【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
(そろそろおっさんが詰めている頃だが、まだ遠いな)
アンシュラオンが第十階層を通り過ぎながら、戦況を見極める。
本来ならば術式を配置して味方の位置を特定するのだが、蜘蛛の性質上それができない。ならばガンプドルフ同様に戦いの感覚と気配で探るしかない。
幾万、幾十万と魔獣と戦い続けてきた経験が、大空洞の全体像を映し出す。
そこに蜘蛛の数、鬼怒獣の突進力、魔人機の強さ、騎士の機動力、サナたちの戦力の情報も加えて、より詳細な現在地を割り出すのだ。
(ガンプドルフの力なら強引に突破も可能だ。もう第三を過ぎて第四に入っている頃か。ゼイヴァーはすでに第八には到達しているだろう。まだ鬼怒獣たちも健在。サナたちが無茶をしても問題ない。あとは戦艦側がどう動くか。こればかりはわからないが…おっさんのお墨付きならば信用してみるか。そして、あの女王蜘蛛との戦いがあると想定して―――【二時間】が山場だ)
だらだら過ごせばあっという間でも、この大空洞に二時間もいるのは地獄である。
一分一分が果てしなく長く、いるだけで精神力が削られていく。人間が暮らす場所ではないので臭いも酷い。蜘蛛の死臭もあるので最悪の気分だ。
だが、この時間をどう使うかですべてが変わってくる。
アンシュラオンは、さらに深部に移動。
どんどん進み、第十二階層でナムタムオーガ・グァルタ〈鬼怒天獣〉と、お供の親衛隊十三頭を発見する。
BPはそこそこ減ってきているようだが、まだまだ健在。圧倒的なパワーで突き進んでいた。
(まだまだ使えそうだな。ただ、これだと少し時間が押す。援護してやるか)
アンシュラオンはモグマウスを十数匹生み出すと、目立たないように蜘蛛の死骸に紛れ込ませながら操作。
鬼怒獣に襲いかかろうとしているカーバラモ、またはカーネジルたちを背後から攻撃。完全に倒しはせず、触肢を切り落とすだけにとどめて離脱させる。
これくらいのダメージならば蜘蛛はまだ繭にならない。武器だけ奪ってしまえばたいした脅威ではないため、あとは鬼怒獣が勝手に蹴散らしてくれるだろう。
鬼怒獣は見た目通りに大雑把な性格で、探知能力はかなり低いため、モグマウスたちの動きにはまったく気づかない。
それでよく赤子を追えるな、と思うかもしれないが、今のところ巣穴が一本道なのが幸いしているようだ。
ただし、その点はいまだに疑問が残る。
(うーん、本当に一本道なのかな? こんなに広い巣穴なんだ。もっと別の入り口があってもよさそうだけど…)
魔獣の種類によって巣の構造はさまざまだ。出入り口をいくつも作るタイプもいるが、逆に敵に侵入されるリスクが増えるので、どちらがよいとは言い切れない。
今のところ巣穴の出入り口は一つだけだが、その入り口自体が一番の問題だ。
(【亀裂】の存在が気になる。オレが調べた分には、あれは何かが強引に力ずくで破壊したものだ。では、それまで蜘蛛はどうしていた? 亀裂が出来てから住処を作ったのか? こんなに大きな空洞を二年で作った? 女王のサイズなら不可能ではないが…本当にそうなのか? もし蜘蛛が最初からここにいて、亀裂によって表に出てきただけだとすれば、話はだいぶ異なるぞ)
蜘蛛が以前からここに住んでいたと考えると、全部がひっくり返る。
もしそうならば、他に出入り口がある可能性が極めて高い。単純に逃げ道が増えるのはありがたいのだが、何の情報もないルートだ。そこに戦力が隠されていたら作戦の成否に関わる。
しかし、今はそれを考えている余裕はない。グァルタが蜘蛛を蹴散らし、十三階層にまで突入したからだ。
(優先順位を決めろ。ラノアの救出とサナたちの安全が第一だ。次にガンプドルフと魔人機、その次に戦艦だ)
迷いは人を殺す。非情だが失敗したときのことも考えねばならない。
すでにやれることはやったのだ。あとは突き進むしかない。
アンシュラオンは目に付いた厄介そうな蜘蛛を排除しつつ、グァルタを誘導しながら、ついに最深部にまで到着。
最深部の第十五階層は、今まで以上に巨大な空間が広がっていた。ここが『女王の間』であり、同時に産卵場所なので巣の中心部といえる。
アンシュラオンは鬼怒獣と蜘蛛で渋滞する地面を避けて、天井を走って内部に侵入し、状況を確認する。
「フーーーフーーーーーッ!!」
さすがのグァルタも消耗したのか息が荒い。しかし、最愛の子供を見つけようと常に周囲をぎょろぎょろ見回している。
そして―――発見
赤子付きの通信機は、ラノアに近いエリアに無造作に置かれていた。
見れば、そこにはいろいろな人工物が山積みになっており、カラスがとりあえず光ったものを集めた状況に似ていた。
輸送船らしき残骸もあるため、やはり産卵のために大型の苗床を集める習性があるようだ。
「ビィイイーーー、ビーーーーー!」
「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!」
子供の声を聴けば、グァルタも元気百倍。今まで以上の咆哮を上げ、蜘蛛の群れに突っ込んでいく。
ただし簡単ではない。この階層にいる蜘蛛はカーネジルが多かったのだ。中には最終進化を遂げた個体もいる。
どうやら進化した個体は巣穴の奥に集まる習性があるらしく、そこで最期を迎えると穴に埋められるようだった。
普通に考えれば、より強い個体が女王を守るために集まるのかもしれないし、より人間的に考えれば、最期を女王の近くで過ごしたい欲求があるのかもしれない。
敵でなければ、なかなか興味深い魔獣だといえる。
(あれが女王か。久々に大型魔獣を見たな)
階層の右奥には、戦艦と共に女王蜘蛛がいた。白く美しい蜘蛛で、全長は二百メートルを超える。
印象的なのはたくさんの眼が付いていることだろうか。大きな三つの眼と、それを補佐する小さな眼が八十以上連なっており、ああやって鎮座しているだけでも全方位が見渡せるに違いない。
胴体や足の造詣も見事であり、顔周辺もすっきりしているため、蜘蛛の基準でいえば超絶美人である可能性もある。
そして、直接見たことによって『情報公開』が使用可能となった。
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名前 :ハイクイーン・バラ〈古代女王白蜘蛛〉
レベル:175/175
HP :47800/47800
BP :4580/4580
統率:SSS 体力: A
知力:AA 精神: SSS
魔力:AA 攻撃: S
魅力:AA 防御: A
工作:S 命中: S
隠密:D 回避: D
☆総合: 第二級 殲滅級魔獣
異名:白き古の意思喰い女王蜘蛛
種族:魔獣
属性:土、岩、毒
異能:集団支配、眷属支配、眷属融合、全方位攻撃、支配糸放出、強化思念糸、鉱物喰らい、外殻鉱物化、奥の手、術耐性、即死無効、毒無効、完全自己修復、自動充填、超越者の守護者
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(ギリギリ殲滅級ってところか。HPが五万を超えたら撃滅級に認定されていたかもしれないな)
このステータスを見てもアンシュラオンは驚かない。
なにせ火怨山では「SSS」が並ぶことも珍しくはないし、姉自体が「オールSSS」という化け物なので、それに見慣れてしまったのである。
(そこそこ強いが、生粋の戦闘タイプというわけじゃなさそうだ。こいつの能力の本質はスキルを見る限り、おそらく『精神支配』だろうな)
もともとカーモスイットは探知型の魔獣である。精神媒体である思念糸を使うことから、鬼怒獣のようにゴリゴリの物理型ではない。
その女王であるハイクイーン・バラ〈古代女王白蜘蛛〉も、どちらかといえば戦闘重視ではなく、スキルを見ればわかるように精神系の魔獣であろう。その能力を使って眷属の蜘蛛を支配しているのだ。
よって、単体では良い意味でギリギリ殲滅級、【群れならば文句なく撃滅級】といった評価が適切だろう。
(気になるのが最後のスキル『超越者の守護者』だ。超越者…か。たしか前文明の支配階級の人間だよな。ということは、こいつはそれくらい昔から生きている個体なのか? まあ、火怨山の魔獣も軽く一万年くらい生きていそうな連中ばかりだけどね)
魔獣の寿命については、いまだよくわかっていないところがある。
低級ならばいざ知らず、殲滅級以上になると捕獲も危険すぎるために研究も進んでいない。下手をすれば情報公開を持っているアンシュラオンが、世界で一番魔獣に詳しい可能性すらある。
そのうち気が向いたら魔獣図鑑でも販売してみるのも面白いかもしれない。意外と売れそうだ。
(ふーむ、もしこの女王が前文明から生きているのならば、この巣穴が前文明と関連している可能性も一気に浮上するな。それと同時に、オレの懸念も的中してしまうわけだが…今考えても仕方ない。まずはラノアの確保だ)
まだ女王は動いていない。
戦艦をがっしり捕まえて鎮座しており、表情一つ変えていなかった。蜘蛛の感情はわからないので、まだ危機感を抱いていないという意味だ。
(まだ余裕か。じゃあ、少し焦らせてやろうか)
アンシュラオンが、モグマウスを使って赤子付き通信機を持ち上げると、女王蜘蛛の近くにまで走らせる。
「………」
女王は少しだけぎょろっと視線を向けただけで、それ以上の動きはしない。
彼女にしてみれば、いくら電波を発していても小物すぎるのだろう。戦艦のほうが大事らしい。
しかし、女王にとっては価値がないものでも、グァルタにとっては違う。
「ビーーーーッ! ビーーーーッ!」
「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!」
目論見通り、グァルタが声がする方向に突進。戦艦のほうに軌道修正する。
極力戦艦にダメージを与えないで脱出させることが重要だが、完全に女王が張り付いているので、まずは切り離す必要があった。
特に苗床になっているのならば簡単には離れないだろうし、あの状態で暴れたら大きな損害を受けることになるだろう。何かで注意を逸らす必要がある。
(しばらくそっちで時間を稼いでもらおうか。ラノアは…いた、あそこだ)
ラノアを発見。
彼女は巨大ジュエルの近くの台座に、ちょこんと座っていた。突入してからも何度か話しかけていたので、彼女自身はまったく怯えておらず、いつも通りにのほほんとしていた。
天井を走りながらラノアの真上まできたら、ジャンプ。隣に一気に着地する。
「ラノア、迎えに来たよ。無事か? なんともないか?」
「うん、だいじょうぶ!」
「夢太郎も無事か?」
「ちゃんとごはんあげたから、げんきだよ」
「そうかそうか、それはよかったよ」
「…ギョロリ」
しかし、ラノアに触れた瞬間、初めて女王蜘蛛が強い意思をもってこちらを見た。さきほどの赤子付き無線機とは明らかに違う対応だ。
アンシュラオンと女王が、じっと見つめ合う。
(今回のことで、もう一つ謎がある。蜘蛛がラノアを狙った理由だ。念話や念糸を使えるから狙ったにしても、どうしてラノアだけ『特別待遇』なんだ? ラノアは女王と会話したと言っていたが…)
女王蜘蛛から、こちらを探るように思念糸が伸びる。
彼女のものは『強化思念糸』と呼ばれるもので、通常よりも感度が高く、その分だけ干渉する力も強い。これを使えば人間を操ることも容易だろう。
(ここは一つ試してみるか。ラノアにできたのならば、オレにだってできるはずだ)
それに応えるように、アンシュラオンも念糸を伸ばす。
たいした考えもなく軽い気持ちでの行動であったが
二つの糸が接触すると―――光が弾けた
(ぐっ……なんだ…!? これは…サナにスレイブ・ギアスをはめた時に似ている。だが、指向性が反対だ…)
サナの時に起こった現象は、現在から未来への流れ。
一方のこの光は、現在から過去へ光が遡っていく。
あまりに膨大な量のため、見えたのは鮮烈なイメージが残っている部分のみだ。
産まれたばかりの白い蜘蛛の目の前に、【一人の女の子】が現れた。
全身が光り輝いているのは、その膨大な魔素が周囲に干渉しているからだろう。
彼女はまだ小さかった蜘蛛を抱き上げると優しく撫でた。蜘蛛自体は撫でられることに特段の感情は抱かなかったが、彼女から溢れる愛情は理解できた。
女の子から『糸』が出てくる。蜘蛛も糸を出して、絡み合う。
―――〈今日からあなたが、わたしを守るのよ。みんなはあなたたちのことを弱い魔獣だって言うけど、わたしはそうは思わない。きっと立派な『守護者』になるわ〉
蜘蛛は、その願いを受け入れた。
ほとんどの魔獣は強制的な支配を受けて、自我を失いながら淡々と役目を全うするが、彼女は違った。魔獣との共生を願っていた。
『彼ら』の中では、そうした考えを持つ者は多くはなかった。ただ、女の子の地位が高かったから好きなようにさせていただけだ。
この蜘蛛も、そんな戯れの中で選ばれた存在。しかし、少しだけ幸運な存在。
蜘蛛は女の子から力を与えられ、より強大な存在となり、この地の守護を命じられた。
すべては順調だった。巨大な都市がたくさん生まれ、首都を頂点として完全な支配を成し遂げていた。ここには繁栄しかなかった。
蜘蛛は幸せだった。彼女を守れることが誇りだった。約束したから。
光はそこで消えた。
幸せな記憶を守るように、壊さないように儚く消える。
「…お前…ラノアを守ろうとしていたのか? その子と…同じだから?」
「………」
「それが超越者? かつての人間は、すべてを思念で会話していたということか? テレパシー能力が進化していたんだな」
ラノアだけ特別待遇されていたのは、かつての超越者たちに似ていたからだ。
彼らは言葉を話すこともあったようだが、ほとんどのことは念糸や念話を媒介して意思疎通を行っていた。それはまさにロゼ姉妹とまったく同じだ。
(待てよ。逆にこうした能力があるってことは、セノアたちは超越者たちと何か関係があるのかもしれない。さすがに時間が経っているから、直接的ではなく【遺伝的】にだ)
たとえばアンシュラオンは念話を再現できるが、スキルとして持っているわけではない。あくまで技術として使っている。
しかし、セノアたちは生まれ持った能力として、ごくごく当たり前に使うことができる。ここに大きな差があるのだ。
(前文明が滅びたのは間違いない。遺跡もあるし、それを証明できる遺物もある。では、人間はどこに行った? 超越者たち全員が滅びたとは思えない。中には生き延びた連中がいたんじゃないのか? その末裔がセノアやラノアってことは十分考えられるな。遠いおとぎ話みたいなものだけどさ)
日本人がどこから来たのか、という話題にしても、さまざまな説がある。遺伝子的にそれを追った研究もよく見られるだろう。
この世界では最終的に女神に行き着くのであろうが、それまでの間は人それぞれ違うルーツを持っている。彼女たちが超越者の末裔である可能性は無いとは言い切れない。
(ともあれ、ラノアに対して敵意はないようだ。だが、逆にこのまま逃がしてもらえるのかどうかも怪しいな。戦艦は完全に奪われているし、このまま仲良くお別れってわけにもいかない。やはり倒すしかないか。オレには関係ないしね)
いくらドラマチックで感動的な逸話を知ったところで、所詮は他人事だ。しかも蜘蛛の思い出に浸るほどナイーブでもない。
相手が戦艦を無条件で解放し、安全に巣穴から出す気がなければ、どのみち戦うしかないのだ。
(ひとまずゼイヴァーたちがやってくるまで、この場を維持して―――)
と考えていた時だ。
キュィイイインッ
突如、巨大ジュエルが紫に輝いたと思ったら―――光が奔る!!
女王蜘蛛とのやり取りですっかり忘れていたが、目の前には例の巨大なジュエルがある。
明らかに異様なものだが、侵入した段階では起動しておらず、ただの鉱石と同じ。全部が終わってから調査すればいいとも思っていたくらいに雑な扱いであった。
それが光を放ち始め、弾けるように爆発的に広がる。
地面を伝う『波』は、振動しながら巣穴中に広がっていった。
―――〈人を排除しろ〉
―――〈人間を見つけたら殺せ〉
―――〈滅ぼし尽くせ〉
その声は、さきほど聴いた超越者の女の子とはまるで違う、怖ろしい怨嗟の感情に満ちていた。
「―――ッ!!」
「グググッ……グガガガッ!!!」
周囲の魔獣の様子がおかしい。蜘蛛は身体をびくびくさせて痙攣しているし、鬼怒獣のほうは明らかに苦しんでいる。
暴れ回り、自分自身の身体を叩き、大地に転がって、のた打ち回る。
それはボスのグァルタも例外ではない。
「ゴゴゴゴッ―――オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!」
身体中から激しい赤黒いオーラを噴き出し、目から理性が消えていく。
代わりに宿ったものは、ただただ【憎悪】。
人間に対する憎しみだけである。
(これは…まさか! 間違いない! このジュエルが術式の核だ!)
アンシュラオンが西方の荒野に出てから、ずっと違和感を感じ続けてきた大地の術式の正体、その核となるものが目の前にあった。