【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
少女はいくつもの空間を超えて、無限の過去と未来を垣間見る。
それらはことごとく幻であるが、起こったことと起こるかもしれない可能性が重なった無限の世界であり、絡み合う記憶の粒子が万華鏡のように美しく輝いていた。
儚く散っては流れる『泡沫の夢』をいくつも堪能しながら、最後に少女がたどり着いた場所は、その中でもっとも奥深くに沈んだ世界。
至る所に最高級のジュエルを惜しみなく使った【巨大な大都市】が見える。
中央にある巨大なタワー状の城を中心に、十六の通りが外側に向かって広がっており、それぞれがグラス・ギースより何倍も大きな都市として機能している。
それ自体も凄いのだが、この都市の最大の特徴は『空中に浮かんでいる』ことだろうか。
支柱や橋で大地と接地している部分もあるが、ほぼ完全に浮いているといって問題ないだろう。大地にはいくつもの巨大なジュエルが配置されて光っているので、おそらくは術式を使っていると思われる。
大都市のさらに上空では数多くの飛行型魔獣が飛んでいた。どうやら魔獣を支配し、配送や交通機関として使っているようだ。
そうした普通の魔獣以外にも、大都市の外には大型の魔獣の姿も見受けられ、竜型、獣型、虫型、巨人型、多種多様な魔獣たちが跋扈している。
彼らは人間の敵ではない。大都市防衛のために配置されている『兵器』である。
どう見ても撃滅級魔獣であろう強力な個体もいるが、意思なき人形のように静かに命令を聞き、極めて従順な姿勢を見せている。
大都市の防衛には機械兵器も使われており、砲台やら戦艦やらがあるのは今と同じだが、目を見張るほどの大量の『魔人機』が配備されていた。
いや、よく見ればそれは魔人機ではない。【神機】だ。
人界の兵士階級の神機が数多く見られるが、騎士階級の神機も多数おり、その上の女王階級、王階級の姿も少数ながらいるようだ。獣界、竜界、精霊界と珍しいタイプの神機も確認することができた。
さらに彼らが持っている武具も異常。そのどれもが『聖剣』や『魔剣』、あるいはそれに匹敵する装備を整えているのだ。
ガンプドルフのゴールドナイト一機だけ見ても、あれだけの力だ。それが何千、何万と存在するのならば、本当に世界の覇者になれるかもしれないと思うだろう。
その認識は正しい。
かつて世界を席巻し、支配した国があった。
今、少女が見ている大都市こそ、超大国イーアウェパスの首都―――
イェテルノース・アジテーラ・ウェパス〈我、永劫に神を超えたりし〉
あらゆる富、あらゆる技術、あらゆる力が集まる世界の中心地なのだ。
「ここも変わらないなぁ」
少女はそう呟きながら地面に降り立つと、楽しそうに都市を歩いて回る。
都市は異様な賑わいを見せており、物に溢れて人々が享楽の日々を送っていた。
昼間から酒を飲んで酩酊する者、暴飲暴食で腹が膨れた者、性的な刺激を求める者、高価な衣類や宝石を追い求める者、暴力衝動を発散させるために奴隷を買って痛めつける者、何もしない者、馬鹿にする者、無意味な知識をひけらかして無知をさらけ出す者。自殺する者。
取り上げればキリがないほど、そこは人間の欲望で塗れていた。
通り過ぎる者の中には身体半分が魔獣のような者、あるいは傀儡士が操っていた機械人形に似た何かも平然と歩いている。
誰もが特に反応していないことから、ここでは珍しくもない光景なのだろう。
そんな中、酔った男が少女にぶつか―――らない
すっと両者の身体が何事もなくすれ違い、男は不思議そうに首を傾げながらも、またふらふらと歩いていった。
少女もまた何事もなかったように都市を進んでいく。
そして都市の最上部であり、最奥にある巨大なタワー型の城にやってきた。
見た目は螺旋を意識した曲がりくねった奇抜なデザインで、どこぞの前衛芸術家が作ったようにさえ思える。しかし豪華絢爛なのは間違いなく、圧倒的な存在感をもって君臨していた。
もっとも重要なことは、その城すべてが『オリハルコン〈黄金の羊〉』で出来ていることだ。
オリハルコンはよく伝説上の金属としてファンタジーに出てくるが、この世界では『半有機的物質』と呼ばれるもので、名前の通り有機的な側面と無機的な側面を併せ持った非常に希少な金属だ。
超一流の錬金術師が、何百年もかけて数十キロしか作れないといわれているものであるため、このような巨大な城を造るには、いったい何百万人の錬金術師が必要になったのだろうか。
だが、オリハルコンにはそれだけの価値があった。
この金属を介して発する波長は、地上の物質だけにとどまらず、幽的次元を超えて霊的次元にまで干渉することができる。
それを正しく扱えれば霊界との素晴らしい関係が築けたかもしれないが、この都市の実情を見れば、それが真逆の目的のために使われたことがわかるだろう。
「やぁ、久しぶり。いきなり来て悪いね」
城の入り口には、一人の女性が立っていた。
ジ・オウンが彼女に向かって親しげに手を振る。どうやら旧知の仲のようだ。
見た目はまさにアンシュラオンが好みそうな三十代の妖艶な女性で、整った顔立ちに潤んだ瞳、豊満な胸、肉厚な太もも、どれもが高得点を獲得しそうな絶世の美女である。
それが普通の人間と違うのは、黒い翼と角、尻尾がそなわっていることだろう。我々がイメージするサキュバス、または女性悪魔に似ている。
だが、紳士諸兄の皆様方が鼻の下を伸ばしていられるのも、そこまでだ。
彼女の背後には青黒く巨大な鬼の顔と、いかつい腕が浮かんでおり、地獄の閻魔様のようにこちらを睨んで威圧していた。
これも彼女を構成する要素の一つであり、身体の一部と思ってかまわない。もし迂闊に近寄ればどうなるのか、いちいち語るまでもないだろう。
「これは珍しい。あなたが来るとは、いつ以来でしょうか」
「いつだったかな。ここをキミに任せて以来だから、ええと…一万年くらいは経ってる?」
「13586年ぶりとなります」
「もうそんなになるのか。長いね」
「いえいえ、まるで昨日のことのようですわ。ここは快適すぎて『刻』の流れを忘れてしまいますもの」
「キミにとってここは楽園だったね。きっと楽しい毎日だったのだろう。いいなぁ、ボクは馬車馬のように働いていたのに」
「では、代わりますか?」
「遠慮しておくよ。こんな場所にいたら頭がおかしくなりそうだ。キミは欲望に塗れた街の人々を見ていて飽きないのかい?」
「あれこそが人間の本質であり醍醐味。可愛いものですわよ。私たちには知りえない欲求ですものね」
「趣味もそれぞれってことだね。うーん、まいったな。楽しんでいるところ申し訳ないけど、キミの楽しみを奪うことになるかもしれない」
「封印を解除されるおつもりなのですね」
「もう全部わかっているなら話は早いね。で、どうだろう? キミの意見が聞きたいな」
「そういう【契約】でしたから問題はございません。しかし、『煉獄』を解除すると地上に相当な余波が生まれますよ。煉獄はただの封印ではありませんもの」
「解くといってもすべてを解くわけじゃない。まずは呪詛結界を解除して、それから様子を見ながら順次段階を経てやるつもりさ」
「それでも呪詛が外部に解き放たれることになりますわ。あれは封印しつつ有効活用するものであったはずでしょう?」
「うん、そうなるね。ボクたちが呪詛を管理し、一定のルートで巡らしていたから外には出なかったけど、それをなくすってことは無秩序になるってことだ。ガス管からガスが漏れ出すようなものかな」
「それを知りながら解くとは、やはりお人が悪い」
「人間側が求めたことだもの。ボクらは彼らの意思を尊重するのが仕事だ。どうせ個別に解除していっても、いずれは同じことが起きるしね。それなら暴発する前に解放したほうが安全だろう」
「ジ・オウン、何か良いことでもありましたか?」
「そう見えるかい?」
「今のあなたはとても『人間』らしく見えますわ。それに、すごく楽しそう」
「ふふふ、だって楽しいんだもの。『彼』と一緒の時間軸にいられるのが幸せでたまらないんだよ」
「私の知らないところで面白いことが始まっているようですね。ずるいですわ。私に煉獄を押し付けてあなたばかり楽しんで」
「大丈夫だよ。キミもいずれ出会うことになるはずさ。まだだいぶ先にはなりそうだけどね。そのときはよろしく頼むよ」
「それは楽しみです。呪詛はかまわぬとして『魔神結界』はどうなされます?」
「あれはそのままでいいや。彼ら自身が自らの力で打ち払うことに意味がある」
「了承いたしました。ジ・オウンの御心のままに。では、中にどうぞ」
巨大な門が開き、少女は促されるままに城の中に入る。
まずはさまざまな種族のメイドや執事、騎士たちが出迎える。彼らの中には獣の耳や尻尾が生えた亜人種も含まれていた。
アンシュラオンならば「猫耳モエー」とか言いそうだが、ジ・オウンは彼らをこう呼んだ。
「『欠けた者』を集めるとは、趣味がいいね」
「ふふ、ありがとうございます」
「ちょっとした皮肉だったんだけどなぁ」
「案外、気に入っておりますのよ。見てください。このまったく無意味で無価値なものを。どうやったらこんなものを生み出せるのか、まともな神経ならば理解することはできませんわ。でも、それがいいのです」
美女が廊下を指し示す。
城の中は外よりもさらに豪華で、至る所に絵画や像といった美術品が並べられ、豊かさをこれでもかと見せ付けている。
しかしながら、そのどれもが上辺だけ。見てくれのものである。
外見だけを着飾り、中身はまるでない。外からの評判だけを気にして、その内面をまったく省みない者が好みそうな『殻』である。
美女たちは幸いながらというべきか、まともな神経をしているので、どうあがいてもこんなものを作ることもできなければ、生み出すことさえ不可能だ。
しかし、だからこそ愛しいと言う。やはり彼女も変わり者である。
そこから先は長いので割愛するが、『美女の趣味』を半ば強制的に見せられ、少女が若干辟易しながらたどり着いたのは―――『玉座の間』だった。
巨大なホールの周囲を同じく巨大な異形な石像が居並び、その中央に玉座が存在した。
そこは光だけで作られたかのように真っ白で、天井から常に力が降り注ぐ【超常の頂】であった。
玉座には、一人の異形が座っていた。
頭部は、女性の顔も半分残っているが、もう半分には羽の生えた仮面が引っ付き、長い髪の毛は夕焼け色に燃え盛っている。
胴体は、いくつものジュエルが付いた服は着ているものの、魔獣かと思わしき逞しい身体であり、皮膚は白く硬質化している。
手足は、機械化されていてすでに人間のものではない。数も増えており、手は四本、脚は六本ある。
そして彼女の背後には、身体よりも大きな真っ赤なジュエルが取り付けられており、太陽の如く強烈な放射熱を周囲に撒き散らしている。
〈ううっ……ァァァ……腹……ヘッタ〉
その女の異形は、目の前に置かれた大量のジュエルに手を突っ込むと、口に放り込んでいく。
だが、食べてはいるものの力は漏れ続け、一向に食欲を満たすことはできない。
〈ハラ……へった……ハラハラハラハラ……ハラヘェエエッタアアアアア!!〉
それに苛立ったのか、ジュエルが積まれた容器を蹴り飛ばす。まるで癇癪を起こした子供と一緒だ。
女の異形の声は美しかったが、それもまた見栄えだけ。そう奏でるように造られた声帯から発せられただけのものにすぎなかった。
〈イタイイタイイタイ……クルシイクルシイ……どうして……満たされない! どうして! どうして!〉
女の異形がどんなに暴れようと、どんなに苦しもうと、近くにいた従者であろう異形を殴り飛ばしても、のた打ち回っても、空虚さは何一つ変化がない。
求めても求めても与えられない。得ることができない。
だからもっと求める。求め続ける。奪って奪って奪い尽くしても求める。
それでも何も変わらないから、また悶えて求め続ける。
食欲、性欲、睡眠欲、金銭欲、物欲、権勢欲、自己承認欲、地上の人間が求めるすべての欲を満たす道具が集まっているにもかかわらず、女の異形は何も得ることができない。
そんな彼女の前にジ・オウンが立つ。
すると女の異形は頭を抱え、怯えを伴った怒りをぶつけてきた。
〈ウウッ…ァァアッ! ジ・オウン!! 貴様…貴様ぁぁあ! 悪魔め! アクマ! アクマぁあああ! 死ね死ねシネェェエエエ!〉
「いやいや、いきなり誹謗中傷はおかしいよね? それが久しぶりに会う人に言う台詞かい?」
〈カエセ…! 余の……力を返せ! 夢を返せ!!〉
「夢って、キミがやっていた欲望を満たす行為のこと? それは依然としてここにあるじゃないか。巨万の富、豪華な城、美味しい食べ物、豊かな物品、キミを超常の者と称える者たち。いったい何の不満があるのかな?」
〈クルシイ……ハラがへった…! イタイ…! 快楽を得たい…! コロし…たい! ナマケタイ! ァアァァアッ! 栄華の道を…返せ!!〉
「ははは、それが栄華なの? 馬鹿丸出しだね。キミはここでいったい何を学んだんだい? これだけの時間がありながら何も変わっていない。だからここは【地獄】なんだよ。せっかく煉獄の試練を与えてあげたのに、もったいないことをしたね」
ジ・オウンは異形に侮蔑の視線を向ける。
この異形がこうなったのは、すべて自業自得である。そのうえで更生の道を与えたのだが、当然ながらそれを理解することもできなかった。
「地獄はこれだから困るね。こんな連中ばかりだ」
「簡単に更生できるようならば、最初からこうなってはおりませんもの」
「身も蓋もない話さ。いつまでも虚像に囚われて反省することがない。こんな煉獄が幾多もあると思うと、さすがのボクも少し考えてしまうよ。一万年以上も地獄にいるのに何も学べないとはね。困ったものさ」
「それもまた人間の可能性でありましょう?」
「皮肉のつもり?」
「それが愛ですもの。解放に伴い、『超常王』はどうなされます?」
「そうだね。このまま煉獄にいても反省はしないだろうし、やっぱり魂の解体処分がいいんだろうけど…ふふ、どうせなら再利用したいよね。どんなゴミでもさ、使える部分ってのはあるものだ。魂の核を剥き出しにしてもらえる?」
「わかりました。ラ・ゴウ〈魂を刻む罪鬼〉、やりなさい」
背後の鬼、ラ・ゴウ〈魂を刻む罪鬼〉がのそっと動き出すと、異形の身体がずるずると美女の影から這い出てきた。
顔は般若の如く、身体は光沢を帯びた大量の機械の集合体で、背中にはノコギリや斧、槍、金槌、ペンチといったさまざまな道具や武具を背負っている。
〈ひ、ヒィイイイッ! や、やめろおおお! ヤメロオオオオオ!!〉
超常王は、ラ・ゴウと呼ばれた鬼を見て恐れおののく。
どちらも異形なのでわかりにくいが、どうやらラ・ゴウのほうが彼女よりも何倍も怖ろしい存在のようだ。
必死に抵抗するが、あっさりと鬼の大きな手が超常王を掴むと、手足を引きちぎって頭と胴体だけにする。
それは虫を捕まえて手足だけをもぎ取る光景に似ていた。それほど圧倒的な差がそこにはあったのだろう。
それからいくつもの武器で突き刺したり、叩いたり、抉ったりする。そこに躊躇はまったくなく、ガンガンゴリゴリ作業は進められた。
〈ギャアアアアアア!! イタイタイタイタイタイタイタタタッタッタタア!!〉
見た目の美しさとは正反対の醜い叫び声を上げる。さきほどまでの美しい声は作り物なので、こちらが本来の彼女の声質である。
魂は嘘をつかない。何も隠すことができず本質だけを示す。
ただ、やたら作業が長引いているのは気のせいではないだろう。その様子を見ていた美女の顔はにやけており、悦に浸っていることがわかる。
心の底からその叫び声を愉しんでいるのだ。
「悪趣味だね」
「褒め言葉として受け取っておきますわ。でも、こういった存在への対処は痛みが一番効率的でしょう?」
「まあ、ボクも地獄を作るから否定はしないけど、痛みと虚構が強すぎて自我すら失いかねない魂が多いんだ。しかしまあ、かつて地上を席巻した女王とは思えないほど醜いね。中身はただの俗物だよ」
「ジ・オウンは少し変わられましたね。昔は一緒に喜んでくださったのに。人としての記憶が増えたせいですか?」
「そうかもしれないね。いくつもの人としての記憶を受け取ったせいで、ボクはより人間に近づいているのだろう。『この身体の持ち主』の記憶も影響しているかもしれない」
〈タ、タスケ……テ! ―――!! タスケ…ッテ〉
超常王が、ジ・オウンに手を伸ばす。
ただし、助けを請う相手は違っていた。
「いまさら『娘』に助けを求めるのかい? さすがに都合が良すぎるとは思うけどね。そもそもキミが彼女を利用したのが始まりだ。自分の娘を改造して依代にした報いだね」
ジ・オウンが手をかざすと、玉座の間にヒビが入り、崩れ落ちていく。
超常王の身体にくっ付いていた太陽のジュエルは床の下まで繋がっており、それを辿っていくと植物の根に包まれた球体が存在した。
その中にいたのはジ・オウン―――と【同じ顔の少女】
彼女は完全にジュエルと一体化しており、呼吸もしなければ瞬きすることもない。
が、それでも生きている。
「キミたちは禁忌に手を出した。あらゆる霊的法則を軽視し、自分勝手に振舞った。だから罰が与えられたのに、その意味さえも理解せずに『泡沫の夢』の中でいまだにこんなことを続けている。哀れを通り越して馬鹿としか言いようがないね。だから、キミに相応しい新しい罰を与えよう」
〈ヤメロ…ヤメロオオオ! アクマめ! また壊すノカア!〉
「もうとっくに壊れているんだよ」
突如、大都市が真っ赤に染まった。
敵の襲来を告げる警報が鳴り響き、結界が張られ、迎撃態勢が取られる。
地上では超大国イーアウェパスの下僕たちが果敢に戦っているが、押し寄せる尖兵たちに苦戦しているようだ。
都市を襲う尖兵たちの多くは下位の異形たちだが、人間も交じっている。超大国の弾圧から逃げ延びて力を蓄えたレジスタンスだ。中には神機に乗っている者もいる。
空からも数多くの尖兵たちが押し寄せ、対空兵器による犠牲者を出しながらも、次々と大都市に取り付いて破壊していく。
その中にはグレドガンガシフ〈絶対不死の岩城〉の姿もあった。彼の『本体』は五百メートルを超える巨大な岩城であり、六本腕を使って巨龍種たちを駆逐している。
飛び交う超火力の砲弾、術式、レーザーが入り乱れ、双方に多大な犠牲が出ているのがわかる。
それ以外にも数多くの異形が参戦したため、まさに怪獣大合戦かのごとき様相を呈していた。
超大国イーアウェパスと襲撃者の戦いは、何百年にも及んだ。
戦いが長引いた最大の要因は、彼らが霊的科学技術を使って自らの身体を改造したことが挙げられる。超常王の異形は最初からではなく、後天的な因子改造によって得たものなのだ。
その際たるものが、ジ・オウンそっくりの少女。
蜘蛛の記憶で見た少女の面影を残した彼女から呪詛の力が注がれ、『魔神』と化した兵士たちが激しい抵抗を見せている。それが厄介なのだ。
しかし、幹部級の美女たちが出現してからは一気に戦局が変わった。
今までとは段違いの戦力が投入され、隕石が降り注いで防護結界を破壊。大地でも強力な機体による殲滅戦が行われて、大都市の兵器はほぼすべてが壊滅。
それと同時に『ギアス』が解除され、解放された魔獣や人々が反乱を起こして内部は大混乱に陥る。
もう終わりだ。誰がどう見ても長くはない。
どのような国でもいつかは消え去る。蛮行の報いは受けねばならない。
〈コワレル! 余の…クニが! 余の楽園が!〉
「違うね。これは地獄だよ。それに気づかないから終わりを迎えたんだ。さぁ、アレが出てくるよ」
〈ハァハァハァハァハァ!! ヘビ……ヘビがぁあああああ!! イヤダァアアアアアアア!!〉
最後に生まれ出でたるは、黒い蛇。
空中に十字の印をもって浮かび、断罪の刻を与える裁定者であった。
こうして超大国は―――滅びた
生き残った者は散り散りに逃げたが、あっけなく捕縛されて魂ごと封じられるか、罪が軽い者は『記憶』を奪われて放逐された。
こうした事後処理は極めて大変で、破壊された大地を修復するためには長い時間を要した。
〈ギャァァアアアアアア!〉
バリンッ ビシビシッ ぐりん
夢の終わりを迎えた超常王の身体も破壊され、大きな核だけが取り出される。
「それをどうされるのですか?」
「彼女には人間として、もう一度生きてもらうことにしよう。最低の形でね」
「あらあら、『受肉の罰』ですか。かわいそうに。ですが更生が目的ではないのでしょう?」
「ふふ、当然さ。この魂はもう駄目だ。どのみち破壊するしかないけど、その前に役立ってもらうとしよう。もう用は済んだ。壊していいよ」
「わかりました。名残惜しいですが、さすがにもうお腹一杯ですわね」
その美女、【ゼロラカンシャ〈刻の煉獄を統べる者〉】によって、この場に生まれていたすべての階層が破壊され、囚われていた魂がすべて解き放たれた。
多数は『ウロボロスの環』に戻っていったが、いまだ数多くの呪詛が大地には残っている。
元の次元に戻ったジ・オウンとゼロラカンシャが、グレドガンガシフと合流。
「お待たせ。終わったよ。異常はなかったようだね」
「御意。万事抜かりなく。呪詛結界の核はいかがいたしましょう」
「そのままでいいよ。使い古しのものだし、再利用されても問題はない。仮にまた惨事が起きようとも、災厄の魔人が自分で後始末してくれるさ。彼にはいい練習になるはずだ」
「御意」
「それじゃ、ボクは帰ろうかな」
「ジ・オウン、肝心なことを忘れておりますよ」
さりげなく帰ろうとするジ・オウンを、ゼロラカンシャが止める。
「あなたが管理している彼女の本体はどうされます? 私に黙って運び込んだ『玩具』もどうされるのですか?」
「あちゃー、気づいていたんだね」
「私が煉獄にいると思って悪さするなんて、本当に素敵な【魔王】様だこと」
「ゼロラカンシャ、煉獄を終わらせたばかりで悪いけど、引き続きここの統治を任せるよ。統治といっても特別な指令はない。キミがやりたいようにやってかまわない。その二つも自由にするといい」
「いいのですか? 遊んでしまいますよ」
「キミに対抗できないようじゃ、アンシュラオンもそれまでだってことだよ」
「良い名前。それが想い人の名なのですわね。私も好きになってよろしいですか?」
「怖いなぁ。盗らないでくれよ」
「それは保証できませんわね。うふふ」
「では、ボクはこれで戻るよ。これでも魔王だ。仕事は山積みさ」
魔王。
覇王、剣王と同じく世界三大権威の一人。理を統べる王。
世界最強の術者であり、人類の進化を見守る者であり、マスター〈支配者〉たちの王という側面を持つ彼女ならば、この巨大な術式結界を生み出すことも難しくはない。
「アンシュラオン、キミが本当の力に目覚めた時に、あの時の約束を果たそう。しばらくは緩やかに暮らすといい。それもまたキミの望みなのだからね。ただ、ボクのことは忘れないでほしいな。ボクの初めてを奪うのはキミって決めているんだからね」
ジ・オウンが再び『記憶の黄昏』に消えていく。
アンシュラオンが彼女と出会うのは、まだ先のことになるだろう。