※この作品はR-18です。

【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了   作:ぷるっと企画@園島義船

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693話 「魔人の騎士 その4『魔人との同調』」

 

 獣は地の底で咆哮を上げていた。

 

 理不尽な理由で死んでいく者たちへの哀しみ。虐げられ、騙されている者たちへの哀れみで心が引き裂かれそうだった。

 

 彼の行動力の源は、あらゆる面で『哀しさ』であった。人一倍優秀で他者よりも周りが見えるからこそ、その哀しみがわかる。

 

 しかし、それ以上に【憤怒】が強かった

 

 獣は戦いを扇動する者たちのことを知っていた。裏ですべてを操り、国や民族を分断し、憎しみを植え付け、自らの利権だけを追及する者たちへの怒りに満ちていた。

 

 彼は力を欲した。あらがうために強引な手段を使って正そうとした。その詳細までは断片的な映像のため理解できなかったが、暗殺や拷問を含めた激しいものだったことがうかがえる。

 

 しかし、失敗した。

 

 多くの者たちは獣の行動を理解できなかった。彼が何のために戦い、誰のために血の涙を流したのか、まったくわからなかったのだ。

 

 それどころか歪められた情報操作によって、人々は簡単に流され、手の平を返し、怠惰となって尊厳を失い、国のために戦った英雄たちを罵倒さえするようになった。

 

 彼らが何のために戦ったのかを忘れてしまったのだ。いや、知っていたが認めるのが怖かったのかもしれない。

 

 守るためには手を血で穢さねばならない。それと同じことができない自分たちを弁護するために、守った者たちを罵倒することで自己肯定を図ったのだ。

 

 

―――愚かだ

 

 

―――救う価値もない

 

 

 獣がそう思ったのも当然のことだろう。

 

 人々はあまりに愚かすぎた。無知すぎた。無学すぎた。弱すぎた。吐き気を催すほどに邪悪で、脆かった。

 

 獣はもう彼らのために血を流すことはしなかった。見限ったからだ。そんな連中のために力を使うことを嫌った。

 

 獣はその後、静かに暮らした。

 

 彼が犯した罪も混乱期のドサクサに紛れて闇に葬ったため、誰もそのことを知らない。むしろ誰もが自分の愚かさを思い出したくないから、その時代のことは世間の話題にも上らなかった。

 

 そして、戦いを終えて国はさらに豊かになった。もともと強国だったがゆえに物に不足することはなくなった。

 

 だが、誇りは失った。

 

 規律を失い、目的を失い、さまざまな悪に蝕まれ、夢遊病者のように当てもなくフラフラする病人に成り下がった。善人であるほど報われない世界ができてしまった。

 

 武人の誇りであった刀さえ『廃刀令』によって失ってしまった。自身を守ることもできなくなった国家に未来はない。

 

 それはすべて『予定通り』。

 

 あの世界を牛耳っている者たちの目論見通りであった。

 

 

―――力があれば

 

 

―――他の何物にも支配されない力があれば

 

 

 友が死なずに済んだ。自分も翻弄されないで済んだ。人々も不幸にならずに済んだ。

 

 ただし、怒りは友を罵倒した愚かな者たちにも向いている。

 

 

―――愚者め

 

 

―――無能な人間こそ害悪だ

 

 

 そんな世界を選んだのは、ほかならぬ無知な人々自身であった。

 

 ならば自業自得。苦しみと痛みを味わって死んでいけばいいと吐き捨てた。

 

 すべてが馬鹿らしくなったまま、誰にも看取られずに獣は静かに死んでいった。

 

 彼の墓に残ったものは、ただ一本の刀だけ。銘も無い刃だけだ。されど、大勢の悪の血が染み付いた正義の刃であった。

 

 こうして彼は歴史から完全に消えていった。

 

 

(なんだこれは……夢でも見ているのか?)

 

 

 サリータは、あまりのことに言葉が出なかった。

 

 映画の宣伝のように一気に再生された『記憶』は、他人事のように見えながらも、まるで自分自身が体験したことのようにリアルだ。

 

 

 だから―――涙を流した

 

 

 その男の人生があまりにも『哀しみ』に満ちていたからだ。

 

 他人の哀しみを断ち切るために身を削って戦った彼の人生は、そのものが彼自身の哀しみで彩られていた。

 

 

(これほど他者にすべて捧げた人に対して、周りは何一つ応えなかった。これではあまりに報われない…。かわいそうだ)

 

 

 彼自身、誰かに何かを求めていたわけではないだろう。だが、誰からも理解されないことはあまりに『哀れ』だ。

 

 サリータは、獣のために涙を流し続ける。

 

 その想い、その強い共感が、さらに深い繋がりを生み出していく。

 

 獣の姿が―――重なる

 

 姿かたちはまったく似ていないのに、なぜかアンシュラオンとだぶったのだ。

 

 

(っ…なぜ…アンシュラオン様と? …いや、似ている……かもしれない。完全に同じではないけれど……色が似ている?)

 

 

 アンシュラオンの行動は獣とは正反対。真逆といってもよい。似ても似つかない。

 

 しかし、その根底にある魂の色があまりに似ていた。ただし、やはり同一ではない。その要素を持ったまま何か大きなものと混じり合ったような印象を受ける。

 

 それはまるで、溶けたアイスクリーム同士が分離できないほどに混じり合い、新しい一つのアイスクリームになったかのように。

 

 

 

―――〈記憶の粒子を辿ってみれば、こんなところに落ちていたのか〉

 

 

 ふと、声が聴こえた。

 

 いつの間にか目の前に誰かいる。

 

 

(誰…だ?)

 

 

―――〈ボクに名前はないんだ。って、また同じ説明をするのは嫌だな。通りすがりの『影』だと思ってくれていいよ〉

 

 

(影…? たしかに…黒いが…)

 

 

 サリータの前に『黒い影』が出現。

 

 あのまま去ったと思ったが、まだ残っていたようだ。

 

 もちろん、それには理由がある。

 

 

―――〈キミが見たものは、ボクが【管理している記憶】だよ〉

 

 

(幻…ではなく?)

 

 

―――〈そうだよ。実際に生きた人間の人生そのものだ。あれは現実に起こったことだよ。この星でのことではないけどね〉

 

 

(記憶の管理? そんなことが…できるのか?)

 

 

―――〈人の移ろいを記憶する者、それがボクという存在なんだ。人が進化するためにはボクみたいな存在も必要ってことだね〉

 

 

(言っている…意味がわからない)

 

 

―――〈うん、わからなくていいよ。キミは関係…なくもないか。だって、ここまで深く繋がってしまったんだからね。でも、驚いたよ。キミは他人のために涙を流せる人間なんだね。そんなに哀しいのかい?〉

 

 

(ああ、哀れ…じゃないか)

 

 

―――〈そうか。それも人間の美徳だね。キミみたいな人ばかりなら、もっと世の中は綺麗になるんだろうけどね。そうもいかないから『彼』も泣いていたんだ〉

 

 

(あの人は…誰だ? もしかして……)

 

 

―――〈同一人物じゃないよ。キミたちは知らないだろうけど【転生する魂は、以前の魂と同一ではない】んだ。だって、それだったら転生する意味がないだろう? でも、同じ霊の一部分ではある。インディビジュアリティーの中のパーソナリティーと呼ばれる存在さ〉

 

 

(…?)

 

 

―――〈簡単にいえば、彼であって彼でない者。ただし【本質】は同じ者。霊は巨大な意識の総体なんだ。その中の一部分が他の要素を取り入れて形になったもの、それが地上の人間だね。でも、それぞれに意識がある。本体の影であるボクに個性があるようにね)

 

 

(…??)

 

 

―――〈ふふ、困惑しているみたいだね。まあ、せっかく出会った縁だ。ボクに何かできることはあるかな? 何でも言ってごらんよ〉

 

 

(アンシュラオン様のもとに……サナ様のもとに……戻りたい)

 

 

―――〈そんな簡単なことでいいのかい?〉

 

 

(簡単…なのか?)

 

 

―――〈もちろんだ。だって、キミの中にはもう【力】があるじゃないか。彼と同じ力がね〉

 

 

(彼…? アンシュラオン様…と?)

 

 

―――〈さぁ、その心ともっと同調してごらん。彼とどうなりたい?〉

 

 

(わたしは…あの人を……助けたい。守りたい…)

 

 

 彼のほうが圧倒的に強いことは知っている。自尊心の強い彼は誰かに守られたいとは思わないだろう。

 

 しかし、それを含めて守りたいと思ったのだ。

 

 傷ついて倒れた獣を哀れむ心は、母性に近い感情だった。

 

 

―――〈【偉大なる母】の感情…か。ずるいなぁ、その愛を表現されたらボクは協力するしかないよ。いいだろう、その心があれば受け入れることができるはずだよ〉

 

 

 

 

―――〈その【魔人の力】を〉

 

 

 

 

「うっ!! がはっ!! ぐぼっ……ごぼっ……」

 

 

 サリータの意識が、ここで急速に回復。

 

 目覚めると同時に血を吐き出す。

 

 目の前には蜘蛛がおり、やはり自分を壁に押し付けていた。

 

 

(なんだった……のだ? 今のは…夢か?)

 

 

 すでに『影』は消えていた。記憶も曖昧で、すべてが夢幻のようにさえ思える。

 

 しかし、そんな目覚めの混濁すら許さないほどの強烈な熱量が、身体全体を突き抜ける。

 

 

「ううううっ!! ごぼっ!! がはっ!! あ…熱い!! 熱い、熱い、熱い、熱いぃいいいいい!! 身体がぁあああああ!! 熱いっ!!」

 

 

 まるで灼熱。自分の弱い部分すべてが溶かされ、燃やされ、燃焼していく感覚に満たされる。

 

 ドバドバと大量の血が、蜘蛛から付けられた傷から出ていく。

 

 それでも足りないと言わんばかりに、さらに皮膚がひび割れ、至る所から血液が外に噴き出していく。

 

 

「ケサ…セリア!? なんだ、どうなったのだ!」

 

 

 蜘蛛と戦っていたリッタスも、あまりの異変に目が釘付けになる。

 

 彼にそんな余裕があったのは、急に蜘蛛が止まり、意識をサリータの方向に向け始めたからだ。

 

 おそらくは魔獣の本能なのだろう。蜘蛛も異変を感じている。

 

 

(身体が…バラバラになりそうだ! 燃える! 燃えるうううう!)

 

 

 戦気を初めて出した時にも熱量が溢れる感覚があったが、それとはまったく異なる凶悪な性質のものだった。

 

 奪われ、侵食され、徹底的にズタズタに引き裂かれるような強いショックがサリータを襲う。

 

 まるで自分のすべてを否定するような感覚。人であることを忌み嫌う拒絶感が内部で暴れ回る。

 

 

(この感情は……あの人と…同じだ!)

 

 

 愚かな者を侮蔑の目で見つめる獣。

 

 世界を守れなかった者の怒りと失望、そこから生まれる圧倒的な暴力衝動。獣が叫び、求め続けた究極の破壊の力そのものだ。

 

 あまりの痛みと苦しみに全部を投げ出したくなる。耐えられない。痛い。苦しい。早く楽になりたいと思う。

 

 仕方ない。それが当然の反応だろう。こんな凶悪な感情は誰にも受け止めることはできない。痛いものは自然の摂理に背いている。すぐに捨てるべきだ。

 

 だが、彼女は決死の覚悟で踏みとどまる。

 

 

(駄目だ…拒絶したら……また独りになる…! 私は…あの人を放ってはおけない!)

 

 

 なぜそんなことを思ったのかは、わからない。

 

 単純に同情心かもしれないし、世の儚さと醜さに共感したのかもしれない。いつだって哀しみと痛みが溢れる世界に失望し、嘆いてきた。その心はサリータも同じだ。

 

 

 ならば―――【愛】

 

 

 もはやそう呼ぶしかない感情が、彼女の中に溢れた瞬間。

 

 

 世界が―――反転!

 

 

 外に力が出るのではなく内側に集まり、急速に新たなる細胞が培われていく。

 

 成り代わっていく。乗っ取られていく。

 

 自分自身が、破壊そのものになっていく!

 

 

 

「アアアアアアアア―――っっ!!!!」

 

 

 

 サリータから激しく禍々しい【黒いオーラ】が吹き上がる。

 

 血が止まった。傷が恐るべき速度で塞がっていく。筋肉が収縮し、再び身体が動くための力が与えられる。

 

 ぐぐっ ぐぐぐぐぐ ボギッンッ!

 

 黒いオーラに染まった彼女の手が、カーネジルの触肢を掴み―――へし折る!

 

 普段から石や金属を食べて体内に取り入れているため、この触肢は非常に硬い。

 

 そんな触肢をいとも容易くもぎ取ると、今度はそれを握って最後に残った眼に突き刺す!

 

 単に眼に突き刺しただけにとどまらず、頭ごと貫いて地面に縫い付けてしまう。

 

 カーネジルはびくびくと痙攣して動けない。

 

 

「わたしに…触れるな」

 

 

 蜘蛛に触れられているという激しい不快感が、サリータの中に満ちる。

 

 これは普段アンシュラオンが感じる他者への不信感と拒絶感だ。それがさらに増幅された状態なのだから、その嫌悪感は極限。

 

 鬱陶しそうに絡まった糸を引きちぎり―――

 

 

「どけっ!! 蜘蛛ごときがぁああああ!!」

 

 

 拳を握り―――ぶん殴る!

 

 

 今までならばたいしたダメージを与えられなかっただろう。それが拳ならば当然だ。

 

 

 が―――ボゴォオオオオオンッッ!!!

 

 

 放たれた拳は、さきほど突き刺した触肢ごと頭部を完全に破壊。

 

 押し出されたエネルギーはあまりに強大で、蜘蛛の身体の中を駆け巡り―――爆発!

 

 たった一撃でカーネジル・スパイダーが粉々に砕け散った。

 

 

「フゥウウッ…フゥウウウウッ! …アンシュラオン様…の……サナ様……のところに……」

 

 

 ぐちゃぐちゃになった蜘蛛を踏みつけながら、サリータがのそりと動き出す。

 

 それに反応したのか、止まっていた他の蜘蛛が一斉にこちらに向かってきた。

 

 そんな蜘蛛たちを不快そうに『赤い瞳』が睨み付ける。

 

 

「邪魔…を……するのか? この気持ちが…わからない…のか! あの人の気持ちが……ワカラナイノカァアアアアアアア!」

 

 

 向かってきた蜘蛛に対して、今度は蹴り。

 

 ドゴンンンンッ!! ぐちゃっ

 

 下から強く蹴り上げた足は、蜘蛛を突き抜けて綺麗に真上に上がる。

 

 こちらの蜘蛛は地下にいる赤いほうだが、バルドロスいわく「パワーならばこっちが上」の物理戦闘特化型だ。そんな魔獣を一撃で突き破る威力は明らかに異常である。

 

 しかし、異常で当然。強くて当たり前だ。

 

 今サリータの身体の中に巡っている力こそ、アンシュラオンの【魔人の力】。

 

 人類の最上位に君臨し、支配し、罰を与えるために用意された最強の破壊の権化。それこそが魔人なのである。

 

 その力を体内に取り入れた彼女は、かつての【戦罪者】と同じ状態にあった。

 

 魔人に力を与えられ、道具となった者が引き起こす現象の一つ、【魔人化】だ。その証拠に戦罪者が発した黒いオーラを身にまとっているではないか。

 

 がしかし、彼らとは決定的に違うことがある。

 

 【寵愛の度合い】だ。

 

 サリータは身内の中では序列最下位だが、アンシュラオンから直接の寵愛を受けている。他人から見れば『愛人』に等しい扱いを受けているのだ。

 

 そんな深い付き合いをしている者が、たかだか戦罪者と同格だろうか?

 

 否。

 

 この愛が同じであるはずがない! あろうはずがない!

 

 サリータの黒いオーラはどんどん膨れ上がり、彼女に力を与え続ける。

 

 

「どけぇええええええ!!」

 

 

 その力の前に、蜘蛛などただの雑魚。拳や蹴りで面白いように砕いていく。

 

 だが、これだけの激しい戦いをすれば続々と蜘蛛が増援でやってくる。蜘蛛の脅威は数の暴力だ。次々と襲いかかってくる。

 

 さすがにこの数が相手では、無手では不利である。

 

 

「盾が…欲しい。守るための…盾が」

 

 

 そう思った瞬間、彼女の左手に黒いオーラが集まって『黒滅盾』が生まれた。

 

 原理としてはアンシュラオンが日々使っている『戦硬気』であり、特段たいしたものではない。戦気を圧縮しただけの基本技だ。

 

 しかし、この黒い力こそが問題。

 

 盾に触れた蜘蛛の部位が、ごっそりと存在を掻き消される。最初から存在しなかったかのように消滅するのだ。

 

 サリータは盾を前に押し出し、突進。

 

 この状態になっても今までの鍛錬は忘れていない。逆に狭い通路が幸いし、猛烈な勢いで蜘蛛を蹴散らしていく。

 

 彼女が過ぎ去ったあとに残ったものは、かつて蜘蛛であった肉塊のみ。圧倒的な力で潰された魔獣の死骸だけだった。

 

 

「サナ…様……サナ様……さなさまのところに…行かねば。あの御方がもっとも愛されている…わが主のところへ…!」

 

 

 突き進むサリータが考えることは、ただただ主人の下に馳せ参じることだけ。

 

 

 なぜならば彼女は―――魔人の騎士

 

 

 魔人に愛された少女を守るために生まれた存在だからだ。

 

 

―――――――――――――――――――――――

名前 :サリータ・ケサセリア(魔人化)

 

レベル:?/?

HP :12880/12880

BP :2530/2530

 

統率:D   体力: AA

知力:E   精神: AA

魔力:A   攻撃: A

魅力:B   防御: S

工作:B   命中: B

隠密:E   回避: C

 

【覚醒値】

戦士:5/2 剣士:5/2 術士:0/0

 

☆総合:第五階級 王竜(おうりゅう)級 魔人

 

異名:魔人の騎士

種族:人間

属性:滅

異能:絶対忠誠心、身代わり、物理耐性、銃耐性、術耐性、即死無効、毒無効、自己修復、精神耐性、魔人の騎士、暴走

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