【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
戦艦救出準備を始めて三日後、太陽が昇った朝。
これから突入作戦を行おうとしているにもかかわらず、亀裂の底には人っ子一人いなかった。
どこにいるのかといえば、DBD隊は亀裂の地上部からかなり離れた岩陰に身を潜めていた。
そして、そこには一匹の蜘蛛、もとい『蜘蛛の毛皮』を被ったアンシュラオンもいた。
それだけでも異様ないでたちではあるが、その手に持っている『もの』がとても気になる。
「少年、それは…?」
「うん、かっぱらってきたんだ」
「かっぱらった……それをか?」
「いやー、けっこう苦労して探したんだよね。なかなか手頃なのがいなくてさ。でも、あっちの山脈のほうでようやく使えそうなものを見つけたんだ。それがこれさ」
アンシュラオンが手に持っているのは、両手にすっぽり収まるくらいの大きさの存在。なにかモコモコしていて、もじゃもじゃしている毛の塊だ。
さきほどからピーピー泣いているので、それが生物であることがわかる。
ただし、毛の隙間から見える顔は―――【鬼面】
頭からは小さな角が生え、目は飛び出んばかりに大きく、口からも大きな牙が生えている。
明らかに人間とは異なる種であることがわかる形相だ。日本の「なまはげ」に近い容貌といえばわかりやすいだろうか。
だがもちろん、ただの赤子ではない。
「こいつは『
「これが君の言っていた蜘蛛に対抗できる魔獣なのか?」
「そうだよ。候補はいくつかあったんだ。蜘蛛を襲う蜂っぽいのもいたにはいたけど、卵を産み付けるタイプの魔獣って単独行動が多いんだよね。あんな大量の蜘蛛には対応できないから、結局正攻法の好戦的なファイターを選んでみたよ」
遡ること二日前、ありったけの石弾と爆破杭を作り終えたアンシュラオンは、「作戦開始までには戻る」と言って姿を消した。
当初から提案していた通り、蜘蛛に対抗できる魔獣を探しに行ったのだ。
このあたりは大地の術式の影響を受けていないとはいえ、魔獣そのものは大量に存在する。その種類は豊富で、虫型、獣型、鳥型、人型、異形型等々、まさに火怨山並みのラインナップである。
その中から最終的に選んだのが、この『鬼獣』というわけだ。
魔獣の中には『鬼』と呼ばれる系統が存在し、デアンカ・ギースを含む四大悪獣にも種族の中に『鬼』が含まれていることから、独立したものだと思われる。
代表的な存在がこの『鬼獣族』で、大型魔獣と比べると体躯は小さいが、物理的な耐久力とパワーに優れることで有名だ。
また、より人に近い『鬼人族』も鬼の一種だが、彼らは魔獣ではなく『亜人』の扱いになっており、人との間に子供が生まれることもある。が、かなりの希少種のために滅多に見かけないレアな存在である。
そのため一般的に鬼といえば、この鬼獣のほうを思い浮かべる者が大半だろう。
「頼んでおいた通信機の準備は?」
「できているぞ。あれだ」
ガンプドルフが指差した先には『囮用の通信機』があった。
以前のような長距離用ではないので小型だが、それでも二メートル以上のサイズはある。
(昔のコンポとか、やたら大きかったよな。技術が発展するまでは何でも大きいのが相場か。このあたりはまだまだ技術発展の余地はありそうだ。だが、今回はこのほうがいい)
アンシュラオンはトコトコと通信機にところまで歩いていく。
この段階で、やりたいことはだいたいわかった。おそらくあの赤子を通信機と一緒に置いて蜘蛛をおびき出すのだろう。
そこまでは誰だってわかる。
がしかし、その直後のことまでは予測できなかった。
「よっと」
赤子を―――ブスッと通信機に突き刺す
ちょうどいい感じにアンテナが伸びていたので、身体を串刺しにしたのだ。
当然アンテナが折れたらまずいため、そこは命気結晶で補強している。
「ビギャアアアアアーーーーーッ!!」
「よしよし、いい子だ。もっと泣け。泣き叫べ」
「…しょ、少年……何を……」
「鬼獣たちをやる気にさせる必要がある。いろいろ試したけど、このやり方が一番効率がいいのさ」
そもそも魔獣は生存のみを目的として生きている。食べる、寝る、育つ、繁殖するといったシンプルなことにしか興味がない。
魔獣同士で争うこともあるが、誰もが死にたくないので多くは殺し合いに発展しないのだ。これが人間と魔獣の最大の相違点である。
だったら争う理由を作ってやればいい。
「それじゃ、これを使って鬼獣の群れを連れてくるよ。いい? すぐに突入したら駄目だよ。鬼獣の群れが全部中に入って、入り口の安全を確保してから入るんだ。オレが先行して鬼たちを女王のところまで誘導するからさ」
「わかった。こちらはすでに準備万端だ」
「ただ、実際に入ってみないと状況がわからないし、けっこうシビアな勝負になるはずだ。戦艦とは連絡が取れないから、タイミングが合うかどうかだね」
「メーネザーのことだ。私が近くにいることには気づいているはずだ。ナージェイミアが無事ならば絶対にこちらに合わせて動く」
「自信があるんだね」
「当然だ。我々はいつだってこんな厳しい状況の中で戦ってきた。今回だってそうだ。絶対に成功させてみせる」
ガンプドルフたちは、この準備の間に死ぬ覚悟を決めていた。無駄死にするためではない。勝つために必要とあれば犠牲になる覚悟だ。
すでに準備は万端。彼らのことは気にする必要はないだろう。こうなった彼らは強いのだ。
最後にアンシュラオンは、サナたちと対面。
「オレたちもクルマで突っ込んで作戦に参加だ。戦艦を奪取し、そのまま乗り込んで一気に外に脱出する」
今回の突入作戦には、一部の人員を除いてほぼ全員が参加することになっていた。
これはキャンプでの人選と同じ方式であり、より作戦の成功率を高めるためにできるだけ戦力を投入する、というものだ。
安全策を選んで戦力を小出しにすればするほど、何度もやり直さねばならず、結果的にマイナスになることが多い。それよりは全力で一点突破するほうが勝率も効率も良かったりする。
また、こんな鬼獣のような強い魔獣が周囲に山ほどいるのだ。それならば最大戦力である戦艦と合流して一緒になって出たほうが安全である。
どちらもリスクがあるのならば、近くにいたほうが守りやすいという側面もあるので、こちらを採択することにした。
いや、こんな理由付けはいらない。
サナたちはすでに、やる気満々の瞳でアンシュラオンを見つめていた。ラノアを救出するという目的があるのだから参加しないわけがないのだ。
「サナ、サリータ、今回こそ【本番】だ。本番で勝てばすべてがひっくり返る。勝者になれる。この瞬間にすべてをかけろ!」
「…こくり」
「はい!」
「オレは先行してラノア保護に向かう。お前たちはクルマを守りながら、焦らずに状況を見極めて戦え。場合によってはクルマに固執しなくていい。大事なことは全体で勝つことだ。当然、身内は誰も死なないで勝つ。道具は道具。捨てるときは潔く捨てるんだ」
「…ぐっ!」
「サリータ、サナを任せたぞ。この戦いはお前がいかに踏ん張るかが要だ。気合を入れろよ。お前ならやれる! 自信を持て!」
「はい!!」
「よし、作戦開始だ!」
∞†∞†∞
アンシュラオンは赤子付きの通信機を持ったまま、荒野を駆け抜けて南西に移動。
そのまま三十キロほど走ったところで強い獣臭を感じる。
見ると、そこにはおよそ八十頭の【鬼獣の群れ】が存在していた。
(いいのを連れてきたな。完全に戦闘モードじゃないか)
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名前 :ナムタムオーガ〈鬼怒獣〉
レベル:95/99
HP :9600/9600
BP :1540/1540
統率:C 体力: AA
知力:F 精神: B
魔力:E 攻撃: B
魅力:E 防御: B
工作:F 命中: D
隠密:F 回避: E
☆総合: 第三級 討滅級魔獣
異名:山の怒れる鬼獣
種族:魔獣、鬼
属性:火、風、岩
異能:激怒、オーガファイター、乱撃、岩石投擲、親衛隊、物理耐性、家族想い
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見た目は、まさに鬼の顔をした二足歩行のゴリラだ。
身長はゆうに四メートルはあり、誰が見ても一目で強いとわかる魔獣であるし、実際にかなりの強さを誇っている。
すでに説明した通り、鬼獣は耐久力に優れる傾向にあり、体力が「AA]とこのレベル帯では抜きん出ているのが特徴だ。
毛で見えないものの肉体はムッキムキ。地下のジングラス派閥にいたレプラゴッコ〈草食鰐猿〉など、これと比べたら虚弱に映るはずだ。
それが群れで、しかも怒りの形相で歩いているのだから怖すぎる光景である。
当然、彼らはさらわれたボスの子供を捜しにやってきた捜索部隊だ。『親衛隊』というスキルがあることから、群れの中でもかなりの精鋭たちであろう。
その中には、ボスそのものもいる。
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名前 :ナムタムオーガ・グァルタ〈鬼怒天獣〉
レベル:120/130
HP :16600/16600
BP :3680/3680
統率:B 体力: S
知力:D 精神: AA
魔力:D 攻撃: A
魅力:C 防御: A
工作:D 命中: B
隠密:F 回避: C
☆総合: 第三級 討滅級魔獣
異名:暴虐の鬼怒天獣
種族:魔獣、鬼
属性:炎、嵐、岩
異能:統率者、突然変異体、怒髪天、オーガファイター、爆弾岩投擲、炎嵐招来、暴虐乱撃、物理耐性、銃耐性、術耐性、即死無効、家族想い、二十四時間絶対群れ守るマン
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他の個体よりも赤黒く、体格も顔の怖さも五割増の明らかに別格の存在がいた。
彼こそ鬼怒獣たちのボスであり、身長も魔人機の半分、六メートルもある巨躯である。
一番の特徴は、頭部の毛だろう。普通に歩くと地面に垂れるほど長い。だが今は、その髪の毛も肩くらいまで逆立っていた。
どうやらそれが彼の怒りメーターを示すものらしく、かなり殺気立った様子で周囲をぎょろぎょろと見回している。
(いいね、良い意味でギリギリ討滅級ってところか。なかなか強いぞ。劣化版コウリュウくらいの強さだ。群れの連中もいるから実に心強い。数が少ないのが多少気がかりだけど、勝ちすぎても困る。お互いに削りあってもらって、消耗させたところで漁夫の利をいただく。それが魔獣狩りのセオリーだ)
ハンターは武闘者ではないし、魔獣の保護者でもない。
あらゆる道具を使い、犠牲を少なくし、最小限の労力で最大限の結果を得るために動くものだ。
アンシュラオンは火怨山でも常にそうしていた。不利な戦いに挑むのは、あくまでどうしても避けられないときだけである。普通はこうやって姑息な手段を使うのだ。
そう考えると、アンシュラオンにとってハンターは天職であるように思える。生まれ持っての魔獣を狩る者なのだ。
「おーい、こっちだ! こっち!! ここにいるぞ! さあ、泣け!! お前の親父が助けにきたぞ!」
「ビーーービーーーッ!!」
蜘蛛の皮を被ったアンシュラオンが群れの前に飛び出て、赤子の身体をぐりぐりと動かして傷口を広げる。
この幼体が将来はあんな化け物になるとは怖ろしいものだが、今はまだ赤子。無力な存在である。
赤子にできることは、泣くことだけ。
「―――っ!!! ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」
赤子を発見した親衛隊たちが野太い声を発する。
威嚇であり、発見を報告するためのものだ。
その声を聴いたボスこと、ナムタムオーガ・グァルタは―――
「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!」
大地が震えんばかりの怒りの声を発した。
そして頭部の毛が完全に逆立ち、真っ赤な炎に包まれる。
グァルタのスキル『怒髪天』だ。怒りが最高潮に達した際、BPの消費が二倍になる代わりに、攻撃と防御に高い補正が入る強力なスキルである。
「ほーら、こっちだ。こいこい!」
「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!」
泣き叫ぶ子供を見せびらかしながら、ナムタムオーガの群れを亀裂に誘導する。
彼らはエジルジャガー同様に『家族想い』でもあり、絶対に仲間を見捨てることはしない。一人殺されたら、その百倍の数を殺すまで戦い続ける復讐タイプの魔獣だ。
それがボスの子供ならば、群れの存続に関わるため怒りはマックス!
なおさら猛烈な勢いで追ってくる。
この魔獣は見た目に似合わずかなり速い。時速百五十キロくらいは軽々出ているため亀裂がどんどん近づいてくる。
アンシュラオンも付かず離れずの距離で誘導。
そして、亀裂が見え始めた頃―――スイッチオン
通信機の電源を入れる。
この通信機は短距離ではあるが、意図的に強い電波を出すように設定してある。
こんなものを彼らが見逃すはずがない。
目論見通り、蜘蛛が出現。
亀裂を登って、大量のカーモスイットたちがやってきた。
「そら、くれてやる!!」
そこに向かって、赤子が刺さった通信機を投げつける。
カーモスイットはナイスキャッチ。触肢で受け止めた。
「びーーーびぃいいいいいいっ!!」
「………」
カーモスイットは、まったく赤子には反応を示さない。
明らかにおかしい状況であるにもかかわらず、彼らはそれを異常だと感じないのだ。
このことからカーモスイットは聴覚ではなく、触覚によって物事を判断していることがわかる。
普通の触覚器官も多少はあるだろうが、『念糸』とほぼ同じ構造の『思念糸』によって互いにやり取りをしているのだ。
そんな彼らにとってみれば、赤子よりも通信機の電波のほうが特別な存在に映っていることだろう。
そして赤子を受け取った蜘蛛が、即座に亀裂の底に降りて持ち帰ろうとする。
「行け! くいつけ! お前たちの跡取りが奪われたぞ! 取り返せ!」
アンシュラオンが蜘蛛の格好をしていたことも、見た目と臭いを相手に覚えさせ、敵であることを強く認識させるためだ。
それは見事に―――成功
「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!」
一部始終を見ていた鬼怒獣たちは怒り狂う!
他の個体も『激怒』スキルが発生し、ボスのグァルタほどではないが、毛を逆立てて突進していく。
凄まじい速度で鬼怒獣が迫り、撤退する蜘蛛の尻に飛びかかった。
ドン グチャッ!
力任せに殴りかかり、易々とカーモスイットを叩き潰す。
彼らの攻撃手段は殴打がメインのようだが、素の攻撃力はBだ。ヤドイガニの装甲すら破壊することが可能である。つまりはマキと同等の攻撃力を持っていることになる。
スキルの『オーガファイター』も近接戦闘を行う際に補正が入るため、現在ではAに近い状態になっているだろう。そこに『激怒』が加わってパワーアップすれば、もはや技を使うマキにも匹敵する。
そう、ここにはマキが八十人いる。耐久力を含めれば、それ以上の脅威であろうか。
そんな猛獣たちに襲われ、カーモスイットたちは次々と打ち倒されていく。
だが、忘れてはいけない。彼らには『脱皮進化』がある。
胴体だけ潰されてギリギリ生き延びたもの、半身を破壊されてビクビクしていたものさえ、そのスキルによって黒い個体のカーバラモに進化するのである。
ただし、こちらもそれを見越して強い魔獣を連れてきている。
カーバラモたちも―――蹂躙!!
多少強くなった程度では、ナムタムオーガの突進を止めることは不可能だ。
鬼怒獣たちは怒りに任せて突っ込み、蜘蛛の群れごと押し込んで次々と谷底にダイブしていく。
ヒューーーンッ どさどさ ぶちゃーーっ!!
蜘蛛を押し潰しながら、鬼怒獣が谷底に到達。
命綱無しのバンジージャンプを決めてみせる。(綱が無いものは単なるジャンプである)
彼ら自身の身体も強靭であるし、蜘蛛がクッションになっているのでダメージはほぼない。
(怒りで我を忘れているせいもあって豪快だな。ボスは頭が少しは回りそうだが、他の個体は完全ガチムチ系か…)
実際のボディビルダーなどは頭が良く知性的な人が多い。そうでないと栄養管理ができず、見事な身体に仕上がらないからだ。
だが、魔獣は生まれ持った因子そのもので強くなれる。虎は鍛錬しないでも虎。頭が悪くてもムキムキになるのだ。
砲台蜘蛛も出てきたようだが、ナムタムオーガに囲まれて攻撃され、あっという間に肉塊になってしまった。
そんな状況でも鬼怒獣の赤子を巣穴に連れ去ろうとするのが虫型魔獣のすごいところだ。まったく何も考えず目的だけを達しようとする。
そして、それを追いかけて大空洞の中に入る鬼怒獣たち。ここまでは計画通りだ。