴落とせないほど、大型蜘蛛の体力が高くなっている。それを支えている蜘蛛たちも煩わしい。

 

 

「ちっ! 死ね!」

 

 

 命気刀で真っ二つに切り裂き、大蜘蛛は今度こそ絶命する。が、その間に他の個体からの砲撃を許すことになる。

 

 ボボボボンッ

 

 倍の数になった蜘蛛砲弾が、次々とDBD隊に襲いかかる。

 

 モグマウスが盾になって防いだものもあるのだが、すべてには対処できない。味方であるはずの蜘蛛さえ巻き込みながら砲弾が炸裂する。

 

 目的のためならば躊躇なく味方すら犠牲にする。アンシュラオンもよく他者を使い捨てにするが、虫の場合は最初から無駄な感情がないのだから、その何倍も怖ろしい。

 

 こうして蜘蛛の第二の特性、『脱皮進化』によって戦況は巻き返されてしまう。

 

 

(くそっ、守るものがあるのは厄介だな。オレだけだったら独りで距離を取って、ちまちまと攻撃していれば最終的には倒せるんだが…何か方法はないか? 覇王流星掌でもぶち込むか? …いや、聖剣と同じく今ここでやっても効果は微妙だ。もし戦艦が亀裂の先にあった場合、そこにまで被害が及ぶ可能性がある)

 

 

 ここで迷いが生じる。

 

 戦艦を優先して大技を封印するか、あるいはDBD隊を救うために『戦艦が助かる可能性』を犠牲にするか。

 

 こうした事態になるとガンプドルフの苦悩がよくわかる。どちらかを生かすためにどちらかを犠牲にしなければならない究極の二択だ。

 

 しかしながら、そんな二択すらアンシュラオンは拒否。

 

 

(違う。無理に選択肢を二つにする必要はない。慌てるな。クールになれ。いつだってそうしてきたはずだ。考えた先に必ず未来がある)

 

 

 逃避はせず、あくまで思考をフル回転させる。

 

 どう考えてもおかしいからだ。

 

 

(オレが油断したのは事実だが、あまりに唐突すぎる。やつらがいきなり襲いかかってきた理由があるはずだ。そうでなけば亀裂の調査の段階で襲われなかったのはおかしい)

 

 

 あの時、蜘蛛はこちらを攻撃しなかった。

 

 これだけの戦力差があるのだから、もっと早く攻撃を仕掛けてきてもよかったが、彼らは注視するだけにとどめた。それが一気に動き出したことには違和感しかない。

 

 アンシュラオンは地面に剣を刺し、剣硬気を放出して上昇。一度上空から状況を確認してみる。

 

 

(まるで雪崩だな。この中で後退を続けられるのは、さすがガンプドルフだ)

 

 

 ガンプドルフの指揮の下、隊は着実に後退しているが、そこにほぼ全方位から蜘蛛が群がっている状況が見える。

 

 蟻が獲物を襲っている光景に近いだろうか。極めて怖ろしく、おぞましい光景といえる。

 

 しかし、こうして俯瞰して戦況を見ると、明らかに相手が密集している場所があることに気づく。

 

 

(なんであそこにだけ敵が集中しているんだ?)

 

 

 輸送船のやや前、一台のトラクターにやたらと攻撃が集中しているように思えるのだ。彼らの攻撃は、そのトラクター、輸送船の順番に苛烈になっているようだった。

 

 

「おい! あそこには何がある!」

 

 

 アンシュラオンが急降下して、必死に逃げている一人の兵士に詰め寄る。

 

 

「へっ!?」

 

「あそこには何がある! あの中央のトラクターだ!」

 

「あそこ……? は……は、はい! たしか【通信設備】があったはずです!」

 

「通信設備? 戦艦と連絡を取るための機器か?」

 

「はい! 高出力の電波を放射するため、テストを行っていたはずです!」

 

「通信機を狙っている? なぜだ?」

 

「わ、わかりません!」

 

「お前に訊いてなどいない! さっさと逃げろ! 死にたいのか!」

 

「は、はいぃいい!」

 

 

 自分で呼び止めておいて相変わらずの横暴ぶりだが、貴重な情報を手に入れることに成功する。

 

 

(通信設備だと?)

 

 

 ついさきほどガンプドルフと話していた、戦艦との連絡を取るための【大型通信機】である。

 

 原理的にはゼイヴァーが持っていた通信機と同じだが、規模が違う。これならば数百キロ以上は軽く越えて交信が可能だろう。戦艦に搭載されているものも、これの上位版といえるものだ。

 

 しかしながら、この技術はDBDだけが持っているものではない。

 

 他国の戦艦や高感度受信機などに引っかかる可能性があるため、使用の際は十分注意する必要がある。戦艦が常時連絡を行わなかったのは、まさにそのためだ。

 

 今回は戦艦側と連絡を取る最後の手段としてキャンプから持ってきており、ガンプドルフもこれに一縷の望みを託したわけだが、なぜか蜘蛛はそれを狙っていた。

 

 

(間違いない。やつらが急に動いた理由は、通信機の電波が原因だ。オレの波動円にも気づく敏感な蜘蛛だ。強力な電波に刺激されてしまったのかもしれない。…だが、壊すような群がり方じゃない気がする)

 

 

 これだけの数だ。壊すだけならば簡単だろう。それこそ蜘蛛砲弾を撃ち込めば一発だ。

 

 しかし、群がった蜘蛛たちは通信機器の周囲を覆って、むしろ守るようなそぶりを見せている。

 

 それから下に潜り込み、持ち上げようとしていた。強引にではなく、極めて静かに丁重に。

 

 

(なんだあの行動は? もしかして【持ち去ろうとしている】のか? ん? あれは―――)

 

 

 その時、別のトラクターの荷台が動き出し、横から縦にスライドするように持ち上がった。

 

 そこにあったのは、黄金色に輝く人型の機械兵器だった。

 

 そう、ガンプドルフには聖剣以外にも武器がある。それが魔人機だ。

 

 

「魔人機を出したのか。ちょうどいい!」

 

 

 アンシュラオンは魔人機の肩に跳躍。

 

 ガンガンと装甲を叩きながら状況を伝える。

 

 

「ガンプドルフ、聴こえるか? あの通信機器を谷底に落としてくれ!」

 

「少年、あまり強く叩くな。響く」

 

「中に衝撃が伝わっているの?」

 

「今、私の神経はオーラジュエル・モーターを介して機械と繋がっているのだ。少年の重みも感じるぞ」

 

 

 魔人機、それもナイトシリーズのような『オーバーギア』には、ハイリンク型デバイスが搭載されている。

 

 これは肉体(脊髄)と精神を機械と結合させるものであり、機体を肉体と同じように動かすためのリンクシステムだ。

 

 よって、アンシュラオンがガンガン叩く衝撃どころか、実際に肩に鈍い痛みすら感じるのである。

 

 デメリットがありそうなシステムではあるが、だからこそ自由自在に動かすことができる。また、優れた武人ならば痛みを消すこともできるので、そのあたりの心配はない。

 

 

「それで、どういった事情だ?」

 

「蜘蛛は通信機の電波に強く反応している。あれを亀裂に落とせば、相手の注意をそっちに向かわせることができるはずだ」

 

「君が言っていた探知型の魔獣の習性か?」

 

「そうだね。高出力の電波を出すものを獲物か何かと勘違いしているんだろう。あるいはそれを集める習性があるのかもしれない。所詮は虫だ。刺激で動いているにすぎないよ」

 

「わかった。魔獣にくれてやるのは惜しいが、今は安全確保を優先する」

 

「そのほうが得策だね。それと無線機器を使った連絡も控えたほうがいい。また刺激する可能性がある」

 

「了解した。徹底させよう」

 

「援護する?」

 

「必要ない。君は女性たちのところに向かってくれてかまわない。あとは私がやる」

 

「わかった。任せるよ」

 

 

 ガンプドルフの愛機、ゴールドナイト99-092、ゴールドミーゼイア〈黄金の研篝矢(けんこうや)〉が動き出す。

 

 ドスンッ ぐちゃっ

 

 一歩踏み出すだけで、下にいた蜘蛛をたやすく踏み潰した。

 

 その感触がガンプドルフにまで伝わるのが、魔人機の面白いところだ。

 

 

「武装選択。ライトニングソードと低出力雷光砲。周りの騎士は退避しろ! ミーゼイアを出す!」

 

 

 ミーゼイアの主力武装の一つであるライトニングソードを装備し、軽く薙ぎ払った。

 

 それだけでアンシュラオンがやった剣硬気と同じく、何百という蜘蛛を切り裂き、焼き殺す。

 

 この武器は文字通り、高圧電流をまとっている特殊武装である。剣撃と同時に激しい雷を放出することで周囲の蜘蛛も一瞬で焼け焦げる。

 

 

「まさか通信機とはな。完全に盲点だった」

 

 

 敵を蹴散らしたミーゼイアが、通信機のトラクターを確保。力ずくで引っ張って移動を開始。

 

 予想通り、そのトラクターに大量の蜘蛛が群がってきた。

 

 

「魔獣め、魔人機を侮るなよ!」

 

 

 それに対して、ミーゼイアは『雷光砲』を使用。

 

 バックパックが展開され、孔雀のように背部が扇状に広がると―――

 

 

 

―――雷光が迸る!

 

 

 

 バババババッと輝く細かい粒子が拡散して放射され、それぞれが着弾した地点で爆発。まるで高速で降り注いだクラスター爆弾である。

 

 雷光砲―――正式名称『雷光孔雀砲』は、対MG戦闘においては敵の足を封じる牽制武器として使え、それ以外では『対人兵器』としても有用な武器となる。

 

 魔人機の設計思想は対人を想定していないものの、それはあくまで形式上、表向きのことだ。実際は戦争の道具として、人を殺すための優れた兵器が搭載されている。

 

 これこそ人類が生み出した大量殺戮兵器。それが投入されたのならば小型の魔獣では相手にならない。

 

 次々と蜘蛛が排除され、亀裂への道が開いていく。

 

 だが、その前に大型蜘蛛が立ち塞がる。ミーゼイアに向けて蜘蛛砲弾を発射。

 

 

「遅い!!」

 

 

 ここで魔人機の性能の高さを見せつける。

 

 この兵器の優秀な点は、搭乗者の力量によって機体性能が格段に上昇することだ。

 

 これだけ大きな機械であるにもかかわらず俊敏に動き、蜘蛛砲弾をソードで薙ぎ払った。蜘蛛砲弾は爆散。一瞬で消滅する。

 

 そのまま高速で突っ込み、ソード一閃!

 

 斬られた大型蜘蛛は真っ二つになりながら、さらに雷撃によって爆散。

 

 その後、ガンプドルフがトラクターを亀裂に放り投げると、それを追うように波が引き、蜘蛛たちが亀裂に戻っていく。やはり目的はあの通信機だったようだ。

 

 

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