※この作品はR-18です。

【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了   作:ぷるっと企画@園島義船

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687話 「引き裂かれる作戦」

 

 巨大なジュエルが、美しい紫に輝いている。

 

 その美しい色合いとは対照的にドス黒い術式が展開され、周囲の魔獣たちに干渉を開始。次々と支配下に置いていく。

 

 それはあまりに複雑で巨大。何万といった情報術式の数列が表示され、その上から大地の精霊を使った元素術式の紋様が絡まり、『魔方陣』が形成されていく。

 

 近くで視るとなおさら圧巻。凄まじい量のプログラムが走っているのがわかる。

 

 

(これが術式の核。オレがずっと探していたものか。だが、こいつは今まで起動していなかった。…こうして見るとけっこう媒体が破損しているな。この一帯が安全だったのは『接触不良』があったからだ)

 

 

 荒野で出会った魔獣たちには『人間憎悪』があったが、この亀裂一帯の蜘蛛や鬼怒獣にはなかった。

 

 その理由は、この術式が何らかの理由で【一時停止状態】にあったからだ。

 

 停止自体の理由は謎だ。考えられるのは媒体の破損だが、かなり前に構築された術式だったので、劣化してエラーが出た可能性もある。もしかしたら亀裂が生まれた衝撃も影響を与えたのかもしれない。

 

 どちらにせよ術式が復活してしまったのは事実。こうなると今までのプランが裏目に出てしまう。

 

 蜘蛛たちがアンシュラオンに対して強い敵意を見せる。三つ目が赤黒く輝いているので術式の支配下に置かれたのだろう。

 

 鬼怒獣たちも蜘蛛との戦いをやめ、こちらに対して憎しみの形相を向ける。グァルタも真っ赤な瞳でこちらを睨んでいた。すでに子供を助けに来たことも忘れているようだ。

 

 精神術式は、親子の情すら簡単に断ち切るほど強い。強制的な支配なのだから当然なのだが、それだけ怖ろしさを感じさせる。

 

 魔獣が―――殺到

 

 密集、密着した群れが怒涛の勢いでこちらに流れてくる。

 

 

「ちっ、面倒なことになったな」

 

 

 アンシュラオンが自身とラノアの周囲、直径二十メートルを命気結晶で覆う。

 

 ガンガンッ ガンガンッ

 

 魔獣たちが壁を叩くが、さすがに命気結晶は硬い。こうしておけば敵が入ってくることはないだろう。

 

 

(困った事態ではあるが、これは逆にチャンスかもしれない。敵がこっちに集中すれば戦艦の周囲が空く…はずなんだが、女王は動かないか。あの様子は、もしかして術式に抵抗しているのか?)

 

 

 大地一帯に術式が展開されているのだから、女王蜘蛛だって影響を受けるはずだ。現に他の蜘蛛と同じように身体をびくびくさせている。

 

 しかし女王蜘蛛は、術式が発動した直後から強化思念糸を展開し、大地の術式の干渉を防ぐフィールドを生み出していた。

 

 時折目が赤くなったり黒くなったりするのは、人間でいえば歯を食いしばる行為と同じなのだろう。ギリギリのところで理性を保っているようだ。

 

 そのせいで逆に戦艦にしがみつく形になっているので、ますますアンシュラオンたちの思い通りにはさせてくれないらしい。人生とは厳しいものである。

 

 

(よくこんな化け物みたいな術式に抵抗できるな。さすが精神系の魔獣といったところか。…ふむ、女王からも同じ波動が出て相殺している。そうか。あの女王がこのジュエルを喰らっていたのか。強制支配という毒を取り入れることで抗体を作り出したんだ)

 

 

 生物には免疫機能が存在し、一度受けた毒素や病原菌に対して抗体が生まれる仕組みがある。それによって再度同じ症状になりにくくなるのだ。

 

 それと同じく、女王蜘蛛は自ら『汚染されたジュエル』を体内に蓄積することで防御術式を構築し、この大地の術式に対抗しているらしい。

 

 

(もし意図的なら、かなり知能が高い魔獣だ。しかし、女王も今まで操られていたとしたら、いろいろとややこしい問題が出てくるぞ。あいつが『超越者の守護者』だとすれば、この術式を作ったのは超越者以外の存在だということだ)

 

 

 前文明の人間が超越者であり、蜘蛛がその配下にあったとすれば、それを妨害し、違う理で支配する術式は前文明のものではないことを示す。

 

 あるいはソブカのようにクーデターを企んだ裏切り者の超越者がいて、権力を奪うために魔獣たちをけしかけた可能性も十分あるが、それでは自身も殺される危険があるのでリスクが高すぎる。

 

 いまだこうして術式が発動していることから、超越者以外の者が作ったと考えるべきだろう。

 

 

「……! ……!」

 

 

 女王蜘蛛は苦しみながらも、こちらに対して思念糸を伸ばしてくる。かつての主を思い出し、ラノアを助けようとしているのだろうか。

 

 

「ラノアはオレが守る。お前は抵抗を続けていろ。出ろ、クシャマーベ!」

 

 

 ラノアがキラキラと光ると、彼女の身体が大きな命気球に包まれる。

 

 その一部が形を変え、大きな『車輪型の盾』を構えた美麗な人型の存在を生み出す。

 

 闘人クシャマーベ。闘人操術で生み出した防御型の闘人だ。

 

 見た目はアーシュラとはまったく違い、女性的な流線系のフォルムで、氷の女神をイメージしてデザインしている。

 

 

「クシャマーベ、事前に出した命令通り、ラノアを中心に絶対防御を展開しろ。一匹たりとも近寄らせるな」

 

「イエス・マイマスター」

 

 

 クシャマーベが命気壁をすり抜けて外に出ると、車輪盾を回転させる。

 

 それに触れた魔獣が―――凍結

 

 一瞬でカチコチに固まり、回転を続ける盾によって粉々に粉砕されて塵と化した。鬼怒獣も蜘蛛も、死ぬ際は粉雪のように綺麗に輝いているのが神秘的だ。

 

 

「フフフフフフ」

 

 

 クシャマーベは氷の冷笑を浮かべると、いくつもの車輪盾を生み出して絶対防御陣を展開。近寄る魔獣をすべて凍結させ、死の塵に変えていく。

 

 盾が車輪型なのは、回転させることで凍気を拡大放射するためである。やっていることは拡盾と同じと思っていい。

 

 ちなみに喋っているが、これは擬似声帯を生み出したことによる『機械音声』と同じものだ。命令に対してはイエスと答え、敵を排除したときには笑うように作ってある。

 

 ただ、たまに命令なしでも笑うときがあるので、アーシュラ同様に生み出した瞬間から世界のデータに登録されて『一つの個性』となったようである。

 

 思えばこの段階から、アンシュラオンは新しい技を生み出していたのだ。(陽禅公は十二神将を生み出したが)

 

 

「ラノア、あいつは君の守護者だ。ちょっと怖いけど、絶対に守ってくれるから安心してくれ」

 

「うん。でも、あのおおきなくもさん…へいき? くるしそう」

 

「ラノアはあの蜘蛛が好きかい?」

 

「うん、きれい」

 

「そうか。助かるといいな」

 

 

 と言いながら、本心では別のことを考えていた。

 

 

(これだけの術式に抵抗していること自体が奇跡みたいなもんだ。どれだけもつかな。長年支配されていた痕跡は精神に残る。中毒症状と同じで、長ければ長いほど抵抗することはひどく難しい。おそらくは…もう駄目だろう)

 

 

 このままでは白い蜘蛛が自我を失うのも時間の問題だ。

 

 かといって、今すぐ目の前のジュエルを破壊することはできない。

 

 

(たまたま上手く止まっていたからいいものの、下手に刺激したら術式事故が起こるかもしれない。こんなものが爆発したら戦艦ごとオレも消し飛ぶぞ。しかもすでに漏電が起きているようなものだ。解除には慎重を期さないといけない。クシャマーベに防御は任せて、オレはこいつの解析を急ごう)

 

 

 接触不良の場所を特定し、もう一度停止させるのが現実的なのだろうが、この膨大な術式から破損個所を見つけるのはアンシュラオンであっても時間がかかる。まるで時限爆弾の起爆コードをいじる気分だ。

 

 

(おっさん、サナ、なんとか耐えてくれよ)

 

 

 

 

  ∞†∞†∞

 

 

 

 

 この変化の影響を受けたのは、当然ながらアンシュラオンだけではない。

 

 戦艦に向かっていたゼイヴァー隊も蜘蛛と交戦状態に入っていた。

 

 厄介なカーエッジたちに捕捉され、苦戦を強いられる。そこに他の蜘蛛も群がってくるものだから事態は最悪だ。

 

 

「隊長! この数では…!」

 

「すべての爆薬を使ってもかまわない! 強引に突破する!」

 

 

 ゼイヴァーたちは、ありったけの爆弾をばら撒いて対応するが、明らかに人間をターゲットにした蜘蛛たちに追い回される。

 

 前から後ろから、左右から上から蜘蛛が無限に湧いて出てくる。

 

 

(突然蜘蛛が好戦的になった! このままではまずい!)

 

 

 アンシュラオンが仕掛けたトラップを頼りに突破を続けるが、ゼイヴァーの脳裏に『最悪の事態』が浮かぶ。

 

 今回の作戦は、アンシュラオン、ゼイヴァー、ガンプドルフの三つの部隊による同時進行作戦だ。それぞれが混乱に乗じて別々の階層を移動している。

 

 これは魔獣同士を争わせ、人間に意識を向けさせないことで成立する作戦である。逆に人間だけが標的になった場合、分断されて各個撃破される可能性が一気に高まることを意味した。

 

 なまじ巣穴の奥に侵入しているものだから、もう戻る選択肢はない。このままでは絶対に死ぬとわかっていても前に突き進むしかない。

 

 

「走れ! 走り抜け! 今生き残るには、アンシュラオン殿と合流するしかないぞ! 後ろを振り向かずに走れ!」

 

 

 この命令が非情なものであることをゼイヴァーは知っていた。

 

 最後尾の騎士が蜘蛛に囲まれたのが見えたが、今は振り返らない。残された騎士もここが死に場所と全力で戦い、少しでも時間を稼いでから死ぬだろう。

 

 

(すまない! 必ず戦艦は取り戻す!)

 

 

 ゼイヴァーは最深部を目指して駆ける。

 

 

 

 

 こうなるとガンプドルフ率いる部隊も敵の攻勢に晒される。

 

 

「なんだこいつら! 急に争いをやめたぞ!」

 

「こっちに向かってくるぞ!」

 

「壁を作れ! 通すな! こんなものに呑まれたら全滅だ!」

 

「押せ押せ押せ!!」

 

 

 重装甲兵たちも敵の攻撃を凌ぐので精一杯。

 

 ゼイヴァーたちより防御力に優れているため損害は少ないが、死ぬことも厭わずに突っ込んでくる蜘蛛や鬼怒獣に対して防戦一方だ。

 

 

(これはまさか…最悪の事態が起こってしまったのか! なんて不運だ! 自分の運の無さが憎らしい!)

 

 

 ガンプドルフも事態の深刻さに気が付く。

 

 作戦を立てた身である。一番最悪なことも熟知していて当然だ。しかし、やはり起こってほしくなかったのが本音であろう。

 

 いつだって困難ばかりが降りかかる。吐き気がするほど最悪な気分だが、司令官である以上、思考を放棄するわけにはいかない。

 

 

(ここまで来て全面撤退はありえない。作戦だけは遂行する必要がある。そろそろ少年が最深部に着いた頃合だ。彼ならばこの状況を打開できるはずだ)

 

 

「私以外の全部隊は、第二階層まで引いて全兵力で場を死守しろ! 場合によっては亀裂にまで後退してもかまわん! 私はこのまま突き進む!」

 

「閣下だけではエネルギーがもちませんぞ!」

 

「やれるだけはやってみる。少年と合流できれば可能性はあるはずだ。必ずナージェイミアを連れて戻る」

 

「…閣下。わかりました。一時後退します」

 

「任せたぞ。サナ、お前たちも撤退だ」

 

「…ふるふる」

 

「ガンプドルフ様、サナ様はラノアちゃんを助けに行きたいのです! 一緒に行かせてください!」

 

「…こくり」

 

「ワガママを言わんでくれ。緊急事態なのだ。今は撤退が優先だ。君たちに何かあったら少年に合わせる顔がない」

 

「…ふるふる」

 

「そんなに首を振っても駄目なものは駄目だ」

 

「…ふるふる」

 

「いや、だからそんなに首を振っても…」

 

「…ふるふる」

 

「なんて頑固な娘だ!」

 

 

 サナは絶対に首を縦に振らない。ラノアを助けるまで動かないつもりだ。

 

 

「聖剣長、この娘の説得は無理だ。甘やかされて育てられているからな。だが、私も引くつもりはない」

 

「殿下、君もか」

 

「今ここで戻っても距離が開きすぎている。ならば全戦力をもって突き進むべきだ。それが合理的な判断だと思うが、違うか?」

 

「奥は危険だ。そちらのほうが多くの犠牲が出る」

 

「犠牲を気にするあまり勝負に勝つことを諦めてどうする! 勝負に勝てば全部が手に入る! 聖剣長、あなたが連れてきたあの男だってそう言っていたではないか! おこぼれで三割を掠め取りに来たわけじゃない。十割、全部を奪いにきたのだ! すべてを得るためにはすべてを賭けるのが道理だ!」

 

「………」

 

「聖剣長、わしからもお願いいたします。ここにいる全戦力を投入すれば、ゴールドナイトのエネルギーは節約できます。先行したゼイヴァーと合流することも可能。そのほうが生存率が高いと考えます」

 

「貴殿まで……わかった、進もう。ここで話している暇も惜しいからな」

 

 

 ここでガンプドルフは決断。

 

 当初の予定通り、ここにいる全戦力で最深部に進む。危険だが、さらに戦力が分散するほうが危ないという考えもある。

 

 ただ、それを提示したのがリッタスなのが面白い。

 

 

(ふっ、あの殿下が随分と言ってくれるようになった。彼も成長しているということか)

 

 

 ガンプドルフもリッタスの変化に気づいていた。以前のような自分の殻に閉じこもった刺々しさはなくなっており、いつの間にか人を導こうする気概が見え始めた。

 

 血筋的に本命はソフィア王女だが、彼という存在が今後のDBDに新しい風を吹き込むかもしれない。そんな予感がする。

 

 

「では、行くぞ! ここからは強行突破だ!」

 

 

 ガンプドルフたちは宣言通りに力を惜しまず、一気に速度を上げ、魔人機を中心に魔獣たちを蹴散らす。

 

 エネルギーの消費を最小限にするために、最初に魔人機が一撃を繰り出して敵陣を崩すと、あとは騎士たちに任せる。

 

 基本はバルドロスの魔石で地面を操作して分断。敵を寄せ付けなくする。もし進行方向に残っていたら騎士が敵を押し出し、サナたちが各個撃破を担当する。

 

 相手の攻撃は苛烈だったが、操られている分だけ統率が取れておらず、動きはバラバラ。これならば術式がないほうが怖いかもしれない。

 

 

 こうして順調に第十一階層にまで到着。

 

 

「思ったよりいけるではないか! どうだ、やってよかっただろう! 聖剣王国の騎士が蜘蛛ごときに負けてたまるか!」

 

「そんなにボロボロで余裕ぶっている場合か」

 

「ふん、お前だってボロボロだろうが」

 

 

 すでにリッタスはボロボロ。サリータも鎧と盾を三回取り替えている。

 

 それでも確実に最深部に近づいている感覚が、彼らの気持ちを支えていた。

 

 いける。なんとかやれる。そんな精神力だけでがんばっているのだ。

 

 だが、ここで異変が起きる。

 

 

「サナ様? どうされました?」

 

「…じー」

 

 

 サナの目が、新たに出てきた蜘蛛を観察している。

 

 蜘蛛などそこらじゅうにいるので珍しくはない。彼女があえて注目した理由があるはずだ。

 

 

 色が―――違う

 

 

 その蜘蛛は、カーモスイットのような焦げ茶色ではなく、やや赤みがかった色をしていた。見れば、形も少し違う。鋏角や触肢は大きく鋭いが、身体自体はカーモスイットより小柄である。

 

 アンシュラオンがいないので詳しい情報はわからないが、おそらくは【違う種類の蜘蛛】だ。

 

 そして、ここで最大級の災難が発生。

 

 

 ドゴーーーーンッ!!

 

 

 突如、ガンプドルフが乗っているゴールドナイトの足場が崩れる。

 

 

「な―――にっ!?」

 

 

 

 下から―――巨大な触肢が出現!

 

 

 それがガシッとゴールドナイトを捕まえて、地面に引きずり込む。

 

 魔人機の大きさは十二メートルはあるので、それを簡単に抱えられるほどの長さの脚。

 

 

「くっ! 引き剥がせん! なんてパワーだ! 魔人機を上回るのか!」

 

 

 しかも抵抗も許さないほどの超パワーを持った

 

 

 深紅の―――蜘蛛

 

 

 崩れた岩盤からちらっと見えた蜘蛛の目は、軽く五メートルはあった。

 

 そこから換算するに、この蜘蛛の大きさは百メートル以上はあるに違いない。もしくは女王に匹敵する大きさの可能性もある。

 

 ここでガンプドルフは一つの【盲点】に気づく。

 

 

(もう一匹…いたのか。雌がいれば【雄】がいるのは当たり前だが…ここでか! 私の不運もついに極まったな!)

 

 

 ゴールドナイトが地面の中に引きずり込まれていく。全力で雷を放出しているが相手は物ともしない。

 

 大地がアースの役割をして雷を放散させているのだ。この地層には金属も多く含まれるために、より電気を流しやすい。

 

 

「閣下!」

 

「私のことは気にするな!! 自分たちのことだけ考えろ!! いいか、お前たちは先に行け! 必ず少年がなんとかして―――」

 

 

 ゴゴゴゴゴゴッ ズザザザザザッ!!

 

 言葉も途中に、完全に地中に呑まれていった。

 

 たった一つの術式によって、作戦のすべてが切り刻まれ、反転してしまう。

 

 これもまた荒野の怖ろしさであった。

 

 

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