※この作品はR-18です。

【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了   作:ぷるっと企画@園島義船

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697話 「蜘蛛との決着 その1『パニックスタート』」

 

(何かきっかけが欲しい。この状況を打開する何かが。…あれ? サリータはどこに行ったんだ? いないぞ?)

 

 

 ずっと術式解除に手を焼いていたので、周囲の状況を把握する余裕がなかったが、ここにきてサリータがいないことに気づく。

 

 

(まさか何かあったのか? サリータ…どこだ。どこにいる?)

 

 

 アンシュラオンが命気の波動を追跡。もう蜘蛛に探知されることを気にする必要はないので全力で周囲を探す。

 

 その反応はすぐに見つかった。まだ多少遠いが猛スピードでこちらに向かっている。

 

 

(なんだこの速度は? クルマにでも乗っているのか? …いや、違うな。走っているんだ。だが、彼女の能力を超えている気もするが―――って、また何か近づいてくるぞ!)

 

 

 それはサリータのことではない。

 

 すごい勢いで『下から上に』向かってくる存在がいた。

 

 

 地面から―――ゴールドナイト!

 

 

 ドゴーーーーーーンッ! バラバラバラッ

 

 地面を豪快にぶち抜き、ガンプドルフが最深部に突入してきた。

 

 どうやら集めた機材を置いていた山の下に紅蜘蛛の巣穴と繋がる道があったようだ。本当に数十年から数百年に一度しか会わないことと、普段からゴミを放り込んでいたために入り口は閉じられていたらしい。

 

 そこから飛び出たものだから大量の機材やらゴミやら破片が、そこらじゅうに飛び散る。

 

 

(おっさんの魔人機か。いないと思ったら変なところから登場するな。しかもオマケ付きとはね)

 

 

 当然ながら、ゴールドナイトに続いて紅蜘蛛も這い出てきた。

 

 紅蜘蛛はすでに暴走状態にあり、出た瞬間から暴れまわって周囲の魔獣たちを薙ぎ払い始めた。

 

 おそらく防衛本能だけが過剰に刺激された状態なのだろう。まさに見境なく蜘蛛も鬼怒獣も蹴散らす。

 

 これによって、場はカオス。混沌の極みに陥った。

 

 魔獣たちも混乱(混線)状態に陥り、所々で同士討ちに近い現象すら起きている。最悪なことに戦艦にも魔獣たちが向かい始める。

 

 ここまできたら、もう言葉はいらない。

 

 

 残された道は―――【決行】のみ!

 

 

 多少強引でも戦艦脱出に向けて動くしかない。

 

 最初に動いたのはアンシュラオン。

 

 ラノアを抱きかかえると跳躍し、魔獣たちを踏み台にしながら移動を開始。

 

 素早くサナに近づくとラノアを放り投げる。普通に投げたら危ないが、命気で包んでいるので落ちても大丈夫にしてある。

 

 サナはナイスキャッチ。大事そうに持ち上げる。

 

 

「サナ! ラノアを頼むぞ! お前は戦艦と一緒に行動しろ!」

 

「…こくり!」

 

 

 サナはラノアと一緒にクルマに向かって走っていく。

 

 魔獣たちもラノアに釣られて群がってくるが、すでに外に出ていたデュークスとマルズレンたちが応援に駆けつける。

 

 

「小さな女の子に群がるとは悪趣味だな! 魔獣にもロリコンなんているのか?」

 

「子供のほうが肉が柔らかいからじゃないか?」

 

「怖いこと言うなよ! この蜘蛛は肉食じゃないんだろう?」

 

「鬼のほうは知らん。食べそうな顔はしている」

 

「それなら気張らないとな! おらぁ!」

 

 

 デュークスが大剣を振るって蜘蛛を薙ぎ払う。マルズレンも細かく素早い動きから的確に魔獣を潰していく。

 

 サナはそんな彼らにお礼を言うこともなく、すたこらさっさとクルマに到達。ラノアをクルマにいる小百合に手渡す。

 

 

「ラノアちゃん、確保です! 確保しました!」

 

 

 刑事ドラマのワンシーンかのごとく、小百合が興奮して叫ぶ。

 

 正直に言えば、サナとサリータ以外の彼女たちがこの戦いで果たした役割は大きくはない。戦力としても不十分で、ただ居ただけといわれても仕方ない。

 

 がしかし、こうやって自分たちの手でラノアを助けたという事実が大切なのだ。仲間としての絆がより一層強くなるし、自信がつくに違いない。

 

 

「ラノア! 無事!?」

 

「うん、だいじょぶ」

 

「よかった…! 本当に心配したんだからね!」

 

 

 セノアとラノアがついに再会を果たす。これはこれで感動の場面だが、今は緊急事態だ。そんなことをしている暇はない。

 

 すぐにホロロが急かす。

 

 

「クルマを戦艦に入れてもらいましょう。それで脱出します」

 

「サリータさんがまだ来ていません! 置いていっちゃうんですか!?」

 

「ここは危険です。我々が残っていても邪魔になるだけです。ラノアを守るために彼女はがんばったのです。その気持ちを無駄にするわけにはいきません」

 

「………」

 

「セノアさん、サリータさんは必ず戻ってきますよ! 信じましょう! だってほら、感じませんか? 私たちってもうみんな、心の奥底で一つになってきているんですよ。サリータさんは無事ですって!」

 

「…は、はい。私も…そう思っていますけど…」

 

「まずは安全な場所に行ってから考えましょう。行きますよ!」

 

 

 サナが護衛に入りながら小百合がクルマを戦艦の近くまで移動させると、第二格納庫が開いた。

 

 

「『魔人甲冑』を出せ!! 未完成でもいい! 使ってみせろ!」

 

 

 そこには『小さな魔人機』とでも呼べそうな機械が並んでいた。

 

 魔人甲冑、通称『魔人アーマー(MA)』である。

 

 かなり前のことであるが、戦艦で移動してきたガンプドルフたちが荒野に出た際、魔人機と一緒に運び出していたものだ。

 

 この時代の魔人甲冑はMGを小型化した甲冑兵器であり、一般的な大きさは三~四メートル弱といったものが多い。(のちにより小型化されてパワードスーツ状に進化するが、今はまだ大きい鎧に近い)

 

 DBD製のものはまだまだ開発途上にあり、反応速度や運動性に問題があるものの搭載されている武装は重装甲兵より強力だ。

 

 六機の魔人甲冑が出撃。前に出て壁となって魔獣の攻撃を受け止める。

 

 

「お嬢さんたちはこちらへ!」

 

「お願いします!」

 

 

 誘導されて戦艦にクルマが入った。これでとりあえず彼女たちは安全であろうか。

 

 それより問題なのが紅蜘蛛と女王蜘蛛である。この大きな蜘蛛がいるからこそ作戦が難しくなっているのだ。

 

 ガンプドルフも錯乱した紅蜘蛛に手を焼いていた。弱っているからこそ魔獣の本能が刺激されて動きが激しいのだ。

 

 

「あの赤い蜘蛛を倒すだけの戦闘を行った場合、残りエネルギーはどれくらいになる?」

 

 

〈雷光砲をフルパワーで使うと仮定するとエネルギー残量は20%を切ります。バンシャム・グラムシャクトからのエネルギー供給効率も下がっています。節約してもあと二回が限界です。剣での攻撃を推奨します〉

 

 

「接近戦か。あれだけ暴れていると無傷とはいかんな。エネルギーもギリギリだ」

 

 

 聖剣は強い。その爆発力は相当なものだ。

 

 しかしながら、やはり問題はエネルギーである。今も雷妖王から強いエネルギーが供給されているものの、その大半は翼から放出されているので「だだ漏れ」状態であるといえる。

 

 かといって無理にとどめてしまえば、それを維持するために強い負荷がかかり、あまりのパワーに耐えきれず自爆してしまう。今の技術では完全に制御は不可能なのだ。

 

 雷妖王に身体を貸しているガンプドルフも、毎秒細胞にダメージを負っているため限界が近い。

 

 ただし、今は独りではない。

 

 

〈術式回線が接続されました。受信しますか?〉

 

 

「少年か! 頼む」

 

「やぁ、おっさん。それが聖剣を使った状態なんだね。カッコイイじゃないか。いいなぁ、スーパーロボットみたいだ。憧れるよ」

 

 

 アンシュラオンが念糸を伸ばし、ミーゼイアに接続。

 

 この作戦が開始される前にミーゼイアとの間で回線構築作業を行っており、専用の術式回線を作っておいたのだ。

 

 AIが精神術式の波動を感知したのも、その際にアンシュラオンから精神術式特有の波動パターンを提供されたからだ。

 

 

「そう言ってくれるのは嬉しいが、こちらもかなり消耗している。どうする? 赤いほうの蜘蛛からやるか? それとも先に女王に仕掛けるか? 私と君なら同時にやれるかもしれんが…迷っているところだ」

 

「どうせなら利用しようよ」

 

「利用?」

 

「もともとオレたちの作戦は漁夫の利だ。あの巨大ジュエルのせいで予定が狂ったけど、使えるものは使ったほうがいい。すでに騎士たちにも死者が出ているみたいだし、損害は少なくまとめたい」

 

「それはそうだが、どうするつもりだ?」

 

「あいつはおっさんに狙いをつけているみたいだから、そのまま女王のところまで誘導してみてよ」

 

「大丈夫なのか? 興奮した女王が暴れてナージェイミアが壊れないか?」

 

「最悪にそなえてオレの闘人を回すよ。でも、大丈夫だと思う。ほら、見てごらん」

 

 

 アンシュラオンに言われて女王蜘蛛に視線を向けると、彼女は触肢を上げて威嚇のポーズを取っていた。

 

 最初はゴールドナイトに対してだと思ったが、どうやら違うようだ。彼女の視線は紅蜘蛛を追っている。

 

 

「赤い蜘蛛に威嚇しているのか? なぜだ? 同じ蜘蛛だから仲間ではないのか?」

 

「そのあたりは詳しく調べないとわからないけど、別々に暮らしていたことがヒントかもね。いつも一緒にいるタイプじゃないのかも。それ以前にさ、どんな魔獣でも産卵期の雌って凶暴なんだ。相手が誰であれ、あんな大きなものが近づいてきたら反応するに決まっているよ」

 

 

 女王蜘蛛は今までずっと余裕をかましていた。事実、彼女を脅かす存在はいなかったからだ。

 

 だが、術式の影響を受けて知性が失われつつある今、その防衛本能だけが昂ぶっている状態である。そこに普段は地下にいる紅蜘蛛が出てきたとなれば、気持ちが荒ぶるのも当然だろう。

 

 

「戦艦は大丈夫。オレが守るよ」

 

「わかった。やってみよう。ミーゼイアもいいな?」

 

 

〈これ以上の損害は作戦後にも影響を与えます。提案を支持。勝算はあると推測します〉

 

 

「三人が同じ気持ちとは心強いな! では、いくぞ!」

 

 

 ゴールドナイトは紅蜘蛛の前に出ると、光の翼の出力を上げて注意を引く。

 

 

「どうした? やられたままか? お前をズタボロにしたのは私だぞ! ほら、どうした。かかってこい!」

 

「………」

 

 

 紅蜘蛛が、残った眼でぎろりとゴールドナイトを捕捉。

 

 術式の影響もあるのだろうが、ここはやはり雄。やられたらやり返すといった激しい怒りの感情を向けてきた。

 

 ゴールドナイトを猛追する。

 

 

「そうだ。いいぞ! ついてこい!」

 

 

 ゴールドナイトは軽く攻撃を与えて刺激しながら、少しずつ戦艦のほうに誘導していく。

 

 そして、女王蜘蛛の間合いに入るギリギリのタイミングで離脱。

 

 誰もがどうなるかと注視していたところ、ついに女王が動いた。

 

 ガゴンッと脚を戦艦から離すと、大地に着地。

 

 威嚇のポーズのまま待ち構え、間合いに入ってきた紅蜘蛛に―――体当たり!

 

 

 ドゴオオオオオオオッ―――ンッ!

 

 

 それはもう遠慮のない『ぶちかまし』だった。大きさでは女王蜘蛛のほうが上なので、紅蜘蛛をあっさりと吹っ飛ばす。

 

 しかもそれで終わらない。

 

 触肢を何度も薙ぎ払い、紅蜘蛛を滅多打ち。

 

 そのたびに空洞内部が大きく揺れ、地震に似た衝撃が周囲を襲う。

 

 

「ここまでとは…!」

 

「ははははっ! やったね! あいつ、殴られてやんの!」

 

 

 そう笑うアンシュラオンだったが、次の光景を見て哀れみを覚えることになる。

 

 紅蜘蛛が許しを請うように『生殖器』を出すが、そんなものは関係ないといわんばかりに殴られ続ける。

 

 その光景は、この場にいた多くの男性に強い哀愁を感じさせた。

 

 

「同じ男の身としては世知辛いな…」

 

「…そうだね。世の中、実際は女性のほうが強いからね…」

 

 

 DBDも王室の真実を知れば、女性優位社会であることがわかる。ガンプドルフも裏ではいろいろと苦労しているのだろう。紅蜘蛛に若干の同情心を抱いた。

 

 が、これは戦い。生存闘争だ。

 

 

 直後、戦艦から―――砲撃!!

 

 

 主砲から発射された大型徹甲弾が、女王の胴体に直撃。大きく穿つ。

 

 

「続けて、三連射撃!!! 主砲、撃てぇえええええ!!」

 

 

 ドンドンドンッッ!!

 

 メーネザーの命令によって発射された砲撃が、女王に次々と浴びせられていく。

 

 この時代の戦争の主力は戦艦であり、【巨艦巨砲主義】が全盛期であった。

 

 だからこそルシアも大型戦艦を造ることに躍起となり、それに伴って主砲も大型になっていく傾向にある。

 

 巡洋艦ナージェイミアに搭載されている八十八センチ三連砲が放つ強烈な一撃は、大型魔獣といえども直撃すれば、ただでは済まない。(大型戦艦ともなれば、二メートル砲以上となる)

 

 今回は生身の味方も展開しているため爆発力を抑えた『ただの硬い砲弾』だが、この口径だと威力がえげつない。

 

 貫く、穿つ、叩き潰す。

 

 突き刺さった部位、その周囲十メートルがめくり上がり、筋肉と神経を破壊していく。

 

 後ろから撃たれたので、まったくの無防備。これは女王も痛い。

 

 しかし、やはり女王。この程度で倒すことは不可能だった。ダメージもまだ軽微であるし、即座に再生を開始している。

 

 だが、時間は稼げる。

 

 

「高炉サブエンジン、出力全開! 全システムを復旧開始! メインジュエル・モーター起動後、急速全速離脱!」

 

 

 ナージェイミアのサブエンジンが点火。四基のジュエル・モーターが急速起動され、戦艦にエネルギーが供給される。

 

 このジュエル・モーターは魔人機に搭載されているものとは少し違い、戦気による増幅等はできないが単純にでかい。そのため出力も普通のクルマとは段違いである。

 

 爆風にも似た強烈な風が噴き出し、戦艦が浮き上がっていく。

 

 

「メインエンジン点火まで、あと九十秒!」

 

「動ける騎士は戦艦防衛のために全員出撃! 敵を近寄らせるな!」

 

 

 ゼイヴァー率いる遊撃隊も含め、全騎士たちが行動開始。音に刺激されて群がってきた魔獣たちを迎撃する。

 

 

「おっさん、今だ! 弱っているほうを先に倒して!」

 

「了解した! 勝負を決めさせてもらう!」

 

 

 聖剣の力が、ゴールドナイトのライトニングソードに集中して肥大化。身体よりも巨大な雷剣となる。

 

 

「これが聖剣の力だ! 一刀両断!」

 

 

 その一撃は、まさにすべてを分断する一撃!

 

 女王蜘蛛に殴られて瀕死になっていた紅蜘蛛を切り裂くと同時に、体内で界気が荒れ狂う。

 

 溢れる、溢れる、溢れる!!!

 

 

 雷様が―――溢れ出る!!!!

 

 

 ボシャーーーーーーーンッ!!

 

 水っぽい湿った音とともに紅蜘蛛が粉々に砕け散った。

 

 ガンプドルフは地下に向かって力を放出したため、横に広がることはなかったが、それでも蜘蛛は木っ端微塵。

 

 これを地表で制御せずに叩きつけていたら、最低でも周囲一キロに影響が出ていたに違いない。

 

 以前ガンプドルフが覇王流星掌の痕跡を見て、これくらいならば自分でもできると言っていたが、聖剣の力を使えばたしかに同様のことが可能であるのだ。

 

 

(へぇ、おっさんもやるな。あれが魔剣士の本気か。こいつはいいものを見た。魔人機も使えそうだし、いつかサナにプレゼントしたいね)

 

 

 アンシュラオンはクシャマーベの車輪盾を展開し、その余波から戦艦を守っていた。この男がいるからこそガンプドルフも全力を出せるのだ。

 

 そして、メインエンジンが点火。

 

 戦艦が向きを変え、出口に向かって動き出す。

 

 混乱から始まった作戦決行であったが、ついに目的の一つを達成するに至ったのだ。

 

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