※この作品はR-18です。

【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了   作:ぷるっと企画@園島義船

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701話 「蜘蛛との決着 その5『魔人の姫』」

 

 グァルタの身体から炎の嵐が吹き上がる。

 

 さきほどからずっと騎士たちを困らせていた『炎嵐招来』スキルだが、それはあっさりとクシャマーベによって防がれて、すぐに鎮火される。

 

 それを見たデュークスが「どうして俺のときは消してくれなかったんだ?」とぼやいていたが、クシャマーベは戦艦自体に害を成す攻撃を防御する命令が優先されていることと、基本的にサナやラノアたちを守るように設定されていることが大きな要因である。

 

 戦艦内部にまで侵入すれば本格的に対応するだろうが、現在は『炎嵐招来』スキルだけに狙いを定めて防御していると思われる。

 

 すでに女王蜘蛛と戦うアンシュラオンのほうに力が還元されているため、クシャマーベが持っている力はあくまで防衛用のものと割り切ったほうがよさそうだ。

 

 だが、それで十分。戦艦にはこの二人がいる。

 

 

「…ぐっ!」

 

「はい、サナ様!!」

 

「…ちら」

 

「はい、サナ様!!」

 

「…っ!」

 

「はい、サナ様!!」

 

 

 サナが思ったことがそのままダイレクトに伝わるため、サリータは迷うことなくカバーに入ることができる。

 

 サナの刀が振るわれるたびに雷が走り、サリータがダッシュするたびに地鳴りが起きる。ジグザクに直線的に、上下左右に縦横無尽に動き続ける。

 

 その見事な連携プレーにグァルタが何もできない。攻撃するタイミングが見つけられないのだ。

 

 なぜだろう。二人が出会った時を思い出してならない。

 

 ハローワークで偶然に再会した時、サナは彼女を引っ張り回した。まるで近い将来、彼女が自分を守る【騎士】になることがわかっていたように。

 

 サナがこんなに強くなるなど、あの時は誰も知らなかった。サリータがこんなに強くなることも誰も知らないはずだった。

 

 ならば、それは運命や宿命と呼ばれるものだったのかもしれない。魂が求め、魂が応えた。そういった『意思』が動いていたのだろう。

 

 

「はぁああああっ!」

 

 

 そして、今のサリータは盾を攻撃にも使える。

 

 グァルタが防戦一方になって反撃できないとわかると、懐に入り込み盾で腹をかち上げる。力強く押された一撃で巨体が宙に浮き上がった。

 

 バルドロスでも持ち上げることができなかった重さだ。いかに彼女の腕力が増強されているかがわかるだろう。

 

 これを見逃すほどサナは甘くない。

 

 サリータを踏み台にして跳躍し、横薙ぎの一閃!!

 

 すでに体当たりでダメージを受けている腹を狙い、切り裂く。雷をまとっているため感電の追加ダメージのオマケ付きである。

 

 グァルタは鬼獣特有の強靭さを持つとはいえ、やはり生物だ。普通の雷程度ならば分厚い脂肪と筋肉によって防がれてしまうが、剣撃と一緒に叩き込むことで傷口から内部に雷を流すことができる。それによって直接神経にダメージを与えることで動きを抑えるのだ。

 

 こうした技や技術を持つ者は軍隊には少なく、専用の特殊武器を使わねばならない。現在のDBD隊は寄せ集めの軍なので特殊部隊を編成する余裕はなく、こうした相手に対応できないのは致し方ない。だからこそサナたちの戦いが際立つ。

 

 しかし、敵はグァルタだけではない。

 

 サナが着地すると同時に、次々と甲板の上に蜘蛛が落ちてきた。

 

 忘れてはいけない。戦艦は常に地上を目指して動いており、次の階層に移動しようとしている。そこにはまだ蜘蛛たちが残っているのだ。

 

 

「蜘蛛を近づけさせるな! 彼女たちだけを戦わせては騎士の面子が立たん!」

 

 

 軍隊はけっして役立たずではない。極めて強力な部隊である。

 

 それを証明するように、百光長の中で唯一まだ戦えるマルズレンが中心となって、落ちてきたカーモスイットやカーバラモたちを駆逐していく。

 

 こうした通常兵装が通用する相手には、彼らは比類なき力を発揮する。普段の訓練で培った技術と体力を使って間断なく殲滅行動を取れるのだ。

 

 すべては相性の問題。サナたちは大量の敵と消耗戦を展開するのは苦手でも、特殊な個体を一点集中で討伐することに長けているということだ。

 

 ただし、すべてが上手くはいかない。

 

 

 刀に―――亀裂!

 

 

 ビシッとサナの水刃命気刀に小さな亀裂が入った。亀裂は斬るごとに少しずつ広がっていき、ついに折れてしまった。

 

 ここまでの戦いで思った以上に負担がかかってしまったようだ。リッタスの家宝の剣すらあっけなく失われたことを思えば、この戦いがいかに激しいものであるかがうかがえる。

 

 また、アンシュラオンが命気で補強したとはいえ、所詮は銘無き刀。地下闘技場の片隅でひっそりと余生を過ごしていた老人のようなものだ。

 

 老体に鞭打って、こんな激しい戦いにまでついてきてくれたのだ。そう思えば感謝しかないだろう。今までサナを守ってくれてありがとう。そんな言葉すら浮かぶ。

 

 が、やはりメイン武装である刀を失えば攻撃力はダウン。仕方なく予備のロングソードに切り替えるが、思ったように攻撃が通らなくなる。

 

 なぜ今までグァルタにダメージが通っていたのかといえば、錬成強化した術式武具だったからだ。水刃の術式の力で防御無視ダメージを与えていたからこそ、その切り口に雷を流すことで対応ができていた。

 

 それがなくなれば、グァルタも息を吹き返す。

 

 

「オ゛オ゛―――O゛O゛O゛O゛O゛O゛O゛!」

 

 

 文字にできないほどの奇声、あるいは気勢を発しながら反撃開始。強力な乱撃を繰り出す。

 

 サリータがカバー。攻撃をすべて受け止める。彼女のほうは戦艦側にあった新しい盾なので損耗は少なく、まだまだ耐えられるようだった。

 

 

「サナ様、大丈夫ですか!?」

 

「…こくり。ふー、ふー!」

 

 

 サナはサリータの背後に隠れてやり過ごす。

 

 しかし、息が荒い。顔も汗びっしょりで、体力の限界が来たのは疑いの余地もない。魔石も輝きが弱く、かろうじて発光しているだけとなる。

 

 戦況が有利だったのは、サナがグァルタを翻弄していたからだ。その彼女が動きを止めれば戦場すべての流れが逆になる。

 

 他の魔獣たちの攻撃も苛烈になり、ついに騎士たちの防衛線を突破してサナたちに殺到し始める。

 

 

「お前らが触れてよい御方ではない!」

 

 

 サリータから巨大な戦気が噴き上がり、それが火炎へと変化。円拡盾によって全方位をガードしつつ、広がった力でサナも覆うように守る。

 

 拡盾には炎の力が宿っているため、そこに触れた蜘蛛たちは燃え上がって真っ黒に炭化していく。

 

 円拡盾の属性強化版、『火円拡盾(かえんかくたて)』。因子レベル2で使える技である。

 

 魔人化したことでサリータの力が引き出された結果だろう。もともと『炎の体育会系』というスキルを持っているため、彼女自身は火属性の資質があったと思われる。それが開花したのだ。

 

 サリータは、前からグァルタ、他方向から蜘蛛に攻撃されながらも、サナを必死に守る。

 

 

(命をかけてサナ様を守る! その気持ちが自分を強くする!)

 

 

 サリータの魂が燃えていく。自分が今まで求めてきた充実感が、今ここに満ちているからだ。

 

 その心の波動は、アンシュラオンの霊を通じてサナにも伝わる。

 

 

「…ふーー、ふーーー、ふーーー!」

 

 

 サナの魔石が光り、青い狼が出現。

 

 魔石の制御が甘くなると彼女を守るために出現したことは、これまでも何度かあった。

 

 だが、今回は少し様子が違う。

 

 

 青雷狼が―――サナと融合を開始

 

 

 サナを守るように身体を丸めて抱きしめると、狼の形が崩れて体表にまとわりつく。

 

 頭を覆う雷は耳と牙が生えたように尖り、身体を覆う雷は逆立つ毛を表現したかのように伸び、両手足は爪がそなわっているかのように鋭く変化。

 

 身体を覆う雷自体は同じだが、その形態が『鎧』になったのだ。狼の外見を残しているので『雷狼化』と呼んでも差し支えないかもしれない。

 

 この『雷狼化』は新しく芽生えた能力ではなく、サナのステータスの魔石の項目にも同じものがあったため、そのスキルが使えるほどシンクロ率が高まったと考えるべきだろう。

 

 思えば最初にサナが魔石を発動させた時も、黒雷狼が鎧のように身体にまとわりついていた。おそらくはあれが本来の形態なのだと思われる。

 

 ただし、まだそこまで密度は高くはないため、半透明の雷の鎧に包まれているように見える。

 

 

「…ふー、ふーーー!」

 

 

 雷狼化したサナが駆ける。

 

 まさに獣が駆けるごとく四足に近い体勢でグァルタに接近すると、手にまとわりついた鉤爪、雷爪で切りかかる。

 

 ズバッ バチーーーンッ

 

 雷爪は相変わらずの威力でグァルタの皮膚を切り裂くと、内部に雷撃をお見舞いした。こちらは以前と変わらない威力だが、雷が反物質化しているため強度が上がっており、剣先に近い使い勝手になっている。

 

 グァルタが腕を振るって反撃。しかしサナは、その腕にしがみつくように回転して回避。お返しとばかりに蹴りで腕を切り裂く。

 

 足のほうにも両手と同じように雷爪が装備されているため、蹴りでも高い攻撃力を維持できるのが強みだ。

 

 さらに攻撃力はもちろん防御力も上がっている。グァルタの攻撃をあえてギリギリで受け、強烈なカウンター!

 

 雷爪はグァルタの筋肉すら抉り、傷口から紫色の血液が噴き出す。十分な威力だ。

 

 サナはここから猛攻を開始。

 

 殴り、蹴り、抉り、ひたすら切り刻む。

 

 サリータとの連携もばっちりで、刀の攻撃が雷爪に変わっただけで再び流れを引き寄せていく。

 

 しかし、より身近な存在となったサリータだけは、サナの現状に気がついていた。

 

 

(このままでは駄目だ! サナ様の『命気』が切れてしまう!)

 

 

 魔石のエネルギーはすでに切れていた。ならば、この力はどこから出しているのだろうか。

 

 それは当然ながら『命気』。

 

 アンシュラオンがサナの生命維持のために用意していた高純度のエネルギーを吸収して動力にしているのである。

 

 他の魔獣からエネルギーを吸収する手段もあるが、命気が上等すぎて舌が肥えているし、効率を考えても一番優れた力なのだ。致し方ない選択肢といえる。

 

 だが、それももう尽きようとしていた。雷狼化は強い力だが、それだけエネルギーも使ってしまう。

 

 

 

 そして―――からっぽ

 

 

 

「………」

 

 

 完全にサナが停止。

 

 目も虚ろで身体中からも力が抜け、立っているのがやっとの状態に陥る。

 

 サリータがガードしているからこそ無事だが、ここで攻撃を受けたら命すら危うい。

 

 唯一の幸いは、雷狼化した際の猛攻でグァルタもダメージを負っていることだ。クシャマーベの援護もあって反撃はそこまで苛烈ではなかったが、サナは動かないままである。

 

 

「サナ様! サナ様、ご無事ですか!」

 

「………」

 

 

 サリータの呼びかけにも応えない。まさにすっからかんになる。

 

 だが、生物としての生存本能は生きることを求める。生きる意味を求める。

 

 

 

―――「サナ」

 

 

 

 自分をサナと呼んでくれる人が、それを教えてくれると言った。

 

 一緒に寝て、触れてもらって、愛されて、毎日毎日彼という力を注がれて、黒い少女の中には確実に『意思』が宿りつつあった。

 

 

「…はぁはぁ…はぁはぁ…」

 

 

 ぼんやりと目の前の状況を見つめる。

 

 サリータが自分の代わりに戦っている。自分が見つけた騎士が、信じた騎士が、期待通りに守ってくれている。

 

 熱い意思が伝わってくる。彼女は自分と違って真っ直ぐに意思を表現することで力を発揮しているから、よりわかりやすい存在だ。

 

 少女も、戦いたいと欲した。

 

 自己のためだけではなく、自分の周りにいる自分に感情を与えてくれる人たちを守りたいと思った。

 

 それは紛れもなく意思。戦おうとする理由。

 

 

 

―――力が、欲しい

 

 

 

 少女は探す。戦うための力を探す。

 

 刀は折れた。もう使えない。

 

 魔石は力を失った。狼は眠ろうとしている。もう使えない。

 

 それ以外の武器は有効打にならない。もう使えない。

 

 探す、探す、探す、何かないかと探し続ける。

 

 

「…じー」

 

 

 その目が、目の前にいるサリータを捉える。

 

 彼女がここまで戦えているのは、溢れ出ている白い力があるからだ。それを吸収すべきか? 否。それは自分には合わない。

 

 彼が与えてくれる『白』は自分の『黒』を照らすが、対照的であるからこそ価値がある。自分が白に染まっては価値がなくなる。

 

 より彼に愛されるためにはどうすればいいのか。

 

 もっと強くなるためにはどうすればいいのか。

 

 彼が求める強さを得るためには何を使えばいいのか。

 

 

「…?」

 

 

 ふと、思った。

 

 あの白い光はどこから来ているのだろうか、と。

 

 最初はドス黒いものだった力が、彼の力によって昇華されて白い力となった。そうであるのならば大本は黒いものだ。

 

 では、そのさらに前、ドス黒いものは何から生まれたのだろうか?

 

 子供が「なんで?」「どうして?」を繰り返し、仕舞いには「どうして人は生まれてくるの?」「なんでこの世界があるの?」という問いに親が困るように、あの黒いオーラの源は何だろうと単純に考える。

 

 だから実際に【辿って】みた。

 

 彼がくれた力は、この少女の中に宿っている。吸収している。それを直接辿ってみれば力の源泉にたどり着くはずだ。

 

 奥に、奥に、奥に潜る。

 

 黒い力は、どうやら一つの『メビウスの輪』から出ているようだった。おそらくは彼が力を出すときに回転させている『因子』がこれだ。

 

 これならば自分も使えるのではないか?

 

 そう思った少女は、その輪を回し始める。最初はゆっくりと、少し勢いがついてからは思いきって回す。

 

 回る、周る、廻る!

 

 少女の中で因子が廻っていく。

 

 

 ゾワリ

 

 

 少女の身体から黒い力が溢れ出た。

 

 感情の力が乏しいからだろうか。目の前の銀髪の女性のようなドス黒いオーラにはならなかった。ただただ黒い力が湧き出てくる。

 

 なるほど、たしかに強い力だ。彼ほどではないが自分もまたこれを扱えることがわかった。

 

 

「…?」

 

 

 しかし、ここで少女はさらに疑問に思う。

 

 では、この因子は何から出来ているのだろうか?

 

 どんな原理で力を引き出しているのだろうか?

 

 その源泉は何なのだろうか?

 

 子供の問いと同じく、さらにさらに疑問に感じたままに潜り続ける。

 

 遺伝子の配列、潜在意識、さまざまな秘匿されている情報を超え、その意識はついに三次元を超えて四次元を突破。さらに上がっていく。

 

 昇る、昇る、潜る、潜る。

 

 両者は違う言葉であるが同じ意味だった。

 

 実はこの時、サナの術士の因子が急速に動き出し、『ダイブ』に近い状態を生み出していたのだ。

 

 それは無意識だったからこそ奇跡的に成功し、いつもならば絶対に立ち入れない領域に触れることができた。

 

 そこで彼女は視た。

 

 

 黒い、黒い―――『意思』を

 

 

 それは自分の黒とは違い、すべてを吐き出す『何か』であった。

 

 その何かは世界のいくつかのポイントと繋がっているようだった。そこに向けて力を放出し続けている。

 

 それは何であるか、という問いには答えられない。それ自体が知らないことは理解できないからだ。

 

 サナはこの瞬間、【禁忌】に触れた。

 

 それだけは知ってはいけなかった。理解してはいけなかった。

 

 だからこそ黒いものはサナを視た。視るために自我を生み出すことになった。

 

 

〈魔人因子を辿ってここまで来たか〉

 

 

 独りの男が立っていた。外見はどうでもいい。それに意味はないからだ。

 

 重要なことは、その黒い意思がサナと接触を試みたことだ。普段はそんなことはしない。資格ある者が『真理に則って』干渉してくれば、それに応えるだけの存在である。

 

 それが形を成した。それにこそ意味がある。

 

 

「………」

 

〈意思無き者。虚ろなる者。欠けた魂の末路。【失敗作】の成れの果てが迷い込んだようだな〉

 

「………」

 

〈よかろう、資格を与えよう。誰であれ、ここに至った者には『求める権利』がある〉

 

「………」

 

〈汝は何を欲する?〉

 

「………」

 

 

 

―――あの人と一緒に

 

 

 

 それはとても小さいものだったが、黒い少女にとっては心に芽生えた大切な『意思の欠片』だ。

 

 少女が意思を発したことで―――応える

 

 

「求めるのならば与えよう」

 

 

 男の姿が消える。すでに必要なくなったので消失したのだ。

 

 代わりに黒い大きな存在がサナと接触し、そこに回線を生み出す。

 

 より彼と繋がるように。

 

 より魔人と繋がるように。

 

 より彼の愛に応えられるように。

 

 

 

「―――っ!!」

 

 

 

 サナの意識が戻ると、突如として魔石が黒い輝きを発する。

 

 廻る、廻る、因子が廻り続け、力を与え続ける。

 

 バチンッ バチンンッ!!

 

 だが、それは同時に雷でもあった。眠りにつきそうだった青い狼が、その波動に包まれて黒い雷を帯びる。

 

 それは黒い雷の狼、【黒雷狼】の姿。

 

 マザーによって封じられた黒雷狼が再びサナの前に姿を現した。しかし、以前のような凶暴な状態ではない。手当たり次第に周囲を破壊する化け物ではなかった。

 

 大きさは前より小さくなっており、力と圧力が何十倍にも増加しているだけで、見た目は青雷狼と大差はない。

 

 黒雷狼は黒い少女の前にかしずくと、静かに頭を差し出し、完全に服従する姿勢を示す。

 

 

 姫が―――『黒き守護者』に触れる

 

 

 すると狼の形が崩れ、黒い力が身体に絡みついて全身を覆う。

 

 これはさきほども見た雷狼化と同じ現象であったが、力の源泉が違った。

 

 

「―――っっ!! っっっっっ!!」

 

 

 声にならない声が響いた。

 

 サナは口を開きながらも何かを訴える。当然声は出ていないが、身体の奥底、魂の奥底から湧き上がる強い感情を叫ばずにはいられない!

 

 

 瞳が―――赤に染まる!

 

 

 身体から力が溢れ出てくる。疲れもまったく感じなくなる。存在そのものが変わっていく感覚が全身を貫いた。

 

 サリータ程度でさえ『魔人化』したのだ。ならばアンシュラオンが考えていたように、一番愛されているサナが魔人化しないとは限らない。

 

 その兆候はすでにあった。初めて魔石が発動したローダ・リザラヴァンとの戦いをアンシュラオンは見ていないから知らないだけだ。

 

 だから、ここでサナに魔人の力が宿ってもおかしくはない。

 

 廻る、廻る、もう一つの因子が廻る。

 

 サナのユニークスキルである『トリオブスキュリティ〈深遠なる無限の闇〉』が廻る。

 

 バチバチバチッ ジュウウウウ

 

 

「………」

 

 

 『黒雷』が収束し、サナが『黒雷狼化』を果たす。

 

 趣はさきほどの雷狼化に若干似ているが、全体的にパーツはすっきりとしており、サナの愛らしい顔はしっかりと見ることができる。

 

 黒い狼の耳、両手足の黒い鉤爪、普段着ているロリータ服に似た胴体の形状を含め、アンシュラオンの願望「オレが考えたサナちゃんの可愛い最強装備!」が具現化したようなデザインとなっている。

 

 サリータが『魔人の騎士』ならば、サナは『魔人の姫』と呼ぶに相応しい姿だ。

 

 ついでに尻尾も付いているが、身体全体に黒雷をまとっているために触ると非常に危険だ。絶対アンシュラオンは触るだろうから感電するに決まっている。

 

 まあ、その当人がいないので、それ以前の問題ではあるのだが。

 

 なぜこうなったかといえば、アンシュラオンの意思が反映された形になったからにほかならない。

 

 サナにとって、それが【愛のすべて】。

 

 アンシュラオンの愛が魔人の力と合体したからこそ、この魔人の姫が生まれたのである。

 

 

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