※この作品はR-18です。

【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了   作:ぷるっと企画@園島義船

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684話 「大空洞、白き英雄の道筋」

 

 ガンプドルフが第一階層を制圧した頃、蜘蛛の皮を被ったアンシュラオンは、大空洞内部の壁を忍者のように走っていた。

 

 隠形で気配を完全に殺し、蜘蛛の思念糸が『視える』自分にとっては、慎重に動けば監視網の突破は難しくはない。

 

 しかも現在は、大混乱のさなか。

 

 この状態では蜘蛛たちの連絡網は完全に『混線』し、味方同士の連携も上手くいっていないようだ。

 

 

(ラノアの視点では、まだ女王蜘蛛は動いていない。巣穴にこれだけの敵が入っていることは、糸を使えば簡単にわかるはずだ。それでも動かないのはなぜだ? 虫型だからあまり危機感がないのかな?)

 

 

 たしかに虫型魔獣は意外と無防備なところがある。巣穴に敵が入り込んでも、人間から見ると緩慢な対応をしているように映ることが多い。

 

 単純に知能が足りていないせいもあるだろうが、巣穴に緊急時の脱出口を作っている種族もあまり見かけないので、そのあたりは彼らの欠点といえるだろう。

 

 

(だが、ここの蜘蛛は完全な統率の下で動いているはずだ。やはりこの状況は女王の『無関心』によって生まれているのかもしれない。つまり、この程度はまだ危機的状況ではない、ということだ)

 

 

 ラノアとの対応を見る限り、女王の知能はそこそこ高い。少なくとも卵を守るために防衛を強化することくらいはするはずだ。

 

 それをしていないのは余裕の表れなのだろうか。あるいは当人が最大戦力である以上、卵から離れたくないだけなのかもしれない。

 

 どのみち他の蜘蛛は女王の手駒にすぎない。いくら死んでもまた産めばよいので消耗戦だけは避ける必要がある。

 

 

(まあいい。どうせ戦艦から女王を引き剥がす必要があるし、ラノアがいるから『第十五階層』には行くしかない。着いてから考えればいいさ)

 

 

 アンシュラオンが作った地図には、入り口の第一階層から女王のいる第十五階層までが描かれている。

 

 構造としては【蟻の巣】に近いだろうか。

 

 随所に階層と名付けた千~二千メートル四方の巨大な空間が存在し、それをやや細めの通路で繋いでいる構図だ。

 

 通路も細めとはいえ軽く幅三百メートル以上はあるため、最低でも女王が獲物を抱えて通れるサイズにしているのだろう。

 

 予想以上に巨大な巣穴である。あの亀裂はあくまで入り口にすぎず、地下に巨大な空間が広がっていたというわけだ。

 

 ただ、驚くべきことではない。荒野に生息する魔獣の多くは基本的に地下に巣穴を作っている。この厳しい環境下では、鬼怒獣のように地表で堂々と暮らすほうが珍しいのである。

 

 

 アンシュラオンは、そのまま駆け抜けて第六階層に突入。

 

 ナムタムオーガ・グァルタ〈鬼怒天獣〉は見えない。怖ろしい突進力で、まだまだ先行しているようだ。

 

 

(オレが選んだとはいえ、たいした魔獣だ。ボス単独でも絶対に取り返すつもりでいるな)

 

 

 ボスが先陣を切って突っ込んでいくものだから、取り残された部下の親衛隊をちらほらを見かける。

 

 それでも鬼怒獣は群れで生活する魔獣だ。群れの存続を第一に考えているからこそ、残されたオーガたちは恨みもせず淡々と戦っていた。

 

 逆に取り残された鬼怒獣がいるからこそ、長い混沌とした列が出来て、それによって蜘蛛の連絡網の遮断ができているのだ。

 

 ゼイヴァーたち遊撃部隊もあとから来るはずなので、この均衡が長引いたほうが人間側にはありがたい。

 

 

(あまり早く到着しても相手を警戒させるだけだ。できればボスが突入した瞬間を狙いたいな)

 

 

 グァルタが戦艦のエリアに突入したと同時に侵入し、混乱に乗じてラノアを助け出す予定だ。場合によっては赤子を再び確保し、グァルタと女王蜘蛛を戦わせたいとも考えていた。

 

 しかしながら、すべてが計画通りとはいかない。ここで悪い予感が当たる。

 

 

 蜘蛛がさらに―――進化

 

 

―――――――――――――――――――――――

名前 :カーネジル・スパイダー〈石喰戦闘強蜘蛛〉

 

レベル:99/99

HP :3800/3800

BP :680/680

 

統率:B   体力: B

知力:E   精神: D

魔力:D   攻撃: B

魅力:F   防御: C

工作:C   命中: C

隠密:D   回避: C

 

☆総合: 第三級 討滅級魔獣

 

異名:石喰い強兵士蜘蛛

種族:魔獣

属性:土、岩、毒

異能:集団行動、毒液放射、脱皮再生、脱皮進化、糸放出、思念糸、鉱物喰らい

―――――――――――――――――――――――

 

 

 第七階層を過ぎ、ちょうど巣穴の中盤に差しかかった頃、蜘蛛の進化に変化が見られた。

 

 今までの蜘蛛はカーバラモで終わっていたが、この層にいる蜘蛛たちはカーバラモの上位種へと変化を遂げていたのだ。

 

 身体はカーバラモより一回り以上大きくなり、触肢も鋭く大きく、槍というよりはランスと呼ぶに相応しい立派な造りになっている。

 

 黒い身体に白い縞模様が特徴的なので、ついついヤブ蚊を思い出してしまうかもしれない。

 

 

(HPも攻撃力もワンランク上がっているか。かなり厄介になってきたな。やっぱりこの進化はおかしいって。これで『雑兵』だしね)

 

 

 この能力自体は、さほど脅威ではない。

 

 が、これで雑魚。使い捨ての雑兵なのである。それが一番怖ろしい。

 

 

(これだけで【一国の軍隊】に匹敵する。進化スキルを考慮すれば、DBDとほぼ同等の軍事力を持っていることになるな。そこらの小国ならば対抗すらできないだろう。唯一の幸運は、やつらが電波以外にはあまり反応しないことだ。これが獰猛な魔獣だったらやばかったよ)

 

 

 十万といえば軍隊でもかなりの戦力だ。軍備を拡充していたDBDにおいても魔剣士二人分の二個艦隊に匹敵する。

 

 当然ながら人間と魔獣なので数だけで測れないものはあるが、逆に言えばDBDの兵士よりも確実に強いため、軍隊より強い可能性もあるだろう。

 

 だが同時に、この進化には一つの法則があることがわかった。

 

 

(どうやら最初は絶対にカーモスイットから始まるらしい。それが順番に進化していく仕組みのようだ。つまりカーモスイットからいきなりカーネジルにはなれない。必ず進化の順を追わねばならないんだ。まあ、それくらいの縛りがないと反則だよな)

 

 

 ここはメーネザーと同様の見解となる。

 

 基本的にカーモスイットとして生まれ、防衛本能が刺激されるとカーバラモになる。そしてカーバラモが生き残れば、条件次第でカーネジルになる。

 

 カーバラモからカーネジルになる条件は不明だが、同じカーモスイットの中にも個体差や種類の違いがあるのかもしれない。

 

 この程度の接触では、蜘蛛の生態を完全には把握しきれないのは仕方がない。

 

 それを証明するように、隠密活動中のアンシュラオンに何かが飛んできた。

 

 シュン ガキンッ

 

 戦刃で叩き切ってノーダメージ。

 

 アンシュラオンだからこそ軽く防げたが、一般の武人ならば真っ二つになっていただろう。

 

 

「やれやれ、また新しい種類か」

 

 

 気づけば、アンシュラオンと一緒に壁を併走する蜘蛛がいた。

 

 波動円を展開できないので探知が遅れたが、この超人相手にここまで接近できる段階で危険な存在だとわかる。

 

 

―――――――――――――――――――――――

名前 :カーエッジ・スパイダー〈石喰暗殺蜘蛛〉

 

レベル:99/99

HP :2700/2700

BP :520/520

 

統率:D   体力: D

知力:D   精神: D

魔力:C   攻撃: B

魅力:E   防御: D

工作:A   命中: A

隠密:A   回避: A

 

☆総合: 第三級 討滅級魔獣

 

異名:石喰い暗殺蜘蛛

種族:魔獣

属性:土、岩

異能:単独行動、擬態看破、探知、暗殺、斬糸、糸罠、糸放出、思念糸、鉱物喰らい

―――――――――――――――――――――――

 

 

 大きさはカーモスイットより小さいが、触肢は鎌状に変化しており、顔も全体的に細長くなっていてカマキリを彷彿させる。

 

 アンシュラオンに追いついて併走していることから、単独での素早い隠密行動に長けた能力を持っているようだ。しかも『暗殺』スキルを持っているので、武人でいうところの暗殺者タイプであろうか。

 

 そして、ここであることに気づく。

 

 

(スキルから【進化が消えている】。なるほど、特化型になるともう進化ができなくなるんだな。それがその方向性における最終形態か)

 

 

 必然的に進化には限界がある。これがカーモスイットとしての種の限界値、いわば才能の限界といえる。

 

 これだけ急激に進化すれば身体にも相当な負担がかかると思っていい。おそらく寿命も他の個体より短いはずだ。

 

 だが、彼らは兵隊。その場で最大限の効果を発揮すれば十分なのだ。

 

 カーエッジは脚から糸を放出。それを巧みに操り、こちらに放ってくる。

 

 糸には鋭い輝き。避けた場所がすぱっと切り裂かれた。

 

 

(鉱物を食べているんだ。この『斬糸』も鋼鉄の剣と変わらない硬度なんだろうな)

 

 

 さきほどアンシュラオンが切り払ったものは、カーエッジが操る『斬糸(ざんし)』であった。これもカーモスイットにはないスキルである。

 

 カーエッジは執拗に斬糸を出して攻撃してくる。完全にマークされてしまったようだ。

 

 

「すでに発見されたなら、もう遠慮することはないな。ちょうどよかった。こんな汚い皮を被るのにも嫌気が差していたんだ。そろそろ強引に突破させてもらおうか」

 

 

 アンシュラオンは蜘蛛の皮を投げ捨て、命気刀を生み出す。

 

 併走しながら接近し、刀を振る。

 

 カーエッジは鎌で迎撃。剣撃を弾く。

 

 続けてアンシュラオンが連撃を繰り出す。これにもカーエッジは対応。

 

 カカカカカンと甲高い音が響き、高速の剣撃をすべてガードする。

 

 

「オレの剣撃を受けるとは、なかなかに速いな。だが、お前なんて敵じゃない」

 

 

 弾かれた刀が壁に当たった瞬間に軌道を変え、滑り込むように蜘蛛の真下に移動。

 

 再び壁に当てて強引に軌道変化させ、真上に切り上げる。

 

 不規則に動く刃にまったく対応できず、ズバッとカーエッジは真っ二つ。肉塊となって落ちていく。

 

 

「魔獣も案外素直だな。そりゃ反射神経だけで生きているようなものだ。斬り合いの技術があるわけじゃない。それが人間との差だよ」

 

 

 これもまた急激な進化を遂げた欠点の一つだ。素の能力が高く反応自体は素早くても、戦闘経験値が足りないためにフェイントに対応できないのだ。

 

 一方の人間は身体能力で劣るが、その代わりに技術を磨き上げて対抗する。それを伝えていくことで種全体として強くなっていくわけだ。

 

 だが、蜘蛛の脅威は単体での強さではなく、数にこそある。わらわらとカーエッジが集まってきて、アンシュラオンの邪魔をする。

 

 

(オレに敵視が集まれば、それだけ他の連中がやりやすくなる。これ自体は助かるかな。まあ、総数が多すぎるから焼け石に水かもしれないけどね)

 

 

 アンシュラオンはカーエッジを一匹ずつ倒しながら、そのまま一気に第八階層まで突き進む。

 

 

 

 

 その後ろを追いかけるのが、先行したゼイヴァー隊。

 

 彼らはできるだけ戦闘を避け、一直線に戦艦に向かっていたので、今現在は第五階層にまで進んでいた。

 

 常時壁を走ることはできずとも、槍や道具を使って空中を移動することはできる。アンシュラオンには及ばないが、さすが遊撃部隊といった機動力でぐんぐん進んでいた。

 

 

(あまりに広大な地下空洞だ。ようやく目が慣れてきたが、見れば見るほどおぞましい。ここは人が来る場所ではない)

 

 

 ゼイヴァーほどの武人からしても、そこはまさに異質な空間だった。

 

 至る所に蜘蛛がはびこり、蠢いている。これだけ攻撃されても蜘蛛の総数はまだ一割も減っていないに違いない。

 

 

(人間同士の戦いとは明らかに違う。これが魔境の戦い。そして、それに動じないアンシュラオン殿が一番怖ろしい)

 

 

 独りで平然と巣穴に侵入できる胆力がすごい。それだけ武に自信があるのだろうが、もはや人間の常識を超えているように思えた。

 

 アンシュラオンが慣れているのは、やはり経験の差だろう。べつに転生前から虫に耐性があったわけではない。火怨山での自然との共生が、あまりに激しすぎたのだ。

 

 虫や動物が嫌いな人間でも、触り続ければ慣れていく。ゴキブリだって駆除業者の仕事に就けば、首筋を這っていても「くすぐったいな」くらいにしか思わないものだ。

 

 

(今後この大地でやっていくためには、これを当たり前にするしかない。…ああ、そうだ。私はまだ死ぬつもりはないのだ。仇をとるまでは死ねない。しかし、ああいう生き方もあるのだな)

 

 

 ゼイヴァーにも死ねない理由がある。当然ながら家族を殺したルシアへの復讐だ。

 

 が、アンシュラオンを見ていると、そんな気持ちが少しだけ揺れ動く。

 

 復讐心を忘れてはいけないが、かといって自分は今ここで生きている。生きているのならば日々を楽しんでもよいのではないかとも思える。

 

 そんなことを考えた自分が可笑しくて、珍しくゼイヴァーが『普通に』笑う。

 

 

(不謹慎で怠惰な考えだ。そんなことで女性の安全が確保できるわけが……いや、できるのかもしれない。あの人ならば、それさえも成し遂げてしまえそうだ。覇王の弟子という肩書きではない。彼そのものから光が溢れているからだ。閣下が惹かれた太陽の光…か)

 

 

 アンシュラオンがこの先にいると思えば、こんな暗闇の中を突っ走っていても不安はなかった。それは他の騎士たちも同じで、前に前に躊躇なく足を踏み出している。

 

 ただ、彼らはアンシュラオンとは違う。

 

 ゼイヴァーがひらけた空間に跳躍した瞬間、何かに引っかかった気がした。本当に軽く、まさに蜘蛛の巣に顔が触れた時のような違和感だ。

 

 

 それは―――警報

 

 

 次の瞬間、横穴から大量の蜘蛛が湧き出てきた。

 

 

「しまった! 見えない糸か!」

 

 

 思念糸で出来た探知用のトラップである。

 

 これは術士の資質がないと簡単には見えないので、純粋な剣士のゼイヴァーでは見破ることは難しい。

 

 

「相手にするな! 振り払って進め!」

 

 

 ゼイヴァーたちは蜘蛛の攻撃を受けながらも足を止めない。

 

 ここで交戦状態に入ってしまったら一瞬で囲まれてしまう。そうなれば消耗戦になるし、仮に生き延びたとしても戦艦の援護ができなくなる。

 

 持ってきた衝撃爆弾のDP1を投げつけながら、必死に逃げる。

 

 しかし、ここは相手のホームタウンだ。

 

 その先の通路では、警報を聞きつけた蜘蛛がすでに待ち伏せていた。

 

 

(くっ! ここまでか! 応戦するしかない!)

 

 

 鬼怒獣が暴れまわったのはいいのだが、その分だけカーバラモが増えたことを意味する。

 

 目の前の蜘蛛たちの中にもカーバラモが混ざっており、現状の戦力で突破するにはやや難しい状況だ。

 

 ゼイヴァーが犠牲を覚悟した瞬間―――

 

 

 ブシャーーッ ズザザザザザッ!

 

 

 地面から水が噴出し、蜘蛛たちを串刺しにする。

 

 それだけにとどまらず、一瞬にして凍結させてから―――爆散

 

 少なくとも五十匹はいた眼前の蜘蛛たちを、一瞬で蹴散らした。

 

 

(これは…アンシュラオン殿の技か!)

 

 

 相手がトラップを仕掛けているのならば、こちらもトラップで対抗すればいい。

 

 アンシュラオンは移動しながら敵の警報を見つけるたびに、逆にカウンタートラップを仕掛けていた。

 

 この罠がすごいのは、ゼイヴァー隊の動きに合わせて発動していることだ。

 

 サナとの対戦や普段の鍛錬から技量や癖を見極め、移動する場所と距離を推測。もっともゼイヴァーが通りそうな箇所に集中して設置されていた。

 

 ラノア救出で忙しいから十分な援護はできない、と事前に言っていたが、こんな粋な計らいをするのだ。まだまだ余裕がある証拠である。

 

 そこに技量よりも何倍も優れた器の広さを感じさせる。

 

 

(もはや勝ち負けや優劣を超えている。私の狭量な考えなど、あの人の大きさには到底及ばない。やはりあの御仁は【英雄】だ。見えるぞ! 白き英雄が通った道筋が!)

 

 

 蜘蛛が思念糸を使うのならば、武人同士は戦気を通じて意思疎通を行う。

 

 アンシュラオンが仕掛けたトラップの残滓が煌く方向に、最善の道があると教えてくれる。

 

 

「我々には白き英雄が味方にいるぞ! 怖れるな! 一気に突っ込め!」

 

「おおおおお!」

 

 

 ゼイヴァー隊も士気を上げ、アンシュラオンを追うように深部に入っていく。

 

 蜘蛛たちとの戦いは、まだ始まったばかり。ここからが正念場である。

 

 

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