※この作品はR-18です。

【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了   作:ぷるっと企画@園島義船

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679話 「蜘蛛の脅威 その3『ラノア拉致』」

 

(おー、すごい強いじゃんか! 豪語するだけのことはあるね。あんなものがあれば最初から使えばいいのに…って、エネルギーに問題があるんだっけ)

 

 

 魔人機が蜘蛛を蹴散らす様子を見て、アンシュラオンも感嘆する。

 

 実際に本家の野良神機と戦ったことがあるので、だいたいの強さは予想していたが、ガンプドルフが優れた武人であるがゆえに想像以上といえる。

 

 仮に自分が戦う場合、生身ではかなり厳しい相手となるだろう。普段とは違った戦い方をする必要がありそうだ。

 

 思えば免許皆伝の試験が野良神機の撃破だったのは、こういった事態を想定してのことなのだろう。さすが覇王。当たり前のように生身で魔人機を倒すことを考えている。

 

 だが機械である以上、エネルギーの問題は常に付きまとう。ゴールドナイトだからこそ日光で充電できるが、普通の魔人機ではそうはいかない。その日光にしても、戦っている間は充電できないという制約もある。

 

 また、壊れたときも問題だ。この荒野ではWGへの修理依頼も簡単にはいかない。自力で直せるのは外部装甲程度であり、動かなくなったら捨てるに捨てられない邪魔なゴミと化す。

 

 そういった事情を考慮すると、聖剣同様に使いにくい道具であるといえる。

 

 

(とはいえ、強力な兵器であるのは間違いない。あっちはおっさんに任せておけばいいか。ふむ、まだこっちには蜘蛛が残っているな)

 

 

 通信機を追いかけているので大波は引いたが、まだ多くの蜘蛛が輸送船に群がっていた。

 

 輸送船を狙う理由は、搭載されている無線機の電波が影響を与えていると思われるが、トラクター自体には目もくれないことから、何かしら違う目的があるのかもしれない。

 

 

(トラクターと輸送船の違いは…単純に大きさかな? 蜘蛛が使うとは思えないし、もしかして食べるのか?)

 

 

 カーモスイット・スパイダー〈石喰蜘蛛〉は、文字通り『石を食べる蜘蛛』と考えていいだろう。実際にスキルに『鉱物喰らい』があるため、ここは確定だ。

 

 であれば、金属を食べる習慣があるはずだ。彼らが輸送船を狙うのは食料の確保の意味もあるのかもしれない。

 

 

(だが、トラクターだって食べられるだろうに。どうして輸送船だけを狙う? それ以前に、あの程度の金属量ではこの数は養えない。ほかに主食があるはずだ。食べる以外の目的があるのか? …おっ、サナたちも戦っているな。だいぶ圧されているみたいだ)

 

 

 当然これだけ激しい戦いが起これば、サナたちも出撃していた。

 

 クルマに群がる蜘蛛をサナが切り裂く!

 

 今は魔石を全開にしているため雷撃も同時に叩き込み、蜘蛛を倒すことに成功するが、次から次へと敵がやってくるので休む暇がない。

 

 アンシュラオンがすでに弱点を見せつけたように、この数相手では機動性を完全に生かしきれないのもつらい。徐々に動くスペースがなくなり、圧し込まれていく様子が見える。

 

 

「ぐっ!! なんて数だ!!」

 

 

 サリータもクルマの外で、盾とボムハンマーを使って迎撃していた。

 

 爆破杭はとっくに残弾を使い切り、攻撃力で貢献はできていないが、決死に拡盾も使ってクルマを守っている。

 

 しかし、やはり数が多い。

 

 潰しても潰しても次々と群がってくる蜘蛛に対し、ひたすら耐えるしかないので防戦一方だ。

 

 

「サリータ! 耐えなさい! あなたが抜かれたら終わりですよ」

 

「はいっ!!」

 

「もうっ、なんなんですかー! この蜘蛛!! なんでこっちに来るんですか!?」

 

 

 ホロロと小百合もキャノン砲と散弾砲を使って迎撃するも、これまた数が多くて対応に苦慮している。

 

 そして残弾が無くなり、ホロロはアサルトライフル、小百合はハンドガンで対応。だが、それもすぐに弾切れが起きる。

 

 

「ホロロさんはクルマの中に入ってください。私はまだ刀がありますから!」

 

「小百合様、ご無理をなさらず!」

 

「大丈夫です! 援護くらいはできます!」

 

 

 こんなときでも小百合の声は明るい。アンシュラオンを信じていることが、ひしひしと伝わってくる。

 

 彼女たちは、まったく希望を失っていない。それこそが力となる。

 

 だがしかし、それでも徐々に歪(ひず)みが生まれていくのは致し方がなかった。

 

 

(まるでサナ様を援護しきれていない! これだけ近い距離にいるのにタイミングが―――合わない!)

 

 

 サリータ自身は、まだ戦気を出せるようになったばかり。使い慣れているわけではない。それがサナとの連携にわずかばかりの差を生じさせていた。ほんの少しとはいえ、それが次第に大きな差になっていく。

 

 そして、倒し損ねたカーモスイットが黒いカーバラモへと進化し、サリータに襲いかかる。

 

 シュシュンッ

 

 槍脚が迫る。

 

 完全に前に集中していたサリータは、真横からの攻撃に気づかなかった。

 

 槍脚が拡盾を貫通したところで、対術式二重防護輪が発動。『無限盾』が展開され、槍脚の衝撃を和らげる。

 

 が、それを貫通して鎧にまで到達。肩に激しい衝撃が襲う。

 

 

「ぐっ! 横からも…!」

 

「…しゅっ!」

 

 

 そこにサナが援護に入り、カーバラモを切り裂く。

 

 守る側が守られる側になってしまう。これが今のサリータの現状だ。

 

 いくら戦気を使って強くなっても、相手も強くなれば状況は変わらない。

 

 

「サナ様、ありがとうござ―――っ!」

 

 

 サナの背後に、もう一匹のカーバラモが迫っているのが見えた。

 

 槍脚で背中に狙いを付けて、突き刺そうとする。

 

 

「サナ様!!!」

 

 

 盾では間に合わない。身体ごとサナにぶつかるように庇い、代わりに攻撃を受ける。

 

 今回は無防備に身体を晒したため、無限盾だけでは攻撃を防ぎきれなかった。

 

 槍脚はサリータの腹を貫通。臓器が潰れ、鈍い痛みと同時に血が滲む。

 

 彼女が盾になったおかげでサナへの攻撃は逸らすことができたものの、カーバラモはそのまま押し込んで、サリータがクルマに激突。

 

 

 ドーーーンッ メキメキィイッ

 

 

「がはっ…!」

 

 

 サリータが槍脚に縫い付けられ、動けなくなる。

 

 クルマも大きな衝撃を受けて横転。屋根にいた小百合が放り出された。

 

 

「きゃああっ!! よっと、受身!! いたっ!! 蜘蛛の死骸に当たった!!!」

 

 

 華麗に受身を取ったと思いきや、蜘蛛の死骸にぶつかるという災難が発生。

 

 事前に強化されていた制服によって衝撃は防がれたが、まだ彼女たちの災難は去っていない。

 

 

「ラノアを離して!!」

 

 

 パンパンッ

 

 クルマの中からセノアの叫び声と銃声が響く。

 

 サリータがぶつかった衝撃でクルマの扉が破損し、そこから別のカーバラモが侵入していたのだ。

 

 長い脚を使って引っかけたのは―――ラノア

 

 蜘蛛は夢太郎を抱きしめているラノアを引きずり出そうとしていた。

 

 それを必死に止めようとセノアが発砲を続けるが、魔獣の体力のほうが上のため、たいしたダメージには至っていない。

 

 

「このっ!!」

 

 

 妹を助けようとするセノアは、魔力ブースターを使用。

 

 魔力弾の連射で攻撃。

 

 だが、こちらもまだ彼女の能力では討滅級魔獣には対抗できない。軽い損傷を与えるにとどまる。

 

 

「…しゅっ!!」

 

 

 サナが駆けつけ、蜘蛛を貫く。

 

 ただ、ラノアが邪魔で雷撃が使えず、動きを完全に止めることはできなかった。

 

 そこに蜘蛛の反撃。槍脚が振り払われ、サナを襲う。

 

 サナは素手の片手で防御するしかない。腕輪の力で無限盾が発動し、衝撃の大半を受け止めるが、カーバラモの一撃は無限盾を破壊して激突。

 

 サナが車外に吹き飛ばされる。

 

 

「…っ…っ……」

 

 

 サナが昏倒。すぐさま立ち上がったものの、目の焦点が合っておらず、足もふらついている。

 

 陣羽織に物理耐性があるからこの程度で済んだが、カーバラモの攻撃力はCだ。万全の態勢で受けねばサナの防御力では心もとない。

 

 

「サナ…様!!」

 

 

 サリータも助けようとするが、カーバラモと組み合っていて動けない。

 

 ステータスに表示されていたが、カーバラモの鋏角(きょうかく)には神経毒があり、これが体内に入ったら麻痺して動けなくなる。

 

 多くの兵士たちもこれにやられ、今現在は戦闘不能に陥っているようだ。

 

 サリータはまだ噛まれていないものの、油断すればすぐさま同じようになってしまうだろう。

 

 その間にサナに刺されたカーバラモは、ラノアをクルマの外に引きずり出していた。

 

 

「ううっ…やだ…!」

 

 

 ラノアはまだ子供だ。普段は物怖じしない性格とはいえ、魔獣の迫力に気圧されて満足に抵抗できない。

 

 

「ラノアちゃんを放してください!!」

 

 

 小百合も駆けつけて護身刀で斬りつけるが、そんな攻撃など意味はないと言わんばかりに蜘蛛は無視。ラノアを抱えて離さない。

 

 ホロロも何とかしようと術式ダガーで脚を切りつけるも、当然ながら少しばかり傷を付けるのが精一杯だ。

 

 この状況で蜘蛛と戦えるのは、サナとサリータだけ。

 

 サリータはこの通り、動けない。サナも立ち直りつつあるが、他の蜘蛛に囲まれて身動きが取れない状態に陥る。

 

 そんな中、ラノアと蜘蛛が見つめ合う。

 

 

「………」

 

「………」

 

 

 互いに動かない。ただ見つめ合うだけだ。

 

 

 

―――〈ラノア! 無事!?〉

 

 

―――〈ねーね?〉

 

 

―――〈大丈夫、今行くわ! 爆発矢で吹き飛ばすから頭を引っ込めて!〉

 

 

 

 セノアが『念話』でラノアに叫ぶ。

 

 最近は一緒にいることも多いので、こんな近い距離で使うことは滅多にない。危険が迫ったために、ついつい本能的に使ってしまったのだろう。

 

 だがしかし、それが『きっかけ』となる。

 

 カーバラモは三つ目をぎょろぎょろ回転させると、突如として高速で走り去る。

 

 

「ラノア! 待って、ラノアを連れていかないで!」

 

「セノアさん、違う蜘蛛が!!」

 

「あっ!」

 

 

 小百合の声で振り返ると、そこには違う個体がいた。

 

 今度はセノアを抱えて連れていこうと服を引っ張る。その拍子に爆発矢を落としてしまった。

 

 小百合が刀で妨害しようとするが、彼女だけではもうどうしようもない。

 

 

「うおおおおおおおおお!!」

 

 

 その時、サリータが組み合っていた蜘蛛の口に右腕を突っ込む。

 

 握っていた大納魔射津が―――爆発

 

 衝撃で蜘蛛の顔面が吹っ飛んだ。

 

 その隙に離脱し、セノアを掴んでいた蜘蛛に体当たり。寸前でセノアを助ける。

 

 

「サリータさん、その腕…!」

 

「セノア、離れるなよ!」

 

 

 彼女の右手は爆発の衝撃で吹っ飛んでいた。指が千切れ飛び、激しい裂傷と火傷を負っているため、もうハンマーは握れない状態だ。

 

 それでもサリータは左腕で盾を構え、円拡盾(えんかくたて)を使用。

 

 サナや小百合ごとクルマを覆うように防御陣を生み出す。

 

 

「はぁはぁ…せめて……セノアだけは…!」

 

 

 蜘蛛はいまだにセノアに向かって群がってくる。

 

 それを命がけで守るサリータだが、彼女の能力ではこのあたりが限界。

 

 カーバラモが強引に入り込もうとしたところで―――ズブウウウッ!

 

 空から降ってきたアンシュラオンが命気刀を突き刺した。

 

 

「大丈夫か、セノア、サリータ」

 

「し、師匠…申し訳ありません…」

 

「お前は自分の役割を果たした。十分だ」

 

「ご主人様! ラノアが!!」

 

「わかっている。その前にこいつらだ」

 

 

 剣硬気を伸ばして数匹を串刺しにすると、そのまま横薙ぎにして周囲一帯の蜘蛛を駆逐する。

 

 再生されては厄介なので熱爆球で焼いて、しっかりとどめを刺しておく。

 

 

「オレはラノアを追う。サナはここを守れ」

 

「…ふるふる」

 

「ラノアは大丈夫だ。ミャンメイの時のようなヘマはしない。信じろ」

 

「………」

 

「すでにモグマウスを護衛に付けてある。ラノアは無事だ」

 

「…こくり」

 

 

 助けに行きたかったようだが、なんとか説得する。

 

 正直言って、今のサナのレベルでは荷が重い相手だ。ここで待つのが最善策である。

 

 

(そうだ。ミャンメイの時のように失敗はしない。だが、またもや不思議な行動を取ってくれる。敵の目的を見極めないと、この戦いはただの消耗戦になってしまうな)

 

 

 

 

 アンシュラオンはラノアを連れていった蜘蛛を追跡。

 

 大部分の蜘蛛は谷底に落とされた通信機を追って、亀裂の中に戻っていた。

 

 残っていた蜘蛛たちも騎士たちによって駆逐され、次第に数を減らしている。輸送船のほうもモグマウスを援護に回したので大丈夫だろう。

 

 その一方で、ラノアを抱えている蜘蛛の周囲には他の個体が集まり、まるで壁を作るように強固に守っている。

 

 目的地は当然ながら亀裂内部。おそらく通信機と同じく持ち去るつもりだろうが、その様子に激しい違和感を覚える。

 

 

(なぜラノアを連れ去ろうとしている? さすがに食べるためではないだろう。そもそも消化器官が違うからな。それ以外だと儀式くらいしか思いつかないが、魔獣が宗教的儀式を行うとも思えない。これも違うだろう)

 

 

 草食動物が発酵のための専門の胃腸を持っているように、この蜘蛛も鉱物をエネルギーに換える特殊な酵素を持っているはずだ。

 

 無理やり肉を食べることも可能だろうが、異常発酵で死んでしまうこともあるので、あえて食べる理由は存在しない。

 

 この蜘蛛の主食は、間違いなく鉱物だ。例外はあるかもしれないが、ひとまずそこを信じて考えてみる。

 

 

(では、なぜさらう? しかもあんなに大事そうに抱えて。セノアも狙ったことから一つの仮説は立てられる。ほぼ間違いなく『念話』が要因だ)

 

 

 彼らは通信機器を狙った。しかも壊すのではなく、【持ち去ろう】としていることが重要だ。

 

 現に谷底に落ちた通信機器も、トラクターごと穴の中に運ばれていったようだ。何に使うのかはわからないが、彼らには電波を出すものを集める習性があるようだ。

 

 それは『念話』にも当てはまる。

 

 ロゼ姉妹には念話の専用回線が存在し、今回みたいに無意識で使ってしまうことがある。しかも無線タイプなので、術糸を繋いで行わないと周囲に漏れてしまう。

 

 最悪なことに蜘蛛は、その波動を感知できる。

 

 アンシュラオンの波動円すら探知できるのだ。二人の粗い念話を探知するのは容易であろう。加えてラノアには念糸の練習をさせており、今も夢太郎に繋いだままの状態である。

 

 彼らからすればもっとも探知しやすい人間といえる。だからこそクルマに蜘蛛が殺到したのだ。

 

 

(人間を狙う理由はまだわからないが、今回の一件で戦艦が持ち去られた可能性がぐっと高まった。戦艦が通信を控えている理由も、おそらくはこれが原因だ。壊れていなければ、だがな)

 

 

 蜘蛛の特性を考えると、今までのことにすべて辻褄が合う。

 

 なぜ戦艦の通信が途絶えたのか。なぜ戦艦が消えたのか。その理由は今回とまったく一緒だ。

 

 この蜘蛛にとっては戦艦は非常に興味深い代物だろう。あんな大きな蜘蛛も運べるのだ。何千と兵隊を派遣すれば戦艦だって運べるに違いない。

 

 ただし、あくまで仮説。

 

 まだ確定的ではなく、そんな推測にすべてを賭けるほどギャンブラーではない。

 

 

(現状でもっとも被害を少なくしつつ、戦艦の存在を確認する方法が一つだけある。これをやるとセノアは怒るよな。怒られるんだろうな…嫌われちゃうかな。でも、このままではリスクが高すぎる。くそっ、しょうがない…覚悟を決めるか)

 

 

 かなり迷ったが、致し方なく決断する。

 

 その決断とは、ラノアに『仕掛け』を施し、そのまま亀裂の穴に連れ去られるのを傍観することだ。

 

 自分の物に手を出した相手に対して、徹底的に報復するこの男からすれば、まずありえない行動といえる。

 

 なればこそ、そこにはアンシュラオンなりの考えがあるわけだ。

 

 こうしてラノアは、蜘蛛たちに拉致されることになってしまうのであった。

 

 

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