【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
グァルタの登場によって戦艦側に激震が走る。
戦艦は強力な兵器だが最大の能力は砲撃である。その武器を生かすためには距離が必要だ。
そのため戦場では戦艦を止めるために歩兵を送り込み、内部を制圧する昔ながらの手法が取られていた。リッタスたちが乗っていた駆逐艇もそのために造られたものだ。
そして今回乗り込んできたのは、身の丈六メートルもあろうかという大きな魔獣。こんなものに好き勝手暴れられたら、いくら戦艦とて大きなダメージを受けてしまう。
「囲んで削れ!」
相手は一頭。甲板の上に集まった騎士たちが武器を持って全方位から攻撃を開始する。
しかし、どの攻撃もグァルタの防御を貫けない。
鬼怒獣自体に『物理耐性』があり、近接戦闘でのダメージが半減されるし、グァルタの素の防御が「A」ということもあって普通の武器では歯が立たない。
このあたりは数値の厳しさが露骨に出ているといえる。石で木を叩けば、脆い木のほうが抉れるだろう。金槌で石を叩けば、脆い石のほうが壊れるだろう。では、鉄と鉄がぶつかればどうなるか。互いに硬いのだから一気に砕くのが難しくなるはずだ。
グァルタの皮膚、筋肉、骨の硬さは、剣気で強化した鋼鉄の武器と同等かそれ以上だということだ。技の倍率効果を使ってギリギリダメージを与えられるレベルになる。
しかし不用意に近づけば、豪腕を振るわれて反撃される。身体が大きい分だけ攻撃範囲も広く、回避はかなり困難である。盾で防ぐことも無理だ。
近接が駄目ならば銃火器での対応はどうかといえば、今度は口径が小さすぎて分厚い筋肉で止められ、大型のバズーカを使っても効果は薄い。
そうして手をこまねいていると、今度は相手から積極的に攻撃してくる。こちらは防衛側なので対応するしかなく、それによってまた被害が増える悪循環であった。
「魔獣ってのは、こんなに強いかよ!」
「これでは見通しが甘かったと言われても反論はできないな」
復帰したデュークスとマルズレンも戦闘に参加するが、負傷して動きが鈍いこともあってか状況はあまり変わらない。
ここまで苦戦する最大の要因は、DBD騎士が魔獣戦闘に慣れていないことを差し引いても、単純にグァルタが強すぎることだ。
もともと女王蜘蛛の注意を引くために用意した駒だ。殲滅級魔獣を相手にするのだから弱くては話にならない。アンシュラオンから見ればまずまずの駒でも、一般の武人からすれば出会ったら即死級の怪物である。
通常の鬼怒獣ならば騎士たちが数で攻めれば倒せるが、グァルタはその一歩先の領域にいる。なにせ彼は『突然変異体』であり、種として歴代最強レベルにまで到達した変り種なのだ。
ステータスも優秀で攻撃と防御に隙がない。スキルも凶悪で攻撃倍率を上げるものが多く、騎士たちの鎧すら一撃で破壊することができる。HPも多くて耐久力も高い。
こんな化け物が山ほどいるのだから、西方開拓が今まで進まなかったことは誰しも納得であろう。
だが、彼らも諦めるわけにはいかない。
グァルタの背後から大柄な男が突っ込んできて、抱きつくように体当たりを仕掛ける。
「わしが押さえる! その間に攻撃を集中させよ!」
「バルドロス百光長!」
「貴殿らも騎士であろう! 意地を見せよ!」
やってきたのはバルドロス。
こんな緊急事態にのんびりしていられるわけもない。その大きな体躯を生かしてグァルタの動きを拘束する。
そこに真上から人影。槍を構えたゼイヴァーである。
「もらった!」
ゼイヴァーは体重を乗せた渾身の一撃を突き出す。
さきほど鬼怒獣の心臓を貫いた実績がある彼の一撃には期待が持てる。攻撃力自体はデュークスと同程度だろうが、断ち切る大剣とは違って一点に力を集中できる槍は、鬼怒獣には効果的なのだろう。
しかし、どんな攻撃も当たらねば意味はない。
グァルタの『怒髪天』が動くと、槍ごとゼイヴァーに絡みつき―――床に叩きつける。
バゴーーーンッ!! ビシッ!
「…がはっ!」
衝撃で甲板に亀裂が入る。
軍用艦なのでクルマ素材よりも強い金属を使っているが、それがひしゃげて裂けるほどのパワーであった。ゼイヴァーも苦悶の表情を浮かべて倒れ込む。
「ぐぬっ…! 力負け…するか!」
奇襲が失敗すれば、今度はバルドロスが危険に晒される。
グァルタの大きな手がバルドロスの腕を掴み、引き剥がす。バルドロスは抵抗したが、それを許さない強い力で引っ張り―――握り潰す!
ぐしゃっと嫌な音がして、バルドロスの太い腕が破裂。筋肉が断裂して血管が千切れ、腕先の感覚がなくなった。
どんなに屈強でも、それは人間の範疇でのことだ。魔獣の肉体は造られた素材がまったく異なる。悔しいが、魔石の力が弱まったバルドロスでは限界があった。
「てめぇえええ!」
「無策で突っ込むな! 馬鹿が!」
「馬鹿でけっこう! 味方がやられて黙っていられるかよ!」
「くそっ、これだから火の連中は!」
バルドロスがやられたのを見てデュークスの頭に血が上る。
火の艦隊は聖剣長であるアラージャが男勝りかつ、短気で喧嘩っ早いという性格をしていることもあり、その影響を受けて部下たちも似た性質の者たちが集まっている。
それはそれで仲間想いであるし、激怒は力になるのだからよいのだが、同じ馬鹿でもアンシュラオンが許されているのは、それだけ強いからである。力で劣った者が激怒したところで結末は変わらない。
グァルタの手から炎が噴き出すとデュークスを呑み込む。
「ぐっ! またこれか! 汚ぇぞ!」
DBD隊も武器や銃火器を使っているのだからまったく卑怯ではないが、そう言いたくもなるほど強烈な炎だった。
火達磨になったデュークスが根性だけで突っ込むが、再びぶん殴られて吹っ飛ぶ。
今度はガードした腕がひん曲がっていた。防御をぶち抜いて骨を砕いたのだ。
「くそ…が! 百光長が…なめられて…たまるか……」
再び立ち上がろうとするが、鎧が壊れているため炎が中まで入り込み、身体中に重度の火傷を負っていた。また同じ攻撃を受けたら今度こそ死んでしまうかもしれない。
(百光長が四人いて太刀打ちできぬとは…閣下との力の差を思い知る)
バルドロスも、この現状にはショックを受けているようだ。
百光長は階級でいえば部隊長レベルではあるが、ゼイヴァーを見ればわかるように武人の質は良い。デュークスやマルズレンもグラス・ギースの上位の武人と並び立つ者たちだろう。
それが四人がかりでグァルタ一頭に負けているのだ。彼らの自信喪失も頷ける。
だが、こうした事態が起こっていることには明確な理由が存在している。
すでに述べたが、軍隊においてはすべてにおいて平均化された力が求められ、一般的な武器や銃火器を扱う能力が評価される。年々弱くなっている武人たちが効率的に強くなれる手段が用意されているのだ。
ただし、その一方で特化した力が失われつつあるため、こうした単純に強い相手が出てくると攻撃が通用せず、一気に劣勢に追い込まれる傾向にある。
なぜ聖剣が重宝され、軍部の最高司令官の扱いを受けているかといえば、特化型の存在がこの時代においては稀有であり、戦で勝ち抜くためには必要不可欠だからだ。
残念ながらその聖剣を持っているガンプドルフは、女王蜘蛛との戦いに臨んでいる。今ここにはいない。
「他の者は援護せよ。わしがやつを艦から引きずり落とす」
「バルドロス百光長、それではあなたが…!」
「まともに戦って勝てぬのならば、それしか方法はあるまい。その間に艦を逃がす! ここまできて失敗は許されぬ! 命をかけよ!」
「…了解しました」
すでに騎士からも犠牲が出ている。これだけの戦いが犠牲なしで終わるわけがない。それを知っているゼイヴァーも頷くしかなかった。
「攻撃を集中させろ! 百光長が仕掛けるための隙を作れ!」
「おおおおおお!」
ここで騎士たちがグァルタに『特攻』を仕掛ける。
各々が持っている最大の技を防御無視で叩きつければ、グァルタといえども多少なりともダメージを負わせることができる。
ただし、その代償は反撃による瀕死のダメージ。
次々と吹き飛ばされる騎士たちは、もう戦闘継続が不可能なほどの痛手を負う。まさに特攻。DBD騎士たちが戦争で何度も繰り返した恐るべき戦法だ。
その執念によってグァルタに一瞬の隙が生まれ、バルドロスが突っ込む。
「ぬおおおおおおおおっ!」
下から突き上げる全力のぶちかまし。
相撲のぶつかり合いのようにグァルタの足が床を滑り、甲板の端まで押し込むことに成功する。
ズズズズッ ピタッ
しかしながら、そこから前に進まない。魔獣の強い足腰で耐える。
「オ゛オ゛オ゛オ゛!」
グァルタの反撃。
両腕を振り回し、何度もバルドロスの身体を打ち付ける。無造作で乱雑だが強烈な攻撃を受け、筋肉が断裂し、背骨が折れる。
「引かぬぞ! わしは引かぬ!」
バルドロスは決死の覚悟で耐え、殴られても殴られても踏みとどまる。
「百光長!」
そこにゼイヴァーが飛び込み、槍で攻撃。今度はグァルタの目を狙う。
(目ならば貫ける!)
皮膚が硬い魔獣との戦いにおいて、狙うのはだいたい目だ。ここが一番柔らかいからである。その着眼点は悪くなかった。当たれば実際に貫けていただろう。
がしかし、グァルタはただの筋肉馬鹿の魔獣ではない。
バルドロスを持ち上げ―――盾にする
「なっ―――!」
ゼイヴァーは瞬時に槍を引くが、グァルタはバルドロスを投げつけてきた。
空中では回避が難しく、激突。
大きな身体のバルドロスが、まるで弾丸のような速度で向かってきたため、その衝撃も相当なもの。激突し、床に落下したゼイヴァーが昏倒する。
「ぬぐううっ…落とすこともできぬか…!」
「バルドロス! 大丈夫か!」
倒れたバルドロスをリッタスが救助。ゼイヴァーも他の騎士たちに引っ張られていったが、いまだ意識が朦朧としているようだ。
「殿下…申し訳ありませぬ…。こうなれば…逃げるしか手はありません」
「せっかくナージェイミアを奪還したのだ。おめおめと逃げられるか!」
「しかし、このままでは…」
「私がやってやる! ほら、こっちだ! 私が相手になってやるぞ!」
折れた家宝は捨てたのか、新しい剣を持って参上したリッタスが、グァルタを牽制する。
しかし、グァルタから見れば雑魚が喚いているようにしか見えない。いちいち動くのも面倒なのか左手を向けた。
「まずい! 炎がくるぞ!」
二度も炎で焼かれたデュークスが叫ぶ。
よほどトラウマなのだろう。その声はかなり切羽詰っていた。
「炎―――だと!?」
まったく予期していなかった攻撃に反応が遅れ、棒立ちになったところにグァルタの左手から炎嵐が出現。
火は大きな炎の竜巻となって甲板を席巻。リッタスごと周囲を焼き尽くそうとする。
誰もが彼の死を覚悟した瞬間だった。
「フフフ」
真上に世にも美しい氷の麗人が現れると、車輪盾から噴き出した氷が炎を凍結させた。その氷はグァルタまで巻き込んで全身を凍らせる。
「これは…!?」
「どけ!」
「っ!」
「うおおおおおおおおお!」
リッタスの後ろから、盾を構えたサリータが走ってきた。
そして、グァルタを―――ドゴーーーーンッ!
吹っ飛ばす!
グァルタは甲板の壁にぶつかったものの、当たりがあまりに強かったために、そのまま飛ばされて外壁にまで落ちていく。
いくら凍って動けなかったとはいえ、今までの彼女とは比べ物にならないパワーである。
「ケサセリア! その姿は…!」
サリータの肌はアンシュラオンのように白く、赤い目は強く輝いていた。リッタスはあの時、艦の内部で休んでいたため事情は知らないらしい。
「今はそんなことはどうでもいい! また来るぞ!」
ガシッと毛むくじゃらの手が甲板にかかり、グァルタが登ってきた。こんなもので彼がどうなるものではない。
だが次の瞬間、それを見計らったように刀一閃。
素早く走り抜けてきたサナが『怒髪天』を斬る!
ズバッ ボトーーンッ
グァルタの体毛は、それ自体が非常に硬くて重い。床に落ちた時には一瞬床が揺れたくらいだった。
「オ゛ハ゛!?」
これにはグァルタ当人も驚いたことだろう。空気が抜けたような変な声を出して慌てふためく。
そう、この『怒髪天』というスキルは、まさに頭部の髪の毛があってこそ成立するスキルなのである。毛がなければ怒髪天とは呼ばないからだ。
たったそれだけで―――攻撃力ダウン
明らかに意気消沈したグァルタから圧力が減った。
ちなみに鬼怒獣にとって頭付近の体毛はセックスアピールでもあり、いかに濃く長いかで男らしさが決まる重要なパーツである。それを奪われて男としての尊厳が傷つけられたのかもしれない。(べつに知りたくもなかったが)
ともあれ、あれだけ手が付けられなかったグァルタの動きが止まる。
「なんと! このようなことが起きるのか!? 信じられぬ!」
驚いたのはバルドロスだけではない。それを見ていた騎士の誰もが驚く。
今まで騎士たちは身体ばかりを狙っていた。それが魔獣本体なので当然だが、そもそも【髪の毛を狙う発想力】がなかったのだ。観察眼が足りなかった。気づけなかった。
ただ相手を倒すことだけに慣れており、細かい視野や視点、新しい考え方が湧き上がらなかった。それこそが彼らの限界を示してもいた。
しかし、軍人以外にもさまざまな相手と戦っているサナは、相手の弱点を見抜く力が養われている。正攻法にこだわる必要性もなく、何をやってもいい。それこそが発想の柔軟性に繋がっているのだろう。
「サナ様!」
「…こくり!」
サナが残り少ない魔石の力を解放。
雷光となって走り、グァルタに高速の斬撃を叩き込む。
「ク゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!」
グァルタは激怒。髪の毛を斬られたこともあってか攻撃対象をサナに定め、手当たり次第に両腕を振り回す。
サナは目立つので敵の標的になりやすい。アンシュラオンが言った通りである。
だが、そこにサリータが猛ダッシュで突っ込み、攻撃を防御。
ガァァアンッ!!
強い音を立てて豪腕が盾にぶつかる。普通ならばここで盾が砕け、サリータも吹っ飛ぶはずだが―――
盾は砕け―――ないいいいいいい!!
足は床を踏みしめ、強い腕力で盾を押し出し、攻撃のポイントをしっかりと見定めて完全に防御している。押されてもびくともしない。
グァルタは攻撃を防がれてムキになったのか、執拗に腕を振るう。
次第にその動きは高速になっていき、豪腕が無秩序に暴風のように叩きつけられた。防御を捨てる代わりに攻撃力を五割増しにするスキル『暴虐乱撃』だ。
これがあるから魔獣は怖い。彼らは戦気を使えない代わりに強力なスキルを持っている。
しかし、踏ん張る!
何度叩かれても盾は壊れない。勇気も退かない。彼女は負けない!
「自分はもう二度と押し負けない! あの御方からもらった力を思い知れぇえええええええ!」
それどころかサリータの身体から白い力が噴き出し、グァルタを圧倒。
至近距離から体当たりをかまし、この巨体が揺らぐ。
そこにサナが雷の刃で―――左目を切り裂く!
「オ゛フ゛―――オ゛オ゛!?!」
左目が潰れたグァルタがパニックになって暴れる。
その腕が攻撃直後のサナに向かうが、すでにサリータが防御の態勢。がっしりと防ぎ、サナはノーダメージ。
守られて自由になったサナは、その才能を遺憾なく発揮。
さきほどまでの戦いをじっくり観察していたため、グァルタの弱点を集中的に狙って着実に戦闘力を削っていく。
残りの目を狙うと見せかけて体毛を斬ったり、術符を使ったり、銃を使ったりと翻弄する。
当然グァルタはさらに激怒するが、彼女を完全にサポートするサリータが、すべての攻撃を防いでいた。
目が―――合う
身体も意識も一つになって、サナと完全に同化して動く。
(わかる! わかるぞ! サナ様の狙いが見える! 意識が繋がっているようだ!)
サナの狙いがわかる。サナもサリータの動きが見える。両者が互いの動きを感覚で理解できるため、まさに阿吽の呼吸で攻撃と防御が流れるように続いていた。
サナはいっさい手加減していない。今持てるすべての力で戦っている。それにサリータが完全に対応できているのだ。
それはもちろん、彼女が『魔人化』している状態だからだ。
黒いオーラではなく、アンシュラオンが昇華した白い力によって、魔人化したまま意識を保っている。自殺願望もなく、滅びる気などさらさらない。至って普通の状態の理性のまま肉体だけが活性化していた。
アンシュラオンに愛された女性が、なぜ貴重なのか。なぜ彼は時間をかけて女性たちを育てているのか。
戦罪者のような使い捨ての道具ではない彼女たちは、アンシュラオンとより深く繋がることで『魔人の側近』へと昇格していくからだ。彼の影響力をもっとも体現できる存在へとなっていくからだ。
だから「たかがこの程度の魔獣」に打ち負けることなど、ありえない!
今、ようやくにして【形】が完成。
姫と騎士のあるべき理想の姿が示されようとしていた。