※この作品はR-18です。

【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了   作:ぷるっと企画@園島義船

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683話 「大空洞、第一階層制圧戦」

 

 鬼怒獣が大空洞に殴り込みをかけ、入り口周辺の蜘蛛たちをほぼ全滅させる。

 

 単体でもかなり強力な魔獣なので、これだけの群れともなれば凄まじい殲滅力である。

 

 

(このままいけそうだな。オレもそろそろ中に入るか)

 

 

 スゥと、アンシュラオンの気配が完全に消える。

 

 アーブスラットと接触した際にも使用した戦気術の『隠形(おんぎょう)』である。これにアンシュラオンの優れた移動術が加われば、そこらの魔獣では探知は不可能だ。

 

 鬼怒獣の赤子をさらった時も、これを使っていたからまったく気づかれなかったのだ。(追わせるために意図的に痕跡は残した)

 

 一方、思念糸を使うカーモスイットに対しては、これがあまり効かない。もともと探知型の魔獣であり、波動円すら見破るほど敏感である。即座に気づかれるだろう。

 

 しかし、今は極度の混乱状況だ。鬼怒獣が暴れまわっているので隠密行動も可能なはずだ。

 

 

(オレはラノアとの回線を辿れば、迷わず最深部にまで到着できるが、問題は突入するおっさんたちのほうだ。失敗すれば【犠牲】が出るな)

 

 

 この作戦の肝は『漁夫の利』にある。

 

 あくまで魔獣たちの同士討ちを狙うことに意味があるので、もし突入部隊が魔獣たちとの戦いに巻き込まれて三つ巴になってしまうと、まさに最悪の状況になる。

 

 それを回避するためには突入するタイミングがすべてだ。サナの安否にも関わるため、ここはガンプドルフを信じるしかない。

 

 

(おっさん、あとは任せるぞ)

 

 

 ラノア救出のため、アンシュラオンが先行して大空洞に突入。

 

 

 

 

  ∞†∞†∞

 

 

 

 

 亀裂地上部、DBD隊。

 

 

(すごいことになっているな)

 

 

 ガンプドルフが術具の双眼鏡を使い、遠くから状況を確認する。

 

 ここからでは角度的に亀裂の底は見えないが、鬼怒獣が蜘蛛たちごと谷底に落ちていったのは見えた。

 

 もし自分たちが単独で突入していたと思うと身震いする。あんな乱戦になっていたら間違いなく半数以上の死者が出ていただろう。

 

 

(少年が味方であったことを女神に感謝しよう。チャンスが訪れたのだ。絶対に勝ち取る)

 

 

「安全確認は?」

 

「問題ありません! 周囲に他の魔獣は確認されておりません!」

 

「偵察部隊はここに残り、引き続き哨戒を続けろ。もし魔獣を発見したら注意を引いて遠ざけるのだ。絶対に亀裂に近寄らせるなよ」

 

「はっ!」

 

「いくぞ! 突入部隊は亀裂の底に降りる!」

 

 

 ガンプドルフたちはトレーラーと輸送船を含む、ほぼ全戦力を連れて巣穴とは反対の南側の坂から底に下りていく。突貫工事で作った坂だが、もともとの地盤が強いので戦艦が通っても問題ないだろう。

 

 すでに亀裂の底に残っている魔獣はいない。

 

 ボスのグァルタの怒りは凄まじいらしく、徹底的に破壊し尽くしていったために蜘蛛たちは完全に沈黙している。残っているのは蜘蛛の死骸やら脱皮の抜け殻だけだ。

 

 それでもしっかりと周囲を警戒しつつ、巣穴の前に到着。

 

 

「遊撃隊はいつでも行けます」

 

 

 ゼイヴァーたち遊撃隊、およそ二十人が完全武装で準備を終える。

 

 誰もが精鋭ぞろいであり、今回の作戦においてキーマンとなる部隊だ。

 

 

「少年がラノアを使って調べた巣穴の見取り図はあるが、実際どうなっているのかまではわからん。細心の注意を払いつつ最速で戦艦に向かえ。可能ならばメーネザーたちと合流し、状況の説明と脱出の援護を頼む」

 

「了解しました」

 

「すまんな。一番危険な任務を任せることになる」

 

「それが私の役割です。この身が砕けようともかまいません。必ず任務を果たしてみせます」

 

「私が行くまで耐えてくれ。どんな状況でも必ず助ける」

 

「はっ!」

 

 

 ラノアをあえて拉致させたのは、戦艦の確認だけではなく、巣穴の構造を調べる目的もあった。

 

 それによって戦艦までの道のりはわかっている。ただしそれは蜘蛛が通った最短ルートであり、それ以外のルートがある可能性も否定できず、油断はできない。

 

 当然ながら先行する部隊が一番危険であり、ゼイヴァーであっても死ぬ危険性は十分ある。だが、それもすべて承知の上だ。

 

 

「我々主力部隊は魔獣たちと交戦しつつ、遊撃隊の援護だ。鬼獣が残っていた場合も安全のために討伐する。強敵だぞ。侮るなよ!」

 

「はっ!」

 

「トレーラー、突入用意!」

 

 

 続いてやってきたのは、キャンプにあったトレーラー。

 

 まず最初に突入させるのは人間ではない。DP1よりさらに強力な『DP2』という爆弾を大量に積載したトレーラーである。

 

 蜘蛛の数は、予想されているだけで十万だ。

 

 鬼怒獣の目的は赤子奪還なので、どんどん奥に入っていくと思われる。その際にどうしても取りこぼしがあるだろう。

 

 そして、巣穴攻略のためには後方の安全確保が必須である。そのために最初の大きなエリアである『第一階層』を完全制圧する必要があった。そこを起点にして奥にまで攻め込むのだ。

 

 ただし、これはまさにタイミングが命。

 

 鬼怒獣の位置次第では彼らにだけダメージを与えてしまい、肝心の蜘蛛が生き残る状況になってしまう。それでは意味がない。

 

 両者が入り乱れ、均等に配置されてから爆破しなければ効果は不十分となる。

 

 また、下手に爆発させて落盤が起こり、入り口が閉じられる可能性は避けねばならない。そのあたりは戦艦の砲撃やガンプドルフたちの攻撃によって壊せるが、迅速に脱出する必要があるため、できれば防ぎたい事故である。

 

 

「慌てるなよ。合図を出すまで待機だ」

 

「了解しました」

 

 

 ガンプドルフが合図を出すタイミングを計る。

 

 この合図によって相手側にもこちらの存在が明るみになる以上、ミスは許されない。慎重に巣穴をうかがう。

 

 

(久々に奮えてきたな。こんなときでも私はドキドキしている。そうだ。すべては少年と出会ったからだ。彼がここにやってきた時から、私の心はひどく高ぶっている。我々は戦争で負けたが、その心までは死んでいないのだ!)

 

 

 国を出てから感じていた湿っぽさ、通夜っぽさは、ガンプドルフの中にはもう存在していない。

 

 国の命運をかけた作戦だというのに、妙なワクワクが心の底から湧き上がってくるようだ。

 

 それを呼び覚ましたのは―――アンシュラオン

 

 あの少年といると荒野は絶望ではなくなる。無限の可能性を秘めた魅力ある土地に見えてくる。

 

 何かがある。何かが眠っている。だったら見つけて奪ってしまえばいい。そんな子供のような冒険心が刺激されるのだ。

 

 

(感じろ。時勢を感じ取れ。すべての流れの中にある活力を見い出せ)

 

 

 ガンプドルフは目を瞑る。

 

 自分の波動円では内部まで届かないし、そもそも蜘蛛に探知されるため、すべてを勘に頼る必要がある。

 

 今は昼間。太陽が昇り、ジリジリと大地を焦がす音さえ聴こえてくるようだ。

 

 一秒一秒がとても長く感じる。

 

 

(大気の揺らぎ。力の流れ。皮膚に感じる戦いの気配。感じろ。最適なタイミングを)

 

 

 神経が研ぎ澄まされると世界が静止したように感じられる。

 

 巣穴の内部でさまざまな感情が交錯し、激突し、バチバチと弾けている様子が浮かんでくる。

 

 

 息を、止める。

 

 

 身体全体、皮膚全体で戦況を感じ取る。

 

 今、蜘蛛は鬼怒獣に押されている。いきなり出現した謎の魔獣に対して、まだパニック状態にある。

 

 しかし、徐々に新しい進化個体も生まれてきており、その数の差もあって若干の均衡が生まれつつある。

 

 そこに爆炎。爆風。

 

 ボスのグァルタが持つ『炎嵐招来』スキルが発動。周囲を焼き尽くす。ボスが先陣を切ることで再び鬼怒獣が盛り返し、攻勢を強めていく。

 

 蜘蛛は赤子付き通信機を奥へと運ぶ。

 

 なぜか蜘蛛は獲物を巣穴の一番奥、女王がいるエリアまで持っていく習性があるようだ。

 

 鬼怒獣の前衛、およそ半数は、それを追ってさらに深部に突入していく。

 

 残った半数は、大量の蜘蛛に囲まれて応戦中。

 

 これはイメージだ。あくまで、なんとなく感じた気配だ。

 

 しかし、ルシアとの戦争によって培った司令官が感じた【勝機】だ。

 

 

(見えた! 今、命をかける!)

 

 

 

 

―――決断

 

 

 

 

「トレーラー、突入!」

 

 

 

 その合図と共に、トレーラーが一気に加速!!

 

 後部に取り付けられた術式反発式ブースターに点火。

 

 シュウウウウッ ドンッ!!

 

 圧縮された力が一気に解き放たれ、一直線に突っ込んでいく。

 

 巣穴から三百メートル先までは、ほぼ曲がり角のない一本道であることはわかっている。その先に目的の第一階層が存在していた。

 

 イメージが正しければ、今その空間で魔獣たちの戦いが起きているはずである。

 

 トレーラーは蜘蛛の死骸を蹴散らしながら直進し、壁に車体を打ちつけながらも止まらない!

 

 進む、進む、進む!

 

 トレーラーが進む!!

 

 その先には、まさにイメージ通りの光景!!

 

 

 蜘蛛と鬼怒獣が戦っている最後尾に―――激突!!

 

 

 ドーーーーーンッ!!! ボンボンボンッ!

 

 

 爆風が次々と周囲の魔獣を巻き込んでいく。

 

 蜘蛛はあまり身体が強固ではないため、近くにいた個体はバラバラになって消滅。少し離れていた場所にいた個体も、脚や身体の一部が吹っ飛ぶ。

 

 鬼怒獣に関しては数匹が巻き込まれたが、もともと肉体強度が段違いのために軽く火傷した程度で済む。

 

 だが、続いて二台目。

 

 進化しようと脱皮態勢に入った蜘蛛が、二度目の爆発で完全に吹っ飛ぶ。

 

 鬼怒獣も一撃目は耐えたが、二回目にして身体が破損する個体も見られた。

 

 

「遠慮するな! すべて使い切れ!」

 

 

 続いて三度目。四度目。

 

 絶妙なタイミングで時間をずらし、連続して突っ込む爆破トラクターの前には、彼らも対抗は難しい。

 

 次々と内部で爆発が起き、場は混沌としていく。

 

 そうして計八台、残っていたすべてのトラクターを使い切る。

 

 

「重装甲部隊、突入!」

 

 

 ここでガンプドルフを先頭にして、主力部隊の重装甲兵たちが突入。

 

 中は暗く、おおよそ人間が戦うには不向きな場所であるが、移動しながら照明弾を撃って内部を照らし、後続が灯りを設置することで対応。

 

 その間もガンプドルフたちは走り続け、爆発現場に到着。

 

 予想通り、爆破によって大部分の魔獣は吹き飛び、息絶えていた。かろうじて生き残った蜘蛛も、繭状態から進化するためには三十秒という時間を要する。

 

 そんな隙をこの男が与えるはずがない。

 

 

「残存兵力を一気に蹴散らせ! この場を制圧する!」

 

「おおおおおおおお!」

 

 

 屈強な騎士たちが、圧倒的な攻撃力と制圧力を駆使して魔獣を一掃していく。

 

 

(完全に機先を制した! これならばいける!)

 

 

 戦いにおいて奇襲は極めて大きな効果を持っている。特に相手が状況を理解できない程度の魔獣ならば、効果は抜群。

 

 いきなりやってきた人間に対して動揺を隠せない様子が伝わってくる。しかもこの人間たちは戦うことに特化した軍人だ。

 

 蜘蛛を蹴散らし、鬼怒獣も叩き潰す。

 

 ナムタムオーガは強い種族だが、すでに爆破で体力の半分以上を削っており、最大の武器である腕を失った個体もいる。

 

 鍛えられた騎士が数人で囲めば、倒すことはそう難しくはない。これも奇襲が成功した効果である。

 

 何の関係もない鬼怒獣にとってはとばっちりだが、蜘蛛に一度やられた奇襲をやり返す快感はあったはずだ。騎士たちもやる気に満ち満ちていた。

 

 その結果、面白いように『掃討』が進んでいく。

 

 

 だが、魔獣を侮ってはならない。

 

 

 大量の蜘蛛が、無数にあいた『横穴』から這い出てきた。敵の増援である。

 

 アンシュラオンが調べたのは、だいたいの間取りであって、こうした横穴の存在までは把握できないのだ。

 

 また、鬼怒獣も蜘蛛を最優先の敵としているが、仲間を殺されたために人間も敵だと認識。随所で懸念されていた三つ巴のような状況が発生する。

 

 これは致し方ない。敵対者同士、どうしても避けられない戦いもある。

 

 ナムタムオーガの乱撃。ところかまわず腕を振り回し、周囲のすべてを破壊する。その一撃は、武人が振るう大型ハンマーに匹敵。

 

 盾を構えた重装甲兵すら―――吹き飛ばす!!

 

 

「ぐっ! 怯むな! 押せ押せ押せ!!」

 

「後ろから援護だ!! けっして退くな!!!」

 

 

 ここで彼らの普段の訓練が生きていく。吹き飛ばされた騎士を後続の仲間二人がカバーし、支え、押し、強引に立ち上がらせる。

 

 それから今度は三人がかりで突撃していく。

 

 何度弾かれても諦めず、前だけを見て突っ込む。これこそ重装甲兵の模範的な戦い方である。

 

 そうして粘り強く戦っていれば勝機も出てくる。

 

 

「どけ! 蹴散らす!!」

 

 

 ガンプドルフが、雷刃一閃。

 

 凄まじい雷の一撃が魔獣の群れに直撃し、大きな穴をあける。

 

 空間はかなり広いとはいえ、外よりは狭い。群れもより密集しているので与えたダメージは甚大だ。

 

 

「今だ! ゼイヴァー、行け!!」

 

「お先に失礼いたします! 遊撃隊、続け!!」

 

 

 その刹那の瞬間を見逃さず、ゼイヴァーたちが駆け抜けていく。

 

 彼らの目的は戦艦奪取。その任務達成のためならばガンプドルフさえ囮に使う。これが軍人の動き。訓練によって鍛えられ、死する覚悟すら決めた者たちの戦い方だ。

 

 

 数分後―――第一階層、制圧完了

 

 

 

「兵士たちは蜘蛛にとどめを刺していけ! 生き残っていると厄介だぞ!」

 

「はっ!」

 

「ミーゼイアのトラクターを入れろ! 魔人機を出す! ここを基点にして一気に進むぞ!」

 

 

 入念に蜘蛛を排除してから輸送船を招き入れ、素早く臨時キャンプを張る。

 

 ここからどんどん弾薬や爆弾を供給し、全戦力で圧し込んでいくのだ。まさに総力戦である。

 

 

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