※この作品はR-18です。

【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了   作:ぷるっと企画@園島義船

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680話 「ラノアの目」

 

「うわぁああああああああああああああんっ!!!」

 

「す、すまない! 本当にすまない!!」

 

「ラノアが…私の妹がぁああああ! ラノアぁあああああああ!」

 

「き、君の妹は無事だ。それは保証しよう」

 

「どうしてそんなことが言えるんですか!!」

 

「そ、それは…だ、大丈夫だ。少年が守ってくれている…はずだ」

 

「はず!?」

 

「絶対に守っているから安心してくれ!」

 

「今はですよね!! 今後も無事である保証はあるんですか!!」

 

「大丈夫! きっと大丈夫だ!」

 

「きっと?」

 

「い、いや、絶対大丈夫だ!!」

 

「絶対って、そんな保証がどこにあるんですか!?」

 

「それは…その…たぶん大丈夫だ…」

 

「たぶん!? うわぁああああぁぁぁんっ! ラノアぁああああ!」

 

「ぜ、絶対だ! た、頼むから泣き止んでくれ…」

 

 

 新たに張った軍用コテージの中で、セノアがガンプドルフに食ってかかっていた。

 

 見ての通りDBDの軍部のトップの一人が、たかがメイドにたじたじだ。こういうときは立場や身分などは関係ない。鬼気迫るセノアの迫力のほうが勝っている。

 

 なぜこんなことになっているかといえば、当然ながらアンシュラオンが『生贄』として連れてきたからだ。

 

 

「少年、どうすればいいのだ?」

 

「謝ればいいんだよ。ひたすら誠意を尽くして」

 

「まったく聞く耳を持ってもらえないのだが?」

 

「そりゃ女性は感情で動くからね。論理的な話が通じるわけがない。セノアが泣き疲れるまで、ひたすらサンドバッグになるしかないよ」

 

「それはわかったが、なぜ私がこんな目に遭うのだ?」

 

「戦艦を助けるためなら何でもするって言ったじゃんか。どっちが大切なの?」

 

「そ、それはそうだが…これは……拷問だぞ」

 

 

 自分が怒られたくないのでガンプドルフを連れてきたのだ。

 

 説明まで彼にやらせたので、セノアの哀しみと怒りはすべてガンプドルフに向いていた。

 

 すべて計画通りである!

 

 だが、そんなアンシュラオンも他人事ではない。

 

 

「…ぎゅっ」

 

「………」

 

「…ぎゅっ」

 

「………」

 

「…悪かったよ。大丈夫だから。な? お兄ちゃんを信じてくれ」

 

「…じー」

 

 

 戻ってからサナがずっと自分の裾を掴んでいるのだ。

 

 甘えているわけではない。抗議の視線で見つめてくるので、とても居心地が悪い。

 

 

(助けに行きたいところを止めたのに、あえて見逃したからな。サナが怒るのも当然だ。…嫌われたくないなぁ。こんな可愛い子に嫌われたら、お兄ちゃんはもう生きていけないよ!)

 

 

 結局アンシュラオンも、サナの機嫌を直すために平身低頭して謝るしかなかった。

 

 そもそもこの男が考えた作戦なので、責任逃れをするほうがおかしいのだ。

 

 

 セノアが泣き疲れた頃を見計らい、改めて説明する。

 

 

「まず、ラノアは絶対に無事だ。これはオレが保証する。やつらに連れ去られる時に『守護者』を忍び込ませておいたからね」

 

「守護者…ですか?」

 

「現状オレが使える中で、もっとも優れた防御力を持った『闘人』だ。ラノアに危機が迫ったら必ずそれが守ってくれるし、傷を負っても命気で回復するようにしてある。そもそもあの蜘蛛が何匹いようがダメージを与えることはできないよ」

 

 

 モグマウス三百匹分の力を与えたので、アンシュラオンの力の半分以上の戦闘力を持っている。

 

 しかもそのすべてを防御に振った『防御型闘人』であり、仮に攻撃力がS以上でもダメージを与えることはできないだろう。

 

 

「そいつがいる限り、ラノアは安全だ。セノア、信じてくれるか?」

 

「…はい」

 

「で、どうしてオレがわざわざこんな真似をしたかといえば、大空洞の内部を探るためだ。彼女には『目』になってもらおうと思ってね」

 

「目? どういうことですか?」

 

「実際に試したほうが早いだろう。今、ラノアと通信が繋がっている。話してみるかい?」

 

「え!? 本当ですか!?」

 

「おっと、『念話』は使っちゃ駄目だぞ。こっちの専用回線を使うんだ。念糸でオレの回線に繋いでごらん」

 

「わ、わかりました。えと、魔力ブースターを出して…と」

 

「いいぞ、繋がった。話しかけてごらん」

 

 

 アンシュラオンを介して、セノアが回線に接触。

 

 恐る恐る話しかけると―――

 

 

―――〈ラノア、聴こえる?〉

 

―――〈ねーね?〉

 

―――〈ラノア!! うう、よかったぁ……無事なのね。今どこにいるの!? どうしているの!?〉

 

―――〈んー、暗いとこにいる〉

 

―――〈あの亀裂の中にいるのね。周りは!? あの蜘蛛は!?〉

 

―――〈くも、いるよ〉

 

―――〈数は?〉

 

―――〈いっぱい〉

 

―――〈何もされてないのね!? 本当に大丈夫?〉

 

―――〈んー、だいじょぶ。大きなくもさんいるから〉

 

―――〈大きな蜘蛛? それって逆に危ないんじゃ…〉

 

―――〈だいじょぶ。んー、えらいひと? だから〉

 

―――〈蜘蛛だから人じゃないでしょ…って、どういうこと? どうしてわかるの?〉

 

―――〈おはなしした〉

 

―――〈え!? 蜘蛛と話したの? 言葉がわかるの!?〉

 

―――〈んー、ねーねといっしょ〉

 

―――〈私と?〉

 

―――〈セノア、『念話』ってことさ〉

 

 

 なかなか話が進まないので、ここでアンシュラオンが参加する。

 

 アンシュラオンの回線であるため、内線のように三人での会話も可能なのだ。

 

 

―――〈そ、そっか。念話なら魔獣と…話せるんですか?〉

 

―――〈試したことがないからわからないな。ラノア、どうだい?〉

 

―――〈んー、なんとなくわかる。糸だすと、むこうもだすよ〉

 

―――〈相手は虫型魔獣だ。人間とは思考回路が違うし、脳神経にも違いがある。普通に会話は難しいだろうが、敵意があるかどうかくらいはわかるだろう〉

 

―――〈よかった……ラノアが無事なら…。でも、どうしてラノアを狙ったんですか?〉

 

―――〈今ラノアが述べたように、蜘蛛には『思念糸』というスキルがある。やつらはそれを使って連携をしているんだ。だから同じ『念話』が使えるセノアやラノアが狙われた可能性が高い。連れ去った具体的な理由まではまだわからないけど、少なくとも殺すつもりはないようだ〉

 

―――〈そんな……念話が仇になるなんて…こんな能力、いらないのに…〉

 

―――〈そう悲観することもない。それによってオレたちは重要な情報を手に入れることができた。ラノア、戦艦が見えるかい? 黒くて大きい塊だ〉

 

―――〈うん、みえる〉

 

―――〈え!? 戦艦!?〉

 

―――〈戦艦の様子は?〉

 

―――〈なんか赤くひかってる〉

 

―――〈ちょっと待ってくれ。今、視神経を共有する。よし、全体的に暗いけどなんとか見えるな。ほら、あれが戦艦だよ〉

 

 

 アンシュラオンも視神経を共有することで、ラノアが見ている光景をそのまま見ることができる。それを思念で投射し、セノアにも見せることが可能だ。

 

 これはグマシカが人形を使ってアンシュラオンを監視していた技術、【傀儡(くぐつ)の術】の一つで、精神術式の一種である。

 

 もともとはエメラーダが持っていた技術を傀儡士が盗み、そこから広がったものだが、今では巡り巡ってアンシュラオンも使うことができた。

 

 

(やっぱり便利な術だよな。ラノアは精神構造も単純かつ従順だ。子供の精神が乗っ取りやすいのは白スレイブと条件が一緒だな)

 

 

 傀儡の術はかなり難しいほうだが、今回はラノアが協力的なのでかなりやりやすい。グマシカが人形を使っているのも、相手からの抵抗がないからだろう。

 

 そして、彼女の目から戦艦の姿を捉えることができた。これこそがラノアを送り込んだ最大の目的なので、見事達成できたといえるだろう。

 

 

(多少傷ついているようだが、目立った大きな損壊はないな。あの赤い光は溶鉱炉の熱かな? ということは戦艦が生きているってことだ。代償を支払っただけの価値はあったな)

 

 

―――〈ラノア、オレがあげたバッグは持っているかい? お菓子や水はあるかな?〉

 

―――〈うん、いっぱいあるよ〉

 

―――〈お腹が空いたら、いくらでも食べていいからね。トイレもその場でしても大丈夫だ。命気で吸収分解するから下着や服が汚れないようにしてある。オレが助けに行くまで、しばらくそこで我慢してくれるかい?〉

 

―――〈わかったー〉

 

―――〈ラーちゃん、お姉ちゃんも絶対に助けに行くからね! 待っててね〉

 

―――〈うん、まってる〉

 

 

 

 通話終了。

 

 

 

「アンシュラオン様、ラノアちゃんは大丈夫なんですよね?」

 

 

 心配そうに小百合が覗き込んでいたが、話の内容がわからないのでやきもきしていたようだ。

 

 セノアをぎゅっと抱きしめながら訊いてくる。

 

 

「大丈夫だよ、小百合さん。オレが自分のメイドを危険な目に遭わすわけがない。今回ばかりは絶対に大丈夫だ」

 

「ですよねー! 小百合はわかっていましたよ!!」

 

「改めて言うけど、ラノアには最強クラスの守護者による護衛と命気による保護と、今やったように専用回線で常時通話が可能な状態にしてある。今回の念糸は、より綿密に精密に作ってあるんだ。しっかりと警戒網を縫うように配置しているから蜘蛛を刺激することもない」

 

 

 普通に展開しては感知されるため、極小の糸を生み出し、まさに蜘蛛の巣を縫うように忍ばせている。

 

 いざ何かに触れそうになったら即座に地面の中に隠れられるように、常に神経を張っている徹底ぶりだ。

 

 これだけでも相当な精神力を使うが、それだけ本気モードだということだ。

 

 

「サナ、これで許してくれるか?」

 

「…こくり」

 

 

 サナが頷く。その目には自分が助け出すという意欲が見て取れる。

 

 普段の彼女は強い感情を出さないが、こうした身内に関する事柄には、異様に強い執念とやる気を見せる時がある。

 

 

(べつにそれが目的じゃなかったけど、サナの感情を引き出すためにも良い経験になるかもしれないな。ミャンメイの時には失敗したし…トラウマの払拭になってくれればありがたい)

 

 

「師匠、自分も…今度こそ役立ってみせます!」

 

 

 横になっていたサリータも、いつの間にかサナの隣に来ていた。

 

 彼女の失われた右手は術式で復元したが、疲労が激しいので命気風呂に入れていたのだ。

 

 

「まあ、焦るな。今回の作戦は慎重に進める必要がある。準備に最低でも数日はかかるんだ。そうだよね、おっさん?」

 

「ああ、作戦を練って動かねば同じ過ちを犯す。こちらも犠牲が出たからな。騎士が四人、兵士が五人死んだ。作戦前に今一度、士気も上げねばならない。君たちには申し訳ないが多少の時間は必要だ」

 

「…そうですか」

 

 

 サリータも一緒に訓練していた相手である。少なからずショックを受けたようだ。

 

 しかし、彼女自身もアンシュラオンがいなければ、同じ結果になっていたかもしれないのだ。いや、きっとなっていただろう。それだけでも十分恵まれている。

 

 

「その間、しっかりと休んで準備をしておけばいい。爆破杭やキャノン砲弾もたくさん作らないといけないしな。納得したか?」

 

「…はい」

 

「それじゃ、オレはおっさんと少し話してくる」

 

 

 

 

 アンシュラオンとガンプドルフが外に出る。

 

 さきほどは女性たちがいたため控えていたが、ここからはかなり厳しい話が続く。

 

 

「今回はオレの油断だったよ」

 

「君だけのせいではない。こちらも油断していたし、そもそも誰にも予期できなかったことだ。これだけの犠牲で済んだだけ奇跡的だ」

 

「士気は大丈夫?」

 

「犠牲には慣れている。ナージェイミアがいるとわかれば、やる気も出るだろう。それより戦艦は無事なのか?」

 

「見た感じではね。炉にも火が入っているようだし、生き残っているのは間違いないよ。たしか高炉はサブエンジンでもあるんだよね?」

 

「そうだ。本格的な戦闘は難しくても移動くらいはできるはずだ」

 

「それなら助け出せる可能性も一気に上がるね。蜘蛛さえどうにかできれば、自力で出てくることもできるだろうしね」

 

「だが、どうして戦艦を狙う? 君のメイドを狙う理由は何だ?」

 

「うーん、魔獣の習性だからね。オレもなんとも言えないな。でも、戦艦を狙った理由はだいたい予想はついたよ。たぶん―――【巣篭もり】じゃない?」

 

「巣篭もり? 巣穴に篭もることか?」

 

「そうだね。じゃあ、巣篭もりの目的は?」

 

「繁殖…か?」

 

「正解。さっきラノアの目で見たけど、【女王】らしき個体がいた。大きさは二百メートル以上はあると思っていいね」

 

「…巨大だな。それが親玉か」

 

「最低でも殲滅級、もしかしたら撃滅級かもしれない。ラノア経由じゃオレの能力は使えないから、実際に見るしかないね。しかもこの様子だと、蜘蛛の総数は十万はいくかもしれない。オレの推測が正しければ、今も絶賛繁殖中だろうしね。放っておけば際限なく増え続けるよ」

 

「考えたくもない事態だな。ということは、戦艦はなんだ? 暖房器具か?」

 

「ははは、そうかもしれないね。もっと正確に言えば『苗床《なえどこ》』かな。そこに卵を産み付けるのさ。高炉があって適度な温度があるし、やつらの食料は鉱物だ。産んだあとは子蜘蛛が戦艦を食べて一石二鳥ってわけさ」

 

「それこそ最悪だな。食われる前に助け出さねばならない」

 

「そこは安心していいよ。産み付けてすぐ生まれるわけじゃないだろうしね。ただ、やつらの進化の早さが気になる。あれは異常だよ。やっぱり何かあると思ったほうがいい」

 

「君が気になっているのは術式のことか?」

 

「何でもそれと関連付けるのはよくないと思っているけど、関係がないとも思えない。オレはラノアを助け出さないといけないから、そのついでに調査もしたいと思っている」

 

「ふむ、何かが魔獣側に影響を与えている…か。ますます油断はできんな」

 

「正直ラノアの安全を確保するだけで精一杯で、オレに余力はない。おっさんたちへの援護もだいぶ減ることになる。作戦があってもかなり苦戦すると思う」

 

「もとより覚悟の上だ。君が気にすることではないさ。本来ならば私が相打ち覚悟で戦わねばならないところだったのだ。十分助かっている」

 

「そう言ってもらえると、こっちも助かるよ」

 

 

(オレは犠牲は気にしない。死んでもやらねばならないことはあるし、死んでこそ役立つやつらもいる。だが、無駄な犠牲が出たことは反省点だ)

 

 

 アンシュラオンも迎撃の対応で忙しく、兵士たちを守る余裕がなかった。

 

 優先順位は当然サナたちが上なので仕方ないが、戦力が減ったことは素直に痛手である。

 

 

(そういえばダビアの話だと、ブルーってやつは十万人以上を率いていて犠牲者を出していないらしいな。しかもそいつらは難民だ。本当にそんなやつがいたら神様だよ。オレだってこの有様だもんな。どうせ美化された情報が伝わっているんだろうさ。そもそもこことは魔獣のレベルが違うだろうしな)

 

 

 ふとダビアの話を思い出すが、そんなことはありえないことがここで証明される。

 

 集団で動けば必ず犠牲は出るのだ。それを受け入れてこその戦いである。

 

 

「それより【工事】はできそう?」

 

「問題ない。すでに取りかかっている。連中の特性がわかれば対処もできるからな」

 

 

 工事とは、文字通りの土木工事だ。

 

 戦艦が内部にあるとわかったため、即座に具体的な救出プランが練られた。

 

 まずは戦艦を脱出させるための『道』が必要だ。ひとまず高炉が生きているようなので動くと仮定し、亀裂から出るための通路を作っている。

 

 亀裂に道を作るとなれば、ひたすら掘り崩すしかない。反対側の南端部分を人力で削り、斜度角三十度の坂道を作る計画だ。

 

 すでに何人かが試しに土木作業を行っているが、蜘蛛からの反応はまるでない。完全無視である。

 

 

(あの蜘蛛は最初から人を狙っていたわけではない。邪魔したから排除しようとしただけだ。だからあれだけ激しい戦闘をしたのにもかかわらず、反対側で人間が工事をしていても無反応なんだ。ただし、目的や自衛のためならば誰であろうと攻撃する性質があることがわかったのは大きい)

 

 

 感情豊かな人間側からすると、さっきまで殺し合いをしていたのに、すぱっと割り切れることが理解できないかもしれない。

 

 がしかし、相手は虫型魔獣だ。ラノアと交信できる知能と感受性はあっても、感情で動くことはない。愛やら憎しみとは無関係なのだ。

 

 そのあたりにかなりの温度差があるわけだ。これが普通の人間には理解できないので、魔獣専門のハンターという職業に需要がある。

 

 

(リスクがあるからこそ、手に入れるものも大きくなるんだ。久々に面白くなってきたじゃないか。ラノアも助けて戦艦も無事に取り戻す。そのうえで蜘蛛も倒す。それでこその勝利だ)

 

 

 攻撃を受けたのならば、今度は反撃する番である。

 

 

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