※この作品はR-18です。

【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了   作:ぷるっと企画@園島義船

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681話 「戦艦の視点」

 

 アンシュラオンたちが戦艦救出作戦に向けて慌しく動き出している頃。

 

 大空洞の最奥に捕らわれた戦艦内でも同様に動きがあった。

 

 

「報告します。蜘蛛たちが戻ってきたようです」

 

 

 偵察に出ていた騎士がブリッジに戻ってくる。

 

 偵察とはいっても外は蜘蛛で一杯なので、せいぜい艦橋から様子をうかがうことしかできない。

 

 しかも現在はセンサー類のほぼすべてを切っているため、目視に頼るしかない状況である。

 

 

「蜘蛛の様子は?」

 

「少し数が減ったようですが、その分だけ色が変わった蜘蛛がまた増えたようです。しかし、色が変わった個体はあまり長生きはしないようです。おおよそ一週間で動かなくなって埋められていきます」

 

「形態変化は身体に強い負荷を与えるということか。攻撃し続ければ撃退も可能ではあるが、この数が相手では現実的には難しいな。それにしても、やつらに『埋葬』の習慣があることが驚きではある」

 

「やはり一定の知能はあるようですね」

 

「とはいえ交渉ができる相手でもない。最悪の相手なのは間違いないな。【孵化(ふか)】の状況はどうなっている?」

 

「輸送船のほうでは、すでに子蜘蛛が産まれて装甲の一部を食べているようです。格納庫についてはまだ動きはありません」

 

「おおよそ二週間で孵化か。輸送船は諦める。けっして刺激せず、引き続き監視を続けろ」

 

「はっ!」

 

「………」

 

 

 報告を受けて静かに目を閉じるのは、この戦艦を預かるメーネザー千光長である。

 

 彼はガンプドルフの副官として、長年艦隊を支えてきたベテラン将官だ。

 

※千光長は少佐から大佐くらいを指す。アンシュラオンの輝光長は准将~大将。聖剣長は元帥~。

 

 

(連中と遭遇してから二週間以上が経った。騎士たちも不安から徐々に疲れが見え始めている。幸いながら食料に問題はないが、希望が見えない状況はまずい。しかし、このようなことになるとは…さすがに想像はできなかったな)

 

 

 あの日、戦艦は大きな亀裂を発見した。

 

 事前調査とは異なる地形を訝しみ、メーネザーも亀裂の調査に乗り出す。そこでアンシュラオン同様に水場の可能性を見出し、その一報を聞いた騎士たちも大いに喜んだ。

 

 そして、狩場キャンプに連絡を取ろうと大型無線機を調整中、地震が起きたと思ったら亀裂から大量の蜘蛛が這い出てきて交戦する羽目になった。

 

 もともとメーネザーの任務には、戦艦を使ってこの周囲一帯の敵を排除することも含まれている。蜘蛛の出現自体には驚かなかった。

 

 戦艦は順調に蜘蛛を排除していったが、ここで予想していないことが起きる。

 

 

 ガンプドルフ隊もてこずった【蜘蛛の進化】だ。

 

 

 仕留め損ねればどんどん強くなる蜘蛛に、さすがの戦艦も苦戦する。砲撃だけでは対応できなくなり、騎士も総出で対応するしかなくなった。

 

 消耗戦を恐れたメーネザーが撤退を考え始めた時、運悪くさらに大型の蜘蛛が出現。

 

 それは二十メートル級の砲台蜘蛛ではなく、全長が二百メートル以上もある巨大な【白い女王蜘蛛】であった。

 

 女王蜘蛛は素早い動きで戦艦の真横に張り付く。最初は砲撃などを繰り返し、なんとか引き剝がそうとしたが、女王蜘蛛の攻撃が激しくなるだけで状況は改善されなかった。

 

 何よりも戦艦の真上や真横は死角になっており、主砲では狙えない位置にある。副砲ではあまりダメージを与えられず、撃つだけ無駄であった。

 

 

 ここで決断。

 

 

 抵抗を続ければ続けるほど艦へのダメージが蓄積され、より絶望的になると予想したメーネザーは、しばらく様子を見ることにする。

 

 アンシュラオンがやったように、相手の目的を見極めようとしたのだ。

 

 このあたりの判断から彼が優れた指揮官であることがわかるだろう。ただ闇雲に攻撃を繰り返すことは誰にでもできるが、こうした博打にも近い決断は極めて難しいものだ。

 

 結果、それが奏功した。

 

 女王蜘蛛はそれ以上の攻撃は仕掛けてこなかったが、その代償に戦艦が亀裂に引きずり込まれてしまう。

 

 一度落ちたら戦艦は簡単には戻れない。このあたりは普通のクルマと同じで、地球でも崖に落ちた車の回収には大掛かりな人手が必要になるものだ。

 

 その後はどんどん穴の置くまで引っ張られていき、ひときわ大きな空間にたどり着くと、本格的に巨大蜘蛛に抱きかかえられた。

 

 

(最初の数日はひどくタフな時間だった。この艦にいるのは経験ある騎士たちだが、魔獣相手では勝手が違う。異形の存在であるだけで恐怖が湧くだろう。よく耐えてくれたものだ)

 

 

 ここは敵の巣穴である。そんな場所に放り込まれたら多くの人間はパニックに陥るはずだ。

 

 敵は魔獣。話し合いもできず、何よりも価値観を共有できない。それが非常に怖ろしいのだ。何を考えているのかわからないことが、この世で一番怖ろしいと知る瞬間である。

 

 その恐怖に耐えながら辛抱強く観察を続けたおかげで、いろいろなことがわかってきた。

 

 

(やつらはなぜか通信に対して敏感だ。こちらが救難信号を出そうとしただけで船体に群がってきた。高出力の電波を出すのは危険すぎる。近距離無線通話すら危ない)

 

 

 戦艦が狙われたのは、定期連絡のために強い電波を発したからにほかならない。

 

 荒野の先に進めば進むほど強い電波を放つ必要性があり、それが蜘蛛に感知される結果になったのだと思われる。

 

 それに気づいてからは、致し方なく全センサーを切るしかなかった。だからこそ、このような状況下でも救難信号を送ることはできなかったのだ。

 

 そして、彼らの目的もわかっている。

 

 

(戦艦を捕らえた目的が【産卵】であることは間違いない。おかげで格納庫をブロックごと廃棄することになってしまった)

 

 

 アンシュラオンが推測したように目的は―――産卵

 

 

 しばらくしてから女王蜘蛛は、戦艦内部に脚を突っ込んできた。それはなかなかに強烈で、獲物の一部を解体するかのように強引に開けようとしてくる。

 

 このままでは破壊されると思ったメーネザーは、あえて格納庫を解放することで、女王の卵を受け入れる措置を取った。

 

 この作戦も成功。女王蜘蛛は卵を産み付けると満足したのか、おとなしくなった。

 

 当然、厄介な同居人を得ることになってしまったが、今のところ卵が孵化する気配がないのが地獄に仏であろうか。

 

 

(どうやら戦艦に産んだ卵は、輸送船に産んだものとは違うらしい。形も大きさも違う大きな二つの卵…もしや『新たな女王』の卵なのか?)

 

 

 輸送船から出てきたのは、通常のカーモスイットたちである。それがしばらくすると脱皮し、大きな砲台タイプや弾丸となる小型の蜘蛛等々、多用なタイプに変化していくようだ。

 

 また、脱皮には二種類あることもわかっている。

 

 通常の脱皮は一週間程度かかるが、相手の攻撃を受けて脱皮する場合は非常に早い速度で形態変化が起こる。

 

 これは敵の攻撃に対する防衛反応であり、そこで脱皮した個体は戦闘力が増大する代わりに、寿命が極めて短くなる傾向にあるようだ。

 

 最終的には、群れは通常のカーモスイットで構成されるようになるので、あの形態が彼らにとって通常の状態なのだと思われる。寿命も特に短いといった様子はない。

 

 ただし、それはあくまで通常の蜘蛛の場合だ。女王は明らかに他の蜘蛛とはサイズが違う。虫によく見られるように女王は特別な存在なのだろう。

 

 わざわざ戦艦に二つだけ植えつけたことを考えると、その卵は特殊なものと思ったほうがよさそうだ。

 

 

(運が良かったのは、やつらの食料が鉱石だったことだ。これこそが今まで我々が生き延びてこられた最大の要因だな。だが、なぜあえて戦艦に産み付ける? 餌は豊富にあるように思えるが…)

 

 

 蜘蛛の食料が鉱物であることは、すぐにわかった。

 

 なぜならば女王は一日に一度、この広間の中央にある【巨大ジュエル】に向かっていき、ガリガリとかじっている光景が見られるからだ。

 

 他の蜘蛛も自由気ままに岩盤にかじりついたりしており、今までそれ以外のものを食べている様子は確認されないため、主食が鉱物なのは間違いない。

 

 

(なぜこんな場所に、あんな巨大なジュエルがあるのかはわからない。あれは明らかに人工的なものだ。天然の原石があのようにカッティングはされない。であれば、誰かしらが作ったものなのはわかるが…まさか、本当に前文明の遺跡の一部なのだろうか?)

 

 

 ガンプドルフと一緒に東大陸に関する文献を調べていた時、たしかにそういった内容の文書がいくつか発見された。

 

 ただ、そのどれもがあまり有名ではない歴史学者のものであったため、学会でもまともに相手にされていない怪しいものばかりだった。

 

 メーネザー自身もあまり信じてはいないほうだったが、こうしたものを見てしまえば信じたくもなる。

 

 問題はそれが今、自分たちに対して悪い方向に作用していることだ。

 

 あのジュエルを食べるたびに【蜘蛛が大きくなっていく】のがわかるからだ。

 

 女王に関してはあれが限界の大きさのようだが、魔獣に専門外のメーネザーでも発せられる圧力が増していくのがわかる。同様に産み付けられる卵の数も増えていく。

 

 このままでは間違いなく、ここが戦艦の墓場になるだろう。

 

 

 そこでメーネザーは『妙案』を思いつく。

 

 

 戦艦は壁に密着しているため、そこから岩盤を砕いて入手。溶鉱炉で製錬した純度を上げた金属を周囲にばら撒く。

 

 すると、蜘蛛がやってきて食べ始めた。

 

 女王も気になったのか、それらの金属を食べ始める。

 

 

 まさかの―――【餌付け】

 

 

 巡洋艦ナージェイミアには高炉が搭載されている。もともとは長期間戦闘を続けるための拠点としての意味合いが強いが、まさかこんな形で役立つとは思ってもいなかった。

 

 これによって得られたものが、二つある。

 

 一つは戦艦の外に人間が出ても敵意を向けられなくなったこと。

 

 最初はやはり警戒されていたのでまったく外に出られなかったが、餌付けしてからは戦艦の一部として認識されるようになった。

 

 偵察もかなり楽になったものの、一度衝突があれば最悪全滅の可能性もあるため、基本的に外に出るのは鉱物の発掘だけにとどめている。

 

 もう一つは女王の腹を満たすことで、中央のジュエルをかじる量を減らすことにも成功した。

 

 どうやら女王も同じ味だけでは飽きるようで、こちらが出す金属も食べてくれるのは嬉しい誤算である。

 

 ただし、全部が上手くはいかない。

 

 

(おかげで我々は『鉱夫』に戻ることになってしまった。一日の大半を発掘と製錬に費やしている。これではまさに食事係だ。脱出の目処も立たない)

 

 

 安全は確保できたが、脱出の準備はまるで進んでいない。

 

 しかし、絶望もしていない。

 

 

(必ず閣下が来てくれる。ここを探し出すのは至難だが、我々の航行ルートは予測できるはずだ)

 

 

 メーネザーがなぜこんな持久戦を選んだかといえば、ガンプドルフが来ることを確信しているからだ。そのために部隊を二つに分けているのだ。いつか来ることは間違いない。

 

 ただし、ここで多大な犠牲が出れば、DBDの命運が潰えることも間違いない事実だ。

 

 

(閣下が聖剣を使ってくだされば、この蜘蛛もなんとかなるだろう。だが、必ず混戦になる。そうなれば我々も無事では済まない。半分生き残れば良いほうか…)

 

 

 メーネザーの想定では、最低でも半分の人命が失われると予想している。キャンプの人数と合わせて三百人以上は死ぬだろう。

 

 彼の異名は、【先読みのメーネザー】。

 

 その類稀な『予見能力』によって相手の手を読みきることに長けた武人だ。だが同時に、先が見えるからこそ最悪の未来も映し出してしまう。

 

 現状では良くて半数死亡。悪くて八割が死亡する最悪の状況といえた。そこから挽回するのは至難の業だ。

 

 

(何度シミュレートしても戦略的敗北しか見えない。今のままでは絶対に再興は不可能だ。やはり駄目なのか…)

 

 

 さすがのメーネザーにも陰鬱に近い感情が芽生えていた時である。

 

 ついにその瞬間がやってきた。

 

 

「報告します! 蜘蛛が運んできたものの中に、わが軍のトラクターがありました! 第一中継キャンプのものと思われます!」

 

「…わかった。総員、戦闘準備を開始。蜘蛛に悟られずに、ゆっくりと時間をかけて準備をするんだ。やつらへの『供物』も忘れるな。何事もない日々を装え。閣下が突入してきたのと同時に全戦力を投入して蜘蛛を撃破する」

 

「は、はい! ついに脱出の時が来たのですね!」

 

「…そうだな」

 

 

 この報告によって周囲は色めき立つ。

 

 唯一最悪を知っているメーネザーを除いて。

 

 しかし、その十数分後に奇妙な報告が入る。

 

 

「報告します! に、人間が…運ばれてきました!」

 

「人間? どういうことだ? 騎士か?」

 

「そ、それが……メイド服を着た少女がその……連れられてきました」

 

「………」

 

「本当です! 見間違いではありません! 今朝もしっかりと洗顔して目薬も差しました!」

 

「疑っているわけではないが…信じられないな」

 

 

 それを『疑う』と人は言う。

 

 

「実際に見ていただいたほうが早いかと。目視できる距離におります!」

 

「…本当なのか?」

 

 

 メーネザーも半信半疑で艦内を移動。

 

 外が見られる甲板近くにまで来て、さすがの彼も目を丸くする。

 

 たしかにメイド服の少女がいるのだ。双眼鏡でも見たので間違いない。

 

 

(馬鹿な……やつら、人間まで捕まえるのか!? まずい。それでは脱出がさらに難しくなる! …待て、落ち着け。そんな緊迫した状況ならば、なぜあの少女はお菓子を食べているのだ?)

 

 

 捕まったメイド、ラノアはバッグからお菓子を取り出し、もぐもぐと食べだした。

 

 周囲の蜘蛛に対してまったく恐れを抱いていないどころか、餌付けできないか試してもいる。(蜘蛛は食べてくれなかったが)

 

 その様子はなんとも浮世離れしており、現実感がまるでない。

 

 

(閣下が近くにいる。メイドがいても不思議では……いや、不思議だが、いない可能性がないわけでもない可能性がわずかながら多少はある可能性がなきにしもあらずなのは気のせいではないと思いたい)

 

 

 絶対動揺している。

 

 もしガンプドルフがメイドを侍(はべ)らせるようになったら、それこそもうDBDは終わりかもしれないのだ。精神がどうしても受け入れることを拒む。

 

 が、とりあえずメイドという単語だけは呑み込み、現状の把握に努める。

 

 

(しかし、なぜあの少女は無事なのだ? そもそもなぜ捕まえてきた? 女王がジュエルの近くに置いているのも不自然だ。あの場所は女王しか基本的には立ち入らなかった場所なのに、そんなところにどうして人間を置く?)

 

 

 実はラノアがいるのは、あの巨大なジュエルの近くだ。

 

 ジュエルが発光しているため視界も比較的確保でき、周囲の様子がよく見える。そのためアンシュラオンとの通話でも詳しく状況を話せたのだ。

 

 そのジュエルの近くに台座、おそらくは『玉座』のようなものがあり、そこにラノアが座らされている。特に拘束されている様子はない。

 

 気になるのは、その玉座が『人間サイズ』である点だ。

 

 女王が鎮座するのならば、もっと遥かに巨大なものが必要だろうし、そもそも蜘蛛が椅子に座る理由がない。

 

 

(少なくとも食料にするために連れてきたわけではないようだが…わからない。情報が足りない)

 

 

 結局メーネザーには、ラノアの状況を理解することはできなかった。

 

 しかしながら、なぜか不安にはならない。むしろあれこそが、この最大のピンチを脱出する最善の方法にすら感じてくるのだ。

 

 

 彼のその予感は、当たる。

 

 

 

 それから三日後―――異変が起きた

 

 

 

 多くの蜘蛛が慌しく動き出し、外に出て行くのが見えた。

 

 いつもの彼らならば多少数は減らすが、それでも平然と戻ってくるのが普通だ。

 

 

 だが、蜘蛛が戻ってきた時、そこにいたのは―――【鬼】の群れ

 

 

 毛むくじゃらの大きな【鬼獣】の群れが、蜘蛛と戦っていたのである。

 

 

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