※この作品はR-18です。

【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了   作:ぷるっと企画@園島義船

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692話 「魔人の騎士 その3『共感視』」

 

(真面目な男だな)

 

 

 サリータはリッタスの本質を理解して、そんな印象を受けた。

 

 思えば今までもやっていることは愚直なだけで、特段おかしなことはしていない。明らかに無謀なことも意図してやっていたのならば馬鹿でもない。

 

 彼は力が無いことを知っているがゆえに、気持ちで勝負するしかなかったのだ。

 

 ただ真面目。ただただ真面目。

 

 たしかにアンシュラオンやソブカのような頭の良い者たちからすれば、要領の悪い男だが、そうすることしかできないのならば仕方ない。

 

 

「俺は力を手に入れる。結果を出す。そうしないと何も変わらない。聖剣とは悪を切り裂く正義のはずなんだ。そうでないと死んだやつらが報われないだろう」

 

 

 そして、夢見る少年のまま大人になった者。

 

 聖剣王国の騎士全般に共通することかもしれないが、おとぎ話や神話を聞かされて成長してきたため、心の中には聖剣への憧れが強く残っている。

 

 世間一般からすれば「単なる強い剣」だが、ここまで信仰を集めれば『象徴』になる。

 

 人は無意識のうちに象徴を求める。その下に集い、それを守るために死ぬことすら厭わない。

 

 

(自分に似ているのかもしれないな…)

 

 

 立場や状況は違えど、不器用に生きている点において二人は似ていた。

 

 

「ならば、絶対に上に戻るしかないな。まずはそれからだ」

 

「…笑わないのだな」

 

「他人の志を笑うほど、たいした人間じゃないからな」

 

「お前の…ほうはどうなのだ。その、どこで生まれたとか…」

 

「生まれも育ちも東大陸で、中南部の小さな開拓村の生まれだ。貧しい土地だったからな。そこでは村人全員が出稼ぎに出ていた。私も幼い頃から両親と一緒に街に出て働いていたものだ」

 

「なぜ傭兵になったんだ? 女の傭兵は珍しいだろう?」

 

「ある日、一人の【女傭兵】に出会ったんだ。それがきっかけだった」

 

 

 サリータが八歳の頃。

 

 両親が雇われていた商隊と一緒に長旅をしていた。商人は貿易商で、より遠くの都市に行けば行くほど利益が出るため、サリータ自身もこうした旅は何度か経験していた。

 

 当然、商隊は護衛として傭兵を雇う。

 

 中南部は北部ほど強い魔獣はいないが、弱い魔獣でも一般人からすれば脅威だ。また、野盗もよく出るため未開拓地域は非常に危険であった。

 

 その日は、まさにそんな災難の日だった。

 

 交通ルートを張っていた盗賊団に襲われ、商隊は大きな被害を受けた。

 

 盗賊団の数は多く、雇っていた傭兵の大半は殺されてしまった。もう駄目かと思った時、一人の女傭兵が飛び出していくのが見えた。

 

 彼女の名前は知らないが、女の傭兵は珍しいので顔は覚えている。

 

 赤い服と赤い髪が特徴的で、サリータたち子供の相手もよくしてくれた気立ての良い女性だった。

 

 彼女は女だてらに大きな剣を振り回し、数の劣勢を物ともせずに盗賊団を撃退。頭目は逃がしたが、こちらの死者の倍以上の敵を殺すことができた。

 

 だが女傭兵は、その怪我が元で死んでしまった。

 

 

「傭兵など所詮は金で雇われた者たちだ。中には逃げ出す連中もいる。まあ、そういった者たちは悪評が出回って仕事にありつけなくなるから、最終的には上手くできているんだが、その人は命をかけて戦ってくれた。守ってくれたんだ」

 

 

 盗賊に襲われているのに、彼女の背中を見ているだけで安心できた。

 

 それは彼女が、絶対に背中を見せないで前だけに向かっていったからだ。実際、身体の前面部は傷だらけだった。

 

 

 その姿が―――素敵だった

 

 

 逃げれば命は助かったかもしれないが、その代わり商隊は全滅していただろう。サリータも連れ去られていたかもしれない。

 

 

「あの時が私の人生の分かれ道だった気がする。眩しかったんだろうな。…あんな光景を見れば憧れないわけがないな」

 

「…だから傭兵になったのか。だが、それならば普通は、その傭兵と同じ武器を選ぶのではないのか? 大剣だったか?」

 

「そう…だな。普通はそうだろう。でもやっぱり…死んでしまったからな。できれば死にたくはないな。だから盾を選んだのだ」

 

 

 ベ・ヴェルと出会った時、ふとその女傭兵を思い出した。彼女もあんなふうに大きな剣を振り回していたからだ。

 

 だから気が合ったのかもしれない。互いに珍しい女傭兵同士でもあり、しばらく一緒に旅をしていた。

 

 グラス・ギースに来た直後に別れる結果になってしまったが、これも傭兵ではよくあることだ。後悔もなく、名残惜しさもない。

 

 自分は守るために『盾』を選んだ。その盾に相応しい場所を見つけたのだから。

 

 

「死にたくないから盾を選ぶか。思っていたより臆病なんだな」

 

「こう見えても女だぞ?」

 

「いやまあ…そうだが」

 

「女はやはり臆病な生き物だ。逆にそれだけ生き残りたい気持ちが強いんだろうな。お前が言うことも間違ってはいない。女はすぐに裏切る。嫌いになることもあるだろう」

 

「…お前は…あいつらとは違う。怖くても逃げない。媚びたりもしない」

 

「逆だ。怖いから逃げないんだ。一度でも逃げたら、もう立ち向かえないからな」

 

「お前も不器用なやつだな」

 

「それはお互い様だ」

 

「ケサセリア、死んだら負けだ。俺たちはこんなところでは死ねないぞ」

 

「ああ、わかっている。無駄に死ぬつもりはない。命ある限り、サナ様を守らねばならない」

 

「相変わらず忠誠心は変わっていないんだな」

 

「当然だ。誓いを立てたからな」

 

「そこがわからんな。それならば騎士のほうが向いていると思うが…」

 

「何を言う。すでに私はサナ様の騎士だ」

 

「…そうだな。ここまで貫ければ見事だ。お前は立派な騎士だよ」

 

 

 アンシュラオンに拾われ、サナに誓いを捧げた。

 

 死んでも彼女を守り抜くと決めた。守って死ぬと決めた。

 

 

 それは―――騎士の宣誓

 

 

 DBDの騎士たちが国家に捧げる忠誠と何も変わらない。

 

 むしろ個人に捧げられる分だけ、より濃く、より強いとさえいえるだろう。

 

 

(ああ、そうだ。他の誰かに認められる必要はないのだ。命を捧げる者に認められれば、それで満足なのだ)

 

 

 それがわかった瞬間、妙にすっきりした。

 

 本物の騎士団と出会って自己の在り方に迷ったこともあったが、騎士の本領は主従関係にある。サナと自分の関係こそが一番大事なのだと悟った。

 

 

 

「さあ、そろそろ行く―――」

 

 

 

 そう言って前方を見た時、遠くでゆらりと動く赤い輝きが三つ。

 

 一歩一歩、迷いなくこちらに近づいてくる。

 

 この印象的な光を忘れることはできない。けっしてランタンなどではない。

 

 

―――蜘蛛

 

 

 目に赤い光を携え、人間への憎悪を滾らせた紛れもない敵である。

 

 しかも最悪なことに普通のカーモスイットではなく、第三形態のカーネジル・スパイダーだ。

 

 

「こんなところで…!」

 

「お前はバルドロスを呼んでこい!!」

 

 

 すでにリッタスも立ち上がり、戦闘態勢に入っていた。

 

 

「この蜘蛛の種類からして、おそらく上から落ちてきた蜘蛛だろう。俺たちが進んだ距離と方角を計算すると、最深部近くに出来た穴の可能性が高い。合流するには好都合だ」

 

「だが、こいつを倒さないと進めないぞ」

 

「ああ、通常の蜘蛛ならばともかく、どう考えても勝ち目はないな」

 

「ならば、さっさと逃げるぞ!」

 

「二人で後ろを見せたら、それこそ二人とも死ぬぞ。俺が時間を稼いでいる間に早く行け!」

 

 

 リッタスが戦気を放出。

 

 それによって周囲が明るくなり、状況がより把握できる。

 

 敵の数は一匹。単独で動いている蜘蛛のようだ。

 

 

「一匹か。こいつらは仲間と連携して動くのがセオリーだ。やはり下の階層とは指揮系統が違うようだな。バルドロスがいれば十分勝てる相手だ」

 

 

 蜘蛛は思念糸によって互いに結びついており、連携し合っている。これこそが一番厄介な点であり、ここまで苦戦する原因にもなっていた。

 

 がしかし、上と下とは蜘蛛の種類が違う。近親種なのは間違いないが、別々に動いているようだ。

 

 

「さぁ、どうした。こい!」

 

 

 リッタスが挑発。剣をカンカンと壁に叩きつけて注意を引く。

 

 この蜘蛛は術式によって興奮状態にあるため、いとも簡単に食いつく。

 

 問題は、その速度。

 

 猛烈な勢いでランス状になった触肢が伸び、身体を貫こうとする。

 

 普通ならばリッタス程度の武人にはかわすことも難しいが、最初からよけるつもりならば話は別。

 

 飛び込むように跳ね、触肢を回避。

 

 髪の毛を掠めていったものの、上手く敵の真下に滑り込むことに成功。

 

 そして、口に向かって剣を突き刺す。

 

 

「生物ならば口の中は弱点だろう! 渾身の剣気をくらえ!」

 

 

 リッタスが剣気を放出し、蜘蛛の口内を切り裂こうとする。

 

 

 が―――バリンッ

 

 

 力を込めた瞬間、蜘蛛の鋏角にあっさりと破壊される。

 

 しかもそのままボリボリと食べてしまった。

 

 たしかに「くらえ」とは言ったが、本当に食べてしまうとは想定外だ。

 

 

「か、家宝の剣が!」

 

 

 これは哀しい。家宝を出した時の逸話はいったい何だったのか、と問いたくなるほどだ。

 

 しかし、これが現実。どんなに根性があろうが気合がこもっていようが、より強い直接的な力の前には無力なのだ。

 

 

「ええい、なにが家宝だ! だから三流宮家などと言われるのだ!」

 

「マッケンドー、どけっ!」

 

「っ!」

 

 

 リッタスが、反射的に横に飛び退く。

 

 そこに盾を構えたサリータが突っ込み、顔面に体当たり。盾で押し込む。

 

 

「な、何をしている! 逃げろと言っただろう!」

 

「馬鹿かお前は! 自分より弱いやつに守られるつもりはない! そもそも前に出て敵を防ぐのが重装甲兵の役割だ!」

 

「くっ!」

 

「マッケンドー、お前が走れ! 剣もないから身軽だろう! 早く百光長を呼んできてくれ! 長くはもたないぞ!」

 

「くそっ! わかった! 待っていろ! すぐに連れてくる!」

 

「ああ、待っている!」

 

 

 さすがに剣を食われてしまえば、本当に無力だ。

 

 リッタスもそのほうが生存率が高いと思ったのだろう。全力で走っていく。

 

 

(聞き分けがよいというか、このあたりの判断力はしっかりしているな。しかし、それこそ生きるということ。生きることを諦めないということだ! 自分も諦めないぞ!)

 

 

 ジュウウッとサリータが戦盾で相手を押す。

 

 蜘蛛がちょうど食べている時に突っ込んだので、相手も面食らったようで動きが鈍いのが幸いしている。

 

 

(ボムハンマーは…装填済み! いける!)

 

 

 休んだ時に準備していたため、爆破杭は補充済みだ。

 

 相手が面食らっている隙にボムハンマーを頭部に叩き込む!

 

 炸裂。

 

 杭が突き刺さり、爆発して頭部の一部が破損。

 

 その衝撃で大きな眼が一つ、どろりと落ちた。

 

 カーモスイットたちも地球にいる蜘蛛のように目の数は多いが、それらは思念糸の送受信に使っているいるため、主体はやはり大きな三つ眼である。その眼を一つ奪ったことは大きい。

 

 が、だからこそ相手の反撃も大きくなる。

 

 触肢が―――薙ぎ払う

 

 目を潰されたことに驚いたのか、反射で外敵を思わず振り払った。

 

 サリータは当然、戦気を放出しているが―――ドゴンッ!

 

 

「が―――はっ!!」

 

 

 吹き飛ばされ、壁に激突して呼吸が止まる。

 

 見れば、盾には大きな亀裂が入っていた。カーネジルの攻撃が「B」で強いこともあるが、今までのダメージの蓄積も大きい。盾もかなり限界に近かった。

 

 だが、もう予備ない。亀裂が入っても壊れるまで使い続けるしかない。

 

 

(もう一度ボムハンマーを叩き込めば、かなり弱らせることができる。倒す必要はない。バルドロス百光長が来るまで耐えればいいのだ。ならば―――)

 

 

 再度接近することは危険と判断し、ピストルグレネードを取り出し、発射。

 

 相手は動いていなかったので直撃。

 

 鋏角と触肢の一部を破損させる。

 

 

「やった! これならもう一発で―――っ!!」

 

 

 そうして盾の裏にある爆破杭を装填しようとした際、何かが飛んできた。

 

 カーネジルの触肢から発せられた糸がサリータに絡みつく。

 

 

「しまった! 普通の糸も出せるのか!?」

 

 

 思念糸とは違い、こちらは普通の蜘蛛と同じ移動用の粘着糸である。

 

 糸は放射状に撒き散らされ、盾や鎧にしっかりと付着している。非常に強靭な糸のため、押しても引いてもびくともしなかった。

 

 サリータはボムハンマーを諦め、術式ダガーを取り出して焼き切ろうとする。

 

 

 が、その前に―――突進!

 

 

 この糸は視力が落ちた蜘蛛が、相手の場所を見定めるための手段の一つでもあった。

 

 糸で相手の動きがすべてわかるため、まともに直撃!

 

 虫型でもあり、壁を登るカーネジルは重くはないが、それでも魔獣だ。人間とはそもそもの膂力が違いすぎる。

 

 その威力に盾が割れ、ビシビシッと鎧にまで亀裂が入った。

 

 

「こ―――のぉおお!!」

 

 

 強く圧迫されながらも、サリータは術式ダガーを突き刺す。

 

 狙ったのは、眼。

 

 もう一つの眼をダガーで潰す。この土壇場でも、こうした冷静な判断ができることは彼女の成長といえるだろう。

 

 だが、やはり単独戦闘は厳しい。もしここにサナがいれば、とどめの一撃を見舞ってくれただろうが、今は誰も追撃をしてくれない。

 

 蜘蛛の反撃。

 

 ガンガンガンッ ガンガンガンッ!!

 

 ダメージを与えたにもかかわらず淡々と攻撃を続けてくる。その無機質さこそ、以前感じた魔獣の気配そのものだ。

 

 サリータは何もできない。盾が完全に破壊され、鎧が壊れ、腕や腹、太ももが裂かれていく。

 

 唯一幸いなのが、この蜘蛛が人を食べないことだろうか。ならば死体はそのまま朽ちるまで放置されるのだろうか。埋める習性があるようなので、あるいは蜘蛛と一緒に埋められるのだろうか。

 

 

(何を馬鹿なことを考えているのだ! 蜘蛛と一緒に心中など御免だ!)

 

 

 いくらそう思っても現実は変わらない。蜘蛛は無機質に攻撃を続けてくる。

 

 アンシュラオンもサナもいない状態では何もできない。

 

 

(どうすれば…いい! 何ができる! 何を…したらいい。私はどうして……戦っている……のだ)

 

 

 死が迫り、サリータの戦気が萎(しぼ)んでいく。

 

 戦気とは、生体磁気だけで成り立っているのではない。もう一つの触媒である神の粒子を引き寄せるのは、当人の心だ。

 

 されど、この意思の力は制御が極めて難しい。

 

 不安、恐怖、失望、落胆。

 

 そういった考えが少しでも浮かぶと一気に神の粒子が離れていき、戦気の維持が難しくなっていく。

 

 だからこそ武人には闘争本能が必要なのである。ピンチになればなるほど魂を燃やす力が必要なのだ。

 

 

(騎士に…なる。サナ様の……戦友に…! だが、どうして……そう思ったのだ。なぜ、そこまでできる……そこまでしようと……どうしてあなたは…それができたのだ?)

 

 

 ふと脳裏に浮かぶのは、自分たちを守って死んだ女傭兵。

 

 彼女は死んで満足だったのだろうか。なぜ戦ったのだろうか。後味が悪いからか。仕事を成し遂げたかったのか。単に戦いが好きだったのか。

 

 どちらにせよ彼女が助けてくれた命だ。無駄にはしたくなかった。

 

 自分も充実感が欲しかった。生きている証が欲しかった。自分にも何かできることがあると信じたかった。

 

 だからここまでがんばれた。リッタスが言ったように、女が傭兵をやるのは大変なことだ。セクハラだって受けたし、いつだって男と比べられてきた。

 

 そんな自分だからこそ、アンシュラオンに拾われた時は嬉しかった。

 

 彼は自分を見捨てなかった。不器用な自分に戦い方を教えてくれた。何度も何度も丁寧に教えてくれた。

 

 サナも言葉こそしゃべらないが、自分を信頼してくれているのがわかった。

 

 なぜ彼女が自分を選んだのかはわからない。そして、なぜ自分が彼女を求めたのかもわからない。

 

 しかし、それが正しいと思った。

 

 

(サナ様……さな……様……さ……な………さま)

 

 

 次第に視界が暗くなっていく。これはまずい。このままでは本当に死んでしまう。

 

 視界の片隅に人影が見えた。リッタスとバルドロスだ。彼らはちゃんと駆けつけてくれたのだ。

 

 しかし他の蜘蛛と交戦しているようで、こちらにまでたどり着けないようだった。こんなに派手に戦えば、地下にいる蜘蛛たちも刺激してしまうのは当然だろうか。

 

 

「―――ケサセリア!!」

 

 

 リッタスが叫ぶ。

 

 あいつは思ったよりいいやつだ。人は表面だけではわからないと知った。

 

 だが、馬鹿だ。蜘蛛の尻を折れた剣で叩いているが、まったく効かない。馬鹿のふりをした馬鹿は、なかなかレアである。

 

 彼が戻ってきてくれたことは嬉しいが、やはり届かない。時間の経過とともに死が近づいていく。

 

 

(師匠……アンシュラオン……さま……)

 

 

 無意識にアンシュラオンを捜す。まだスレイブ・ギアスがかかっていないのに、まるで忠犬のように付き従う。

 

 それはやはり、好きだからだ。

 

 単純な異性としてだけの好意ではない。彼女の魂の渇望が、アンシュラオンという存在を欲するのだろう。

 

 それに気づいた瞬間―――感じる

 

 

(…?)

 

 

 ふわりと抱かれている感覚がした。

 

 何か大きく強いものに包まれているような安心する感覚だ。

 

 そして、その場に【もう一人】いることに気づく。

 

 白く輝く太陽のような輝き。その力強い魂の波動。

 

 

「そう……か。そうだった……のか」

 

 

 自分は独りではなかった。

 

 なぜ、アンシュラオンがここに来ないのか。いないのか。

 

 いる必要が、ないのか。

 

 それは、いつだって傍にいるからだ。

 

 「僕はいつだって傍にいるよ」などという、カップルの浮ついた言葉ではない。

 

 実際にアンシュラオンはサリータの中にいる。これだけ攻撃されてもまだ死なないのは命気があるからだ。

 

 しかし、それだけではない。

 

 

 

―――繋がっている

 

 

 

 アンシュラオンという【王】とサリータは、魂によって結びついていた。

 

 なぜ、ガンプドルフが王気にあそこまで強く固執するのだろうか。

 

 王は単に物質的に人を導く存在ではない。人と人の魂を結びつけ、新たなる進化を遂げる【霊的指導者】だからだ。

 

 王と彼女は一つの線で繋がっている。身体と心が繋がっている。

 

 だから、視える。

 

 今アンシュラオンは術式の解除を行っていた。彼にしては珍しく必死な顔つきだ。戦闘面ならばともかく術式は学んで日が浅い。遅れを取るのも致し方がないだろう。

 

 そんな彼の波動が、魂の絆を通じて伝わってきた。

 

 

(これは…アンシュラオン様の気持ち? 感情? 【記憶】なのか?)

 

 

 リッタスは、アンシュラオンを悪と評した。

 

 それは間違いない事実だろう。彼を構成する要素の中には、人間不信の負の要素が多分にして含まれている。大勢の人々に災難を与える者でもある。

 

 しかし、その根底にあるのは【哀しみ】だ。

 

 

(なぜ哀しいのですか? どうして? そんなに力を持っているのに―――あっ)

 

 

 サリータの中に『記憶』の一部が流れてきた。

 

 どこか知らない世界の戦争の記憶。空爆。銃撃。艦隊戦。多くの武人たちが何かのために戦う光景。中には竹槍を投げつけて戦闘機を落とす強者さえいた。

 

 この世界と似ているが、少しだけ違う世界の夢物語。

 

 そこでも多くの者たちが死んでいった。苦しみながら死ぬ者。嘆きながら死ぬ者。笑いながら死んでいく者。

 

 それを看取りながら、一人の男が激しく怒っていた。

 

 

 

―――フザケルナ!

 

 

 

「うぐっ!!」

 

 

 強い感情にサリータが押し潰されそうになる。

 

 まるで心臓を鷲掴みにされたような、激しい激しい感情の荒波だ。

 

 男は不条理に怒り狂っていた。怒りのままに敵を殺め続けた。だが、それでも満たされない。何も変わらない。

 

 

 

―――力が無ければ何も変えられない

 

 

―――力が欲しい

 

 

 

 それは一匹の獣。

 

 ソブカやプライリーラの中に潜んでいたものと同種の存在であった。

 

 

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