【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
戦艦側が脱出を開始し、グァルタたちと交戦している頃。
アンシュラオンとガンプドルフも女王蜘蛛との最後の戦いに臨んでいた。
さきほどの『闘魂注入』によって女王はやる気満々。準備は万端だ。
「アタッカーは任せたよ。オレは敵の妨害を担当する」
「了解した」
ここで二人の役割がはっきり決まる。
剣士かつ魔人機乗りで、聖剣を発動させたガンプドルフは生粋のアタッカーだ。攻撃バフ盛り盛りの状態である。
それに対して生身かつ防御寄りのアンシュラオンは、必然的にサポート役となる。
最初に仕掛けたのは、闘争本能が刺激されている女王蜘蛛。
全方位に砲弾をぶち込む!
ここは彼女の巣穴なので何をしてもいい。所かまわず蜘蛛砲弾を撃ち込んできた。
「景気がいいね。でも、そんなものは通用しない」
アンシュラオンが前に出ると、魔人機を覆い尽くすほどの水泥壁を生み出す。
砲弾は水泥壁に当たると失速し、水中で動きを止めていく。命気結晶を散りばめることで防御力を増した特別製のため貫通は許さない。
(クロスライルの銃弾とほぼ互角の威力だな。この場合、どっちを褒めればいいんだ?)
彼と違って時間操作はないのでタイミングは完璧に把握できる。その意味では楽だが、ノーリスクで全方位に撃ち続けられることを考えれば、女王もまた怖ろしい相手だろう。
しかし、すでに撃滅級魔獣を想定しているアンシュラオンには通じない。クロスライルに好きにやらせたのは彼の能力を見極めるためであり、女王蜘蛛に関してはその必要性はない。
砲弾を防いだならば今度は攻撃だ。間髪入れずゴールドナイトが突っ込む。
「ぬんっ!」
界気をまとったライトニングソードが、女王の身体を断ち切る。
が、さすがにサイズが違う。
女王は二百メートル以上の巨体。そのダメージは微々たるものである。『完全自己修復』のスキルもあって即座に回復される。
再び女王の全方位攻撃のお返し。砲弾がばら撒かれる。
こちらもアンシュラオンによって再度防がれるが、これを続けているとゴールドナイトのほうがもたない。
さきほどの一撃も、砲撃を気にして全力で斬り込めなかったことが威力低下の原因なのだ。
「砲台はオレが潰すから、おっさんは力を溜めておいて」
「任せる」
「モグマウス、戻ってこい」
まずは周囲に展開させていたモグマウスをすべて集め、エネルギーを回収。
いつもやっていることなのでわかっていたと思うが、万一のためにモグマウスを放っていたのだ。戦艦側にも最悪の場合にそなえて数匹は待機させている。
では、再びモグマウスを放つのかといえば、そうではない。
モグマウスの役割は、あくまで地中に潜って相手を索敵することである。そこらの魔獣ならば簡単に駆逐できるほど強いにもかかわらず戦闘要員ではないのだ。
(このレベルになるとモグマウスでは性能不足だ。もう一段階戦闘特化しないと駄目だな。じゃあ、あれにしておくか)
アンシュラオンが、命気を使って新しい下僕を生み出す。
その姿はモグラよりも大きく、鋭い爪と牙が生えた【虎】であった。
全体的に本物の虎よりシャープになっており、スタイリッシュなので豹っぽくも見え、背中には命気結晶で作ったウィング状の刃が付いているのが特徴だ。これは命気結晶が武器に使えることがわかったため、追加で加えた武装となる。
また、命気以外の気質で作れば、その影響を大きく受けることになる。たとえば火気でこれを作れば、触れただけで相手を燃やせる火の虎となるだろう。
ただし、その場合は命気結晶との相性が悪くなるので、基本はすべて命気で作るのが汎用性があって使いやすい。(回復用にも使える)
その虎に似た命気獣『
「命虎、あの蜘蛛の砲台を喰い散らかせ!」
「にゃーー!」
そして、なぜか鳴き声は可愛い猫である。
単純にアンシュラオンが猫好きなだけで深い意味はないが、可愛い声とは裏腹に大地を素早く駆け抜ける速度は、モグマウスを数段上回る!
命虎の群れが縦横無尽に襲いかかり、爪や牙、背中のウィングで女王の砲台を切り裂いていく。
互いの連携も完璧。必ず五頭一組で動き、高い場所へは一頭が踏み台になって仲間を上に押し上げたりもする連携プレーを見せる。
そして当然、攻撃力も高い。今回はウィングも装備させているので、思った以上の破壊力で女王のHPを削っていく。
だが、相手もそのままではいない。
命虎の攻撃時に、キキキンッと甲高い音が交じってきた。
見れば、女王の身体には光沢感が宿っている。『外殻鉱物化』のスキルだ。
これは食べた鉱石を体内で化合して、強固な鎧を構築するものである。蜘蛛は身体が脆い傾向にあるため、このスキルは弱点を補うことができる優れたスキルといえるだろう。
女王の反撃。全体攻撃を仕掛ける。
しかし、砲撃ではない。『支配糸』を高速で射出する。
この支配糸は、少しでも触れれば半物質体を経由して精神に介入し、一気に支配下に置くというものである。つまりは精神術式と同じだ。
サナのサンダーカジュミロンが咆哮によって精神を砕くのに対して、女王は糸を媒介に支配しようとしてくる。
「悪いね。それも通用しない」
防御はアンシュラオンの真骨頂。命虎たちが射線上に躍り出て、自らを盾とする。
彼らは命気そのものであるので糸を受けても精神に介入されることはない。それで防げないものはアンシュラオンも念糸を放出して相殺。
(前より感覚が鋭くなっている。精神系の魔獣の攻撃も脅威には思えない。さっきのジュエルのせいか?)
『影』によって無理やりやらされた術式解除のほうが何倍も難しかった。そのせいで感覚がブーストしているのか、精神特化の女王の精神攻撃すら難なく受け止める。
こうして攻撃を完全に防いでくれれば、今度はガンプドルフの真骨頂!
「はぁあああああああ!」
背中の翼が一層輝き、超加速!!
それはサナの動きすらスローモーションに感じられるほどの速度。
聖剣によって加速された一撃が、炸裂。
剣王技、雷王・
因子レベル6で使える界気を利用した技で、ガンプドルフにとっては雷王・麒戎剣すら超える聖剣使用時限定の大技である。
アンシュラオンが時間を稼いでくれたので、剣には十分な界気が宿っていた。
女王はすでに外殻を強化していたが―――強引に断ち切る!!
ズシャーーーーッ ブシュウウウ
より鋭く集約された界気は、鉱物化した外殻をバターのように切り裂いた。
それによって女王の身体の三割が、ぱっくり割れる。
そこにアンシュラオンの追撃。水覇・
グマシカが使ってきた技だが、当然ながらアンシュラオンも修得しているものだ。だが、グマシカのものとは威力そのものが違うし、何よりも遠隔操作ができる。
ガンプドルフが放った轟雷を巻き込むように包み込み、水雷の螺旋が女王の体内を蹂躙。内臓を破壊しながら焼く尽くす。
しかしながら女王のスキル『完全自己修復』によって、再び急速に傷が塞がっていく。
『自己修復』はデアンカ・ギースも持っていたが、その上位版なので再生も異様に早い。姉のパミエルキも持っている上級スキルなので厄介だ。
「アーシュラ!」
ここでアンシュラオンは、攻撃の圧力を高めるため『闘人アーシュラ』を生み出す。
アル先生に使った未完成の闘人ではない。巨大な
闘人に武器を持たせる『武装闘人』という技で、鏡体と同じく闘人操術の奥義の一つである。
生み出されたアーシュラが、巨大な剣を振るう!
スバーーンッ!!
それによって女王蜘蛛の頭部が、真横に半分に切り裂かれた。
そこにガンプドルフの攻撃が続く。切り裂かれた頭部を、今度は縦に切り裂く。
これには女王蜘蛛もたまらない。
思わず後退する、ように見せかけて『奥の手』を発動。
―――部位自爆
自らの身体の一部を弾丸として使い、より強力な砲撃を加えるものだ。
当然身体が破損するので多用はできない。だからこその奥の手である。
だが、強い魔獣になればなるほど奥の手を持っていることをアンシュラオンは知っている。今までの蜘蛛の行動を把握していたこともあり、この動きを完全に読みきっている。
ガンプドルフに向かう砲弾はアーシュラに受けさせ、自身はすでに背後に回っていた。
「最後の削りをさせてもらうよ!」
右手で、水覇・
左手で、水覇・
右手の水覇・硫槽波で酸のダメージを与えて脆弱になったところを、左手の水覇・渦鉋で削りまくる。
蜘蛛の襲撃を受けた際もさりげなくやっていたが、アンシュラオンは両手で別々の技を使っている。
これは二つの技が自身の因子レベルを超えない範囲で発動が可能な、達人を超えた超人だけが使うことができる『同時発動』という高等技術だ。
双因剣が異質な技なのは二つの因子を同時起動するからであり、戦士因子内だけならば同時発動はそこまで難易度が高いわけではない。
しかしながら技を二つ同時に扱うからといって強いとは限らない。余裕なく放った二つの不安定な技より、万全で放つ一つの普通の技のほうが効果的なこともある。
ただし、ベテランのアンシュラオンが使えば、その効果は単純に二倍。
業務用の機器で大根がおろされるように、凄まじい速度で身体が削られていく。
その後も二人は、絶妙なコンビネーションで女王を圧倒。
女王の強さは四大悪獣を超えている。再生能力も高いため、そこらの軍隊ではまず勝つことは不可能だろう。
それをたった二人で圧しているのだ。事実ゴールドナイトは女王との戦いでは、ほぼ無傷である。
(なんて快適な戦いだ! こんな一体感は味わったことがない!)
ガンプドルフは、あまりの感動に心が奮えていた。
目の前の少年は自分が何をしたいのかわかっているかのように、阿吽の呼吸で動いてくれる。
攻撃をすれば、その意図と意味を的確に感じ取り、理に適った技で援護をしてくれる。
相手が反撃してくれば即座に防御陣を形成し、代わりに守ってくれるため、ひたすら攻撃に専念できる。
流れるような一体感と連携合体攻撃が、次々と繰り出される。こんなことは魔剣士同士でも滅多に味わえない共鳴現象である。
それをこの少年は何の打ち合わせもなくやってのけるのだ。戦いの感覚だけで合わせてきてくれる。こんなに心地好いことはないだろう。
そして、その気持ちはアンシュラオンも同じ。
(面白い。これは面白いぞ! おっさんがオレの動きについてくる! こんなことは初めてだ! 姉ちゃんやゼブ兄とも違う。オレと力が近いから呼吸が合うんだ)
下界に降りてから自分より強い相手に出会ったことはない。それは今でも変わらない。
しかし、自分に近い実力を有する者が、ようやくにして現れた。
聖剣と魔人機という希少な武器を使ってようやく対等だが、それでもまったくかまわない。同じことを考え、同じように動ける相棒がいることは、こんなにも快適なのだと知る。
姉やゼブラエスでも同じことができるだろうが、今度は逆にアンシュラオンが足手まといになってしまう。それでは姉たちの実力を殺してしまう。
それが、このコンビならば生かし合うことができる。
雷の攻撃と水のサポートの相性も抜群だ。相乗効果で何倍にも力を発揮できる最高の組み合わせであった。
「おっさん、決めるぞ!」
「応!」
アンシュラオンが爆発集気。
ガンプドルフも聖剣の力を集中させている。
その間の防御は命虎に任せ、必殺の一撃のタイミングを合わせる。
まずは闘人アーシュラが玉砕の一撃。
剣を女王に突き刺しつつ、部位自爆に巻き込まれてボロボロになって消失する。
これでいい。闘人の役割は最初に突っ込んで、相手の隙を誘発することだ。闘人が強力であればあるほど無視することはできず、嫌でも対応するしかない。
次に本体であるアンシュラオンが突っ込み、技を放つ。
(『完全自己修復』が邪魔だ。倒すために破壊する必要があるな。あまり時間をかけたくない。少し強力な技でいくか)
アンシュラオンが、両手に【滅属性】のエネルギーを集める。
莫大な戦気のエネルギーを吸わせ、集め、集め、集め、超圧縮する。
その二つを―――合掌
融合しつつ反発し合う力が蠢き、空間が歪むほどの圧力を持つ球体が生まれる。
それをアーシュラが抉ったポイントに正確に―――叩き込む!
至高技、『
超圧縮した滅属性のエネルギーを融合させ、急速膨張させることで敵を滅する因子レベル8の大技である。
これが至高技になっているのは、当然ながら非常に難しい技だからだ。
片手に集めた力だけを取り上げてみても、これをもう少し圧縮すれば覇王・滅忌濠狛掌になるほど強力な破壊力だ。そんなものを両手で扱う段階で、非常に繊細な戦気術の制御が必要になる。
インパクトの瞬間も難しい。あまりに強力なので少しでもタイミングがずれれば、自らの両腕を失う羽目になるだろう。
(豪覇系は怖いんだよな。だが、その分だけ威力が凄まじい。スキル破壊に関しても文句のつけようがない)
【豪覇】と呼ばれたかつての覇王は、滅属性のエキスパートとして敵を滅する技だけを練り上げた男として有名だ。
滅属性の力は、クロスライルやファテロナも使っていたが、まさに相手を滅するためだけに存在する波動である。彼ら程度であれだけ強いのだから、極めたらとんでもないことになるのは明白だ。
アンシュラオンの滅属性はまだ覚醒していないが、それでもこの威力。
女王が―――消失
叩き付けた箇所から直径四十メートルが、完全に消し飛んでしまった。
さらに烈波と名が付いているように技の余波が発生。
細かい粒子となった滅エネルギーが、女王の身体をズタボロにする。
この技で攻撃された箇所は『防御スキル全般』が破壊されるため、スキルによって再生することはない。治すには命気か術式による修復、あるいは再度のスキル構築が必要だ。
ゴポッ ゴポポッ
しかし、それでも女王が再生しようとする。
(スキルが破壊されているのになぜだ? 何がこいつに力を送っている? …あれか! あのジュエルだ!)
女王の身体の中央には、大きな【紫色のジュエル核】があった。
最深部にあった巨大ジュエルを女王が食べ、体内で再構築したエネルギー体と思っていいだろう。心臓と融合しているので、もはやあれが彼女の本体と言っても差し支えない。
「おっさん! あれを―――」
と叫ぶ必要はない。
すでにガンプドルフは剣に聖剣の力を集めて切りかかっていた。
その刀身は、まさに雷神の如く輝き、身震いするほどの力に満ちている。
紅蜘蛛を倒した時と同じく剣は溢れるエネルギーで肥大化しており、まさにスーパーロボットの必殺剣を彷彿させる。
「聖剣の一撃を―――くらええええええええええ!!」
閃光に近い雷光を―――【一閃】!!
ズバァアアアアアアアアアッ!!
ジュエル核に向かって、今必殺の雷神剣を叩き込む!!
聖剣にはBPを攻撃力に転化するスキルがある。ゴールドナイトのエネルギーに加え、ジュエル・モーターによって増幅されたガンプドルフのBPをすべて乗せているため、その攻撃力はSSSを突破。
「斬!!」
バキバキバキッ
ジュエルに亀裂が入り
バリィイイイインッ!!
完全に砕け散った。
その瞬間、ズォオオオオッと女王から何かが抜けていくのがわかった。
彼女にかけられた【古の契約】が終了したことを意味する【終焉の儀】。
前文明の超越者たちと交わした契約が、ここで断ち切れる。
女王の最期は、美しかった。
身体中から思念糸が放出され、彼女に託された想いが華のように開いて、泡沫のように少しずつ消えていく。
その中には、『彼女』との思い出もあった。
魔獣と人間が心を通わせることができることを証明した、たしかな絆。
それもまた歴史の大河の中に消えていく。すべての歴史は数多の生命の想いから生まれているのだ。
愛が、夢が、激しい情熱と闘争が世界を作っていく。
(この世界は強い者が勝つ。それが世の摂理だ。だが、お前の存在が無駄になることはない。その想いも力もオレが全部もらってやる。だから安心して死ね)
アンシュラオンは、その想いを吸収してまた強くなる。
ただの魔人ではない何かになっていく。
「少年!」
ゴールドナイトから降りてきたガンプドルフが、大きく手を振り上げる。
「おっさん」
自然と自分も手を振り上げる。
バッチィイーーーンッ!!
強烈なハイタッチ。
身長差はあったが、両者の気持ちが一つになった心地よいものであった。
英雄二人並び立てば、できぬことは無し。
そこに王がいれば、国すら興る。
これが荒野開拓の新なる一歩。戦艦救出作戦がついに終わりを迎えたのであった。