【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
〈現在地、把握。835メートル上方に巨大な空間を確認。最深部の第十五階層と判断します〉
「随分と地下まで引っ張られてきたな。だが、目的地がこの真上ならば話は早い。こいつを倒して少年たちと合流するぞ」
〈途上にいる蜘蛛たちがソナーに反応しません。提供された波動データと74%のパターン照合率を確認。術式発動確率88%以上。すでにイレギュラーな状態に陥っていると推測します〉
「少年に任せれば大丈夫だ。問題はないさ」
〈あなたの行動原理に多少の疑問が残ります。なぜ初対面の人間に対して、そこまでの信頼が置けるのでしょうか? あなたも一時期、人間不信に陥っていたと記憶しております〉
「それはもう過去だ。言葉ではない。ハートで感じろ。お前にも心があるだろう?」
〈現状では理解不能です〉
「頭の固いやつだな。まあいい。ここまで来たのだ。もう考えることはやめた。面倒なことはメーネザーに任せて、私は戦うことで道を切り開く!」
ゴールドナイトが素早く左右に動きながら蜘蛛を牽制。
そこから鋭い斬撃を繰り出すが、紅蜘蛛の触肢が薙ぎ払われる。
この巨体だ。触肢の幅もゴールドナイトの胴回りと同じくらい太い。一撃でも直撃すれば相当なダメージを負うだろう。
ゴールドナイトは跳躍。剣でガードしながら器用に空中に逃げる。
そこに『爆破糸』。
これは糸を破裂させて衝撃波を生み出すもののようで、火薬等は使っていないが魔人機でさえ吹き飛ばす威力だ。そこらの魔獣ならば衝撃でバラバラになるレベルである。
それを周囲に多数展開できるだけでなく、さらに『迷彩化』させることも可能らしい。完全に透明にはならないが周囲の光を反射するので、知らなければ見極めるのは難しい厄介な代物だ。
だが、魔人機に搭載されている複数のソナーが糸を探知。ばっちり見えていた。
「糸は任せる!」
〈了解〉
ミーゼイア(AI)が胸に付いてる副砲のガトリングガンを発射。的確に命中させて誘爆させる。
AIの優れているところは火気管制システムを代理で管理してくれる点だ。自分の判断で小火器を使ってくれるため、搭乗者は機体制御(身体の動き)だけに集中できる。
「もらった!」
ガンプドルフが再び腹を狙って剛斬を繰り出す。
蜘蛛は他の脚を使ってガード。
こちらの脚も硬質化しているため非常に強固であるも、刃が中ほどまで食い込む。
その状態でライトニングソードのエネルギーを解放。雷を体内に流す。
「どうだ!?」
〈効いていません。脚は内部まで完全に硬質化している可能性があります〉
「だが、刃は通る。このままいくぞ!」
ガンプドルフはあえて無理に突っ込まず、触肢以外の脚にダメージを与える戦法を選択。
叩く、叩く、叩く!
同じ脚を狙って何度も刃を叩き付けていくことで、少しずつ相手の動きを鈍らせることが狙いだ。
実際、それは効果的。
脚が―――折れる
バキンンッと弾けた音がして脚の一本がへし折れ、蜘蛛の動きが一瞬だけ鈍くなった。
そこに渾身の一撃が炸裂。ズバッと腹を切り裂く。
(浅い! 大きさが違いすぎるか!)
ゴールドナイトの剣の長さがおよそ六メートルなのに対し、相手はもはや建物レベルの大きさだ。この程度では雷を放出しても、軽く痙攣するくらいの効果しかない。
しかも傷口は即座に塞がり、あっという間に元通りになっていく。折れた足も少しずつ戻っていくのがわかった。
〈自己修復機能だと推定。あと二十秒での復元を予測〉
「こちらにはそんな便利なものは無いというのに、まったくもって羨ましいことだ」
〈それは魔人機に対する批判だと受け止めますが?〉
「太陽光充電があるだけお前は優れているだろう」
〈それしか取り柄がないように聴こえます。訂正を求めます〉
「勝ったらいくらでも訂正してやるさ」
そんなことを話している間に、紅蜘蛛がゆらりと動くと素早く真上に跳躍。
壁に張り付いてこちらを凝視している。
「あの巨体で軽々と登るのか。厄介だぞ」
〈敵対象、周囲に糸を展開〉
「また爆発する糸か?」
〈通常の移動用糸だと判断。しかし、行動パターンに変化が見られます。警戒してください〉
「シールドを出す。様子を見るぞ」
〈左腕部、シールド展開〉
ゴールドナイトの基本兵装は、ロングソードと背部ユニットの雷光孔雀砲、それと格納式の小型盾である。
ガンプドルフが強敵相手に戦うときと同じように、右手に剣、左手に盾を持つスタイルだ。
さきほど放ったような副砲はあるもののあくまで牽制用なので、メイン遠距離武装の雷光孔雀砲が無い今は、剣と盾を使った通常の戦い方に徹するしかない。
そうして蜘蛛の動きを注視していると、おもむろに紅蜘蛛が岩盤に顎を打ち付けて咀嚼を始めた。
一見すれば食事のようにも見えるが、普段は自分の巣穴近くの岩盤は食べないので、これは明らかに違う行動。
―――ショットガン
蜘蛛の背部から管が出現すると、今しがた食べた岩盤を放射。
おそらく爆破糸を破裂させる原理を使って撃ち出していると思われる。すでに大型の蜘蛛が同じような砲台を持っていたため、それ自体に驚きはない。
が、速度と威力が桁違い。
ドガガガガガガガッドドドンッ!!
最低でも五十センチ大の弾丸が、雨あられのように高速で降り注ぐ。
ゴールドナイトは両手でガードしながら必死に下がるが、よけた足元の岩盤が大きく抉れるのが見えた。まともにくらえば装甲がひしゃげる威力だ。二発も受ければ小破は間違いない。
そんな危ないものを次々と撃ってくるから、たまったものではなかった。
「冗談ではない! 盾が壊れる! まともに受けられるか!」
〈大型戦艦に搭載されている258ミリ機関砲に匹敵します。回避は不可能と判断。緊急電磁シールド展開〉
当然ながらすべてをかわすことは物理的に不可能。同様に迎撃も難しい。
致し方なく防護フィールドを展開して石の銃弾を防ぐ。
(少年の発想は正しかったのだな。岩ならばそこらじゅうに山ほどある)
アンシュラオンが石を弾丸にしたことは、極めて合理的で経済的だったことが判明。このように高速で射出すれば威力も十分で、なおかつ無料でどこにでもあるので残弾を気にする必要はない。
だが、相手にそれをやられると最悪の気分だ。
〈電磁シールド展開時間、残り85秒。エネルギー残量37%〉
「このままでは消耗戦だ。エネルギー切れになる」
〈背部ユニットの回収を提案。バックパックのエネルギーを使用すれば、まだ多少もちます〉
「それだけでは駄目だ。…致し方ない。【聖剣】を使用する」
〈女王蜘蛛の存在が確認されていますが? 敵対象と同等以上の魔獣と推測。倒しきれるかわかりません〉
「お前だってこんなところで埋もれたくはあるまい? ここからは速攻だ。一気に勝負を決める。少年と合流すればなんとかなる。信じろ」
〈了解。提案を支持します。背部ユニット回収後、聖剣使用モードに移行〉
「雷剄の力、聖剣の資質! シャクティマズ・グラズム〈雷範の結合者〉」
ガンプドルフが魔石を発動。
アンシュラオンと戦った時のように右手に雷妖王の力が満ちる。
それに伴い、ライトニングソードの雷の力が増幅されて肥大化する。魔石の力を魔人機のオーラジュエル・モーターが吸収して力に還元しているのだ。
ゴールドナイトが前に出る。
そこにショットガンの嵐。さすが経験豊かな魔獣だ。安全な場所から的確に相手を弱らせようとしてくる。
それを盾と電磁シールドで防ぎつつ、大きな岩は剣で切り裂いて強引に突破。
目指すはパージした背部ユニットだ。
〈背部ユニットまで48メートル〉
弾丸を回避しながら進むので速度は遅くなったが、着実に接近。
そうして目前にまで迫った時である。
―――爆発
ババババンッと周囲で大きな破裂音が響き、衝撃波が襲う。
〈爆破糸が多数展開〉
「かまうな! 強引に突破する!」
背部ユニットの周囲に爆破糸が大量に設置されていた。最初にこちらが固執していたのを見て、大事なものであると理解したようだ。あえて囮として利用したらしい。
だが、怯んでいる暇はない。被弾を覚悟で突っ込む。
〈敵対象、接近〉
そこに紅蜘蛛が狙いをつけて天井から降りてきた。
百三十メートル以上の巨体だ。そんなものが真上から落下するなど、まさにビルの崩落に巻き込まれるようなものである。
本来ならば回避に専念すべきだが、背部ユニットが巻き添えになる可能性があるため、ここも強行突破。
「飛び込む! 回収は任せる!」
ゴールドナイトは速度を落とさないまま、剣と盾を真上に向けた仰向け状態で、滑り込むように飛び込む。
そこに紅蜘蛛が落下。大きな顎が迫る。
ゴールドナイトは盾で防御。するが、その大きな顎と重さで盾が砕かれる。
だが、剣も同時に突き出していたことで蜘蛛の口に突き刺さる。そこで雷撃放射。体内に直接雷撃を放ったことによって蜘蛛が動きを止めた。
ちなみにゴールドナイトの剣はリッタスの家宝のような安物ではないので、蜘蛛に噛まれたとしても簡単には砕けない。そこは安心してほしい。
そして、その間に離脱。
〈背部ユニット、確保。接続します〉
しかもユニット接続用のマニピュレーターを使って、AIのミーゼイアが背部ユニットを奪取していた。まさに阿吽の呼吸である。
これこそ一緒に戦う醍醐味。独りではできないことも二人ならば可能という魔人機の設計思想そのものだ。
この背部ユニットは、雷光孔雀砲を発射する装置でありつつ、エネルギーパックとしても利用できる優れものだ。
だだし、もっとも重要な役割は別にある。
なぜリスクがあるのに背部ユニットを回収したかといえば、聖剣の力を最大限引き出すために必要だったからだ。
〈聖剣モードに移行。背部ユニット最大展開。聖剣用オプションパーツ『シャクティマズブレイド』装着〉
孔雀の羽の如くユニットが広がり、その一部が外れると剣を覆うように合体。ロングソードよりも少しだけ大きなブレイドになる。
「さて、いくか」
ガンプドルフが一呼吸置き、聖剣を抜く。
聖剣を抜くためには魔石の発動が必要だ。雷妖王の手がある状態でしか抜けないため、うっかり抜けるといった事故は起きない。
金色の鞘から抜かれた刀身も、やはり金色。
すべてが金で染まった怪しい武器だが、れっきとした聖剣である。
だが、魔剣と呼ばれる所以がこれだ。
「聖剣よ、わが祈りに応えよ!!」
ガンプドルフが剣の柄に頭を―――叩きつける!!
それはもう激しく。何度も何度も。
当然、そんなことをすれば額から出血するが、それでいいのだ。
聖剣が光輝き、激しい雷光を発する。サナが放つ雷とは比べ物にならない、衝撃に近い【閃光】だ。
その雷光が形を変え、徐々に人型になっていった。
その人型の存在は、輝きが強すぎて細部までは見えないが、フードを被った中性的な美しい容姿をしていた。
ただし、背中からは四枚の翼が生えており、それぞれが強烈な雷に覆われて帯電していることがわかる。
右手には美麗な
剣人格―――雷妖王シャクティマ
出現した『精霊王』は、ガンプドルフを後ろから抱きかかえるように耳元で囁く。
―――〈嬉しいね、ガンプドルフ。思ったより早い呼び出しに感涙しているところだよ〉
「誠に遺憾だが、お前の力を借りたい」
―――〈おやおや、こんな蜘蛛一匹も倒せないのかい? 古い蜘蛛のようだが、そこまでの相手じゃないだろう? 焦っているのかな?〉
「相手を侮るつもりはない。かなりの強敵だ。しかも時間がない。頼む、力を貸してくれ!」
ガンプドルフが再び聖剣に額を打ち付ける。そのたびに出血するが、その目は真剣そのものである。
なぜ彼が聖剣を使うのを嫌がるかといえば、こうした『儀式』が必要だからだ。
といっても、べつに聖剣を使うためにそんなことをする必要はない。すべての聖剣でこんな儀式があったら嫌すぎる。
であれば、これは【雷妖王の趣味】だ!
―――〈アハハハ! 惨めだねぇ! なさけないねぇ! そんなに力が欲しいのか! 這いずって、ひざまずいて、いつもそんなことをして、みっともない! 恥を知らないのかい!? アハハハハハッ!!〉
その姿を見て、シャクティマが悶える。
こんなおっさんの惨めな姿を見て楽しむとは、彼も相当の変態である。
「人間は弱い生き物だ。どんなに修練してもたどり着ける領域は、たかが知れている。ならば、恥も外聞も気にしない! 何をしても力を手に入れる! それが私の生き方だ!」
―――〈はぁはぁ、いいねぇ! いいよ、ガンプドルフ! お前の怒り、憎しみ、哀しみ、そのすべてが私を楽しませてくれる! ああ、イイ! これが人間だよ! 『母』が私に与えてくれなかった脆さと弱さだ! オカアサァアアアアアーーーーンッ!! ステキ!〉
若干ファテロナチックなヤバイ言動が見られるが、もともとシャクティマはこんな感じの変わり者だ。だからこそ『精霊王』という最上位格の精霊が人間に力を貸すのである。
―――〈さぁ、一つになろう! 私と一つになろう! そんな哀れでかわいそうなお前に、雷妖王シャクティマ様が【憑依】してあげる。私にその激しく燃えるような感情を味わわせてくれ!〉
ズブウウウッ!
シャクティマが両手をガンプドルフの背中に突き刺すと、押し開くように広げる。
そして、その中に彼が―――入った!
「うううっ!! ぐううううっ―――オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
痛みすら超えた激しい衝撃が全身を貫く。
ガンプドルフの髪の毛が、もともと逆立っているにも関わらず、もっともっと逆立っていく。
魔石を使った時は右手だけが雷化していたが、腕そのもの、胸、腹、足、頭に至るまですべてが雷に覆われていく。
しかも雷の質は―――『
雷の最上位属性だ。
聖剣を発動させた状態では界気放出が通常になる。それだけでも恐ろしい能力といえるだろう。
「フゥウウッ…ぐうううっ! おおおおおおお!」
自分が自分でなくなる感覚。雷妖王そのものになっていく実感。
事実、彼は雷妖王に近づいていた。容姿も雷妖王のものがブレンドされ、若干ながらスマートな面持ちになっている。
これを―――【精霊憑依】と呼ぶ
よく巷でも『憑依』という言葉を聞くと思うが、自分の身体に他者の意識または霊体が入り込むことを指す用語である。
それを強制的に行うことを一般的に憑依と呼ぶことが多いため、悪いイメージを抱くかもしれないが、実際は地上の人間も同じメカニズムで動いている。一般人も自分の霊体を使って自分の肉体を操っているのであり、それを一時的に他者に貸し与えるだけのことだ。
そして精霊憑依とは名前通り、憑依の精霊バージョンのことである。
基本的に人間に憑依できるのは人間だけ、という法則があるのだが、段階を経れば親和性の高い精霊種も憑依が可能となる。
ただし、現在では精霊自体が人間に嫌悪感を抱いているため、シンクロできる人間は非常に稀といえるだろう。それゆえに聖剣の価値は高いのだ。
また、こうした現象は主に『精霊界出身の神機』と『適合者』の間で起こることが多い。
有名な事例では、小百合の母国であるレマール王国の象徴機、精霊界・聖霊階級の『ハイレントセイレーン〈雨まといし水竜の恵み〉』も水の精霊の加護を大きく受けており、搭乗者とシンクロ(精霊憑依)することで力を発揮するタイプである。